なんか感想欄で腹黒キラちゃんが出来上がってた…。
ちゃうねん。うちのキラちゃんは腹黒ちゃうんやで…?
個室のロックを開けて入ると、中の電気は消えており、設置されたベッドの方から安らかな寝息が聞こえてくる。
…寝ている女の子がいる部屋に忍び込むという、男として決してやっちゃいけない行為を自分がしている現状に何というか、むず痒いというか─────まあでも、キラも一緒だし仮に第三者にバレたとしてもそこら辺の誤解は受けない筈だ。
バレたら俺達の作戦は跡形もなく失敗する訳だが…。
「ラクス、ラクス」
「…ん、ゆう…?」
名前を呼びながらラクスの体を優しく揺すると、ラクスは小さく身動ぎしてから寝ぼけた声を上げながら薄っすらと目を開ける。
…何それ可愛い、じゃなくてっ。
「休んでる所悪いが、ちょっとついてきてくれ」
「お願い、ラクスさん」
「キラさんも…?どこへ行くのですか?」
まだハッキリと目が覚めていないラクスにハロを抱かせてから、まず俺が部屋の扉を開けて外の様子を見る。
周囲に誰もいない事を確認してから中へ合図を送り、続いてラクスの手を引いてキラが出てくる。
俺が先導し、何度も周囲の人の気配を確かめながら歩を進める。
どこへ連れて行かれるのか、ラクスは理解しきれていない様子だが、俺とキラを信じてついてきてくれている。
「お前ら…、何やってんだ?」
途中までは順調だった。
しかし、通路の曲がり角で運悪く、トールと遭遇してしまう。
ここが無重力空間でなければ、足音で誰かいるか判断できたものを─────今更悔いても仕方がない。
原作では確か遭遇するのはサイだった筈だが…、ここはトールを信用するしかない。
「お願い、行かせてトール。こんな事、私は嫌なの…!」
表情が硬いトールから苦し気に顔を背けながらキラが言う。
そんなキラを黙ってしばらく見つめたトールは、やがて彼らしい朗らかな笑顔を浮かべた。
「まっ、女の子を人質にとって逃げるなんてのは、本来悪役のやる事だかんな。俺も手伝ってやるよ」
驚くキラを他所に、トールはあっさりそう言って俺達の先に立つ。
「おいキラ。置いてくぞ」
「あっ…、まっ、まって」
呆然とトールの背中を見つめていたキラに声を掛けて我に返す。
俺達もトールの後に続いて先を急ぐ。
他のクルー達の目を盗んで立ち回り、何とかパイロットロッカーへ辿り着き、キラとラクスが中へと入っていく。
「…さて、と。俺も着替えるから、見張り任せた」
「え?お前も行くのか?」
「いや、ラクスを連れてくのはキラに任せるよ。…念のため、いつでも出られるようにしておくべきだって思うからさ」
不思議そうに首を傾げるトールを置いて、俺も男性用のロッカーへ入り、急いでパイロットスーツへと着替える。
キラとラクスが戻って来たのは、俺が着替え終わってロッカーを出て少ししてからだった。
二人は俺まで着替えていた事に驚きながらも、ここで話している時間もない為、何も聞かずにすぐ格納庫へと向かう。
整備も終わり、格納庫には殆ど人が残っていない。
キラとラクス、トールはストライクへと。
そして俺はスピリットへと足を向ける。
これで、ラクスとはお別れだ。
もしかしたらまた会う事があるかもしれないが─────正直、分からない。
彼女と出会う前は、こんなに話すくらいに仲良くなれるとは思っていなかったけど…色々あったけど、今はハッキリ言える。
ラクスと出会えてよかった、と。出来る事なら、また会いたい。
「すみません。少しだけお時間をください」
でも、言葉のないお別れは少し寂しいかもしれない、なんて思っていたその時、背後から聞こえてきた声に思わず振り返った。
振り返った先で、船外作業服を身に着けたラクスがこちらへ近付いてきていた。
「何してるんだ…。早く行かないと見つかるぞ」
「はい。でも、最後に貴方へ言っておきたい事がありましたから」
「…なんだよ、手短にな」
数は少なくとも、格納庫にはまだ人が残っている。いつ見つかるか、時間の問題だ。
突き放すような言い方だとは自覚しているし、申し訳なくも思っているが、長く話すつもりはないとラクスに伝えつつ続きを促した。
「…ユウ。貴方は、この世界に存在している一人の人間です。…貴方が貴方自身を認められなくとも、わたくしはそう思っています。わたくしは貴方を─────貴方と過ごした時を決して忘れません」
「─────」
「またお会いしましょう、ユウ。…絶対に」
ラクスは最後に俺へ微笑みかけてから、キラの元へと戻っていった。
キラとラクスがストライクのコクピットへ収まった所を見届けてから、俺もスピリットのコックピットへと乗り込む。
スピリットのコックピットの中で、俺は大きく息を吐いた。
─────気付かれたのはあの時、か。ガンダムSEEDの世界の記憶はともかく、異世界の記憶までは見られていないと思ってたんだけどな。
まさか、あんな事を言われるとは思わなかった。
しかもそれが合っているのだから質が悪い。
俺が俺自身を認められなくとも、か…。
そんな事を思う資格なんて、異分子である俺にはないのに。
それでも、ラクスから向けられた真っ直ぐな言葉と思いが、どうしようもなく嬉しく感じてしまう。
「っ─────」
ダメだダメだ。
もしかしたら、出撃しなくてはならない事態になるかもしれない。
そんな状況でこんなに気を緩めて─────いけない、気を引き締めなければ。
深く息を吸い、大きく吐く。
「ハッチ開放します!退避してください!」
対外スピーカーでキラが呼び掛ける。
ストライクは歩いてカタパルトへと向かい、エールストライカーを装備する。
ラクスを乗せたストライクは、開放されたハッチから勢いよく飛び出していった。
『おい、ユウ!そこに居るんだろ!?』
「居るよ。どうしたのさ兄さん、そんなに慌てて」
『惚けやがって!お前も一枚噛んでやがるな!』
「うん。言っておくけど、ストライクを追う気はないよ。俺がここに居るのは万が一の為ってのが理由だし」
モニターの顔に映し出される兄さんの顔。
兄さんは慌てた様子で、今出て行ったストライクについて俺に尋ねてくる。
その問い掛けに答えながら、先回りでストライクを追えというなら断るという意志を伝える。
『ユウ…』
「兄さんだって嫌なんだろ、本当は。…いいんだよ、全部俺達が悪いんだからさ」
大きく溜息を吐く兄さんを見ながら、俺はスピリットのOSの立ち上げを始める。
いつでも出撃できるように─────いつでもストライクを助けに行けるように。
ヴェサリウスに割り当てられた個室にて、アスランは一息を吐いていた。
ストライクとの激闘を痛み分けという形で終え、機体を着艦させてから自室へと戻って来たアスランはシャワールームで汗を流す。
シャワーから上がったアスランはバスローブを着て、ベッドの上に腰掛ける。
天井を仰ぎ、大きく息を吐きながら、脳裏に戦闘中のキラとのやり取りを思い出していた。
『もう止めてくれ!俺達が戦う理由なんてない筈だ!』
『君にはなくても、私にはあるの!』
『戦いたくないなら、退いて!…私だって、君とは戦いたくない!』
『キラ…、なんでっ!?』
『前も言った!あの艦には、守りたい人が…友達が乗ってる!アスランがあの艦を落とすつもりなら、私は─────!』
キラは本気だった。
本気でアスランを撃とうとしていた。
それが分かっていても、アスランはキラを撃つのを躊躇った。
そして、本気だと思っていたキラもまた、最後の最後はアスランを撃つのを躊躇った。
だからこそアスランはここに居て、今も生き続けられている。
「俺は…どうすればいい…?」
キラを撃ちたくない。
だが、あの艦をこれ以上放って置く訳にもいかない。
あの艦にはラクスだっている。彼女を助ける為にも、また自分達はあの艦を襲いに行くだろう。
そうなれば、キラはどうする?
当然、自分の前に立ちはだかるだろう。
彼女の大切な人達を─────自分以外の友達を守る為に。
「ラクス…キラ…」
ラクスを助けたい。その為にはキラと戦わなければならない。
それならキラと戦わずに逃げるのか?それではラクスを助けられない。
「くそっ…?」
苦悩するアスランは、不意に呼び出し音を聞く。
何事かと顔を上げると、扉の前を映すモニターが起動していた。
そこに映し出されていたのは、アスランの反応を待つミゲルの顔だった。
「ミゲル?」
『おう、アスラン。ちょっとお前と話したい事があってな。扉を開けてくれるか?』
扉を開け、微笑むミゲルを中へと招く。
とそこで、先程まで微笑んでいたミゲルの顔がアスランの姿を見た途端、驚きの色へと変わる。
「おうおう、ずいぶん息抜いちゃってるじゃないの。珍しいねぇ、アスランがそんな抜けた格好を他人に見せるなんて」
「は…?っ、す、すぐに着替えてくる」
「別に気にしなくていいっての」
「俺が気にするんだっ」
男同士とはいえ、バスローブ姿で来客の対応をしてしまうとは。
自分が今、どれだけ気が抜けていたのかを自覚したアスランは僅かな恥ずかしさを覚える。
しかもそこに揶揄う様にミゲルが声を掛けてくるのだから、その感情は更に強くなる。
結果、強い口調で言い返すアスランと、そんなアスランを見てケラケラ笑うミゲルという図が出来上がるのだった。
バスローブから制服に着替えたアスランをミゲルが出迎える。
他人の個室だというのに、遠慮なくベッドに腰掛けているミゲルに苦笑をしながら、アスランはここへ来た理由を尋ねるべく口を開いた。
「それで、話したい事って何なんだ?」
「あぁ。戻って来たばかりの所で悪いんだが、ちょっとさっきの戦闘、お前らしくないって思ってな」
「─────」
返って来たミゲルの答えに、アスランは思わず息を呑んだ。
クルーゼにも見抜かれ、ミゲルにも見抜かれ、そんなにも分かりやすいのだろうか…?
なんて心の隅で思うアスランだったが、そうではなくクルーゼとミゲルがおかしいだけなのは言うまでもない。
「…友達なんだ」
「は?」
ここで誤魔化そうとしても無駄だと悟ったアスランは、クルーゼの時と同じように、胸の内に抱くその秘密を打ち明ける事にした。
「ストライクに乗っているパイロットはコーディネイターだ。月の幼年学校に一緒に通っていた、俺の友達だ」
「…マジかよ」
ミゲルが目を見開き、言葉を失っている。
しかしすぐに気を取り直したミゲルは、小さく息を吐いてから天井を仰ぎつつ口を開いた。
「道理でお前とあのストライクの動きにも、どこか躊躇いが見えた訳だ。…友達同士、戦いたくなかったって事か」
「…すまん」
「謝る必要はねぇだろ。同じ立場だったら、俺だって戦いたくねぇよ」
謝るアスランに笑い掛けながらミゲルが言う。
そのミゲルの明るさが、僅かながら沈んでいたアスランの気持ちを引き上げてくれた。
「けどよ、アスラン。そしたらお前、一体誰となら戦いたいんだよ」
「…は?」
その一言は、一瞬引き上げられた気持ちに冷や水を浴びせ掛けた。
「誰となら─────って、そんなの、思った事は…」
「ないよな?…俺もだよ」
誰と戦いたい、なんて考えた事はなかった。
ただ、プラントの為に戦うのに必死で、アスランは目の前に立ちはだかった敵を撃ち続けて来た。
「皆同じなんだよ。戦いたくて、敵を殺したくて戦う奴なんて、そういねぇよ」
「ミゲル…」
「どんな境遇があろうと、ストライクは地球軍の兵器で、あれに乗ってるのは地球軍に与してる奴だ。…割り切らねぇとお前、あいつに撃たれるかもしれねぇぜ?」
「っ─────」
キラに撃たれるかもしれない─────それは、ミゲルが部屋に来る直前まで考えていた事だった。
この先も、自分はキラとは敵同士でまた戦場で出会うだろう。
その時、前の様にキラが躊躇ってくれるとは限らない。
それなら、自分は?
キラが目の前に立ちはだかった時、その時自分は躊躇わずキラを撃てるだろうか?
正直、自信がない。
「もう一度だけ…」
「アスラン」
「もう一度だけ、説得したいんだ。だって、おかしいだろ!あいつはコーディネイターで、俺達の仲間なのに…どうして仲間同士で戦わなくちゃならないんだ!?あいつは…キラは、俺達と一緒に来るべきなのにっ!」
慟哭している途中、ミゲルの表情が一瞬曇った事にアスランは気付かなかった。
「…そうか。でも、説得する機会が来る前に俺が落としちまっても、文句は言うなよ?そこまで考慮する気はねぇぞ」
「あぁ。…分かってる」
アスランとて、そこまでワガママを言うつもりはない。
むしろ、ミゲルがそこまで譲歩してくれた事自体前代未聞なのだ。
キラと出会う前に誰かに撃たれたのなら、その時は諦めよう。
だがもし、そうではなく、自分の前に現れたのならその時は─────
そこまで考えた時、部屋に警報が鳴り響いた。
『現在、足つきからモビルスーツの出撃を確認!パイロットは至急、各機に搭乗せよ!繰り返す!』
「「っ」」
アナウンスを聞き、アスランはミゲルと一緒に息を呑む。
何も言わずに同時に立ち上がった二人は、部屋を飛び出しパイロットロッカーへと急いだ。
パイロットスーツへと着替え、格納庫に着いた所でアスランはミゲルと別れ、愛機であるイージスのコックピットへと乗り込む。
スイッチを押し、イージスのOSを立ち上げた所で、イージスのセンサーはとある全周波放送をキャッチする。
『こちら地球連合軍アークエンジェル所属のモビルスーツストライク!ラクス・クライン嬢を同行、引き渡す!」
「キラ…!?」
スピーカーから聞こえて来たのは、キラの声だった。
しかも現在、ストライクにラクスまで乗っており、更にこちらへ引き渡すという。
『ただしナスカ級は停止!イージスのパイロットが単機で来る事が条件だ!もしこの条件が破られた場合…彼女の命は保障しない!』
「…」
キラがどういうつもりでこんな事をしているのか、正直分かり兼ねる。
だが…分かるのは、彼女は自分が一人で来ると信じている事。
そして、これは罠ではない。こちらが条件を破った時にどうなるかは分からないが、条件さえ守れば必ずラクスは引き渡される。
「隊長、行かせてください!」
アスランはイージスと艦橋との通信を繋げ、そこに居たクルーゼへ呼び掛ける。
思案顔だったクルーゼが顔を上げ、モニターに映っているであろうアスランを見る。
『敵の真意がまだ分からん!本当にラクス様が乗っているかどうかもだ!』
「…隊長!」
アデスの言う事は分かる。
ストライクのパイロット、キラの事など知らない彼がその反応をするのは当然である。
当然だが、それがアスランにとってもどかしくて堪らない。
間違いなく、彼女はそこに居るのに。キラと一緒に、こちらへ来ているのに。
だが、クルーゼなら─────事情を知っているクルーゼなら、もしかしたら。
そう願いながら、アスランはクルーゼへ再度呼び掛ける。
『…分かった。許可しよう』
『隊長!?』
僅かに思案をしてから、クルーゼは微笑んでそう言った。
アデスが信じられない様子でクルーゼに喰い下がるが、それを見ずにアスランは笑顔になる。
「ありがとうございます!」
モニターを切り、アスランは機体を歩ませる。
出撃の許可を貰い、イージスがカタパルトへと運ばれる。
すでにハッチは開かれており、出撃はスムーズに行われた。
「アスラン・ザラ!イージス、出る!」
ハッチを飛び出した機体のスラスターを吹かせ、無重力空間を進む。
センサーでストライクの現在の位置を確認し、アスランは機体をそちらの方へと向かせ、先を急ぐのだった。
婚約者と─────叶うなら親友を、自分の元へ連れ戻す為に。