フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE35 砂塵と紅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルがエンジンを吹かせ、艦内を微かに震わせる。

 外では今頃、明けの砂漠のメンバー達が戦闘準備に忙しく動き回っているだろう。

 

 なおそれは、アークエンジェル艦内でも同じ事ではあるが─────俺も、来る出撃に備えてスピリットの最終チェックを行っていた。

 

 これから行われるのは、レセップス突破作戦。対砂漠の虎との全面戦争だ。今、こちら側が出せる戦力全てを以て、砂漠の虎を叩く。

 

 アークエンジェルは今より現地点から東側にある工場区跡地へと向かう。

 周辺には明けの砂漠が仕掛けた地雷があり、そこを戦場と定めて目指している。

 

「…こんなとこかな」

 

 キーボードを叩く手を止め、画面に映るデータを一通り目に通してからようやく息を一つ吐く。

 

 目の前のキーボードを上へと押しやり、開いたままのハッチからコックピットを抜ける。

 

「おーい、ユウ!」

 

 コックピットからキャットウォークへと降り立った直後、下から俺を呼ぶ声がした。

 身を乗り出しながら声がした方を見下ろすと、そこにはこちらに向かって手を振る兄さんと、その隣にはキラが立っていた。

 

「機体の調整は終わったのか?なら、腹ごしらえに行こうぜ!」

 

「分かった、すぐに行く!」

 

 やや急ぎ目に、されど作業で歩き回る人達の邪魔にならない様に配慮をしながら下へと移動する。

 

 俺が来るのを待っていた二人と合流してから、俺達は食堂へと向かった。

 

「おいおいお前ら、本当にそれだけでいいのか?」

 

 そうして正規のメニューを注文し、俺とキラは並んで、その対面に兄さんが座る形で食事を始める。

 

 現地調達のものだし美味いだろうと言う兄さんを真似て、俺もキラもケバブを頼んだ。

 俺は二つ、キラは一つ、そして兄さんは四つ─────食い過ぎじゃない?むしろこっちの方が、『そんなに食って大丈夫なの?』て聞きたいくらいだぞ。

 

「ほら嬢ちゃん、一つじゃ流石に足んないでしょ。これやるよ」

 

「え?あ…」

 

「兄さん…。キラは小食なんだから、戦闘中に吐いたら兄さんの所為だからな」

 

「いやいや、流石に二つでそこまでにはならないって。ほら、こうやってヨーグルトソースをかけてだな…」

 

 キラの戸惑いも俺の冷たい視線も届かず、兄さんはケロッとした顔をしながらソースの容器をキラに差し出して勧めた。

 

 キラは容器を受け取りながら視線を落とし、口を開いて少し沈んだ声で話し始める。

 

「虎も同じ事を言ってました。ヨーグルトの方が美味いって」

 

 ケバブを口元に持っていきかけた兄さんの手が止まる。

 

「ふうん。味の分かる男なんだな、砂漠の虎ってのは」

 

 俺達がバルトフェルドと会ったという報告を、兄さんも聞いている筈だ。

 それでも兄さんは気に留めた様子もなく、止まっていた手をまた動かしてケバブを頬張った。

 

 バルトフェルドとのやり取りを思い出しているのか、切なげな表情を浮かべたままキラは兄さんから受け取ったヨーグルトソースをケバブにかける。

 俺もチリソースと、キラからヨーグルトソースを受け取ってミックスにしてケバブにかけて頬張る。

 

 その際、キラと兄さんから微妙な視線が向けられた気がしたが、気のせいだと思っておく。

 

「けど、敵の事なんて知らない方が良いんだ。早く忘れちまえ」

 

「え…?」

 

 ケバブを一口頬張り、咀嚼している時だった。

 口の中の物を飲み込んだ兄さんが、口を開いて言う。

 

 意味が分からず聞き返したキラに、兄さんは次の一口にかぶりつきながらもごもご言う。

 

「これから命のやり取りをしようって相手の事なんか、知ってたってやりにくいだけだろ」

 

「兄さん、汚い。飲み込んでから言って」

 

「…すまん」

 

 口の中に物を入れたまま言う兄さんに注意すると、今度はしっかり飲み込んでから一言謝罪をしてくる。

 言ってる事は確かにその通りだけど、色々と台無しだ。

 

 台無しなのだが─────キラにはその言葉が刺さったらしい。

 目を伏せて、何か考え込んでいる。

 

「本当に…戦うしかないんでしょうか」

 

「は?」

 

「…」

 

 不意に、目を伏せたままキラが口を開く。

 兄さんは素っ頓狂な声を漏らし、俺は黙ってキラの次の言葉を待つ。

 

「敵と戦って、殺して…。本当にそれで、戦争が終わるんでしょうか…?」

 

「嬢ちゃん、お前─────」

 

 弱々しい口調で言うキラに、兄さんが何か言葉を掛けようとした─────しかしその言葉は、鈍い地響きのような爆音に遮られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『爆発を確認。地雷は全て除去できました』

 

「分かった。それなら艦を頼むぞ、ダコスタ君。()()()()()()()()()()()()()()にも手筈通りにと伝えておきたまえ」

 

『了解!』

 

 鮮やかなオレンジに黒の縞、ヘルメットには牙まで描き込まれた、虎をイメージしたパイロットスーツに身を包んだバルトフェルドは、乗り込んだ機体の中でダコスタと通信を通して言葉を交わす。

 

「さて、と…。僕からの盛大な花火は喜んでもらえたかな?だが、メインディッシュはここからだよ。…少年」

 

 機体を立ち上げながら、バルトフェルドは脳裏で獲物と定めた敵─────ユウ・ラ・フラガの顔を思い浮かべる。

 

 人を救いようのない存在として切り捨てたあの冷たい瞳も、それでもと言いながら浮かべた温かな瞳も、バルトフェルドの脳に焼き付いている。

 今、自分は彼と刃を交わす─────何と心躍る一時となる事だろう。

 

『バルトフェルド隊長!』

 

 通信画面が起動し、バルトフェルド()の目の前に翠の瞳の少年の顔が映し出される。

 

「配置はさっき君達に言った通りだ。イージスとデュエルは前線へ、バスターはレセップスの艦上で対空防御を担当。構わないね?」

 

『了解しました。しかし、スピリットをバルトフェルド隊長一人で相手をするのは…奴は、クルーゼ隊長を追い込んだ─────』

 

「僕の事が心配なら、早くストライクを落として援護に来たまえ。だが…あいつも厄介な相手だぞ。まあ、僕よりも君の方がそれは分かっているかな?」

 

『…分かりました』

 

 出撃のタイミングと配置の確認をしたかったのだろう。

 バルトフェルドと同じようにすでに機体に乗り込んでいたアスランは、短い会話の後に通信を切る。

 

「…一人じゃないさ」

 

 彼を映し出していた画面が消えた後、自身の前席にいる()()()()の後ろ姿を見ながらバルトフェルドは呟いた。

 

 その呟きを聞き取ったアイシャは目だけを後ろへ向けながら、バルトフェルドへ微笑みかけた。

 

 TMF/A-803ラゴゥ─────派手なオレンジにペイントされた獣型の機体は、バクゥをベースに大幅なパワーアップを施されたバルトフェルドの専用機だ。

 背中には二連装のビーム砲が装着され、口にくわえるような形でビームサーベルが装備されている。

 

 コックピットは複座式になっており、前席が射撃手が、後席には操縦士が座る。

 

 ラゴゥとバクゥで隊列を組み、スピリットとストライクを迎え撃つ。

 そして自分達が時間を稼いでいる間に、彼らの母艦を落とす─────という作戦を当初は立てていた。

 だが、宇宙からの援軍三人によって、少々事情が変わってしまった。

 

 といっても、悪い意味ではない。むしろ、彼らの姿勢は良い意味で作戦への影響を与えてくれた。

 イージス、デュエル、バスター─────特にイージスに関しては、砂漠でも良い動きを見せてくれるだろう。

 デュエルとバスターも、初めての砂地に戸惑いながらもバルトフェルドが驚く程の順応能力を見せてくれた。

 

 バスターは装備の関係上、対空防御担当を任せる事に決めたが、イージスとデュエルは前線へと向かわせて対ストライクへの戦力として使っても良いとバルトフェルドは判断した。

 

「数的有利はこちらにある。地の利も向こうにレジスタンスが居たとして、こちらが優位なのは変わらない。…ははっ」

 

「…アンディ?」

 

「すまんね、アイシャ。…こちらが圧倒的有利なのは分かっている。なのに…どうしてだろうね、この気持ちは」

 

 不安?恐怖?あぁ─────久しいな、こんな気持ちは。

 

 どこか懐かしみすら抱きながら、バルトフェルドは今自身の内から湧き上がってくる感情を味わっていた。

 

 そうだとも…戦いはこうでなくてはならない。そうでなくては、面白くない─────!

 

「…フフフ」

 

 バルトフェルドの表情を振り仰いでいたアイシャは、不意に笑みを溢すと彼から視線を切り前へと向き直る。

 

「それじゃあ、行くとしようか─────」

 

 機体がカタパルトへと運ばれて行き、やがて目の前のハッチが開き、外の光が中へと差し込んでくる。

 

 バルトフェルドは迷わず操縦桿を前へと押し込み、ラゴゥのスラスターを吹かせる。

 

「アンドリュー・バルトフェルド!ラゴゥ、出るぞ!」

 

 鮮やかなオレンジの猛獣が、今ここに砂漠の地へと解き放たれる。

 

 ラゴゥは後方にバクゥ五機とイージス、デュエルを伴って、大天使へと襲い掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『すでに敵艦よりモビルスーツが発進してるわ!攪乱が酷くて数は確認できないけど、キラとユウの二人は敵モビルスーツの対応をお願い!』

 

「分かった」

 

『了解!』

 

 機体を立ち上げながら、通信から聞こえてくるフレイの声に頷く。

 俺の声に続いて、同じくフレイから情報を聞いていたキラも返答をして、それを聞いてからフレイが通信を切る。

 

『でも、本当にランチャーで良いの?バクゥと戦うなら機動力があるエールの方が良いと思うけど…』

 

「いや、キラには後方支援をお願いしたい」

 

 原作ではストライク単体でバクゥとラゴゥを相手取っていたが、今は俺とスピリットがいる。

 ストライクにエールを装備させて前衛、スピリットが後衛に回っても良いが、それだと折角の近接火力が無駄になる。

 となれば、やはり俺とスピリットが前衛、ストライクはランチャーを装備して後方に回るのが合理的だと考えた。

 

「もし俺が敵に抜かれてアークエンジェルに接近を許しても、キラがフォローできるしな」

 

『…分かった。なら、それでいこう─────』

 

 方針を決め、いよいよストライクが発進するべく装備を着けようとした、その時だった。

 

『キラ!ユウ!』

 

 再び艦橋との通信が繋がり、フレイが俺とキラの会話に割り込む。

 

 再度画面に映されたフレイの顔には焦燥が浮かんでおり、思わぬ何かが起きたのだと伺わせる。

 

 そしてその予感は、的中していた─────。

 

『敵モビルスーツ群にイージスとデュエルが居るの!』

 

「『!?」』

 

 イージス、デュエル、その二機の名前に俺もキラも目を剥いた。

 

 ─────イージスだって…!?いや、低軌道戦でギリギリまでキラと戦っていたし、ここに来ても可笑しくないのか…。でもだからって、前線に出てくるなんて…!

 

 原作ではデュエルとバスターがバルトフェルド隊に加わり、この戦闘に参加していた。

 しかしバルトフェルドからレセップスの甲板上での対空防御を命じられ、最終的には命令を違反し地面に降り立ったものの、接地圧のプログラムを適応させられず、碌に機体を動かせないまま戦闘は終了した。

 

 それが今、イージスと共に前線へ現れている。

 バルトフェルドの判断ミス…の筈がない。だとしたら、イージスは勿論、デュエルも恐らく後方に居るであろうバスターも、砂漠用にプログラムを書き換えてるに違いない。

 

「…キラ」

 

『分かってる!ごめんなさいマードックさん、やっぱりランチャーではなくエールをお願いします!』

 

 状況が変わった。

 俺がバクゥとラゴゥを押さえつつ、後方からのキラの射撃で攻めるという作戦は、イージスとデュエルが加わって来るとなると破綻する。

 

 それなら二機で前線を押し上げ、アークエンジェルと兄さんに踏ん張って貰うしかない。

 

「兄さん」

 

『あぁ、こっちにも聞こえてたよ。おい、こっちも装備変更だ!二号機はそのままで、一号機にはランチャーを頼む!』

 

「…艦長、俺が先に出撃します!許可を!」

 

 思わぬ機体の出現に装備の変更を余儀なくされる。

 こうしている間にも、相手はこちらへ接近している─────ならば、まず俺が突出して敵の気をこちらへ向ける。

 ストライクが出撃するまで時間を稼ぐしかない。

 

『分かりました!こちらからも援護はするけど、無茶はしないで!』

 

「了解!」

 

 ラミアス艦長から出撃許可を貰った所で、機体をカタパルトへと進ませる。

 

「ユウ・ラ・フラガ!スピリット、発進する!」

 

 ハッチが開き、すぐに機体を出撃させる。

 

 I.W.S.P.の翼を展開し、スラスターを吹かせてこちらへ接近してくるモビルスーツ群へと向かっていく。

 

「おいおい…。あんたの出撃はもう少し後の筈だろ?」

 

 近付いていくごとにやがて、向かってくるモビルスーツ群の姿が肉眼でも確認できるようになる。

 そして、先頭を走るオレンジの機体の姿を見て、思わず苦笑が浮かんでしまった。

 

 隊長機であるラゴゥが、そしてその後方でスラスターを吹かせるイージスとデュエルが、更に後方のバクゥ部隊がこちらの姿を視認する。

 

 上空を飛んでいる戦闘ヘリは一旦無視して、パック上部の二門のレール砲に火を噴かせる。

 砲門が向けられた事を察知したモビルスーツ群が、こちらが引き金を引く前に散り散りに散開する。

 

 放たれた砲弾は地面を直撃し、砂を焼く。

 その様を見る事なく、後方へと跳んで頭上から放たれたデュエルのレール砲を回避。

 続けざまにデュエルはビームサーベルを抜いて斬りかかって来る。

 

「っ─────!」

 

 シールドで受けるか─────とシールドを掲げる前に、スラスターを吹かせて前方へ機体を走らせる。

 

 直後、先程俺が放ったレール砲によって巻き上がった砂煙を切り裂いて、紅い機体が現れた。

 

 イージス─────振り下ろされる右腕のビームサーベルへシールドを掲げながら、こちらも左腰のビームサーベルを抜き放ち、イージス目掛けて振り下ろす。

 

 ─────思えば、こうしてアスランと刃を交えるのは初めてなのか。

 

 なんて、ほんの少しだけ湧き上がった感慨深さは、直後に視界一杯に発生した火花によって塗り潰される。

 

 こうして、アスラン・ザラとの一度目の交戦は砂漠の地にて幕が上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から本格的に戦闘が激化します。
いきなり敵に囲まれたユウの命運や如何に…?
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