~前回のあらすじ~
ユウナ「国の為にそんな権限ないけど軍を動かしたよ!国を守る為なんだよ!だから許してね!」
カガリ「許す訳ないだろバカ」
シン「えっほえっほ…」
片や以前国を焼き、今も尚世界を巻き込んで再び混乱の渦を起こさんとする軍と、片や懸命に地球を救おうとしてくれた艦。後者の艦の所属もまた、前者同様に自国に襲撃を掛けた国家ではあるが、近頃の行為を受けてどちらの印象が良く思えるかなど考えるまでもない。
しかし中立を謳う以上、どちらかに肩入れする事はできない。例え今、大軍の猛攻に晒される艦が地球に住む人達にとって救世主であろうとも、オーブは両者を対等に扱わねばならないのだ。そう自分に言い聞かせながらの今回の出撃─────命令主があの
「こういうの、恩知らずって言うんじゃないかと思うんだがね」
オーブ護衛艦隊の指揮を執る
副官は寡兵にも関わらず奮闘を続けるミネルバへ同情の視線を。そして、艦橋─────否。この艦にいるどのクルーよりも年若い少女兵は、領海線付近で戦闘を繰り広げる両軍へ苛立ちの視線を向けていた。
「…
「分かっています。おとう─────トダカ一佐」
前方を睨みつける少女兵─────
無理もない。何しろ二年前、かのオーブ戦役で彼女は家族を地球連合、ザフト両軍によって殺されているのだから。そして両軍は再び、オーブの領海線で相見えている。また、オーブが両軍の戦渦に巻き込まれそうになっているのだ。あの戦いの被害者でもあるマユからすれば、許せない事なのだろう。
トダカがマユと出会ったのも、二年前のオーブ戦役だった。戦火に巻き込まれ、一人立ち尽くしていた彼女を保護したのがトダカだった。もう一人、マユの命を救った恩人がいるのだが、今その恩人は姿を消しており、トダカもマユもその行方を知らない。だから、という訳ではないがトダカはマユを保護した後、養子として引き取っていた。子も妻もいないトダカにとって年頃の女の子を預かるというのは戸惑いの連続だったが、あれから二年間、血は繋がらなくとも本当の親子のように二人は過ごしてきた。
マユはトダカをもう一人の父親と慕い、トダカはマユを本当の娘として愛してきた。だからマユが軍人として戦うトダカを支えたいと思うのは自然であり、トダカが軍人を志すマユを止めようとするのもまた当然であった。ある日、マユが軍人になると言い出したのをトダカは叱責するも彼女は決して譲らなかった。国を守る為に自分も力になりたいという意志と、父を守りたいという思いを、トダカは否定する事が出来ず、マユは史上最速で軍事学校を卒業し、今ではトダカが指揮官を任せられた護衛艦隊にモビルスーツパイロットして配属されている。実戦経験はまだだが、類稀なる才能は歳の差を凌駕し、艦隊のどのパイロットでも訓練でマユを負かした者はいない程。
才能─────そう。年端もいかない少女は才能に愛されていた。そうでなければ、トダカもマユを無理ではないかと、今からでも引き返せないのかと諭す事が出来たかもしれない。しかし少女は、常人ではあり得ないスピードで軍人足り得る実力と知識を身に着けてしまった。こんな場所に来て貰う為に、この子を引き取った訳ではないのに─────。
「…」
マユは艦橋のモニターに映されている戦況を見上げていた。先程の様に怒りに曇った目ではなく、強い興味が混じった視線で、そこに映し出される
「警告開始。砲はミネルバの艦首前方に向けろ。…命令通り、絶対に当てるなよ」
「ハッ!」
物思いに耽るのはここまでだ。反省も後悔も、今更何の意味もない。例えそれが娘であるとしても、覚悟を以て戦う道を選んだのなら、自分に口を挟む資格はない。ならば一人の指揮官として、優秀なパイロットを扱うとしよう。
心の中で何とか割り切って命令を発する。それは先程、トダカらの
「マユ。繰り返すが、出撃がないとも限らん。例えモビルスーツ戦となってもお前を出すつもりはないが…、心の準備はしておけ」
「了解」
腕はあったとしても、未だ軍人になりたてのマユの今の立場は飽くまで見習いだ。見習いを戦場へ送り出すつもりなど毛頭ないが、何が起こるかは分からない。あり得ないと油断しながら戦場に出る羽目になるよりも、ある程度心の準備をさせておいた方が良いだろうと考えたトダカがマユに声を掛ける。
だが、言うまでもなかったらしい。すでに彼女の目は定まっており、いつでも行けると語っている様にも見えた。それを心強いと思う自分が情けなくもあり、成長した娘の姿が嬉しくもあり、複雑な念を抱いたままトダカは前へ向き直った。
そこでは劣勢のミネルバが、新たな動きを見せようとしていた。
モビルアーマーが出現後、戦況は一気に地球軍側へと傾いた。ミネルバへと迫るモビルアーマーはインパルスが押さえているが、それによって敵艦、モビルスーツの多くが自由を取り戻す。
インパルスによって堰き止められていた
『ザフト軍艦ミネルバ、並びに地球軍艦隊に告ぐ。貴艦らはオーブ連合首長国の領域に接近中である。我が国は他国の領域への侵犯を一切認めない。直ちに転進されたし』
絶え間なく降り注ぐミサイルの雨に対応を迫られる中、オーブ領海に並んでいた艦隊から警告が発せられた。この状況下で余りにも無慈悲な勧告。救いは退去勧告が向けられた先が自分達だけではない事か─────しかしつい先日まではあれだけの好待遇を表しておきながら、国を出て行った途端この掌の返し様。オーブにとっては当然の対応なのだろうが、いざ向けられた側となれば堪ったものではない。
「艦長ぉっ!」
「構わないわ!そのまま後退してっ!」
それに転進など冗談ではない。ここで前進するなどただの自殺行為でしかない。情けない声で助けを求めて来るアーサーへ、タリアは殆ど怒鳴り声に等しい口調で指示を出す。
更に領海へと艦が接近する。転進する気配がないミネルバへ、後方のオーブ艦隊がどのような動きをするのか。─────答えは一つだった。
オーブ艦隊の砲口が火を噴く。後退を止めないミネルバと、それを追って迫る地球軍機。ミネルバの周囲では高く水柱が上がり、ウィンダムは自身らにも向けられた砲弾に堪らず距離をとる。ザフトと地球軍─────両者へ、平等に向けられた砲火は飽くまでも威嚇だろう。放送は伝わってこない。だがこれは、次は当てるという無言のメッセージでもあるとタリアは受け取った。
タリアだけではなく、敵側もそこまで鈍くはないらしい。オーブ艦隊を警戒してか、攻撃の勢いが弱まった。これならば少しでも、オーブ領海から離れる事が出来るかもしれない─────タリアがバートへ命令しようと口を開いた時だった。
『ミネルバ!デュートリオンビームの準備を!それからソードシルエットの射出準備も頼む!』
「シン!?」
突如インパルスから発せられた通信に、最初に戸惑いの声を上げたのはメイリンだった。彼女が戸惑うのも無理はない。たった今、シンはこの混戦下で武装の交換を行うと言っているのだから。
『メイリン!やれるな!?』
「は…、はいっ!」
この躊躇いさえ、シンにとってはじれったい筈だ。情けない話、自艦の事ばかりに意識が向いてしまった挙句、僚機のエネルギー残量に気付けてもいなかった。インパルスの残りエネルギー量は僅か。あれだけの大軍を相手に立ち回り、更には母艦のフォローへと急ぎ、巨大モビルアーマーとの交戦─────むしろこれでよくここまで保ったとすら言える。
装備の換装についてはともかく、
「デュートリオンチェンバー、スタンバイ。測的追尾システム、インパルスを補足しました!」
『よし!俺の合図で発射してくれ!』
デュートリオンビームはいつでも発射可能だ。メイリンが報告すると、シンは力強く返すと同時、機体を翻して真っ直ぐにモビルアーマーへと突っ込んでいくのだった。
機体を返してモビルアーマーへと向かっていくシン。相手からすれば今のインパルスは格好の餌に見えた事だろう。両脚部の砲門が開かれる。対してシンは怯む事なく、サーベルを抜き放ちながら機体のスピードを上げた。
直後、強烈なビーム砲が撃ち放たれる。それをシンはシールドを掲げて真っ向から受け止めた。機体のスピードが真正面から砲撃を受け止めた事でガクン、と落ちる。受け止めるエネルギーに耐えられず、コックピットにアラートが鳴り響く。その中でシンは確かに前を見据えて、タイミングを見計らう──────不意にシンはシールドを手放して上空へと躍り出た。
砲撃に呑み込まれ、シールドが灼ける。だが同時に、シンの目すらも晦ませかねない閃光の中で飛び上がったインパルスの動きを、敵は見極める事が出来ていなかった。太陽を背にしてインパルスは急降下、敵がリフレクターを出力させる暇も与えず、シンはビームサーベルを突き立てた。モビルアーマーの頭頂部を切り裂けば、そこから噴き出した火花がどんどん広がっていく。
動かない敵機へ背を向けて、爆散する様には目もくれず、バッテリーが切れてVPSを落としたインパルスをミネルバへと向ける。
「今だメイリン!デュートリオンビーム照射後、ソードシルエットを頼む!」
『はいっ!』
メイリンへと指示を送った直後、ミネルバへ近づいたインパルスへと、艦橋左方の射出口から一条のビームが放たれる。それをインパルスの頭頂部に位置する受光部で受けると、機体のパワーゲージが回復していく。インパルスのパワーレシーバーで受信されたビームは電力に変換され、パワーアキュムレイターに蓄えられる。この送電技術により、インパルスは着艦する事なくミネルバからエネルギー補給を可能としているのだ。
装甲に再びトリコロール色を取り戻したインパルスは再び上空へと躍り出ると、背部のシルエットを分離。ビーム照射後、指示通りに射出されたソードシルエットへと換装する。
オーブ艦隊からの威嚇射撃、そして虎の子のモビルアーマーの撃沈、特に後者が決定的切っ掛けとなり生まれた地球軍の硬直を逃さず、シンはエクスカリバーを抜き放って艦隊の左方へと機体を向かわせる。追い縋らんとするウィンダムの隊を振り切って、巡洋艦の甲板に着地したシンは、長刀を振り払う。綺麗に艦橋を斬り払ってからまた次の艦へと移り、同様にエクスカリバーで艦橋を薙ぎ払う。
淡々と長刀で艦橋を刈り取っていくインパルスの姿は、巨大な鎌を振るう死神の如く─────。目に入った艦を三度切り裂き、インパルスの暴挙を止めるべくようやく追いついてきたウィンダムを数機ビームライフルで撃ち抜く。更にこの期に及んで尚、ミネルバを狙わんとする動きを見せた戦艦らをも見逃さずビームを撃ち掛けてから、艦の移動を繰り返している内に近付いていた空母へと狙いを移す。
それは最早何人たりとも止める事は許されない、裁きのようだった。空中から舞い降りたインパルスが、エクスカリバーを艦体に突き刺し、一文字に振り抜く。切り裂かれた傷跡から噴き上がる炎が機体を包み、その様は周囲に恐怖を与える不気味な映像と化す。
幾隻の戦艦を切り裂き、撃ち抜いたかも分からない。次は─────新たな標的を定めんと向けられた視界の中で、シンはふと地球軍艦隊が潰走を始めているのを見留めて一瞬思考が固まる。
『インパルス!シン、帰艦してください!地球軍艦隊、撤退します!』
一体何が起きているのか─────それをようやく理解したのは、帰艦を呼び掛けるメイリンの声を聞いた後の事だった。
窓外を遠ざかっていく艦隊を呆然と見送る。勝った─────あの状況から、絶望的戦況を覆して、自分達は勝ったのだ。間を置いて、シンは無言のまま自分達の勝利を自覚したのだった。
領海線付近の戦闘を見守っていたオーブ護衛艦隊。誰しもが描いていたであろう結末はそこにはなく、今彼らの目に映っているのは地球軍艦隊を退け、傷だらけでありながらも堂々と航海を再開する
二十隻に至る地球軍艦隊を相手にしたのはたった一隻。その状況を覆す戦いぶりを目にした軍人達の殆どは、暫しの間言葉もなく、呆然とミネルバの背を見送るだけだった。その中でも一人、先程の戦闘に衝撃を受けながらも、最も早く我を取り戻した─────旗艦タケミカヅチの艦橋で戦況を見守っていた、マユ・アスカはとある可能性を思い浮かべていた。
それは即ち、ザフトがオーブの敵に回った場合─────ミネルバが目の前に敵として現れた時、果たして勝てるかどうか、だ。
現在オーブとプラントは未だ敵対関係には非ず、今すぐそうなるという危険性はないだろうが、この先は分からない。オーブは大西洋連邦からの圧力を受けており、代表、カガリは同盟に反対して踏ん張っているが少しずつ、彼女の旗色は悪くなっている。マユ自身、政治というものをまだ余り理解していないのを自覚してはいるが、やがてオーブが同盟に加わるという可能性は否定できないと、彼女は考えていた。
そうなれば当然プラントとは敵対し、また二年前のようにザフトがオーブを攻撃してくる事だってあり得る。その中には先程、獅子奮迅の戦いを見せたミネルバ─────そして、あの白いモビルスーツと交戦をする機会があるかもしれない。
確か、名称はインパルスといった筈。あの機体のスペックもそうだが、あれに乗り込み操るパイロットも相当の腕だ。圧倒的多数の集団に囲まれる中で見せたクレバーな立ち回り。混戦の中でも僅かな隙を見つけ、状況に合わせた装備への換装に踏み切った思い切りの良さ。そして、逃げ惑う地球軍艦を容赦なく切り裂いた非情さ。それらを総合して、マユは自身とあの機体が一対一で交戦した場合を想定して映像を思い浮かべる。
─────ダメ。今の私じゃ、あいつにはきっと勝てない…。
そうして出た結論は、今の自身ではインパルスに勝てないというもの。湧き上がる悔しさを拳を握りしめる事で堪え、マユは更なる力を得る事を渇望する。
今の自分ではダメなら、もっと強くなればいい。もっと、もっと─────誰が来ても負けない、誰が襲ってきても失う事のない力を。これから─────もっと。
ミネルバの姿が肉眼で見えなくなるまで、マユはグレーの戦艦を見つめ続けていた。それは護衛艦隊に所属する兵として、ではなく、一人のパイロットとして。超えるべき敵を定めて、彼女は無意識に艦の中にいるとある機体を見据えていたのだった。
これにて原作の四分の一、PHASE12まで終わりました。この小説ではPHASE27…。因みにSEED編ではPHASE24で原作12話分が終わってます。
あれれぇ~?前作よりもペースが遅いな。おっかしぃぞぉ~???(泣)