フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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~前回のあらすじ~
ミナ「お帰り」
カガリ「!!!!???」
カナード「お帰り」
アスラン「!!!!???」


PHASE20 夕日の下の誓い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランは車を走らせ、海沿いの道を辿っていた。隣の助手席には、長い髪をヘアゴムで纏めたカナードが頬杖を突きながら夕刻の空の色を反射する水面を眺めている。

 

 キラ達が住んでいるアスハの別邸へ向かうにはこの海沿いの道を使うしかなく、アスランが所有しているオープンカーを走らせれば気持ちのいい潮風が流れる。だが当のカナードにとってはそうではなく、走行中のこの強い風が当たれば、彼の長い髪がどうなるかは想像に難くないだろう。ならば車の屋根を閉めれば良いのだが、生憎アスランの車はまず屋根自体がないタイプだった。

 アスランを隣に乗せて自分で車を運転するか、それとも髪を纏めてアスランの運転する車に乗るか─────強烈な舌打ちの後、カナードが選んだのは後者だった。

 

 車を走らせている内、道路の下に広がる砂浜が見えて来た。アスランにとっては見慣れた風景の筈が、やはりここにも多少なりとも津波は来たのだろうか─────心なしか砂浜が荒れている様に見えた。

 

「おい」

 

「え?…あっ」

 

 ここにも災害の手は伸びたのだと、心に微かな陰が差したアスランにカナードが不愛想に声を掛けた。咄嗟にそちらを向くと、カナードは真っ直ぐに砂浜の方を見つめていた。アスランもそちらを見遣り、いくつかの人影を見た。

 

 打ち寄せる波に足を踏み入れて遊ぶ子供達と、長いピンクの髪と褐色の髪を靡かせた二人の少女が手を繋いで遊んでいる。路肩に車を寄せて停めれば、先程までエンジン音に遮られて聞こえてこなかった楽しそうな声が、ここまで届いて来る。アスランは小さく微笑みを零しながら、軽くクラクションを鳴らした。

 

 一斉にパッ、と彼らの視線がこちらを向く。車に乗った二人の姿に気付き、真っ先に子供達が歓声を上げながら駆け寄って来た。

 

「あ、アスラン!」

 

「違うよ!アレックス!」

 

「ねぇっ、カガリは?」

 

 口々に言い合いながら、子供達は車から降りたアスランに飛びつき、周りはあっという間に取り囲まれていた。

 

「カナードもいるじゃん!珍しいな!」

 

「相変わらず女みてーな髪だなぁ」

 

「放って置け」

 

 それはカナードの方も似たようなもので、アスランとは違い彼に飛びついたりする子供はいなくとも、やんちゃそうな男の子達がカナードへ声を掛けていた。アスランが同じ言葉を掛ければ正直どうなるか分かったものではないが、不愛想なカナードでもそこら辺の分別はついている。表情は憮然としたままでも、子供達へ向けられる声はいつもよりも柔らかく聞こえた。

 

「てかまだその服着てんのかよー。だっせぇー」

 

「…」

 

 訂正。ただ一人、無言で拳骨を喰らった男の子がいた。「いってぇー!事実だろ!?」と手で頭を擦りながら叫ぶ男の子へ、カナードが無言で拳をチラつかせれば、涙目になって逃げだしていった。

 

 男の子が逃げ出した先は、子供達から少し遅れてゆっくりとこちらへ近付いてくる二人─────ピンクの髪の少女とダークブラウンの髪の少女。ラクス・クラインとキラ・ヤマトだった。

 

「アスラン」

 

「お帰りなさい。大変でしたわね」

 

 二人は笑みを綻ばせながら、アスランの帰りを労った。途端、アスランは自身の肩から力が抜けていくのを感じた。これまで自分がずっと緊張したままだったのだと、ようやく自覚したのだ。

 

「カナードも。お仕事は大丈夫なの?」

 

「俺はな。…今頃カガリは缶詰だろうがな」

 

 アスランと穏やかに向き合った後、キラは次にカナードへと声を掛けた。国内外関わらず復興、支援と仕事が山積みな筈のカナードがここへ来て大丈夫なのか─────それはアスランも疑問に思っていた所だが、キラからの問いにあっさりと答える様子を見る限り、カナードの言葉をそのまま受け取ってもいいらしい。その後に続いた返答もまた、事実なのだろうが…。

 

「ねー、聞いてカナード。おうち、なくなっちゃったの!」

 

「見てないけど、たかなみってのが来て、壊してっちゃったって!バラバラ!」

 

「…そうか」

 

 カナードがキラへ向けて口を開こうとした時、子供達に袖を引っ張られながら訴え掛けられる。それは、今回の災害によって子供達が受けた被害についてだった。

 

 この子供達はオーブから程近い孤島に作られた、マルキオ導師の伝道所で暮らしていた戦災孤児達だ。子供達の家は波によってさらわれ、跡形もなくなってしまったという。住む場所を一時的に失った彼らが現在、身を寄せているのがキラ達が暮らしているアスハ家の別邸という訳だ。

 

「あたらしいおうちができるまで、おひっこしなの」

 

 家を失い、オノゴロ島へ居を移してと、小さな彼らにとっても大事件の連続だ。それでも一見、変わらず元気な子供達の様子にアスランは小さく安堵の息を漏らした。

 

「あらあら、皆さん。お二人が来て嬉しいのは分かりますが、これではお話ができませんわ」

 

 またも興奮して子供達に押され始めるアスランとカナードに、笑い声を立てながらラクスが気を利かせて、子供達を連れてアスラン達から離れる。

 

「─────」

 

 ふと、隣から微かに息を漏らす声がした。カナードは遠ざかっていくラクス達の背中を眺めている。憮然としたままの顔からは何を察する事もできないが、もしかしたら彼もまた、内心では安堵を抱いているのだろうか─────いや、きっとそうなのだ。何だかんだカナードが、キラだけでなくその周囲の人達の事も気に掛けているのをアスランは知っている。

 

「皆様は先に行ってくださいなー。わたくしは子供達と浜から戻りますわー!」

 

 子供達と共に浜へ降りていったラクスが振り返って手を振る。アスランはキラと一緒に手を振り返してから、カナードと共に車へと乗り込んだ。

 

 今度は先程と違い、助手席にはキラが座っている。カナードは我先にと後部座席へと乗り込んでおり、車へ乗る前にキラが微かに苦笑を浮かべたのをアスランは垣間見た。

 

「今日は母さんが来てるよ。アスランとカナードが来るって言ったら、喜んでた」

 

「…そうか。カリダさんに会うのも久しぶりだな」

 

 エンジンを掛け、アクセルを踏む直前にキラが言う。友の母の名を耳にしたアスランは、懐かしさに頬を綻ばせた。

 カリダ・ヤマト─────キラの母親であり、月にいた頃はよくご飯をご馳走してくれたりとお世話になった女性だ。カリダと会うのもいつ以来か…少なくとも、半年は顔を合わせていないだろう。

 

「アスラン。…何かあった?」

 

 少なく言葉を交わした後、車の走行音と流れる風の音だけが鼓膜を揺らしてから、不意にキラが尋ねて来た。

 

 一体いつから…或いは初めから、アスランの胸の奥の蟠りに気付いていたのか。微かに心臓が驚きに高鳴った後、誤魔化しは効かないと諦めたアスランは素直に答える。

 

「あの落下の真相は、知ってるだろう?」

 

「うん…」

 

「連中の一人が言ったよ。撃たれた者達の嘆きを忘れて、何故撃った者達と偽りの世界で笑うんだ、お前らは─────って」

 

 その言葉に助手席のキラが、そして後部座席で景色に目を向けていたカナードもまた、驚きの色に目を染めた。

 

「戦ったの?」

 

「そんなつもりじゃなかったさ。ユニウスセブンの破砕作業に出たら、彼らがいたんだ」

 

 車は私道に入り、木立の間をゆっくりと進む。ほどなく閑静な邸宅が見え、アスランはその手前に車を停めた。だが暫し、ハンドルに手を置いたまま黙り込んだ。

 

「…彼らはこうも言ったよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だって」

 

「っ─────」

 

 隣から息を呑んだ声が聞こえた。背後から何かが擦れる音もした。アスランは二人からの視線を受けながら、ハンドルに額を着けて俯く。瞳を閉じて、あの時の慟哭にも似た叫び声を思い出していた。

 

 愛する人の支えを受けて立ち上がる事ができた今だからこそ、分かる。自分にとっての贖罪とは、あの声と向き合い続ける事なのだと。そして、声に刻まれた憎しみが誰かに伝わらないように戦う事こそが、自分にできる贖罪なのだ。

 

「アスラン…」

 

「…俺は大丈夫だよ、キラ。もう逃げる事は止めたんだ」

 

「え?」

 

 キラが躊躇いがちに、何か言葉を掛けようとするのを制する。彼女が何を思っているのか、何を言おうとしたのかは何となく分かった。だから、自分は大丈夫なのだと教えなければならない。

 

「全部背負って戦うって決めたから。俺一人だったらへこたれるかもしれないけど…、そうじゃない。だから、大丈夫だ」

 

「─────そっか」

 

 キラは一瞬、目を丸くしながら息を呑んだ後に微笑んだ。

 

「私も力になるから。助けてほしい時は言ってね?…あぁ、でも」

 

 友の優しい言葉に心が温かくなっていくのも束の間、不意にキラの微笑みに微かに陰が差した。唇の端が僅かに吊り上がった気がする。そのせいか、今のキラの笑顔を見ているとどうも嫌な予感がしてならなかった。

 

「もう私はお呼びじゃないのかな?だって、アスランにはもう大切なお姫様がいるもんねー」

 

「なっ…」

 

 ドキリと心臓が高鳴る。頬に熱が集まっていくのが分かる。そんなアスランの顔を見て、キラは可笑しそうにクスクスと笑った。

 

 それ以上キラが追及してくる事はなかったが、代わりにアスランの背後から殺意が膨れ上がった。背筋に冷たい汗を滲ませながらそれを無視して、逃げる様に車から降りる。アスランに続いてキラ、カナードも車から降りたのを確認してキーをロックし、三人はキラを真ん中にして並んで建物へ向けて歩き出した。

 

「…()()からは何か連絡はあったか?」

 

 先程の話の途中、キラに揶揄われている最中にふとアスランは今はここにいないもう一人の友となった男の事を思い出していた。アスランよりも先に戦う覚悟を定め、キラとラクスの傍から離れてどことも知れない場所で戦い続けている友は今、何をしているのか。

 

 キラならば、とも思ったのだがその当ては外れる。アスランに問われたキラは、頭を横に振った。

 

「そう、か…」

 

 まさか死んでいる筈もなく、この期に及んで事態を静観している訳もないだろう。きっと今もどこかで、何かしら動いているのだろうが─────しかし今回の件を受けて二人に連絡もしていないとは。ユウがオーブを離れてから約一年半、片手で数える程しか連絡は取れていないと聞いてはいたが─────それとも、それをする余裕もない何かに負われているのか。

 

「…キラ」

 

「アスラン。…私もラクスもね、大丈夫だよ」

 

 キラの口から出て来たのは、先程のアスランと同じものだった。だが一つ違うのは、彼女が浮かべた笑顔がどこか痛々しく見える事。

 

「だってユウは、私達を守る為に戦ってるんだから。…私とラクスはユウに愛されてるんだって、離れてても思えるから。だから、大丈夫なの」

 

 揺れながらも、アメジストの瞳は力強く意志を輝かせていた。その言葉はキラの本心であり、同時にラクスの本心でもあるのだと、明々に示す。

 

 だが同時に、強く心配もしている筈なのだ。ユニウスセブンの落下時、もしかしたらユウは地上にいたかもしれない。その際、災害に巻き込まれて怪我をしているかもしれない。或いは、今回の混乱に於いて何か無茶をしでかしているかもしれない─────様々な心配が、キラとラクスの胸の中を渦巻いているに違いない。

 

 それをおくびにも出さない彼女達は強かった。

 

「…いつか顔を見せたら、一発殴ってやらなきゃいけないな。キラにこんなに心配掛けやがって」

 

「えー?それ、アスランが言う?」

 

「ぐっ…」

 

 一切反論が許されない、キラからの明確な正論にアスランは思わず呻き声を上げた。

 

「そうだな。…まず貴様は自分の身を心配する事だ」

 

「…カナード。何で拳を鳴らしている?」

 

「妹に手を出した屑を一発殴ろうと思ってな」

 

「手は出してないぞ!ただ…ッ─────!」

 

 続いてキラの奥から顔を覗かせたカナードの仕草に、アスランは慌ててしまう。それによって生じた心の隙に気付いた時にはもう遅かった。

 

 カナードは憮然としたまま、キラはまたあの悪戯気な笑顔を浮かべてアスランを見つめていた。

 

「ほう?ただ…何なのか、教えて貰おう」

 

「アスラン、大丈夫。カナードの手は止めるから、安心して喋っていいよ。あ、でもラクス達が戻って来るまでは待ってくれないかな?」

 

「…何も安心なんて出来ないんだが」

 

 胸の内に生じる感情の種類は違えど、容赦なく自分を吊るし上げるつもりの兄妹にアスランは苦笑いしか出来ずにいた。

 

()()()()()()()()んだろ?」

 

「そういう意味で言ったんじゃない」

 

 この兄妹からは逃げられない─────アスラン・ザラは、諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海沿いの石畳の遊歩道を歩く、一人の少女がいた。夕焼けに照らされる軍港を眺めながら歩く少女はふと、視点を変えてなだらかな丘へと移す。そこはかつて、自分が転がり落ちた斜面だった。連合とザフトの襲撃を受けて、父も母も、兄も失った─────自分だけが助かったあの日。すっかり趣は変わってしまったが、荒れ果てたこの場所が今は慰霊の為の花に満ちている。

 

 ただ、少女はふと足を止める。よく見ると、芝生は赤茶け、花も色褪せていた。ここも高波の被害を受けたのだろう。─────内心に滲み出る怒りを、深い息と共に吐き出して少女は再び歩き出した。

 

 向けられる足の先にあるのは、海辺に佇む小さな石碑だ。ここも、災害が起こる前は綺麗な花たちに彩られた慰霊碑だった。波にさらわれたのか花はなく、芝生もここまで来る途中に見たのと同じく赤茶くくすんでいる。

 

「…また花を植えなきゃね」

 

 一言呟いてから少女は跪き、両手を握って祈りを捧げる。この地で無念にも生を閉ざした命へと、冥福を─────そして、少女の家族へ、前回に来た時から今までに何があったのか、何をしてきたのかを心の中で語るのだ。

 

 ここには何度も足を運んでいる。士官学校を卒業して正式に軍人として働き始めてから、休暇の日には殆ど欠かさず。荒れ果てたこの地が、次第に緑と花に囲まれていく所を見て来た少女にとって、今回のユニウスセブンの災害はショックが大きかった。

 

「…どうして、こんな事になっちゃうんだろう」

 

 今は亡き家族への報告を終えた少女は目を開けて、改めて映された景色を見回しながら悲し気に言う。

 

 あれだけの戦いを経て、多くの命を失って、それがようやく少しずつ世界と人々に刻まれた傷が癒え始めた矢先の出来事だった。

 

「静かに過ごすのは、いけない事なの?」

 

 沈みかけた夕日に照らされ、まるで血の色のように染まった海面を見つめながら、少女は今度はその声から覗く怒りを隠さなかった。

 

 ─────いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす。

 

 どれだけ花を植えても、繰り返す人の前では意味がないのだろうか。どれだけ綺麗に飾っても、その奥に隠された醜悪な人の欲望は誤魔化せないという事なのだろうか。

 

 世界はまた、混沌へと落ちようとしている。人がまた、世界を戦いに満たそうとしているのだ。大西洋連邦を中心として国家は同盟で繋がり、またプラントへ攻め込もうとしている。そうなれば、どれだけプラント側が外交による解決を目指そうともそれは無に帰す─────応戦せざるを得なくなるだろう。

 

 戦いが─────また。

 

「─────お父さん」

 

 優しく、自分を慈愛の目で見つめ続けてくれた父へ。

 

「─────お母さん」

 

 時に厳しくも、決して愛を注ぐ手を止めなかった母へ。

 

「─────お兄ちゃん」

 

 自分を目に入れても痛くない程に愛してくれた兄へ。

 

「今度は、私も戦うから」

 

 少女は誓いを告げる。よもやオーブが同盟に参加する事などないだろうが、またも中立の道を選ぶとなれば二年前の歴史を繰り返す可能性は高い。かつてのように他国がオーブへと攻め込んで来たら─────。

 

 あの時の無力でただ泣く事しか出来なかった自分とは違う。力を得た少女は、戦う事を選択する。天国にいる家族は悲しむだろう。今の自分を笑って見てはくれないだろう事も、少女は分かった上で、決して何者にも曲げられない固い決意を定める。

 

「見ててね」

 

 少女─────()()()()()()は、一言最後に言い残してから、短い家族との再会を終えて慰霊碑に背を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




二十話目にしてやっと、今作のキーキャラクター三人を出せました。キラとラクスは勿論の事、特にマユについてはどんどんスポットライトを当てていく予定です。
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