フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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今回の話は少し短いです。
その癖、視点の切り替えがかなり激しいので注意してください。


PHASE18 別れの歌

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしいのですか?」

 

 アスランとの通信が切れた後、アデスがクルーゼに問い掛けた。

 

 つい先程、アデスがアスランへ言った通り、ストライクにラクスが本当に乗っているとは限らない。

 せめてストライクのコックピット内の映像が送り込まれていれば、そこにラクスが映されていれば、話は変わっていたのだが。

 

 地球軍の罠かもしれない─────アデスの懸念は尤もなものだった。

 

「チャンスである事も確かさ。アデス、艦を止めろ。まず私がシグーで先陣を切る。パイロット全員に心の準備をさせておけ」

 

「了解」

 

 だが、どちらにしても現在、足つきから発進したモビルスーツはストライク一機。

 クルーゼはこれをチャンスと捉えた。

 

 しばらくは様子を見よう。

 もし本当にストライクにラクスが乗っていたならば、イージスへ乗り移った所を確かめてから出撃。

 そうでなければアスランからすぐに連絡が入る筈だ。これは罠だった、と。

 

 ─────アスランの言う通りであるのなら、ストライクのパイロットはキラ・ヤマト、か。

 

 クルーゼにとって切ろうとしても切れない、ユウやムウと比べても同等に深い因縁がある相手である。

 

 ─────皮肉なものだな。まさか彼女が、奴と共に私の前に立ちはだかるとは。

 

 艦橋を出て通路を進むクルーゼが小さく自嘲の笑みを浮かべる。

 

 ─────私の邪魔をするなら、容赦はしない。ユウと一緒に、天へ返るがいい。

 

 冷たい決意と殺意と共に、格納庫へと着いたクルーゼはシグーへと乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『艦長!あれが勝手に言ってる事です!攻撃を!』

 

『んな事したら、今度は()()()()()()()()()()()()こっちを撃ってくるぜ。多分な』

 

『なっ─────!』

 

 兄さんの言葉に、顔こそ見えないもののバジルール少尉が絶句したのが分かった。

 

 いやまあそこまでするつもりはないけど…でもまあ、本当にアークエンジェルがイージスを攻撃するというのなら、せめてラクスがヴェサリウスへ戻るまではあの機体を守るつもりではいる。

 そうでなければ何のためにラクスを連れ出したのか、分からなくなるからな。

 

『ナスカ級、エンジン停止!イージス接近します!』

 

 スピリットの中では外がどんな状況なのか分からない。

 でも、どうやら無事にストライクとイージスは接触できたようだ。

 きっと今頃、キラとアスラン、ラクスの三人は原作通りの会話をしているのだろうか─────。

 

 ─────ここで原作ブレイクは起こらんだろ。いや、流石に。

 

 まさかラクスがアークエンジェルへ逆戻り、なんて事はならない筈。

 もしそうなったら俺はキレる自信がある。そんで今度は俺がラクスをスピリットに乗せて、ヴェサリウスへ届けるね。

 間違いなくそんな事はないだろうけど。

 

「っ─────」

 

 その時、俺の中の何かが、正体不明の感覚に触れる。

 

 強い冷気、膨れ上がる敵意。

 

 それが何なのか、考えるまでもなかった。

 

『敵艦よりモビルスーツ発進っ!』

 

 艦橋からの報告がコックピットへ届いた頃には、すでに俺はスピリットの発進シークエンスを済ませていた。

 

「スピリット、行きます!」

 

『こうなると思ってたぜ!ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!』

 

 まず俺が、そして少し遅れて兄さんのメビウスが発進する。

 

『ユウっ!フラガ大尉!?』

 

『何もしてこないと思ったか?悪いが、敵はそこまで甘くねぇぞ!』

 

 戸惑うキラを置き去りに、スピリットとメビウスが前へと躍り出る。

 

 俺達の視線の向こう側では、イージスの傍らで少しの間留まっていたシグーが再度こちらへ進路をとり迫って来ていた。

 

『ユウ、切り込め!』

 

「了解!」

 

 メビウスから二基のガンバレルが分離される。

 不規則な軌道を描きながら、ガンバレルはシグーを取り囲み、火砲を放つ─────前に突如シグーの動きが止まる。

 

 突然の事に驚いた兄さんがガンバレルの動きを止める。

 

『な、なんだ…?』

 

「…っ」

 

 戸惑う兄さんと俺の前で、シグーは未だ動きを止めたままだった。

 こちらを視界に捉えつつ、されど何か別の事をしているのだろうか。

 

 …恐らくクルーゼは、ラクスと話をしているんだ。

 原作ではラクスの命令に従い軍を退かせたが、今回は果たして─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やめてください。追悼慰霊団代表のわたくしのいる場所を、戦場にするおつもりですか?そんな事は許しません!』

 

 いつも穏やかな、優しい歌を歌うラクス・クラインしか知らなかったクルーゼは、そんな彼女の凛とした声に少なからず驚いていた。

 

 だが、彼女の()()()()()()を考えれば納得のいく事だと、すぐに気を取り直す。

 

 しかし困った。

 追悼慰霊団代表がいる場所が戦場となれば、色々と五月蠅くなる者達はいる。

 だからといって、こんなチャンスをみすみす逃す訳にもいかない。

 

 目の前にスピリットが、メビウスが、ストライクがいる。

 ラクスを保護した以上、任務を達成する為にすぐにクルーゼ隊はプラントへ戻らなければならない。

 その間に、足つきが第八艦隊と合流すれば…?正直、面倒な事になる。

 

『すぐに戦闘行動を中止してください!聞こえませんか!?』

 

 ラクスの声からは、猛々しささえ感じられた。

 さぞ、あのお嬢様は戦いというものが嫌いらしい。

 

 …しかし、戦わなければ得られないものがあるという事を、彼女は知らない。

 

「アデス!モビルスーツ全機発進だ!」

 

『隊長!?』

 

「アスランはヴェサリウスにクライン嬢を下ろした後、再出撃しろ。今日こそ足つきを墜とす!」

 

 クルーゼはヴェサリウスのアデスに命令、その後アスランへも指示を出した後、スピリットとメビウスへ機体を向ける。

 

『ラウ・ル・クルーゼ隊長!わたくしの言葉が聞こえなかったのですか!?今すぐ戦闘を─────』

 

「申し訳ないが、ラクス・クライン。私が貴女の命令を聞く筋合いはないのでね!」

 

 追悼慰霊団代表、響きこそ大層なものではあるが、実態はただのボランティア。軍に対しての発言力など、微塵も持っていない。

 故に、クルーゼがラクスの命令を聞く必要など微塵もない。

 

 繰り返すが、ラクスがいる場所を戦場にする─────その行為に様々な反発がある事はクルーゼとて予期している。

 しかしそれを考慮してなお、クルーゼの中の天秤が傾く事はなかった。

 

 クルーゼはビームコーテイングが施されたシールドを掲げながら、機体をスピリットの方へと向かわせる─────その直後だった。

 

「っ、な、なんだ!?」

 

 全身を包み込むような、心地よい温かさを感じたのはほんの一瞬。

 その一瞬の間にクルーゼの中へ流れ込んだのは、とある二人の優しい感情。言葉のやり取り。

 

 それは、ユウとの戦闘中に彼と交わされた、声を介さない会話、あれの感覚によく似ていた。

 

 気付けば全身を包む温かさは消え、今度はクルーゼの中で戸惑いが湧き上がる。

 

 ─────今のは何だ…!?

 

 あんな感覚は初めてだった。

 それも、他者同士のやり取りを感じ取っただけで、あんな気持ちになるなんて─────。

 

 ─────やり取り…。人間同士のやり取りを、私は感じ取ったというのか?

 

 さしものクルーゼでも、どうしても戸惑いを隠す事は出来なかった。

 手は震え、仮面に隠された額には汗が滲む。

 

 だが─────当のやり取りを交わしていた()()()は動きを止めている。

 クルーゼは未だに揺れ動く気持ちを必死に引き締め直そうとしながら、機体をスピリットへと向かわせる。

 

 直後、シグーの接近に気付いたスピリットもまた、シグーへと向かっていく。

 

 秒と経たず、互いが掲げたシールドがぶつかり合う。

 

 こうして、ラウ・ル・クルーゼとユウ・ラ・フラガの三度目の死闘は始まりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クルーゼのシグーがこちらに向かって来ようとしている。

 どうやら、ラクスの説得は失敗に終わったらしい。

 

 その可能性も織り込み済みだったから、動揺はしない。

 すぐにこちらも交戦体勢に入り、クルーゼを迎え撃とうとする。

 

 だけど─────流石にこれは、少し驚くしかなかった。

 

 クルーゼを迎え撃とうとした直後、優しい声がした。

 耳に届いた訳ではなく、頭の中に直接声が注ぎ込まれる感覚。

 こうして言葉に表せばさぞ気味の悪い感覚に思えるだろうが、その感覚を味わう本人としては、全く不快には感じられない。

 

『ごめんなさい…、ごめんなさい!』

 

 声は、誰かに謝っていた。

 その誰かというのが何者なのか、俺には考えるまでもなくすぐに分かった。

 

『ラクス』

 

 声の主の名前を言い当てた瞬間─────世界が変わる。

 

 周囲を渦巻く敵意も、スピーカーから聞こえてくるアークエンジェルからの報告も、何もかもが消え失せ、世界にはたった二人が残される。

 

 先程別れた筈のラクスが目の前に居て、両手で顔を覆いながら体を震わせている。

 

 泣いている、のだろうか?

 彼女に近付き、声を掛ける。

 

『ラクス』

 

 もう一度彼女の名を呼ぶと、ラクスはゆっくりと顔を上げ、赤く腫らした目でこちらを見上げる。

 

『なんで泣いてるんだよ』

 

『だって…。貴方はまた、彼と戦うのでしょう?クルーゼ隊長と、苦しんで、傷ついて…!キラもきっと、またアスランと戦う筈です!それを、止めたかった…なのに…!』

 

 あぁ、やっぱり彼女はクルーゼを止めようとしていたのだ。

 それでもあいつは止まらず、また戦場に巻き込まれる俺とキラを憂いて、涙を流している。

 

『俺にもキラにも、その気持ちだけで充分だよ。ありがとう』

 

『…ユウ』

 

 優しい人だ。

 どうして会ったばかりの相手に対して、こんなにも優しくあれるのだろう。

 

 ラクスの手がこちらに伸びて、ヘルメットに触れる。

 

 彼女から流れ込んでくる感情は優しくて、温かくて、心地よかった。

 …それでも、この感覚に身を落としてはならない。流されてはいけない。

 

 何故なら、ラクスがこの感情を向けるべき本当の相手は俺ではないから。

 

 ─────俺であってはいけないのだから。

 

『ユウ、わたくしは─────!」

 

『ここまでだ、ラクス。あの時…ストライクに乗る前に俺に言ってくれた言葉、嬉しかったよ。プラントに戻ってからも、元気で』

 

『ユウっ!』

 

 ラクスとの共鳴から抜け出し、自ら終わらせる。

 

 瞬間、あの包み込むような温かさは消え、代わりに敵意に満ちた冷気が身を襲う。

 

「…覗き見なんて、趣味が悪いと思わないか?クルーゼっ!」

 

 目の前では、仇敵がこちらへシールドを掲げながら向かってきていた。

 俺も、スピリットのシールドを跳ね上げて掲げ、こちらへ来るシグーへ向けてスラスターを吹かせる。

 

 何度目かもう分からない、今回の戦闘での最初の衝突は、これから始まるであろう死闘の始まりを告げるゴングとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス…。大丈夫ですか?」

 

「…はい。すみません、大丈夫ですわ」

 

 クルーゼの命令通りにヴェサリウスへと向かうイージスのコックピットの中で、ラクスは涙を流していた。

 

 ─────止められなかった。

 

 ユウとクルーゼの衝突─────ラクスからすれば、温かく優しい光が、底知れぬ深い闇に呑み込まれた様に感じられた。

 闇に呑まれた光が、そのまま二度と生きて戻って来れない─────そんな予感を、ラクスはどうしても拭う事が出来ずにいた。

 

「…アスランは、わたくしを送り届けてからどうするおつもりですか?」

 

「…勿論、再度出撃して戦います」

 

「キラさんと…貴方のご友人と、戦う事になったとしても?」

 

「はい。…今でも俺は、あいつを友達だと思っています。でも、敵として俺の前に立ちはだかるなら、撃つしかありません」

 

「…」

 

 あぁ─────どうしてこうなるのだろう。

 ずっとプラントに居て、外から入ってくる情報だけを見て、戦争について知ったつもりになっていた。

 

 こんなにも、こんなにも、戦争というものは残酷なのか。

 憎しみ、怒り、苦しみ、悲しみ、実際の戦場を目の当たりにしたラクスは、それらの感情が渦巻く様を前に慄く。

 

 こんな世界でユウ達は立ち、戦っているのか。

 

 あんなにも優しくて、戦いとは程遠く思える人達が、こんな場所で─────。

 

「っ…!」

 

 またも零れ落ちようとする涙を堪える。

 

 そんな資格はない。

 ずっと揺り籠の中でぬくぬくと過ごしてきた自分に、そんな資格はない。

 

 ラクスは自身を奮い立たせながら、近付く戦艦に目を向ける。

 

 お別れ─────それでもせめて、彼らが無事であるようにと願うラクスを乗せた機体が着艦する。

 

 機体の背後で閉まるハッチは、まるで自分と彼らの世界を閉ざす壁の様にも見えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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