「キラっ!」
「アスラン…!」
アークエンジェルから出撃し、イージスから放たれたビームによってスピリットとの距離を離されたキラは、直後に襲い掛かって来たイージスとの交戦を開始していた。
イージスの腕より展開されたビームサーベルを、ストライクのシールドで押さえると、キラは背中のビームサーベルを抜き放ちイージス目掛けて振り下ろす。
イージスもまた、キラと同じようにシールドを掲げ、ストライクの斬撃を防ぐ。
少しの間、互いに押し合い、やがて弾かれるように二機は同時に後退。
一度、二度と切り結びながらすれ違い、再度衝突、ストライクとイージスの鍔迫り合いが始まる。
「もう止めてくれ!俺達が戦う理由なんてない筈だ!」
「君にはなくても、私にはあるの!」
通信を通して響くアスランの叫びに対し、キラもまた思いの丈を叫び返す。
「戦いたくないなら、退いて!…私だって、君とは戦いたくない!」
「キラ…、なんでっ!?」
「前も言った!あの艦には、守りたい人が…友達が乗ってる!アスランがあの艦を落とすつもりなら、私は─────!」
キラは、イージスから伝わる力に逆らわないままに機体を傾け、イージスの懐へと飛び込む。
「くっ!?」
ストライクの予測出来なかった動きに歯噛みしながら、アスランは即座にその場から距離を取ろうとする。
しかし、その判断はやや遅かった。
それよりも先に、イージスの胸部装甲をストライクの脚部が襲う。
コックピット付近に強い衝撃を受けたイージス。
当然、その衝撃は中のパイロットをも襲う。
「ぐぅぅうっ!」
呻き声を上げながら、それでも操縦桿から手は離さず機体の姿勢制御に努めるアスラン。
「アスラン…っ」
よろけるイージスを睨みながら、キラはビームライフルを抜く。
ここで、すぐに引き金を引いていればイージスを撃ち抜く事が出来ていただろう。
「─────」
キラの脳裏を過る、かつて
その僅かなタイムラグが、絶体絶命だったアスランの命を救う事となる。
「何をやっている、アスラン!」
「!?」
ストライクのコックピットに警報が鳴り響く。
ロックされている事を悟ったキラは、すぐに機体を翻しながらその場から離れる。
「逃がすかよ!」
直後、コックピット内に奔る衝撃。
ジンよりも優れた機動力で接近してきたミゲルのジン・ハイマニューバが、ストライクとすれ違いざまに突撃銃をお見舞いしたのだ。
PS装甲により機体そのものにダメージはないが、防ぎきれない衝撃がキラを襲う。
「きゃぁぁああああっ!」
「─────き…っ!」
「挟み込めアスラン!ここでこいつを沈める!」
「…くそぉっ!」
キラの悲鳴を聞きながら、アスランは選択を迫られていた。
軍人としての責務か、友の命か─────。
─────先に自分の手を振り払ったのは、向こうだ。
アスランはストライクの背後へと回り、ビームライフルを構える。
「っ!」
「な…にぃっ!?」
その時、ハイマニューバとイージスに向かって二条のビームが放たれる。
単純な狙撃、二人は難なくそれらを回避するが、そのビームを放った対象を目にして驚愕を抑えられなかった。
「ユウ…!」
キラも目にする、シグーと戦闘を繰り広げるスピリットの姿を。
スピリットは、シグーと交戦しながらピンチのキラを救ったのだ。
「あいつ、クルーゼ隊長を相手にしながら!?」
「スピリット…!」
ミゲルは忌々し気に、アスランは友の命を奪わずに済んだ事に対して複雑な念を抱きながら、スピリットを睨みつける。
「今っ…!」
スピリットの攻撃により、二人の意識が逸れたのを察したキラは、ストライクのスラスターを吹かせる。
狙いは距離が近いハイマニューバ。
ビームライフルを構え、引き金を引きながらハイマニューバへと接近していく。
「こいつっ!?」
意識を逸らした事への悔恨を抱く暇はない。
ミゲルはすぐに機体を後退させようとするが、ストライクがハイマニューバの懐へと飛び込む方が早かった。
ストライクが振るうビームサーベルと、何としても斬撃を回避せんとするハイマニューバ。
斬撃の方が速く、ハイマニューバを捉える。
コックピットこそ避けられるが、ハイマニューバの左腕を斬り払い、返す刃で二撃目を仕掛けるキラ。
「ミゲルッ!」
そうはさせじと、アスランが機体を動かす。
ハイマニューバへとサーベルを振り上げようとするストライクへ、イージスが突っ込んでいく。
イージスの突進を、キラはシールドで受け止める。
その隙にミゲルはハイマニューバを後退させ、ストライクから距離を取る。
「ミゲル、退くんだ!」
「立つ瀬ねぇな、くっそ!」
機体に損傷を受けたミゲルは、悪態を吐きながらアスランの言う通りに退いていく。
再び一対一で対峙するストライクとイージス。
睨み合うキラとアスラン。
「キラ…。どうしても俺と一緒に来ないつもりか」
「…君が、私の大切な人を殺すっていうなら」
「…ならば、ここでお前を撃つ!」
「私も、君を撃ってでも止める!」
互いに決別の言葉を掛け合いながら、されど心の奥底で燻る迷いを抱えながら、二人は銃を向け合い、引き金を引くのだった。
「随分と余裕だな!私を相手に、味方の支援をするとは!」
「その機体の足がもう少し速ければ、そんな余裕もなかったかもな!」
挑発、悪態を向け合いながら互いの近接武器で切り結ぶスピリットとシグー。
ユウはシグーを相手にしながらも、周囲の状況を絶えず確認し続けていた。
先程の支援により、ストライクは息を吹き返し、ハイマニューバを撤退まで追い込んだ。
再びイージスとの交戦が始まったが、見る限り状況は互角。
目を向けるべき箇所はそこではないと判断したユウは、先遣隊の旗艦であるモントゴメリの方へと注意を向けた。
戦闘宙域へ来た時点で沈黙していたバーナードはジン部隊にやられ撃沈。
ローもハイマニューバにあっという間に沈められ、すでに残すはモントゴメリのみとなった先遣隊。
そのモントゴメリもジンの部隊に囲まれていた。
出撃したメビウスも残るは一機となり、まさに風前の灯火と言える状況まで追い込まれていた。
「行かせんよ!」
「っ、邪魔だ!」
モントゴメリの援護をするべくライフルを向けようとした時、背筋に奔る寒気に従い、考えるよりも先にユウは機体をその場から離す。
肩部の装甲を掠めるビームには見向きもせず、シールドを掲げてシグーの斬撃を押さえる。
「気に入らんなっ!この私を前にしながら、他者を気にするなど!」
「嫉妬かよ!気持ちの悪い!」
「戯言をっ!」
パワーで劣るシグーが力勝負を嫌い、僅かにスピリットから離れる。
直後、ライフルからサーベルへと持ち替えたスピリットがシグーへと刃を振るう。
スピリットの斬撃を、シグーは機体の体勢を沈ませる事で回避し、重斬刀を振り上げスピリットの右腕を狙う。
「くっ─────」
質量武装ではスピリットの装甲は破れない、が、斬撃を受けたスピリットの右腕が跳ね上がる。
「君がその気なら、私も真似をしてみるとしようか」
「─────何を」
クルーゼの声に、悦の感情が混じっていた事にユウは気付く。
直後、体勢が僅かに崩れたスピリットを蹴り飛ばし、シグーがライフルの銃口を向ける。
「お、まえっ…!」
銃口が向けられたのは、
メインカメラをこちらへ向けたまま、シグーはライフルを
「守りたい味方が居るのなら、その味方とやらを奪うとしよう」
「やめろっ!」
ユウの制止の声などクルーゼには届かない。
スピリットのスラスターを吹かせるも、到底間に合わない。
シグーのビームライフルが、火を噴いた。
かなりの長距離射撃にも関わらず、クルーゼが放った光は正確にモントゴメリの艦橋を撃ち抜いた。
最初に艦橋で爆発が起こり、更に艦体のエンジン部が誘爆、そうして何度か爆発を起こしながら、モントゴメリはあまりにも呆気なく撃沈した。
「─────クルーゼェェェェエエエ!!!」
モントゴメリの最期の姿を目にしたユウが、激情に駆られるままに雄叫びを上げる。
その瞬間、ユウの中で何かが
「ふははっ!憎いかね、この私がっ!そうだ!私を見ろ、ユウ・ラ・フラガっ!」
「それを聞くのはこの俺だっ!親父とお袋だけに飽き足らず、お前とは何ら関係のない所にまで憎しみを撒き散らすっ!そこまでお前を産み出したこの世界が憎いのかっ!?」
「あぁ、憎いさ!私
シグーからのビームライフルから放たれる光条をビームサーベルで斬り払い、ユウはスピリットを真っ直ぐシグーへと突っ込ませる。
「それを決める権利は、お前にはない!」
「あるのだよ!この世界でただ一人、全ての人類を裁く権利が、この私にはあるのさっ!私の
「あぁ、分かってるさ!そんな権利、誰一人として持っていないって事くらいはなっ!」
スピリットの斬撃をシールドを防いだシグーが、重斬刀を振り上げる。
ユウもまたシグーの斬撃に対してシールドを掲げ、火花を散らしながら二機が力を込めて押し合う。
「ラウ・ル・クルーゼ!これ以上憎しみを撒き散らし、世界を弄ぶのなら、お前を殺してでも止めるっ!」
「やってみせろ、ユウ・ラ・フラガっ!」
弾かれるようにして離れた二機が、すれ違いながら何度もぶつかり合う。
機体の性能で勝りながら押し切れないユウと、操縦技術で勝りながら相手を翻弄しきれないクルーゼ。
二人の動きは戦いが進むごとに鋭く冴え渡っていきながら、更に戦闘の激しさが増していくのだった。
「ユウ─────?」
声が聞こえた気がして、ラクスは振り返る。
どこからか、ユウの声が聞こえた気がした。
憎くて、悲しくて、苦しくて、それでも絞り出すようなユウの叫びは、少女へと届いていた。
「ユウ…。貴方はまだ、戦っているのですね」
時折艦内を襲う揺れが、未だに戦闘が続いている事を知らせてくれる。
そして、先程のユウの声もまた、未だに彼が戦い続けている事を教えてくれた。
しかしラクスには何の力もない。
この戦いを止める為に、ユウの為に出来る事など、何も─────
「…いいえ」
「ラクス?ラクス?ハロ?」
ユウに言われ、ラクスは個室の中でハロを抱きながら戦いが終わるのを待っていた。
何も出来ず、ここでユウの帰りを待つ事しか出来なかった。
それしか、自分に出来る事はないと思っていたからだ。
「わたくしにも、出来る事はある」
ラクスには戦う力はない。
だが、戦いを止める力なら、ある。
ラクスは立ち上がり、扉の前へと向かう。
そして腕に抱いていたハロを持ち上げ、扉の近くまで持っていくと、ハロは両耳をパタパタと上下させながらつぶらな瞳を点滅させる。
扉が開く。
腕に抱いていたハロを離し、ラクスは勢いよく部屋を飛び出した。
─────ずっと、心の中でずれがあった。
ラクス・クラインは、歌う事が好きだ。
自分の歌声を聞いた父と母が、笑顔になってくれるのが大好きだ。
いつしか父と母以外の人達にも歌声を聞いて貰える機会が増え、色んな人が自分の歌を聞いて笑うようになり、初めはそれが嬉しくて、ラクスはもっと歌う事が好きになった。
いつしかラクス・クラインは
歌いたいが為に歌っていた歌が、いつしか誰かに乞われ、望まれて歌う歌になっていた。
その事が、ラクスの中でどうしてもずれを起こしていた。
誰かに笑っていてほしくて歌っていただけなのに。
いつしか、歌えば誰かが笑うだけでなく、崇める者すら現れるようになった。
ラクス
様、なんていらない。
そんな大層な事じゃない、自分はただの一人の人であり、他の誰とも変わらないのに。
いつしかラクス・クラインの命は、重い価値を持つ物へと変わっていった。
それは、ラクス自身が望んだ物ではない。
自身の命にのしかかった価値は、彼女が望んで手に入れた物ではない。
煩わしく、いらないとすら思った事もあった。
だが、今は─────その価値とやらを、存分に利用するとしよう。
目指すは艦橋。
ラクスは艦内の構図など分かりはしない。
ただ、それでも進む。
声が聞こえる方へと─────声が近付いてくる方へと、彼女は迷わず足を進める。
「っ─────!貴女…!」
やがて辿り着いた扉が開いた先で、初めに反応を示したのは艦長席に座するマリューだった。
振り返り、視線の先に目にしたラクスの姿を目にしたマリューが、驚愕に目を見開く。
続けてナタルが、フレイが、トールが、艦橋で忙しく手を動かしていた全ての人達が、一人の少女に視線を注ぐ。
「な─────何をしているのですか!?ここがどこか分かっていますか!?というか、どうして部屋からでて…」
「わたくしを人質にお使いください」
続けざまに質問を投げ掛けるマリューへと、真っ直ぐ視線を向け、掌を胸に当てながらラクスは告げる。
その言葉に誰もが言葉を失った。
ラクスへ更なる質問を投げ掛けようとしたマリューも、誰にも告げず、頭の隅でラクスが告げた事を実行するべきかと考慮し始めていたナタルでさえも。
未だ戦闘は続いている。
艦橋のモニターには、イージスと交戦するストライクと、シグーと激しくぶつかり合うスピリットの姿が映し出されていた。
その映像を見て、一瞬悲し気に表情を歪ませたラクスはすぐに表情を引き締め直し、再び告げる。
「わたくしがこの艦に乗っていると知れば、モビルスーツを退かせる筈です」
「…貴女は、それでいいの?」
「それで戦闘が終わるのなら構いませんわ」
マリューからの問い掛けに、ラクスは引き締めていた表情を緩め、微笑みながら頷いた。
アークエンジェルが生き延びる為に、残された選択肢は一つしかなかった。
『ザフト軍に告ぐ!』
突如、アークエンジェルより発せられた全周波放送に、ユウとクルーゼは戦いの手を止めた。
『こちらは地球連合所属艦アークエンジェル!当艦は現在、プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している!』
「なに?」
予想もしていなかったその言葉に、クルーゼも小さく驚愕の声を漏らした。
モニターに映し出された地球軍女性士官の背後には、確かに小さくラクスの姿が映り込んでいたからだ。
『偶発的に救命ボートを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降、当艦へ攻撃が加えられた場合、それは貴艦のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と判断する!』
「…ちっ」
クルーゼにとって、状況は最悪だった。
何しろ、クルーゼ隊に課せられた任務は
ここで知った事かとアークエンジェルを─────スピリットへの攻撃を続行したい所ではあるが、まだこの段階でそこまで踏み切る訳にはいかない。
『隊長!』
「分かっている。全軍攻撃中止、帰投させろ」
クルーゼからアデスへ、そしてアデスから出撃していた全モビルスーツへ帰投命令が下される。
「…」
無言でスピリットを─────ユウを横目で見遣ってから、クルーゼもヴェサリウスへと機体を向ける。
今度こそ息の根を止めると意気込み、臨んだ戦いだった。
しかし、クルーゼの想像以上の早さで相手は、ユウの腕は上がっていた。
これでは、次に戦う時にはどうなるか─────せめて同程度の性能を持った機体があれば。
「…ないものねだりをしてもどうしようもないな」
自嘲の笑みを浮かべ、小さく呟く。
現在ザフトには、宇宙空間においてシグー以上の性能を持つ機体は、地球軍から奪った四機の他にない。
スピリットとの性能差を埋める手として、ジン・ハイマニューバの様に何らかの改修を施す手はあるが、それをするには一度プラントへと戻らねばならない。
そんな時間はない。
時間を掛ければ、アークエンジェルはそう簡単に手が出せない所へ逃げ込んでしまう。
クルーゼの本懐を遂げるには、時間との勝負となる。
「…次こそは」
ユウの成長スピードを考えれば、次がラストチャンスだ。
次を逃せば、ユウとの交戦機会は少なくなるどころか、失われる可能性もある。
─────あの怪物を墜とすには、こちらも覚悟が必要という事か。
「その前に、あのお嬢様か。…厄介なものだ」
だがユウと交戦するにはまず、囚われのお姫様をどうにかして解放しなければならない。
ある意味こちらの方が難解とすら言えるだろう。
ため息混じりに呟きながら、クルーゼはヴェサリウスのハッチから機体を収容するのだった。
ジン・ハイマニューバでの初陣ミゲル君の戦果(本文にはない勝手に決めた設定含めて)
地球軍戦艦一隻とメビウス三機。
び、微妙…。まあ、相手(パーフェクトフラガとスーパーコーディネイター)が悪い。(白目)