フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE39 潮風の下で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着水し、両舷で水面を切り裂きながらアークエンジェルは紅海を進む。

 レセップスを突破し、アフリカ大陸を離れた俺達は今、中立国が連なるインド洋を抜けてアラスカへと向かう航路にいた。

 

「うわぁ~…」

 

 甲板の手すりに掴まって、眼前に広がる大海を見ながらキラが感嘆の声を漏らした。

 地球の海を見るのは初めてな彼女にとって、目の前の景色はさぞ綺麗に、美しく見える事だろう。

 

 海上に出て間もなくして、ラミアス艦長はクルーが交代で甲板に出る事を許可した。

 俺達がここに来る前は、フレイやトール達もここで少しの間ではあるがゆっくりしていた筈だ。

 そんな彼らと交代で今、俺達はここで束の間の休息という奴を味わいに来ていた。

 

「砂漠にも驚いたけど、海も凄いね。…ちょっと怖いけど」

 

 水面をおっかなびっくりな様子で覗き込みながら、キラが言う。

 

 何とも微笑ましい事だが、気持ちが分からないでもない。

 何らかの事故でもしここから海へ落ちたら─────なんて考えたら、俺だって怖いし。

 

「深いとこは物凄く深いんだよね?」

 

「世界一深いマリアナ海溝は一〇九一一メートルって言われてるな」

 

「うわぁ…想像もつかないね」

 

 こちらを見上げたキラから投げ掛けられた質問に答えてやると、キラは苦笑いしながら再び視線を海面へと戻した。

 

「ん~~~~…!」

 

 不意にキラが手摺から手を離し、大きく背筋を伸ばし始めた。

 身体を伸ばした事で、僅かに浮いた服の裾から白い肌が覗く。両腕を上げ、背筋を伸ばした事でキラの形が良い胸が服の線に沿って浮かび上がる。

 

 現在、アークエンジェルは赤道に近い所を航行中である。当然、照りつける日差しも強いから、外へは薄着で出るのが自然だ。

 まあ何が言いたいかというと、つまりそういう事である─────。

 

 キラに気付かれる前に視線を別の所へ移そうとして、ふと潮風に流れる髪を見た。

 彼女とヘリオポリスで初めて会ってから大体一ヶ月、少し髪が伸びた気がするのは気のせいだろうか?

 

「ん?どうかした?」

 

「あ…いや。立ってばかりで疲れてないかって思って」

 

「どうしたのさ急に」

 

 見つめられているのに気付いたキラが、首を傾げながら話し掛けてくる。

 まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()─────なんて言える筈もなく、咄嗟にキラを気遣う言葉を吐いた。

 

 まだここへ来たばかりにも関わらず心配された理由が分からず、きょとんとするキラだったが、降り注ぐ日差しを避けるべく、俺達は日陰の場所で腰を下ろす事にした。

 

「…初めて見たけど、海ってこんなに綺麗なんだね」

 

 太陽の光を反射して輝く水面を見ながら、キラはうっとりとした様子でそう口にする。

 

「さっきは怖がってたのにか?」

 

「う、うるさいなぁ…」

 

 でも、海を初めて見てすぐに少し怖がっていた事を持ち出すと、恥ずかし気に微かに頬を染めながら睨み返してきた。

 可愛らしい反抗に思わず笑みを吹き出すと、キラが頬を膨らませる。その姿もまた可愛らしいものだから、ついつい声を出して笑ってしまった。

 

「もう、ユウなんて知らない」

 

「ごめんって。もう笑わないから」

 

 遂に本格的にお姫様の機嫌を損ねてしまえばもう遅い。今になって謝罪を試みるも、キラは頬を膨らませながらそっぽを向いてしまう。

 こうなってしまったら、少し時間を置いてキラの気分が落ち着くのを待つしかない。こういう時の男の立場というものは、これ以上なく弱いのだ。

 

「─────」

 

 しかし、キラの言う通り本当に綺麗だ。地球へ来た事自体ヘリオポリスに行って以来だし…何なら、こっちの世界で海を見るのは初めてじゃないだろうか?

 思い返してみるが、転生をしてから地球の海を見に行った覚えがない。なるほど、前世ぶりの海か─────道理でとても懐かしく思えた訳だ。

 

 流れる潮風、輝く水面、これでイルカなんて跳ね出したら完璧なんだがな─────いや、流石に戦艦の近くには寄ってこないか?

 なんて考えている時だった。

 

「っ、キラ─────」

 

 不意に航行する艦が揺れる。直後、隣に座るキラの身体がぐらりと傾き、こちらへ倒れ込んでくる。

 驚き、咄嗟にキラの身体を支えて、何事かと名前を呼んで、すぐに気付いた。

 

「すぅ…んん…」

 

「…おい」

 

 機嫌を損ねていた筈のお姫様は、それは気持ち良さそうに寝ていた。

 何だよこれ。こういう時って、可愛らしく男の肩にちょこんと頭を乗せたりするものじゃないのか?

 普通に倒れ込んで来たから焦ったぞ…。

 

 というか…これどうする?

 今、俺は俺の足に向かって倒れ込んで来たキラを支えている体勢なんだが…これ、キラの身体を元に戻したら多分起きる、よな?

 

 ヘリオポリスからここまで戦いの連続で、キラも相当疲れている筈だ。

 折角こうしてゆっくりできる時間が取れたんだし、出来るのであればこのまま寝かせてあげたい気持ちはある。

 ただそうなると─────俺が膝枕しなくちゃいけなくなるんだよな。男の膝枕とか需要あんのか?後で気持ち悪がられたりしないかな…?

 

「…まあ、仕方ないよな」

 

 流石に起こしてしまうのは可哀想だし、キラの身体をそのまま横たわらせる。

 膝を伸ばして、キラの頭を俺の大腿に乗せる。

 

 …うわぁ、本当に膝枕しちゃったよ。普通これ、性別逆じゃないの?

 ていうかキラの睫毛なっが…、寝顔可愛い…。

 

「─────ハッ」

 

 この場に邪魔をする者は居らず、ついついキラのあどけない寝顔を堪能してしまった。その上、無意識の内に俺の手がキラの頭を撫でているではないか。

 まずい、とんでもなく触り心地が良いもんだからつい─────手を離そうとした所で、ドアが開く音がした。

 

「…」

 

「……」

 

「………ふっ」

 

「言いたい事があるならハッキリ言えや…っ!」

 

 甲板に出て来たのは軽装姿のカガリだった。

 カガリは俺に膝枕されるキラと、そんなキラを撫でる俺の姿を交互に見てから、今まで見た事がないくらいの柔らかい微笑みを浮かべた。

 

 その何か言いた気な憎たらしい顔に向かって、小声で怒鳴るという器用な真似を俺は生まれて初めて披露したのだった。

 

 カガリ・ユラ─────本名は少し違うが、レジスタンスに加わって戦った彼女は、原作通りキサカと共にアークエンジェルへ乗り込む事を選んだ。

 その選択をした際には、原作とはまた違った展開があった訳だが─────。

 

 何しろ、原作とは違い砂漠の虎は傷一つ負う事なく生還している。勿論、俺達との戦いでザフト陣営は決して小さくない損害を受け、勢力を大きく削がれはしたが、しかし彼は生きてその場に留まり、彼の影響力は未だ健在だ。

 俺達と共同戦線を組んで砂漠の虎を退けこそしたが、レジスタンスの状況は殆ど変わりがないに等しい。彼らはまた、今後も戦う事を選び、そして厳しい戦いを強いられる事となるだろう。

 そんな彼らを見捨てるという選択を、カガリは容易くとる事は出来なかった。

 

『往け。お前がいる場所はここじゃない』

 

 それでも彼女がここに居るのは、リーダーであるサイーブの後押しがあったからだ。

 彼の後押しを受けたカガリは、原作通りアークエンジェルと航海を共にする事を選んだ。

 

 …いやまあ、ホッとしたね。これでレジスタンスに残って戦い続ける事を選んでたら、いよいよ鉄拳制裁を施さなくちゃいけなくなった。

 流石に女の子をグーで殴るのは気が引ける…。

 

「で?お前は何なんだ?」

 

「は?」

 

 つい先日の事を思い返していると、カガリが俺の隣に腰を下ろした、かと思えば、突然何の脈絡もなく、要領の得ない問いを投げ掛けて来た。

 

 え、なに?質問の意味が分からないのだが…?

 

「だから!お前、私の事を知っているな!?一体何者なんだと聞いている!」

 

「ちょっ…!落ち着け、キラが起きる…」

 

 カッとなりやすいカガリは、なかなか質問に答えられない俺へ怒鳴りかける。

 俺は両手を彼女に向けて掲げてから、俺の足を枕にして眠るキラを指差しながら小声で言い返した。

 

 カガリはハッ、と目を見開きながら我に返り、俺と一緒にキラの寝顔を見下ろす。

 

「んんぅ…、すぅ…」

 

「「…はぁ~」」

 

 一瞬、表情を歪めつつ身動ぎしたキラだったが、目を覚ます様子はなくそのまま眠り続ける。

 それを見届けた俺達は、同時に安堵の溜め息を吐いた。

 

「…それで、俺が何者か、だったか?」

 

「そうだ。お前、ただの地球軍じゃないな」

 

 何というか、自意識過剰というか─────いや、こいつの顔と名前を知る人なんて、オーブ以外でなら数えられる程度しか居ないだろうし、この警戒も当然か。

 

「そういえば、まだちゃんと名乗ってなかったな。ユウ・ラ・フラガだ」

 

「…お前の名前なんてどうでもいい。私の事を知っている理由をとっとと答えろ」

 

「悪いが、それを答える義理はない。まあ、それでも答えろっていうなら─────フラガだから、かな」

 

「お前…っ!」

 

「これ以上答えるつもりはないぞ。どうしても知りたいのなら、今の答えについて父親にでも聞くんだな」

 

 正直、答えない理由はただ単に面倒臭いからである。

 原作知識なんてなくても、没落したとはいえフラガのコネを使えばある程度情報は掴める。そうでなくても、フラガは()()()()()()に大きく関わっているから、それについての資料もほんの少しだけだったが残っていたし─────ただそれを説明する訳にもいかないし、前者についてもフラガという家について説明するのも長くなるし、それならカガリには悪いが、この件に関しては突き放すのが一番だ。

 

「どうせ、遅かれ早かれ知る事になるさ。お前達は」

 

「…?」

 

 おっと…今のは失言だった。カガリが何も分からない様子で首を傾げているから、それが救いか。

 

 何というか、こいつといると調子が狂う。奥底に仕舞っていたものが、勝手に解放されるというか─────こういう所なのかもな、こいつが他人を引き付ける魅力というのは。

 

「…真面目に答えるつもりはないんだな」

 

「心外だ。これでも真面目に、言える範囲で答えているつもりだ」

 

「どこがだ、このバカ…っ!」

 

 カガリの表情が凄い事になっているが、寝ているキラを気にしてか大声を出しはしない。

 妹の安眠を決して妨げない─────うん、流石姉だ。この場では絶対に口を出して言えないが。

 

「それよりほら、海が綺麗だぞ。オーブで見飽きてるんだろうが」

 

「別に見飽きてなんかない。こうやって気兼ねなくゆっくり海を見るのは久し振りだ」

 

「…やっぱ、お姫様って大変なのか?」

 

「大変なんてもんじゃない。…というか、ここでそんな話をするな」

 

「大体お前、何でアフリカ大陸でレジスタンスなんてやってたんだよ。ヘリオポリスからどういう経路であそこに辿り着いたんだ?」

 

「何で私がお前にそれについて話さなくちゃならない。いいから黙れ、静かに海を見させろ」

 

 うーん、ハッキリ答えなかったからか警戒させたか。とはいえハッキリ答える訳にはいかなかったし、仕方ない。

 このギクシャクした関係は、時間を掛けて融和していくとしよう。

 

 以降、俺とカガリは言葉を交わす事なく静かに海を眺め続けた。

 そんな沈黙が破られたのは、ラミアス艦長に命じられた時間がもう少しという所にまで迫った頃。俺の膝で眠っていたキラが不意に、可愛らしいくしゃみをしたからだった。

 

 目を覚ましたキラは、ここにカガリがいた事に驚きながらも、彼女との再会を喜んだ。

 カガリもまた、キラと少しの間ではあるが楽しそうに話をして、それから俺達は次のクルー達と交代で艦内へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします、隊長!あいつを追わせてください!」

 

 ジブラルタル基地のブリーフィングルームにて、イザークが殆ど食って掛かるようにしてクルーゼへ懇願していた。

 その様子をアスランはディアッカと並んで眺め、そしてつい先程ジブラルタル基地へと宇宙から降り立ち、この場へやって来たばかりのミゲルとニコルは驚き目を丸くしながら二人のやり取りを見つめていた。

 

 砂漠での敗戦後、アスラン達はジブラルタル基地への移動を余儀なくされた。

 本当は、すぐにでも砂漠で体制を整えアークエンジェルへ攻撃を仕掛けたい所だったが、バルトフェルド隊の損害が大きすぎた。

 全戦力を以て決戦を挑んだ結果、旗艦は落とされ、自慢のモビルスーツであるバクゥも全滅。辛うじて駆逐艦一隻とザウートが二機、改修をすれば出撃できる状況ではあったが、そこにイージス、デュエル、バスターという戦力を加えても焼け石に水であるのは明らかだった。

 

「確かに、足つきがデータを持ってアラスカに入るのは何としても阻止せねばならない。だがそれはすでに、カーペンタリアのモラシム隊の任務となっている」

 

「我々の仕事です、隊長!あいつは最後まで、我々の手で!」

 

 上官の言葉にイザークが噛みついた。更にそこにディアッカも口を揃えた。

 

「私も同じ気持ちです、隊長!…俺も、散々屈辱を味わわされたんだよ、あいつらには!」

 

 ディアッカの言葉も受けて、クルーゼは口元に手を当てながら考え込む所作を見せ、ふとアスランへと視線を向けた。

 

「アスラン。君はどう思う?」

 

「…私も、彼らと同じ思いです。我々に足つきを追う許可を頂けませんか」

 

 クルーゼに問われ、アスランは答える。

 その答えを聞いたイザーク達が、一斉に目を見開きながらアスランの顔へと視線を向けた。

 

「なるほど。…スピットブレイクの準備もある為、私は動けんが─────そうまで言うなら、君達だけでやってみるかね?」

 

「っ、はい!」

 

 イザークが気負い込んで勢いよく答えた。ディアッカも微かに笑みを浮かべた。

 アスランは表情を変えず、次のクルーゼの言葉に耳を傾ける。

 

「ではイザーク、ディアッカ、アスラン、ニコル、ミゲルで隊を組もう。指揮は、そうだな─────アスラン。君に任せよう。カーペンタリアで母艦を受領できるよう、手配する。直ちに移動準備に掛かれ」

 

「…了解しました。謹んでお受け致します」

 

 クルーゼからの命令に、アスランは一つ間を置いた後、敬礼を以て返答した。

 

「ザラ隊ね…」

 

「ふんっ、お手並み拝見といこうじゃないか」

 

 ディアッカとイザークは鼻先で笑いながら吐き捨てる。

 

「よろしくお願いします、アスラン」

 

「気楽にやれよ。何かあればサポートするからな」

 

 ニコルとミゲルは笑顔でアスランに言葉を掛ける。

 

 そんな彼らの顔を順番に見遣りながら、アスランは脳裏にある少女の顔を過らせる。

 

 ─────キラ…。

 

 あんなに一緒だったのに─────今では別たれたかつての友。

 

 いや、違う。キラは否定するだろうが、自分達は敵ではない。

 彼女はナチュラルに騙されているだけなのだ。

 

 何が友達だ、何が大切な人だ。そんなもの、体よくナチュラルが優しい彼女に吹き込んだ嘘に過ぎない。

 

 その、筈だ。

 

 だが─────もし、もし、彼女の言う事が本当だったら?

 キラの周りには自分以外の友がいて、大切な人がいて、彼女が本当の意味で幸せを感じていたとしたら?

 

 ─────バカな。そんな筈はない。

 

 彼女は同類と、自分達と居るべきなのだ。それこそが、彼女の幸せになる。

 

 本当の意味で彼女の隣に立てるのは、自分─────このアスラン・ザラだ。

 

 ─────だから、そこはお前が居て良い場所じゃないんだ…スピリット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐにでも移動の準備に取り掛かるべく退室したアスラン達を見届けてから、クルーゼは仮面の下で笑みを浮かべる。

 

「…皆、奴らにご執心か。特にストライク─────イザークと、違う意味でアスランも、か。さて、彼らにどうにか出来るかな?」

 

 クルーゼはブリーフィングルームの窓から晴れ渡る空を見上げながら、更に笑みを深めつつ続ける。

 

「ストライク─────キラ・ヤマトと会いたいなら、急ぐ事だなアスラン。もしかすると、手遅れになる可能性も、ゼロではないぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




膝枕されるキラちゃん可愛い回でした。そして不穏な事を呟くクルーゼ。多分隠しても無駄でしょうが、解答は次回という事で。

え、アスラン?彼は錯乱しています、しばらく放っておきましょう。
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