タイトルがとんでもないネタバレになっていますが、私は元気です(?)
『総員第一戦闘配備!総員第一戦闘配備!』
─────来た!
艦内に戦闘配備の警報が鳴り響いたのは、とある人物を探して歩き回っている時だった。
このタイミングで襲撃を掛けてくる敵など、一つしかない。
考えるまでもなく、相手を結論付けて反射的に体を動かす。
向かう先は、最早通い慣れてすら来始めたパイロットロッカー。
本当なら、敵襲が掛けられる前に
これなら、一先ずこの場で
後の事は後になって考えるとして、とにかく今はキラが戦わずに済む事を第一優先に─────
「っ、ユウ!?」
パイロットロッカーの中へと飛び込もうとしたその時、横側から声を掛けられる。
振り向いた先で視界に映るは、艶やかに揺れる髪と、こちらを見つめる吸い込まれそうなアメジストの瞳。
「…キラ」
遅かった、か。
俺の行動はどうやら少し遅かったようで、ついさっきまで
「どうして、ユウが…」
「決まってるだろ。軍に残るんだよ」
「そんな…。そんなの─────」
「ダメだって言う気か?今からでも引き返せとでも言う気か?…言っとくが、それは俺の台詞でもあるぞ、キラ」
キラが言おうとした言葉に割り込んで、今度は俺がキラへ言葉を投げ掛ける。
「なんで残った。…いや、残るのはもういい。どうせ今から戻っても間に合わない。だけど…、ストライクには俺が乗る。お前は大人しく部屋で待ってろ」
今更格納庫に戻っても、避難民を乗せたランチはすでにメネラオスへと出発しているだろう。
キラをアークエンジェルから降ろす事は諦める。
だが、キラを戦いから遠ざける選択を諦めるつもりはない。
「駄目だよ。ユウこそ、あんな事があったばかりなんだよ?ここは私に任せて、ユウはゆっくり休んで─────」
「駄目だ!」
俺の横を通り過ぎ、パイロットロッカーへと入ろうとするキラの肩を掴む。
無意識に俺の口から飛び出た大声に驚いたキラが、目を丸くしながら振り返る。
「ユウ…?」
「お前がここに残る事を選んだ理由は大体分かる。フレイ達が軍に残る選択をしたんだろ?お前は、フレイ達を守る為に、ここに残る事に決めたんだろ?」
「どうして、それを…」
「やめてくれ。これ以上傷つく必要はない。…俺が守るから。お前も、お前の大切な人達も、皆俺が守るから。…だからお前は、これ以上戦わなくていいから」
こんな風に思うようになったのは、いつからだろう。
気付けば俺は、戦いに出るキラの姿を見るのが嫌だった。
戦いから戻ってきて、疲れながらもそれを悟らせないように無理して笑うキラを見て、辛いと思うようになった。
─────守れず、無力さに苛まれるキラを、二度と見たくないと思った。
この先、戦う事を選んだキラは様々な苦境に立たされる。
守る為に殺す事を強いられ、だが殺したくなどないキラは、そのギャップによって心に多くの傷を負う事になる。
…俺が出来るのは、その肩代わりくらいだ。
なのに─────キラは、ゆっくりと頭を横に振った。
「…ユウ。確かに、私が残って戦う事を選んだ理由は、フレイ達を守りたいって思ったのもあるよ。でもね?…もう一人、私には守りたいって思える人がいる事を、ユウは知ってる?」
キラは柔らかく微笑みながら、俺の顔を覗き込みながら言う。
…もう一人?
それは一体、誰なんだ─────そうキラへ問い返そうとした時だった。
「きっと、私が何て言ってもユウは止まらないんだね。─────でも、大丈夫。私の思いが、君を守るから」
キラの声が温かく、俺の心へと染み渡る。
かと思えば、キラの顔が近付いてきて─────やがて、唇が柔らかな感触に包まれるのだった。
今、やっと気付いた。
ユウを見る度に湧いてきた温かな気持ちの正体が、恋だって事に。
ユウがラクスと二人で親し気に話しているのを見て湧いてきた嫌な感情の正体が、嫉妬だって事に。
私は…ユウが好きなんだ。
だからこんなにも、君を守りたいって思えるんだね。
君がどうしてそんなに苦しそうなのか、私には分からない。
でも…駄目だなぁ、私。
君がそんなに苦しそうなのに、それでも私の事を考えていてくれたのが、どうしようもなく嬉しいや。
嬉しくて堪らなくて、私は思わず強まった衝動を、ユウの唇と自分の唇を重ねる事で彼にぶつけてしまう。
「…キラ?」
唇を離すと、さっきまでの苦し気な表情は消えて、ただただ驚いた様子のユウが私を見ていた。
そこでようやく、私は今、自分がしでかした事を自覚する。
…私、今、何をやったの?
キス…キス、したよね?ユウと…─────っっっ!!!?
真正面に、それも至近距離にあるユウの顔が見れなくて後ろを向く。
きっと今、私の顔は真っ赤になってるんだろうな…。
恥ずかしくて仕方がない。逃げ出したくて仕方がない。
だけど、まだ私にはユウに言いたい言葉があるから、逃げ出そうとする足を踏み止まらせる。
「私は、君を一人にしたくない。そう思ってたのに、私はいつも君の後ろで、君に守られながら戦ってた。…だからこれからは、君の隣で戦えるように頑張るから」
「…」
「あ、でも今回は本当に駄目だからね?スピリットだって出撃できないんだし…、今は私に任せて、体を休めて」
そう言うと、キスの後にユウの顔から消えた様に見えたあの苦しそうな表情が戻ってくる。
─────あぁ、そうか。今、ユウが一番欲しい言葉はきっと、これだ。
「大丈夫。…戻ってくるから」
「っ─────」
振り返って、ユウの頬に手を添える。
ユウが何に苦しんで、何を怖がっているのかは分からないけど、ユウの心に届くように強く、染み渡るように優しく、彼に語り掛ける。
ユウの顔からほんの少しだけ、苦しさが消えたのを見届けてから私はユウを置いてパイロットロッカーへと飛び込む。
閉まったロッカーの扉に背中をつけ、寄り掛かりながら熱くなって仕方がない頬を両手で押さえる。
しちゃった…。しちゃった、しちゃった…!
ユウ、驚いてた…。もしかして、引かれたかな…?
誰にでもこんな事をする軽い女の子とか、思われたりしてないかな?
もし、そういう風に思われてたら、戻ってきたら今度は言葉にしよう。
私は貴方が好きだって─────こういう事をするのは、ユウにだけだって。
だから、守らなきゃ。
今はユウが戦えないから、私が戦って、ユウを守らなきゃ。
「…よしっ」
頬を押さえていた両掌を見つめてから、ぐっ、と力を込めて拳を握る。
拳と一緒に固まったのは、私の決意。
軍に残る選択をしたフレイ達と話をする事で傾いた思いは、ユウと話をする事で決意として固まった。
私は─────戦う。
例え誰が相手でも…それが同じコーディネイターでも。
例え、目の前に立ちはだかるのがかつての友達でも、
足取りが定まらない。
つい先程のキラとのやり取りに、全く現実感が抱けない。
ふわふわと、まるで無重力空間にいる様な─────いや実際に無重力空間にはいるんだが…。
まだ、あの感触が唇に残っている。
温かくて、優しくて、柔らかい、キラの唇の感触が。
「っ~~~~!」
何を考えているんだ、俺は。
たかだかキスくらいでここまで動揺するなんて、思春期のガキじゃないんだぞ?
…いや、今の俺は思春期のガキなんだが。
だけど、前世と合わせていよいよ年齢が四十を超えたおっさんが、十六の女の子にキスされて動揺するとか、最早事案だぞ。
落ち着け、落ち着くんだ俺。
まあつまり、キラは、その…そういう事なんだろう。
それはいい。
そこについては、また後にキラと話し合えば良い事だ。
問題はそこじゃなくて、今。
俺はキラを止める事が出来なかった。
キラを、戦いから離れさせる事が出来なかった。
これからキラは出撃し、そこで本当の意味で戦争の残酷さを知る事となる。
「…っ」
原作では、キラは苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いた先に答えを得た。
その答えがまた、キラを苦しませる事にはなるのだが─────その果てに、キラは幸せを掴む事となる。
俺が戦うと決めた理由は、あの結末を見届ける為だった。
その為には、なるべく原作から乖離した展開にさせないのが一番だ。
クルーゼは今回の戦闘には出撃出来ない。
前回の戦闘で機体があれだけの損傷を受け、この短時間で修復できたとは思えない。
懸念があるとすればミゲルだが、こちらが大気圏突入を試みれば、搭乗している機体の性能上易々とこちらへは来られまい。
つまり、俺が変に介入しなければ、今回の戦闘は原作通りに進むのはほぼ間違いない。
─────今更、だよな。
…そんな風に割り切れる段階はもう、とっくに越えていたのだと、ここに来て俺はようやく自覚した。
原作通りに進む?キラは死なずに済む?
結果、
大体、今更なんだよ。
俺がここに居ること自体、とっくに本来の世界線から逸脱しているというのに、俺は何を考えているのやら。
原作なんてもう、当てになんてならない。
予備知識として重宝するのは当然だが、原作通りの事が起きたとしても、原作通りの結果が訪れるとはもう限らないんだ。
なら、俺は何をすべきだ?
この戦いを乗り越える為に、俺が出来る事は?
キラと一緒に戦う事は出来ない。今、その力が俺にはないから。
他には?─────分からない。
分からないままに、足を進める。
少しでもいいから、あいつの力になりたい。
ぞくりと奔る背筋の寒気が、いよいよ戦闘が始まったのだと俺に報せてくれた。
ジンが散開した。
漆黒の海に、灯が迸る中、アスランはイージスを駆って戦線を掻い潜る。
味方のジンによって撃墜されるモビルアーマーを尻目に、イージスを変形させ、鉤爪の合間からスキュラを放つ。
幅太のビーム砲が一気に三機のメビウスを屠る。
スキュラによって出来た空白を目掛けて、四機が駆け抜ける。
その内の一機を、アスランは目線に入れる。
「イザーク、あいつ…」
出撃直前まで、アスランはイザークが出撃をするのを知らなかった。というより、今回の戦闘に出撃する予定はなかった筈だ。
何しろ、前回の戦闘でイザークはストライクとの交戦によって顔面を負傷したのだから。
それが今、イザークは誰よりも強い意気込みを胸に、今回の戦闘に臨んでいる。
自分に傷を負わせたストライクへ、強い恥辱を晴らす為に。
デュエルへ追加で武装された
右肩には百十五ミリレールガン
シヴァとミサイルによって、アスランの目の前で早速一隻の軍艦を沈めてみせる。
バスターはランチャーとライフルをドッキングさせたインパルスライフルで、軍艦の横っ腹に風穴を開ける。
そしてブリッツはミラージュコロイドを展開し、誰にも索敵されないままに軍艦の前方へ回り込むと、左腕にマウントされたグレイプニールを射出して艦橋を潰した。
Xナンバーの三機が軍艦を墜とす中で、ジン・ハイマニューバを駆るミゲルは、三機を止めようと動き出すメビウス隊を、他のジンと共に食い止める。
数では劣っているが、ミゲルの奮闘もあり、こちらの交戦は明らかに優勢だ。
「…キラは?」
機体をモビルスーツ形態へと戻し、出力したビームサーベルで襲い掛かってくるメビウスを斬り裂きながら、未だ動きを見せないアークエンジェルへとアスランは目を向ける。
艦隊に隠れ、アークエンジェルは動かない。
第八艦隊は、何があってもあの艦を地球へ降ろす気らしい。
─────それでいい。キラが出撃して来ないのであれば、戦わずに済む。
ラクスを引き渡された時、吐いた決別の言葉とは裏腹に、未だにアスランの内では迷いがあった。
脳裏に過るキラのかつての笑顔が、あの時に固めた筈の決意を揺らがせる。
「っ─────!」
すぐそこまで迫った弾丸をサーベルで斬り払い、アスランは腰部にマウントされたライフルを取り出し、弾丸を放ったメビウスを狙撃し撃ち落とす。
何を関係ない事を考えているのか、と自身を叱咤する。
戦闘中に動きを止めるなど、またミゲルに叱られてしまうかもしれない。
アスランは一度激しく頭を振ってから、改めて前を見据える。
その先に映るアークエンジェルは見ないようにしながら、アスランは進軍を進める僚機の後に続くのだった。
キラちゃんが更に覚悟を決めている中、未だにゆらゆらしてるアスラン君。
…このままじゃ君、普通に死ぬよマジで?