フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE25 目覚めの夜明け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マニュアルは見たけど、なかなか楽しそうな機体だねぇ…。しかし、ストライカーパックもつけられますって、俺は宅配便かぁ?」

 

 アークエンジェルのカタパルトデッキにて、ムウがやれやれと肩を竦めながら言う。

 

 その視線の先には、ワイヤーで固定された流線型の機体があった。

 

 ()()()()()()()()─────アークエンジェルとストライクの支援用に制作された、地上型の戦闘機だ。

 ストライクのパワーパックを搭載できるこの機体は、そのままストライカーパックの火力を使用する事も可能だが、電力消費の激しいストライクに素早く新しいバッテリーパックを届けるという役割も負っている。

 

「で?これがハルバートン提督が用意した、スピリットの補修案って訳か」

 

 スカイグラスパーをじっくりと眺めたムウが、今度はその隣で固定された、かなり複雑な構造をした兵装へと視線を遣る。

 

「元々ストライクのパワーパックとして用意されてたらしいんすけどねぇ。ま、でもこれでまた大尉…じゃねぇや。少佐の弟君も出撃できる様になりゃ、心強いってもんですよ」

 

 そんなムウへと近寄り、同じく兵装を見上げながらマードックが言う。

 近寄って来るマードックを横目で見遣ってから、再び視線を戻したムウが口を開いた。

 

「…I.W.S.P.か。だが、時間が掛かるんだろう?」

 

「そりゃぁ、ね」

 

 I.W.S.P.─────マードックの言う通り、元々はストライクのパワーパックとして製造されたものだが、急遽スピリットの装備としてアークエンジェルへ運搬された兵装だ。

 正式名称は統合兵装ストライカーパック─────Integrated Weapons Striker Pack─────略してI.W.S.P.としている。

 

 三種類のストライカーパック─────エールの機動性、ソードの格闘能力、ランチャーの火力を一つのパワーパックに統合する目的で制作された。

 しかし、パック本体のデッドウェイトによる姿勢制御の悪化に加え、兵装と制御用電装系の重装備化による消費電力の増加の為、バッテリー消費量の問題をクリアできず、制作こそされたものの、当初のスピリットと同じようにロールアウトされる予定ではなかった。

 

 ユウ・ラ・フラガという、スピリットの性能を過不足なく発揮できるパイロットが現れるまでは。

 

 本来はストライク専用の装備であるが故に、スピリットへの搭載にはムウが言ったように多少時間が掛かるが、もしこの兵装をユウが大いに発揮する事が出来れば、それは大きな戦力となるだろう。

 

 それが軍人として頼もしく思うのと同時に、一人の兄としては弟を頼りにせざるを得ない自身の弱さを情けなくも感じてしまうのだった。

 

「弟さんといやぁ、あれから嬢ちゃんの所に付きっ切りらしいじゃないすか」

 

 ムウが胸中複雑な感情を抱いていると、不意にマードックがそんな事を口にした。

 

 嬢ちゃん─────キラの事だ。

 

 低軌道での戦闘を終え、大きく予定降下地点からずれる形で地上へと降り立ったアークエンジェルは、すぐさまストライクを収容した。

 

 直後、格納庫へと現れたユウはすぐさまストライクへと駆け寄り、大気圏から脱出したばかりで未だ装甲に熱を持つにも関わらず、素手でハッチ外側の装置を操作してコックピットを開けると、中からキラを連れ出した。

 駆け寄る医療班を無視して、キラを抱えたままユウは医務室へと直行。

 その後はキラの介抱を、付きっ切りで行っているという状態だ。

 

「…あいつがあそこまで入れ込むとはなぁ」

 

「…兄としては複雑ですかい?」

 

「バッカ。むしろ安心したくらいだよ。…あのクラインの嬢ちゃんとの事もあるから、別の意味でヤバい気はしてるが」

 

 まだ十五歳と言えば聞こえはいいが、初恋の一つしてても可笑しくはない年齢だ。

 が、ユウはそんな素振りを全くもって見せず、ましてや異性どころか同性の友人すら居たかどうかムウには分からない。

 少なくとも、ユウと同年代の友人をムウは見た事がなかった。

 

 だからこそ、ヘリオポリスで再会してからのユウの姿は、一人の兄として喜ばしいものではあった。

 トールやサイ、カズイといった同性の友人ができ、更にフレイやミリアリアとも親しくなった。

 

 そしてキラとラクス。彼女達との関係をただの友人と片付けていいものか、ムウには分からないが─────とにかく、友人と共に笑い合うユウの姿は、とても微笑ましく思えるものだった。

 

 しかし同時に、若くして三角関係を勃発させるのはどうかとも思うのだ。

 あんなにも外見麗しく、優しい心を持つ少女達から好意を寄せられるなんて、うらやま─────もといけしからん。

 自分の前にも、あんな風に自分の事を想ってくれる女性が現れてくれやしないかと、そんな風に考えてしまうムウである。

 

「…さてと、世間話をしてる場合じゃなかったな。あんたもとっととスピリットの整備を終わらせてくれ。何だったら今日中に終わらせてくれてもいいんだぞ?」

 

「冗談やめてくだせぇ。数日は掛かりますって」

 

 現在、アークエンジェルの位置はサハラ以北にて広がる国家連合()()()()()()()の中にある。

 アフリカ共同体は親プラントを表明した国家連合で、ザフト軍が手中としている地域の一つだ。

 

 つまり、アークエンジェルはまさに敵陣の真っ只中に、単独で放り出された状態なのだ。

 

 友軍に助けを求めようにも、Nジャマーの影響で常に電波がかく乱されており、交信して情報を得る事さえ叶わない。

 ケンブリッジの大学より発表された、Nジャマーの影響を受けない通信機も、未だ軍内で配備が広まっていない上に、発表よりも先に完成したアークエンジェルには勿論、そんな便利な通信機は搭載されていない。

 

 誰も口には出さず、不安な態度も出さないが、いつ敵に襲われても可笑しくない状況なのだ。

 

「(何とか無理やり休ませたが…、起きてきたらまた少し話した方が良いかもな)」

 

 スピリットの補修作業へと戻るマードックの背中を見送りながら、ムウは疲労困憊の色を宿したマリューの顔を思い出す。

 ムウが格納庫へ来る前、艦長室にて今後のアークエンジェルの針路について、彼はマリューと話をしていた。

 その時の彼女の表情はまあ暗く、とても他クルー達の前に出していいものとはお世辞にも思えなかった程だ。

 

 気持ちはムウにも分かる。

 アークエンジェルのクルーは、ムウを除けばほとんどが実戦経験もない下士官か兵卒だ。

 それらを纏める艦長であるマリューもまた、果たして経験豊富かといえばそうではなく、更にまだ二十六歳と若い。

 それに加えて、ユウやキラといった民間人を前線へ送り込むしかないという状況が、優しい彼女を追い詰める一つの要因となってしまっていた。

 

 二人で行ったブリーフィングの際、時折マリューが気遣わし気に視線を自身に向けていた事にムウは気付いていた。

 その視線の理由が、今後もムウの弟を前線へと送り出す事への罪悪感によるものだという事にも。

 

 故に、ムウは近い内に改めて、マリューと腰を据えて話し合う事を決意する。

 ユウの事に関しては、ユウ自身が決断した事なのだから気にしなくていいのだと。

 現状を一人で背負い込まず、もっと周りに頼ってもいいのだと。

 

「…さて、と。俺も作業を続けるとしますかね」

 

 とはいえムウ自身、まだまだやるべき事が残っている。

 目下最優先事項は、受領したスカイグラスパーをすぐにでも出撃可能な状態に仕上げておく。

 

 繰り返すが、現在この艦はいつ敵から襲撃されても可笑しくない。

 その時、出撃できるのがストライク一機のみというのはあまりに心許ない。

 

 ムウは一旦思考から他人の気遣いを打ち消し、スカイグラスパーの整備に集中する。

 他人を気にするのは良いが、それは自分以上に優先するべき事ではない。

 

 本来、そうあるべき事なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからさ、感染症の熱じゃないし、内臓にも特に問題ない。今はとにかく水分を摂らせて、体を冷やすくらいしか出来ないんだよ」

 

 医務室の診察スペースにて、軍医がトールやサイ達に説明している。

 それが誰の事を言っているのかは、言うまでもなく分かるだろう。

 

 大気圏をモビルスーツで単独突破という、誰が聞いても笑い飛ばす嘘のような事を実行し、現在医務室のベッドで高熱に苦しんでいるキラ。

 

「熱、下がらないわね…」

 

「キラ…」

 

 不安げに呟くフレイとミリアリア。

 彼女らの呟きを背後に聞きながら、キラの顔一杯に浮かんだ汗を拭く。

 

「心配いらんよ。コーディネイターってのは、見た目俺達と同じに見えても、中身の性能は全然違うんだぜ?…俺としてはむしろ、君の()()の方が心配なくらいさ」

 

 トール達に説明をしていた筈の軍医が不意に、俺の方へと視線を向ける。

 それに続く形でトール達が、そして背後のフレイとミリアリアもまた、俺の背中へと視線を向けたのを感じた。

 

「大気圏を通り抜けたモビルスーツに素手で触るなんて、無茶な事するもんだよ…。本当なら、そのタオルだって触ってほしくないものだがね」

 

 現在、医務室のベッドで横になっているキラだが、そのキラをここまで運んだのは俺だ。

 アークエンジェルに収容されたばかりのストライクを操作して、開いたコックピットからキラを引っ張り出し、そのままここへ連れて来た。

 

 …我ながら、この人の言う通り無茶な事をしたもんだ。

 あの時、ストライクの周りには医療班だっていたんだし、彼らに任せておけば良いものを。

 

 それでも─────あの中でキラが苦しんでいるのだと思うと、ジッとしていられなかった。

 

「ユウ。代わるから、少し休んだ方が良いわ」

 

「そうよ。ずっと付きっ切りだし、火傷の事もあるし…」

 

「…いや。皆は艦の仕事があるだろ?俺はこの手じゃ整備を手伝う事も出来ないし…、他に出来る事がないからさ」

 

 声を掛けてくれるフレイとミリアリアを制する。

 

 事実、彼女達はやるべき艦の仕事が残っているが、俺の方はというと出来る事がない。

 無茶して何かやろうとすれば、軍医に睨まれるし…、苦笑いしながらそう言うと、二人の背後で座っている軍医が当然と言わんばかりに頷いていた。

 

「だから、キラの事は俺に任せてくれ。目が覚めたら報せるからさ」

 

「…分かった。でも、無理はするなよ」

 

 そう言う俺に、サイが柔らかく笑みを浮かべながら返す。

 

 原作では地球に降下後、色々とキラやフレイとの関係を拗らせてしまったサイだが、本来は他人を思い遣れる優しい心の持ち主ではある。

 自身とキラとの能力の差や、それに加えてキラへ近寄ろうとするフレイとの事もあり、暗い妬みの気持ちが爆発してしまっていたが─────この世界ではそんな事はないだろう。

 前者はともかく、後者に関してはキラもフレイも女子だしな。

 

 …百合なんて事になれば、それは大変だろうが。

 そうはならないと、俺には願う事しか出来ない。

 

 サイがそう言い残し、彼らは医務室を去って艦の仕事へ戻っていく。

 

「さて…。俺はそろそろ休ませて貰うが、君はどうする?」

 

 軍医が不意にそう口にしたのは、サイ達が医務室を出ていってから数時間くらい経った頃だろうか。

 

 キラの顔を一杯に濡らしていた汗が落ち着きを見せ、熱も当初と比べてかなり下がっている。

 

「俺はもう少し残ります」

 

 これならばもう心配はいらないだろうが、キラが目を覚ました時に他に誰もいなければ、不安に思うかもしれない。

 そう考え、残るという選択をとる。

 

 軍医は一言、そうかい、と言い残してから、最後に軽く俺達へ向けて手を上げてから医務室を出ていく。

 

 これで残されたのは、俺とキラの二人だけとなった。

 

 時刻は五時を回り、外では日が顔を出している頃だろうか、なんて考えながらふと穏やかな寝顔を浮かべるキラを眺める。

 

「…なあ、キラ。お前、あれはどういうつもりだったんだ?」

 

 近くに軍医やトール達が居た時には思い出す事もなかったのに、キラと二人きりになった今、突然思い出すようになったのは何故だろう。

 

 低軌道戦にキラが出撃する前に交わしたやり取り。

 キラと交わした口づけを、何故か今になって思い出す。

 

 あれは一体、何だったのか。

 あの時はそれ処じゃなく、なるべく考えないようにしていたが、今こうして落ち着いた時間となるとどうしても考えてしまう。

 

 一体キラは、どういうつもりであの行動をしたのだろう?

 

 ─────いや、どういうつもりも何もない。見て見ぬフリなど出来ない。

 

 もしかしたら、キラは俺の事を─────

 

「─────んん…」

 

「っ、キラ?」

 

「…ゆ、う?」

 

 思考に沈みかけた意識が、不意に聞こえてきた声によって引き上げられる。

 

 顔を上げ、視線を向けた先ではキラの目がゆっくりと開かれ、やがて視線がこちらに向けられた。

 

 ぼんやりと開いただけだった目に少しずつ力が宿り、アメジストの瞳に確かに俺が映される。

 

 地球へ降下してから十数時間、ようやく目を覚ましたキラの姿に、俺は安堵の息を漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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