別に宣言していた訳じゃないけど、先週の土日は更新途切れてすみませんでした。
何か特別な理由はなくて、ただ遊んでただけなんですけどねー…。m(_ _)m
『それとも…、死んだ方がマシか!?』
そう言葉を投げ掛けられ、バルトフェルドは微かに、自分の中で燃え上がり続けていた闘志の火が揺れたのを感じた。
『どちらかが滅ぶまで戦い続けるか!?』
そうだ─────戦争は終わらない。少なくとも、世界に満ちた憎しみの渦によって引き起こされたこの戦争は、そこまで突き進まなければ終わるとは思えない。
バルトフェルドは少し前までは、そう考えていた。
『俺と貴方には憎しみなんて持ち合わせてないのに─────こうして、言葉を交わす事だって出来るのに!』
「アンディ…」
続けざまに投げ掛けられる言葉が、バルトフェルドの手と心を揺らす。
定めた決意と覚悟に一つずつ、言葉という名の小石が投げ込まれ波を打つ。
それはまるで、相手の気持ちが直接伝わってくるような─────。
それでもなお、バルトフェルドは震える手でラゴゥを駆り、スピリットへ迫る。
まだ一門残ったビーム砲を撃ちながらサーベルを展開し、スピリットへと斬りかかる。
『周りの憎しみに流される事しかしない─────だから戦争が終わらないんだ!どこかで、誰かが止めなきゃいけないんだ!相手を憎む事しかしようとしない人達に、教えてやらなきゃならないんだ!』
ラゴゥとの距離を一定に保ち続けていたスピリットが急制動を掛け、ビームサーベルを抜き放つ。
ビームを斬り払いながらスラスターを吹かせ、ラゴゥと交錯する。
少し前の映像の繰り返しの如く、ラゴゥに残されたもう一門のビーム砲が切り裂かれて爆散した。
「…それが出来ていれば、とっくに戦争は終わっているのだよ少年!」
『流されるままに思考を止めて、諦めようとするな!今俺が話しているのは、他の人間がどうなのかじゃなくて、貴方がどうしたいかだ!』
─────自分がどうしたいか。
自身の返答をバッサリと切り捨てられてから問い掛けられ、働いたバルトフェルドの思考は一瞬にして答えを弾き出す。
このまま戦い続ける日々なんて御免だと。
面白くなくたって、退屈であったって構わない。
目の前で自分を案じてくれる愛する人と一緒に、ここではないどこか遠くへ─────戦いなんて無縁な所で、静かに生きていたい。
「ぼく、は─────」
『バルトフェルド隊長!』
心の奥底で、微かに湧き上がった本当の思いを口にしかかったその時だった。
コックピット内に鋭き声が響き、バルトフェルドとアイシャが即座に顔を上げる。
『ご無事ですか、バルトフェルド隊長!』
「アスラン・ザラ!?」
ラゴゥのメインカメラが突然の乱入者の接近を映し出す。
赤の機体─────イージスは、ラゴゥと対峙していたスピリットへと真っ直ぐ飛んでいく。
対し、スピリットはレール砲を展開して接近を続けるイージスへ向けて発砲。しかしイージスは最高速度を緩めないまま、巧みな機動を駆使して放たれる電磁砲弾を躱しながらなおも突進。
『スピリットォッ!』
「っ、やめろっ!もうっ!」
どの道、この戦いの勝敗は見えている。少年─────スピリットのパイロットに言われずとも、バルトフェルドはそれを分かっていた。
それでもスピリットに戦いを挑んだのは…自分の中にある本音に気付いた今となっては、最早下らない理由だ。それでも、その理由に拘っていたほんの数秒前の自分でも、この戦いに他の誰かを巻き込むつもりなどなかった。
バルトフェルドはアスランへ命令を掛ける。
これ以上の戦闘は許可しない─────やめろ、と。
だがアスランは止まらない。バルトフェルドの声など、もう聞こえてはいなかった。
スピリットの懐へと入り込んだイージスは両腕のビームサーベルを出力、憎悪の対象へと憤怒の斬撃を叩き込むべく振り下ろすのだった。
「イージス…!キラは!?」
センサーが鳴り響き、イージスの接近を察した俺は咄嗟にストライクの無事を確かめる。
ストライクは未だデュエルと交戦中であり、健在だ。その事実に安堵しつつ、パック上部のレール砲を展開、砲門をイージスへと向けて砲弾を放つ。
しかしイージスはスピードを緩めず突進しながら放たれた砲弾を回避、こちらを射程範囲に捉えると、両腕のビームサーベルを出力して振り下ろしてくる。
「っ─────!」
機体の体勢を半身にさせて、二本の振り下ろしを回避。
俺の動きに素早く反応したアスランは左側の斬撃の軌道をずらし、ビームサーベルの切っ先をスピリットのコックピットへと向ける。
突き出されるサーベルに向けて、俺はシールドを掲げる。
スピリットのシールドとイージスのサーベルが衝突した事によって火花が舞い散る。
舞い散った火花を目晦まし代わりとして、空いているスピリットの右手で左腰のビームサーベルを抜き放つ。
狙うは最短、最速で斬撃を到達させられるイージスの両足。
右薙ぎの一撃は、イージスが咄嗟に後退した事で空を切る。
『スピリット…っ!お前がいなければぁっ!』
「こいつ…!?」
躱されるのは織り込み済みで、その事に関しては驚きも動揺もしなかった。
コックピット内に響く、アスランの怨嗟の声には流石に驚かされたが─────。
『よくもキラを…っ!あいつの優しさを利用してっ!』
「何を言っているか、さっぱり分からないなっ!」
続く怨嗟の言葉に返答しながら、左手のシールドを投げ捨てる。
─────本当に、アスランが何を言っているか分からない。キラが地球軍側で戦っているのが俺の所為だと思っているんだろうか?…まあ、自意識過剰かもしれないが、俺が居る事も一つの要因になっているのは確かだろうが。
大切な友達と殺し合いをする羽目になる─────その境遇には同情するし、俺自身、何とかしてやりたい気持ちもある。
だからといって、ここで殺されてやるつもりはさらさらない。
投げ捨てられたシールドの行方を追って、イージスの顔面が僅かに上向く。
その瞬間を狙い、レール砲をイージスへと向けて発砲。
『なっ…ぐぅっ!?』
アスランの反応は素早く、レール砲が展開された直後にすぐさま回避行動へと移ろうとした。
普通のパイロットなら、何も出来ず、何が起きたか分からないまま衝撃をその身に受けていたろうに─────それでも、遅い。
回避しきれず砲弾を受けたイージスが大きくよろめく。
よろめいたまま何とか離脱すべく後退しようとするイージスへ、スピリットの右腕を振り上げる。
切り裂かれ、舞い上がったイージスの左腕は空中で爆散し、アスランは先程に続けて爆発の衝撃を受ける事となる。
『くそっ…、貴様…っ!』
状況を吞めていないのか、圧倒的不利な状況にも関わらずなおも戦闘の意志を見せるアスラン。
まだ続けるか─────ビーム兵器の使用を控えつつ戦ったからか、バッテリーにはもう少し余裕がある。
そっちが続ける気ならば仕方ない、もう一つの腕も落とせば少しは冷静になってくれるか─────と、そう思ったその時だった。
イージスの丁度背後から、空中へ飛び上がる影が視界に入り、機体を後退させる。
『アスラン・ザラ!撤退だ!』
『バルトフェルド隊長!?』
現れた機体の正体はラゴゥ。
先程俺が立っていた場所へ着地したラゴゥと睨み合う中、中に居るバルトフェルドがアスランへと呼び掛けた。
『しかし!』
『君も私も、この機体の状態では敵わない!レセップスもやられ、総員退艦の命を出した!…我々の負けだ、アスラン』
『…くっ!』
怒りを抱きながらも、上官の命令を聞く冷静さは残っていたのか、アスランはこちらに背を向けて去って行く。
見れば、ストライクと交戦していたデュエルもすでに撤退を始めていた。
イージスがデュエルを追って、俺達から離れていく。
「…バルトフェルドさん」
『…君の言葉は、とても気持ちよく聞こえたよ。だが、世界はそこまで優しくない』
「バルトフェルドさん、俺は!」
『戦いは終わった。…今回はこんな結果に終わったが、次はこうはいかないよ』
スピリットとラゴゥ─────ユウ・ラ・フラガとアンドリュー・バルトフェルド。
少しの間、俺と睨み合ったラゴゥも背を向けて撤退していく。
『─────次があれば、だがね』
最後の最後に、バルトフェルドは戦闘中に聞く事はなかった、穏やかな声でそう言い残して─────。
「…終わった、か」
斯くして、砂漠の虎との戦闘は終わった。
アークエンジェルも途中危ない場面があったが、問題なく飛行している。
スピリットもストライクも、大きな損傷はなく無事だ。
『ユウ!』
ストライクの状態を見ればある程度予想はつくが、やはりキラも大きな怪我はなく無事らしいと、聞こえてきた声から判断できる。
そこでようやく、本当の意味で一段落が着いたのだと、息を吐く事ができた。
「…帰ろうか、キラ」
『…うん』
もう一度、バルトフェルドが去って行った方を少しの間見つめてから、キラに声を掛ける。
返事が返ってくるまでに空いた少しの間に、キラは何を思ったのだろう。
地球へと降りてからほんの数日で、色々な事があった。
レジスタンスとの出会い、ブルーコスモスのテロ、そして砂漠の虎─────アンドリュー・バルトフェルドとの出会いと対峙に、前線に現れたイージスとデュエル─────アスラン・ザラとイザーク・ジュール。
様々な線が絡み合った砂漠の地で、ユウ・ラ・フラガとキラ・ヤマトは生き残る。
彼らを迎えにやってくるアークエンジェルへ機体を向けて、二人は並んで飛んでいく。
白亜の艦の背後では、地平線へ沈みつつある太陽と、紅に染まった天が彼らを見守っていた。
─────負けた。
残存兵をまとめてバナディーヤへと命からがら戻って来たバルトフェルドは、ジブラルタル基地との連絡をダコスタに任せ、自室のソファに沈み込んでいた。
─────死ぬつもり、だったんだがな。
本当に面白いものを見つけた─────例え死んでも手放したくない程に充足を味わえたあの瞬間の中、バルトフェルドはスピリットに撃たれてもいいとすら思えた。
アイシャを付き合わせるつもりはなかったし、本当は機体から降ろすつもりでもいた。
『死んだ方がマシか!?どちらかが滅ぶまで戦い続けるか!?』
『俺と貴方には憎しみなんて持ち合わせてないのに─────こうして、言葉を交わす事だって出来るのに!』
何とも聞き心地の良い優しい言葉に、バルトフェルドは聞き入ってしまった。
強く燃え上がった戦意は少年と言葉を交わす程に鎮まっていき、いつの間にかバルトフェルドは、自分でも気付かなかった本当に欲しいものを見つけた。
「アンディ」
「アイシャ」
─────生きている。
自分は生きている。自分
言葉を交わす事が出来る。唇を交わす事が出来る。気持ちを交わす事が出来る。
あぁ─────何と幸せな事だろう。
愛する人と過ごす時間が当たり前になり、それがどれだけ大切な事なのか、いつの間にか忘れてしまっていた。
─────いっそ、二人で逃げ出してしまおうか。
戦い続ける日々から、築き上げて来たものの何もかもを捨て去って、二人でどこか静かな場所で─────だけど。
「アンディ。これからどうするの?」
バルトフェルドの中でせめぎ合う葛藤を見透かしたかのように、アイシャは彼の瞳を覗き込みながら問い掛けた。
「…アイシャ、僕は─────」
『流されるままに思考を止めて、諦めようとするな!今俺が話しているのは、他の人間がどうなのかじゃなくて、貴方がどうしたいかだ!』
「─────僕は、戦いたい」
代わりに口から突いて出て来たのは、一瞬にして固まり定まった決意の一言。
「戦争がしたい訳じゃない。敵を殺したい訳じゃない。…でも、僕はきっと、まだ逃げてはいけないんだと思う」
「…そうね、私もそう思うわ」
そうだ。自分達よりも圧倒的に幼い子供達が、未だに憎しみが渦巻く現実から逃げず戦い続けているというのに、どうして彼らよりも大人である自分達が逃げ出す事が出来るだろう。
立場は違えど、思いを同じくする─────自分達にも出来る事はある筈だ。
それが何なのか、まだ分からないけれど─────。
「一緒に居るわよ、アンディ」
「アイシャ…」
「だから─────私達で考えましょう」
「…あぁ。ついて来てくれるか、アイシャ」
「どこへでも」
あぁ─────どこまでも愛おしい。
この女性を、こんなにも愛おしく思っていたのかと、バルトフェルドは今更ながら悟る。
そして、それを気付かせてくれた少年の顔を思い浮かべながら、彼は内心で一つ呟くのだった。
─────また会おう、少年。叶うなら、次は敵同士ではなく…その時は、礼を言わせてくれ。
何となくスッキリしない決着ですが、砂漠編は今話で終了です。次回からアークエンジェルは紅海へ出ます。