もうちょっと話のテンポを速めないとと思いつつ、じっくり書きたいという欲望が邪魔をする。
まだ序盤だしいきなり速いテンポで話を進めても読者はついてこれないっしょ、と勝手に結論付けてじっくり書いていきます。
なお、今話で戦闘は入れてません。牛歩ですいません。
地球軍の新型モビルスーツ、スピリットとストライクを破壊するべくヘリオポリスへ侵入してきた、シグーを駆るクルーゼは、同じく新型の戦艦アークエンジェルの乱入を受けてすぐに撤退していった。
…構わず襲い掛かってくるものだと思っていたが、予想外だった。とはいえ、今の所ではあるがコロニーに傷をつけないまま、戦闘が一段落ついた事へ安堵の息を漏らす。
アークエンジェルが工廠区内の開けた場所へと着陸し、俺もまたスピリットを地へ降ろす。
開いた艦のハッチから十数人程だろうか、地球軍兵達が走って出てくるのを映像を通して目にする。
その中には見覚えのある、ナタル・バジルール少尉を筆頭としたアークエンジェルのクルー達の顔が揃っていた。
スピリットの足元でラミアス大尉とバジルール少尉が顔を合わせ、何やら話している。そしてふと、二人の顔がこちらを見上げた。
マリューが手を振るう。降りてこい、という事だろう。大人しく従い、ハッチを開けて外へと出る。
「民間人、それも子供じゃないですか!」
地面へと降りてくる俺の顔を見て、バジルール少尉が驚愕に目を見開きながら声を上げる。
「スピリットだけではないわ。…ストライクに乗って私を助けてくれたのも、民間人よ」
「なっ…!」
続けざまのラミアス大尉からのカミングアウトに、バジルール少尉は言葉を失う。
バジルール少尉だけではない。彼女の背後に立つ兵達皆が、一様に驚き固まっていた。
「…こいつは驚いたな」
バジルール少尉がラミアス大尉へ何かを言おうと口を開いた、その時。
どこからか男の声が聞こえてくる。その声が聞こえて来た方へと全員が振り返る中、俺はそうはしなかった。
声の主が誰なのか、確認するまでもない。この世界に来てから最も長い時間を共に過ごしてきた、家族の声を聞き間違えたりするものか。
「地球連合軍第七機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ。乗艦許可を貰いたいんだが、この艦の責任者は?」
その台詞を聞いてから、ようやく俺は顔を声の主へと─────この世界での我が兄の方へと向ける。
兄さんはヘルメットを左脇に挟め、右腕を上げてラミアス大尉とバジルール少尉に向けて敬礼していた。
「第二宙域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」
「同じく、ナタル・バジルール少尉であります。艦長以下、艦の主だった士官は皆戦死されました。よって、今はラミアス大尉がその任にあると思います」
「え─────艦長が…?そんな…」
兄さんと同じように敬礼をしながら、二人が自己紹介を始める。
この場でこの三人は初対面なのだから当たり前だが、この光景に妙な違和感を覚えてしまうのは仕方がないと思う。
特に兄さん─────ムウ・ラ・フラガとマリュー・ラミアスは最終的に恋仲となって結ばれる事を、俺は知っているのだから。
まあ、この世界で同じような結末になるかはまだ分からないが…。
「ともかく許可をくれよ。俺の乗って来た艦も落とされちまってね」
「あ…はい、許可いたします」
「で、だ…。アンタ達とも色々話したい事があるんだが、少しでいい。時間をくれ」
「「?」」
兄さんがラミアス大尉から乗艦許可を貰い、敬礼を解いたかと思うと、顔をこちらへと向ける。
そのまま兄さんの足がこちらへと向けられ、一歩ずつ俺の方へと近付いてくる。
うん、まあそうだろうね。俺が機体から出たその時からもう兄さんの視線は感じていた。
「…なんで、お前があんなものに乗っている。ユウ」
「…成り行き、かな」
「真面目に答えるつもりはないみたいだな。…大体、お前がヘリオポリスに居ること自体、俺は聞いていないぞ」
「使用人には俺から口止めをしておいたから。責めるのは止めてあげて」
「そういう事じゃ─────あぁっ、くそっ」
話が嚙み合わず、苛立たし気に頭を掻く兄さん。兄さんには悪いけど、こちらにその気がないのだから、話が噛み合わないのは当然なのだけれど。
「…フラガ大尉。そちらの民間人は、貴方のお知り合いで?」
俺と兄さんの会話を聞き、怪訝な表情を浮かべたバジルール少尉が問い掛けてくる。
顔を歪ませていた兄さんがその声にハッ、と我に返り、一度大きく息を吐いてから表情を引き締めてから口を開く。
「こいつは俺の弟だ。ユウ・ラ・フラガ。一度は聞いた事があるんじゃないか?」
「ユウ・ラ・フラガ─────?まさか、この少年が?」
…何で俺の名前にそこまで驚くのか、さっぱり分からない。
そういえばさっきも、ラミアス大尉へ自己紹介をした時に彼女は同じような反応をしていたけど─────何故に?
思い当たる事と言えば、とある大西洋連邦の高官とか、大西洋連邦に強い繋がりのある資産家とフラガの名前を通して個人的に関係を結び色々と融通してもらった事があるくらいだけど…、それをこの二人は勿論、兄さんだって知る筈がないし。
後に思い当たる事─────うん、ないな。やっぱりさっぱり分からん。
「俺が話を止めておいてあれだが、無駄話はここまでにしておく。…だがユウ、後でゆっくり話はさせてもらうぞ」
「分かってるよ。俺も、兄さんに話したい事がある」
「…二人共、これからどうしていくか考えてはいるか?」
俺と少しの間視線をぶつけ合ってから、兄さんはラミアス大尉の方へと視線を移す。
「恐らく敵はまたここへ戻って来るぞ。何しろ、相手はあのクルーゼだ」
「クルーゼ…。っ、ラウ・ル・クルーゼですか!?」
兄さんが口にしたその名に、ラミアス大尉は目を見開き、バジルール少尉は隠せない動揺が表出した。
やはり、地球軍内でもラウ・ル・クルーゼという名は知れ渡っているらしい。勿論悪い意味で、だろうが。
「あいつはしつこいぞ。すぐにでも艦に戻って、戦闘態勢をとるべきだ」
その言葉通り、すぐさまアークエンジェルのクルー達は艦内へと戻っていき、そして俺達もまた、ラミアス大尉と共に艦内のとある一室へと案内されるのだった。
ユウ達を一先ず艦内の一部屋に案内した後、マリューはブリッジへと上がった。
そこにはすでに操舵士、CIC達が戦闘準備を進めており、そしてまだこちらに来て間もないムウへナタルが現状の説明を行っていた。
「…なるほど。となると、やっぱり俺達でどうにかするしかないな」
ナタルからの説明を聞き終えたムウは、口元に手を当てながら考え込む所作を見せる。
いや─────それは考えるというよりも、迷ってる、と表現した方がしっくりくるようにマリューは今のムウの姿を見て感じた。
「…あの二人に力を借りましょう」
ムウとナタルの顔がこちらへ向けられる。
自分が今、何を言ったのかマリューは自覚をしていた。しかし、現状をどう考え、整理しても、今の自分達でこの状況を乗り越えるのは不可能だという結論にしか至らない。
脳裏に過る、少年と少女─────ユウ・ラ・フラガとキラ・ヤマトが実現してみせたスピリットとストライクの動き。
…あの少年が、
そしてストライク。マリューは、あのキラ・ヤマトという少女がただの民間人には思えなかった。初めてにしてあの操縦技術、そして戦闘中にもかかわらず成し遂げてしまったOSの書き換え。
恐らく、あの少女は─────いや、今はそんな事はいい。とにかくザフトの追撃から逃れる為には、二人の力がどうしても必要だった。
「これ以上、軍の機密に触れさせる訳にはいきません!」
「でも今、あの二機を動かせるのは彼らしかいないわ」
「…フラガ大尉がいます。貴方なら…」
「おいおい、あの二人が書き換えたOS見てないのか?あんなの、普通の奴が動かせる訳ないだろ。…ユウ、弟は正真正銘のナチュラルだが、あのキラっていうあの子、多分コーディネーターだ」
ナタルが、そして戦闘準備を進めていたクルー達も一瞬手を止め、驚きの目をムウへと向けた。
ムウは、マリューと同じ予感を感じていたのだ。ストライクを操縦してみせたあの少女、キラ・ヤマトはコーディネーターだと。
「それでは尚更任せる訳にはいかないでしょう!我々が戦っている相手に軍の機体を─────」
「俺達が戦ってるのはザフトだ。コーディネーターじゃない」
勢いづくナタルの言葉を遮って、ムウが瞳を鋭く光らせながら割り込む。
「俺達が戦っている相手と、あの嬢ちゃんは何の関係もない。そこを履き違えるなよ、バジルール少尉」
「…はい」
そこはかとなく納得し難い雰囲気を漂わせながらも、今の発言が失言だという事だけは理解したのだろう。ムウの言葉に大人しく頷くナタルだった。
「…だからって、俺達地球軍とも何の関係もないんだけどな。ただ、艦長の言う通りだ。二人の力を借りるしかないだろ」
「…ですが、その内の一人は、貴方の弟です」
自分から巻き込んでしまおうと提案しておきながら何を言っているのだろう、とマリュー自身も思ってしまう。それでも、確認しなければならなかった。
本当に、それでいいのか、と。
「仕方ない…なんて、割り切れねぇよ。俺がパイロットになったのは、あいつを守る為だったんだぜ?それが今やあいつの力を借りねぇと生き延びれないなんてさ。…情けなくて、泣きたくなっちまうよ」
諦め、開き直ったかのように聞こえたムウの声が、言葉が進むごとに震え始めた様に聞こえるのは気のせいだと、マリューは思う事にする。
ムウは微かに目を潤ませながら、更に続けた。
「それに…あいつが言った俺に話したい事ってのは、多分これだろうしな」
何はともあれ、結論は出た。この場を乗り切る為に、民間人ではあるがユウ・ラ・フラガとキラ・ヤマトにそれぞれスピリット、ストライクに搭乗してもらう。
その説得役にはマリューが買って出る事となり、すぐさまマリューはユウ達がいる、つい先程案内した船室へと急ぐのだった。
アークエンジェルの中のとある一室にキラ達と一緒に案内された俺は、軍人達が乗り込むこの場で無断で機体に乗り込むなんて出来る筈もなく、ただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
言うまでもないが、その間俺はキラ達と一緒に居た。普通に気まずかった。
何しろ彼らとは初対面だし、それなのに一緒の空間に居るという状況は本当に気まずかった。
…たまにキラがちらちらとこちらを見てくるのは何だったんだろう?という、少々引っ掛かる事はありながらも、キラ達の会話に黙って耳を傾けながら俺は部屋の隅の方で壁に寄り掛かりながら立っていた。
おいそこ、盗み聞きとか言うな。仕方ないだろ、同じ室内に居るんだから、話が聞こえてくるのは不可抗力だ。
そうしてじっとしていると、俺達の前にラミアス大尉が現れ、そして彼女は俺とキラの名前を呼んだ。
そして彼女の口から語られたのは、もうじきザフトの追撃が来るという現状と、ザフトの追撃から逃れる為に俺達の力を借りたいという要請だった。
ラミアス大尉は直接的に言いはしなかったが、要するに俺とキラにまた、モビルスーツに乗ってほしいという事だった。
「お断りします!」
その要請を即座に断ったのはキラだった。
「私は…私達は戦争が嫌で、中立の国に住む事を選んだんです!…この人の言う通り、外の世界では戦争をしている。だからいつか、戦いに巻き込まれるかもしれない。それは今、この瞬間に実感しました。でもだからって、自分から戦いに飛び込んでいくのは違う!そんなのは、私は御免です!」
それは当然の反応だ。戦火に巻き込まれた、それはまだいい。納得し難いが、それが今の現実な以上キラは受け止めるしかない。
だがそれと、自ら戦火に飛び込んでいく事は全くの別物だ。
兵器を取り、人を撃つ。本来、心優しい性根の持ち主であるキラ・ヤマトには、向いていないのだ。
…お前がそれを選ぶなら、俺が肯定しよう。キラ・ヤマトという戦力の穴は、俺が埋めよう。
どこまで出来るかは分からない。だが─────ラウ・ル・クルーゼは、ナチュラルの身でありながらその才能と途方もない努力の末、コーディネーターの軍隊、ザフトのトップガンと登り詰めた。
─────奴に出来て、俺に出来ない道理はない。
「俺は構いませんよ」
「えっ─────」
ラミアス大尉が目を見開き、キラもまた信じられないと言わんばかりの目で俺を見上げる。
「…良いのですか?」
「誰かが行かなきゃ、この艦は沈む。俺の力でそれが避けられるなら、喜んで乗りますよ」
元々そのつもりだった、とは口に出さない。
「ありがとうございます…。それじゃあ申し訳ないのだけれど、すぐにスピリットで待機していてほしいの。ついてきてもらえる?」
恐らく、俺を格納庫へと案内するつもりなのだろう。俺がここへ来ている間に、スピリットはアークエンジェルへと収容されている。
先導するラミアス大尉に続いて、俺も歩き出す。
「待ってっ!」
その時、背後から声が上がり、俺とラミアス大尉は同時に足を止めて振り返る。
振り返った先には、俺達の方へ手を伸ばし、こちらへ来ようとしたのか片足が半歩前に出た体勢のキラが居た。
「…どうした?」
何故俺達を呼び止めたのか分からない。キラはラミアス大尉ではなく俺の方を見ていた為、俺から尋ねる事にした。
「あ─────う…」
しかし返ってくるのは要領の得ない、小さなかすれ声だけ。
「…悪いけど、時間がないみたいだから。君はすぐに戻って、友達と待っててくれ」
そう言って再度俺は歩き出そうとして─────
「ま、待って!私も!」
今度こそ聞こえて来たキラのその言葉に、思わず驚き目を見開いてしまう。
「…君が行くなら、私も行く」
その言葉はハッキリと、決意が籠もった瞳と共に、俺へと投げ掛けられた。