殆ど内容に触れていませんが、劇場版のネタバレがほんの少しだけあります。
ご注意ください。
転生者ことこの俺、ユウ・ラ・フラガが生を受けてから早いもので、15年が経った。
その間、俺の周りで起こった事と、俺が何をしてきたかを話しておこうと思う。
まず初めに言うと、両親は俺が3歳の頃に死んだ。屋敷が燃え、逃げ遅れた両親は敢え無く亡くなった。
犯人はまあ、言うまでもなくSEEDのラスボスであるラウ・ル・クルーゼだろう。
…助けようと思ってはいた。親父はともかく、お袋は優しかったし、人を人と思っていないような教育を親父から受ける俺をいつも気に掛けてくれていたし、出来る事なら助けたかった。だが、小さく、何の力もない俺では何も出来なかった。
原作ではいつ両親が死んだのかという明確な情報はなく、いつクルーゼの襲撃があるのか分からないまま警戒をして、結果、気付いた時には手遅れだった。
両親が亡くなってからは、親父が残した資産で俺とムウ─────兄さんの二人で食い繋いだ。
といっても、親父が残した資産は莫大なものだったし、何なら俺と兄さんの二人で遊んで暮らせるくらいには余裕があった。
しかし、そんな莫大な資産を子供が持っていると知られれば、当然周囲の悪い大人から狙われる。
その為、親父が生前傍に置いていた執事、メイドの中から数人選抜し、今度は俺達の傍に置く事にした。
フラガの家系は代々直感的に先を読む能力を受け継いでいる。原作で見られた兄さんやクルーゼの、あのニュータイプ的な能力がそれだ。
当然、フラガに産まれた俺にもその能力は受け継がれている。その能力を駆使して、信用のおける数人を傍に置いて俺達は生き続けるしかなかった。
そして当たり前だが、俺達がこうして苦労しながら生きていく間にも、コズミックイラという世界の時は進み続けていた。
ナチュラルとコーディネーター。二つの種族の間に流れる緊張、刻まれた溝は大きくなっていくばかりだ。
「ユウ。俺さ、軍に入ろうと思うんだ」
兄さんが俺にそう口にしたのは、俺が6歳の時─────兄さんが19歳の時だった。
気になってはいたのだ。兄さんが地球軍へ入隊するのはいつなのだろうか、と。これもまた、原作で明確な情報がなかった。
…この時、俺は兄さんを止めるべきだったのか分からない。
俺はこの世界の住人じゃない。だから、こんな感情を持って良いのか甚だ疑問だ。
─────嫌だ。兄さんに危ない所に行ってほしくない。
衝動的にそんな台詞が口を突いて出そうになったのを、俺は今でも鮮明に覚えている。
兄さんは、お袋と一緒でずっと俺を気に掛けてくれていた。
親父に何度も叩きのめされていた俺を。両親が亡くなってからは一層、俺を気に掛けてくれるようになった。
世界情勢の緊張は高まっていき、いつしか開戦もやむ無しではという言葉すらどこからか聞こえてくるようになった。
─────兄さんが軍に入ろうとしてるのは、俺の所為だ。
原作では、ムウ・ラ・フラガが入隊した理由は語られていない。
だけど今─────この世界での彼が入隊を決意した理由は、分かる。弟であり、唯一の家族である俺を守る為だ。
この時、俺はようやく思い知る。
この世界で生きている彼らはキャラクターではない。人間なのだ。
命を持ち、生を謳歌し、やがて死んでいく、生物なのだ。
「あぁ─────分かった」
俺は、兄さんに言った。
だけどこの台詞は、兄さんに向けて言ったのと同時に、自分自身に向けて言い聞かせたものでもあった。
兄さんに軍に入ると言われて初めて、
前世で俺は、機動戦士ガンダムSEEDという作品を見続けて来た。SEED、続編のDestiny、そして劇場で公開されたSEED FREEDOMも。
他に公開されている外伝までは手を付けていないが、とにかく何が言いたいのかというと、俺はSEEDという作品が大好きだ。
SEEDに出てくるキャラクター、機体、それら全ては俺の心を掴んで離さなかった。
…やろう。
この世界は前世で見た、結末が決まっている物語ではない。生きている人が織りなす、予測不可能な世界なのだ。
劇場版の最後まで生き残った兄さんだって、どうなるか分からない。
主人公であるキラ・ヤマトだって、もしかしたら死ぬなんて事になるかもしれない。
ふざけるな。俺が産まれた事で、あのハッピーエンドが汚れるなんて事はあってはならない。
ならば、覚悟を決めろ。幸い、俺はフラガ家が残した才能を受け継いでいる。力にはなれる筈だ。
そう思ってたんですけど、ね…。
「軍に入る!?止めてくれ!」
と、兄さんに言われてしまいましたよ。
色々考えた結果、手っ取り早く原作主要人物に関わるには地球軍に入るのが一番いいと思ったんだけどなー…。
軍へ入ってパイロットとして功績を残し、後に開発されるGATシリーズのパイロットに選ばれる。計画としてガバガバなのは分かるけど、功績を残していけばパイロットに立候補くらいは出来るかも、と考えてはいた。
…贅沢を言うならば、血のバレンタインを防ぐ事だって出来るかもしれない、なんて考えもあった。
結局、その計画は破綻したんですけどね。
いやー、初めてだったね、兄弟喧嘩をしたのは。結果、負けたのは俺でした、と。
兄さんに涙声で止めてくれ、なんて言われたらそりゃ負けますよ。
まさか、未来に核ミサイル撃たれてユニウスセブンが崩壊するよ。その報復としてプラントが地球にNジャマーを散布して、結果億単位で人が死ぬよ、なんて言えないし。
だから地球軍への入隊は諦めた。だが、GATシリーズのパイロットになるのを諦めたつもりはない。
C.E.71 1月、俺はオーブ連合首長国所属のスペースコロニー。
「…今日で1週間か」
ザフトがカオシュン宇宙港への攻撃を開始したというニュースを受けてすぐ、俺はヘリオポリスへと向かった。当然、執事達には兄さんへの口止めをして。
原作ではカオシュンが陥落したというニュースをキラ達が聞いてすぐ、ヘリオポリスの襲撃が行われた。
まだそのニュースは流れていないが、恐らく原作が始まるまでそう時間はない筈だ。
─────改めて、計画を確認する。
まず、襲撃が始まったら、避難民のどさくさに紛れて工廠区へと向かう。ヘリオポリスへ来てからすでに1週間、コロニーの構造はとっくに頭に入っている。
そして狙う機体だが、ブリッツが良いと考えている。
武装が豊富で、何よりミラージュコロイドを展開するシステムを搭載している。
ミラージュコロイドとは、可視光線や赤外線をはじめとする電磁波を偏向させる架空の特殊粒子の事だ。ブリッツはそれを散布して、自機の姿を隠匿する事が可能なのだ。
…色々言われてるけど、普通に凶悪な機体なんだよな。ブリッツに乗る事が出来れば、俺が介入したこの先の展開がどれだけ楽になるか。
それに、もし俺がブリッツに乗った場合、ニコルがこの機体で戦場に出る事もない。ニコルがキラに殺される、という展開も恐らく回避できる。
「…さて、と。今日はどこで昼にしようか─────っ」
時刻ももうお昼時。腹も空いてきた事だし、そろそろ昼ご飯を食べに行こうと考えたその時だった。
音、とは違う。頭に響く、形容し難い感覚。
だけど決して不快ではない。むしろ、胸に暖かささえ覚える。
「…兄さんか」
兄さんが、GATシリーズの本来のパイロットを乗せた船の護衛を終えて、このヘリオポリスへとやって来たのだ。
だとしたら…今日だ。今日、ザフト─────ラウ・ル・クルーゼによるヘリオポリス襲撃が行われる。
「遂に、か」
俺がこの世界に生を受けてから15年。俺がこの世界ですべき事を定めてから9年。
遂に始まるのだ。…ガンダムSEEDが。
「っ!!?」
そう思った直後、突然響き渡る爆音と振動。
大きな揺れに耐えられず崩れた体勢を、体を屈めて立て直す。
「嘘だろ…!?早い…!」
ザフトの襲撃が思ったよりも早すぎる。兄さんが乗った艦がヘリオポリスへ入ってすぐに襲撃が始まったのか、或いは俺が兄さんの存在を感じるのが遅れたのか。
「くそっ!」
分からないが、考えるよりもまず行動に移さなければならない。
未だにコロニーが揺れる中、足を工廠区の方へと向けて駆け出す。
だが、ここから足で走ったとして間に合うのか?ヘリオポリスへ来てから1週間、一向に襲撃が来ないから完全に油断していた。
来て当初は、工廠区から比較的近い所を行動範囲にしていたのに。
…いや、後悔してももう遅い。そんな事をしても時間の無駄でしかない。
「あれは…」
とにかく全力で走る足を動かしていると、ふとある物が目に入る。
それは、避難の為に乗り捨てられた車だった。扉は開いたまま、中の運転席が覗いて見える。
「っ─────!」
迷いはなかった。
即座に足の向ける方向を変えて車へと乗り込む。エンジンは点けっぱなし、先程の衝撃の中でもまだ車は壊れていなかった。
ハンドルを握り、アクセルを踏んで車を工廠区へ向けて走らせる。
時折響く揺れにハンドルを取られそうになりながら、車の運転を続ける。
工廠区へある程度近付いてから俺は車を止めて、車から降りる。
ここからはザフトの目もある筈だ。車で不用意に近付けば、あっという間にハチの巣だ。
それならば人の足で、軍人達の目を搔い潜りながら近付いていくしかない。
「…遅かったか」
すでに事は始まっていた。工廠区から出て来たと思われる輸送車を、ザフトが襲っていた。
輸送車の数は3台。あの中に、ブリッツがある筈だ。
「一体どれが…っ」
ブリッツが収容されている車か、と続けようとした時だった。
ゆっくりと立ち上がる、巨大な影。1機、2機、3機と続けて立ち上がったのは、巨大な人型兵器─────モビルスーツだ。
「…駄目かっ!」
決断は迅速に。
デュエル、バスター、そしてブリッツの3機はザフトの手に渡ってしまった。ならばもうここに用はない。
俺の計画は失敗し、残された手は逃げる事だけ。
工廠区には避難用のシェルターがある。そこに逃げ込んで、今は待つしかない。
「はぁっ…はぁっ…!」
激しく息が乱れる。それでも走るペースを遅める事なく、地球軍とザフトの戦闘の隙を突いて工廠区の中へと飛び込んだ。
「はぁっ…!便利な事で、この能力は!」
先読みの能力を駆使しながらスニークを続ける、俺の気分はメタルなギアだ。
当然の事ながら、工廠区内でも銃撃戦は行われていた。
視界の端で飛び散る鮮血、響き渡る悲鳴。今まで俺が生きてきた平和な世界が、まるで嘘のようで。
「…待て、何だこれは」
シェルターへと逃げ込むべく、駆ける俺の目に信じられない光景が飛び込む。
外にあったのは、デュエルとバスターとブリッツの3機。なら、ここにあるのはストライク、イージス、残った2機の筈だった。
それなのに─────ここにあるのは3機の機体だった。
「3機…何で…っ!」
呆然と呟いたその時だった。足をその場で止め過ぎた、いつの間にか姿を見られていたらしい。
奔る背筋の冷たい感覚に従い、前方へと飛び込む。直後、響く銃声と、背後から聞こえてくる着弾音。
音が聞こえてきた方を見ると、こちらに銃口を向ける赤服のザフト兵。
アスランか、ラスティか…。ここからでは顔が見えないから判別できない。しかし直後、そのザフト兵はどこからか撃たれた銃弾によって倒れる。
それを見て、俺は弾かれるように走り出す。
ここがどこなのか、ここで何が行われているのかを思い出す。
シェルターへ逃げる─────いや、意味が分からないが、ここにはもう1機ある。
キラが乗る筈のストライクと、アスランが乗る筈のイージス。そして、もう1機が。
ブリッツの奪取には失敗した。だが、ここにはもう1機。
…迷う余地なし。
謎のもう1機の機体へと走り寄る。真下に機体がある位置で立ち止まり、柵を乗り越えて飛び降りる。
コーディネーターではないが、フラガというのは超能力を有するだけでなく、身体能力も化け物染みているらしい。
かなりの高さだったが、難なく着地をして機体に乗り込むべく駆け出す。
開けっ放しのコックピットハッチから機体の中へと乗り込み、周囲を見回す。
「電源は…これか!」
ここでもフラガの能力は発揮された。感じるままに一つのボタンを押すとハッチが閉まり、そしてコックピット内で画面が輝きだす。
自動で始まる起動シークエンス。画面に映る、英字の羅列。
General Unilaterai Neuro-Link Dispersive Autonomic Maneuver
略して、GUNDAM。
続けて画面に映し出されたのは、この機体の名前。
GAT-X106Spirit
「スピリット…?」
当然だが、聞いた事のない機体名だ。原作では登場しない機体。何故かここに存在したGATシリーズの
しかし、俺にはこの機体が必要だ。俺の目的の為に、力が必要だ。ならば─────
「俺に力を貸してくれ、スピリット…!」
機体を立ち上がらせる。目の前のモニターに映される炎の世界が、まるで戦場にやって来た俺を歓迎しているかのようにすら見えた。
という事で、ハッピーエンドで終わるという映画のネタバレがありました。
まだ映画を見ていない方には申し訳ない。でも、良いハッピーエンドでしたよ…。