フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE49 フレイ・アルスター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二年前─────第一次連合・プラント大戦にて最も規模が大きく、最も犠牲者が多かった戦い、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦でフレイ・アルスターは掛け替えのない友を守る為にその身を投げ打って命を散らした。それは何者にも変えようのない事実だった。

 

「そう、あの時にフレイ・アルスターは死んだの」

 

 フレイ・アルスターは死んだ、と少女は語る。たった今、その場にいる自分の存在がその言葉を矛盾たらしめる証明となる筈なのに、淡々と語り続けるのだ。

 

「でもね。あの男…ロード・ジブリールの、フレイ・アルスターへの執着は凄まじかった」

 

 プラント、地球連合間に結ばれた停戦協定と、様々な妥協を繰り返してようやくこじつけたユニウス条約─────丁度その頃、少女が目を覚ましたのだ。

 

「彼も馬鹿じゃないわ。最初は私も記憶操作を受けて、貴方やキラ達の事を分からなくなってた」

 

 少女の中に封じ込められていた記憶が呼び覚まされる切っ掛けは、本当に偶然に起こったものだった。

 

 当時の少女が今の置かれている自身の状態に違和感を覚えた訳でもない。ただ気紛れに、少女は過去の地球軍のデータを漁っていた─────そして見つけたのは、前大戦でザフトに対して猛威を振るった二機のモビルスーツだった。

 

 GAT-X105ストライク、そしてGAT-X106スピリット。共に地球連合軍発のモビルスーツであり、ザフトの奪還から逃れて最前線で多くの敵を屠った、英雄といえる存在として記されていた。

 

 そのデータを目にした時、少女の中で何かが鼓動した。悲しかったのか、それとも嬉しかったのか─────形容し難い衝動に駆られ、少女は無意識に涙を流しながら二機のデータを探し集めた。戦果は勿論、二機を搭載した母艦、そしてそれぞれを操ったパイロットの事まで、少女は駆り立てられるように必死に情報を漁った。

 

 ()()()()()()()()という名に辿り着くまで、そう時間は必要なかった。そしてその名を少女が口にした時、呆気なく少女に掛けられていた封印は解かれた。主から名付けられたネオ・ロアノークなどではない─────フレイ・アルスターとして生きた記憶が、感情が呼び覚まされたのだ。

 

「すぐに貴方に会いに行こうとしたわ。けどね、どうしてもそれはできなかった」

 

 自分はフレイ・アルスターである─────その自覚と共に少女の中に降って湧いたのは、一筋の違和感だった。

 

 ─────()()()()()()()()()()

 

 ただ今を生きている事を幸運として流す事ができていたら幸せだったのかもしれない。だがそれができる程、少女は鈍くはなれなかった。記憶を取り戻したからこそ、あの生々しい死の感覚を鮮明に思い出せてしまう。自分が生きている事に違和感を感じざるを得なかった。

 

「…()()()()()()()()()って知ってる?」

 

 カーボンヒューマン、その一言を聞いたユウの表情がぴしりと硬直した。まさかとは思ったが、説明するまでもなく彼は知っていたらしい。

 

 カーボンヒューマン─────端的に言えば、()()()()()()()()()技術だ。

 

 再現したい人物の遺伝子情報を取り入れたレトロウイルスを数段階に分けて素体に投与し、体内のDNAの改竄と同時に記憶をコピーして任意の人間を再現する。素体となった人物の精神は永久に消え去る事となり、それは死も同然。遺伝子工学を応用した全身整形技術とでもいうべき悍ましい術式は、矛盾に満ちた一人の少女─────ネオ・ロアノークを生み出した。

 

「私は貴方が望むフレイ・アルスターじゃない。─────何者でもないの」

 

 フレイ・アルスターが生きた記憶を保持していても、それはオリジナルからコピーされたものであり、少女本人が経験し、感じ、その身に刻んだものでは断じてない。故に少女は、自身はフレイ・アルスターではないとユウへと告げた。

 

「この身体もね、本来は何の関係もない…。私がいなければ、今も生き続けていた筈のどこかの誰かのもの」

 

 少女は嗤う。その笑顔の向き先は、醜く、どこまでも救いようのない自分自身─────ユウが苦し気に表情を歪めた事に気付かないまま、少女は語り続ける。

 

「身体も記憶も何もかも、私という存在そのものが偽物なのよ。…そんなものを貴方は、まだフレイと呼べる?」

 

 小さく首を傾げて少女は問い掛ける。ユウが口を開く─────思いの外早く答えを返そうとする彼を見て、少女は言いようのない恐怖に襲われた。

 

 ユウの答えを聞きたくなかった。今更恐れるものなど何もない筈なのに、少女はユウを遮るように声を張った。

 

「そう…全部偽物なの。こんな私にはもう貴方と一緒にいられる資格がない─────うぅん、この世界に生きてる資格なんてないんだわ」

 

「─────()()()

 

「そうでしょう?何も関係のない人の身体を乗っ取った挙句、出来上がったのがこんな紛い物なんて─────醜くて仕方ないわ。今すぐにでも、消えてなくなりたいくらい」

 

「もういい」

 

 たった今、自分が何と呼ばれたのかにも気付かない程に少女は錯乱していた。その精神状態のまま、少女は更に捲し立てるように続けようとする。

 

「いっその事、貴方が私を─────」

 

 しかしその続きを少女は口にする事はできなかった。それよりも先にユウによって、彼の腕の中に少女の身体が収まっていたからだ。

 

「言うな」

 

「ユウ…」

 

「…俺はもう、お前を失いたくないんだ」

 

 少女を抱えるユウの腕の力がぐっ、と強くなる。全身がユウの体温に包まれる。ユウの胸板に密着した少女の耳が、規則正しく響く彼の心臓の鼓動を聞く。

 

 ユウ・ラ・フラガという存在に全身を満たされながら、ゆっくりと心を乱す波が落ち着いていく。それと同時に、少女の目からポロポロと涙が零れ始めた。

 

「────っあぁ…」

 

 少女が本当の自分を知ったその時から、涙を流した事などなかった。涙を流す資格すらないと思っていたから、例え泣きたくともそれは許されないと堪え続けていた。だが氷の意志で固めていた堰は、少女を包み込む温もりと優しさによって溶かされ、決壊していく。

 

「あぁ…っ、あああぁぁぁッ!!!」

 

「…」

 

 この温もりと優しさを受け取る資格などない。その意思に反して、少女はユウに縋りつきながら泣き崩れる。

 

 余りにも弱々しい少女の体を受け止めながら、ユウは更に強く抱き締めた。

 

 洞窟内に少女の慟哭が響き渡る。ユウの腕の中で、何者でもない少女はこれまでずっと溜め込み続けて来た苦しみを、只管に吐き出し続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我ながらとんでもない事をしたという自覚はある。今はやや落ち着き、泣き叫ぶ声は止んだものの腕の中のフレイはまだ時折しゃくり上げながら、俺の胸に縋りついている状態だ。

 

 ─────尚、彼女は下着姿である…。

 

 いや、分かっている。キラとラクスという人達がいながらお前は何をやっているんだと、他でもない俺自身が一番自分の仕出かした事を自覚している。だが放っておける訳がないじゃないか…。この子を、キラとラクスにも負けないくらいに大事な女の子を泣かしたままにしておくなんて、断じて許せなかった。

 

 洞窟の中ではフレイがしゃくり上げる声と、俺達の前で燃える火の音だけが響く。

 

「…()()()

 

 自分を何者でもないと称する女の子を、俺はフレイと呼ぶ。直後、腕の中に収まっていた細い体が微かに震えた。

 

 今なら俺の答えを聞いてくれるだろうか─────ゆっくりと口を開こうとした時、腕の中で黙ったままだったフレイがか細く声を上げる。

 

「私の話、聞いてた?」

 

 今度は俺が彼女を何と呼んでいるのかを近くしたフレイの声からは、微かな拒絶の気配を感じた。それなのにフレイは俺から離れようとはせず、腕の中に収まったまま顔を上げて俺を睨みつけた。

 

「私はフレイじゃないの。分からなかったのなら、もう一度最初から話してあげましょうか?」

 

 言葉と行動が噛み合っていない。フレイからすれば真面目なのかもしれないが、俺から見ればどうしても彼女の態度がいじらしく思えてしまう。

 

「…何笑ってんのよ」

 

「いや、だって。こんな引っ付いたまま睨んできても、可愛いだけだぞ?」

 

「っ─────」

 

 揶揄い混じりにそう言ってやれば、顔を羞恥の色に染めながら瞬時に俺を押し退けるようにしてフレイが離れていってしまう。身体を密着させていた事で感じていた心地よい温もりが一瞬にして失われたからか、心なしか寒い。

 

「な、なにを言ってるのよ!この…、バカッ!変態ッ!」

 

「おい、変態はないだろ。俺が何をした」

 

「下着姿の女の子を抱き締めて欲情してた」

 

「…いや、欲情はしてない」

 

「何よ、その間は!?」

 

 いやだって、なぁ?フレイくらい魅力的な女の子の下着姿を前にして我慢する事自体大変なのに、ついさっきまで密着する形で触れてたんだぞ?今改めて考えたら、俺の身体はよく反応しなかったなって感心してしまう。

 

「アンタ…。キラに泣かれるわよ?」

 

「…いや、アイツ()なら一人増えても許しちまいそうな気がする」

 

「何をバカな…ねぇ、ユウ。アイツ()ってなに?」

 

 呆れ混じりのフレイの問いに答えると、彼女は戸惑いに声を震わせながら別の質問を掛けて来た。

 

 そういえば、俺がMIAになった後のアラスカでアークエンジェルを離れたフレイはラクスの事を知らないのか。その事に気付き、俺とラクス、そしてキラとラクスとの事を説明する。

 

「…呆れた。随分とお優しいわね、その二人」

 

「ホントにな。俺もそう思う」

 

 恐らく皮肉が混じっているだろうフレイの言葉に対して素直に思っている事を返すと、今度こそ決定的に呆れ切った彼女が大きく溜息を吐いた。

 

「こんな最低男を好きになるなんて、キラもラクスさんもどうかしてるわ」

 

「まぁ…趣味が良いとは言えない」

 

「否定しなさいよ」

 

 耐えられないといった風に小さく笑みを零したフレイは、もう一度小さく溜息を吐いてから憂いを含んで呟いた。

 

「…私も同じ穴の狢なんだけどね」

 

 常人よりも鋭い聴覚が、恐らく俺に聞かせるつもりはなかったフレイの呟きを捉えてしまう。それを俺は聞かなかった事にした。フレイが自分の意思で俺に伝えようとしたのならともかく、これに対して返事をしてしまうのは野暮というものだ。それに今の彼女に俺の気持ちを伝えても、苦しませてしまうだけだろうから─────。

 

 やや小さくなった炎の中に、流木を一本追加する。その動作をじっとフレイが眺めていた。

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「どうして私をフレイって呼んだの?」

 

 不意にフレイが問い掛けてきたのは、流木を入れてから再び少しずつ火の勢いが大きくなり始めた時だった。

 

 視線を遣れば、フレイは真っ直ぐにこちらを見ている。先程までのパニックの残滓は全く見られず、俺の答えを受け入れようという意思が感じられた。

 

「…お前の気持ちも、苦しみも、俺は()()だって思ったから」

 

「─────」

 

 フレイは自分を()()だと言った。だけど、俺はそうは思わない。あのフレイの慟哭は、彼女が吐き出した感情は全て本物だった。

 

「言った筈よ。私は─────」

 

「記憶のコピーを引き継いだだけのカーボンヒューマン、て言いたいんだろ。けど、お前が感じた苦しみは、お前が()()()()()()()()()だからこそ感じたものだって俺は思う」

 

 自分でも無茶苦茶な事を言ってる自覚はある。こんなものは彼女にとってはただのまやかしに過ぎないんだろう。

 

 だけど、俺は…俺にとって、こいつは─────。

 

「俺にとってお前はもう、フレイ・アルスターなんだよ」

 

「…ホント、バカ。バカ、バカバカ、バーーーーーカ!」

 

 フレイと再会してから、バカって何回言われただろう。十回は確実、二十回、三十回くらいもしかしたら言われたかもしれない。

 

 散々好き放題に俺を罵ってくれたフレイは、しかし今日初めて微笑んでいた。

 

「バカだけど…、やっぱり大好き」

 

 二年前の最後に見たものと同じ微笑みを浮かべながら、あの時と同じ言葉を口にしてから、フレイは俺の肩に頭をもたせかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらい二人でそうしていただろう。どちらも声を発さず、しかしその沈黙はどこか心地よく、静かに時間が流れていた。

 

 やがて日が沈み岩場の間から夜の闇が覗き始めた頃、二人は乾かしていた服を着た。まだ半乾きで着心地はかなり悪かったが、燃える火はあれどこれ以上服を着ずにいるには冷え込みが過ぎた。

 

「ねぇユウ。ずっとここに居るけど、戻る手立ては考えてるの?」

 

 フレイが尋ねて来たのは、服を着終えて生乾きの感触に気持ち悪さを覚えていた時だった。

 

 外は夜の暗闇、ここは高い崖に囲まれて登って道路に戻る事も不可能。自力で街に戻る手立てがあるとすれば岩場が続く限り歩いて渡り、そこから海を泳ぐしかないのだが冬の海を泳いで渡るなんて自殺行為だ。

 

 では八方塞がりか、と問われれば実はそうではなかったりする。

 

()()()()だと思うんだが…」

 

「何が…?」

 

 ()()()()()()()()()()─────そう思った時、打ち寄せる波音の合間にエンジン音が聞こえ、その音が徐々に近付いてきた。フレイも音に気付き、洞窟の出口へと視線を向ける。

 

 不意に眩い光が外から射した。二人で岩の合間から顔を覗かせた直後、海の方からエンジン音に負けない拡声された声で誰かが呼び掛けた。

 

「人に会いに行くだけで、どうして遭難をしてしまうのか()()()は不思議でなりません。ユウ様は不幸の神様に愛されでもしているのでしょうか?」

 

「うるせぇ!いいから早くボートをこっちに寄せるんだよ!」

 

 オーブを発ってから色々と巻き込まれてきたのもあって、反論する言葉が見つからない。しかし外面だけ敬意を向けている風を装って、その実遠慮なく皮肉をぶつけてくるメイドに対して思う所がない訳でもなく、ついつい口調が荒くなってしまう。

 

「はぁ…」

 

「溜息を拡声器に乗せるなぁ!」

 

 わざわざ溜息を拡声器に乗せやがったメテラへの激昂が早くも決定的となり、声を荒げて苛立ちを飛ばした。

 

 それ以上メテラは何も言う事はなく、運転手に命じてボートをゆっくりと浅瀬へと寄せる。やがてボートが泊まったのを確認してから、突然の救助ボートの登場に戸惑いを隠せないフレイの手を引いてボートへと近付いていく。

 

「ったく、もう少し早く来れなかったのか?」

 

「えぇ、まあ。ザフトの警戒網に豪快に引っ掛かるのをご所望とあらば」

 

「…」

 

 流石に言われっぱなしは癪だったので、ボートの前部に立ったメテラへ向けてズボンのポケットから取り出した()()()を投げ渡しながら皮肉を飛ばした。尚、冷静かつこれ以上なく的確に言い返されてしまった俺はただただ黙り込むしかなかった。

 

 うん、無理だな。今回ばかりは勝てねぇわ。ただでさえコイツ、レスバ強いのに。

 

「ユウ様、その方が?」

 

「あぁ。フレイ・アルスターだ」

 

 当然だが、俺がディオキアの街に出た理由をメテラは知っている。俺の傍らに立つフレイを見て、すでに察しはついているのだろうが改めてメテラへ紹介をする。

 

「なるほど、この方が…。確かに綺麗なお方ですね。キラ様、ラクス様という方がいながらユウ様が三人目を熱望されるお気持ちが理解出来ました」

 

「おい」

 

 声のトーンが全く変わらないからコイツが天然で言ってるのか、それとも皮肉で言ってるのか全く分からない。これに関しては多分前者なんだろうけど─────。

 

「では、この方も一緒に戻るという事でよろしいですか?」

 

 メテラがそう口にした瞬間、俺とフレイの間で緊張が奔る。

 

 フレイも一緒に戻る─────それは俺の望む所であった。ただフレイの気持ちを捻じ曲げてまで連れ帰る気まではなかった。二年前とはまるで状況が違う、今の彼女はフレイ・アルスターとして自分の選択をとる事ができるのだから。

 

「私、は─────」

 

 言葉に詰まりながらも、フレイは顔を上げ、こちらを真っ直ぐに見ながら答えを口にしようとした。

 

「……ネオーッ!」

 

「っ─────!」

 

 しかしそれよりも先に崖の上から声がした。弾かれる様にフレイが声のした方へ向き直り、俺もその視線を追って崖を見上げる。

 

 崖の上には小さな人影が見えた。一人ではなく、何人も。

 

「おおーい!ネオ、どこだよー!」

 

「ネオさん!いたら返事してくださーい!」

 

 それはフレイを探す誰かの声だった。フレイは自分を呼ぶ誰かの影をじっと見上げている。

 

 ─────仕方ない、か。

 

「ここからじゃ無理だ。一旦ボートで街まで引き返そう」

 

「…ごめん」

 

 崖を見上げたままのフレイの肩に手を乗せながら声を掛ける。フレイは何故か謝罪をした。その謝罪が一体何に向けてのものなのか─────何となく分かった気がした。

 

 ─────しかし、フレイを呼ぶ声がやけに多い気がする。ていうか、今のフレイを探す理由がない筈の人達の声まで聞こえた気がしたけど…、気のせいだよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が暮れてからもう一時間以上経った。海沿いの道をゆっくりと走る車の中に、シンとルナマリアはステラ、スティング、アウルと共に乗っていた。

 

 ステラはぼう、として感情が読み取れないが、運転席と助手席にそれぞれ座っているスティングとアウルの様子には焦りが滲んでいるのが見て取れた。助手席のアウルはもう見分けられる筈もない海岸線に、それでもまだ目を凝らし続けている。

 

「クソッ、ネオの大バカ野郎!」

 

 その罵り文句を、シン達はすでに十数回は聞かされている。

 

 スティング、アウルと合流したシン達はあの後まずはまだ二人が探し切れていない場所を回った。しかし目的のネオという人物は見つからず、まさかとは思ったが地元の警察車両が向かった海沿いの道の方へと車を走らせた。そうして一度向かった時には地元警察によって封鎖されていたこの道だったが、暗くなった今は警察は撤収し、封鎖も解かれていた。

 

「…引き返そう。もしかしたらネオが戻って来てるかもしれねぇ」

 

 不意にスティングが車を停めて言う。確かに偶然自分達の目には留まらず、実はたまたま時間に遅れただけで集合場所で待っているというのも考えられはするが、スティングの声から彼が藁にも縋る思いで言ったのだろう事は容易に読み取れた。

 

 アウルもスティングの提案に異は唱えず、車はUターンして後方へと走り出す。

 

 一台の車両が前から来たのは、Uターンして直後の事だった。すれ違い様に少女の声がした途端、車に急ブレーキが掛かる。

 

 何事か、とシンがそちらへ向いた時、ステラが声を上げた。

 

「ネオ!」

 

 反対車線に止まった車のドアが開き、そこから一人の少女が姿を現す。

 

 ルナマリアと似た赤色の髪を一括りにまとめて下ろした少女は、綺麗な微笑みを浮かべながらステラを見返してから、続いて運転席と助手席に座るスティング、アウルの方を見る。

 

「ネオ!てめっ、どこ行ってやがった!?」

 

「ごめんなさい。ちょっとトラブルに巻き込まれちゃって…。大丈夫、この人が助けてくれたから」

 

 スティングとアウルが車から降り、ネオへと駆け寄る。続いてステラもまた車から飛び降りた時、ネオと呼ばれる少女が乗っていた車からもう一人、金髪の少年が降りて来た。

 

 流れるように揺れる金髪と吸い込まれそうなサファイア色の瞳─────もしかして、コーディネイターだろうか?やや細身とはいえ、恐らくは男。しかし同性の人物に対して、綺麗だなんて思わされた経験はシンにとって今回が初めてだった。

 

 ふと、少年がシンの方へと向く。

 

「─────?」

 

 シンと視線が交わった瞬間、少年が目を微かに細めた気がした。まるでこちらを警戒しているかのような─────しかし少年とはこれが初対面の筈だ。これ程の美貌を誇る人物なんて、一度対面すれば忘れよう筈がない。

 

 視線が交わされたのはほんの一瞬、少年はにこやかな人の良い笑みを浮かべながらスティングの方へと向き直った。

 

 少年は偶然ネオと出会い、話が合った為二人で街を回っていた事。バイクに乗って今シン達がいるこの海沿いの道を走り、しばらく海を眺めてから引き返そうとするも道を現地警察が封鎖しており街に戻るまで時間が掛かった事。街に着いた頃には辺りは暗くなっており、集合場所に行ってみるも誰もおらず、もしかしたらネオを探しているのではないかと再び海沿いの道へ戻ってみたら、案の定だったと説明をする。

 

 率直に再会を喜び、ネオに抱き着くステラとは違いスティングとアウルは少年に対して警戒を剥き出しにしていた。しかしネオはどこも害されたり、拘束されている様子もない。

 

「スティング、アウル」

 

「…ふん」

 

「ケッ」

 

 更にネオから優し気に呼び掛けられ、渋々といった様子で二人は矛を収めた。

 

 何はともあれステラ達が探していた人物も無事だったのだし、これで一段落はついただろう。話もそこそこに、スティング、アウル、ステラの三人が先に車へと乗り込むが、そこで思わぬ事が起きた。スティングが運転する車は五人乗りで、ネオも乗るとなればシンとルナマリアは降りざるを得なかったのだ。

 

「なら、こちらで街までお送りしましょうか?」

 

 そこで声を掛けたのが、金髪の少年だった。表情や声からは怪しげな雰囲気は感じない。一先ず信用して良さそうな雰囲気だが…、ここから街までは歩くとなればかなり遠い。帰る時間が遅くなれば当然心配を掛けるだろうし、かといって最終手段でここに仲間を呼び出すのも気が引ける。

 

 シンはルナマリアと顔を見合わせた後、彼女がこくりと頷いたのを見てから少年の提案を呑む事にした。車内を見る限り、乗っているのは運転手と助手席に座るメイド服姿の女性の二人のみ。それに加えてシンと同年代か、或いは年上かの少年─────仮に襲い掛かられても撃退は可能…の筈だ。

 

「ルナマリア…、シン…」

 

 車に乗り込んだステラが、シンとルナマリアを見ながら悲し気に呼ぶ。そんな彼女にルナマリアが困ったように言葉を継いだ。

 

「大丈夫。また会えるから」

 

「…本当?」

 

「うん。だからステラ、元気でね?」

 

 心温まる姉妹の様なやり取りの後、ネオが後部座席、ステラの隣へと乗り込む。

 

()()()

 

 一瞬、誰の事かと思考の空白が生まれる。シンとルナマリアの後方に立って、先程のやり取りを眺めていた金髪の少年が言葉を発し、そしてそれに反応するように()()と呼ばれていた筈の少女が振り返った。

 

「ごめんなさい。…でも私はまだ、ここから離れる訳にはいかないの」

 

 第三者には要領を得ない、しかし言葉を交わす二人にのみ理解できる短いやり取りの後、スティングが車を奔らせる。

 

 車の姿は夜の闇に紛れてすぐに見えなくなり、エンジン音もどんどん遠ざかっていく。それでも尚、少年は車が走っていった方向をじっと見つめていた。

 

 悲し気に─────まるで愛しい人と引き裂かれたかのように。

 

()()様」

 

「…分かってる。僕達も行きましょうか」

 

 助手席に座るメイド姿の女性に呼び掛けられた後、未練を断ち切ろうとするように小さく頭を振ってから少年はシン達へと向き直った。

 

 その顔にはすでに先程の哀しい色はなく、綺麗な顔立ちに相応しい美しい微笑みを浮かべていた。

 

 ユウ、と呼ばれた少年に薦められて車に乗り込むシンとルナマリア。続いて少年が乗り込んでから車はUターンし、街の方へと走り出す。

 

 ─────いつか、また。

 

 シンは夜闇で見えない海の方へと視線を向けながら心の中で呟いた。戦争が終わったら、ルナマリアと一緒にステラに会いに行こう。手掛かりなんてまるでないのに、必ずまたどこかで会えると不思議な確信をシンは抱いていた。

 

 ふと、隣から鼻を啜る音がした。シンの隣に座っているのはルナマリアだった。顔を合わせてからたったの半日、しかしシンよりも濃い時間をステラと過ごし、彼女をまるで本当の妹のように世話を焼いていたルナマリア。あの別れが、悲しくない筈などあるまい。

 

 何も言わずシンはルナマリアの肩を抱く。一瞬小さく震えるも、ルナマリアはシンの行為に対して拒否を示さなかった。

 

「いつか、一緒に会いに行こう」

 

「…えぇ、そうね」

 

 シンに肩を抱かれたまま、ルナマリアは震える声で答えながら小さく頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




切りの良い所まで頑張ったら九千文字を超えました…。

色々とありましたが、フレイはユウとは一緒に行かずスッキリしない一区切りとなりました。この辺の話でスッキリするのはもう少し後という事で…。
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