~前回のあらすじ~
オルフェ「ラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクラインラクスクライン」
ラクス「え、無理」
ラクスの言葉に対する反応はそれぞれだった。バルトフェルドとアイシャ、マユはどこか納得がいった風に。キラ、ムウ、マリューの反応は彼らとは対照的だった。
「狙いがラクスさんって…、どういう事なの?」
マリューが一歩前に出て口を開く。傍らにいたムウも頷きながら、彼女と同じ事を聞きた気だった。
その問いに答えたのはバルトフェルドだ。
「理由までは分からんがな。…ここへ入る直前、俺とアイシャが襲撃者を撃ったろ。奴はラクスがキラを守ろうと飛び込んだ時、
ラクスの推測を裏付ける根拠は、つい先程の出来事─────換気口に身を潜めた襲撃者から、彼女がキラを庇おうとした時だ。それまで襲撃者達はバルトフェルドにもアイシャにも、ムウやマリューにも容赦なく銃弾を撃ち注ぎ、更にキラにまでその銃口を向けた。にも関わらず、ラクスに対しては引き金を引かなかった。ラクスを撃ち殺すには充分な時間があったのに。
そしてバルトフェルドが耳にした通信─────
「なんで…、ラクスが狙われるの?」
「さぁな。プラントへ連れ戻そうとしているのか、或いは別の理由か。とにかく、奴らが諦めるまでシェルターの中で─────」
キラの問い掛けへの返答をバルトフェルドが最後まで口にする前に、突然響き渡る轟音と床を跳ね上げる様な揺れによって言葉は閉ざされる。照明が明滅する天井を見上げながら何事かと皆が驚き戸惑う中、一人ムウが震動で倒れかけたマリューを支えながら口を開く。
「まさか…、奴らモビルスーツを持ち出しやがったのか!?」
「チッ─────、何が何機いるか分からないが、火力のありったけで狙われたら、ここも長くは保たないぞ!」
彼らが身を寄せるこのシェルターはライフル弾は勿論、工作隊の用いる爆破装置程度ではびくともしない強度を誇り、ドアの開閉システムも外からは完全に独立している。だがそれらによる物とは到底思えない、この強烈な震動─────何に狙われ、何を向けられているのか。
奥の扉を開け、全員で駆け込む。扉が閉まる直前、つい数秒まで彼らが立っていた空間が爆発に呑み込まれる。微かに開いた隙間から風が吹き込むが大事には至らず、扉は吹き飛んだ場所とこの場を塞ぐ。
「…ムウ。キラに
「え?」
この場に留まっても逃げる場所はなく、やがて先程の一つ目のシェルターの様に吹き飛ばされる。かといってここから抜け出してもただ寿命を縮めるだけだ。八方塞がりな状況に焦りを恐怖を感じる中で、キラは不意に聞こえて来た自身の名に思考が一瞬白く染まった。
彼女の名前を口にしたバルトフェルドと、彼に何かを問われたムウ。二人共険しい顔つきで、まるで睨み合う形で向かい合っていた。
「何でそれを俺に聞くんだよ」
「今この中では、君に尋ねるべきだと思ったのでね。…ここで皆大人しく死んでやるかね?」
「…」
静かな口調なのに、どこか荒々しく聞こえるムウの口調。再びバルトフェルドに問われた彼は、やがて視線を逸らし、悔し気に唇を噛み締めながらおずおずと頷いた。
「ラクス!」
「バルトフェルドさん…」
「
真っ直ぐ見据えられたラクスがハッとした表情で、連れて来ていたピンクのハロを抱き締める。
鍵と、扉─────彼らの言葉の意味を計りかねていたキラは、今にも泣き出しそうな顔で俯くラクスの顔と、今も悔恨に震えるムウの姿を見て事態を悟った。
「っ─────!」
勢いよく背後に振り返る。彼女の目の前には巨大な扉が聳え立っていた。
ずっとこの扉が何なのか、この奥に何があるのかを知らないでいたキラ。だが、他の人達は知っていたのだ。この向こうに何があるのか─────この窮地を脱する剣がある事を。
「ラクスさん…。私が行きます」
「っ、マユさん─────!」
「それをキラさんに託すのが不安なら…、私がやります。私は軍人です。覚悟も…、あります!」
躊躇うラクスを見て、手を伸ばす者がいた。─────マユだった。キラよりも年若く、本来ならば決して血の多く流れる世界に足を踏み入れるべきではない少女が、自分の前に立って、自分達を守る為に銃を握ろうとしている。
マユだけじゃない。扉の奥にある存在を知らず、キラが今の今まで過ごしていられたのは、周囲の皆が心から思い遣ってくれていたからだ。キラはずっと、この人達に守られてきた─────傷ついているのは皆も同じ筈なのに。
「─────キラさん…?」
「キラ…」
そして今、また自分は守られようとしている。同じ傷ついている人に、自分より幼い少女に押し付ける形で─────それだけは嫌だ。皆が守ってくれたように、キラもまた彼らを守りたい。その思いは強く、キラの中にあった躊躇いを打ち消していった。
「マユちゃんはここに残って。…
「キラ…っ」
「今までごめんね、ラクス」
悲し気に目を見開くラクスに微笑みかけて、キラはまずは謝った。ずっと心配を掛け続けていた。同じく傷つき、心を癒す時間が必要なラクスに気遣われ続けた。一緒だと言ったのに、共に同じ人を並んで支えるのだと誓い合ったのに─────気付けば自分は、隣り合うべき人に守られ続けていた。
「でも、私は大丈夫。…これからまた、君の隣で歩くから」
「っ…!」
静かに、だが決然と告げるキラ。微かに息を呑んでから、ラクスはゆっくりと胸に抱いていたハロを差し出した。小さなロボットの中には、金と銀の鍵が収められていた。不意に横合いから伸びて来た手が銀の鍵を取っていく。キラが振り向いた先に、真っ直ぐと彼女を試すような目線で見つめるムウがいた。
「いいんだな、キラ」
「はい。…もう、守られるだけなのは嫌ですから」
「…そうか」
ムウの問い掛けに毅然と答えるキラ。一言呟いてから、ムウはもうキラの決断に対して何も言う事はなかった。ムウが扉の右のボックスを開き、キラも金の鍵を取って左のボックスへと向かう。ボックスの中央には開錠装置らしき鍵穴があり、キラはそこに鍵を差し込んだ。
「三、二、一─────」
ムウの合図に合わせて、キラは鍵を回す。巨大な扉がゆっくりと開いていき、やがて開き切ったのと同時にライトが灯る。照らし出されたのは巨大な鉄灰色の機体─────ZGMF-X10Aフリーダム。扉の奥で彼女を待ち続けた機体を見つめながら、足を踏み出す。
キラの顔に迷いはない。二度と手に取る事はないと断じた剣を、今再び彼女は掴もうとしていた。
美しかった邸宅は無惨にも焼け、炎と煙が立ち込めている。目標がシェルターに逃げ込み、手持ちの火器では破壊できないと判断した特殊部隊は手段を選ばず、モビルスーツの出撃を決めた。UMF/SSO-3アッシュ─────ザフトが特殊戦支援機として開発した水陸両用のモビルスーツだ。そう、バルトフェルド達が睨んだ通り彼らはザフト所属の部隊だった。
十数機の部隊の中で先頭に立つアッシュを駆る、部隊長のヨップ・フォン・アラファスは邸宅の背後の斜面から露出したシェルターの金属壁を見て、部下へ指示を飛ばす。
「一点を集中して狙え!壁面を突破できればそれで終わる!」
誤算が多かったこの作戦も、もう少しで完遂される。しかしヨップの心にあと少しで終わる、という心のゆとりなどなかった。
今作戦は決して失敗は許されない。とはいえモビルスーツまで持ち出す羽目になるとは思わなかった。この機体が見つかれば、ヨップ達の所属が明らかとなってしまう。これ以上多く時間は掛けられない─────可及的速やかに、彼女を
それこそが、ヨップ達の部隊へ課せられた任務─────
ドロリ、とヨップの瞳の中で
アッシュの火力が集中し、耐え切れずシェルターの金属壁が吹き飛ぶ。ヨップは機体を駆って壁の奥を確認するが、穴の中から更なる隔壁が見えた。シェルターは多重構造になっているらしい。邸宅の広さ的に多くの隔壁は備わっていないだろうが、今の調子で作業を続けた結果に誤って目標までもを吹き飛ばしては堪らない。
「目標を探す!オルアンとクラムニクは─────」
まずは対象の位置の特定を優先しようとしたヨップが部下へ指示を送ろうとする。その背後で不意に自ら達が起こしたものではない爆発音が鳴り響いた。
「な、なんだっ!?」
驚きの声を上げながらモニターを切り替えて、背後の斜面を見遣る。爆発による煙が立ち込める中、それを突き抜けて上空へと舞い上がる蒼い影。明るみ始めた空を背にして、白く輝く巨体が十枚の翼を広げてヨップ達を見下ろしていた。
『あれは…、フリーダム!?』
隊員の一人が驚愕の声でその名前を口にした。ZGMF-X10Aフリーダム─────第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦にて、恐るべき力を発揮したザフト機とされている。当時の戦いを知らない者達も多く所属し始めている現在の軍内では、最早空想の産物とさえ見なされ始めているモビルスーツが今、自身の目の前に存在している。
余りにも突然に、そして余りにも予想外の事態に愕然とするヨップ達の眼前から、フリーダムがビームサーベルを抜き放って迫る。驚愕によって生じる反応の空白、瞬く間に駆け抜けたフリーダムは一機のアッシュの手足を斬り飛ばす。通信を通して聞こえて来たパイロットの悲鳴が、ヨップ達の意識を取り戻させた。
「う、撃てっ!撃ち落とせぇッ!」
慌てて指示を飛ばすヨップ。部下達と共に両手を翳してビームを放つ。十数機によって放たれる弾幕は常人であればあっという間に蜂の巣になっているであろう程に激しく、アッシュの火力も先代機であるグーンやゾノと比べて格段に上がっている。が、フリーダムは軽やかに飛び回り、体勢を入れ替えながら弾幕の合間を縫って逃れていく。
軍内で囁かれている伝説─────
「そんな…バカなぁッ!?」
ただの誇張された逸話だと高を括っていたヨップに、それは全て掛け値なしの事実だったと突きつけるように、フリーダムは凄まじい速度で動きながら、五つの砲口を地上のモビルスーツ隊へと向けた。
再びフリーダムに乗るにあたって気掛かりだった、二年というブランク。しかしそれを感じさせない鮮やかな動きをキラは披露していた。地上から放たれるアッシュによる一斉砲火を躱し、バラエーナとクスィフィアスを展開。そしてルプスビームライフルを取り出し、計五門を同時に斉射する。
砲火は全て機体の四肢、或いは武装を正確に貫いていく。前大戦途中からキラが貫き続けた不殺の意思は変わらず、この場でもそれを彼女は曲げない。どんな事があっても、殺さない─────相手が生きられる可能性がほんの少しでもあるのならば、キラはそれを選び続ける。それがどれだけ傲慢で不遜であったとしても、戦いの根本である憎しみの連鎖を止める切っ掛けになるのなら。
ビームライフルでまた一機、片手を撃ち抜いてからスラスターを吹かして前進。ビームサーベルでもう一方の腕と、傍らに立っていたアッシュの両脚を斬り払って距離を取って旋回─────素早く敵の位置を特定し、再びフルバースト。戦闘開始からまだ五分も経たず、十数機いたアッシュは残り一機となっていた。
残ったアッシュの背面のポッドが開き、ミサイルが放たれる。キラはそれを充分に引き付けてから、機体を急速に旋回させる。自動追尾のミサイルはこのフリーダムの動きについていく事ができず、明後日の方向へと飛んで行き、斜面や海面へと着弾していく。
その勢いのままキラは敵機へと突っ込んでいき、懐へ飛び込んでビームサーベルを振り上げる。アッシュの片腕が斬り飛ばされ、大きく宙を舞う。その軌跡を追う事なく、キラの目線は眼前の敵の動きに注がれていた。アッシュは残った片腕を伸ばし、巨大な鉤爪からビーム刃を出力させてフリーダムへと襲い掛かる。機体が損傷し、普通ならば追撃を恐れて後退する所、思い切って前進を選択してきた。しかしそれも、キラの不意を突くには敵わない。彼女はそれをいなすと、シールドで敵機を掬い上げるようにして背後へと投げつける。
背中から地面に叩きつけられたアッシュはすぐに体勢を立て直そうとするも、その前にキラはサーベルをマウントしライフルへと持ち替えていた。トリガーに掛けられていた彼女の白く細い指が引かれ、放たれた光条が残ったアッシュの片腕を貫く。
これで両腕を失ったアッシュだが、尚も抵抗の動きを見せる。それに対してキラは無造作にビームを撃ち続ける。ミサイルポッドを、両脚部を、次々と撃ち抜かれたアッシュはずんぐりとした丸い造形のせいかまるでボールの如く地面へと転がる。
「─────」
同様に武装解除されて転がった機体達の中心で、キラはフリーダムの武装を下ろしながら息を吐いた。戦闘は終わり、後は襲撃犯達をオーブ軍へ引き渡すだけだ。素直に所属や目的を吐くかどうかは分からないし、この戦闘の後始末についても大変だろうが、その辺はカガリ達に任せるしかない。色々と文句は言われそうだが、何だかんだ世話を焼いてくれる自称姉をキラは信じていた。こんな信じ方をされても嬉しくないと、カガリは間違いなく憤慨するだろうが─────、
「え…?」
その時、最後に撃破した機体が爆発を起こした。更にそれに続くように、周囲に倒れていた機体も次々と爆発していく。
動力系には損傷を与えていない筈なのに何故、と考えたキラはそう時間を置かずに事態を悟る。たった今、自分でも考えたではないか。これから彼らをオーブ軍に引き渡すと─────それが許されない立場にいて、永遠に真実を闇に葬る選択を取った。機体の自爆装置を作動させ、自らの命と共に。
「…っ」
やり切れない思いで目を落とすキラ。だが実質彼らを手に掛けた自身が気を病む資格などありはしない。本来命のやり取りをする場である戦いの中で、キラが行っている不殺とはただの欺瞞なのだ。勝った者が生き残り、敗れた者が死ぬ─────戦いの自然な流れを前にそれでも、キラは苦い思いを止める事はできなかった。
頭を振って思考を切り替える。炎に包まれた周囲の向こう側、邸宅があった崖の上で複数の人影が確認できた。戦闘音が止み、キラを心配してシェルターから出て来たラクス達が佇むフリーダムを見つめていた。
「…戻ろう」
とにもかくにも危機は一旦去ったのだ。ムウ達とも話し合わなければならない事もあるし、この件についてカガリ達に伝えなければならない。そう思い、キラが機体を降りようとコックピットハッチを開こうとした、その時だった。
─────よくも、邪魔を。
「っ─────!」
毒々しいまでに憎悪が満ちた声。全身に奔る悪寒に身を震わせながら、キラは無意識に目を海の方へと向けた。
水平線から顔を出した太陽に色づかれた海面が、ただ穏やかに揺れているだけ。たった今、キラを身震いさせた感覚が嘘のように和やかな景色が広がっていた。
「なん、なの…?」
一瞬にして走り抜けた悪寒はもう感じない。新手が来たと直感したが、敵影はまるで見えないし、気配も感じない。なら、一体あの感覚は何だったというのか?
どれだけ待っても、視線の先の海はただ波に揺れるだけ。彼らは何も感じなかったのか、ムウ達がいつまでも降りようとしないキラを心配して機体の足下へ集まり始めている。─────ただ一人、キラと同じように海を見つめている
また一つ、話し合わなければならない事が増えた。特に、ラクスとは─────。雲がかった晴れない心を胸に、キラは今度こそコックピットハッチを開き、彼女を待つ仲間達の元へと降りていくのだった。
オーブの近海に身を潜めている彼らの元へ、作戦の失敗は知る所となっていた。工作部隊に潜ませていた一人の部下から入った報がオペレーターによって読み上げられ、みるみる苛立ちに顔を歪ませたオルフェが拳を勢いよく肘置きへと振り下ろされる。
「フリーダム─────、キラ・ヤマトか…!」
部隊のモビルスーツを一掃したモビルスーツがフリーダムと知り、オルフェは自身の計画を邪魔した愚か者が誰なのかを即座に特定する。
「アコードに成り損なった失敗作が…ッ!」
吐き捨てるように怒声を放ったオルフェは勢いよく立ち上がって口を開く。
「出撃する!グリフィン、お前も来い!」
「おい…、だがあれで出ればオーブ軍に見つかるぞ!?」
「そんなもの、我らならどうとでもなる!それとも、あの失敗作を処理するのにそこまで手古摺るとでも?」
手を伸ばせば届く所に、我らが姫がいる。だというのに、この期に及んで腰を引くグリフィンに苛立ちを隠さず、再び怒声を放つオルフェ。内心納得はしていないが、オルフェの言う事に理を覚えたのか、それ以上は何も言わず彼に続こうとするグリフィン。
『オルフェ。撤退じゃ』
艦橋に女性の声が響いたのはその時だった。艦橋の扉の前に立ったオルフェもグリフィンも、聞こえて来た声に目を見開きながら足を止めて振り返る。モニターには映像は映らず、音声のみの通信。だが二人にとっては聞き間違えようがなく、彼らの行動を止めるには絶対の効果を持つ声であった。
「は、
オルフェが声を震わせながら声の主を呼ぶ。彼から母と呼ばれた声の主は、淡々と彼らに呼び掛ける。
『作戦は失敗したのじゃろう。ならすぐに退け。これ以上の戦闘行為は認めん』
「な、何故です母上!確かに作戦は失敗です!ですが、相手の戦力はフリーダム一機!私とグリフィンで手早く処理すれば─────」
『オルフェ…、気付いておらぬのか?主らの動き、気取られていたようじゃぞ』
「母上、一体何を─────っ」
声の主の言葉の意味を読み取れず、喰い下がろうとした時─────彼は感じ取った。こちらに近付いてくる気配。強烈なプレッシャー。激しい怒り─────気配の正体を悟った時、オルフェは先程以上の憤怒を燃え上がらせ、表情を染めた。目尻が吊り上がり、白い歯が剥き出しに、端正な顔が徐々に歪んでいく。そして、オルフェは忌々しい名前を低い声で口にした。
「
「嘘だろオイ…。もう追いついて来たってのかよ!?」
作戦中、
奴らは正規軍ではなく、謂わばテロリストのようなもの。何かしらの航路を確保していたとしても、オーブに辿り着くまでにはラクス・クラインの誘導、そして逃亡は果たせるだろうと、そう考えていたのだが──────その予測はあっさりと覆されてしまった。
「ならばッ!これは奴を排除する絶好の機会です、母上!我らに出撃許可を─────『止めろ』─────D…!」
だがこれは好機とも考えられた。オルフェ達の計画の最大の障害ともいえるユウ・ラ・フラガを、今この場で仕留める絶好の機会だと。オルフェは声の主へ考え直すよう更に言い募ろとしたが、それを遮る声が流れる。先程までの女性の声ではなく、男性の声だ。その声が流れた途端、オルフェは初めの女性の声が聞こえて来た時とは違い、忌々し気に口を開く。
『母の言う事は素直に聞くものだ。下らん反抗などせず、とっととその場から離れろ』
「黙れ!貴様の命令など受けん!」
『私の、ではない。母の言う事、と言っているだろう?さっきから
「よくも宣う…!貴様が母上を唆したのだな!?Dッ!」
通信に割り込んで来た男、D。このDという男が、オルフェは出会った時から気に入らなかった。オルフェ達を創造した母─────アウラは、我らの理想とする世界に共感した同志と話していたが、彼にはどうもそんな風には思えない。今もそうだが、Dは常に他者を見下している。それはオルフェ達、アコードも含めてだ。優秀である事は認めるが、しかしただのナチュラルが自分達を見下し、あまつさえ命令を下す─────旧人類にあるまじき不遜な態度はオルフェのプライドに常に触れ続けていた。
しかし彼が最も気に掛かっているのは母であるアウラのDに対する態度だった。彼女は自身が生み出したアコードに対して絶対の自負を抱いていた。自らの子供達がゆくゆくは世界を導いていくのだと、愚かな旧人類を註し、理想の世界へと変えていくのだと確信していた。そんな彼女が、Dの態度に対して何も思わない筈がないのだ。だというのに─────、
『オルフェ。聞き分けなさい』
「母上…、何故ですか…?」
Dの傲岸さも、頭の高さも、全てを見逃し母は常にオルフェ達を諫めるようになった。オルフェ達に対する態度が変わった訳ではない。向けられる愛情に翳りが出た訳でもない。それでも、オルフェの心の中で今の母は異物以外の何者でもなかった。
何故Dを註さない?これではまるで、母は自分達ではなく、
『ただでさえのこの騒ぎだ。その上でまた一戦交えるとなれば、いよいよ国防軍が出張って来るぞ。…それともこれから、一国と戦争を始めるか?』
「─────」
言い方も態度も何もかもが気に入らない。だが冷静になって考えてみれば、Dの言う通りであった。油断があったとはいえ、ユウ・ラ・フラガはグリフィンら四人の部隊を退けた相手だ。交戦すれば相応の被害を覚悟しなければならない。それにオーブ軍も出てきた所で物の数でもないが、仮に奴らに見つかれば面倒だ。まだ自分達は表舞台に上がる訳にはいかないのだから。
「…了解。だが後始末はどうする?アッシュの残骸を放って良いのか」
『あの程度ではザフトまで辿り着けても貴様らへは辿り着けまい。それに折角だ…、有効活用させてもらうとしよう』
「…どういう事だ?」
Dの声に微かな笑みが混じっている事に珍しさと怪訝を覚えながら、オルフェが聞き返す。するとDは、少し時間を置いてからゆっくりと、笑みが混じった声のまま続けた。
『いつまでも引き籠り続けようとしている
なんか体調おかしいなと思ったらコロナでした…。もう熱は下がって執筆もできるくらいに調子も戻ったのですが、咳が止まらん。一度出始めたら嗚咽出るまで止まらん。普通に苦しくてヤベーっす。