フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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本日二話目です。


PHASE26 受け入れられる想い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、キラ、気が付いたの?」

 

 ミリアリアが声を弾ませ、その隣に座るトールもまた、表情を綻ばせる。

 

 二人の正面に座るサイとカズイもまた、彼らと同じように明るい表情を浮かべて安堵した様子だった。

 

 キラの意識が戻った─────その報告は、直前まで医務室でキラを看ていたユウから始まり、すでに艦中に知れ渡りつつあった。

 つい先程まで艦の仕事をして、ようやく休憩にありつけた彼らはそこで初めて、キラの容態の情報を耳に入れる事が出来たのだった。

 

「うん。もう大丈夫らしいって、自分の部屋に戻ってる。食事はフレイが持ってったけど…あ、戻って来た」

 

 食堂の入り口に目をやったサイが、食堂へと入って来るフレイの姿に気付く。

 空のお盆を二枚持って来たフレイも、食事をとるサイ達に気が付き彼らへと近付いていく。

 

「フレイ、キラの様子はどう?」

 

「もうホントに大丈夫みたい。食事もとったし…、先生には今日一日安静にしてろって言われたらしいけど」

 

 フレイに声を掛けたミリアリアへ返事をしてから、フレイは空のお盆を厨房へと返す。

 

「…フレイ、どうした?」

 

 そんなフレイの背中が微かに震えている事に最初に気付いたのは、サイだった。

 

 フレイはサイの問い掛けに答えない。

 彼女の様子を怪訝に感じたサイが、一度食事を中断して席から立ち上がり、フレイへ歩み寄る。

 

「フレイ、何かあった─────」

 

 何かあったのか、そう問い掛けようとしてフレイの顔を覗き込んで、サイは言葉に詰まった。

 

「…よかった」

 

 フレイの目からは、一筋に涙が零れていた。

 

「キラがコーディネイターで、本当によかった…」

 

 彼女は安堵の言葉を漏らしながら、涙を流していた。

 

 その言葉の意味を、大気圏にてストライクのコックピット内がどうなっていたのか、軍医の口から聞いていた彼らはすぐに分かった。

 

 もし、キラがナチュラルであったなら、今頃キラは死んでいただろう。

 そうではなかったからキラは生き延び、今は元気にしているのだ。

 

 現在、ナチュラルとコーディネイター間で行われている戦争。

 両者の関係は冷たいものとなっており、特にフレイに関しては父親がその中でも特に反コーディネイターの感情が強いブルーコスモスの一員だった。

 だが、にも関わらずフレイはコーディネイターであっても区別せず、他の人達と分け隔てなくどころかそれ以上に親しい友人として接していたキラの生存を、心の底から安堵している。

 

「…そうだな」

 

 その優しさに、胸に温かいものが溢れるのを感じながら、サイはフレイの身体に手を回して引き寄せた。

 

 本当に、フレイは優しい女の子だ。

 互いの親同士が決めた事ではあるが、初めて会った時からフレイに対して好印象を抱いていたサイ。

 だが今になって、心の底からこう思う。

 

 この優しい女の子と一緒に生きていけたら、どれだけ幸せだろう─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────忘れ去りたかった。こんな記憶、深い眠りの果てに跡形もなく消えて欲しかった。

 

 無残な爆発の記憶は、キラの脳裏にハッキリと刻まれていた。

 

 デュエルのライフルが貫いたシャトル。

 バラバラに砕け散り、大気に焼かれて燃え尽きていく機体。

 あの中に、あの子は居た。

 

『今まで守ってくれて、ありがとう』

 

 一体誰が、置いていったのか。

 医務室で意識を取り戻したキラが自室へと戻った時、デスクの上に置かれた折り紙の花を見て、眠りから覚めたばかりで呆けていたキラの頭の中は、否応なしに覚醒させられた。

 

「っ─────!」

 

 眼前の白い壁を、両手の拳を握りしめて叩く。

 

 熱が引いたばかりで重い体。無理やり悪夢を思い出させられ、最悪な気分。

 どちらも、もう一度眠った程度ではどうにもならなかった。

 

 病み上がりでシャワーなど本当は体に悪いのだろうが、少しでも気分を晴らしたいと、キラはシャワー室へ入った。

 

 しかし、キラの肢体に当たるシャワーは汗こそ流しても、やはり脳裏に刻まれた悪夢までは流してはくれなかった。

 

 ふと、鏡に映る自分の姿を見る。

 傷一つない白い肌が、お湯の温度に当てられて微かに紅潮している。

 よく、フレイやミリアリアは自分の肌を綺麗な肌だと褒めてくれた。

 自分の身体を見て、スタイルが良いと褒めてくれた。

 

 今のキラには、彼女達が褒めてくれたこの体が、どうしようもなく汚れて見えていた。

 

 ─────こんな汚らわしい自分は、消えてなくなってしまえば良かったのに。

 

 結局気分は晴れないままシャワーから上がり、バスタオルで体を拭く。

 

 体の水気を拭き取ってから、キラはハンガーに掛けられた軍服を身に纏う。

 控えめなノックの音がしたのは、その直後だった。

 

 扉が開く音がして振り向き、部屋の中へと入って来るユウの姿を見て、キラは体を硬直させた。

 

「…シャワー浴びたのか。大丈夫か?」

 

 まだ乾かず濡れたままの髪を見て分かったのだろう。

 優しく声を掛けて来たユウから思わず、視線を逸らす。

 

 それは、シャワーを浴びたばかりで無防備な自分の姿を見られたから─────ではない。

 

 守りたかったものを守れず、悪夢に溺れ、どうしようもなく汚れている─────そんな自分の姿をユウに見て欲しくない。

 そんな自身に対する嫌悪感から出た行動だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キラが目を覚ましてからすぐ、軍医を叩き起こして医務室へと連れて行き、彼女の容態を確かめさせた。

 部屋へ戻る許可を軍医から貰ってから、キラを一度自室へと戻らせ休ませてから、俺も自室へ戻って体を休ませる。

 

 次に目が覚めた時には昼時を過ぎており、流石に寝すぎたと慌てて飛び起きた。

 すぐにシャワーを浴びて汗を流し、身支度を整えてから、俺はキラはどうしているだろうと思い立ち自室を出た。

 

 まさかとは思うが、休まないままストライクの整備なんてしていないだろうな、という疑念もありキラの部屋へ直行。

 ノックをした後、部屋に入りシャワー上がりのキラと対面したのだった。

 

 …服を着ていて良かったと、心の底から安堵した。

 髪がまだ濡れている事から、上がったばかりだったのだろう。もう少し俺が来るのが早ければ、危うく─────そう思うと背筋に冷たい汗が流れた。

 

 こ、今度から気をつけよう。

 ノックをしてすぐに部屋に入るのではなく、ちゃんと中から返事がするのを待ってから入る。

 次からはそう心がけるとしよう。

 

「シャワー浴びたのか。大丈夫か?」

 

 シャワーを浴びたのは俺も同じだが、俺とキラの今の状態は違う。

 何しろ、キラは病み上がりだ。あれだけの高熱、下がったとはいえ、まだその影響は残っている筈だ。

 

「う、うん」

 

「…?」

 

 何故か気まずそうに俺から視線を逸らすキラ。

 

 その理由として真っ先に思い当たったのは、あの時のキスについてだったが、どうもキラの様子からそうではないらしい。

 

 ─────嫌悪、か?何に?

 

 逸らされたキラの顔に浮かぶ感情が嫌悪のものであると悟った俺は、次にキラは一体何に嫌悪を現しているのかと考えを巡らせる。

 

 …まさか、返事を待たずに部屋に入られたのが相当嫌だったのではなかろうか?

 なんて考えに至った時だった。俺は部屋のデスクの上に置かれた、折り紙の花を見つける。

 

「…これ」

 

「─────」

 

 折り紙の花を指でつまみ、持ち上げる。

 途端、キラの表情が凍り付いた。

 

 …そうだ。この花は、ヘリオポリスの避難民の一人だった少女から、戦ったキラへのお礼として渡されたもの。

 

「…うぅ、あぁっ」

 

「っ、キラ!」

 

 嗚咽と共に、キラの膝が崩れ落ちる。

 すぐに駆け寄ると、キラはゆっくりと顔を上げて俺を見て…そして次に、俺の手に握られた折り紙の花に視線を向けた。

 

「私…私…っ、あの子を、守れなかった…!」

 

 キラは折り紙の花へ手を伸ばしながら、叫びを上げる。

 

 堰を切ったように溢れ出た涙が、傍らで座り込む俺の膝を濡らす。

 

 震えるキラの身体を包もうと両腕を上げようとして─────ピタリと止まる。

 

 過るのは躊躇い。

 俺が、本来この世界に居るべきではない俺が、そんな事してはいけない。

 全身へ纏わりつく囁きは、転生をしてから人との関わりを繋ごうとする度に俺を縛り付けて来たもの。

 

 キラと、そして最近ではもう一人、ラクスとやり取りを交わし、絆が深まろうとする度に囁きは鎖となって俺を縛り付けた。

 

『貴方は、この世界に存在している一人の人間です。…貴方が貴方自身を認められなくとも、わたくしはそう思っています』

 

「っ…!」

 

 暗い囁きを打ち消しながら、脳裏を過ったのはラクスの声だった。

 瞬間、俺を縛り付けていた鎖が音を立てて断ち切れ、解放され自由になった身体が衝動の赴くままに動き出す。

 

「ゆう…?」

 

「…」

 

 気付けば俺は、キラを抱き締めていた。

 中途半端に上がったままだった両腕は、今はきつくキラの背中をこちらに引き寄せている。

 

 耳元で、キラが微かに声を上げた。

 その声に戸惑いが込められているのを分かっていながら、両腕にもう少しだけ力を込める。

 

「キラ。お前、俺に言ったよな。俺を守るって、俺を一人にしないって。…俺も、同じ気持ちだ」

 

「ゆ、う…」

 

「ごめん。もう少し掛かりそうだけど…今度は俺が、お前の隣に追いつくから」

 

 ハルバートン提督が用意したという代替案がどんなものなのか、それが成されるまでどれだけ時間を要するものなのか、まだ俺には分からない。

 

 だけど、スピリットが補修されて、また出撃できるようになったら─────今度は俺の番だ。

 キラの隣で、キラと一緒に戦う。

 

 背中まで伸びた髪をゆっくりと撫でながら言葉を掛ける。

 

 やがて、キラの方から体を離した。

 離したといってもほんの少し距離が開いただけで、未だ俺とキラは殆ど密着した状態だ。

 

「…私は、あの子を守れなかった」

 

「それを言うなら俺もだ。出撃すら出来なかったしな」

 

「でも、私じゃなくてユウがストライクに乗ってたら、結果は違ってたかもしれない」

 

「あのな、俺はずっとスピリットに乗って来たんだぞ?ストライクに乗ってもキラ程動かせないに決まってるだろ」

 

「…でも、私は君に守って貰えるような価値は─────「うるさい、ホントうるさい」う…」

 

 黙って聞いてればネガティブな台詞しか吐かないキラ。

 いや、仕方ないのは分かってるけど、このまま聞いてるだけでは一生止まらない気がしたから、無理やり遮らせて貰う。

 

「守って貰える価値って、お前…。そんなの、誰にだってあるに決まってるだろ。生きてちゃいけない人間なんて、居て堪るか」

 

「ユウ…」

 

「…俺もさ、さっきまではキラと同じだったよ。お前に守って貰えるような大層な人間じゃないって、そんな風に思ってたさ。でも…、俺もお前も、()()()()()()()()()()()()()なんだからさ」

 

 俺も、キラも、この世界に存在している一人の人間である以上、この世界で生きていく権利を持っているのだから─────

 

「だからさ、もう二度とそんな事を言うなよ。また同じような事を言ったら、引っ叩くからな」

 

「…酷いなぁ。女の子を引っ叩くなんて」

 

「勿論顔を叩くつもりはないぞ?ただ、しばらく背中に跡が着くくらいには強く叩くつもりでいる」

 

「それ相当痛いやつだよ…。でも、うん。もう言わないよ。ユウに叩かれたくないから」

 

 指で涙を拭うキラの顔は、優しく微笑んでいた。

 

 さっきまでの悲壮に満ちた表情は影を潜め、いつも俺に見せてくれたあの笑顔が戻っていた。

 

 うん、この顔だ。俺が守りたいって思ったのは、この笑顔なんだ。

 この笑顔を失わせたくなかったから、キラを戦いから遠ざけようとした。

 だがそれが、キラの意志に反するものならば、俺はこれ以上余計な事をしないと誓おう。

 

 その代わり、キラの笑顔を守りたいという気持ちは絶対に捨てはしない。

 キラが戦うというのなら、せめてその隣で、キラと一緒に俺も戦う。

 

「「─────」」

 

 微笑むキラと至近距離で見つめ合う。

 やがて、次第にキラの顔がこちらへ近付いてきた。

 

 今度はあの時の様な不意打ちではなく、俺もキラを受け入れる事が出来た。

 

 触れた唇の感触はあの時よりもハッキリと、柔らかさと温かさを、俺へ刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかな?噂の大天使の様子は」

 

 満天の星の下、静まり返った砂の海の中で、ハッキリとその男の声は響き渡る。

 

 その声に、赤外線スコープを覗き込んでいたマーチン・ダコスタは顔を上げた。

 

「はっ、依然何の動きもありません!」

 

 振り仰いだ先には、長身の精悍な男の姿があった。

 面長な顔は日に焼け、引き締まった体躯は砂地用の迷彩服に包まれている。

 

「Nジャマーの影響で電波状況はめちゃくちゃだからな。()()()未だお休みか…んっ!?」

 

 男は言いながら片手に持ったカップを口に運び、そこで表情を変えながら声を上げる。

 

「な、なにか!?」

 

 何事かと身構えるダコスタ。

 そんな彼の視線の先で、男は頷きながら満足そうに顔を綻ばせていた。

 

「いや、今回はモカマタリを五パーセント減らしてみたんだがね、こいつはいいな!」

 

「た、隊長…」

 

 どうやらコーヒーの味に満足がいっただけだったらしい。

 

 この上官の密かな趣味はコーヒーの自己ブレンドであるのだが、先程の台詞で分かる通り、相当凝っている。

 コーヒーの産地が近いとはいえ、そこまで凝る事はあるまいに、と部下であるダコスタがついつい呆れを覚えてしまう程に。

 

 しかし一方の男はそれは美味しそうにカップのコーヒーを堪能して上機嫌だ。

 

「次はシバモカ辺りで試してみるかな?」

 

 なんて呟きながら、作戦行動中とは思えない悠然とした態度で砂丘をするすると下っていく。

 

 その男の背中を追い掛けるダコスタ。

 その途中、空になったカップが放り投げられ慌てて拾う。

 

 彼らの行く先には、ブルーグレーの巨大な機体とヘリコプター、バギー、そしてその周囲で動き回る男達の姿があった。

 

 二人の姿に気付いた男達は手を止めて、素早く整列する。

 

「では、これより地球連合軍新造艦アークエンジェルに対する作戦を開始する!今作戦の目的は、敵艦及び搭載モビルスーツの戦力評価である!」

 

 無造作でさり気ない口調でありながら、力強い言葉を受け、パイロットの一人が声を上げた。

 

「倒してはいけないのでありますか?」

 

「まあ、その時はその時だが…。ただあれは、クルーゼ隊が遂に仕留められず、ハルバートンの第八艦隊がその身を犠牲にしてまで地上に下ろした艦である。その事を忘れるな。…一応な」

 

 最後に付け加えられた一言が、兵士達の自信を呼び起こす。

 彼らの顔には揺るぎのない自信に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

 その様子を見た男は小さく笑みを溢してから、彼らへ向けて出撃前の最後の言葉をかける。

 

「では、諸君の無事と健闘を祈る!」

 

 兵士達が敬礼し、男も片手を上げて返す。

 

「総員、搭乗!」

 

 続けてダコスタが号令を掛けると、途端に兵士達はそれぞれの愛機へと乗り込んでいく。

 男とダコスタもまた、指揮車へ乗り込んだ。

 

「うーん、コーヒーが美味いと気分が良い」

 

 呑気そうにそう言った直後、先程までとは打って変わって獰猛な笑みを浮かべた男の名は、()()()()()()()()()()()()()()

 ザフト軍地上部隊における屈指の名将にして、名パイロット。

 

 通称─────()()()()

 

「さて…戦争をしに行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ロマンティクスを楽しみにしていた読者様一同へ。
…これ、ロマンティクスないですね。なんか当初の予定よりも爽やかな感じで二人のやり取りが終わった結果、ロマンティクスに持ち込む事が出来ませんでした。
ただその分、大分ユウキラ間の親密度が深まった…。
これならロマンティクスも時間の問題…。

で、どのタイミングがいいんだろ?
てな感じで現在頭を悩ませ中です。
もういっそ、初ロマンティクスはキララクスとの3R(Romantics)でもいいのでは?なんてやべぇ考えすら頭が過りつつあるもう何も辛くないでした。
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