「凄まじいな…」
目の前の光景に、ただただバルトフェルドは戦慄の声を漏らすしかなかった。
戦闘開始当初─────アークエンジェルより出撃したストライク。
砂地の足場に対応できず、無様な動きしか出来なかったストライクを攻め立てた所までは良かった。戦闘中、突如ストライクの動きが良くなった所までもまだ許容できた。
恐らく、ストライクの運動プログラムを書き換え、砂地に対応したのだろう。
それを成し遂げたのが本当にナチュラルなのかという疑問は浮かんだが、良い。
結局ストライクはビーム兵器を使いすぎた結果、バッテリー切れ寸前にまで追い込まれ、撃破は時間の問題という所まで来た─────その筈だったのだ。
アークエンジェルより新たな機体、見た事のない戦闘機が現れるまでは。
突如現れた戦闘機は瞬く間に一射のビームで、戦闘ヘリ三機を一掃。
続けて、ストライクと入れ違う形で前へと出て来た戦闘機は、バクゥ五機による一斉攻撃を容易く躱して見せる。
痺れを切らし、戦闘機を叩き落とさんと飛び掛かったバクゥ二機を、先程戦闘ヘリを落とした時と同じ要領でビームを斉射。
またしても、一射のビームで複数の機体を撃ち落とすという、実際に目にしていなければ信じるに値しないと断じていたであろう光景を、バルトフェルドは目の当たりにする。
「どうするべきかな」
バルトフェルドの脳裏に、撤退の二文字が過る。
しかしそれと同時に、今すぐにあの戦闘機を落とすべきだという考えもまた、バルトフェルドの頭の中にはあった。
先程から、あの戦闘機はビーム兵器を積極的に使用しない。
確かにあの、複数機を同時に撃ち落とす芸当には驚かされた。
だが、それだけの腕がありながら、ビーム兵器を撃ち惜しむ理由が一体どこにある?
答えは簡単だ。理由は分からないが、あの機体には満足に弾薬が積まれていないのだろう。
もしここで撤退し、あの戦闘機を母艦へ帰し、弾薬が満足に積まれてしまったら─────そして、現在あの戦闘機に搭乗しているパイロットが、次の戦闘でまた我々の前に現れたら。
「…バクゥ全機に告ぐ。恐らくあの機体は弾薬がろくに積まれていない。各機散開し、決してあの機体の近くで固まらない様にフォーメーションを組め。何としてもあの機体をここで落とすぞ!」
バルトフェルドは決断する。
今回の戦闘目標─────相手の戦力の偵察という目標を曲げてでも、あの戦闘機を、あの中にいるパイロットをここで亡き者にさせるという選択。
今更ながら、バルトフェルドの中で後悔の念が過る。
戦力偵察など行わず、初めから落とすつもりで掛かっていたら。
あのクルーゼ隊を相手取り、逃げ延びた艦を相手にする以上、慎重を期するに越した事はない。
誰もバルトフェルドの采配を間違いと断じる者はいないだろう。
だが、バルトフェルドの采配の中には僅かに、されど確かに、
ラウ・ル・クルーゼから逃げ延びてきたその力を知りたいという好奇心が。
そしてそれと同時に、そんな強大な相手であろうと、この砂漠というフィールド内であれば我々は負けはしないという
結論から言おう。
この戦い、バルトフェルド隊の敗走という結果で終わった。
飛び回る戦闘機をバクゥ隊は撃ち落とす事が出来ず、更に一度撤退したストライクが装備を換装し再度出撃。
それに加え、戦闘に介入してきたレジスタンスが地球軍側へ手を貸した事によりあっという間にバクゥ隊が全滅。
もう一機の戦闘機により母艦の位置も特定され、本格的な攻撃を受ける前にバルトフェルド隊は撤退する事となる。
当初の目的である、相手の戦力評価─────それは十二分に果たした。
しかし、この戦闘に於いて伴った多大なる犠牲は、バルトフェルドの中に大きく刻まれた。
「あのパイロット…」
走るバギーの風を受けながら、バルトフェルドは先程の戦いでの、ストライクと戦闘機の動きを思い返す。
戦闘中に砂地に対応し、動きが良くなったストライクとバクゥ隊を一切寄せ付けず被弾ゼロの立ち回りを見せた戦闘機。
あれらのパイロットが、ナチュラル─────?
「…どちらにしても、厄介な相手がここに迷い込んだ様だな。さて…どう倒すか」
疑念を抱きつつ、バルトフェルドは振り返り、白亜の艦と艦へと戻っていくストライクと戦闘機を見つめる。
その顔には、獲物を見つけた肉食獣の如き、獰猛な笑みが張り付いていた。
「レジスタンスだぁ?」
「うん。そう言ってたよ」
戦いを終え、アークエンジェルは地上へと降り、出撃していた俺も機体を収容。
戦闘は途中から原作通り、レジスタンスが介入した事でバクゥ隊を地雷が仕掛けられている地点へ誘導。
それによってバクゥ隊は全滅し、戦闘は一段落を着いた。
兄さんが母艦を特定し、相手が砂漠の虎─────アンドリュー・バルトフェルドだと判明した事でラミアス艦長は追撃を断念。
兄さんも俺より少し遅れてから戻って来た。
アークエンジェルの周りに集まるレジスタンスのバギーを見て、さぞ驚いた事だろう。
スカイグラスパーから降りて来た兄さんは真っ先に、「あいつらは何者だ?」と問い掛けてきた。
その問いに答えを返せば、兄さんは目を丸くしながら素っ頓狂の声を漏らした。
「また面倒な相手が…。ユウ、お前は外に出るなよ」
「…ダメ?」
「ダメに決まってんだろうが!拳銃を持った事もないお前を、あの場に出せるか馬鹿!」
静かに制してくる兄さんへ上目遣いで聞き返せば、烈火の如く怒りが返って来た。
うん、多分上目遣いが兄さんの怒りを更に助長させたな。反省。
そうこうしている内に、ラミアス艦長が格納庫へと降りて来た。
初め、兄さんの表情を見て不思議そうに首を傾げていたが、二人は並び、ライフルを手にした数人を伴って外へと出ていく。
「何も起きないだろうけど、一応…」
まさかここでレジスタンスとの全面戦争、なんて事にはなるまいとは思いつつ、何が起きてもいいよう心の準備だけはしておく。
兄さんからは生身の戦闘能力が皆無みたいな謂れをしたが、一応これでも学生時代は生身の戦闘負けなしだったりする。
レジスタンスのメンバーがどれだけの戦闘訓練を受けているかは分からないが、それでもそこらの訓練を受けていないコーディネイター程度であれば負ける気はしない。
流石に、今レジスタンスに潜り込んでいるであろう、カガリの側近であるキサカには微塵も勝てる気は起きないが…。
本当、この身体かなり能力高いんだよな。何度かコーディネイターを疑われた事だってある。
勿論ナチュラルである。フラガではあるが─────。
こんな事を考えていると、話が終わった兄さんとラミアス艦長が戻って来た。
それから遅れてストライクも収容され、頬に痣を作ったキラも降りてくる。
あー…そこも原作通りで殴られちゃったのね、なんて思ってたら、キラが鬼の形相でこちらへ詰め寄って来た。
何事かと思った俺へ投げ掛けられる、「待っててって言ったよね?どうして出撃したのかな?」という冷たい問い掛け。
最早声が冷たすぎて、格納庫内の気温が下がったのではないかと錯覚する程だった。キラの背後に並んで立っていた兄さんとラミアス艦長が、同時に体を震わせたのを俺は見逃さなかった。
機体には少しではあるが弾薬が積まれていて、戦えない訳じゃなかったという言い訳も、数発ビーム砲を撃てるだけで戦える筈がないという正論で封殺。
更にパイロットスーツを着ないで出撃した事がキラの勘に触れ、そこも言い詰められる。
結局最後は「心配した」という一言がキラの涙目と共に俺へ命中し、KO。
「ごめんなさい」の一言と共に、初めてのキラとの喧嘩は終息を見るのだった。
なお、途中から微笑ましい何かを見る様な表情を浮かべていた兄さんとラミアス艦長は、後で覚えていろ。
もし二人が原作通りにくっついたら、必ず復讐してやる。
いや、くっつかなくても復讐してやるからな…。
レジスタンスの話し合いはやはり原作通りに進んだらしく、一時的な共闘関係を結ぶ事で合意したらしい。
現在、アークエンジェルはレジスタンスの誘導に従い彼ら─────
そうして数時間、降下地点から東へ二百キロほど離れた場所に置かれた彼らの本拠地へ到着すると、パイロットスーツから軍服へ着替えた兄さんとラミアス艦長、そして艦橋から降りて来たバジルール中尉の三人は、明けの砂漠のリーダーであるサイーブと共に、本拠地である洞窟の奥へと案内されていった。
彼らが話し合いをしている間、俺とキラは他のクルー達と共に、アークエンジェルを隠蔽する迷彩ネットをかける作業を命じられた。
俺は他のクルー達と協力して、そしてキラはストライクへ乗ってモビルスーツの力で作業を進めていく。
作業が終わる頃になると、日が沈み、辺りが暗くなる時刻になっていた。
「おいっ!」
ストライクから降りてくるキラを出迎えていると、俺達の背後から声を掛けられる。
二人で振り返ると、そこには金色の髪の少女が立っていた。
金に近い色の瞳を真っ直ぐ、俺ではなく隣のキラへと向けた少女はこちらへ歩み寄って来る。
「その…、さっきは悪かったな。殴るつもりはなかった…訳でもないが、あれは弾みだ。許せ」
まるで謝っているようには思えない態度で謝罪してくる少女─────カガリは、キラから視線を外してソッポを向きながら頬を掻く。
そんな彼女をキョトンと眺めていたキラが、不意に笑みを溢した。
「な、何がおかしい!」
「いや…なにがって…」
心外そうにキラを睨むカガリと、その視線を受けながらも笑いを止める事が出来ないキラ。
口が裂けても言えないが、微笑ましい姉妹喧嘩だな、なんて思いながら二人のやり取りを眺める。
原作でもそうだったが、ここでもキラにとってカガリという存在はこの時点で掛け替えのない存在になりつつある。
「…あれから、お前はどうしたんだろうとずっと気になっていた。それがまさか、こんなものに乗って現れるとはな。おまけに今は地球軍か!」
すぐに怒りを引っ込めたかと思えば、再び怒りに声を荒げるカガリ。
「…色々あったんだ。色々ね」
「…」
キラをきつく睨むカガリだったが、キラの声から何かを感じ取ったのか、吊り上がった目尻が下がり、彼女から醸し出ていた怒りの気配が収まっていく。
「で?お前は?」
「は?」
かと思えば、くるんとカガリの視線がこちらに向けられる。
不意に声を掛けられ、思わず呆けた声を漏らしてしまった。
「あー、えっと…。こいつの友達、かな?」
「─────」
「ふーん?」
質問が抽象的すぎて、何て答えたらいいか迷いつつ、キラの友達と答えるとカガリは興味なさげな返事を返す。
その反応にも何なんだよ、と思うのだが、それ以上にカガリの問い掛けに返答した直後にキラがジト目でこちらを見上げてくる。
何だよ…。今の答え方に何か不満でも─────まさかとは思うが、
いや、いやいや、だってそれ以外にどうやって俺とキラの関係を形容すればいい?
告白し合った訳でもないから恋人ではないし、とはいえ友達というのももう違う気はするし…。
友達以上恋人未満、なんて言葉をよく聞くが、まさにそれが当て嵌まっている気がする。
しかしまだ会ったばかりのカガリにそうやって答えても、カガリが困るだけだろう。
うん、やっぱり友達って答えて正解だ。キラの不満は置いといて…。
「本当に友達なのかよ?」
「だからそうだって」
「にしてはこいつ、不満そうにしてるがな?」
「…つーん」
「あの、そこで息合わせるの止めない?」
ニヤニヤと問いを重ねてくるカガリと、ソッポを向くキラ。
阿吽の呼吸で俺を攻め立てる姉妹…あの、実は君達双子である事を知ってたりしないよね?
もしそうだったら、フラガの業を色々と今すぐ話さなきゃいけない事態になりかねない─────本当に大丈夫だよな?
このまま話さずに済むなんて思ってないけど、俺にも心の準備ってものが必要なんですわ。
「お、いたいた!」
束の間の休息、というやつか。
キラとカガリの言葉攻めにおろおろしながらも、先程の戦闘で張り詰めていた精神が少しずつ和らいでいくのを感じていたその時。
アークエンジェルがある方から声がして、振り返る。
そこに立っていたのは、スピリットの整備時に何度か顔を合わせた事のある技術士の男。
男は俺の方を見て手招きをしながら、再び口を開いた。
「ちょっと来てくれないか!スピリットの事で、マードック曹長がお呼びだ!」
何事だろう。
とにかくスピリットの事で呼び出された以上、従うしかあるまい。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
キラとカガリへ声を掛けてから、男の後に続く。
男について辿り着いたのは、勿論格納庫にあるスピリットの下。
しかし、そこに佇むスピリットの様相は、以前までとは大きく変わっていた。
「…数日は掛かるって言ってた気がしましたけど」
「普通ならな。俺の手にかかりゃ、こんなもんよ!」
誇らしげに胸を張るマードック。
彼の背後には、まだ時間が掛かるだろうと思い込んでいた作業を終えて、I.W.S.P.の装備を身に着けたスピリットがあった。
いつまで経っても話が進まないので、バルトフェルドとの一戦目を巻きで終わらせました。
そしてスピリットの補修が終了。
PHASE20から数えて九話モビルスーツに搭乗していない主人公は、いつになったらモビルスーツに乗る事が出来るのか?