フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE31  白い微笑み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マイウス市─────プラントを形成するコロニーの一つである。

 元は地球に対する大規模生産基地として製造されたプラントは、それを形成する多くのコロニーそれぞれに管轄の分野を定めていた。

 その中でマイウス市は、機械工学、冶金学、材料工学、ロボット工学を管轄としている。

 ザフトのモビルスーツは主に、このマイウス市に所在を置く、国策軍事企業()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にて開発される。

 

 モビルスーツの開発が活発に行われ工場が数多くあるマイウス市に、ザフトのトップエース、ラウ・ル・クルーゼの自宅はあった。

 以前まではザフトの本部が置かれていたディセンベル市に居住をしていたクルーゼだったが、とある事情により、転居をせざるを得なくなった。

 

「…さて」

 

 最低限の物しか置かれず、殺風景な部屋の中でクルーゼは息を吐く。

 

 アークエンジェルを取り逃がし─────ユウ・ラ・フラガを取り逃がし、今すぐにでも地球へと降下し奴を追い掛けてやりたいクルーゼだったが、プラントへの帰投命令、そして任務が続いた事を考慮され休暇命令を下された結果、少しの間身動きがとれなくなってしまった。

 

 帰投命令は仕方ないとしても、休暇に関しては余計なお世話だと口を突いて出そうにすらなったのだが、それを何とか抑え、渋々休暇に勤しむ─────つもりなど、クルーゼには毛頭なかった。

 無論、次の任務に向けて体を休めるつもりではいるが、一人の上官として、一人のパイロットとして、そして何より世界に憎悪を抱く復讐者として、クルーゼにはすべき事が山のようにある。

 

 モニターと向き合い、キーボードを操作して休んでいる間に送られてきたメッセージデータに目を通していく。

 それらの内容を頭に叩き込むと同時に、思考の端で仇敵への思いを馳せる。

 

 ─────確か、足つきが降下したのはアフリカ北部の砂漠だったか。…砂漠の虎、か。

 

 アンドリュー・バルトフェルド。

 ザフト北アフリカ駐留軍司令官であり、砂漠の虎という異名を持つザフトが誇るエースパイロットの一人である。

 一度言葉を交わした事があったが、なかなか愉快な人物ではあった。向こうは何故か、クルーゼを嫌う節が見えていたが。

 

 ─────駄目だな。あれでは奴を落とせまい。アスラン達が足つきを追ってアフリカへ向かったが、それも果たしてどこまで力になれるか…。

 

 そんなエースパイロットを名乗るに相応しい実力の持ち主であるバルトフェルドでも、ユウを落とすには至らないとクルーゼは断じる。

 

 大気圏からの脱出が遅れ、結果地球へと降下する事となったアスラン、イザーク、ディアッカの三人は無事にジブラルタルへ辿り着き、今頃はアークエンジェルがいるアフリカへと旅立っている筈だ。

 しかし、彼らがバルトフェルド隊と合流した所で、果たしてどこまで力になれるか。

 宇宙と地上では─────ましてや砂漠という特殊な地形で、彼らがどこまで戦う事が出来るのか。

 一人の上官として少し興味こそ湧くが、かといって気になるかと問われればそうでもない、程度にしかクルーゼは感じていない。

 

 彼らがどうなろうと、どうでもいい。どうせいずれ散る命、遅いか早いかの違いだ。

 それよりも、流し見るメッセージの中で一件、クルーゼの目に留まる物があった。

 

「…ほぉ?流石というべきか…。早くもザラの目に留まったか」

 

 それは何の変哲もない、とある()()()()からの報告メッセージだった。

 そこに書かれた内容を見たクルーゼは、仮面の下の口を笑みの形へ歪ませた。

 

 ─────しかし、何が起こるか分からないものだな。あの時の子供が、今や私の部下になるとはな。

 

 脳裏に浮かぶ荒んだ黒髪と汚れた顔、そして絶望に塗れた双眸。

 生きる希望を失っていた子供へ言葉を掛けたのは、クルーゼにとって何の打算もないただの気紛れだった。

 それが今、自分の部下として働いてくれる─────当の本人にはそんなつもりなど毛頭ないだろうが、使い勝手の良い駒が増えた事に、クルーゼは機嫌を良くしていた。

 

 ─────()()()()()()()()()()をチラつかせさえすれば奴の手綱は握れる。

 

「くくっ、まるで猿だな。…猿にしては随分と凶悪ではあるが」

 

 これで後はクルーゼが合流し、アークエンジェルを追う事が出来ればなお良かったのだが、現在進行中である大型の作戦への参加が決まったこの状況ではそれは難しかった。

 

 今まで苦心して積み上げて来た軍人としての功績、立場を全て投げ出してユウを追うのも考えたが、それはやはり危険すぎた。

 脱走などすれば機密を持ちすぎているクルーゼを、ザフトは放っては置かない。

 背後を気にしながらユウと戦い、勝利を収めるなど到底無謀。憎しみを持ちこそすれど、感情に流されはしなかったクルーゼはそこで踏み止まった。

 

「さて…私から君達へのプレゼントだ。少々物足りないかもしれんがね」

 

 ユウとキラが知らない間に、憎悪はゆっくりと、彼らへ近付きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…遅い」

 

「まあまあ…。一応出発時間はまだですし」

 

 苛立たし気に腕を組み、指をトントンと動かすバジルール少尉を隣のトノムラ軍曹が宥める。

 

 俺もバジルール少尉みたいに苛立ちはしないが、まあこの強い日差しを受けながら待たされる身として気持ちが分からないでもない。

 現に、言葉にこそ出さないが、同じく外で立たされ続けているカガリもまた表情に苛立ちが浮かんでいた。

 彼女の傍らに立つ褐色の男、キサカとそのまた隣に立つサイーブの方は表情から感情が読み取れないが…。

 

 現在、俺達は大きめの車の傍でとある人物が来るのを待っていた。

 そのとある人物というのはキラなのだが─────何故、こんな炎天下の中に放り出されているのか、その理由を語るには少々時を遡らなければならない。

 

 というのも、一時間ほど前か。ラミアス艦長に呼び出され、俺とキラは物資の調達を命じられた。

 物資と言っても弾薬等の物ではなく、砂漠の市場でも買える日用品だが─────弾薬等の一般の店舗では手に入らない物は、サイーブとキサカの同行のもとでバジルール少尉、トノムラ軍曹が担当する事となった。

 

 そして日用品の調達を命じられた俺とキラにも、二人だけでは地理が分からないという事、そして気軽に話せるであろう同年代という事も考慮して、カガリの同行が決まった。

 

 …気まずいけどね。だって、あんな偉そうな事を言ってすぐ後日に顔を合わせるだけじゃなく、一緒に買い物に行かないといけないとか。

 炎天下の中外に出るくらいなら中で休みたいって断ろうかとも思ったけどさ。ただ、この買い物中でブルーコスモスのテロが起こる─────原作ではバルトフェルド隊が鎮圧したが、同じような展開になるとも限らないし、やはり同行者は多い方が良い。

 どうせならもっと護衛が欲しい所だったが、敵地を歩く以上、少人数での行動が望ましい。

 それにまさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて信じてくれないだろうし。

 

 とまあこういった経緯で外出する事が決定したのだが、俺達が炎天下の中待たされている理由はこの後に起きた。

 俺とキラが買い出しをする─────カガリも同行だが、その事を知ったヘリオポリス組(フレイとミリアリアの女性組)が大騒ぎを始めた。

 やれこれはデートだやら、お洒落をしなきゃやら、そう言って二人は戸惑うキラを連れてどこかへ行ってしまった。

 置いてかれた俺とカガリは、とりあえずそれぞれ身支度をして、外に出て、そして今に至る。

 

「準備にいつまで掛かって─────」

 

 いよいよカガリの我慢も限界が来たか、出発予定の時刻にもうすぐなろうかという所でカガリが遂に口を開き─────そして何故か、目を丸くしながら固まった。

 

 カガリだけじゃない。キサカもサイーブもトノムラ軍曹も、カガリと同じ方向を見ながら少し驚いた様子を見せていた。

 

「ヤマト少尉、遅いぞ。時間には間に合っているが、もう少し余裕を持った行動をするべきだ」

 

「は、はい。すみません…」

 

 ただ一人、バジルール少尉だけは通常運転だった。

 時間ギリギリに来たキラへ注意をしている…というかキラ来たのか。いつのま…に…。

 

「ユウ、ごめん…。フレイとミリアリアが解放してくれなくて…」

 

 バジルール少尉へ一度頭を下げてから、キラはこちらへ駆け寄って来る。

 

 何となく想像はついていたが、やはりというか…キラが遅くなったのは、フレイとミリアリアの服選びに付き合わされていたかららしい。

 選ぶのはキラの服なのに、付き合わされたというのは色々可笑しい気はするが…。

 

「え、っと…。どう、かな…?」

 

 呆然としたまま返事をしない俺を不安げに見上げながら、キラが問い掛けてくる。

 

 キラの格好は至ってシンプルだった。

 白いワンピース、襟はきちんと整えられ、スカート丈は膝丈と少し短め。

 キラが持つ清楚な印象を引き出しながら、スカートから覗く白い足がそこはかとなく艶やかさを醸す。

 

「…砂漠でその格好はどうかと思う。サソリとかに刺されたらどうするんだ」

 

「あ…。ごめんなさい」

 

 俺に注意され、寂しそうに謝罪するキラ。

 

 …違う、そうじゃない。俺が言いたいのはこんな事じゃない。

 

 怖くて、恥ずかしくて、今すぐにでもキラに背中を向けて逃げ出したくなる気持ちを必死に抑えながら、俺は勇気を振り絞る。

 

「似合ってる」

 

「…え?」

 

 そんな勇気を振り絞った一言はキラへ届いたのか否か。

 とにかく、驚いた様子で顔を上げたキラは、何が起こったのか分からないといった顔をしている。

 

 …待ってこれ、もう一回言わなきゃ駄目なやつなのか?

 

 ………。

 

「だから、似合ってる。…ほら、もう時間だし行くぞ」

 

「─────あ、待ってユウ!」

 

 二度目で限界だった。

 改めて言葉を受け取ったキラが、これ以上なく嬉しそうに笑うからもう直視出来なかった。

 

 キラに背中を向け、車に向かって歩き出す。

 俺を追い掛けて駆け出したキラは、俺の隣で走るのを止める。

 そして俺と並んだまま、嬉しそうな微笑みをそのままに俺の顔を覗き込んでくる。

 

 …やめろ、こっちを見るな。

 なんて言えず、キラの視線に気付かないふりをしながら、俺はキラと一緒に車へと乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、何してるんですか?早く乗りましょうよ」

 

「いや…。お前らの後に車に乗せられる私達の気持ちを考えろよ、バカ」

 

「「?」」

 

 何故バカと言われなければならないのか。

 そして何故、カガリの言葉に同意するようにバジルール少尉達は頷くのか。

 

 さっぱり意味が分からず、俺とキラは首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




プラントに戻って何やら画策するクルーゼさんと、そんな事は露知らずほのぼのするユウ君とキラちゃんでした。
前半と後半の温度差凄いね。次回はデート(お邪魔虫(カガリ)付笑)です。
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