フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE34 彼らの行く先

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、シン。これもお願い」

 

「…」

 

 また新たな買い物袋を提げて歩いてきたルナマリアから、シンがその袋を何も言わずに─────否、何も言えずにただ黙って受け取る。シンの両腕はすでに様々な店の買い物袋で一杯だった。普段の彼ならば一言二言、ルナマリアへ文句を言っている所だが、今のシンにはそれを口にできないとある事情があった。

 

 二人が今いるこの場所は、カーペンタリア基地内部にあるちょっとした商店街だった。ここには日用雑貨、本やゲームなどのメディア、衣料品などの店が並び、レストランやバーもある。

 オーブを出たミネルバは無事にカーペンタリアへと入港してから、クルー達へと順番にオフの日を設けつつ整備と補給を受けていた。そして今日がシンやルナマリアら年少組にオフが割り当てられた日なのだが、初めシンは一人静かに体を休めようと考えていた。それが何故、ルナマリアと一緒に街へ繰り出し、こんな荷物持ちまでさせられているのかというと─────その答えは、まだオーブへ駐留していた時まで遡って話をしなければならない。

 

 あの日も今日のように、ミネルバクルーの中でも年若い組であったシンやルナマリア、レイやメイリン達にオフが与えられた日だった。その日、シンはルナマリアの本土上陸の誘いを断って艦内で過ごしていたのだが、二年という時を経た故郷の様子が気になっていた。そんな郷愁の念に駆られていた胸中をレイに見抜かれ指摘された事もあり、考えを変えて上陸する事に考えを変えたのだった。

 

 ルナマリアの誘いを断ったにも関わらず、一人で上陸したシン─────誘った本人からすればそれは気を害してしまうだろう。実際、シンの上陸はあっさりと広まってしまい、ルナマリアの耳にもすぐに入った。そしてその後どうなったのかは知っての通り。ルナマリアは臍を曲げてしまい、シンは彼女の機嫌をとるのに一苦労をしたのだが─────その話が今の今まで繋がっているのだ。

 

『シン、ちょっと荷物持ちお願い。あ、拒否権はないから』

 

『いやなんでだよ。俺、今日は部屋でゆっくりするつもりなんだから、行かないよ』

 

『とか言って、どうせ後で一人で外出するつもりなんでしょ』

 

『…』

 

 何も言えなかった。正直、その件に関しては全面的にシン側が悪かったから何の反論もできなかった。ルナマリアは当初、メイリンも一緒に連れて行くつもりだったようだが、「アタシ、空気の読める女なので…」なんて不思議な事を言いながらどこかへ行ってしまった。シンは勿論言葉の意味がさっぱり分からなかったのだが、ルナマリアも首を傾げていたのを見ると彼女も分からなかったらしい。

 

 とにかくメイリン抜きで行こうと話が決まってから、外出準備の途中で同じオフのクルーとも顔を合わせる事があったシン。共に誘いをかけてみたのだが何故か微妙な顔をしながら断られてしまった。聞けばルナマリアの方も同じだったという。─────何故?外出直後はこれらの経緯が不思議で堪らなく、微妙な空気だったのが今となってはルナマリアの上機嫌さに押し流されてすっかり忘れてしまっていた。

 

 荷物は重い。休もうと思っていたのに荷物持ちのせいで体は疲れるし、最悪な日だ。だというのに、この目の前の少女の楽しそうな姿を見ているだけで、出掛けた甲斐があったなんて考えてしまう自分は一体どうしたというのだろう。

 

「…なぁルナ、まだ続くのか?そろそろどっかでご飯でも食べたいんだけど」

 

 そんなシンの疑問は次の瞬間、彼のお腹から鳴った空腹の音で掻き消える。艦を出てから数時間、お昼時を迎えてシンの身体は主へとエネルギーの補給を訴え始めていた。

 

「そうね。もう一通り見て回ったし、何か食べてから帰りましょうか」

 

 基地内であるが故に施設が小規模だった事が幸いした。まだアカデミーの時にルナマリアと買い物へ出掛けた時は、昼食を挟んで朝から夕方までずっと歩き通した事を思い出し、今回はあの時のようにならなかったとシンは心の底から安堵した。

 

 今いる店から出て商店街を並んで歩くシンとルナマリア。視線の先にファストフード店を見つけ、そこにしようと話をしながら歩く二人はどこからかピアノの音がしたのを耳に捉えた。そこまで遠くない位置からの音で、同時に向けた視線の先で見つけた人物に、彼らは思わず顔を見合わせた。

 

 長い指が鍵盤の上を走り、繊細な音を奏でる─────気品のある演奏者の風貌も相まって、神秘的にすら思えるその光景と音色にシンもルナマリアも意識を奪われた。

 

「そういえば、ピアノ演奏が趣味って言ってたっけ。()()

 

 小さく呟いたルナマリアへ頷くシン。暫し絵になる光景に釘付けになっていると、やがて演奏を終えた金髪の少年、レイが一息吐いたかと思えば不意に二人がいる方へと振り向いた。

 思わず二人で一緒に「「あ」」と声を漏らす。レイは驚いた様に目を丸くしながら、立ち尽くすシンとルナマリアと少しの間見つめ合ってから、またいつもの淡白な表情へ戻ると椅子から降りて二人の方へと歩み寄って来る。

 

「趣味が悪いな。声を掛ければいいものを」

 

「いやぁ、邪魔するのもあれかと思ってさ…」

 

 言葉こそ軽い非難の内容であるものの、レイの声からは別段不快感は感じられなかった。とはいえ言われた通り趣味の悪い事をしている自覚はあったシンが、歯切れ悪く答える。

 

「でもびっくりしたわよ、レイ。ホントに上手なんだものっ」

 

「それほどではないさ。俺なんかよりも上手い演奏者など、そこら中にいる」

 

 声を弾ませながらルナマリアが先程の演奏を称え、レイは小さく頭を振って謙遜する。そんな二人のやり取りを眺めていたシンはふと何かを思いつき、レイへと声を掛けた。

 

「なぁレイ。俺達これから昼飯に行くんだけど、レイも来ないか?」

 

 これから自分達がどこに何をしに行こうとしていたのか、レイの見事な演奏に聞き惚れていたせいで忘れかけていた事を思い出し、同時にレイに誘いをかけるシン。ルナマリアもシンの提案を聞いて同感したのか、レイの方へと向きながら微かに眼差しに期待を込める。

 

 するとレイは先程二人と目が合った直後と同じように目を丸くして固まってしまった。

 

「…レイ?あ、もしかしてもうお昼済ませちゃった?」

 

「あぁいや、そうではないんだが…。俺がついて行ってもいいのか?」

 

 すでに昼食を終えており、しかし誘いに断り辛さを感じているのか─────そう勘違いしたルナマリアが尋ねるがレイは昼食はまだだと言う。更にその後、何やら意味が分かりかねる質問をしてきてシンは内心首を傾げた。

 

「そんなのいいに決まってるだろ。何だってそんな事聞くんだよ?」

 

「二人はデートをしているのだろう?それなのに、俺が加わっても良いものかと思ってな」

 

「「─────は?」」

 

 何故そんな事を尋ねるのか、聞き返せばレイは真顔でとんでもなく明後日の返答をしてきた。そのとんでもなさにシンもルナマリアも立ったまま一瞬意識を飛ばし、そして全く同タイミングで呆けた声を漏らした。

 

「「─────い、いやいやいやいやいや!!?」」

 

「何言っちゃってるのレイ!デート!?私がシンと!?何でこの私がこんなお子ちゃまと!」

 

「っ、ハァッ!?おいルナ、誰が子供だってんだよ!俺だってな、こんな横暴女とデートだなんてお断りだッ!」

 

「だ、だぁれが横暴女ですってぇっ!?」

 

 売り言葉に買い言葉─────これがデートである事を否定する筈の言葉がシンへの売り言葉になり、それをシンに買われたルナマリアが振り返る。

 

「…落ち着け二人共。こんな所で喧嘩をするな」

 

「「レイ、だって─────!」」

 

「他の人達の迷惑になる。喧嘩など好きにすればいいが、公衆の面前では止めろ。こっちが恥ずかしい」

 

 ぐうの音も出ないレイからの正論に黙り込むしかないシンとルナマリア。だがふと、シンはとある事を思い出して不満げに唇を尖らせながら小さく呟いた。

 

「何で俺達が怒られなきゃならないんだ…。元はといえば、レイが変な事言い出さなきゃ俺達だって騒がなかったのに」

 

「そーよそーよ。諸悪の根源が偉そうに…」

 

 元を辿ればレイが今回の二人の外出を()()()などと言い出しさえしなければ、こんな事にはならなかったのだ。それをレイは自身の失言を棚に上げて自分達を諫めた─────別に本気で怒りを抱いている訳でもないが、少々納得がいかず、ルナマリアと一緒になってレイには聞こえないよう小さなブーイングを起こす。

 

「何か言ったか?」

 

「「いいえ、何も」」

 

 そんな二人の細やかな抵抗も、レイの一睨みによって封殺されてしまうのだが。

 

「そうか。それよりも早く行くぞ。あの店でランチに行くのではなかったのか?」

 

 レイの視線に背筋を冷やしながら何故か直立不動の体勢になっていたシンとルナマリアは、先を行くレイの後に慌てて続く。

 

「…アカデミー時代はよく二人でデートをしていたと話を聞いていたが、違ったのか」

 

「レイ?何か言った?」

 

「いや、何も」

 

 レイの呟きは商店街の賑やかさに掻き消され、二人の耳に届く事はなかった。その後、三人は他愛もない会話をしながらファストフード店へと入り、昼食を摂る。

 

 その為に三人が入店した直後、彼らの頭上を通り抜けていった()()()()()()()()()がミネルバの方へと向かった事に、この時は誰も気付かなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンが同期の二人とオフを共にしていた頃、ミネルバの艦長室では三人の人物が顔を合わせていた。

 

 一人は艦長であるタリア・グラディス。デスクに着き、手元の命令書に集中しながら目を通している。もう一人はそんなタリアの様子を眺めている、副長のアーサー・トライン。

 

 一通り書類に目を通したタリアは小さく息を吐いた後、命令書と一緒に手渡された固縛を手に取って開ける。中には光り輝く徽章が置かれている─────ザフトにとっては最も名誉のある称号である特務隊、FAITH(フェイス)の徽章だ。

 

「フェイスである貴方に最新鋭機を与えてこの艦に寄越し、私までフェイスにする─────一体何を考えてるのかしらね、議長は?」

 

「申し訳ありませんが、自分にも分かりかねます」

 

 これまでもとんでもない事をしでかしがちだったが、今回のデュランダルの采配は本当に、さしものタリアもその本意がさっぱり掴めなかった。それは目の前にいるデュランダルからの遣いであり、たった今よりミネルバのクルーに仲間入りするこの男もまた同じ様子であった。

 

「別に謝る事でもないけど…。それより、この命令内容について貴方は知ってる?」

 

「いえ。自分は何も聞かされておりません」

 

 タリアに問われた男─────エリートである証の赤服と、襟元にフェイスの徽章を着けた()()()()()()()()()()()()は頭を横に振る。

 

「なかなか面白い内容よ。─────ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへ向かい、現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ」

 

 皮肉っぽい調子で彼女が命令書を読み上げると、アーサーが呆気にとられた顔になる。本当に何も聞かされていないらしいハイネも、大きく目を見開いて驚いた様子を見せた。

 

「スエズの駐留軍支援、ですか?我々が!?」

 

 オーストラリアにいるミネルバが、何故わざわざユーラシア大陸とアフリカ大陸の境界へ出向く必要があるのだろう。そもそも、ジブラルタルへ増援が必要だというならば宇宙から直接下ろす方がよっぽど早い。それをどういうつもりで、それも宇宙艦であるミネルバにその命令を命じるのだろうか?

 

「確かにスエズの地球軍拠点はジブラルタルにとっては問題ですし、ユーラシア西側の紛争もあって複雑なのは分かりますが…」

 

「えぇ。何も私達がここから行かされるようなものでもないと思うわ」

 

 ザフトの主要な基地であるジブラルタルの付近に地球軍の拠点がある、その事自体は大きな問題であるのは頷けるし、現在ユーラシア連邦からの独立を叫んだ地域によって反乱が起きているのも相まって、ハイネの言う通り複雑なのも分かる。

 

 だから、だというのか。話には聞いて得る印象と実際に現場にいる者達が感じているものは当然相違が生まれる。自分には計り知れない、何か厄介な事が起きている─────だからミネルバが向かう事になった。ではその厄介な事とは一体─────。

 

「…考えていても埒が明かないわね。とにかくそれが命令なのだし、その通りにしましょう」

 

「艦長…」

 

「アーサー、すぐにクルー達にこの事について伝えて。その後、彼に艦の案内とクルーの紹介を。シン達も…、オフな所で申し訳ないけれど呼び戻して、顔を合わせてちょうだい」

 

 思考のループにのめり込みそうな所を律して切り替える。命令なのだから、それに従うしかないと。引っ掛かる事はあるが、別に理不尽な事を強要されている訳でもないし、今はその通りにしてみるしかない。実際、スエズの拠点について何とかしなければいけない事に変わりはないのだから。

 

 タリアはアーサーに指示を飛ばし、ハイネと共に艦長室を出て行ったのを見送ってから椅子に背を凭れながら大きく息を吐く。

 

 思考を切り替えたつもりでも、一度覚えた引っ掛かりはなかなか消えてくれない。一体デュランダルは何を考えているのか。自分達に何をしてほしいのか─────この命令の裏に、何かが隠されている様な気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アークエンジェル、出たそうですよ?」

 

「…」

 

「きっとあの二人も乗っているのでしょうねェ。当たり前ですが」

 

「…」

 

「ユウ君、きこえていますか?アークエンジェルがオーブを──「聞こえてますから、何度も言わないでください」…君を引っ張り込んだ僕が言うのもあれですが、こうなるだろうと分かった上でついてきたと思っていたのですが?」

 

「分かってましたよ。それでも割り切り難いものは割り切り難いんですよ」

 

 オーブから離れて翌日、サッバーフの自室でメイドのメテラが淹れたコーヒーを飲んでいたユウは、アズラエルから艦橋へと呼び出されていた。そこで聞かされたのは、アークエンジェルがオーブを出立したというもの。

 

 ユウは頭を抱えた。原作と同じタイミング、自身の不甲斐なさもあり何の流れも変えられていない処かむしろ悪くなっている現状、こうなるのではと覚悟はしていたが─────実際にそうなってしまうとショックが大きい。切り替えなくてはいけないと分かってはいるのだが、もっと自分がしっかりしていればという自責が湧いて来る。

 

 ─────もっとしっかりしていれば、キラとラクスがまた戦う事も…アイツが辛い目に遭う事もなかったんだろうか、なんて。

 

「…ユウ君。分かっていると思いますが、君のせいではないのですよ」

 

 ユウが自身を責めている事を見抜いたアズラエルが静かに声を掛ける。その声にユウは返事をせず、少しの間俯いたままでいた。

 

 艦橋までついてきた傍らのメテラは何も言わず、黙ってユウの姿を見つめるだけ。静かな沈黙が空間を流れるだけの時間が続く。

 

 皆、勘違いをしていた。この状況を憂い、それを生み出したのは自分だと責め、自身を自身で傷つける─────以前までの、二年前のユウならばそうだったかもしれない。しかし今のユウは、自分が一人ではなく、周りの人達に支えられて立っているのだと自覚した今の彼は違った。

 

「まぁ、こうなったのなら仕方ありませんね。これからどうするのか決めちゃいますか」

 

 ふと上がったユウの顔に憂いはなく、傷もなく、アズラエル達が考えていたものとは違う彼の表情がそこにはあった。

 

「…何か?」

 

「いえ…。てっきり、貴方がうじうじし出すと思っていたのでね。皆、驚いているんですよ」

 

「うじうじって…、いや自覚はありますが」

 

 何やらみられていると感じたユウが問い掛ければ、アズラエルから返答が返って来る。その中に含まれた内容にユウは苦笑いを浮かべながら更に答えた。

 

「そんな事してたって何にもならないですからね。それよりも次に何をするべきなのか、考えなきゃいけませんから」

 

「…そうですね。その通りです」

 

 一回り以上年下の友の成長を目の当たりにしたアズラエルが、微かに微笑む。何でもかんでも一人で抱え込んで、今でもその傾向はありつつも以前ほどではない─────それはきっと、ユウの傍でずっと支え続けてくれた人達のお陰なのだろうと、アズラエルはしみじみと思うのだった。

 

「ていうかあいつら、俺の事好きすぎなんですよ。俺が心配で国を飛び出して…、いや、幸せ者ですね─────俺」

 

 何か労いの言葉でも掛けてやろうか、と思っていたアズラエルのなけなしの優しさは次の瞬間のユウの言葉によって掻き消された。何を言い出すかと思えばまさかの幸せ自慢、というかこの状況でする話か、これが。

 

 アズラエルの内心で密かにユウへの殺意が湧いた。

 

「本当に可愛いんですよ、二人。オーブにいた時も──「アー、もうイイですから。それよりもユウ君、先程自分で言った事を忘れないでください」…」

 

 自慢話を続けるユウの話を強引に遮る。まだ話を続けたかったのか、遮られたユウは不満げにしているが構わずアズラエルは話を回す。

 

「アコード部隊はユーラシア方向へ向かったのを見ると、一度ファウンデーションへ戻ろうとしてると見て間違いないでしょう。あそこにいたというDの居場所が分かれば話は早いのですが…」

 

 話はこれからの方針についてへと移る。アコードの行き先がある程度掴めているのは良いとして、彼らにとって最も重要であるDの情報が現時点で皆無に等しい。この中で唯一Dの存在を感じ取れるユウが細い手掛かりとして存在しているが、横目で見遣るアズラエルの視線に対して頭を横に振って答える。

 

「…となれば一度ユーラシアへ向かってアコードの動向を窺うか、或いは─────」

 

 アズラエルは手を口元に当てて考える所作を見せながら言葉を切り、勿体ぶってから告げた。

 

()()()()()()()()()()()()()という手もありますね」

 

 言いながらアズラエルは再び横目でユウへと視線を向ける。ユウは特に動揺した様子もなく、表情を変えないままアズラエルの話に耳を傾けていた。

 

「彼らと合流すればずっと付き纏っていた戦力不足についても解決します。情報収集もターミナルと協力する事ができるようになりますし、かなり楽になる。…僕としてはそちらの方を推したい所です」

 

 アズラエルが提案したアークエンジェルとの合流は、多くのメリットがある。サッバーフにいる出撃可能のパイロットであるユウとメテラだけなのが、キラ、ムウ、バルトフェルドの三人も加えて五人に膨れ上がる。更にラクス直轄の諜報機関であるターミナルとアズラエル一派の連携も可能となり、ユウ達が持つDの情報と照らし合わせれば奴の居場所の特定も、もしかしたら可能かもしれない。

 

 決して悪い提案ではない。むしろ少数で行動を続けるアズラエル達の弱みをほぼ完璧にカバーできる超良案だ。しかしユウは表情を動かさない。あまり気乗りしていない、と感じたのはアズラエルだった。

 

「何か気掛かりでも?」

 

「えぇ、まあ。アークエンジェルと合流すれば、この艦の隠密性が弱くなるのはかなり痛いですから。…後々ならともかく、急ぐ必要性はないと思っています」

 

「…Dがラクス嬢、或いはキラ嬢を狙ってる可能性は?」

 

「それはどうでしょう。本当にラクスの事を狙ってるのならあそこでアコードを退かせる事はなかったでしょう。キラを狙う可能性はありますが…、だとしたらそれらしい動きをD自身がしている筈です」

 

 仮にDがラクスを狙っているのだとすれば、オーブ近辺まで進行していたアコードをあのタイミングで撤退させるだろうか。自身が狙われていると悟られたラクスが行方を晦ませれば、捜索にはかなりの時間を要する。本気でラクスの身柄を確保、或いは暗殺を目論んでいたのなら撤退ではなく戦力を加えて投入し戦闘継続を選ぶだろう。

 

 キラを狙っている可能性はユウ自身も考えていた。フラガの血筋を引いているDはほぼ間違いなくキラ・ヤマトを知っている─────しかしその可能性も低いとユウは判断した。ずっとプラントにいて厳重に守られていたラクスと違い、キラは一般家庭で暮らしていたのだ。ラクスを狙うよりも難易度は格段に下がるし、二年前─────或いはそれ以前から暗躍していたかもしれず、ザフトという組織に所属していたクルーゼとは違い自身で組織を管理し、自由に動けるDが行動に出ない方が不自然だ。

 

「…恐ろしい事を考えますね。二年前の時点でDは君達の事を承知していたと?」

 

「或いはその前から…かもしれませんね」

 

 馬鹿な事を、とユウの話を笑い飛ばす事をアズラエルはできなかった。実際にDを追い続けているからこそ、ユウの話はあり得ると実感できてしまう。そして同時に、それ程闇が深く巨大な敵がいるのだと、アズラエルは薄ら寒さを覚えるのだった。

 

「それなら、これからどうします?ユーラシアへ向かい、アコードを探りますか?」

 

「…アズラエルさん。ミネルバはまだカーペンタリアを出ていないのでしたよね?」

 

「えぇ。ですが、ミネルバが一体どうしたのです?」

 

 しかしアークエンジェルと合流しない方向で動くのならば、これからの目的地をどこに定めるか。やはり先程言った通り、アコードの動向を窺いに行くのが的確かと考えたアズラエルが問い掛けるが、何故かその質問には答えずユウは質問で返答した。

 

 その問いの中にあった一言、ミネルバという名前にアズラエルは微かに眉を上げた。何故その名前を口に出すのか、自身らの行動方針にあの艦が関係あるのか─────その質問にユウは少し間を空けてから答えた。

 

「もしかしたら、()()()がミネルバを追ってるかもしれない」

 

「アイツって…、ユウ君。まさか君は─────」

 

 初め意味を計りかねたユウの呟きの真意に、アズラエルは僅かに遅れて気付く。ミネルバを追う、という表現から導き出されるのはミネルバの敵、つまり地球連合軍。その中で、ミネルバと因縁がある隊─────アズラエルの頭の中で、一つの答えが導き出されたと同時に、ユウは彼もまた頭に浮かべているその少女の名前を口にするのだった。

 

()()()─────アイツが地球に降りて来てるかもしれない。…アズラエルさん。俺はフレイを助けたい…!」

 

 本当によく我が儘を言うようになった。それはただの一個人の望みであり、もっと組織として優先すべき事もある。…が、アズラエルはどうもユウの望みを断つ気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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