フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE30って、原作だったらもう閃光の刻だよ?まだ砂漠ってマジ?


PHASE30 怒りの聲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前後より放たれたミサイルに対し、スピリットはギリギリまでミサイルを引き寄せてから左方向へとステップを取った。

 

 バクゥに搭載されたミサイルには追尾機能が備わっているが、性能はそこまで高くない。

 敵へロックさせて撃ったにも関わらず、他のミサイルを敵機と誤断して追尾するという事態も珍しくはない。

 なので、今のスピリットの様にミサイルを引き寄せ、方向転換が間に合わないタイミングで回避行動をとれば躱すのは容易い。

 

「っ…!随分肝が据わっているパイロット君の様だな!」

 

 ただ、ほんの少しタイミングが遅れれば被弾は必至の回避行動である。

 スピリットにはPS装甲が搭載されているとはいえ、三機のバクゥより放たれた多数のミサイルを受ければ、バッテリーへのダメージは勿論、中のパイロットもただでは済まない。

 

 バルトフェルドはそんな恐れ知らずのパイロットへ向けて賛辞を送りながら、機体を駆る。

 

「各機、フォーメーションを崩すなよ!こいつの足は確かに速いが、砂漠のバクゥ程じゃない!」

 

 確かにスピリットの機動力は大したものだ。あれだけのウエイトを抱えながらあの速度を出せる馬力はバルトフェルドも舌を巻く。

 それでも、砂漠という立地に於いて、機動力でバクゥの右に出る機体はない。

 

 地の利は間違いなく、バルトフェルド側にあった。

 

「やっぱり速いな…。前のスピリットならそれでもスピードで勝てたんだろうが─────」

 

 そしてそれは、スピリットを駆るユウにも同じく分かっていた。

 

 壊れる以前のスピリットならともかく、現在のスピリットでバクゥに対し、スピードで攪乱しようなど微塵も考えちゃいない。

 

 過去は過去、今は今─────今のスピリットに搭載されている火力を総動員して、砂漠の猛獣を捻り潰す─────!

 

「チィッ…!動きを止めるなよ二人共!止まればあっという間に潰されるぞ!」

 

 バルトフェルド機、そして僚機二機へと降り注ぐ無数の砲撃を何とか潜り抜け、避け続ける。

 

『ですが隊長、このままでは…っ!』

 

「これだけバカスカ撃ち続ければバッテリーはあっという間に底をつく!どこかで必ず、こちらが攻め込む隙は来る!」

 

 無線を通して聞こえてくる、部下の弱気な声に対し、声を張り上げ喝を入れる。

 

 そう、バルトフェルドの言う通り、スピリットは惜しみなく砲門を開き、バクゥ隊へ向けて砲撃を浴びせ続けていた。

 むしろバルトフェルド達はよくこの砲撃の雨を躱し続けている。そして、これだけのペースで撃ち続ければどこかでスピリットはバッテリーが底をつく、或いはそれを考慮して砲撃を止め、バルトフェルド達が攻め込む隙が出来る筈だった。

 

 しかしそれは、スピリットに乗り込んでいるパイロットが、ユウ・ラ・フラガでなければの話だが─────。

 

 ユウはバクゥへ向けてライフル、レール砲を連射しながらチラリとメーターを確認する。

 

 戦闘が始まってまだ数分、しかしペース配分を考えず撃ち続けたせいでバッテリーは急激に減少、残り半分という所まで落ち込んでいた。

 

 このまま撃ち続けても、こちらがバッテリーを消費し尽くす前に相手の方が息切れするだろう。

 ただ、()()()()()()─────。

 

「…っ」

 

 操縦桿を握る両手に巻かれた包帯に、微かに滲み始めた血を見て、ユウは素早く判断する。

 砲撃を止め、ライフルとレール砲、更に右手に握っていた対艦刀をマウント。

 三機のバクゥの内の一機に狙いを定め、スラスターを吹かせながら両腰のビームサーベルを抜き放った。

 

「っ、ジャッセル!」

 

 突如行動を変更したスピリットを見て、咄嗟に狙いをつけられたバクゥに乗り込む部下の名前を叫ぶバルトフェルド。

 

 そんな彼の目の前で、ジャッセル機とスピリットの攻防が始まる。

 

 スピリットの二刀流による斬撃を、ジャッセル機は後方へステップをとって回避すると、二門のレール砲をスピリットへ向けて撃ち浴びせる。

 

 だが、放たれた電磁砲弾はスピリットへ命中せず、空を横切っていく。

 

「奴は…化け物かっ!?」

 

 二機の距離はそう離れていなかった。近距離とすらいえるあの距離間で、電磁砲弾を躱して見せたスピリットの動きに、流石のバルトフェルドも慄く。

 

 そして、それ以上に動揺を隠せなかったのは必中と思われた攻撃を躱された、ジャッセルだった。

 

「逃げろ、ジャッセル!」

 

『う、うわぁぁぁぁあああああああ!!!?』

 

 バルトフェルドが呼び掛けるよりも早く、スピリットは動き出す。

 

 スピリットのスラスターが噴射され、秒にも満たない間にジャッセル機との距離をゼロにする。

 

 振り下ろされる二本のビームサーベルは容易くバクゥの装甲を切り裂き、スピリットがその場から跳び退いた直後に機体が爆散する。

 

「撤退だ!これ以上はこちらが全滅する!」

 

 全滅─────その二文字が脳裏を過った瞬間、何かを考える前にバルトフェルドは撤退を断じた。

 彼の命令に異を唱える者はおらず、即座に味方は反転し撤退を開始する。

 

 バルトフェルドも、最後にこちらを見つめるスピリットを一瞥してから、部下達に続いて撤退する。

 

 まだ戦っていたい─────そんな本音も胸の中にあったが、()()()()()()()()()現状では勝ち目はない。

 

 だが次は、次に戦場で相見えるその時は、互いに死力を尽くした戦いになるのだろうと、この時のバルトフェルドは理由も根拠もなく、そう直感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…い、っつ」

 

 撤退していくバクゥの後ろ姿を眺めながら、大きく息を吐く。

 戦闘に張り詰めていた集中が途切れ、気が抜けたからか、両手から伝わってくる痛みをようやく自覚する。

 

 包帯に滲む血の色が広がっている。

 塞がり始めていた皮膚が、激しい動作の末に再び剥がれたのだろう。

 

 前回は操縦桿が一つしかないスカイグラスパーで出撃したから、誤魔化しが効いた。

 だが今回、二つの操縦桿を両手でそれぞれ握り、絶え間なく両手を動かし続けた。

 

 機体に乗り込む前…それこそ、バクゥ隊と交戦を始めるまでは痛みはなかったし、問題ないと思っていたんだけどな。

 もしあのまま戦闘が続いていたら、強くなっていく痛みが操縦に影響を及ぼして、落とされていたかもしれない。

 …俺が一人だったなら、だが。

 

『ユウっ!大丈夫!?』

 

 スピーカーから聞こえてくる、俺を呼び掛ける声。

 

 振り返り、背後を見れば、そこにはこちらへ急いでやって来るストライクがいた。

 

「あぁ。バクゥは撤退した。俺も怪我はしてないよ」

 

 …嘘は吐いてないぞ?この火傷は戦闘の前からあった怪我であって、この戦闘で怪我をした訳じゃない。

 

 なお、そんな言い訳はキラには通用しなかった。

 機体から降りた俺に駆け寄って来たキラは、目敏く両手に巻かれた包帯に血が滲んでいるのを見つけた。

 

「…バカ。また無茶した」

 

「…ゴメン」

 

 キラは俺の両手に恐る恐る触れ、赤く染まった包帯を少しの間見つめてから、俺を見上げながら小さな声で非難した。

 

「もう手が治るまで出撃しちゃダメだからね?」

 

「…約束はでき────分かった。分かったから睨まないで」

 

 真っ直ぐに心配してくれるキラへ罪悪感を抱きながらも、約束はできない、と返事をしようとして─────こちらを睨むキラの目を見て口を噤んだ。

 そして代わりにキラの心配に応える方向の返答をして、何とかキラのご機嫌をとる。

 

「…」

 

 俺の返答を聞いて満足そうに頷いてから、キラは厳しい表情を浮かべて俺の背後を見る。

 その視線を追って、俺も振り返った。

 

 ひしゃげた車の残骸、立ち昇る煙、砂まみれの死体。

 俺が倒したバクゥの残骸もあるが、この戦闘で受けた被害は殆ど明けの砂漠に集中している。

 

 ─────必要がなかったこの戦闘で、多くの命が失われた。

 

「死にたいんですか」

 

 泣きそうな顔なカガリと、厳しい顔のサイーブが俺達の前に立った時、キラは低い声で二人に向かって言った。

 

 相当頭に来ているらしい。それも仕方なくはあるが。

 

 たかだかバギーとランチャーでモビルスーツへ戦いを挑む─────幾度となく、モビルスーツと対峙してきたキラだからこそ、それがどれだけ愚かな行為か思い知っているのだ。

 

「何の意味もないじゃないですか。こんな所で」

 

「なんだと!?見ろ!彼らに同じ事を言えるのか!?」

 

 冷ややかな声でキラは更に続ける。

 そして、その言葉に激昂したのはカガリだった。

 

 目に涙を浮かべ、彼女はキラの胸元を掴み、片手を振って背後を指した。

 

 指の先には何人かの死体が横たえられていた。

 俺やキラとそう歳も変わらない少年の、変わり果てた姿もある。

 

「みんな必死で戦った!戦ってるんだ!大事な人や、大事なものを守る為に、必死で!」

 

「っ─────!」

 

 背後へ振ったもう一方の手もキラの胸元を掴もうとしたその時、キラを纏う空気が変わった気がした。

 

「やめろ、キラ」

 

 咄嗟にキラへ声を掛ける。

 すると、キラは動かそうとした右腕を止めて、俺の方を見る。

 

「ユウ、でもっ!」

 

「分かってる。だけど、暴力で解決するようなものじゃないだろ、これは」

 

「…」

 

 やっぱり、カガリを叩こうとしたなこいつ。

 

 俺の言葉を受けて、キラは下げた腕でカガリの両手を振り払って一歩下がる。

 

「…必死で戦った結果が、これか」

 

「なに?」

 

 キラと入れ替わる形で前に出ながら、俺はカガリへ語り掛ける。

 

 カガリは吊り上がった目尻をそのままに、今度は俺を睨みつけた。

 

「大事な人を、大事なものを守る為に戦った結果が、これかと言っているんだ」

 

「っ、お前っ!」

 

「たかだかバギーとバズーカを持ち込んだ程度で…本気でバクゥを倒せると思ったのか?」

 

 カガリがこちらへ詰め寄って来る。一度振り上げられた右手が拳を握り、俺の顔面目掛けて放たれるが、顔に拳が命中する前に左手を割り込ませ、カガリの拳を握り押さえる。

 

「くっ、離せっ!」

 

「お前らは今までずっと、何をしてきたんだ?何を学んできたんだ?…そんなもので倒せる相手なら、アンタらはとっくに本懐を達成できていた。違うか?」

 

 喚くカガリを無視して、バツが悪そうにこちらを見るレジスタンス達へ向けて言葉を続ける。

 

「砂漠の虎の厄介さを、アンタらは俺達よりもずっと、ずっと知ってる筈だ。それが何故、こんな事になる?何でこんな…自分の命を投げ捨てる様な行為に走る?」

 

 あぁ、まずい。言葉を進める内に、声に力が籠もっていくのが分かる。

 キラに偉そうな事を言っておきながら、少しずつ怒りが外へ漏れているのが自分でも分かる。

 

「大事な人を守る為に戦ったってお前は言ったな。…戦ってるのが、前線に出ていく男達だけだと思ってるのか?」

 

「なに、を…」

 

「前線で戦いに行く家族の帰りを待つ人達。彼らも、帰る場所を守る為に戦っている。下らない意趣返しの為に…勝ち目のない戦いに出て、無駄に命を散らして!アンタらは、アンタらの帰る場所を守る彼らから、大事な人を奪ったんだ!」

 

 一歩、二歩と後ずさるカガリ。

 彼女の拳から力が抜けたのを感じた俺はその手を解放してから、呆然とこちらを見上げる双眸を見下ろす。

 

「言ってみろ」

 

「え…?」

 

「もう一度言ってみろと言っているんだ。大事な人を失った人達の前で。守る為に必死に戦ったって」

 

 見上げる双眸が下がっていき、やがてカガリの顔が伏せられる。

 

 …途中から俺も、感情から言葉を発してしまった部分もあるが、今のカガリにはこれくらい言ってやらなければ分かるまい。

 自分がどれだけ愚かな事をしたか─────自分の言葉が、この惨劇を引き起こしたのだという自覚。

 

「思い知れ。お前の声は、言葉は多くの命を救う事も出来れば、奪う事も出来る」

 

「…」

 

「…獅子の娘なら、まずはそれくらい知っておくんだな」

 

「─────」

 

 最後にそう言い残して、カガリに背を向けてスピリットの方へと戻る。

 途中、ついてくるキラの足音に混じって、更に背後からキラとは違う誰かの足音が聞こえて来たが、その足音はすぐに途切れた。

 

「…ユウ、帰ったらまず医務室だよ?ちゃんと手を診て貰わなきゃ」

 

「…そうだな。うん、そうするよ」

 

 我ながら言い過ぎたという自覚はある。

 だから、今のやり取りについて何も触れようとしないまま、俺を気遣ってくれるキラの優しさがとてもありがたかった。

 

 キラは俺をスピリットの足下まで送ってから、ストライクの方へと駆けて行く。

 そんな彼女を少しの間見送ってから、俺はスピリットのコックピットへと乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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