最近の気温の下がりようで体調崩していました。喉が痛い、咳が出る、でも熱はないから仕事は行く。うん、素直に相談して休めば良かったね。皆様も体調にはお気をつけて…。
という事で調子もすっかり戻った所で活動再開。本当なら今話でダーダネルス海峡戦を終わらせるつもりだったのですが、最後まで書いたら一万文字を余裕で越していきそうだったので…キリの良い所で分けて投稿です。
…何か話が伸びる言い訳いつもこればっかりだな(苦笑)
オーブが派兵する─────その報せは、数日前にアークエンジェルにも届いていた。クルー達が当然の衝撃を受ける中、その中でも驚きが顕著だったのは年若いマユだった。信じられないと愕然とするマユへ、しかしバルトフェルドが静かに言った。
「仕方なかろう。同盟を結ぶという事は、そういう事だ」
オーブは同盟に加わった─────つまり国と国同士で協力し合うと契約したのだ。どれだけ戦いたくないと願おうとも、同盟国の危機に対して力を貸さなければならない義務がオーブにはある。
「オーブが連合の陣営についたとなると、また色々とバランスが変わるだろうな…」
ムウの静かな言葉を聞きながら、その内容はマユの頭の中に入っては来なかった。彼女にとって最も衝撃だったのは、オーブが派兵に踏み切ったという事実ではない。むしろその点については、マユ自身そうなるだろうとすでに覚悟の上だった。
問題は派兵を命じられた艦─────その中に、ハルオミ・トダカが乗るタケミカズチがあった事だった。
戦況、両陣営のバランス、それよりもマユが気掛かりだったのは、彼女がもう一人の父として慕う恩人の安否だ。派兵メンバーに加わり、更に旗艦として指定されたタケミカズチの艦長であるトダカ─────彼の傍に今、マユはいない。彼を守る事もできない。
マユが血の滲むような努力の果てに力を手に入れたのは、二度と大切な誰かを奪われたくない為だったのに。その為にとった筈の選択が、彼女を縛り付ける事となってしまった。
「何とか、ならないんでしょうか…」
頭の中で分かっていても、マユの心は納得してはくれなかった。周りのクルー達が気遣わし気に少女に目を向ける。その目を見て返ってくるであろう答えに見当はついていたが、それでも言わずにはいられない。
「今からでもオーブを退かせる事ができれば…っ」
「どうやって?これから俺達が介入する訳にもいかないんだぞ。…いや、介入したとしても、この限られた戦力じゃあ摺り潰されるのがオチだろうに」
マユの必死の訴えにバルトフェルドの厳しい返しが叩きつけられ、彼女は息を呑む。バルトフェルドとて、マユの心情は察していた筈だ。その上で…いやだからこそ、厳しく不可能だと突き返したのだ。自分らの目的を達する為に、そして自分らの命を守る為に。
やはり、ダメなのか─────バルトフェルドの心情も理解できるからこそ、マユの落胆は大きかった。そんな肩を落とす彼女の傍らに、誰かが歩み寄って来た。他者が近づいてくる気配に顔を上げようとしたマユの肩に、誰かの大きな手が優しくポン、と乗せられる。
「俺は嬢ちゃんに賛成だ。どこまでやれるかは正直分からんが、俺達も出向くべきだと思う」
思わぬ加勢だった。加勢を受けたマユだけでなくこの場にいる全員が、マユの隣で笑みを浮かべる
「…ムウ、分かってるの?私達が表立って動けばどうなるか…」
「あぁ」
「なら、どうして貴方はそう思うのかしら?」
衝撃から最も早く立ち直ったマリューが、ムウへと静かに問いかける。先程バルトフェルドが語った事だけではない。地球軍、ザフトの対峙する戦場へアークエンジェルが姿を晒せば当然両国の追及の矛先がオーブへ向けられるだろう。
しかしムウは、フッと不敵の笑みを浮かべながら一言、簡潔にこう答えるのだった。
「
普通の人間であれば一笑に付せられたであろう返答も、ムウが口にするのであれば別の話であった。現にダーダネルス海峡へと辿り着いた彼らの目の前には、身を潜めてどれだけ探そうとも影を掴む事も出来なかった目標が姿を現していたのだから。
「ったく…。ようやく見つけたぜ?
先程まで続けていた激しい交錯を中断し、戦場に姿を現したアークエンジェルへとカメラを向ける黒赤色のアストレイを見つめながら、艦橋の中のムウは小さく呟いたのだった。
先んじてアークエンジェルから出撃したフリーダムとゼノス─────先程アストレイを援護する射撃を放ったのは、キラのフリーダムだった。キラ自身何故かは分からないが、咄嗟にそうしなければらないと、アストレイを助けてしまった。
その理由は…数拍を置いて、何となく察する事ができた。
『キラ』
「うん。…ようやく見つけたね」
『そうですわね』
アークエンジェルから届いた通信に乗って、ラクスの声が聞こえてくる。彼女もキラと同じく、分かったのだろう。あのアストレイに乗っているのがどこの誰なのかを……その証拠に、ラクスの声から喜色が感じられる。
たった今キラが言った通り、ようやくだ。国を去ってからおよそ一年半、一日たりとも彼の身を案じない日はなかった。再会を願わない日もなかった。自身の目にその姿は映らずとも今、キラとラクスの傍に、
「─────っ」
数百日ぶりの邂逅の喜びに浸りたい所ではあるが、そう問屋は卸さない。突然の乱入者に対して素早く硬直を解いた地球・オーブ連合軍が動き出す。
『っ、お父さん…』
モニターの中でマユが厳しい表情を浮かべているのが映される。実情を知らない者達から見ればアークエンジェルは国を出た脱走艦だ。それを撃とうとしない方が不自然─────だからこそ、事情を知った上でマユの父は…トダカは撃ったのだ。きっと、キラに娘を守ってほしいと願いながら………。
その理由を察しても尚、マユにとっては衝撃だったのかもしれない。ただそれを責めようとはせず受け止めようと努めている様が、キラには痛々しく見えた。
─────やはりマユを出撃させるべきではなかったのか。少女の熱意に押された少し前の自分に後悔の念を抱き始めたキラは、一度それを振り払って機体を前へと押し出す。そして再びフリーダムの全砲門に火をつけた。狙うはアークエンジェルから見て左方の地球・オーブ連合軍のモビルスーツ群。コックピットは狙わず、相手の武装や四肢パーツを狙って撃ち抜き、敵の戦闘能力のみを奪っていく。
「マユちゃん、ユウをお願い!後方からの援護に集中して、絶対に前には出ないで!」
『─────は、はいっ!』
「ムウさんはアークエンジェルを!」
『あいよ!』
一対多という面においてフリーダムとゼノスを比べるなら、搭載されている武装の関係上前者の方が得策だろう。それにマユはシミュレーションは問題なく熟しているとはいえ、ゼノスに初めて乗る上に実戦は初だ。それでユウと渡り合える敵を相手取るのも至難だろうが、そこは後方からの援護に徹しさせる事でフォロー。マユもエース級の腕を持っている、それを発揮さえできればそう簡単に撃墜はされない筈だ。
そしてアークエンジェルの守りはムウにお願いする。キラの声に力強く答えたムウが副操縦席から立ち上がったのを見てから、キラは通信モニターを切って前方から殺到するモビルスーツ群へと意識を向ける。
キラの正確な射撃が次々と敵モビルスーツを戦闘不能に陥れていく。そんな獅子奮迅の戦いをするフリーダムへと、地球・オーブ連合軍の意識が集中する。
それでいい。できる限り多くの意識がキラに集中すれば、マユやアークエンジェルも動きやすくなる。後はザフトの方だが─────オレンジの機体、グフがビームソードを出力してムラサメへと斬りかかっていくのを見つけたキラが機体を翻し、そちらへ飛び掛かる。
グフがムラサメを切り裂くよりも先にビーム射撃による牽制で動きを止め、ビームサーベルで斬りかかる。相手の反応も中々、咄嗟にシールドを掲げられフリーダムの斬撃が受け止められるがその代償にグフの体勢が大きく崩れる。そこを逃さずキラは機体の右脚を振り抜いてグフを海面へと突き落とした。海面に叩きつけられたグフを見る事もなく、キラは次なる相手を見据える。
第一の目的はユウを連れ帰る事。ただ目の前で命を燃やす争いが起きているのなら、新たにすべき事がある。
キラは操縦桿を力強く握り締め、フリーダムの砲火を再び前方モビルスーツ群へ向ける─────直後、何かに駆られるようにキラは機体をその場から離す。同時に視界を横切る光条、ではなくキラはすでに彼女へと迫る
シールドを掲げるのと同時にコックピット内が衝撃音と共に揺らぐ。モニターにハッキリと映し出されるのは、ツインアイを光らせた紫紺のモビルスーツ─────ヨセフ・ベリアルが操るグーラだ。
先に距離を取ったのはグーラ。グーラは従来のものと比べて一回りは大きいビームライフルを取り出すと、大出力のビームをフリーダムへ向けて射出。対してキラも華麗にそれを躱しながらビームライフルと同時に両肩に展開したバラエーナで応戦。二機は激しく砲撃を撃ち交わしながら、交錯を続けるのだった。
「キラ…ッ、クソッ!」
来てしまった………間に合ってしまった。ユウは痛恨の思いに駆られながらも、硬直から解き放たれ再び襲い掛かって来たセイバーと交戦を再開していた。一度戦局が停止し、仕切り直しとなった事で先程よりも戦況に余裕はある。が、ユウの心境はそれとは対極的だった。
何故来た─────何故来てしまった!?いや、分かっている。キラ、ラクス達がここに来た理由くらい。参戦したオーブ軍を見過ごせなかった?オーブ軍艦隊にトダカ一佐が所属しているのが分かったから?それもあるだろう。だが一番の理由は、
フリーダムがモビルスーツ群を相手に奮戦している。射出されたムラサメがアークエンジェルを護衛している。─────ユウには分かる。あの二機に乗っているのが一体誰なのか…そして、あの二人が、そして今アークエンジェルに乗っているであろう彼女が、この瞬間、ここにユウ・ラ・フラガがいるのだと気付いている事を。
すぐにフォローに向かいたい。この戦闘を今すぐに収めて彼らを無事に帰したい。そんなユウの願望を目の前の強者が、シュラ・サーペンタインが踏み躙る。
「グゥッ…!」
的確な角度からのセイバーの突撃にアストレイの体勢が崩される。咄嗟に斬撃を防ぐ事は出来たが、受け流しきる事は出来なかった。当然その隙を、シュラが見逃す筈もない─────
「─────!?」
ビームライフルの銃口が正確にアストレイのコックピットへ向けられ火を噴こうとした時、セイバーへ向けて一筋のビームが放たれる。単純な射撃、当然それは命中する事なく躱されてしまうがセイバーの攻撃が止みユウは九死に一生を得る。しかし、一体誰が?
「ゼノス…」
切り替えたカメラが映したのはセイバーへ向けてライフルを構えた黒金の機体─────かつてのユウの愛機であったゼノス。先程ユウを助けてくれたのは間違いなくこのゼノスなのだろうが、ではこの機体には誰が乗っているのか。
キラやムウではないのは間違いない。二人がそれぞれフリーダム、ムラサメに乗っているのは感じ取れている。ならばバルトフェルド………いや、彼も腕の立つパイロットではあるがゼノスに乗るくらいなら他の機体に乗っているだろう。それなら─────一人、ユウには心当たりがあった。
「まさか、
戦いの邪魔立てに腹を立てたのか、分からないがセイバーがアストレイではなくゼノスへ向かっていく。対するゼノスも素早く反応して身構えるが、あれを相手にするにはまだマユでは早すぎる…!
ユウはビームサーベルを一本抜いてゼノスへと迫るセイバーの鼻先に向けて投擲。セイバーが投擲を躱す為に急制動を掛けた所を、天羽々斬で斬りかかる。凄まじい機動力で迫るアストレイ、通常の相手であれば反応する事すら許されず、甘んじて受けるしかできない斬撃をしかし、セイバーのパイロット─────シュラ・サーペンタインはあっさりとシールドで受け止める。
反応速度もそうだが、やはり思考の先読みが厄介だ。この能力がある限りシュラに死角はなく、裏を取られる事もない。原作でのシンのように反射のみで戦い相手に思考を読ませないなんて事ができれば話は早いのだが、生憎ユウ・ラ・フラガはそんなタイプではない。敵の攻撃に対し反射的に避け、防ぐ事はできてもどうしても攻撃の際には思考が混じってしまう。
もう一つの手としては、原作でのアスランと同じく仲間の手を頼る事だが─────
「っ、マユ…!」
斬撃を受け止めたセイバーがビームサーベルを振るう。それを躱したアストレイと再び凄まじい速度で交錯を繰り返す。そこに、セイバーの動きを妨げようとするようにビームを撃ちかけてくるのはゼノス………マユだ。
こちらを援護してくれるのか。………果たしてその援護の手を取っても良いものか。マユを…キラを、皆を──────勝手に彼らの下を離れ、一年以上も音信不通で心配を掛けただろうに、そんな身分で都合よく仲間を頼っていいのか?
─────刹那、ユウは何か温かい感触に身を包まれた気がした。長らく無自覚な孤独と共に、気付かぬ間に凍り付いていた心がゆっくりと溶かされていく。そしてユウは、自分が悪い癖にまた苛まれていた事を自覚した。
死角から迫るセイバーの斬撃を振り返りざまに受け止め、機体の左足を振り抜いて弾き飛ばす。流れるような操縦を熟すユウの脳裏には、自分の全てが知りたいと、自分の全てを受け止めたいと言ってくれた二人の顔が思い出されていた。頼って駄目な筈がない………信頼できる相手になら、寄り掛かっても大丈夫なのだと教えてくれた二人の言葉を、ユウは忘れていない。
かつての愛機だ、ゼノスの通信コードは当然覚えている。手早くコードを入力、こちらとゼノスの通信を繋げて─────ユウはゼノスの背後から迫る
「マユっ、後ろだッ!」
こちらの声は果たして届いたのか否か。どちらにしろ、斯くしてビームライフルをセイバーへ向けていたゼノスは翻し、背後から近づくモビルスーツと視線を交わす。両機がぶつかり合うまでそう時間はかからなかった。
シールドを掲げて相手の突撃を受け止めるのはゼノス。そして、僚機の危機と見てこちらへ向かって来たのだろう─────トリコロールのザフト機、
─────それは運命の悪戯か。互いは互いを認識せず、ただ戦うべき敵としてぶつかり合う。
ゼノスとインパルス。マユ・アスカとシン・アスカ。互いが生きているとも知らず、銃口を向けて砲火を撃ち交わす。
片や憧憬を向ける相手を助ける為に。片や戦場を共に、背中を預ける仲間を助ける為に。
この衝突の残酷さを知るのは、世界にたった一人だけ。その一人もこの救いのない衝突を止めに動く事はできない。
止められる者は誰もいない。掛け替えのない筈の兄妹の道は、どうしようもなく分かたれていた。
「こいつは…っ!」
自身へ向けて閃光を放つトリコロールの機体、インパルスを睨みつけながらマユは近い過去の映像を呼び起こしていた。ユニウスセブン落下による地球の生命滅亡という絶望を食い止め、オーブに停泊していたミネルバの出港の情報がどこからか漏れ、境界線付近で待ち構えていた地球軍艦隊。両者の戦闘において、最も奮迅の戦いぶりを見せた機体であり、今の自分では叶わないと思わされたマユにとって因縁を感じさせる相手。
「これが…、ゼノス─────!」
一方のシンにとっても、ゼノスというモビルスーツは因縁深い機体であった。何しろこのゼノスは、シンの恩人の
両者の間を飛び交う砲火は吹き荒れる嵐のように激しく、凄まじい。繰り返しになるが、この激しい衝突を止められる者は誰もいない。
誰の手も入らない両者の交錯は更に苛烈に、衝突によって火花を散らすのだった。
次こそ、ダーダネルス海峡戦の結び、の予定です。