フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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~前回のあらすじ~
アスラン「俺は大丈夫」
キラ「私は大丈夫」
カナード「(# ゚Д゚)アスラァァァァン!!!」
マユ「今度は、私も戦うから」


PHASE21 夕暮れの帰郷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タラップを降りて次々と、ミネルバから年若いクルー達が現れる。普段着慣れた軍服ではなく、各々の私服に身を包み、リラックスした様子で地に足を着けた。

 

 タリアからクルーに対して、オーブへの上陸許可が下りたのだ。これから交代でクルーへ休暇が与えられ、その際はオーブの市街地へと足を運ぶ事も出来る。その中で、最初に休暇を与えられたのは艦の中でも年齢の若いクルー達だった。

 

「さてと!ヨウラン、早く街まで行こうぜ!」

 

「騒ぐなよ。作業員の迷惑になるだろうが…」

 

 我先にと急ごうとするヴィーノをヨウランが諫める。彼らも今日、休暇を与えられたクルーである。その後ろからまた、何人かクルー達が降りてきて、そして最後に艦から出て来たのは照り付ける日差しを手で覆いながら現れたルナマリアであった。

 

 サバサバした彼女に合ったラフな私服を着こなして、ゆっくりとタラップを降りるルナマリアの足取りはどこか重い。表情も何やら浮かない。折角の休暇、それも初めての他国の地だというのに、ルナマリアの機嫌が悪いのには理由があった。

 

「もぉ~、お姉ちゃん。いつまで気にしてるの?あれだけ誘って断られたんだから、素直に諦めようよ」

 

「…分かってるわよ」

 

 地に足を着けたルナマリアが、未練がましそうに艦を見上げる。その理由を、彼女達と同じく休暇を与えられながら、上陸しない事を選んだ仲間であると早々に見抜いた彼女の妹、メイリンが声を掛ける。

 それに返事を返しながら振り向いたルナマリアは、尚も後ろ髪を引かれているらしい。先程、改めて誘いを断られた時の事を思い出しながら、ルナマリアは口を開いた。

 

「でも、気にならない?確かにアイツはいつもノリ悪いけど、最近は結構遊びに付き合ったりしてたのよ?ヨウランやヴィーノともたまに出掛けてたみたいだし」

 

()()がそうなったのはお姉ちゃんがしょっちゅう荷物持ちに連れ回したせいだと思うけど…」

 

 メイリンからの控えめなツッコミには触れない。言われてみれば確かに、断ろうとするシンに有無を言わさず色んな所へ連れ回し続けた気がしないでもないが、今重要なのはそんな話ではないのだ。

 

「あんな()()()()()()で断られたんだから、気にするなってのが無理よ」

 

「泣きそうって…、シンが?そうだったかなぁ?」

 

 先程から彼女達が話しているのは、メイリンの口からすでに出て来ているがシンの事であった。

 

 今回、艦長から出た上陸許可と休暇が重なり、ルナマリアもシンへ誘いの声を掛けていたのだ。初めはヴィーノやヨウラン辺りと一緒に街へ繰り出すのだろうと思っていたのだが、当の二人から断られたとの話を聞き、その理由を聞くのも兼ねてルナマリアの方からも誘いかけたのだが─────その結果がたった今、ルナマリアが語った通りだった。

 

 悲し気に眉を顰めて、声を微かに震わせながら、けれど努めて普段通りに話そうとするシンの姿はルナマリアからは痛々しく見えた。最初に誘いをかけた時はメイリンも一緒で、そんなシンを見ていた筈なのだが、彼女はそれに気付かなかったらしい。我が妹の鈍感さに呆れつつ溜め息を吐きそうになった時、不意にメイリンが何かを思い出し口を開いた。

 

「そういえば、シンが()()()()()()だって話を聞いた事あるよ」

 

「えっ?アンタそれ、シンから直接聞いたの?」

 

「うぅん。私もどこで聞いたのか覚えてないけど…、チラッと誰かが()()()って話してたのは確か」

 

「…」

 

 シンは自分の身の上話を決してしようとはしなかった。ルナマリアやメイリンも、シンとの付き合いをする上で出身地はどこかや、家族構成の話題なども当然出た事があったが、殆ど彼はそういった話を誰かに教える事はなかった。

 

「でも、変だよね。自分の出身の国に上陸できるのに、したがらないなんて」

 

「…そうね」

 

 もしかしたら、自分はシンにとって傷を抉るような話を彼にし続けていたのではないか─────そんな嫌な予感をルナマリアが抱いているとは露知らず、メイリンは呑気に話している。

 

 仮にメイリンが話した事が本当だったとしたら、色々な事が繋がっていく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。シンがプラントへとやって来たのは二年前─────丁度同じ頃、マスドライバーを確保しようと動く地球連合に対抗して、ザフトはオーブへと侵攻の手を伸ばした事があった。そして、ラウ・ル・クルーゼもまたその作戦に()()()()()()

 

「…」

 

 シンは家族などの身の上話をしたがらない。その理由がもし、二年前のオーブ侵攻にあったとしたら。その時に、色々な大切なものを失っていたとしたら。─────知らなかったとはいえ、自分はとんでもなく無神経な事を、シンに質問していたのではないだろうか?

 

「─────あぁ、やめやめっ」

 

 歩きながら思考に沈んでいた意識を引っ張り上げて、頭をくしゃくしゃと掻き回しながら気分を切り替える。隣でメイリンが何事かと目を丸くして見ているが、構う事なくルナマリアは歩幅を大きくして歩くスピードを上げた。

 

 いつまでも気にしていたらキリがない─────先程のメイリンではないが、そう思って切り替える事にする。気にはなるし、本当の所を知りたいという気持ちもあるが、それをシンが語りたくないというのなら諦めるしかない。だから自分は何も知らないし、故に悪いとも思わない。変に気にする素振りを見せた方がシンだって戸惑うだろう。いつも通りにシンと接する、それが今自分に出来るシンへの思い遣りだとルナマリアは信じる。

 

 ─────それはそれとして、もしシンが自分の過去を自分に語りたいと思った時には、ちゃんと話を聞いてあげよう。その時は、自分がシンへ問い掛けた無神経なあれこれについて謝ろう。

 

「ほらメイリン、置いてくわよっ」

 

「ち、ちょっとお姉ちゃん!待ってよぉ~っ!」

 

 後、街へ繰り出すついでに艦に残ったシンと、もう一人の仲間にお土産でも買っていってあげようと、心の隅に思い遣りを留めておきながら、ルナマリアは妹と共に軍港を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバ艦内に設置された射撃訓練場で、シンは銃を握っていた。正面およそ三十メートル程離れた所に映されたシミュレーション画面、その中に現れるターゲットを視認し、狙いを定めて次々に撃ち抜いていく。が、いつもの調子とは程遠い─────シンの心の微かな乱れを映すかの如く、彼の銃撃は微妙に的からずれていた。

 

 理由は分かっている。きっと、自分はオーブに上陸したい…それが嘘偽りない本音なのだろう。自分を誘ってくれたヴィーノ、ヨウラン、ルナマリアには悪い事をした─────それでも、シンにとってこの国は、自身が生まれ育った祖国であると同時に掛け替えのない家族が死んだ場所でもあるのだ。郷愁の気持ちはあれど、同時にまた別の感情も湧き上がり、シンは自分の気持ちを扱いかねていた。

 

「…」

 

 画面に新たな標的が浮かび上がるが、銃を握った指をシンは動かさない。どうせ的には当たらない─────こんな状態では、訓練の意味もない。射撃訓練用のヘッドホンを外し、大きく息を吐いたシンはふと、いつの間にか隣に新たな客が来ている事に気が付いた。

 

 シンと同じく休暇を与えられながら、オーブへ上陸せず艦に残る事を選んだもう一人の仲間─────レイ・ザ・バレルだ。レイは手元のコンソールを慣れた手つきで操作し、そして訓練用の銃に弾を込めながらシンの方をちらりと見遣った。

 

「お前は行かないのか?」

 

「…いや、俺は─────」

 

 レイの問い掛けに対し、シンは答えを言い淀む。行かない、と一言ハッキリと告げるだけでいいのに。それが、自分のした選択の筈なのに…たった一言が、思いに反して出て来ない。

 

「…今日を逃せばもう、上陸の機会はないぞ。出港すればもう、二度とここへは戻って来れないだろう」

 

 訓練用のヘッドホンとサングラスを着けながら、レイはシンからの返答を待たずに口を開く。

 

「お前がどちらを選ぼうとも構わんが…、後悔しない方を選ぶんだな」

 

 レイはそれ以上、シンに何かを言う事はなかった。銃を握って正面を見据え、訓練に意識を集中させる。

 

 一方シンは、レイに言われた事を考え込んでいた。今日を逃せばもう、今回の入港中に上陸する機会は失われるだろう。そしてシンがザフトの軍人である以上、恐らくオーブへ来る事はもうない─────レイの言う通り、二度とここへは戻って来れない。あの潮の匂いが混じった風に吹かれる事も、懐かしい景色を見る事も、もうない─────そう思うと、本当にこれで良いのだろうかという気持ちが湧いてくるのだから、自分も単純なものだ。

 

 だが、ここへ留まるのも苦しい。上陸するのも同じく苦しい─────なら、どうせならば行動する方を選ぼう。それで後悔しても、何もせずに後悔するよりはマシだと開き直ろう。シンは訓練用の銃からまだ残った弾を回収し、銃と一緒にしまった後にヘッドホンとサングラスを外して踵を返す。

 

 行動すると決めてからは早かった。訓練室を出て自室へ戻ってから、軍服から外出用の服に着替えて艦を出る。港からオノゴロ島へと向かい、着いた頃には日が沈み空は夕焼け色に染まっていた。シンは今、海から吹きつける懐かし風を感じながら一人遊歩道を歩いていた。

 

 あの日、爆撃を受けた軍港は、シンの記憶からすっかり趣が変わっていた。綺麗に整備された一帯を見回しながら、シンは自身の記憶にあるこの場所と見比べていく。規則的に植えられた花も、あの日自分が転がり落ちた筈の今はなだらかな丘となった斜面も、何もかもが変わっている─────まるで、忌まわしい過去を覆い隠すかの様に。

 

「─────」

 

 それでいいのかもしれない、とシンは自身に言い聞かせる。あんなもの、忘れてしまった方が苦しまずに済む。忘れられないから、自分がそうであるようにこの痛みから決して逃れられない。苦しいのならいっそ、忘れてしまえと─────綺麗に着飾り、覆い隠してしまえと。

 

 それでも自分は忘れない。この痛みを、苦しさを忘れるという事は、自分の中から大切なもの達を忘れ去ってしまうのと同義。父も、母も、妹も─────彼らの死を、存在を、絶対に忘れてなんてやらない。自分は─────自分だけは、ここで起きた事を思い出し続けていく。

 

「─────歌…?」

 

 その時、風に混じって微かな声が届いた。風に消えかかりながらも旋律を刻む声は歌声なのだと気付いたシンは、導かれる様に植え込みを回り込んで進んでいった。やがて海辺に佇む小さな石碑が見えて来た。その前には人の姿がある。褐色の長い髪が風に揺れている─────シンはその人物に、石碑にゆっくりと近付いて行った。

 

 近付けば、その人物が女性である事が見て取れた。女性はシンの接近に気付いて振り返る。東洋の血が混じった柔らかな容貌、年齢はシンより少し上だろうか。これまでシンはルナマリアやメイリン、アカデミー時代にはアグネスといった容貌の整った少女を幾度となく見て来た。目の前の少女は、シンが出会って来たどの女性とも何かが違う─────どこか浮世離れしている様にすら見えた。

 

 綺麗だ─────少女のアメジストの瞳に吸い込まれそうな感覚に襲われながらも、シンは何となく話し掛けた。

 

「慰霊碑ですか…?」

 

「うん」

 

 少女は頷いて答えながら、慰霊碑の前に白い花束を置いた。そして立ち上がると、少女は微笑みながらもどことなく悲し気に言う。

 

「ここ、花と緑で一杯だったんだけどね。波をかぶったから、きっと枯れちゃうかな…」

 

 言われて見れば、周囲の芝は赤茶け、花も色褪せている。あのユニウスセブンの災害の被害は、ここにも及んでいたのだ。

 

「…ッ」

 

 その風景を見つめながら、シンは奥歯を噛み締める。痛みを受けた人達が飾った花が、傷を覆い隠す蓋が、奴らの自分勝手な暴走によって枯らされ、剥がされた。そしてまた人は、痛みを受け、思い出したくない過去を否応なしに思い出す。荒れたこの場所を見て、あの日の地獄を呼び起こされるのだ。

 

「また、花を植えないといけないね」

 

「─────」

 

 シンの心を黒い波動が襲った時、少女がまた口を開く。その言葉は、シンの中に穏やかな風を吹かした。

 

「ここはね、ここで家族や大切な人を亡くした人達が集まって、花を植えた場所なの。いつになるかは分からないけど…、きっとまた花と緑で一杯になるよ」

 

「あっ…」

 

 少女の微笑みと共に発せられた言葉に、シンは自分が勘違いしていた事を悟らされた。

 

 忘れる為だと思っていた。覆い隠す為だと思っていた。だけど今この人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと言った。つまり─────皆、覚えているのだ。ここで起きた事を、ここで失われた命を─────苦しくとも、痛くとも、自分と同じように覚え続ける事を選んだのだ。

 

 歌声が近付いてくる。どこかで聞いたような、透き通った綺麗な声だ。坂を上がって来たピンク色の髪の少女が、東洋風の少女と向き合うシンを見て歌を止めた。

 

「…あの。何を言ってるか、分からないと思うけど─────ありがとうございます」

 

 目の前の少女達が自分と同じく失った側の人間なのか、それともそうではなくただここへ立ち寄っただけなのか─────そのどちらであっても、この場所を知っていて、この場所を覚えていてくれている。それだけで、シンは嬉しかった。だから、お礼を言わずにはいられなかった。

 

「君…?」

 

「すみません。変な事を言って…それじゃあ」

 

 戸惑いの視線を前に、気まずくなったシンは慌てて踵を返す。だが、自分の言った事にシンは後悔していなかった。そして同時に、ここへ足を運んだ事を本当に良かったと感じていた。迷い、艦へ残る事を選択していたらこの出会いはなかった。この気持ちを感じる事もなかった。

 

 どれだけちっぽけな事でも、それを続けて、積み重ねて、覚え続けて─────それがここで死んでいった人達への本当の弔いになると思うから。遠く離れても、それは出来ると─────絶対に忘れないでいようと、先程の淀んだ決意ではなく、今度は清々しい気持ちと共にシンは心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の誘いを断って?何をしてるかと思ったら?一人で上陸してたんだぁ。へぇ~?シン、そんなに私と一緒に上陸するのが嫌だったんだぁ。…ふぅ~ん?」

 

「る、ルナ…。違うんだ。ルナに誘われた時は本当に行かないつもりでいて、だけど気が変わって…」

 

「私に連絡して、合流する事だって出来たんじゃない?」

 

「…」

 

「…」

 

「…ひ、一人で行きたい所があったから─────アハハ…」

 

 問い詰められるシン。問い詰められるルナマリア。彼女の傍らでシンの返答を聞いたメイリンが、額に手を当てながら溜息を吐いている。

 

「…シンにお土産買ってきてたけど、二人で食べよっかメイリン。ショートケーキ」

 

「え」

 

 門限ギリギリに滑り込みで帰って来たシンを待ち構えていたルナマリア。初めから何やら袋を持っているとは思っていたが、まさか自分へのお土産だったとは…しかもショートケーキ。意外とシンは甘いものには目がなかった。

 

「ちょっ、ルナ!悪かった!謝るから、許してくれ!」

 

「知らないっ!」

 

 必死に謝るシンだが、ルナマリアは聞く耳も持たない。ずんずんと先を歩くルナマリアへ縋るようについていくシン。この二人を背後から眺めていたメイリンは、ポツリ。

 

「まるで彼氏を尻に敷いてるみたいだよ、お姉ちゃん…」

 

 というか、ここまで異性を進んで気遣う姉の姿をメイリンはこれまでの人生の中で初めて見た。整った容姿に性格も明るく悪くない。これまで何人か彼氏を作っている姉を見て来たメイリンだが、それでもこんな姉の姿は見た事がなかった。

 

 ──────あれ、もしかしてこの二人、相性いい?

 

 アカデミー時代は専攻していた学科が異なっていたせいで、二人のやり取りを殆ど見た事がなかったが、こうして見ると案外お似合いなのでは…?と不意に考えが過るメイリンなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少女を怒らせるハプニングがありながらも、久方ぶりの故郷に身と心を休める事が出来たシン。しかし、更なる休息に身を浸す事を、世界は決して許さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これより私は全世界の皆さんに、非常に重大かつ残念な事態をお伝えせねばなりません』

 

 世界を揺るがす更なる激震は、もうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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