眼前から放たれる弾丸を掻い潜りながら戦闘機は敵機へ接近、両翼を傾けすれ違いざまに胴体部右側面の中口径キャノンをお見舞いし一機撃墜。
更に後方への警戒も怠らず、パイロットの
直後、先程まで機体があった場所を背後から放たれた弾丸の嵐が通り抜けていく。
機体背面から大型キャノン砲を展開し、機体を旋回させながら先程背後から撃ってきた敵機へと狙いを定め引き金を引く。
放たれた砲撃は寸分違わず敵機へ直撃、爆散。
パイロットの少女はそこで大きく息を吐き、そして直後、
「お疲れ、フレイ」
「えぇ。ユウもありがとう。貴方のアドバイスのお陰で、この難易度もクリアできたわ」
スカイグラスパーの
座席に座っていた少女、
俺がこの場にフレイと一緒に居る理由─────それを語るには大体一時間ほど時を遡らなければならない。
少々大袈裟な語り出しかもしれないが、理由としては単純だ。フレイが俺の部屋に訪ねてきて、訓練に付き合ってほしいというお願いをしてきた。
そして、そのお願いを俺が了承した、というただそれだけ。
まあお願いされて最初は断ろうとしていたんだけどな。現状、戦力は俺とキラ、兄さんの三人居る。
対して想定される敵側の戦力はアスラン、ニコル、イザークにディアッカ、ミゲルに加えて恐らく、カナード。
人数的には圧倒的にこちらが不利だが、かといって素人同然のフレイが今更訓練をした所で、戦力に加われる筈がない。
そう考え、断ろうとしたんだけど─────俺が知らない所で、フレイはすでに兄さんともシミュレーターで訓練を何度かした事があったらしく、今回俺の所に来たのも、その兄さんから俺とも訓練した方が良いと言われたからだった。
…それでも断ろうと思ったさ。というより、兄さんに一言文句を言おうとさえ思った。
当然だろう。前回の砂漠ではカガリという素人が出撃したが、あれはこちら側の思惑が全く絡んでいない、曰く不可抗力というやつだ。
ただフレイについては、ムウ・ラ・フラガという一人の軍人が、彼女をパイロットとして仕立てようとしている。
俺以外の誰も知る由もない事だが、この後、中途半端に訓練を積んだせいで戦場へと出られるようになってしまったトールが討たれるという未来が待っている。
この世界のトールは碌に訓練をしている様子は見られないからその心配はないが、代わりにフレイが訓練に取り組んでしまっている。
原作トールの様な結末を、彼女に迎えさせる訳にはいかない。
そう、思っていたのに─────俺は、フレイの真剣な眼差しに負けてしまった。
『キラの力になりたい』
『少しでも近くでキラを助けたい』
彼女の純粋な思いと言葉に、俺はお願いを了承させられてしまった。
…何をやっているんだ、俺は。
こんな事をしたって、その果てに待っているのは原作トールの二の舞だぞ。
そんな気持ちは、フレイのシミュレーターを見て吹っ飛んでしまった。というか、普通に強くて引いた。
まだ砂漠の居た時、一度フレイが熟したシミュレーターを見た事があるが、その時とは比べ物にならない程にフレイは成長していた。
『兄さんと一体どんな訓練したんだ?』
『別に特別な事はしてないわよ?大尉にアドバイスされながら、ひたすらシミュレーターをしただけ』
『…兄さんからどんなアドバイスされたら、こんな風になるんだ?』
『そうね…。大尉からもたくさんアドバイスされたけど、私としては貴方の
『…』
というやり取りもありながら、フレイの操縦を見ながら時折アドバイスを挟み、そして今─────フレイは、砂漠では物の数分で撃墜されてしまった時と同じ難易度のシミュレーションを、クリアしたのだった。
「ユウ…。お前、嬢ちゃんに何を吹き込んだ?」
「言い方が酷くない?別に特別な事を言ったつもりはないけど」
「嘘つけ…」
いつの間にか近くに来ていた兄さんが何故かドン引きしながら俺に詰め寄って来る。
全く信用されてないが、本当に特別な事を言ったつもりはないぞ?
…本当だぞ?
「…」
フレイが座る座席に凭れ掛かりながら、何やら彼女に尋ね始める兄さん。
俺はそこまで信用ないんだろうか─────なんて考えながら、昨日兄さん達と話した内容が不意に思い返された。
海上での戦闘、カナード・パルスの出現と対峙。それらはすでに昨日の出来事。
戦闘を終えた俺とキラはあの後、兄さんに連れられ艦橋へと入り、ラミアス艦長とバジルール少尉を交えてあの機体─────ハイペリオンについての情報交換をした。
俺としては全て元から知っている情報しか話し合いの中で出ては来なかったし、何故ユーラシアの機体であるハイペリオンがザフトの友軍として現れたのかも結論は出なかった。
結局、最後はアラスカに着いたら報告するという話でまとまり、その場は解散となった。
─────カナードがザフトへ流れた経緯。
いや、この際だ。一旦それについては置いておいて、カナード・パルスの根本から考えを纏めてみよう。
カナードの生きる最大の目的は、キラを殺す事だ。その目的を果たす為ならば、例え自身が所属する団体を裏切ってでも、本懐へ邁進するだろう。
なら、ザフトに入る理由は?確かにキラは地球軍に所属して、そんなあいつと戦うには敵対組織に入るのが手っ取り早くはある。
だがザフトに入った所で都合よくキラと接敵できるかなんて分かる筈がない。いくらカナードの腕が立つとはいえ、入隊したての軍人が自身の配置をコントロールできる筈がない。
なら、入隊したカナードの配置をコントロールできる権力がある人物─────或いは、それと繋がりがある人物。
「─────」
そこまで思考が至った瞬間、全身を悪寒が奔る。それと同時に脳裏に浮かぶのは、仮面に隠れたあの男の顔─────いや、まさか。
「ラウ・ル・クルーゼ─────?」
クルーゼがどうやってカナードとコンタクトを取ったのか、その手段は分からない。
だがそれ以外に関しては合点がいく。
キラがストライクに乗っている事を知り、ストライクが現在収容されているアークエンジェルを追う部隊を率いていて、更にその舞台にカナードを招く事ができる人物。
根拠も証拠もない。
それでも、俺の中で出された可能性は、確固たる結論へと変わる。
奴だ、奴しか居ない。
しかしカナードを招いたのがクルーゼだとしたら─────。
後にアークエンジェルを襲いに来るであろうザラ隊の中に、カナードがいても可笑しくないだろう。
ボズゴロフ級潜水母艦“クストー”、クルーゼの命により結成されたザラ隊に与えられた旗艦だ。
クストーの管制から
すでに、アスランを含めたザラ隊の
アスランはキーボードを操作し、計器のチェックを行いながら、つい先程に
「(クルーゼ隊長は一体、何を考えているんだ…?)」
新しく隊に加わった者の名は、カナード・パルス。
母艦を受け取り、いざザラ隊として始動する─────という所に水を差すかのようなタイミングで、クルーゼから増員の報をアスランは受ける事となった。
しかもそのカナードという人物は、地球軍からの脱走兵だという。それも、アスランのイージスやイザークのデュエルの様な、最新鋭の機体というおまけも抱えて。
「しかし、ハイペリオン…。凄まじい性能だったな」
増員を拒否等できる筈もなく、カナードとハイペリオンという戦力を加えたザラ隊のメンバーは、改めて彼を含めた連携を見直さざるを得なかった。
といっても、カナード─────それに脱走兵という肩書きにこれ以上なく悪印象を抱いたイザークとディアッカには、連携をとる気など更々ない様子だったが…。
それでも仲間となる以上、カナードとハイペリオンという戦力について、詳細を知る必要はあった。
そこでアスラン達が目を通したハイペリオンのスペックデータは凄まじいものだった。
これでザラ隊の面々全員が連携を上手くとる事が出来れば、確実にアークエンジェルを落とせるものを。
『俺の邪魔はするな。俺が貴様らに期待するのはそれだけだ』
カナードとの初顔合わせ、彼は無表情のままにアスラン達にそう言い放った。
イザークとディアッカは勿論、ミゲルも、温厚であるニコルでさえも、カナードのあまりの口振りに表情を歪ませる程だった。
それからアスランはカナードと言葉を交わしていない。
一応、カナードはザラ隊のメンバーなのだから、こちらの指揮下に入って貰わないと困るのだが─────しかしあの様子だと、こちらの指示なんて聞きそうにもなさそうだが。
「…」
カナード・パルス─────自分の腕に相当の腕を持っているらしいが、だが、何故だろう。
「キラ…」
性格は勿論、性別だって違う。
しかし─────似ていた。
今、どうしようもなくアスランが焦がれている、キラ・ヤマトに。
「…後で聞けばいい話だ。彼と、キラと、三人で話せばいい」
そう。話など後で聞けばいい。時間はいくらでもあるのだから。
キラをここへ
もしかしたら、本人達が知らない何かしらの繋がりがあるかもしれない─────。
「アスラン」
「ミゲル?」
アスランの意識が思考の底に沈みかけたその時、イージスのモニターにミゲルの顔が映し出される。
「何かトラブルでもあったのか?」
「いや。ただ、お前の隊長としての初任務だからな。緊張してるんじゃないかって思ってな」
「…いや、大丈夫さ。落ち着いてるよ」
出撃直前に何かあったのかと心配したが、そうではなかった。
むしろ、心配されていたのは自分だった。
だが、ミゲルの心配は杞憂だった。アスランに緊張という二文字はなく、落ち着いてさえいた。
「ミゲルの方こそ大丈夫か?今までの機体とはだいぶ勝手が違うが」
アスランとしてはむしろこの男、ミゲルの方が心配であった。
ミゲルの腕を疑っている訳じゃない。しかし、ミゲルが
「ま、動けなくなったら拾ってくれや」
慣熟訓練を受ける時間もなく初陣となり、流石のミゲルでも緊張しているのでは、というアスランの懸念は一瞬にして払拭される事となる。
チャラけた風に首を傾げながら言うミゲルに釣られて、アスランの顔にも微かに笑みが浮かぶ。
そうだった─────ミゲル・アイマンという男は、こういう奴だったと思い出す。
きっと、ミゲルにも緊張などという感情はないのだろう。あるのは、ただ自身の前に立ちはだかる敵を討つという意志のみ。
アスランも同じだ。アスランの中にあるのは一つの決意。
キラの優しさにつけ込んで、良いように彼女を扱っているナチュラルを─────スピリットを討つ。
そして取り戻すのだ、彼女を。彼女が居るべき、本当の居場所へ。
─────待っていてくれ、キラ。今度こそ、君を。
「各機、発進!」
コックピットに鳴り響く細かな音声、それは艦橋から隊長であるアスランへの合図だった。
直後、アスランは今か今かと出撃を待つ他機へと通信を繋げ、出撃命令を送る。
カタパルトが開き、頭上に開けた空へと次々に機体が飛び上がる。
「イザーク・ジュール!デュエル、出るぞ!」
「ディアッカ・エルスマン!バスター、発進する!」
真っ先に機体を飛び上がらせたのはイザークとディアッカ。
「ニコル・アマルフィ!ブリッツ、行きます!」
「ミゲル・アイマン!
続いて出撃したのはニコルとミゲル。
「カナード・パルス!ハイペリオン、行くぞ!」
発進したカナードは四人の後に続き、そして─────
「アスラン・ザラ!イージス、出る!」
深紅の機体を駆って、最後にアスランが出撃する。
デュエル、バスター、ブリッツ、ゲイツ、ハイペリオン、そしてイージスの六機は続けて射出されたグゥルに飛び乗り、一斉に同方向へと進撃を開始する。
その先にあるのは言うまでもなく、アラスカへと航海を続けるアークエンジェルだ。
背中に目をつけろと言われた結果、背中に目をつける事が出来る様になりました。
どうも、フレイ・アルスターちゃんです。
多分この子もスーパーナチュラルですね、分かります(白目)。
ザフト側ではカナードが合流、そしてミゲルがゲイツを受領しました。
ミゲルの機体をどうするかについては悩みに悩み抜きました。何ならここで、オリジナル機体でも出そうかとか、他にもシグー・ディープアームズとかどうよとも考えましたが、結局ゲイツにしています。
だってシグーじゃこの先の戦いについてくの辛そうだし、オリジナル機体をここで出すのもどうかと思ったし、やっぱゲイツが無難なのか…?という事で。
なお、自分なりに考えた改造を施してはいますが…。詳細は次回で。
…ほんの一瞬だけゲルフィニートの名前が頭に浮かんだのは秘密。
流石にないわ(笑)。