フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

33 / 175
PHASE32 赤と白の調和

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦橋から、ユウ達を乗せた車がアークエンジェルを離れていく所を見送る。

 やがて映像を通して車の姿が見えなくなってから、ムウとマリューはほぼ同時に立ち上がり、それぞれの目的地へと向かうべく艦橋を離れる。

 

「しかし、思い切った事するねぇ艦長」

 

 ムウがマリューへ話し掛けたのは、二人でエレベーターへ乗り込んだ後だった。

 

 思い切った事というのは、ユウとキラの二人を数時間とはいえ、艦から離れさせるという行為。

 最新鋭の戦艦とはいえたった一隻。にも関わらず、ここまで幾度となく激闘を生き延びる事が出来たのは絶対的な戦力であるスピリットとストライク─────ユウとキラが居たからだ。

 

 その二人が艦から離れるという事は、それすなわち現在、アークエンジェルを守り続けた戦力がごっそりと抜け落ちる事を意味する。

 

「ヘリオポリスからここまで戦い続きでしたから。…本当は他の子達も出してあげたかったんですけど」

 

「まあ…。あいつらまで抜けたら、完全に艦の仕事が回らなくなるからなぁ」

 

 マリューの気持ちは、ムウにも痛い程分かった。

 今自分達が生き延びているのは、ユウとキラのお陰だ。

 パイロットとして優秀であっても、正規の訓練も何も受けていない子供達が戦ってくれたお陰で、自分達は生き延びている─────。

 

 そして、これから先を生き延びる為にも、自分達は彼らに戦いを強いなければならない。

 

 ならばせめてこれくらいは…、ほんの少しでも息抜きが出来ればと考えたマリューは、ユウとキラの二人に日用品の買い出しを命じた。

 先程彼女が言ったように、本当ならば二人以外の志願組であるフレイ達にも外出させてあげたいという気持ちはあったのだが、しかしそれも先程ムウが言ったように、彼らが一斉に抜けてしまえば艦の仕事が回らなくなってしまう。

 

 とはいえ、ユウとキラが外へ出る事を知った彼ら…特に女性組の盛り上がりを見るに、二人の外出は思わぬ効果を生んだようだが。

 

「今日の外出で少しは気分が変わるといいのだけれど…。フラガ大尉は心当たりはありませんか?」

 

「はい?心当たりって?」

 

「そういう、戦闘のストレスに関して。パイロットとして先輩でしょ?」

 

「あー…」

 

 艦長としてクルーのメンタル管理にやる気を出すのは構わない。

 そういった自覚が、マリューの中で強くなっている事にムウは喜びを覚えながら、その質問をしてほしくなかったという本音を必死に隠す。

 

 解消法─────あるにはある。

 異性であるマリューへは直接教えるのは躊躇われる、されど自分にとってはマッチしたストレス解消法が。

 

 ─────そういや、この人、改めて見ると…。

 

 言い淀むムウを不思議そうに見上げるマリューを見つめる。

 

 黒みがかった茶髪はいつそんな時間をとっているのだろうと思える程に、毛先まで整えられている。

 足首とウエストはきゅっと引き締まり、それなのに胸は大きな存在感を醸し出す。そして唇は何とも可愛い形をしている。

 

 いつも艦長として気を張っている彼女だが、自分といる時だけはその表情に脆さが覗いていると思うのは、自惚れだろうか─────なんて、そこまで考えた時にムウはようやく気付く。

 

 自身の下心を見透かすように、彼女の冷ややかな目が向けられている事に。

 

「あー、えーっと…。ちょっと、あいつらにはまだお勧めしたくないかなー…?」

 

「そのようですわね」

 

 マリューがつんとして言い返し、素っ気なく背中を向ける。

 

 その彼女の背中を追い掛けながら、ムウは口を開いた。

 

「だけどさ、多分艦長が心配する程追い詰められちゃいないと思うぜ」

 

 そう言うと、マリューは足を止めて振り返る。

 

 先程までの冷ややかな表情がやや残りつつも、見上げる彼女の視線には続くムウの言葉への興味が浮かんでいた。

 

「ユウには嬢ちゃんがいて、嬢ちゃんにはユウがいる。俺には無理だが…、同じ苦しみを分かち合える仲間が互いにいるんだからな」

 

「…」

 

 ユウには苦しみを分かち合える相手がいる─────その相手が自分ではないのが何とも情けないが、それでもムウはユウのメンタルに関してはそれ程心配はしていなかった。

 

「そうね…。でも、兄としては複雑じゃありませんか?弟が取られちゃいますよ?」

 

「いやぁ、その辺はほら、遅かれ早かれ取られるのは確定してるし。ユウは俺に似てかなりモテるからな」

 

「大尉に似てるかは一旦置いておくとして…、確かにユウ君はかなりモテそう…というかモテてるわね。キラさんもそうだけど、ラクスさんにも好意を向けられてるように見えました」

 

「…うん、ちょっとその辺で話は止めとこっか?弟の三角関係とか、兄としちゃ胃が痛い以外の何物でもないから」

 

 苦笑いをしながら言うムウを見上げながら、マリューは悪戯気な笑顔を浮かべた。

 まるで面白い玩具を見つけた悪ガキの様な表情に、ムウは嫌な予感がした。

 

「そう考えると、大尉が考えるストレス解消法というのも、強ち無関係じゃなくなるかもしれませんね。最近、ユウ君とキラさんの雰囲気が変わってきましたし?」

 

「止めて」

 

「でも、ユウ君は一体どうするのでしょうね?ラクスさんとの事もどう考えてるのか…、もしかしたら、二人一遍になんて事も─────」

 

「止めて止めて止めて!?生々しすぎて聞きたくない!あのさ、俺真面目に悩んでるのよ!?あの三人の修羅場とか俺見たくないってぇ!」

 

 頭を両手で抱えながら叫ぶムウを見ながら、マリューは大きく口を開けながら笑う。

 

 ユウとキラへの気分転換になればと命じた外出は、ヘリオポリス組へは勿論、こんな所にまで好影響を及ぼしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、四時間後だな」

 

 車から威勢よく降りながらカガリが言い、続いて俺とキラも車から降りる。

 

「気をつけろよ」

 

「分かってる。そっちこそ、交渉相手は気の抜けない相手なんだろ」

 

 車に乗ったままのキサカと向き合い、言葉を掛け合うカガリ。

 

 その後、キサカやバジルール少尉達を乗せたジープが走り去り、雑踏の中に俺達三人だけが残される。

 

 バナディーヤ─────今、俺達が居る街の名前だ。

 タッシルから更に東に位置する、砂漠の虎の駐屯地だ。

 

「おい、ボケっとするな!」

 

 人々が行き交い、物売りの声が響く。

 活気のある街の様子に、俺もキラも目を奪われている中で、カガリに声を掛けられ我に返る。

 

 すでに少し先まで歩いていたカガリの後に慌てて続く。

 

「お前らは一応、護衛なんだろ。ちゃんとついてこいよ」

 

「…ねぇ、ホントにここが虎の本拠地なの?随分賑やかで平和そうだけど…」

 

 雑踏を慣れた様子で進むカガリについて歩きながら、キラが彼女へそっと囁きかけた。

 

 街を行く人達はのどかで幸せそうに見えた。

 砂漠の虎との戦いの連続、そしてレジスタンス達と過ごした時間は、キラから砂漠の虎への悪印象を植え付けていた。

 恐らく、ここバナディーヤはもっと、暗い雰囲気に満ちた街ではないのかと思い浮かべていたんだろう。

 

 しかし実際には違く、正にキラが言った賑やかで平和という言葉が似合う街に見えていた。

 

「ちょっと来い」

 

 緊張感のないキラの問い掛けに、カガリは鼻に皴を寄せながら顎をしゃくった。

 

 何事かと聞きた気に、首を傾げてこちらを見上げるキラに肩を竦めて返す。

 とにかく、どんどん先へ行くカガリの後を俺とキラは追い掛けた。

 

 そうして歩くこと数分、角を曲がった所でカガリは足を止め、そして俺達もまた同じく足を止めた。

 

「平和そうに見えたって、そんなものは見せかけだ」

 

 カガリの視線の先にあるものを見て、キラは大きく目を見開いた。

 

 窓に張り渡されたロープに掛けられた洗濯物は風で翻り、子供達が駆け抜けていく。

 白い土壁の続く路地、その真ん中にごっそりと地面を抉り取ったような爆撃の跡があった。

 

 先程、苦い口調で吐き捨てたカガリは、平和な日常の地に似つかわしくない破壊の跡地の向こうにある、巨大な艦を見据えていた。

 

 ()()()()()─────アンドリュー・バルトフェルドの旗艦だ。

 

「あれが、この街の本当の支配者だ。逆らう者は容赦なく殺される。ここはザフトの…砂漠の虎のものなんだ」

 

「…」

 

 俺の隣に立つキラが、カガリの言葉を聞いてから、ふと背後を振り返る。

 

 キラの視線の先には、楽しそうに路地を駆ける子供達の姿があった。

 

 何となく、キラが何を考えているのか想像がつく。

 逆らって殺されるなら、逆らわなければいい─────そうすれば少なくとも、あの子供達の様に日常を穏やかに過ごす事が出来る筈だ。

 それなのにどうして、戦いを求めなければならないのか─────といった所だろうか。

 

 現在はこうして穏やかで活気のある街の姿をしていても、過去もそうであったかは分からない。

 いや、ザフトが支配する前─────抗争が頻繁に行われていた時は、この地に多くの血が流れていた筈だ。

 戦いは人から多くの命を奪う。大切なものを奪う。その果てに生まれた憎しみは、そう簡単に消えはしない。

 

 強い憎しみが湧いてしまえば、例え安寧を失ってしまうと分かっていても感情を抑える事が出来ない。

 そんな人間が殆どなのだ。普通であれば。

 

「…湿っぽくなっちまったな。時間も限られてるし、行くか」

 

 これ以上見ていられない、と言わんばかりに勢いよくレセップスから視線を切ったカガリが歩き出す。

 

 俺とキラもカガリに続いて路地を抜ける。

 再び活気のある街並みへと戻って来た俺達は、買い物リストを見比べながら、市場中を歩き回るのだった。

 

 そして─────

 

「はぁ~…」

 

「だ、大丈夫?」

 

 脇に大きな買い物袋をいくつも並ぶ中、カフェの椅子にへたり込んだ俺を心配そうに見つめるキラの図が出来上がるのだった。

 

 いや、本当に疲れたぞ…。

 前世でも今世でも、こうして女の子の買い物というものについて来た事はなかったが、よーく分かった。

 これは、覚悟もなしについて来て良いものじゃない。

 

 今でこそ心配そうであると同時に申し訳なさげにしているキラだが、買い物中はカガリと一緒にそれはもうノリノリだった。

 我に返った今は、それは本当に申し訳なさそうにしているが…。

 

 なお、もう一人の同行者であるカガリはというと─────

 

「これで大体揃ったが…。おい、このフレイって奴の注文は無茶だぞ。()()()()()の乳液だの化粧水だの、こんな所にあるもんか」

 

 荷物持ちを全て俺に任せ、疲労困憊にさせた挙句平気な顔して買い物リストを検討していやがる。

 

 こいつ…いや、止めよう。ここで苛立ちを募らせたって、疲れるだけだ。

 それよりも、そろそろさっきカガリが注文したあれが…お、来た来た。

 

 俺達の前に、給仕がお茶と料理を並べた。

 薄いパンの上にトマトやレタスなどの野菜と、こんがり焼いた羊肉のスライスが載っている。

 これだよこれ。この買い物に同行した理由の一つに、これが食べたかったっていうのもあったんだよな。

 

「なに、これ?」

 

「ドネル・ケバブさ!あーっ、腹減った。お前らも食えよ!ほら、このチリソースをかけて…」

 

 物珍しそうに尋ねるキラに答えながら、カガリはテーブルからソースの容器を手にして、それを俺達に向けて差し出した。

 

「あいや待った!」

 

 その時だった。どこからともなく声が掛かり、キラとカガリは驚きそちらを見遣る。

 

 ─────やっぱり来たか。

 

 俺も少し遅れて声がした方へ視線を向けると、派手なアロハシャツにカンカン帽という、なんとも目立つ格好をした男がそこには立っていた。

 

「ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ、君は!ここはヨーグルトソースをかけるのが常識だろうがっ!」

 

 原作と同じタイミング、同じ姿で現れたこの男─────アンドリュー・バルトフェルド。

 前回の戦闘では、原作よりも与えた損害が大きかった故に、もしかしたら現れないかもしれないと危惧していたが、心配が杞憂で終わり少し安堵する。

 もしバルトフェルドが来なかったら、ブルーコスモスのテロが原作通りに起きた場合、対処が面倒臭くなるからな。

 

「はぁ?」

 

「いや、常識というよりも、もっとこう…そうっ!ヨーグルトソースをかけないなんて、この料理に対する冒とくに等しい!」

 

「…なんなんだお前は」

 

 胡散臭そうに熱弁する男、バルトフェルドを見ていたカガリだったが、やがて無視する選択をとった彼女は構わず…というより、バルトフェルドに見せつけるようにケバブへチリソースをぶっかけた。

 

「あぁっ!?」

 

 悲痛な叫びを上げるバルトフェルド。

 

「見ず知らずの男に、私の食べ方をとやかく言われる筋合いはない!…あーっ、うっまーい!」

 

「あぁ…なんという…」

 

「「…」」

 

 大人げないカガリと打ちひしがれるバルトフェルド。

 そんな二人を無言で眺める俺とキラ。

 

 ─────原作見てても思ったけど、実際に目にするとなおきついなぁ…。何でこの二人、そんなに必死なの?

 

「ほら、お前らも」

 

「あぁっ、待ちたまえ!彼らまで邪道に堕とす気か!?」

 

「何を言う!ケバブにはチリソースが当たり前だ!」

 

「いいや、ヨーグルトソース以外考えられない!」

 

「…はぁ」

 

 うん、もう無視しよう。

 大体二人共可笑しいんだよ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ」

 

「「え」」

 

 俺は二つの容器を手に取り、腕を動かし波打たせながらケバブへ()()()ソースをかけていく。

 

 その様を呆然と見ていたキラが呆けた声を上げ、そして続いて俺の行為に気付いたカガリとバルトフェルドもまた、さっきまでの激しい口論はどこへやら。

 静かになって呆然と赤と白のソースがかかった俺のケバブを見つめる。

 

「争いは止めろ。チリもヨーグルトも甲乙つけがたい程に美味い。なら正解は、二つの調和だろうが」

 

「「いや、それはない」」

 

「…」

 

 本当にさっきまで仲違いしていたとは思えない程に合った息で、俺の選択を全否定してくる二人。

 

 …この人の多様性に目を向けようとしない独善主義者どもめが。

 お前らの様な人間が居るから、争いは終わらないんだ。

 

「ねぇ、ユウ。それ美味しい?」

 

「美味いぞ。キラも試してみるか?」

 

「えっと…。今回はいい、かな?」

 

「…そうか」

 

 美味いんだけどな…。

 まあ、キラはケバブ初めてみたいだし、最初は片方のソースを試すのが良いだろう。

 

 そう結論付けながら、未だ信じられないといった視線を向けてくる二人へ見せつけるように、ケバブを頬張るのだった。

 

 うん、やっぱり時代はミックスだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という事で、赤(チリソース)と白(ヨーグルトソース)の調和の話でした。
ちなみに私はケバブ食べた事ないので、味に関してはさっぱり分かりません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。