高みを行く者=hyperion
ストライクとハイペリオンが衝突─────直後、弾かれるようにして離れ、互いの遠距離武器を構え合う。
ストライクはビームライフルを、ハイペリオンはビームサブマシンガンを、旋回して互いの位置を入れ替えながら撃ち合う。
互いの射撃、弾丸は当たらないまま、やがてストライクは浮力を失い一度アークエンジェルの船体に足をつけ、再びスラスターを吹かせて跳躍する。
位置関係は先程と同じ、ストライクが下に、ハイペリオンが上に。
「(このままじゃ、こっちのバッテリーが…!)」
大気圏内用飛行ユニット、グゥルを使用しているカナードのハイペリオンに対して、キラのストライクは飛行にスラスターを限界まで吹かしている。
その分、バッテリーの消費は圧倒的にキラのストライクの方がペースは速い。
狙いはハイペリオンの足下のグゥル。ハイペリオンそのものを撃てなくとも、どうにかしてグゥルから引き剥がし、あれを破壊すれば形勢は一気に逆転する。
「なるほど、グゥルを壊そうという魂胆か。狙いは良いが─────」
数射撃ち掛けられたビームの軌道から、キラの狙いを読み取ったカナードが嘲笑を浮かべる。
「真っ直ぐ狙い過ぎだ!そんな単純な射撃に当たる筈がないだろがぁ!!」
正面からの射撃を掻い潜り、カナードはストライクへ接近。
ビームサブマシンガンの銃口を向け、引き金に指を掛ける。
「くっ!」
接近してくるハイペリオンに反応したキラは、咄嗟にシールドを掲げる。
シールドを掲げれば当然、前方の視界の大部分が塞がる。故に─────
「良いのか?敵の姿を
ハイペリオンの右足が掲げられるシールドを蹴り上げ、ストライクの防御態勢をこじ開ける。
「あぁっ!?」
コックピット内に響く強烈な衝撃に悲鳴を上げるキラ。
体勢を崩したストライクの姿勢制御に注力するも、それよりも先に再びグゥルの上へと舞い戻ったハイペリオンが追撃を仕掛ける。
「シールドの使い方が甘いんだよ!」
体勢を立て直す前にハイペリオンが再度ストライクの眼前に迫る。
左腕を掲げ、前腕部にマウントされたビームナイフを取り出すと、ストライクのコックピットへ向けて突き出す。
「こ、のっ!」
回避は間に合わないと判断したキラはシールドを持ち上げ掲げる。
ハイペリオンが突き出したビームナイフとストライクが掲げたシールドが衝突、スパークを起こす。
飛び散った火花が二機の間で二人の視界を覆う。
「反応が遅いな。だからそうやって咄嗟にシールドに頼らざるを得なくなる」
火花の向こう、ストライクへ向けてハイペリオンがフォルファントリーを展開する。
「っ─────!」
「キラっ!」
至近距離からの高威力砲撃─────シールドを押さえられている今のストライクでは、喰らえば一溜りもない。
ハイペリオンの前方ではストライクがライフルをマウントした後にビームサーベルを抜き放ち、そして後方ではムウがスカイグラスパーを駆ってアグニの照準を合わせる。
だが─────
「効かんっ!効かん効かん効かん効かん効かんっ!!!」
ストライクの斬撃とスカイグラスパーの砲撃がハイペリオンに命中するという寸での所で、機体の周囲に薄緑色のフィールドが張り巡らされる。
展開されたアルミューレ・リュミエールが、ストライクとスカイグラスパーの反撃を無に帰す。
「くっ!?」
殺られる─────そう予感したキラはストライクのシールドをハイペリオン目掛けて投げ捨てる。
二機の間に放り投げられたシールドを、ハイペリオンが
「逃がすかぁっ!」
その様を嘲笑いながらカナードがハイペリオンを駆る。
距離を取ろうとするストライクに追い縋り、右手のビームサブマシンガンの銃口を向ける。
しかし、次の瞬間にストライクを襲ったのは、これまで散々見せられてきたビーム弾の連射ではなく、一筋の閃光。
「なっ!」
コックピットより右側から感じた衝撃に振り向けば、ストライクの右腕をビームナイフが貫通していた。
装甲が貫かれた箇所から発せられる火花を見たキラは、咄嗟に右腕をパージ。
直後、キラの眼前で爆発が起こり、彼女の視界を炎の華が覆い尽くす。
次の瞬間、ハイペリオンが爆発の炎の中からキラの目の前に現れる。
「終わりだっ!」
右腕を失い、更に先程シールドをも失ったストライクにはもう、防御の手段はない。
距離を詰め、至近距離からのフォルファントリーの砲撃をやり過ごす手段は、キラに残されていなかった。
「キラぁぁあああああああ!!!」
「ふ、はははははははっ!俺の前から、消えろ!消えろッ!!消えろォォオオオオオオオオッッッ!!!」
ムウがキラの救援に機体を向かわせるも、間に合わない。
例えスカイグラスパーの援護が割って入って来たとしても、アルミューレ・リュミエールがあるハイペリオンには関係なかった。
もうカナードには、目の前のストライク─────キラ・ヤマトしか見えていなかった。
ようやく─────ようやく相見えた仇敵。待ち望んでいた殺し合い。
それを制し、今、カナード・パルスはようやく
この世界に、カナード・パルスという人間が、本当の意味で誕生する─────!
キラを殺す事が出来るという愉悦に、心の底から支配されていたカナード。
そんな彼が、海中から現れた機影に反応できたのは、正に奇跡ともいえるだろう。
「なにっ!?」
海中から現れたのは装甲を黒く染めながら、相反する白色のバックパックを備えたモビルスーツ。
「スピリット、だとぉっ!?」
何故、と思考する暇もカナードには残されていない。
すぐさま現在の状況を把握したスピリットが、パック上部のレール砲と両肩部の単装砲、そしてビームライフルの計五門の砲門を、ハイペリオン目掛けて火を噴かす。
「ちぃっ!」
後はもう、引き金を引くだけで本懐を遂げられたという所で──────悔恨に駆られながらもカナードは必死に機体を駆る。
辛うじてスピリットの砲火を回避したカナードは、すぐさま機体をこちらへ向かってくるスピリットへ向ける。
ストライクへ向けて展開していたフォルファントリーの砲口をスピリットへ向け、砲撃を放つ。
スピリットはフォルファントリーによる二門の砲撃の間を掻い潜りながら、更にハイペリオンへ接近し、腰部の鞘からビームサーベルを抜き放つ。
その動きにカナードは驚愕しながらも、ハイペリオンの左腕部にアルミューレ・リュミエールを発生させて掲げる。
衝突するスピリットの斬撃と、ハイペリオンの絶対防御。
「くそっ…、よくも邪魔を…!」
あともう少しという所で─────邪魔をしてくれたスピリットを、ここで落とす。
そう意気込むカナードは横目でバッテリーを確認─────アルミューレ・リュミエールを何度か展開させられたが、長時間継続しての展開はしていない為、まだ余裕はある。
戦闘継続はまだ出来る─────が、軍人としてのカナードが、ここは退くべきだと語り掛ける。
相手の数は三、戦艦も入れれば四、に対してこちらは一。
海中でモビルスーツ隊を相手にして消耗しているとはいえ、スピリットとあのスカイグラスパー、更に片腕を失っているとはいえビームライフルという援護能力をまだ残しているストライクを同時に相手にするのは、カナードにとって辛いものがあった。
「キラ・ヤマト…!」
僅かという所で、掌からすり抜けていった本懐を忌々し気に睨みつける。
いっそ、全てを投げ出してでもという先走る憎しみを必死に抑えながら、カナードはスピリットを弾き飛ばしてから機体を後退させる。
そう、例えキラ・ヤマトを殺す事に成功しても、自分が死んでは意味がない。
それは勝利ではない─────カナードはキラ・ヤマトに勝利しなくては、奴を超えたという証明にはならない。
幸い、戦いから伝わってくる印象としては、そこらの同胞と比べれば優秀な方─────といった程度だ。
これなら、一対一に持ち込みさえすればまず殺せる。
カナードは自身に言い聞かせながら、敵に背を─────仇敵に背を向ける。
「今回は見逃してやろう。だが、次は─────次こそはっ」
サブカメラで後方にいる敵の姿を見つめる。
「モラシム…、不甲斐ない奴めっ」
次こそはと切り替えようと努めるのは良いが、そう簡単に切り替えられるものでもなかった。
ましてや、スピリットの登場が後数秒遅ければ─────つまり、モラシムが海中で後数秒粘ってくれさえすれば、カナードはキラを殺す事が出来たのだから。
「いや…。宇宙用のモビルスーツで海中を立ち回ったパイロットを褒めるべき、か」
カナードにとってマルコ・モラシムという男は取るに足らない存在でしかないが、それでももし、海中というフィールドで自分がモラシムを相手取ったとしたらと考えた時、果たしてどうなっていたか。
「このハイペリオンに敵う奴は居ない、が─────スピリットか」
自分の敵になり得る存在が居る─────そう考えたカナードの口元が、笑みの形を浮かべる。
「良いだろう…。キラ・ヤマトを殺した後、次はお前だスピリット」
そう、キラ・ヤマトだけではない。
カナード・パルスという存在の証明に足る存在は、キラ・ヤマトだけではなかったのだ。
スピリット─────カナード・パルスの討つべき敵として、相応しい存在として認めよう。
仇敵を逃した悔恨はもう、カナードの中には残っていなかった。
代わりにあるのは、次の獲物を見つけた悦び─────そして次なる殺し合いへの渇望だけだった。
「カナード・パルス…」
撤退していくハイペリオンの背中を見つめながら、あの機体に乗っているであろうパイロットの名前を呟く。
カナード・パルス─────人工子宮研究の一環として生み出されたスーパーコーディネイター、の失敗作。
基準を満たさないという理不尽な理由で廃棄される予定だったのを見逃され、ユーラシア連邦に拾われた。
以降は最早モルモットに等しい扱いを受け続け、非人道的な実験に晒された男。
メンデルでは『失敗作』と蔑まれ、ユーラシアに拾われてからは非人道的な扱いを受け続け、その果てに彼が内心で燃やしたのはキラ─────スーパーコーディネイターへの憎しみ。
キラ・ヤマトを超える─────それが、彼の生きる唯一にして最大の目的だ。
しかし─────しかしだ。
「何故、ここに居る…!?」
そう、本来カナードがこの場所に─────ザフトの領海圏に居る筈がないのだ。
ましてやグゥルという、ザフトが開発した兵器に乗って現れるなんて─────
「助かったぞ、ユウ」
「ユウ、ごめんね。…怪我はない?」
深く沈みかけた思考が、スピリットに繋がった通信によって引き上げられる。
画面に映る兄さんとキラの顔を見上げながら、俺の方も二人の無事を確認できた事でようやく気持ちに一つの区切りがつく。
特にキラは、ストライクに損傷があるもののパイロット本人への大きな影響はなさそうだ。
勿論、アークエンジェルに着艦してから直接見なければ実際の所までは分からないが…。
「俺は大丈夫だよ。キラも無事でよかった」
「ユウ、俺もいるんだが?…まあいいや。それより、艦へ戻るぞ。艦長も交えて話したい事があるしな」
話したい事─────多分、というより間違いなく、ハイペリオンの事だろう。
アークエンジェルは勿論、ストライクとスカイグラスパーのセンサーにも、ハイペリオンの型式番号が─────ユーラシアのものが映されていただろうから。
だけど丁度いい。
俺も色々と考えを整理したい所だったから。
何故カナードがこの場に、ザフトが開発した兵器に乗って現れたのか。
今、奴は一体どういう立場で居るのか。
それによっては─────原作の流れから一気に状況が変わり、原作以上に困難な状況に陥ってしまう。
初めに兄さんのスカイグラスパーが先導し、その後に俺が続く。
すでにアークエンジェルの甲板に着艦していたストライクが最初に収容され、続いてスカイグラスパー、そしてスピリットの順番で収容される。
こうして、アークエンジェルが海上に出てから最初の戦闘が終わりを告げた。
しかし、この戦いは単なる序章であったなんて─────知る由こそないものの、この時の俺は心の片隅で、微かにその予感を感じ取っていた。
スピリットの収容をし、すでに機体の収容を終えて俺が降りてくるのを待っていたキラと兄さんに合流する。
二人と互いに無事を称えながら、俺達は格納庫を出た。
─────キラ。
隣を歩く少女を見ながら、思う。
もし、次にカナードが現れ、キラを殺そうとしたその時は─────その時は。
俺が、カナードを殺そう。フラガの継子として、業を背負うとしよう。
この時の俺は思いもしなかった。知る由もなかった。
俺の決意は、とある男によって叶わない。
そして、それによって俺は、大切なものを一つ、失う事になるなんて知る由もなかったんだ。