フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE48 偽物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう、ステラ。口についてる」

 

「んむ…」

 

 目の前にソフトクリームを食す、見目麗しい少女二人。口の周りが白くなったステラを、ポケットティッシュから紙を手に取り甲斐甲斐しく世話するルナマリア。出会ってからまだ数時間ほどしか経っていないにも関わらず、二人の関係性は最早姉妹に近い。髪の色から目元、口元と両者に血縁を感じさせる似つかわしさはないものの、今の二人を見て少なくとも今日が初対面だと思う者はいないだろう。

 

 ビーチのベンチに並んで座る仲睦まじい二人を、座りそびれたシンは傍から眺めていた。彼の手にもソフトクリームが握られており、また一口を口の中に含む。じわぁ~、と心地の良い甘味を舌の上で味わいながら、シンはステラが合流してからの時間を思い返していた。

 

 隊長(ハイネ)からの命令で始まったシンとルナマリアのデートだが、当たり前だがステラが合流してからはデートでも何でもなくなった。最早シンはおまけ、というのは表現としては行き過ぎだが、少女二人の外出に従う付き人に等しかった。途中、自分はこの集まりの中に果たして必要なのかと自問する事数回。決して二人がシンの事を無視している訳ではなかった故に離れる選択をとりはしなかったが、こうして今の二人を見ていると、二人きりの方がルナマリアとステラは楽しめたのではなかろうか、と疑問に思う。

 

「?…、ん」

 

「え?…どうしたの?」

 

 不意にステラがシンの方を振り向く。一度首を傾げてから手元に視線を落とし、やがてシンへ向けて両腕を伸ばした。

 

 ステラが何をしたいのか読み取れず、戸惑いながらシンが問い返した。

 

「シン、これ見てた。ほしいならあげる」

 

「─────あー…」

 

 シンから向けられる視線を、ソフトクリームを欲しがっているのだと勘違いしてしまったらしい。コンマ数秒の空白の後、シンは頭を横に振ってから答えた。

 

「欲しかった訳じゃないんだ。俺はこれだけで充分だから、それはステラが食べな」

 

「…いらない?」

 

 ステラが再び首を傾げる。それにシンは頷いてから、また一口ソフトクリームを口に含む。

 

 ステラ、ルナマリアと一緒にシンも自分の分のソフトクリームを購入していた。断った理由はそれだけではないのだが、それを口にするのは少々恥ずかしいし、ここでは潜めておくと─────

 

「ステラのそれ、レモン味だからねー。シンはすっぱいものが嫌いなのよ」

 

「っ…」

 

 しようと思っていたのに、ルナマリアがあっさりとぶちまけてしまった。貝類、きのこ類、茄子─────シンはかなりの偏食家である。酸味が強いものもまた、シンの中で受け付け難い食べ物であった。

 

 ソフトクリームのレモン味など大してすっぱくもないとは分かっていても、どうしても拒否が出てしまう。

 

「嫌い?…シン、好き嫌いはダメ」

 

「ぶっ…、ぷ」

 

「…」

 

 ステラに叱られた。そしてルナマリアに笑われた。シンは居た堪れない気持ちになった。

 

 ステラに言われなくとも偏食はいけない事くらい知っている。まだ家族が健在の時は口すっぱく注意されたものだ。だがダメなものはダメなのだ。シンとて食わず嫌いで拒否している訳ではなく、何度か挑戦した上でやっぱりダメだったから拒否しているのだ。

 

「ん」

 

「…ステラ?」

 

 密かに胸の中で言い訳するシンへ、ステラがまたソフトクリームを差し出した。

 

「な、なに?」

 

「好き嫌い、ダメ」

 

「…」

 

 これは要するに、あれだろうか。好き嫌いせずに食べろ、という事だろうか。レモン味のソフトクリームを─────ステラが口を付けたソフトクリームを?

 

 ルナマリアは何も言わずにじっと見ている。ステラの行為を止めようとする様子はなく、むしろ困っているシンを面白がっている表情だ。

 

「シン」

 

「う…」

 

 ずい、とステラが迫って来る。これはもう避けられないらしい。嫌いなものを食すというのもそうだが、もっと別の問題が気にはなって来るが─────唯一のストッパーになってくれそうなルナマリアがあの調子では、諦めるしかあるまい。

 

 まあ二人が全く気にしていないのなら、自分一人で気にするのも馬鹿らしい。シンは迷いを振り切って、ステラが差し出したソフトクリームに、小さく一口齧り付いた。

 

「ん」

 

「おー」

 

 レモン味のソフトクリームを食べたシンを見て、満足げに頷くステラと感心げに拍手をするルナマリア。ステラはいいとして、ルナマリアの方は拍手の振動でソフトクリームが落ちてしまえばいいとシンは密かに呪いをかけた。

 

「ステラ?」

 

 少々不貞腐れながら、口直しも兼ねて手元のソフトクリームに齧り付いたその時だった。三人の後方からシンと比べて低めの男の声が投げ掛けられた。

 

 ステラは勿論、シンとルナマリアも一緒になって振り返るとそこには不思議そうにこちらを見る少年二人が並んで立っていた。

 

 シンよりも身長が高めで、大人っぽく見える緑髪の少年が歩み寄って来る。それに続いて歩み寄ってくる方と比べてやや幼く見える、青髪の少年もこちらへとトコトコ歩いてきた。

 

「何やってんだお前、こんな所で…」

 

 ソフトクリームを食すステラ、同じベンチに座るルナマリア、そして傍らに立つシンの順番で視線を遣ってから、緑髪の少年が呆れた風に言う。

 

「なんだよステラ、美味そうなもの食ってんじゃん」

 

「…いる?」

 

「いいの!?サンキュー、ステラ!」

 

()()()、お前まで何やってんだ!」

 

「んぐ…、()()()()()も食えば?美味いぜ?」

 

 一連のやり取りを聞く限り、緑髪の少年の名前はスティング、青髪の少年の名前はアウルというらしい。ステラが差し出したソフトクリームへ、シンと違って遠慮なく、大口で齧り付いたアウルは次にスティングへと目を向けながらソフトクリームを薦めた。

 

「…俺はいいよ」

 

 対してスティングが溜め息混じりに拒む。短い時間ではあるが、この三人の関係性というものが実に垣間見えるやり取りだった。

 

「こいつが迷惑を掛けたみたいで。申し訳ない」

 

「いや、そんな!アタシ達こそ、勝手に連れ回しちゃってスミマセン」

 

 頭を下げながら謝罪をしてくるスティングへ、あたふたしながらルナマリアが返答し、同様に頭を下げる。

 

 そんな二人のやり取りに全く興味がないのか、そちらをそっちのけでアウルが両手を組んで後頭部へ当てながらステラの傍らへと歩み寄った。

 

「なぁステラ。()()知らね?」

 

 アウルの口から出て来る、恐らく新しい人物の名前。名前から男か女か、何も知らないシンには読み取る事もできないがステラは違った。

 

「知らない」

 

「はぁ?何だよネオの奴、自分で時間を指定しておいて遅刻かよー!」

 

 よくは分からないが、スティングとアウルの二人はそのネオという人物を探して歩いていたらしい。ステラの知り合いだろうという事もあり、少々気になったシンはアウルへ向けて口を開いた。

 

「ネオって?」

 

「あ?何だよ、お前には関係ねーっつの」

 

「アウル!」

 

 シンに問われたアウルが、胡乱気な視線を向けると取りつく島もない拒絶の反応を返してくる。その余りの態度に戸惑うシンに追い打ちを掛けるように眼を飛ばすアウルだったが、スティングから一喝を受けると何事もなかったかのようにソッポを向いて口笛を吹き始めた。

 

「すみません、こいつが失礼な真似を…。おい、アウル!」

 

「あ、いえ、気にしてないので」

 

 本当に苦労しているんだな、と思わせられる。このアウルという少年にも、多分ステラにも─────と向けられたシンの視線の先で、ステラが何故かしょんぼりしていた。彼女の足下には、彼女の者と思われるソフトクリームが─────あぁ…。

 

「あの、それで…」

 

「あぁ…、いえ。この街には観光ついでに寄ったんですがね。俺とアウルとステラと、もう一人で。それぞれ別行動してたんですが、そいつが時間になっても待ち合わせ場所に来ないもんで。こいつと二人で探してたんですよ」

 

 言いながら途中、アウルの襟首を掴んで引っ張るスティング。アウルが「いってぇ!」と悲鳴を上げるのも構わず、スティングは大きく溜息を吐いた。

 

「らくす・くらいん、だっけ?そいつの事でも探してるんじゃね?ネオの奴、妙に気にしてたじゃん」

 

「バカ、そんな訳ねぇだろ」

 

 思わぬ所、思わぬ形でその名を耳にしてシンとルナマリアは一瞬体を固まらせる。ラクス・クライン─────軍の慰安ライブの為にここディオキアへと来ていた彼女は、すでにこの場所を発っている。

 

 スティングの反応からしてその可能性は低そうだが、もしアウルの言う通りであったとしたらそれは約束された徒労ともいえる。

 

「…パトカー」

 

「ん?あぁ…、随分多く走ってるわね」

 

 ラクス・クラインならもうここにはいないと伝えてあげたい気持ちはあるが、それだとザフト軍人という身分を明かさなくてはならなくなる。無暗に自身の身分を明かす訳にはいかないと自制を利かした時、ぽつりとステラが呟きルナマリアが反応した。直後、シン達男組三人もまた、街中に響き渡る随分と多い()()()()()()に耳を澄ました。

 

 ルナマリアの言う通り確かに多い。これ程のサイレンの量、何か事件でもあったのだろうか…?

 

「ネオの奴、巻き込まれてたりして」

 

「止めろ、縁起でもない。大体、あり得ねぇよそんな事」

 

「でもよ、ネオが入ってった店の中にもいなかったぜ?しかも()()()()に出て行ったって、店員の人も言ってたじゃん」

 

「…」

 

 何やら雲行きが怪しい話を聞いていて、シンは嫌でも先程の出来事が頭に浮かんだ。

 

「あのぉ…。そのネオって人、もしかして女の人なんじゃ─────」

 

 どうやらルナマリアも同じ可能性に至ったらしい。遠慮がちに尋ねられたスティングとアウルは、一度戸惑いがちに目を見合わせた後に二人揃って頷いた。

 

「えっと、実は─────」

 

 その後、ルナマリアは二人へ先程ステラの身に何が起こったのかを説明した。ナンパ目的で二人の男がステラに近付き、危うく強引に連れ去られそうになっていた事。もしかしたら、そのネオという人にも同じ事が起きているのかもしれないというのも合わせて、ルナマリアが二人に話す。

 

「─────プッ、アッハハハハハハ!ナンパって、ネオが!?面白い事言うねぇ、君!」

 

「…ナンパかどうかはともかく、面倒事に巻き込まれてる可能性はある」

 

 どういう意図を以て笑ったのかまでは読み取れないが、何かしらの確信をアウルは抱いているのだろう。だがルナマリアの話を笑い飛ばしたアウルとは対照的に、スティングは険しい顔をしていた。

 

 それを見たアウルが不満げに唇を尖らせながら言う。

 

「ハァ?何だよスティング、さっき僕の話をスルーした癖に。こいつらの話は鵜吞みにすんの?」

 

「それについては悪かったよ。だが考えてみろ、アウル。…ここがどういう場所か思い出せ」

 

 微かに息を呑んだ後、アウルは黙り込んでしまう。その反応を見たスティングはこれ以上の反論はないと判断したのだろう、アウルから視線を切ってシンとルナマリアの方へと向き直る。

 

「ステラが世話になったみたいで、ありがとうございます。…ステラ、行こう。ネオを探しに行くぞ」

 

 ステラの事についてお礼を言うスティングの表情と態度は実に人当たりの良いものに見えるのだが、何故だろう─────本当に気付きづらい、薄くとも冷たい壁が彼とこちらの間にある気がするのは気のせいだろうか。

 

 しかし本来の同行人が来た以上、ステラもそちらに戻らなくてはいけない。少々寂しいが、いつか再び会えるのを願って今は別れる時だ。

 

 ルナマリアも名残惜しそうにしてはいるが、何も言わずにステラを見つめている。シンとルナマリア、二人の視線の先で、しかしステラはその場から動かずルナマリアにぴったりくっついたまま口を開いた。

 

「…ステラ、もう少しルナマリアと一緒にいたい」

 

「なっ…!?」

 

 控えめなステラの訴えに驚きの声を上げたのはアウルだった。アウルと違い声には出なかったものの、スティングも目を見開き驚きを露にしている。

 

「ステラ、あまり我が儘を言うな。…お二人の迷惑になるだろう」

 

「うぅ…」

 

 スティングに諫められるステラ。しかし彼女はその場から離れない。不安げに、瞳の端に小さな雫を溜めながらルナマリアを見上げていた。

 

 姉御肌であり、事実一人の妹を持つ姉のルナマリアがそんな顔を向けられればどうなるか─────彼女をよく知るシンにとっては容易に予想できた。

 

「あの、全然迷惑なんかじゃないです!だから…私達にも、そのネオって人を探すの、手伝わせてもらえませんか?」

 

 シンが良く知るルナマリア・ホークは、涙を流す妹分を放っては置けないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬期の海水は実に凍えるようで、相当に堪えた。寒中水泳なんて今世に限らず、前世も含めて初めてだぞ…。それもこれも全部、あのバカげた襲撃犯達の所為だ。あんな街中で銃をチラつかされたら、例え民間人を巻き込むつもりはないと分かってはいても警戒せざるを得ないじゃないか。

 

 あぁそうだ。だから罠だと分かっていても敵の誘導に乗るしかなかったし、その結果狙撃ポイントまで誘い込まれるなんて無様も晒したけどそれもこれも全部俺のせいじゃない。こんな寒い思いしてるのも俺は悪くない、知らない、だからフレイさん─────そんなに睨まないでくださいお願いします。

 

「…ユウ」

 

「違う、俺は悪くない。強いて言うなら世界が悪い」

 

「何言ってるの?それよりその肩の怪我、早く見せなさい」

 

 やっとの思いで浅瀬へと辿り着いた俺へ有無を言わさぬ口調でフレイが言う。てっきり俺を非難するつもりだとばかり思っていたから自分でもよく分からない言い訳をしてしまったが、ただの勘違いだった。

 

 肩─────俺の左肩に刻まれた傷から、今も尚出血は止まっていない。先程、崖から飛び降りる直前に受けた銃弾による傷を、フレイは心配してくれていたのだ。

 

「いや、別に大した事ないし。そんな心配しなくても─────」

 

「うるさい、いいから見せて。消毒も何も出来ないけど、止血くらいなら…」

 

 そう言いながらフレイは自身の着ている服の裾を破ろうとしたのか、両手で握り締める。いや、こいつは一体何をしようとしてらっしゃるのか。一瞬の硬直の後、フレイの手が確かに彼女の服を数ミリ破いた時、その音を耳に捉えた俺はようやく我に返る。

 

「待て待て待て待て!止血くらい自分で出来る」

 

 急いで止めに入れば、フレイの動きも止まる。突然大声を上げた俺に驚いたのか、フレイが呆けている間にすぐに着ていた服の裾を力一杯破る。たまたま着ていたのが破りやすい素材の服で本当に良かった…。フレイが見ている目の前で傷口を破いた布で巻きつける。消毒も何も出来ない、本当にただの応急処置だが一先ずこれでフレイも落ち着くだろう。

 

「─────くしゅんっ」

 

 ドタバタする時間はあったが、とりあえずフレイと一緒に岩場へと上がる。濡れてしまった衣服を絞っていると、隣から可愛らしいくしゃみの声がした。

 

 寒いのか、平静を装おうとしているのは伝わるが身体の震えまでをフレイは隠せていなかった。

 

 岩の入り組んだ小さな入り江となっているこの場所は、屏風のように切り立った崖に囲まれている。岩壁を登って助けを呼べればいいのだが、まだ上に襲撃者が残っている可能性もある。海へと逃げた俺達を追って、ここまで来る恐れだってある。

 

 身に纏っていた上着を脱いで、まだ寒さに震えているフレイの肩へと掛けてから、その白い手を握って引く。

 

「あ─────」

 

「まだ奴らが上に残ってるかもしれない。早くここから離れよう」

 

 戸惑いの表情を浮かべるフレイに申し訳なく覚えるが、とにかく今はこの場を離れなければ。襲撃犯もザフト正規軍の膝下で、そう長時間大っぴらに捜索するのは難しい筈だ。

 

 少しでいい─────少しでもここから離れて、身を隠すのに丁度いい場所があれば。

 

 そんな都合の良い場所がある事を、俺は()()()()()。街中からあの海沿いの道路、崖に至るまでの道中を俺は()()()()()()。何の偶然だろう、この場所は原作でシンとステラが再会をした場所だった。

 

 俺とフレイが歩き出して十分程しただろうか。俺の予想通り、岩場の奥に波が穿った小さな洞窟を見つけ、フレイと共にそこに身を隠す事にした。

 

 洞窟の真ん中に流木を拾い集めて火を焚いた。火の周りに二人で脱いだ服を広げて乾かしておく。冬場ではあるが、小さな洞窟が丁度風よけになっている事と、二人の間で燃える火で充分に温まる事ができた。今日がこの時期にしては温暖な気候だった事が幸いした。

 

「…で?」

 

「ん?」

 

「あの人たちは何?貴方随分と恨まれてるみたいじゃない?」

 

 不意にフレイの口から投げ掛けられた質問は、バイクのチェイス中に悪態に混じってぶつけられたものの繰り返しだった。

 

「さっきも言ったが、俺は平和的な活動をしてるつもりだぞ。それがどこかの誰かには都合の悪い事だったってだけだ」

 

「…真面目に答えるつもりはないって訳ね。ま、分かってたけど」

 

 決して口には出さない。だが、大部分の皮肉と微かな諦念が混じった返答をするフレイへ心の中で謝罪する。

 

 今、フレイを巻き込む訳にはいかない。こいつが地球軍に残っている目的が分かっていない現段階で、D()()()()()()という敵の存在を明かす訳にはいかなかった。

 

「…?」

 

 体育座りの体勢で、組んだ腕の間に顔の下半分を埋めているフレイへと視線を向ける。濡れた服を乾かす為に脱いでいるのだから当然、今のフレイは下着姿だ。紫色のお洒落な下着に身を包んだ彼女の肢体は出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいて、更に露出した白い肌には()()()()()()()()

 

 艶やかなフレイの今の姿に気恥ずかしさを覚え、視線を外そうとした時、ふと今自分が感じた印象に違和感を感じて俺は外し掛けた視線をその場に留めて改めてフレイの姿を見遣った。

 

 可笑しな所は何もない。フレイ・アルスターという女を知る男であれば、その衣服の下を見たいと誰もが願わずにはいられない、そんな彼女のあられもない姿は実に魅力的だ。

 

「何見てんのよ」

 

 当然だが、ジッと視線を向け続けていれば相手にはそりゃ気付かれる。体育座りのまま僅かに顔を横にずらし、こちらを見遣りながらじとっとした声でフレイが非難してくる。

 

「わ、悪い」

 

 流石に無遠慮に見すぎた。申し訳なさと居辛さを感じながら謝罪の言葉を向けて、今度こそ視線を外す。

 

「…どう?私の身体」

 

 パチ、パチ、と音を立てながら燃える火を眺める機械になろうとした俺へ、フレイが問い掛けてきた。

 

 ─────その問いが、どういう意味を持っているのかを理解しながら、俺は()()()()という選択しか取れない。

 

「…綺麗だと思う。でも言っとくけど、そこまでじっくり見てた訳じゃ─────」

 

「そうじゃない。…そうじゃないって、分かってるでしょ?」

 

 フレイは逃げようとした俺を許してはくれなかった。声を震わせて、不安と恐怖を感じているだろうに。

 

 それでも俺と真っ直ぐに向き合い、何かを語ろうとしているフレイから、今度こそ逃げない覚悟を固める。

 

「…()()()()()()んだな」

 

 隣から微かに息を呑む声がした。

 

 さっき見たフレイの肌には、()()()()()()()()()()。二年前、コックピットを巻き込む爆発にフレイは晒された。それにも関わらず、フレイの身体には一筋の傷跡も刻まれていなかったのだ。

 

 ユウ・ラ・フラガという異物が存在するこの世界では違う生き道を歩んでいる人物の中に、原作では一度死んだと思われた人がいた。今世では俺の兄として存在している、ムウ・ラ・フラガだ。

 

 陽電子砲からアークエンジェルを、愛する人を守った兄さんは砲撃に呑み込まれ死んだと誰もが思った。実際は生きており、続編のDESTINYに搭乗したのだが、その時兄さんの顔には治療しきれなかった傷が刻まれていた。

 

 フレイも似た経緯を辿った。キラを守り、クルーゼのドラグーンによって撃ち抜かれ、奇跡の生還を果たした─────俺は違和感を何もかも忘れて、綺麗な身体でフレイが生きている事を喜ぶべきなのだろうか?そんな疑問が鎌首をもたげるが、それが間違いであると俺へ教えてくれたのはやはりフレイの真っ直ぐな目だった。

 

「カフェで言ったものね。話す、って」

 

「あぁ」

 

「…そんなに知りたいなら、話してあげるわ。醜い醜い、偽物の女の話を」

 

 唾棄するように、自分を偽物と称した少女は、瞳の中にどろりと何かを渦巻かせながらゆっくりと話し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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