フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE33 be fascinated

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とカガリはあっという間にケバブを食べ終え、キラも半分ほど食べ終えていた。

 因みに、何故キラが食べるのに時間が掛かっているかというと、チリソースとヨーグルトソースを交互にかけながら食べているからである。

 

 チリソース派(カガリ)ヨーグルトソース派(バルトフェルド)が睨みを利かせる中、キラが出した結論がこれだった。

 なお、ミックス派()の意見は無視された。一度断られた後、もう一度勧めてみたのだがやっぱり却下された。

 まあ次に食べる時は試してみると言っていたし、その時にはキラもミックスの美味しさに気付けるだろう、うん。

 

「しかし、凄い買い物だねぇ。パーティでもやるの?」

 

 てっきりまた、キラへどちらのソースの味が上なのかと二人して問い詰めるつもりなのではと思っていたのだが、思いの外バルトフェルドは落ち着いていた。

 というか、いつの間にか同じテーブルに座ってるし…、いつの間にかコーヒー頼んでるし…。

 

「余計なお世話だ!大体お前、さっきから何なんだ?誰もお前なんか招待してないぞ!」

 

 買い物袋を覗き込みながら尋ねてくるバルトフェルドへカガリが噛みつく。

 

「っ─────」

 

 その時だった。

 

 慣れ親しんだ冷たい感覚が、今すぐにその場から離れろと俺へ叫ぶ。

 

 店に入ってすぐの時は警戒していたつもりだったが、チリソース派(カガリ)ヨーグルトソース派(バルトフェルド)の論争を前にして、気が抜けてしまっていたらしい。

 敵意はもう、この場から逃れられない所にまで接近していた。

 

「キラっ!カガリっ!」

 

「え、ちょっ、わぷっ」

 

「うわっ、な、なにを─────」

 

 カガリの腕をテーブル越しに掴み、強引にこちらへ引き寄せる。

 その途中でもう片方の腕でキラを抱きすくめ、その場にしゃがみこんで姿勢を低くする。

 

 次の瞬間だった。空気を劈く鋭い音を立てて、店の中に何かが飛び込んで来た。

 

 すかさず、バルトフェルドがテーブルを跳ね上げ自身を含めた四人全員の身を隠す。

 

 直後、店内に撃ち込まれたロケット弾が炸裂した。

 襲って来た爆風や破片を、テーブルの陰に身を縮めてやり過ごす。

 

「無事か!?」

 

「はい!そっちは!」

 

「こっちも大丈夫だ!だが─────」

 

 バルトフェルドがこちらに視線を配らせながら、大声で尋ねる。

 それに対し、腕の中のキラと、先程の爆風によって吹き飛んだお茶とソースに濡れたカガリに怪我がない事を確認してから問題ない事を伝える。

 

「死ね、コーディネイター!」

 

「青き清浄なる世界の為に!」

 

「ブルーコスモスめ、折角の楽しいひと時に…!」

 

 響き渡る怒号の中で、テーブル越しにマシンガンを連射しながら突入してくる男達を、バルトフェルドが忌々し気に睨む。

 

 ブルーコスモス─────元々は環境保護団体であったが、コーディネイターの存在が明らかになると反意を表明。キリスト教やイスラム教といった旧宗教団体を取り込み、やがて反プラント、反コーディネイターの思想を持つ者達が集まる武装団体と発展していった。

 先程、男達の内の一人が口にした()()()()()()()()()()()というのは、ブルーコスモスのスローガンだ。

 

 青き清浄なる世界─────それを実現する為に、世界を赤い血に染めるというのは何とも皮肉な話と思うのだが、団体の中でも特に過激派…というよりただの暴走者達にはそこまで思考が至る脳みそを持っていないんだろう。

 

「お、おいっ!」

 

 不意にバルトフェルドが立ち上がる。

 テーブルの陰から姿を現したバルトフェルドの姿を視認した男達が、一斉に彼へ銃口を向ける。

 慌てた様子でカガリがバルトフェルドへ向かって手を伸ばす─────今すぐ姿を隠すべきだと、何かしらの手段で伝えるつもりだったのだろう。

 

 だがそれよりも前に、どこからともなく襲撃者の頭部を銃弾が撃ち抜いた。

 

「構わん、全て排除しろ!」

 

 さっきまでの軽薄さが嘘の様な鋭い声でバルトフェルドが命令する。

 

 命令とは言ったが、それよりも前に、バルトフェルドの部下と思われる者達は動き出していた。

 

 途端に激しさを増す銃撃戦。

 とにかく、キラとカガリが巻き込まれない様に二人の身体を縮ませながらじっとしていると、俺の足下に拳銃が転がって来た。

 

 近くで誰かが落としたのか─────テーブル越しに向こう側を見ると、襲撃者達の数は着実に減っていた。

 

「っ!」

 

 ひやりと奔る冷気と脳裏に響く警鐘。

 テーブルに身を隠して銃弾を防いでいたバルトフェルドが立ち上がり、逃げようとする襲撃者へ銃を向ける。

 

 バルトフェルドは、彼を狙う銃口に気付いていなかった。

 

 考えるよりも前に、足元へ転がって来た拳銃を拾って立ち上がる。

 驚いた様子でキラとカガリが見上げ、そしてバルトフェルドもまた何事かと横目でこちらを見てくるが構わない。

 

 狙撃者は俺が立っている位置から丁度、バルトフェルドを越して向こう側に立っていた。

 そちらへ向けて、銃口を向ける。

 

「──────」

 

 俺の仕草を見て意図と理由を即座に悟ったバルトフェルドがすぐに身を屈む。お陰で狙いは定めやすかった。

 

「ぐぁっ!?」

 

 俺が撃った銃弾は狙撃者の左肩を貫通。

 

 狙撃を阻害された男は、すぐに狙いを改めようとするも、それよりも先に更なる銃弾を受けて後ろから倒れ込む。

 

 気付くと銃声は止んでいた。

 周囲を見回せばうっすらと漂う硝煙と、至る所に横たわる死体と怪我人が店内を埋め尽くしていた。

 

「ユウ!」

 

「おい!」

 

 戦闘は終わったらしい、と一息吐こうとした時だった。

 

 震えた大声と怒鳴り声に呼び掛けられた、かと思えば勢いよくキラに飛びつかれた。

 

「あ、えーっと…」

 

「何してるの!?本当に…ば、バカッ!ユウのバカッ!もう知らない!」

 

 俺へ至近距離まで詰め寄りながら、語彙崩壊を起こしながら罵倒してくるキラ。

 そんなキラの背後では、何やら言いたげのカガリが、行く末を失った手をおろおろと揺らしていた。

 キラは勿論、カガリも俺を心配してくれたのだろう。左手でキラの背中を擦りながら、残った右手をカガリへ向けて上げる。

 

「…ったく。バカップルめ」

 

「それは違う」

 

 キラを宥めるついでの様な扱いを受けた事に何を思ったか、カガリは両手を腰に当てながらこれ見よがしに大きく溜息を吐くと、小さく吐き捨てた。

 即座にその一言を否定したが、カガリはやれやれと言った様子で首を振るだけ。誤解は全く解けていないな、これは。

 

「いやぁ、助かったよ。少年」

 

「っ─────!」

 

 激しい銃撃戦を終えたにも関わらず、疲労感一つ見せないまま微笑んで見せたバルトフェルドは、俺に向けて礼を口にする。

 

 そして、バルトフェルドの顔を正面から見たカガリがハッ、と息を呑んだ。

 

「アンドリュー・バルトフェルド…」

 

 その名前を耳にして、キラもまた身を震わせる。

 俺の腕から離れたキラも、精悍な男の顔を見上げた。

 

 バルトフェルドの背後には、彼の部下と思われる男達が集まり始めていた。

 

「是非お礼がしたい。ついて来てくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キラやカガリはともかく、バルトフェルドに害意がないのを知っている俺は拒否する事も出来た。

 しかし、俺達はバルトフェルド達が用意したジープに乗って、ザフト軍が仮設司令部にしている高級ホテルへと招待される事となった。

 

 ホテルの前に並んでいるのはザフトの警備兵で、中庭に立つのは宇宙でも見慣れたモビルスーツ。

 

 俺達にとっての敵地の中へ入り込んだ事への緊張が、キラとカガリの表情を固くさせていた。

 

「お帰りなさい、アンディ」

 

 バルトフェルドに後についてホテルの中へ入り、不意に柔らかな女性の声が聞こえた。

 

 俺達の行く手に現れたのは、艶やかな黒髪を流した美しい女性だった。

 

「ただいま、アイシャ」

 

 バルトフェルドがアイシャと呼ばれた彼女の細い腰に手を回すと、そのまま慣れた様子で二人は唇を重ねた。

 

「んなっ…!」

 

 それをどぎまぎしながら見るのはカガリ。その隣ではキラもカガリほどではないが、恥ずかし気に頬を染めながら男女の口づけを眺めていた。

 

 …チラチラたまにこっちに視線を向けてくるのは何なんだろうか?

 これを俺に求めるのは是非とも止めて頂きたいのだが…。

 

「この子ですの?アンディ」

 

 バルトフェルドから体を離したアイシャがこちらへ向き直ると、カガリの肩に手を掛けながらバルトフェルドへ尋ねた。

 

「あぁ、どうにかしてやってくれ。チリソースとヨーグルトソース、おまけにお茶までかぶっちゃったんだ」

 

「あらあら、ケバブね?」

 

「それと、そちらの子も是非連れて行ってくれ。君好みの子だろう?」

 

 あれ…?もしかしてカガリだけじゃなくキラも連れてかれるパターンか?

 バルトフェルドに言われたアイシャは少しの間キラを眺めると、優しく微笑みを浮かべた。

 

「そうね。腕が鳴るわ」

 

「なら、頼む」

 

 了解、とやや演技染みた声質で返すと、アイシャはキラの肩にも手を掛け、そのまま二人を奥へ連れて行こうとする。

 

「あ、いや、こんなの別に…」

 

「ダメよ?可愛い女の子が、いつまでもソース塗れの顔をするなんて、貴女が良くても私が許しません」

 

「かわっ…!?」

 

「ゆ、ユウ…」

 

「あー。取って食われたりしないだろうし、大丈夫だろ」

 

「そんな…!」

 

 どうせついていこうとしても出来ないし、大体女の子の着替えについていくほどデリカシーがないつもりはない。

 

 しかし、キラのドレス姿か…。

 ─────今のワンピースも似合ってるから勿体ない気はするが、アイシャが選ぶドレスにも興味はある。どんな風になるんだろう?

 

「ほら、君はこっちだ」

 

 俺の方はバルトフェルドの後について、とある一室の中へと入った。

 

 そこは明るく広い部屋で、中庭に面した側は全面がフランス窓になっていた。

 窓に背を向けて、アンティークらしい書き物机が置かれている─────ここは、バルトフェルドの執務室か何かなのだろう。

 

 しかし、少しこの部屋というか、置物が醸す雰囲気が苦手だ。

 床に敷かれたシルクの絨毯といい、壁にある暖炉やら─────今はもうない、フラガの屋敷の雰囲気にそっくりだから。

 

「そう緊張しなくていいよ。自分の家だと思って寛いでくれたまえ」

 

 その自分の家に雰囲気が似てるから寛げない…とは口に出せず、いつの間に淹れていたのだろう、コーヒーをテーブルに置きながら言うバルトフェルドへ向けて曖昧に頷く。

 

 テーブルを挟んでバルトフェルドの対面のソファに腰を下ろして、俺に淹れてくれたコーヒーに口を付ける。

 

 …苦っ、何だこれ。

 俺はブラックコーヒーも飲めるというか、むしろそっちの方が好みまであるが、ここまで苦味のあるコーヒーを飲んだ事はない。

 でも、何故だろう。癖になる味だ。

 

「ほぉ。君、なかなかいける口だな」

 

 感心したように言いながら、バルトフェルドも自身が淹れたコーヒーに舌鼓を打つ。

 

 俺もコーヒーの二口目を含み、ゆっくりと咀嚼して味わってから喉へ通す。

 その途中でふと目に入った物に、思わず視線を向けた。

 

 何かの生き物の化石を模したレプリカだ。

 この世界に生きている人間なら誰もが一度は目にした事がある、有名な化石─────エヴィデンス01。

 

「実物を見た事は?」

 

 俺がエヴィデンス01に目を奪われている事に気付いたバルトフェルドが、主語もなくそう尋ねて来た。

 

 その問い掛けに頭を振って答えると、バルトフェルドはしみじみとそれを眺めながら再び口を開いた。

 

「何でこれを()()()()というのかねぇ?これ、鯨に見えるかい?」

 

「見えなくはない、という所ですかね」

 

「ふむ…。だが、背中から生えているあれ、どう見ても羽じゃない。普通、鯨に羽はないだろ?」

 

「…まあこれが何であるかなのは俺にとってはどうでもいいです。バルトフェルドさんはどうもこれが愉快で楽しい物の様に見えているようですが、俺にとっては逆です」

 

「…ほぉ?」

 

 軽い笑みを浮かべていたバルトフェルドが目を丸くしながら、俺へ問い掛けてくる。

 

「なら、君にとってこれはどう映っているのかな?」

 

「ゴミです。今すぐに外宇宙へ捨てるべき…いや、もう遅いか。人はもう、()()()()()()()()()と知ってしまったから」

 

 後半の台詞は、バルトフェルド自身も言っていたものだ。

 

 俺もこの台詞に全面同意で、外宇宙から偶然もたらされた地球とは全く異なる生命の証拠(エヴィデンス)は、人へ更なる可能性を示してしまった。

 

「可能性の先にあるものが希望であれば良かった。でも結果、人は妬みと憎しみに流されて、可能性の行く末からずれた破滅の扉へ向かおうとしている」

 

「可能性なんてなくて良かった。先に何て行けなくても良かった。だけど人は他者より先へ行きたがる。他者より上へ登りたがる。他者より強くなりたがる」

 

「人の醜い感情を助長させた汚物。俺にとってこれは、その程度のモノです」

 

 コズミック・イラの混沌さに更に拍車をかけた要因の一つ─────エヴィデンス01は、俺にとってはそれ以外の何物でもない。

 原作ではまだ何かしらの秘密がありそうな表現がされていたが…、それが何か分からない以上、俺からこいつへの評価はそれ以上にも以下にもならない。

 

「君は─────」

 

 言いたい事を言い終えて、コーヒーの三口目を含む。

 すると、バルトフェルドは俺に感情が読み取りづらい視線を向けながら何かを言おうとして─────その前に、控えめなノックの音がして二人で振り向いた。

 

 ドアが開き、アイシャが入って来る。

 その後ろにはキラとカガリが彼女にくっつくようにしてついてきていた。

 

「なあに?恥ずかしがる事ないじゃない」

 

 アイシャが笑いながら、キラ達を前に押し出す。

 

「─────」

 

「ほっほーう」

 

 その姿を見て俺は息を呑み、バルトフェルドは目を輝かせた。

 

 カガリはまだ良かった…なんていえば失礼かもしれないが、原作通りのドレス姿は魅力的だったし、しかしそれでもまだ耐えられた。

 問題は青いドレス姿のキラだった。あのワンピース姿といい、この子もしかして俺を殺しにでも来てるんだろうか?

 

 カガリの裾の長いドレスとは逆に、キラが身につけたドレスは裾が短く、裾の先ではレースがひらりと揺れた。

 裾が届く膝上からは黒いタイツに覆われた引き締まった足が露になっている。

 上半身では胸元が少し開かれ、存在感のあるキラの胸の谷間が微かに覗く。

 何というか、さっきまでのワンピースもキラの清楚さをこれ以上なく引き出しつつ、短めの裾から覗く生足がキラの妖艶さも同時に引き出していたのが、このドレスは引き出す清楚さと妖艶さの割合が真逆になった感じだ。

 何というか、その…エロい。

 

「おい」

 

「え、あ、な、なに?」

 

「何とか言ってやれよ。こいつ、着替えてる間お前に何て言われるかーっておどおどしっ放しだったんだぞ?」

 

「か、カガリッ!」

 

 呆然とキラの姿を眺めている俺の脇腹をカガリが肘で突いてきた。

 何事かと聞き返せば、カガリから返って来た答えは思わぬものだった。

 

 …今日は何というか、勇気を振り絞る場面が多く来る日だな。

 

「うん、似合ってるよ。さっきのワンピースも可愛かったけど…、そっちも魅力的だ」

 

「っ~~~~~~~~!!!」

 

 そう言えば、キラは顔を真っ赤にさせ、瞳を潤ませながらそっぽを向いてしまった。

 

 その様子を眺めていたバルトフェルドは口笛を吹き、アイシャが微笑ましそうに笑う。

 そしてカガリは、「ケッ」と吐き捨てながら俺達から視線を外す。

 

 改めて、役者は揃ったという事でお茶会が再開となる。

 用事が済んだアイシャは去り、俺の隣にキラが、その隣にカガリが腰を下ろし、バルトフェルドは再び俺達の対面のソファに座り直す。

 

「で?一体どういうつもりだ?」

 

 バルトフェルドが淹れ直したコーヒーをキラとカガリへ出し、カガリが一口コーヒーを喉に通してから切り出した。

 

 …平気な顔してるけど、苦くないのかこいつ?それとも、苦さ控えめのやつを出したのかな?

 

「どういうつもり、とは?」

 

「人にこんな服を着せて、どういう心算なんだと聞いてるんだ。そもそも、お前は本当に砂漠の虎なのか?それとも、これも毎度のお遊びの一つか?」

 

「お遊びねぇ…。それについても心当たりはないが、何を指しているのかね?」

 

「変装して街をフラフラしてみたり、住民だけ逃がして街を焼いてみたりって事だよ」

 

 カガリの言葉にヒヤリとしたのか、出されたお菓子を堪能していたキラが顔を上げてカガリを見る。

 

 カガリはキラの視線に気付いて無視しているのか、それとも気付いてもいないのか、しばしバルトフェルドと睨み合う。

 

「真っ直ぐだね。…実にいい目だ」

 

「ふざけるなっ!」

 

 センターテーブルを叩きながら激昂するカガリ。

 キラがカガリを押さえようと腕を掴んだ。

 

「君も、()()()()()()()()なクチかな?」

 

「─────」

 

 相手は冗談みたいなアロハシャツを着て、ソファにだらりと座ったままだ。

 しかし、俺の背筋に慣れ親しんだ冷気を感じさせる程の強い威圧感を漂わせ、視線で俺達を射る。

 

 咄嗟に立ち上がり、キラとカガリの前へ躍り出る。

 その際、足でテーブルを蹴ってしまい、上に載った皿やカップを落としてしまうが気にも留めない。

 

 分かっている。威圧こそしているが、この男に俺達を害する気は現段階ではない。

 だがそれを差し引いてもこの威圧感。砂漠の虎という男は、これ程までに─────。

 

「少年。さっきの君の回答は実に興味深かった。だからこそ、君に尋ねたい」

 

 バルトフェルドは鋭い視線を真っ直ぐに俺へ向けながら続けた。

 

「どうすれば、戦争は終わると思う?」

 

 正直、この質問をされるとは思っていた。まさか、指名された上でとまでは考えなかったが。

 

 さて、何と答えるべきか…正直、今の俺に出せる答えは、一つしかない。

 それならいっそ、正直にそれを打ち明けてしまおうか。

 

「敵である者全てを滅ぼせば、戦争は終わりますよ」

 

「…」

 

「お、お前っ…」

 

 そう口にすれば、背後からキラが息を呑む音と、カガリの信じられないと言わんばかりの震えた声が耳朶を打った。

 

 一方、俺へ問い掛けてきたバルトフェルドはというと、獰猛な視線の中に微かに悲観を漂わせながら俺を見つめ続けていた。

 

 この男は一体、俺に何を期待したのだろう。

 この戦争を終わらせる都合のいい方法があると、それを俺が知っているとでも期待したんだろうか。

 

 悪いが、そんなもの俺には分からない。どれだけ考えても、考えても、考えても、答えに辿り着く事は出来なかった。

 

 それでも─────

 

「そうならない様に、考える事を止めないつもりではいますが」

 

「─────」

 

 バルトフェルドの目がゆっくりと見開かれていく。

 

 室内に満ちた彼の殺気が解かれていき、やがて彼の表情も穏やかなものへと変わっていった。

 

「君なら知っている筈だ。人は止まらない。それでも?」

 

「それでも、って俺は言い続けるつもりです。人は憎み合い、競い合うしか出来ない生き物じゃないって、知っていますから」

 

 この答えが、バルトフェルドにどう響いたかは分からない。

 

 バルトフェルドは少しの間、目を瞑り、俯きながら何かを考えている様子だった。

 

「…話せて楽しかったよ。良かったかどうかは知らないがね」

 

「俺は良かったと思いますよ。出来る事なら、俺達を見逃してくれると有難いのですが」

 

「今日の君達は命の恩人だし、ここは戦場じゃあない。だが…明日、明後日も同じように見逃すつもりはないよ」

 

 やはり駄目か…。正直、この男を殺さずに討ち取れる自信はない。

 原作では運よく生き残っていたが、同じように彼が生き残れるとは限らない。

 

「帰りたまえ。また、戦場でな」

 

 そう言うバルトフェルドの声に、寂寥と諦念が込められていたのは、きっと気のせいではないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうでした?」

 

 ユウ達が去った部屋の中、窓辺に佇むバルトフェルドの背中にアイシャが声を掛けた。

 

「…酷い気分だ」

 

「あらあら…。可愛い子達だったじゃないの?何が気に入らなかったの?」

 

「気に入った。だから気分が悪い」

 

 どこか拗ねた様な口調で話すバルトフェルドの背に、アイシャは笑いながら体を摺り寄せた。

 

「おバカさんね。気紛れを起こすから」

 

「全くだ」

 

 バルトフェルドは苦笑いを浮かべながら振り返り、アイシャの身体を両腕の中に収める。

 

「…彼が言ったんだよ。『人は他者より先へ行きたがる。他者より上へ登りたがる。他者より強くなりたがる』。まるで全てを見限ったような、そんな顔で、そう言ったんだ」

 

 バルトフェルドが不意に、噛み締める様な口調で、ユウが口にした台詞を反芻した。

 

「でもね、彼はこうも言ったんだ。『人は憎み合い、競い合うしか出来ない生き物じゃない』って。…笑いながら、ついさっきは今の台詞と矛盾した事を吐き捨てるように言った癖に」

 

 アイシャはバルトフェルドを見上げる。

 

 彼は、笑っていた。

 

「アイシャ、僕は思っちゃったよ。彼こそ、真の調停者(コーディネイター)に相応しい人間なんじゃないかって」

 

 きっとユウは、そんな大それたものじゃないと笑いながら言うんだろう。

 それでも、バルトフェルドはユウの言葉に、あの時のユウの目に魅入ってしまった。

 

「…辛いわね、アンディ」

 

「いや。…彼に殺されるなら、それも本望だよ」

 

 頬を撫でながら言うアイシャに、バルトフェルドは頭を振りながら返事をする。

 

 そう、辛くはない。

 戦い続けた果てに出会えた、あの少年に挑める─────。

 

 知りたい。本気になった自分が、彼を相手にどれほど戦えるのか。

 

 砂漠の虎は、愛する女を抱き締めながら、近く訪れる戦いの時を待ち侘びるのだった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




砂漠の虎さん、脳を焼かれるの巻。
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