フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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お久しぶりです。忙しくてなかなか投稿出来ず申し訳ございません。
また以前くらいの投稿ペースに戻せるよう頑張ります。


PHASE47 獅子の疑念

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『指示に従い、艦をドックに入れよ』

 

 前後を護衛艦に付き添われながら進むアークエンジェルに、前方の艦から通信が入り、先程の将校から指示が掛けられる。

 

 直後、艦の前方にある切り立った岩壁がゆっくりと両脇に開き始めた。

 それはカモフラージュされた巨大なハッチであり、開口部へ海水が勢いよく流れ込んでいく。

 

 アークエンジェルはハッチの奥へと進んでいき、島の内部に隠されたドックへと入り込む。

 

「オノゴロは軍とモルゲンレーテの島だ。衛星を使っても、ここを発見する事は出来ないだろう」

 

 マリューが座する艦長席へと歩み寄りながら、キサカが口を開く。

 

 ここでようやく、張り詰めた神経をほんの少しだけ緩める事が出来たマリューが、傍らに立つキサカの顔を見上げながら問い掛けた。

 

「それで、貴方もそろそろ正体を明かして頂けるのかしら?」

 

 キサカは微かに表情を緩めたかと思うと、すぐに背筋を伸ばした。

 

「オーブ陸軍第二十一特殊空挺部隊、レドニル・キサカ一佐だ。これでも護衛でね」

 

 言いながら、苦笑しつつ背後のカガリを指して肩を竦める。

 

 その台詞を聞いていたヘリオポリス組は、呆けた表情を浮かべながら視線をカガリへと向ける。

 

「…なんだよ」

 

「あ、いや…。本当にお姫様なんだなー、って…」

 

「…姫は止めてくれ」

 

 ()()()という一言に、カガリの表情は強烈に歪んだ。

 

 姫と呼ばれるのはカガリにとって、相当嫌なものらしい。

 その一言を口にしたミリアリアに向けて、苦々しい声で呟いたのだった。

 

「我々はこの措置をどう受け取ったらよろしいのでしょうか?」

 

 カガリ・ユラ・アスハ─────先程までの一連のやり取りは、元国家元首の娘である彼女を救う為の一芝居という風に見てとれるが、果たして本当にそれだけなのか。

 

 疑念が籠もったマリューの視線を受け、キサカはまたも微笑を浮かべながら口を開く。

 

「それはこれから会われる人物に、直接聞かれる方がよろしかろう。()()()()()()─────ウズミ・ナラ・アスハ様にな」

 

「─────」

 

 彼の口から出て来た思わぬ名前に、マリューは息を呑む。

 そして、CICから上がってきて、丁度その言葉を耳にしたナタルと顔を見合わせる。

 

 それはつまり、これから自分達は実質的なオーブの国家元首と会い、言葉を交わすという事を意味していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな発表、素直に信じろっていうのか!?」

 

 苛立ちと共に、イザークが手に持っていたプリントアウトをテーブルに叩きつけた。

 

 その紙面には、アークエンジェルの行方に関するオーブの公式発表が書かれていた。

 

 曰く、オーブ軍によるあの砲撃を潜り抜けたアークエンジェルはすでに領海から離脱した─────等という発表を、アスラン達は当然、到底信じる事など出来なかった。

 

 ブリーフィングルームに集合していたアスランを初めとするザラ隊のパイロットは、今後の隊の方針について話し合っていた。

 その方針を定める材料として、最も大きな効力を持っているのが先程イザークが投げつけたプリントアウトなのだが、そこに記された内容が出鱈目なものであれば、当然意見は割れる。

 

「下らん!補給を終えたらすぐにでも出撃して、足つきを落とす!」

 

「何を言っているんですか、イザーク!相手はオーブ、一国家ですよ!?押し切って通れば、本国も巻き込む外交問題になります!」

 

「外交問題ねぇ?秘密裏に連合と通じて、あの機体を製造していた時点で問題になってんだから、今更じゃん?中立が聞いて呆れるね」

 

「ディアッカ…!」

 

 息巻くイザークと、オーブへの皮肉を好戦的に呟くディアッカをニコルが何とか諫めようとする。

 しかし、二人はニコルの言葉には耳を傾けようとしない。二人の視線の先では、アスランが険しい表情で思案していた。

 

「…どうするつもりだ、アスラン?」

 

 この場に居る誰もが持つ疑問を、隣に座っていたミゲルが投げ掛けた。

 

「…オーブの発表は、間違いなく嘘八百だ。しかし、今の俺達にはそれを証明する手立てがない。ここでどれだけ異を唱えても、それこそオーブへ直接抗議をしても意味を成さないだろう」

 

「なら、やっぱ突破するしかないんじゃないの?」

 

「一コロニーだったヘリオポリスとは訳が違う」

 

 あれだけの損傷を受けていたアークエンジェルが、オーブの監視を抜けて離脱などあり得ない。それこそ、あの砲撃によって撃沈したと言われた方が、まだアスラン達は納得出来ただろう。

 

 間違いなく、オーブはアークエンジェルを匿っている。しかし、先程アスランが言った通り、彼らには現状それを証明する手立てがない。

 そんな中、ディアッカが言う様に強引にオーブの防衛網を引きちぎり、国内へ攻め込むという手もあるにはあるが、ザラ隊の六人のみでそれを成すのはあまりに無謀。

 

 ()()()()()()()()()()()()─────オーブの軍事技術の高さはコーディネイターの国であるプラントですら一目置いている。

 そんな国に、最新鋭機を揃えているとはいえたかだか六人の一小隊で挑むなど、軍事に疎い一般人ですら無謀だと一笑に付すだろう。

 

「グダグダと下らん話をするな」

 

 ディアッカとイザークがアスランへ喰い下がろうとした瞬間、壁に背中をつけてただ話を聞いているだけだったカナードが声を上げた。

 

 他五人の視線が一斉に注がれる中、カナードはアスランを見据えながら再度口を開く。

 

「単刀直入に答えろ。貴様の中で出した結論を、俺達の行動方針を言え」

 

「…カーペンタリアから圧力を掛けて貰う。すぐに解決しないようなら、潜入する」

 

 その返答にカナードは表情一つ変えない。だが、訓練生時代からアスランを知っている他の四人は違った。

 彼らしくない、思い切った案に一同は意表を衝かれたような表情になる。

 

「オーブに潜入して、足つきの動向を探る。…異論がある奴は?」

 

 言ってから、アスランは視線を巡らせる。

 

 ニコルとミゲルは一瞬呆けた後、すぐに頷いた。カナードは興味なさげに鼻を鳴らしただけだが、何も言って来ないという事は、異論がないのだとアスランは判断する。

 

 そして、残るイザークとディアッカは─────

 

「OK、従おう」

 

「ま、潜入ってのも面白そうだしな」

 

 片や諦めた様に両手を上げながら、片や片目を瞑り、演技染みた所作を取りながらアスランの案に賛成の意を示した。

 

 そのまま二人は立ち上がり、部屋を出ていこうとする。

 

「…案外、拝めるかもしれないな」

 

 二人がドアの前に立ち、自動で開く音がした直後、不意にイザークが口を開いた。

 

 振り返り、アスラン達に茶化すような笑みを浮かべてイザークは続ける。

 

「奴らの─────スピリットとストライクのパイロットの顔を」

 

「…」

 

 アスランの表情は変わらない。

 ただ、その言葉は彼の胸の奥に暗い影を落とした。

 

 二人は出て行った扉を、じっと見つめる男が一人。

 

 アスランではない。皆の輪から外れ、壁際に立っていたカナードは、イザークの今の台詞を頭の中で反芻する。

 

『スピリットとストライクのパイロットの顔を』

 

 潜入など下らない。だが、アスランの言う通り攻め込むのは得策ではない。

 ならば、やるしかないのか─────なんて、憂鬱な気分に陥っていたカナードの心を、その一言が微かに高揚させた。

 

 奴の─────キラ・ヤマトの間抜けな顔を、殺す前に拝むのも悪くないかもしれない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんな風にオーブに来るなんてなぁ…」

 

「…うん」

 

 トールが感慨深げに呟き、複雑そうな表情でミリアリアが頷く。

 

 そんな二人を、俺はテーブルを挟んで正面から眺めていた。

 

 待機を命じられた俺達は、また例によって食堂で顔を突き合わせていた。

 

 故郷に帰って来た─────その事実は理屈抜きの安心感を与えてくれているんだろうが、現在の身分を考えるとどうしても違和感を拭いきれない、といったところか。

 

「ねぇ。こういう場合ってどうなんの?やっぱり、降りたりってできないの、かな…?」

 

「降りるって…」

 

 おずおずと口を開いたのはカズイだった。

 そんなカズイへ呆れたように視線を向けるサイと、何故か怒ったように鋭い視線を向けるフレイ。

 

 二人の反応を見たカズイは、慌てて両手を横に振りながら続けた。

 

「いや、除隊できないってのは知ってるよ!けどさ、えーと…休暇、とか…。外に出たり…その、家族に会ったり、とかさ…」

 

「…」

 

 サイとフレイは何やら勘違いしていたのか、言い直されたその言葉を聞いて、それぞれカズイを責める視線を収める。

 

 家族、か…。原作では彼らはオーブの計らいで家族と再会する事が出来た。

 しかし実際の所、この世界におけるオーブという国はかなり難しい。転生して、オーブという国を知れば知る程、あの対応がどれだけ異例なものだったかが実感出来るというもの。

 

 こうしてアークエンジェルを入港させた事自体、驚くべき事なのだ。

 

「…その辺も含めて、艦長達は話してるかもしれないな」

 

 転生してから十五年。原作の大まかな流れこそ覚えていても、キャラクター同士の細かな会話についてなんてとっくに記憶から抜け落ちている。

 

 艦長達とウズミの対談の内容は、確かオーブが開発しているアストレイのOS完成への技術提供について、だった筈だが─────トール達の処遇についても話していたんだっけか?

 

 …ダメだ、思い出せない。結論、彼らが両親と再会できるのは確定的なのだけど。

 

「そういえばさ、ユウ。ユウはどうなんだよ」

 

「ん?」

 

 食堂内に満ちた沈んだ空気を振り払うように、明るくトールが声を上げた。

 

 その言葉の矛先は俺であり、俺は顔を上げてトールを見ながら首を傾げる。

 

「ユウはあの時ヘリオポリスに居たけど、オーブ出身なのか?イギリスの大学に通ってたって聞いたけど」

 

「いや、産まれはワシントンだよ。あの時ヘリオポリスに居たのはまあ、偶然って感じだ」

 

 …俺、トール達にどこの大学に行ってたなんて言ったっけか?

 別に大学について知られても困る事なんて一つもないからいいけど。

 

「トール…。アンタ、ユウのファミリーネームを知っておいてその質問はないんじゃない?」

 

「へ?」

 

「フラガって、知らないの?大西洋連邦の大資産家の家系よ?」

 

「…へ?」

 

 頬杖を突きながら心底呆れたと言わんばかりのフレイの視線を受けながら、トールは視線を俺とフレイの間を行き来させる。

 

 ミリアリアもフレイと同じく呆れた表情、サイは苦笑い、キラとカズイは驚いた様子で目を丸くしている。

 

「別に知らなくても不思議じゃないさ。資産家としてのフラガ家は、とっくに滅びたよ」

 

「…滅びたって?」

 

「火事で両親が死んでな。それからはもう、親父の遺産を守るだけで精一杯の終わった家なんだよ。兄さんは見ての通り軍人だし、一応俺が当主って形だけど、本当に形だけの当主だし。親父の事業を継ぐつもりも更々ないしさ」

 

 今、俺が言った通りフラガ家は親父が死んでから急速に弱体化した。

 というのも、俺も兄さんも、親父の事業を継ぐ意欲が全くなかったというのが要因だ。

 未だにフラガという名前は影響力を持っているし、その影響力を利用している俺が言うのもあれだが、こんな家、このまま滅んだ方が良いというのが俺の本音である。

 

「…え、何で暗くなる?」

 

「だ、だって…。君の事を知らないで、親に会いたいなんて言って…。それに、フレイだって…」

 

 何故かカズイ達の面持ちが暗くなるもんだから理由を尋ねてみれば、俺の経緯を知らずに軽率な事を言ってしまったと気にしていたらしい。

 そして、フレイの父親についても今になって心を痛めてしまったようだ。

 

「気にすんなよ。もう十年も前の話だし、俺には兄さんが居たしさ。フレイについては分からんが」

 

「私だって気にしてないわよ。サイが居るし、それに─────」

 

 フレイはちらりと横目でサイを見上げてから、次いでニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべて、そして─────

 

「可愛い可愛い妹も居るんだもの!」

 

「うわっ!ち、ちょっと、フレイ!?妹って、私フレイより年上だけど!?」

 

 じゃれつくフレイと、驚きながらも嫌そうな表情一つせずじゃれつかれるキラ。

 

 うむ、仲良き事は良きかな良きかな─────百合の花なんて見えてないからな。本当だからな?

 

「ホント、仲いいね君達」

 

「何よ、羨ましいのトール?ミリアリアという彼女が居ながら?」

 

「トール─────?」

 

「ち、違う!そういう意味で言ったんじゃ…!」

 

 何やらトールを中心に焦げ臭くも微笑ましい、そんな空気に溢れ、さっきまでの暗い空気が完全に霧散した、そんな時だった。

 

「フラガ少尉」

 

 冷たさすら感じさせる凛としたその声は、騒がしくなった食堂内でも嫌に響き渡った。

 

 コンマ数秒前までは賑やかだった食堂内が、一瞬にして静まり返る。

 

 俺達が振り返った先、食堂の入り口にはバジルール中尉が立っていた。

 バジルール中尉はいつもの鋭い視線の中に、微かな困惑を携えながら俺を見ていた。

 

「もうじきオーブ軍の将校が迎えに来る。貴官は将校と共に貴賓室へと向かえ」

 

 何故、と尋ねるよりも先に、バジルール中尉が続ける。

 

「ウズミ様がお呼びだそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スピリットとストライクの戦闘データ、そしてパイロット二名のモルゲンレーテへの技術協力─────アークエンジェル艦長であるマリュー・ラミアス大尉から承諾を得ても、ウズミの中で燻る微かな迷いは消えてくれなかった。

 

 人命だけを救い、艦とモビルスーツは沈めてしまった方が良かったのではないか、と。

 

 それに、艦に所属する名簿の中に書かれた三人の名前を見て、ウズミは更に驚かされる事となった。

 

 ()()()()()()─────そして、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まさかこの三人が同じ艦に、一同を介して集まっているとは─────それも、三人共にパイロットとして、互いの背中を預け合いながら味方として戦っているとは。

 

「運命、とでもいうのか。これが?」

 

 見極めなければならない。

 ()()()()()()()()()()()()()()として、あの二人に害する者であるか否かを。

 

 兄弟の片割れ、兄に関しては無害であるとウズミは断じた。

 先程の会談、ほんの数十分という短い時間ではあるが、ムウが何も知らないただの軍人であるとよく分かった。

 

 ウズミにとってはむしろ、次に会う弟─────ユウの方が気掛かりだった。

 

 形式上フラガ家の当主に立ち、代々受け継がれてきた事業にこそ手を付けず、されどフラガという名を利用して何かを画策している節がある男。

 

 もし、彼が()()()()()を知っていたら?

 

 もし、彼が()()()()()()()()()()()だとしたら?

 

 だとすれば、ウズミ・ナラ・アスハは正しく、異名通りの獅子となり、幼い少年に対して容赦なく牙を突き立てるだろう。

 

「ウズミ様。ユウ・ラ・フラガ少尉を連れて参りました」

 

「入れ」

 

 見極めなければならない。

 

 扉が開いた先に立つその少年を。

 

 世界に希望を齎す存在か─────はたまた、悪意を以て世界に破滅を齎す存在か。

 

 オーブの獅子─────ウズミ・ナラ・アスハは、希望と破滅の両方の可能性を持つ異端児と対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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