フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

172 / 175
PHASE37 地獄の再誕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速で飛び回るインパルスが次々とウィンダムを撃ち抜いていく。当初三十機あったウィンダムも半分以上が撃ち落とされてしまった。

 

「─────」

 

 ネオは胸が軋むのを見ない振りしながら、また別のウィンダムのエンジン部を撃ったインパルスへライフルを向ける。

 

 戦闘当初はバラバラだった部隊の動きも今はネオの指揮の下で統率がとれ、ある程度ここまではネオの思惑通りに進んでいるといっていいだろう。ただ想定外だったのはインパルスの動き─────ネオが妨害を仕掛ける事で逃がしてこそいないが、何度もインパルスはこのウィンダムの包囲から抜け出しミネルバ、或いはたった今カオスと交戦しているグフと合流を試みている。

 

 以前のオーブ沖での戦闘映像に目を通し、インパルスのパイロットは直情型ではないかと予測していたネオだったが、それは外れだったか。確かにオーブ沖でも上手く相手の包囲を利用した立ち回っていたが、最後の艦体に対するあの大立ち回り─────いや、反省は後だ。少しでも油断をすれば包囲をすり抜けられてしまう。そうなれば、これまでの苦労が水の泡となってしまう。

 

 攻勢が一瞬緩んだのを見てインパルスが動き出す。その方向には、激しい戦闘を繰り広げるカオスとグフ─────その前を横切って機体を飛ばして相手の意識をネオの方へと向けさせ、インパルスの動きが鈍った所を狙ってビームライフルを撃つ。

 

 インパルスは完全に足を止めて防御態勢をとる。そしてまた、ウィンダムの包囲が追い着く─────それを繰り返しながら、ネオ達の位置は次第に陸地の方へと近付いていた。正確には、基地の防衛についている()()()の方へと。

 

 互いに位置を入れ替えながらビームを撃ち合う─────気付いた時にはもう、周囲の僚機は全て撃ち落とされており残ったのはネオのウィンダムのみだった。前方に迫る緑の島影へと機体を向ければ、インパルスがついてくる。どうやら仲間との合流よりも指揮官の撃墜を優先してくれたらしい。

 

 背後から射撃を飛行コースを変える事で躱してから、ネオは機体の高度をグッと下げる。海面すれすれまで高度を落としたウィンダムの真後ろにピッタリとつけて、インパルスが追ってくる。それを見てネオは微かに口元に笑みを浮かべた。

 

 ─────今ッ!

 

 心の中でネオが念じた瞬間、インパルスの横合いから黒い機影が飛び込む。海岸から飛び出した四足獣型モビルスーツに反応しきれず、インパルスは海へと突き落とされた。

 

『ネオッ!』

 

「ナイスよステラっ!」

 

 それは基地防衛と謳って待機させていたガイアだった。確かにインパルスの性能はウィンダムと比べて圧倒的に高く、それを上手く引き出すパイロットもまたかなりのものだ。本当ならばカオスとの連携でインパルスを落とすつもりだったのだが、思わぬグフという機体の登場によってそれは断念せざるを得なかった。

 

 だからネオは即座に予定を変更し、カオスではなくガイアとの連携をとる事にした。借りた全てのウィンダムを犠牲にしてしまったが、作戦は成功。一機取り残されたインパルスをフォローしようとグフが近付こうとしているが、それはカオスが押さえている。仮にインパルスが上空へ逃げようとしても、現状手が空いている自分がそうはさせない。

 

「さぁ、ここからが勝負よ─────!」

 

 人型形態へ移行したガイアがビームサーベルを抜き、インパルスへと斬り掛かる。ガイアの打ち込みをいなしながら、インパルスは一瞬上空のウィンダムへと目を向ける。上空へ逃げようとでもしたのか、しかし上空のウィンダムを見てそうはさせて貰えないと悟ったか、インパルスもまたサーベルを抜いてガイアへと応戦する。

 

 二機が接近し、ほぼ密着している為に銃撃による支援はできない。しかし二機の動きを見極め、いつでも支援に動けるように目を光らせる。それと同時にカオスに押さえられているグフも、いつすり抜けてこちらへ向かってくるか分からないのでそちらも一緒に警戒。

 

 インド洋上の激闘は、最終局面を迎えようとしていた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程の衝撃の際に切ったのか、口の中で金臭い味が広がる。それを処理する暇もなく、シンは目の前の敵の存在に気を向けなかった自身の迂闊さを呪いながら、ガイアと斬り結んでいた。

 

 確かにガイアにはカオスの様な大気圏内での飛行能力も、アビスの様な海中の潜航能力も持ち合わせていない。だからこそ、シンの警戒からガイアという機体が無意識に外れてしまっていた。それが敵の狙いだったのかもしれないというのに…!

 

 ウィンダムの大軍が自分を陸地の方へと誘導しようとしている事にシンは気が付いていた。その上で何度も包囲から抜け出し、僚機との合流を計り続けるも、その度に指揮官機と思われる、あの赤紫のウィンダムに邪魔をされていた。しかし敵の連携は甘く、陸地へ導かれながらもシンは敵機を撃ち続け、残りのウィンダムは赤紫色の機体のみとなっていた。

 

 そこまで来れば味方との合流は容易だった。ウィンダムの推力ではインパルスに追い着けはしない。ハイネ、或いは装備を換装して海中のルナマリア、レイの援護へ向かう事も考えたし、そうすべきだったのだ。だがシンは指揮官機の追撃を選んだ─────残ったのがあれ一機だと勘違いし、インパルスのスペックであれば一対一であれを落とせると思い上がり、シンはまんまと罠に嵌ってしまった。

 

 結果、シンにとって思いも寄らないガイアの乱入に遭い、シンは再び一対複数の戦いを強いられる。ガイアとの距離を詰めているからか、ウィンダムからの妨害射撃はない。ガイアの援護をと相手が考えているのなら、シンはこの距離を保つ事を選ぶ。万が一の誤射を嫌っているのなら、ガイアに張り付いてさえいればあの厄介なウィンダムの援護射撃は考えなくて済む。

 

 二機が交錯し、互いの刃が光の尾を引いて空を裂く。指揮官から何か指示があったのか、これまで執拗にインパルスとの接近戦に応じ続けていたガイアが不意にバーニアを噴射して陸に飛び移る。このまま後退を許せばウィンダムの射撃が待っている─────敵の意図を察したシンは思い通りにさせまいと、ガイアに追い縋る。

 

 サーベルを横薙ぎに振るえば、幹を焼き切られた木が倒れ、巨大な足に踏み折られる。ジャングルという地形を物ともせず、生い茂る木々を薙ぎ倒しながらインパルスとガイアが剣戟を打ち合う。シールドで弾き、姿勢を低くして斬撃を掻い潜り、二機は激闘を繰り広げる。

 

 視界で赤紫の機影がチラつくが、ガイアとの密着を保っている限りは心配ない。あちらが接近戦をお望みとあらば話は変わるが、インパルスとウィンダムでは地力の差がありすぎる故にそれはないと断ずる。この時のシンの意識からはウィンダムに対する警戒の割合は殆どゼロに近く、とにかくガイアとの決着を急いでいた。このガイアを撃破、或いは退ける事ができれば仲間達の援護に向かえる。まだウィンダムが残っているが、あれ単機ではインパルスに追い着く事はできない。

 

「っ、なんだ!?」

 

 敵機との一対一に没頭しすぎたシンの耳に突然、装甲を弾く甲高い金属音が飛び込む。目の前でビームサーベルとシールドを構えるガイアでは当然ない。ならば、新手─────そう気付いたシンの背筋が冷やりと悪寒が撫ぜる。上空のウィンダムからの妨害について気に配る余裕もなく、すぐにシンはその場から跳び退いた。

 

 周囲に目を配り、攻撃が来た方を見遣る。そこには機関砲の銃座があり、その砲口をこちらへと向けていた。一瞬唖然としたシンの眼前で、砲口が火を噴き巨大な弾丸が放たれるがVPS装甲に守られた機体には何のダメージもない。衝撃も大した事はなく、シンはその攻撃を無視して改めて周囲を見回した。

 

 よく見ると同じような銃座や対空砲座が木々の間にいくつも設置されている。そして、木の間からチラリと人工物らしき影が覗いた。あれは何なのか─────そちらへ一歩、足を踏み入れようとした時、ガイアが斬り掛かって来た。宙へと飛び、木の上から視界が広がる。そこでシンはようやく、今自分が立っているこの場が何なのかを知った。

 

「基地…?こんな所に!?」

 

 アスファルトで均された地面と、造りかけの滑走路。迷彩色で塗られた格納庫や兵営らしきものがジャングルの中に並んでおり、これが建設途中の地球軍の基地であるのは明白だった。カーペンタリアはこの事を…基地の鼻先で地球連合軍がこんなものを造っている事を知っているのか?いや、知る筈がない。知っていてこれを放って置く筈がない。

 

 すぐにハイネとタリアにこの事を報告しなければ─────焦りに駆られたシンは、テンキーを操作する前にふと建設現場の周囲に張り巡らされたフェンスに視線が引き寄せられた。正確には、その周囲に張りつくように集まった人垣に。

 

「あれは…」

 

 その人達は軍服を着ていなかった。それだけではなく、よくみると女性や子供達だった。そしてフェンスの反対側─────建設現場の掘り返された赤土の合間にも、軍人らしからぬ男達の姿が見える。

 

「民間人…?」

 

 咄嗟にシンの頭に疑念が浮かんでから二、三秒してシンは自分が目にしているものの意味に気付いた。

 

「まさか─────!」

 

 建設作業に従事している男達はどう見ても自ら進んで協力している作業員にはとても見えない。現に彼らは突然現れたインパルスやガイアを恐れるよりも、この混乱に乗じてフェンスの切れ間から逃げ出そうとしていた。フェンスの外側にいる妻子や母親ら指揮人々が、懸命に手を振って男達を差招く。

 

「あ…」

 

 一人の男がフェンスの切れ間を潜ろうとした時だった。何の前触れもなく、赤い雫を撒き散らしながらゆっくりと地面に横たわる。それを皮切りに、同様にフェンスを抜け出ようとしていた他の男達もまた、頭から、或いは胸から、モニター越しにでもハッキリと命が撒き散らされる光景がシンの視界で繰り広げられていた。

 

 女達が天を仰いで叫ぶ。突然、愛する者を理不尽に奪われた者の慟哭─────かつてのシンがそうだったように、嘆く事しか出来ない残された者達の泣き叫ぶ声。先程男達を撃った銃声は全く聞こえて来なかったというのに、その声だけは聞き覚えのある誰かの声と重なってシンの耳に届いていた。

 

「─────ッ!」

 

 カッ、と見開かれたシンの目にはかつての情景が映し出されていた。そこは彼が経験した地獄─────全てを奪われ、焼き尽くされ、そして自分だけが残されたあの日の光景。

 

 あぁ、そうか。この人達の叫び声をどこかで聞いた事があるような気がしたが、それはあの時の自分の─────。

 

 思考も、理性も、シンの中に残された何もかもが塗り潰されていく。今の彼の中にあるのは、地獄を生み出す敵への怒りだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガイアの上空を飛び回り、援護のタイミングを窺っていたネオは眼下に広がる光景に戸惑いを隠せなかった。突然、自身にもガイアにも目もくれず、()()()()()()()()()()を始めたインパルスは手当たり次第に建物へ容赦ない攻撃を加えていく。

 

『あいつ…!』

 

「っ、止めなさいステラ!…撤退するわ。ジョーンズ!」

 

 破壊活動を続けるインパルスを止めようとステラが動こうとするが、ネオがそれを制する。あんな場所でモビルスーツ同士が争えば、付近にいる民間人にも被害が及ぶ。それに、借りたウィンダムは全滅し、ザフトの新型機と交戦しているカオスもエネルギーの方が心許なくなってくる頃だ。無理をして取り返しがなくなっては元も子もない。

 

「スティング、アウル!終了よ、離脱して!」

 

『ハァッ!?何で!』

 

 J.P.ジョーンズから了解の声が返って来た後、次いでネオはスティングとアウルにも通信を繋げて呼び掛けた。しかし、海中でザク二機と対戦中だったアウルからは不満げな返答が返って来た。

 

「借りたウィンダムは全滅しちゃったし、拠点予定地にまで入られたわ」

 

『エェーーッ!?何してんのさ、この間抜け!』

 

「言わないでよ。貴方だって大物は何も落とせてないじゃない?」

 

 口汚く罵ってくるアウルだが、年下の男の子の悪口など可愛いものだ。苦笑混じりにネオが返せば、アウルはムッとした表情になる。まるで一緒にするな、とでも言いたげに。

 

『…なら、やってやるさ!』

 

 アウルはそう言い返すとネオとの通信を切ってしまう。一瞬、何をする気なのかと焦るネオだったが、その答えはそう時間が経たない内に()()()()示される事となる。アウルが通信を切ってから数分と立たない内に、巨大な水柱が上がったのだ。その正体が、アウルによって落とされたボズゴロフ級艦のものだとすぐに悟ったネオは、大きな溜め息を吐きながら機体をジョーンズの方へと向ける。

 

「…帰ったら説教ね」

 

 戦果は上がっているが、そんなもの関係ない。独断行動についてしっかりと、腰を据えてお話をしてやらなければなるまい。そう固く決意をして、ガイアと共に帰艦する。カオスの方も相手を振り切り、追撃もないのを確認できた。

 

 ─────ふと、ネオは振り返る。インパルスは未だ破壊活動を続けている。あの基地に対して思い入れなどないし、むしろ現地人を無理やり働かせる体制に嫌悪感を抱いていたネオだが、しかしその中にも純粋な気持ちを持って兵士となり、体制に対して不満を持ちつつも上に対して物を言う事ができない者達がいる事も知っていた。

 

 無理やり戦場へ引き出し、死なせ、そして敵を招いてあのような事態を引き起こした自分にはそんな資格などないと分かっているが─────せめて一人でも多く、生き残ればいいと思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎が燃えている。目の前に地獄がある。シンは自身を呼び掛ける仲間の声を顧みず、気付きもしないまま暴れ回っていた。遠くの建物はビームライフルで狙い、付近でこちらに向けられる銃座、砲座は胸部のCIWSで撃ち払った後に近くにあった燃料タンクをビームサーベルで斬り落とす。

 

 先程まで交戦していたガイア、ウィンダムの事などすでに頭の中から抜け落ちていた。ただこの基地を、この世界から消してしまおうという衝動に身を任せ、シンは只管に暴れ続ける。

 

 建物が倒れ、砲座が炎に包まれる。それがここに囚われた人達の解放に繋がると信じて疑わないまま、破壊を続けるシンの目に、またしても無力な人達が斃れる光景が映された。今のこの混乱に乗じて逃げ出そうとしたのだろう、しかしそれが兵士に見つかり発砲を受けてしまったのだ。怒りと憎しみが逃げ場を失い、シンの胸の中で荒れ狂う。

 

 機体の足が、撃った兵士達に向けて踏み出す。自分達が狙われているのだと悟った兵士達が、各々恐怖に顔を引き攣らせて反対方向へと駆け出した。時折足を取られながらも必死に逃げる兵士達へ武装を使ってもいいのだが、それでは民間人を巻き込む危険性がある。怒りと憎しみに心を満たされながらも、シンの中ではまだ微かな理性と目的が残っていた。この地獄から、自分と重なる人達を救い出したいという願いが─────。

 

 不意に前を走る兵士達の足が止まり、横合いに視線を向ける。かと思えば、視線を向けた先へと弾かれる様に駆け出して行った。釣られてシンもそちらに目を向ければ、そこには一台の装甲車があった。装甲車には一人の地球軍兵士が乗り込んでおり、必死に腕を大きく振って仲間達を呼んでいる。

 

 シンの狙いがそちらに移る。民間人がいる方とは反対の方向へ行ってくれるのは助かる。お陰で遠慮なく武装を振るえる─────燃え盛る怒りとは裏腹に、凍える程に冷酷な思考がシンの頭を過る。最早、ここにいる地球軍兵士達を殺し尽くす事はこの時のシンの中では決定事項であった。弱い人達を痛めつけて嬲る、そんな奴ら等、生きている価値もない─────!

 

 ビームサーベルを振りかぶる。その時、先に装甲車に乗っていた兵士が銃座へと乗り込んで砲塔をインパルスへと向ける。VPS装甲に守られたインパルスに実体弾は通用しない。その上、弾丸のサイズが小さい機関銃では尚の事、中のパイロットへの影響すらも期待出来やしない。しかし抵抗手段がそれしかない以上、彼らは手元にある武器を撃つしかないのだ。

 

 機関銃を撃ってくるが当然、インパルスへは傷の一つも付きやしない。撃たれているのかと疑いたくなるくらい、コックピットのシンは撃たれた衝撃も何も感じず、こちらを見上げる兵士を冷たく見下ろした。いっそ憐れにすら思える弱者へ向けて、振りかぶったビームサーベルを振り下ろそうとする。

 

「─────」

 

 ─────ふと、銃座に座る兵士と視線が交わった。カメラ越しだ、こちらを狙う兵士にはシンと目が合った事など分かる筈もない。だが、シンはその兵士の怒りに満ちた目がまたしてもどこかの誰かと重なるような気がしてならなかった。

 

 あぁ─────、それは自分だ。理不尽に国を襲われ、家族を奪われ、慟哭を上げて、そして抑え切れない怒りを抱いたかつての自分と同じ目だった。

 

「あ…」

 

 斯くしてようやく、シンは冷静さを取り戻した。そして周囲を見回して、自分がしてきた事を本当の意味で目の当たりにする。

 

「これ…、おれが─────?」

 

 辺りは炎の海だった。建物は瓦礫となって地面に散らばり、遠方で生い茂っていた木々もインパルスの攻撃によって焼き払われている。

 

 それは、かつてシンが体験した()()そのものだった─────。

 

「うっ…ぶっ─────!」

 

 フラッシュバックする記憶と、そして今それを生み出したのが自分であると否応なしに自覚させられたシンは、全身を瞬時に包む冷感と強烈な吐き気に襲われ蹲る。

 

「ハァッ…、ハァッ…!」

 

 何とか嘔吐を耐えるが、寒気と動悸が収まらない。シンは両腕で自身の身体を抱き締めながら、荒い呼吸を必死に鎮めようとする。

 

 ─────駄目だ。これ以上、ここに居ては…だけど、せめて。

 

 シンは帰艦を決断する。すでに基地は壊され、その機能は失われたも同然だ。先程のウィンダムとガイア、カオスも周囲に姿が見えずすでに撤退したと思われる。もう、この場に居続ける意味もない。だけど、せめて。

 

 震えが収まらない手で慎重に機体を動かし、民間人巻き込まないよう注意をしながら夫と妻、子と親を隔てていたフェンスを引き抜いてすぐにシンは機体をその場から離す。そして彼らから充分に離れてから、逃げる様にしてその場から飛び立った。

 

 あれ程までに荒れ狂っていた怒りは完全に消え失せ、代わりに今のシンを満たしていたのは恐怖だった。あの地獄を生み出した自分に対して、そしてそんな自分に向けられる弱い人達の目から逃げ出したくて仕方がなかった。

 

 初め、ただ破壊を尽くしていたインパルスの意図に疑いを持っていた人達は今、引き離されていた大切な人と手を取り、抱き合い、笑い合っていた。見る者の心を温かくさせる光景─────しかし、恐怖に満たされたシンはそれから目を逸らし、ただただ帰艦を急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。