フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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皆様、だいぶ遅くなってしまいましたが…、あけましておめでとございます。今年も『フラガとか聞いてない』をよろしくお願いします。今年の目標は、運命編を完結させる事です!自由編は多分、今年中は無理です!(´;ω;` )

~前回のあらすじ~
ジブリール「うぉおおおおおおおっ!!!」(宣戦布告)
ジブリール「うぉおおおおおおおっ!!!」(核ブッパ)
ジブリール「うぉおおおおおおおっ!!?」(核全迎撃)
D「プププ…」


PHASE23 弧獅子の奮闘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェルターという名には似つかわしくない、整然と優雅だった内部は酷い有様だ。割れたグラスが散らばり、倒れたボトルから流れ出るワインがテーブルから滴り落ち絨毯を湿らせる。そして柔らかなソファの上では、元々血色の悪いその顔を更に青白くしながら腰を掛けるジブリールの姿があった。

 

『冗談ではないよ、ジブリール。一体何だね、この醜態は?』

 

 モニターの中では男達が、失望をありありとその目に映してジブリールを見下ろしていた。老年の男の問い掛けに黙り込んだままの彼に構わず、男達は先のプラント侵攻についてを話し始める。その中でも彼らの気を引いたのは、地球軍の核攻撃を一掃した新型兵器だ。

 

 そう─────あんな野蛮な兵器さえなければあの日、誰もが成し得る事が出来なかったゴミ掃除に成功していたものを…!

 

『クククッ…。意気揚々と宣戦布告をして出かけていって、鼻っ面に一発喰らってすごすご退却とは。君の書いたシナリオは、実に面白いコメディだったよ』

 

「─────ッ!」

 

 男達の話し声が響く中でも、嘲笑の混じった静かな声をジブリールは聞き逃さなかった。

 

 ギラリと憤怒に光ったジブリールの視線を受けながら、その顔に浮かばせた笑みを解かないのは以前ジブリールへネオの身柄を条件に協力を持ち掛けた若い男だった。

 

『君が素直に条件を吞んでさえいれば、違った結果になっていたかもしれないねぇ…』

 

 口調はさも残念そうに、しかしその口元に浮かんだ愉悦の笑みは彼が全くジブリールを気遣ってなどいない事を語っていた。

 

 その言葉通り、とっとと条件を呑めと─────ジブリールはもう、自分の手を借りるしかないのだと信じ込む男の目にはここにはいない美しい少女を映しているに違いない。

 

 認めてなるものか。ようやく手に入れた彼女を、またも手放すなど─────もう二度と御免だ。あの絶望を再び味わうなど……。

 

『条件とは何の事かね?』

 

『いいえ。別段大した事ではございませんよ』

 

『無駄話はここまでじゃ。問題は、これから我らはどういう手を、()()打つべきなのかじゃ』

 

 ジブリールへ向けられた言葉の中に引っ掛かる点を覚えた一人が、若い男に問い掛ける。若い男は柔和な笑みを浮かべながらその問い掛けを躱し、そして脱線しかけた話をこの中で最も年老いた老人が本題へ引き戻す。

 

 プラントへ進軍を開始したのと同時に、地上ではザフト軍の拠点攻撃へと部隊が向かっていた。プラントに核を撃ち込んだ後、時を移さず地上に残った残党をも討ち果たす算段となっていたのだが─────プラント攻略に失敗し、地上部隊は攻撃の機会を失ったまま、次の命令を待つのみとなってしまっている。

 

 勢いよくプラントへ向けて振り上げた拳…、このまま下ろして逃げたりしようものなら、世界中の笑いものだ。人知れぬ陰に潜む男達が、直接哄笑を向けられる訳ではない。だが、此度のジブリールの計画に協力したのは紛れもない自分達─────例えどれだけ僅かにでも、笑いの矢印が自身に向けられるという事実を、男達のプライドが許す筈もなかった。

 

『…()()()、君の口車に乗ったのが間違いだったのかもしれんな』

 

『用済み…我らは君に、あの()()()()()()()と同じ判断を下せば良いのかね?』

 

 ()()()─────昔からこの世界を陰から動かしている支配者組織、その代表者こそ今ジブリールの前に並ぶモニターに映された彼らの正体だ。彼らにとって、ブルーコスモスの盟主であるジブリールをその座から引き摺り下ろす事など造作もない。二年前のアズラエルと同じように、闇に葬る事だって─────。

 

 ジブリールとは比類するべくもない権力を持つ者達が、断罪の鎌を振り下ろそうとしている。通常であれば恐怖を覚えるべき場面だが、彼らの内の一人が言い放った失望の一言がジブリールの心を怒りで燃やし、奮い立たせた。

 

「ふざけた事をおっしゃいますな!この戦争、ますます何としても勝たねばならなくなったというのに!」

 

 突如意気立ったジブリールの勢いに、男達が一瞬黙り込んだのを隙にジブリールは言い募る。

 

「核を一瞬にして消滅させたあの兵器!あんな物を持つ化け物が宇宙にいて、一体どうして安心していられるのです!?」

 

 プラントへ向けられた核ミサイルを一掃した謎の兵器については、まだジブリールの元へも情報は殆ど入っていない。だが、発射されたミサイルのみならず、戦艦に保管されていたものまでも触れる事なく起爆したという事だけは確認されていた。

 

「つまり!奴らは地上にある核物質さえも、自由に爆発させる事が出来るかもしれない!…当然戦いは続けなくてはなりません。以前のプランに─────いや!それよりもっと強化してね!」

 

 ジブリールの口から発せられた懸念にようやく、男達の顔に微かながら危機感が奔る。その中でもたった一人…ジブリールが最も気に入らない男だけが、未だ緊張感もなく厭らしく笑みを浮かべている事に更に苛立ちを燃やしながらも声を高らかに叫ぶ。

 

「奴らを叩きのめし、その力を完全に奪い去ってやります!今度こそ…ッ!」

 

 二年前と同じく、またも自身の覇道を阻もうとする宇宙の塵(コーディネイター)共が気に入らない。以前のと合わせて、この屈辱を晴らさずにはいられなかった。

 

 しかしこの強烈な憎悪を僅かながらではあるが、彼の中ではまだ冷静さが残っていた。

 

 プラントへの核攻撃─────迎撃されるにしても、まさか直接向けられなかった周辺のものにさえ影響を及ぼす兵器を開発しているとは。だがそれも、容易に連発はできないのだろう。或いはデュランダルの甘さ故の理由か─────確かにあれを直接地球へ向ければ、二年前の()()()()()同様にこの星は死の星と化す。

 

 ─────だが、奴らがその威力を限定的なものへと開発に成功させてしまえば…!

 

 プラント側があの兵器を、核を暴発させるものではなく、核を停止させるものへと変貌させてしまえば。NJCの効力も及ばない、新たなジャミングの開発に成功させてしまえば、地球連合はまたも窮地に追い込まれるだろう。残された時間は少ないかもしれない─────先程は力強く叫んだジブリールだが、強い憎悪で塗り潰せない不安が胸中を染み渡り始めていた。

 

 だからこそ急がなければならない。当初のプランを更に強化し、徹底的に奴らを攻め立てる。しかしそれを言うのは簡単だが、実行するは至難。何しろ初めのプランですら、ジブリールの考え得る要素をつぎ込んだ傑作といえるものだというのに。それを上回るものを完成させる為には最早、ジブリール一人の力では不可能であった。実現させる為には第三者が必要だ。それもジブリールよりも権力を持つ者が望ましい。

 

 だがそうなると選択はとてつもなく限られてくる。何しろジブリールよりも権力を持つ者─────それこそ、今彼の目の前に映るロゴスの男達の他ならないのだから。あれ程の啖呵を切り、その為にも今まで以上に力を貸してほしいと嘆く自分に、彼らは決して協力などしないだろう。彼らにとってジブリールはただの駒─────所詮代わりなどいくらでもいるただの一人でしかないのだから。

 

「…」

 

 何ら容赦なくジブリールを切り捨てるであろう面子が並ぶ中、しかし一人だけもしかしたら了承を得られるかもしれないメンバーに、ジブリールは心当たりがあった。ただそれを選ぶには余りにも大きい代償を負わせられる恐れがあった。ジブリールにとって死よりも恐ろしい、大切なものを奪われるかもしれない…そんな可能性があった。

 

 その後の話し合いは特に山場もなく恙なく進み、終わる。終了後、ジブリールはしばらくの間ソファに沈み込んだままその場から動く事はなかった。頭の中を巡るのは、あの薄ら笑いを浮かべた奴に頭を下げるのか否か。プライドを捨てるか─────大切なものを投げ出してでも勝利をとるか。

 

 しかし結局、どれだけ考えても結論は出せず。どちらも捨てられず、ジブリールは悶々としたまま疲れを理由に、一旦その思考を投げ出すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…話にならない。お前達は何故今、こんな同盟を締結できると思ってるんだ?」

 

 ブレイク・ザ・ワールドに続き、地球連合によるプラントへの一方的な宣戦布告と核攻撃によって世界が更なる混乱に陥る中、カガリは会議室で戦い続けていた。最前線の様に血を流す直接的な戦いではないが、ある意味こちらの戦いも壮絶といっていい。

 

 カガリがとろうとする方針とは逆の心情を持つ閣僚達からは、以前の会議からしつこく同盟締結について提言を受け続けていた。そして今日もまた、それもあの大西洋連邦の蛮行を見た後ですら彼らは同盟を締結するという方針を変えないつもりらしい。

 

「分かっているのか。これは二年前の繰り返し─────いや、今回は二年前よりなお酷い。今、最も世界の安全を脅かしている国との安全保障など、冗談じゃない」

 

 彼女の言葉に神妙な顔つきで頷く閣僚も何人かいた。だがそうでない閣僚も、むしろそちらの方が多い。()()()()、彼らとは異なる反応を示す者もいたが、そちらはどうにもならないのでスルー。カガリはそういった彼らの反応に目を光らせ、以前と比べて自身に賛同を示す者が()()()()()事に気付く。

 

 前回の会議ではプラントから帰国してすぐの疲労もあってそこまで気が回らなかったが、恐らくその時から同じような反応をしていたのだろう。予想はしていたが、カガリが国を離れているのを良い事に、色々と手を回しされていたらしい─────。

 

「大西洋連邦のやり方は確かに強引です。ならば、オーブは今後どうしていくと代表は仰るのです?」

 

「連合への働きかけを続ける。ユニウスセブン落下の件は今のプラントとは因果関係がない事。今回の宣戦布告は道理に反していると、呼び掛け続ける。…宣戦布告のあの日から、ずっと続けて来た事の筈だが?」

 

 閣僚の一人から投げ掛けられた質問へのカガリの答えを聞いたウナトが立ち上がる。

 

「代表が開戦回避の為に尽力されていた事は我々も知っております。ですが、戦端は開かれてしまった─────代表も気付いている筈です。どれだけ言葉で呼び掛けようとも、大西洋連邦は止まらないと」

 

「…だから、諦めて同盟を結べと?」

 

 ウナトが言わんとする理屈は分かった。分かったが、それこそが()()()()()()に繋がる最も愚かな思考であると気付かない、気付こうともしない彼らにカガリの怒りも限界に近かった。

 

「ふざけるな!そうして全てを敵、味方に分けて争わせようとする─────その果てに待つものを、私達はすでに知っている筈だ!それを避ける為にも、この同盟にオーブが参加するなど絶対にあってはならないッ!」

 

「そうしてまた、国を戦いに巻き込むのですか。ウズミ様のように?」

 

 胸の中を燻っていたカガリの激情が、不意に上がった閣僚からの言葉に一瞬凍り付いた。しかし次の瞬間、先程までの灼熱の憤怒とは真逆の、凍てつく様な視線が先程の発言をした閣僚へと突き刺さる。それは最早、殺意にも等しかった。

 

 射竦められた者を凍り付かせる冷たい眼光に捉えられた閣僚が、小さく喉を鳴らしながら沈黙する。

 

「しかし、下手をすればこの状況、再びそんな事にもなりかねませんぞ」

 

 やり取りの間に滑り込むように、ウナトが話に加わる。カガリがそちらに視線を向けた途端、一瞬ウナトが息を詰まらせるが、先程の閣僚と違いすぐに気を取り直すと再び口を開いた。

 

「大西洋連邦は何も今、オーブをどうこうしようとは言っておりません。同盟で済めばまだその方がいいと、そうお考えにはなられませんか?」

 

「ならないな」

 

 脅すようなウナトの言葉に、間髪置かずにカガリは言い返す。ここでカガリが折れるとでも考えていたのか、ウナトが目を見開きながら黙り込んだ。

 

「同盟で済めばいい?…お前達は本気で、同盟を結ぶだけで済むとでも思っているのか?間違いなく奴らはオーブの力を欲する。そうして自国の為でもなく、大西洋連邦の為に国民が血を流していくのを見過ごすのか?…お前達は一体、どこの国の政治家なんだ」

 

 静かに、されど冷たくカガリの声が会議室に響き渡る。不気味なほどに広がる沈黙の中で、カガリは続けた。

 

「オーブの為。オーブに住む民達の為。それを胸に刻み、もう一度よく考えろ。この同盟が本当に、彼らにとって良きものなのか─────それでも考えが変わらないのなら、改めてもう一度話し合おうじゃないか」

 

 これ以上こんな話に付き合っていたくはなかった。カガリは強引に同盟についての話に幕を閉じ、次の議題へと移るよう司会者へと命じた。

 

 願わくば少しでも、同盟を支持する閣僚達へと自身の言葉が届くようにと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カガリ!」

 

 会議が終わり、閣僚達がぞろぞろと出て行く中で一人の若い男が抜け出し、一人カガリへと歩み寄って来た。

 

「大丈夫かい?だいぶ疲れているみたいだ」

 

 馴れ馴れしく寄り添ってくる男の名は、ユウナ・ロマ・セイラン─────先程の閣議で、カガリへと同盟締結について薦めてきたウナト・エマ・セイランの息子だ。父親であるウナトと同様の思想を持っており、前回の閣議でも同盟締結を促して来たのは記憶に新しい。

 

「…僕がこんな事を言うのも何だけど、父上達の事を悪く思わないでほしい。考え方こそ違うけど、国を思う気持ちはカガリと同じなんだよ」

 

「…あぁ、分かってるよ」

 

 柔らかな口調のユウナの言葉に相槌を打ちながら、カガリも閣議室を出る。するとユウナまで彼女の後へ続いてきた。先程から変わらず、ユウナからの距離が近い。…今、アスランは別の仕事で行政府にはいない。カナードも先の宣戦布告の件で、色々な所を奔走している。もし二人のどちらかが、特に後者がいればこの男をすぐに追い払ってくれたというのに─────嫌悪感と憂鬱さを胸にしまい込みながら、カガリはユウナが開けてくれたドアから執務室へと入る。

 

 沈み込むように執務室のソファに腰を下ろしたカガリの隣に、そうするのが当たり前かのように自然と座ったユウナが言う。

 

「ともかく少し休もう。何か飲むかい?それとも軽く何か食べる?」

 

「…ユウナ」

 

「ん?」

 

 ユウナは今の今まで全く気付いていなかった。自身の傍らにいて、自身の声に返事をしていたカガリはしかし、全く自分の方へと目を向けていなかった事に。

 

 閣議室を出てからようやく初めて、カガリはユウナへと目を向ける。

 

「お前の言う通り、私は疲れている。静かに休みたいから、一人にしてくれないか」

 

「─────」

 

「…ユウナ?」

 

 事実、疲れている自覚はあった。だがこの男が傍にいては休もうにも休めない。だから、努めて穏やかにここから出て行くように促したつもりだったのだが、カガリと目を合わせたユウナが表情を凍り付かせたまま動かない。どうしたのかと、今度は少し戸惑いながらもう一度カガリが呼び掛けると、ユウナは弾かれる様に立ち上がり、慌てて彼女から離れていく。

 

「あっ、あぁ!そうだね!僕とした事が、少し配慮が足りていなかったよ。それじゃあ…」

 

「???」

 

 素直に離れてくれたのはありがたいが、どうもユウナの反応に引っ掛かりを覚えるカガリ。まるで自分を怖がり、逃げる様な─────そこまで考えて、まあいいやとカガリは思考を放棄する。鬱陶しい奴が居なくなったのだから、そのご厚意に甘えてゆっくりと休ませてもら─────

 

「邪魔するぞ」

 

 おう、と思っていたのに。ユウナが去ってから数十秒と経たず、無遠慮に開かれたドアから新たな客が現れた。

 

 誰が来たかなど、顔を見なくとも分かる。基本、執務室を訪ねて来るのはカガリと近しい者達だ。その中でも一線を画す、関係性が更に近しいアスランやカナードでもその辺の礼儀は重んじている。ここが国家代表の執務室である事を知りながら、ノックもせずに入って来る人物─────カガリの知る中では、そんな事をするのは一人しか居なかった。

 

「いい加減、家に帰ってくれないか。()()?」

 

「ふむ…。折角お疲れの代表の様子を見に来たというのに、それはあんまりではないか?」

 

「思ってもない事を…!」

 

 先程のユウナとはまた違った類の薄ら笑いを浮かべてそこに立っているのは、ロンド・ミナ・サハク。珍しく本土へ戻って来たかと思えば、これまた珍しく長居をしているオーブの首長の一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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