~前回のあらすじ~
シン「………(悲しい目)」
マユ「キャッキャッ(with キラ&ラクス)」
ムウ「ユウは生きてるに決まってんだろ」
??「作戦開始ぃ!」
「
「…あぁ。問題なくリンク出来ている」
「ならいい。今度は抜かるなよ」
オーブの近海に彼らが搭乗する潜水艦は身を潜めていた。軍の索敵網にギリギリ掛からない範囲を見極め、且つアコードの感応能力を陸地へ届かせる限界の距離。その絶妙な位置で、アコード達を率いるリーダー─────
オルフェは艦長席に座しながら、彼の傍らに立つ髪を刈り上げた青年、
十数人という多人数相手だが、相手の精神を捻じ曲げている訳ではない。飽くまでも思考の方向性を少し誘導しただけ。元々、ザフトの彼らはオルフェ達と同じ人物を標的としていた。それをただ、ほんの少しだけ、
「
「─────ッ」
鋭くオルフェに睨まれたグリフィンが、忌々し気に歯を噛み締めながら顔を逸らす。
とある科学者の下でコーディネイターをも超える存在として産まれ、家族として育ってきたアコード─────オルフェとグリフィンもその例外ではないが、今の彼らに流れる空気はそうとは思えない程に剣呑としていた。その理由を語るには、少し時を遡って話をしなければならない。
あれはもう一か月以上も前になる。ブレイク・ザ・ワールド─────ユニウスセブン落下事件の裏に、彼らアコードは関わっていた。地球滅亡等は望んでいない。しかし同時に、地球に蔓延る愚か者共をある程度間引く為にも、ユニウスセブンに利用価値を感じていた。
ナチュラルへの憎悪を爛々と燃やし続ける、パトリック・ザラの信奉者らを煽り、技術を提供する事でユニウスセブンの軌道をずらさせる。バカ共は自らが利用されている事にすら気付かず、まんまと誘いに乗ってくれた。しかし同時に、いち早くこちらの動きを悟った者達がいた。その者らの動きを妨害し、計画を間に合わせ、そして最後はアコード自らが邪魔者の排除に向かう事となった。時が来るまでは決して表舞台には上がらないという方針を曲げて、
相手は一小隊。しかも出撃できる人数はたったの二人。何の苦労もなく一蹴できるという算段は、その二人によって覆された。選ばれた存在である筈のアコード達は敗走を余儀なくされたのだ。モビルスーツ戦では完膚なきまでに敗れ、頼みの精神感応も何故か通じず─────戻って来たグリフィン達から、
一度でも敗北を刻まれるなど、本来は許されない事。それをまた繰り返すなど、最早彼らにとっては死にも等しい。特に今回の作戦は、汚らわしい悪漢の手から大切な姫を取り返す為の重要なもの。オルフェの我慢は限界に近付きつつあった。彼女があんな汚らわしい所にいるなど、堪えられなかった。
「…もう邪魔する者はいない」
忌々しい、散々こちらの邪魔をし続けた奴らも間に合いはしまい。オルフェは自身の右手中指に嵌められた金色の指輪を眺める。─────指輪は何の反応も示さない。ある程度距離は開いているとはいえ、指輪を通して
「すぐに貴女をお助けする。…私の声に応えてくれ、
オルフェの呟きは、艦橋の中で響き、消えていく。彼の中に返って来る応えは未だなかった。
「─────ん…」
まだ夜が更け、空の月が地上を見下ろす時刻。マルキオと共に過ごした家を失くした子供達をキラと一緒に寝付かせ、共に眠りに着いていたラクスは、一人ゆっくりと身を起こす。
「─────誰?」
「…」
何故だろう。知らない筈なのに、自分の内から湧き上がってくるような呼び掛けは身を預けたくなる程に甘美に聞こえる。まるで細胞の一つ一つが、その声の主を求めているかのようだった。だが、ラクスはその甘美な誘惑を振り払う。彼女の心を占める一人の少年が─────ユウが、ラクス・クラインを招き入れんとする誘惑から引き剥がしたのだ。
先程の感覚について気にはなるが、今の自分にはまるで関係のない事だ。ラクス・クラインの居場所はここで愛する人を、キラと一緒に待つのだと他でもない彼女が決めている。だから、
貴方とは一体誰の事を指しているのか、ラクス自身にもそれは分からない。何故か、それをどことも知れない誰かに、自分に呼び掛ける誰かに答えなくてはならない気がした。
─────足音…?
まだ夜明けは遠い時刻。謎の声の事を忘れて再び眠りに着こうとしたラクスは、先程の様な感覚ではなく、今度はちゃんと耳に届く音を聞いた。それは何者かが急ぎ足でこちらへ近付いてくる音であり、その音はラクス達が眠る寝室の前で止まり、かと思えばその直後、部屋の扉が静かに開かれた。
「─────マリューさん、ムウさん。マユも…、そんなに慌ててどうかされたのですか?」
「ラクスさん…、起きていたのね」
「マリュー。…ラクス、キラを起こしてくれ。マユは子供達を─────」
扉から中へと入って来たのは三人─────マリュー、ムウ、マユだった。三人ともすでに起きていたラクスの姿を見て目を見開いて驚いた様子を見せていたが、最初に気を取り直したムウの呼び掛けで我に返った二人が動き出す。「はい」、と返事をしたマユが子供達が眠る方へと足を向け、まだ何が起こっているのか詳細を知らずとも、只事ではないと察したラクスがムウの言う通りにキラを起こそうとした─────その時だった。
「っ!」
突如、どこからか鳴り響く連続した銃声。その音で目を覚まし、寝ぼけ眼で起き上がるキラと子供達。詳しく説明をしている時間はなく、とにかく起きるように彼女らへ声を掛ける三人を背景に、ラクスはようやくこの場所が襲撃されているのだと悟った。
夜中、スリープモードとなったハロが朝を待たずに動き出し、警告の音声を鳴らす。それは邸外に張り巡らされた警報装置が作動した事を知らせるものだった。
同じ寝室で眠っていたバルトフェルドとアイシャは弾かれる様に跳ね起きて、二人して拳銃を掴み素早く廊下に飛び出す。ほぼ同時に隣室のドアから姿を現したムウとマリューに、ラクスとキラ達の事を任せて、二人は階下へと駆け下りた。窓際の壁に身を寄せて、アイシャを背後に隠しながらそっと窓の外を窺う。
「っ─────!」
一瞬外を横切る影。それを見留めたと同時、バルトフェルドは銃を向けて引き金を引いた。銃声とガラスの割れる音が響き渡る中、自身の銃弾によって倒れる影を見遣る。それは、サイレンサー付きライフルで武装した男だった。
「アンディ!」
「チィッ!」
バルトフェルドの背後で外の様子を見張っていたアイシャが声を上げる。それと同時にバルトフェルドは身を屈め、窓の下へと身を隠す。その直後、彼の頭上を銃弾が通り抜けていった。彼らの背後の壁に複数の銃弾がめり込む。振り返ったバルトフェルドは、壁にめり込んだ弾丸の射角を見て即座に先程撃ったのは二人以上だと断定する。
誰が?目的は?分からないが恐らく、高々数人による犯行ではない。建物の裏にも回り込んでいるだろう。一瞬見えた装備といい、プロの組織的な襲撃だ。そんな厄介な奴らに目をつけられるような覚えは─────あるのだから困ったものだ。内心呆れながらも、冷静な思考を回してアイシャと共にダイニングへと駆け込む。
彼らを追って窓ガラスを破って銃弾が飛び込んでくる。それらをやり過ごしてからバルトフェルドはセンターテーブルを跳ね上げ、その陰に姿を隠して撃ち返す。アイシャもカウンターキッチンの陰から、銃を向ける。二人して銃を撃ち放ち、彼ら側からの侵入を少しでも食い止めんとする─────が、程なくして邸内からも散発的に銃声が届き始める。すでに反対側から内部に侵入されているのだ。
「アイシャ」
「えぇ」
銃撃の音が響く中、二人は掛け合う声は短く、アイコンタクトでタイミングを見計らい背後のドアから廊下へと逃れる。
こうなっては時間稼ぎも意味はない。いち早くラクス達の元へ向かったムウらと合流し、
だからといって安心できる材料などなく、むしろどの程度の人数に襲撃されているか分からない以上心配は募るばかりだ。上階へと急ごうと足を逸らす。バルトフェルドよりも先に、物陰に隠れた一人の襲撃者の存在に気付いたのはアイシャだった。
白く光る刃がバルトフェルドへと突き立てられるよりも先に、鋭く蹴り上げられるアイシャの右脚。ナイフを握る襲撃者の右手を狙ったアイシャの蹴撃は、命中する前に襲撃者が持ち上げた左腕によって防がれてしまう。
「─────っ!」
その光景にバルトフェルドはある違和感を覚えながらも、自身に飛び掛かろうとした襲撃者へ向けて銃口を向ける。引き金を引いたと同時に鳴り響いた銃声─────目の前で頭を傾け、銃弾を回避した襲撃者に今度こそ彼は驚愕を隠せなかった。それと同時にバルトフェルドは一つの確信を持つ。こいつは─────この襲撃者達は。
凄まじい反応でアイシャ、続けてバルトフェルドの追撃を避けてみせた襲撃者だったが、一対二の数の不利を覆すまでには至らなかった。バルトフェルドの放った弾丸が躱された直後、再びアイシャの蹴りが襲撃者を襲い、今度は躱し切る事が出来ず首元へ強烈な一撃を喰らう。堪らずよろけた襲撃者へと再びバルトフェルドが銃口を向け、襲撃者は銃弾を受けて斃れる事となった。
「アンディ、この人達─────」
「あぁ…。アイシャも気付いたか」
絶命して倒れ込んだ襲撃者を見下ろしながら、二人で話し合う。先程の攻防を通して、どうやらアイシャも気付いたらしい。この襲撃者達の正体─────当初はオーブ、或いはブルーコスモスの類がこちらの素性を知って襲って来たのかと考えていた。オーブは一枚岩ではなく、カガリに反発して大西洋連邦との繋がりを持とうとする閣僚は多い。そういった輩にとって、自分達はさぞ目障りな存在だろう。故に、自分達を消す為に闇に潜んで動き出したのかと思っていたのだが─────。
『目標は子供と共にエリアEへ移動』
二人が上階へと急ごうとした時だった。微かに聞こえたノイズ混じりの声を耳にして、二人は同時に立ち止まる。その声は倒れた襲撃者の方から発せられていた。耳から外れたイヤホンから、送られてきた通信が漏れているのだ。
『武器は持っていない。護衛はたったの二人だ。手早く
目標とは一体誰の事なのか。そして確保、つまりこの襲撃者達の目的はこの屋敷にいる誰かを、生きて捕らえる事が目的だというのか。…殺すのではなく?一体何の為に?
疑問は多々あるが、それよりも向こうが心配だ。先程の二対一の攻防で見せた、襲撃者の凄まじい反射速度────恐らく奴らは
「窓から離れて!シェルターへ急いで!」
拳銃を構えたマリューが指示し、寝ぼけ眼の子供達を連れたラクスとキラをマユが先導する。ムウは警戒しながら殿につき、マリューと共に彼らの後から続く。ムウも正式な軍人であり、専門はパイロットでありながらも一通り銃の扱いについて訓練を受けている身だ。しかし人には向き不向きというものがあり、残念な事に銃という分野に於いてムウは後者だった。逆に技術者が本来専門である筈のマリューは前者であり、むしろムウよりも彼女の方がこの場の中で冷静を強く保っていた。
不意に一つのドアが荒々しく開かれる。直後、一番後方を警戒していたマリューが素早く角から飛び込む。銃声が鳴り、銃弾が空を切って壁を貫く。子供達の悲鳴と鳴き声が上がり、キラとラクスが宥めながら足を進めていく。
角を曲がったムウ達を急ぎ追う襲撃者が姿を現した途端、壁に身を寄せていたマリューが足を振り上げる。襲撃者の顔へとマリューの蹴りが突き刺さり、よろめいて倒れかけた男へとムウが容赦なく銃弾を放つ。
「ムウさん!マリューさん!」
「こっちは大丈夫だ!いいからキラ達を!」
先頭を歩くマユが心配して顔を覗かせるのを、ムウが声を発して留まらせる。それと同時にマリューが再び銃を発射。二人は全員が再び角を曲がったのを確認してから踵を返す。背後から聞こえて来る足音─────ムウは不意に背筋に奔った冷たい感覚に急かされ、隣を走っていたマリューを片腕で抱いて前方へと転がり込む。
直後に発砲された敵の弾丸が二人の頭上を通り抜け、廊下と壁に突き刺さる。ムウとマリューはすぐさまマユ達が駆け込んだ角へと身を隠し、二人して牽制の射撃を始める。彼らの背後、廊下の突き当りでは子供達と一緒にこの邸宅に泊まり込んでいたマルキオが、壁のパネルにパスワードを入力していた。絶え間なく鳴り響く銃声に怯え、泣きじゃくる子供達をキラとラクスが引き寄せ、宥める。彼らの前ではマユがいつでも銃を発砲できる心構えをしながら立ちはだかっていた。
少しして、マルキオの入力作業が終わり重いドアがスライドする。その直後、反対側のドアが開いた。マユが一瞬銃を持ち上げるが、そこから現れたのは階下で敵の足止めをしていたバルトフェルド達だった。
「急げ!かなりの数だ!」
バルトフェルドがキラ達を押しやり、アイシャが角にいるマリューの応援へと向かう。マユがキラ、ラクスと一緒に子供達を抱えながらシェルターの中へと入ろうとする。
「─────キラ!」
突如、声を張り上げたラクスに驚きマユはキラと共に思わず足を止める。その時にはすでに、ラクスは両手を広げてまるで何かからキラを守ろうとするかのように、彼女の前へと躍り出ていた。
一体何が─────警戒を強めながらマユが、ラクスが見上げる先へと視線を向ける。そこにあったのは天井近くの換気口だ。その中で、禍々しい銃口を構えた襲撃者が微かに動いている。
「ぁ─────」
撃たなければ。心の中で駆られるも、引き金に掛けられた指をマユは動かす事が出来なかった。その躊躇いの間に、彼女とは別の所から発砲音が鳴る。マユから僅かに遅れて換気口の中に潜む襲撃者に気付いた、バルトフェルドが発砲したのだ。
マユの目の前で銃弾に貫かれ、人間が絶命する。傷口から流れ出る真っ赤な血を唖然としながら見つめるマユの手をバルトフェルドが引き、シェルターへと駆け込む。二人とほぼ同時にキラ、ラクス、マルキオが子供達を引き連れてシェルターの中へ、そして程なくして敵の牽制を行っていたムウ達も逃げ込んで来た。最後にシェルターへと入ったムウが扉を閉め、ロックされたのを確認するとようやく銃撃の音が止んで静寂が訪れる。
「マリュー!」
「…大丈夫。ちょっと気が抜けただけだから」
一先ずの身の安全を確保できた事で力が抜けたのだろう。座り込んだマリューに怪我があったのかと心配したムウが彼女へ寄り添う。
「…コーディネイターよね」
「あぁ。それも、素人じゃない。ちゃんと戦闘訓練を受けてる連中だ」
二人の頭上では、アイシャとバルトフェルドが先程の襲撃者の正体について話していた。その声を聞いたマユが目を見開き、二人の会話に割り込む。
「ザフト軍って事ですか!?」
「でも、一体何が狙いで…」
驚きの声を上げるマユに続いて、キラが静かに疑問を挙げる。彼女らに答えたのは、バルトフェルドだった。
「狙いか…。それだがな、偶然通信を聞いたんだが、奴らは俺達の中の誰かを
「確保…?」
確保、つまり生きて捕らえる─────あれだけ容赦なく銃撃戦を仕掛けておいて、そんな事を言われても誰も信じる事など出来やしなかった。むしろ、この場にいる全員を皆殺しにするつもりだったと聞かされた方がよほど納得できる。
仮にバルトフェルドの言った事が本当だとして、ならば襲撃者達が生きて捕らえようとしている人物とは誰なのか─────ふと、マユの頭の中で何かが引っ掛かった。殿を務めていたムウとマリューには容赦なく銃弾が撃ち注がれ、そして先程はシェルターの中に入ろうとしたキラにも襲撃者の銃口が向けられた。しかし、キラに向けられた銃口は弾丸を放つ事はなく、その襲撃者はバルトフェルドの銃弾によって死に絶えた。
何故…何故あの襲撃者は引き金を引かなかった?護衛の役目だったマユ達の誰にも気付かれず、他の者達は丸腰だったにも関わらず。ただの民間人だと思ったのか?いや、違う。あの時、キラが撃たれようとした時、そこに立ちはだかった人がいたからだ。それは─────
「皆さん」
軽やかな声が掛けられる。全員が振り返った先には、頼りなげな表情を浮かべてラクスが立っていた。
「…狙われたのは、わたくしです」
小さな声で、ラクスは誰もが引っかかっていた疑問の答えを示したのだった。