…なんかもう二十話いくんですけど。これSEED編よりペース悪いのでは、と戦慄しながら、
~前回のあらすじ~
ジブリール「すぅ~はぁ~すぅ~…」
ネオ「(´;ω;`)キモイ…」
ユウ「ラクスとキラが危ない!(キュピーン)」
昇降用のハッチが開かれ、まずはカガリが。続いてアスランが、そしてミネルバから代表してタリアとアーサーが、彼らに続いてタラップを降りた。
先に地上へ足を着けたカガリの足取りは落ち着いたものだった。しかし、地に足を着けた彼女は頻りに周囲を気にしている─────どれだけ落ち着いた風を払っても、内心は心配で一杯なのだろう。一国の代表として振る舞い続けた今回のプラント訪問の中で、珍しく彼女の年相応の姿を見た気がした。
ミネルバはカガリとアスランを送り届けるべく、オーブへと入国していた。管制の指示に従い、オーブの主要な群島の一つであるカグヤのドックにこれから少しの間停泊する事となる。前大戦時、プラントが危険視したオーブのマスドライバー。かつて軍が攻め込もうとした場所に、少しの間とはいえ腰を落ち着ける事となるとは、不思議な縁もあるものだ。
気を馳せるのも束の間。タリアは前方に出迎えらしい一団に気付き、すぐに顔を引き締める。政府関係者らしい紫衣を身に纏った、長身の女だ。鋭い眦は刃の如く、しかし漆黒の長い髪は対照的に柔らかく風に靡いている。美しい容姿を持ちながら、その美しさから醸し出される威圧感が鋭くタリア達に襲い掛かる。
「…お前、なんでここにいる?」
「ふむ…。質問の意味が分からないな。国の一大事に、一首長たる私がここに居て何が可笑しい?」
「可笑しいに決まってるだろ!散々私の招集命令を無視したお前が、なんで!?」
政府を代表してこちらの出迎えに上がった人物であるのは間違いないようだが、どうにも様子が可笑しい。というか、本当にこの女性は政府関係者なのだろうか?とタリアは疑いを持った。
身に着けた衣服は確かに政府関係者である事を示すものではあるが、国家元首であるカガリへの態度が余りにもこう…無礼だ。少なくとも、上の立場にいる人間に向けるようなものではない。
そして可笑しいのはカガリも同じだ。何やら噛みついてはいるが、先程の態度について咎めていない。付き人としている筈のアスランですら、二人の会話に口を挟めようとしない。それが
「─────被害の状況はどうなっている?」
それからも二人の言葉の応酬は続いたが、すぐにカガリ側が諦めた様に溜息を吐くと、彼女へそう問い掛けた。
「沿岸部は高波の被害が出ている。だが、オーブへの直撃はないそうだ。詳しい話は行政府で聞くといい。…色々と面倒な話も含めてな」
カガリへ返答した長身の女性はここで初めて、鋭い視線をタリア達の方へと向ける。タリアは彼女の視線に応えるように敬礼して名乗った。
「ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります」
「同じく、副長のアーサー・トラインであります」
タリアに続いてアーサーも名乗ると、二人を値踏みするように視線を見回した長身の女性もまた名乗る。
「オーブ連合首長国、
その名を耳にしたタリアは、大きく目を見開いた。ロンド・ミナ・サハク─────オーブが所有する軍事宇宙ステーション、アメノミハシラの管理人。前大戦では地球、プラント陣営と三つ巴の戦いを繰り広げるオーブ軍の支援をしており、一度プラント側でアメノミハシラの襲撃作戦が立てられた事があったが、それは頓挫したという。その理由は二つ─────一つは地球軍による核の直接攻撃が始まった事。そしてもう一つが、彼女─────ロンド・ミナ・サハクという存在だった。
地球上の一国家の宇宙ステーションの襲撃作戦を、その名だけで頓挫させる。当時の戦況を鑑みればもっと優先すべき事項があったのも事実だが、プラントが彼女を危険視していたのもまた事実。それが今、自分達の目の前にいる─────無意識に、タリアの警戒が引き上がった。
「いえ。我々こそ不測の事態とはいえ、アスハ代表にまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております。また、この度の災害につきましても…お見舞い申し上げます」
「お心遣い痛み入る。ともあれ、まず休まれるといい。こちらも事情は承知している」
「…ありがとうございます」
ミナからの気遣いの言葉に対し、タリアは用心深く頷き返した。タリアの警戒心には気付いている筈だ。その上で、ミナはタリアを全く気にする素振りは見せずにカガリと向き合う。
「さて。他の首長達がお呼びだ、代表。帰国早々お疲れとは思うが、代表も知りたい事が多々あるだろう?」
「思ってもない気遣いをするな!あぁ、くそっ…なんで出迎えがお前なんだ…。
「…正気か?」
「…すまん。やはり少し疲れてるのかもしれん」
ミナに促され、カガリが歩き出す。最後の会話については全く意味が分からなかったが…。
「アレックス、貴様は帰って身を休めろ。報告書は後日で構わん、とのお達しだ」
「─────分かりました」
ミナは去り際、アスランに言葉を掛けていった。一瞬彼は驚きに目を瞠った後に返答をしたが、返事を聞くつもり等なかったのか、すでにミナは背を向けて歩き始めていた。その隣にいるカガリが気掛かりそうな視線を投げ、アスランも心配そうな面持ちで見送っている。
カガリとアスラン、この二人の間に深い絆が結ばれている事をタリアも、アーサーも感じ取ってはいた。だからこそこの一見、二人の間が裂かれている様にも思えるこの光景に同情的な思いを抱く。とはいえこれはどうしてやる事もできない問題だ。ましてや、他国の人間である自分達にはそんな権利すらないのだから。
「艦長?」
「…そうね。戻りましょう」
話は一先ず終わった。一時とはいえ死線を共にした少年少女は一人の大人として気掛かりだが、それよりも先に一人の軍人として彼女達にはやらなければいけない事がある。
アーサーに促され、タリアもまた彼らに背を向けて、艦へと戻っていくのだった。
提出された資料を読み終えた後、カガリは瞑目して天を仰いだ。
分かってはいた。こうなるだろうとは分かっていたが、帰国して早々の疲労困憊の今、許されるならばすぐにでもベッドで泥のように眠りたいというのにこの始末は余りに酷いのではなかろうか。
執務室に入ったカガリに、首長の一人が気まずげに提出した書類に書かれていたのは、国内の被害状況の報告書でも、復興計画や他国への支援計画の原案でもなかった。
こんな時に─────怒りを通り越して呆れてすらいるカガリは、会議の席に着く閣僚達を見回す。彼女を心配そうに見つめる者、彼女を侮る目で見下す者、彼女を面白がって眺める者と三者三様の視線がカガリにぶつけられていた。最後の輩については別として、残る者達は大体半々といった所か。未だ年若いカガリを侮る者達も多い中、恐らくその彼らに押し切られる形で目の前の書類が提出されたのだろう。
「…今は被災地への救援、救助こそが急務だ。条約について考えるのは後回しでいいだろう」
「いいえ、代表。被災地への救援、救助についても約定の中に盛り込まれております。むしろこれは、そういった活動を効率よく行えるよう結ぼうというものです」
憮然とした顔で言うカガリへ、閣僚の一人が言い返した。声が聞こえて来た方へと視線を向け、カガリは更に言い返す。
「それならば何故わざわざ条約など結ばなければならない?…二年前の事をもう忘れたか?似たような言葉を振り撒いて地球の国々を支配し、戦争を激化させた奴らの事を」
「此度の同盟もそうだと?代表、それはただの中傷です」
「魂胆がどうであれ信用のならない相手と手を取り合う事はできない、と言っている。大体被災地支援なんて、そんな大それた事をしなくともできるだろう」
溜息が出そうになるのを堪えながらカガリはもう一度書類に目を落とす。そこに書かれている事は確かに、閣僚達が言う通り被災地への支援等を効率よく行えるように、といった内容だ。だがこれは、ただの足掛かりであるのは間違いない。閣僚達も、それは分かっている筈なのに─────二年前の戦いがトラウマになっているのか。
地球連合、ザフト両軍による襲撃。あの時は被害少なく撃退できたものの、あれは運が良かっただけだ。両軍とも本腰を上げてオーブを襲った訳ではなく、もしそうであったなら、戦いの結果は違っていたかもしれない。その恐怖が、こうも大西洋連邦との条約締結を急がせているのか。
「…ずっとザフトの戦艦に乗っておられた代表には今一つご理解頂けてないのかもしれませぬが、地球が被った被害は、それは酷いものです」
最早カガリにとって無駄な時間となり下がったこの会議をどう終わらせるか、という思考にシフトしかけた時、静かになりかけた執務室内で今の彼女の大きな悩みの種であるとある男の声が上がった。
席から立ち上がったのはオレンジ色の大きな眼鏡をかけた恰幅の良い男。下級氏族でありながら大きな影響力を持つセイラン家の当主─────ウナト・エマ・セイランだ。
ウナトはデスクのコンピュータを操作して、ディスプレイに各地の映像を呼び出す。カガリは手元のディスプレイに次々と現れる、ユニウスセブン落下の生々しい爪痕を目にする。
「そして、これだ」
確かに彼の言う通り、太平洋を他国の艦で渡航していたカガリには今回の被害を詳細に知る手立てはなかった。画像を見て内心に渦巻く感情はあったが次の瞬間、ウナトの苦い声と共に映し出された画像を見てカガリは思わず荒々しく立ち上がった。
「何故…、何故こんなものを持っている!?提供元は!」
「大西洋連邦です。…我らは皆、すでにこれを知っております」
手元に映されている、あの改造ジンの映像を見ながらカガリは力なく席へ座り込んだ。咄嗟に驚きはしたが、
「プラントもすでにこれは真実と大筋で認めている。…代表もご存知だったようですね?」
「あれはほんの一部のテロリストの仕業だ。プラントは関係ない」
次に声を発したのはウナトの隣に座する年若い青年─────彼の息子、ユウナ・ロマ・セイランだった。ユウナの問い掛けにカガリは冷たく返すが、ユウナは言葉を紡ぐ。
「分かっています。プラントが破砕作業に全力を尽くしてくれたお陰で、我らが生き永らえている事も。しかし─────実際に被災した何千万という人々に、それが言えますか?あなた方は酷い目に遭ったけど、地球は無事だったんだからそれで許せと。…それが果たして通じるでしょうか?」
「…」
カガリが黙り込む。ほんの少しでも、ユウナの言葉には理があると思ってしまったからだ。
政治家として国を背負う立場であるカガリ達は当然、冷静な判断が求められる。だがそうでない市民達にとっては、自分の身と近しい人達が一番なのだ。自身が危険な目に遭えば、親しい人が失われれば、当然恐れ、怒る。そんな目に遭わせた奴らを許せないと思ってしまうのが、自然な流れだろう。
だが─────彼らはもう忘れてしまったのだろうか?その果てに、世界で何が起こってしまったのかを。
「お前達の話は理解した。だがすぐに結論は出せない。後日改めて議論するとしよう。…それと一言、お前達に言っておく事がある」
同盟の件について勧める閣僚達も、即日で決断できるとは思っていなかったのだろう。一先ずカガリの口から先延ばしの返答が出た事で満足したのか、それ以上この件で口を挟む事はしなかった。しかし、カガリはここで矛を収める事を好とはしなかった。
「被災者の痛みに寄り添おうとするその姿勢は、私も見習わなければならないのだろう。…だが、痛みを覚えているのは地球の被災者だけではない事を覚えておけ」
「…それは、どういう意味でしょう?」
「ユニウスセブンを。あそこで失われた多くの命の墓標を、あんな事の為に使われた被害者家族─────彼らもまた、今回の件の被災者だとは思わんか?」
カガリの考えを聞いた閣僚達の顔が驚きに染まる。地上の被害は目も当てられない程であるのは確か。だがそこばかりに目を向けてはならない、とカガリは考える。この件の発端は元を辿れば、血のバレンタイン─────ユニウスセブンに核をぶつけた事まで遡る。だからあのテログループが正しい、とは微塵も思わないが、事実あの件で多くの哀しみを生み出したのは事実なのだ。そして同時に、あの場所は多くのコーディネイター達から大切に思われる墓標となった。
それが、怒りに呑まれた愚者達の手によって、八つ当たりの道具とされてしまった─────。
「
地球の人々も、プラントの人々も、分け隔てなく寄り添う。それが中立国であるオーブの本来の理想だった筈だ。カガリは決して忘れない─────だから、その理想を叶える為に、どれだけの逆風に襲われようとも足を止めるつもりはない。
「同盟条約についての話はこれで終わりとしよう。次、国の被害状況について報告を頼む」
行政府でカガリがストレスに揉まれている現在から、時は少し遡る。
ミナから待機命令を受けたアスランはその場に留まる訳にもいかず、一旦港を出て行くしかなかった。とはいえ、これからどうするか決めた訳でもない。このまま帰って休んでもいいが、カガリが頑張っている時に自分だけ何もしないでいるというのも落ち着かない。
ならば、とまるで考えが纏まらないままでどこへ行くとも知れず歩くしかないアスランはふと、下へ向いていた視線の奥でこちらに向けられた爪先を見た。誰かが自分の前で立ち止まっている─────しまった、とアスランは慌てて視線を上げた。前を見ずに歩き、通行の邪魔をしてしまったと、謝罪をすべく目の前に立つ人物の顔を見て─────アスランは驚きに呆ける事となる。
「なんだ、その間抜けな顔は」
全身黒の衣服に腹部、肩、肘、至る所に巻きつけられたベルト。アスランからしてそのセンスはどうなのだと思わせる、正直奇抜としか思えないファッションに身を包んだ目の前の人物は、憮然としながら実にきつい言葉を吐いた。
衣服と同じ漆黒の長髪を下ろしているが、角ばった広い肩幅と鍛え上げられた肉体が目の前の人物が男であると証明している。鋭く吊り上がった刃の如き目は、相手に睨まれているという印象を与えかねないがアスランは知っている。この男が本当に苛立ち、睨んでいる時の目はこんなものじゃないという事を。
「
「ふん…。どうせ貴様は俺と同じく会議からは摘まみ出されていると思ったからな」
「来い。船は用意してある」
「船…?あ、おい!どこへ行くつもりだ!?」
相変わらず有無を許さない物言いで話すカナードへ喰い下がるアスラン。来い、とカナードの方から同行を依頼してくるのは珍しいが、一体どこへ行くつもりなのか。船と言うからには、カグヤ以外の群島へ行こうとしているのだろうが。
「キラ達の様子を見に行く。来たくなければそれでも構わん。勝手に帰れ」
「─────」
カナードの口から思わぬタイミングで出てきた友の名に、アスランの思考が一瞬止まる。その間にもカナードはドンドン足を進めており、アスランとの距離が広がっていく。慌ててアスランは足を急がせた。
確かにキラ、そしてラクス達の事は心配であった。色々な事がありすぎて、頭から抜けてしまったのは否めないが────しかしまさか、カナードが自ら会いに行こうとするとは。キラの事を心配に思いながらも、彼女に会いに行く事には遠慮がちだったカナードも、今回の事態を受けて居ても立ってもいられなくなったという事なのだろう。
アスランがカナードに追いつく。隣に立ったアスランをカナードは一瞥するのみで、何を言う事もしなかった。
思えば、カナードと二人でこうやって並んで歩くのなんて初めてじゃなかろうか─────そんな風に思うのだった。