フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE49 失望

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「電磁流体ソケットの摩耗が酷いし、駆動系もどこもかしこもギリギリです。…どれだけ無茶な操縦を続けて来たか、目に浮かんできますよ」

 

「そんなつもりはなかったんですけどね」

 

 キャットウォークの上で、短いジャケットとジーンズというラフな格好をした女性─────エリカ・シモンズと言葉を交わす。

 

 彼女の名前が出た事で分かるだろうが、今俺はモルゲンレーテに居る。

 というのも、キラと一緒に俺も、()()()()()のOS開発の協力者に選ばれていた。

 

 ウズミとの対談を終えて、アークエンジェルに戻ってすぐにスピリットをモルゲンレーテへと運び、先に着いていたキラと共に作業を始める事になった。

 

 M1アストレイ─────モルゲンレーテ社製の、オーブ軍用モビルスーツ。

 そのOS開発と並行して始まったのが、アークエンジェル、そしてスピリットとストライクの修理だ。

 

 アークエンジェルは、今俺が居る場所とはまた別の場所で修理が行われている。

 一方こちらでは、スピリットとストライクの修理が行われているのだが─────機体の状態を見たエリカの口から出たのは、目に見えない場所に蓄積されたスピリットのダメージだった。

 

「関節部の損耗が酷いので、いっそ部品を交換するべきと考えますが、どうします?」

 

「フレームに関しては何も分からないので、そちらの判断に任せます」

 

 機体の中身はともかく、外見については全くの専門外だ。

 手抜きなんてしないだろうし、俺が関わるよりも全て技術者達に任せた方が早いだろう。

 

「ならそのように」

 

「お願いします。こっちはこっちで、始めておきますので」

 

 エリカと一礼し合ってから、区画を離れてエレベーターに乗り込む。

 下層へと向かい、通った事のある道順を思い出しながら、一つの部屋へと入った。

 

 中にはすでに何人かオーブの技術者が居て、それに混じってキラとカガリもそこに立っていた。

 部屋に入った俺の姿を振り返る二人の向こうには、強化ガラスが張られ、更にガラスの向こう側では三機のアストレイがのろのろとした動きで歩き回っていた。

 

「どうだ?」

 

「うん。少しだけど、動くようになったよ」

 

 部屋の奥へと歩き、キラの隣で立ち止まってから彼女へ問い掛ける。

 俺の問いにキラは頷きながら、笑顔で答えた。

 

『あー!ユウ君だ!ユウくーん!』

 

「マユラさん。操縦の感触は如何ですか?」

 

『いやー、快適よ!ものすっごく動かしやすいわ!』

 

「…これでそこまで喜ばれても複雑ですけどね」

 

 ここでの話し声がコックピットまで聞こえたのか、スピーカーから姦しい声が発せられた。

 

 目の前にある三機のアストレイ、そのパイロットの一人であるマユラ・ラバッツさんだ。

 

 アストレイ三人娘、なんて呼ばれていたな。

 マユラさんと後二人、アサギ・コードウェルさんとジュリ・ウー・ニェンさん。

 ぶっちゃけ、この三人のフルネームとか忘れてたよ。この場に聞いて、そういえばそんな名前だったな、なんて思っちゃったよ。

 

 三機のアストレイは鈍い機動で動き回る。

 しかし、動きの鈍さに相反して弾んでいるマユラさんの声に、思わず苦笑いしてしまう。

 まあ仕方ないとは思う。何しろ俺とキラが来る前は、これよりもっと酷い状態だったからな。

 キラなんかその動きを前にして、愕然としてたからな…。

 

「私が使ってるOSを丸ごと使えれば楽なんだけど…」

 

「…いっそ、そうするか?三人の意見を聞きながらOSを調整していく方向でも、アリだと思うが」

 

『あのー、今物凄い言葉が聞こえた気がするんだけど、気のせいですか?』

 

『ムリムリムリムリ!ユウ君、キラちゃん!アストレイを壊したくなかったら、それは絶対にダメだからね!?』

 

 オーブ製のOSをアップグレードしていくから時間が掛かるんだ。なら、キラか俺が使ってるOSを三人に使ってもらって、ダウングレードしていけば時間の短縮に繋がるのでは?

 ─────と、俺もキラも考えたのだが、ジュリさんとアサギさんからストップが入ってしまった。

 

「良い考えだと思うんですが」

 

『ムリだよ。アサギも言ったけど、あんなOS使わされたらアストレイを壊す自信があるよ』

 

「変な自信を持たないでください」

 

 そこまで嫌がるか?と思わなくもないが、兄さんでもあのOSは絶対に使いたくないって言ってたし…仕方ない、諦めるか。

 

『それより疲れたー。休憩しよ、休憩』

 

『さんせー!』

 

「…まあ、時間も時間だし、食事にしましょうか」

 

『やったー!ねえユウ君!ご飯一緒しよー』

 

「別にいいですけど─────やっぱり止めておきます」

 

 気付けば時刻はお昼時、朝からコックピットに乗り込んで操縦を続ける三人には相当の疲労が溜まっている事だろう。

 休憩をとりたいという要望を素直に受け取る。そこに更に、マユラさんから昼食のお誘いが入り、断る理由もないし誘いを受けようとしたのだが、途端隣から冷気が発せられた。

 

 ま、まあ誘いを受けたら受けたで玩具にされそうだし、断るのが正解なのかもしれない。

 

 こちらを睨むキラに気付かないフリをして、そう思う事にする…。

 

『えー!』

 

『はいはいマユラ。ユウ君がお気に入りなのは分かるけど、諦めなさい』

 

『ぶー…』

 

 …なんか、マユラさんに気に入られたんだよな。別に何かした訳じゃないし、会うのも今日初めてだし。

 

 まあ、マユラさん程の美人に気に入られるのは悪い気はしないが─────

 

「…」

 

「さて、キラ。飯行こう、飯」

 

「あ、待てよ!私も行く!」

 

 冷気が更に鋭くなったのを感じつつ、触れないままキラを伴って部屋を退室する。

 そして、後ろから追って来たカガリも一緒に、特別に使用の許可を貰ったモルゲンレーテ社員用の食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 といった感じで、翌日。

 前日はモルゲンレーテの工廠内で作業をしていた俺とキラだったが、作業が一段落してから、エリカから未完成のアストレイのOSデータを受け取り、アークエンジェルへと戻った。

 それから今日、現在に掛けて艦内で作業を進めていたのだが、俺は一度作業の手を止めて、自室を出た。

 

 向かう先はキラの部屋である。一体何の用なのかというと、それは昨日の昼休憩中に交わしたキラとのちょっとした会話についてなのだが─────

 

「…やっぱりか」

 

 やはり、というべきか。キラは部屋に居た。

 コンピュータモニターと向き合い、キーボードを打つキラの後ろ姿を見て、俺は溜息を吐く。

 

 今、オーブ軍本部内における一室に、ヘリオポリス組の両親達が集まっている。トール達は今頃、両親と感動の再会を果たしているだろう。

 

 昨日、キラと交わした会話というのはまさにその、両親と共に時間を過ごす事─────原作のキラは一度断ったソレについて、余計なお世話かもと思いつつ、俺は言及した。

 

 キラが部屋に居る事が予測出来た辺り、あまり良い反応は得られなかった事は察して貰えると思うが…。

 

「おい、キラ」

 

「…ユウ」

 

 開きっぱなしのドアに寄り掛かりながら呼び掛ける。

 するとキラは小さく体を震わせてから、ゆっくりとこちらに振り返る。

 まるで、悪い事をした後に怒られるのを怖がっている子供の如く─────引け目を感じているのなら素直に会って来ればいいものを。

 

「何で会って来なかった?」

 

「…」

 

「…会いたくない訳じゃないだろ?」

 

「そんなっ…!会いたい、よ。会いたいけど…!」

 

 一度目の問い掛けには何も答えなかったキラだが、二度目の問い掛けには反応を見せた。

 

 両目を涙で潤ませながら、俺には察しきれない激情に苛まれながら、キラは続く言葉を口にする。

 

「私…、この手で人を殺してきたから」

 

 キラの手は震えていた。

 震えた手を開き、キラは瞳を揺らしながら掌を見つめる。

 

「二人に会うのが怖い。人殺しの私を二人の子供として見てくれるのか、怖いの」

 

「…」

 

 軍人となり、モビルスーツに乗って戦い、その果てにキラは人を殺してきた。

 正式に訓練を受けた訳ではなく、ただ流れに呑み込まれ、ただ()()()()()

 

「…キラがコーディネイターじゃなきゃ、戦いに巻き込まれる事にはならなかったかもな」

 

「…そうかもね」

 

「なあ、キラ」

 

 原作でキラは言った。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 だから、俺は目の前のキラに聞いてみたくなった。

 

「自分をコーディネイターにした両親が憎いか?」

 

「─────」

 

「コーディネイターとして産まれていなければ、()()()だけの力がなければ、お前はこんな事にはならなかった。…お前をそんな風に産み落とした親を、お前は憎むか?」

 

 原作のキラも、明確に両親へ憎悪を抱いた訳ではない。

 ただ、自分をコーディネイターにしたであろう両親への負い目は抱いていた。

 

 なら─────この少女は、目の前のキラ・ヤマトはどうなのか。

 原作のキラと同じように、コーディネイターでなければと悔いているのか、それとも否か─────「どうして?」─────っ。

 

「どうして、私をコーディネイターにした二人を、憎まなきゃいけないの?」

 

 キラは、それは心底不思議そうに首を傾げながら、俺に聞き返してきた。

 

「戦いたい訳じゃない。人を殺したい訳じゃない。…私がコーディネイターじゃなければ、今頃私はお母さんとお父さんと一緒に、平和に暮らしていたかもしれない。だけどね、ユウ?」

 

 キラは綺麗な微笑みを浮かべながら続けた。

 

「私は、戦いを選んだ事を後悔してないよ。だって、もし私がコーディネイターじゃなかったら─────ユウは一人で戦う事になっていたんだから」

 

 何の迷いもなく、キラはそう言い切った。

 戦いたくないし、殺したくもない。

 それでも、戦う道を選んだ事を─────俺と一緒に戦う道を選んだのは、キラの意志なのだから。

 

「…そうか」

 

「ユウ?」

 

「なら、俺にから言える事はないな。これからもよろしく頼むよ」

 

「…うん」

 

 ─────()()()()()、か。

 そう言うしかなかった、弱い自分にどうしようもなく腹が立つ。

 キラを苦しませている大きな要因となってしまった、自分に対して失望が湧き起こる。

 

 気持ちが冷えていく─────。

 キラの助けになりたいのに、キラに戦ってほしくなんかないのに、だけど俺は、キラが居なければ生き残る事は出来ないのだろう。

 

 俺が弱い所為で、結局キラは両親と会いたくないと思ってしまう所まで追い込まれてしまった。

 

 あぁ─────()()()()()()()()

 それならば─────状況を悪くして、周りを巻き込んでいくだけならば、ユウ・ラ・フラガという存在など、果たして必要なのだろうか?

 

「ユウ?」

 

「っ─────すまん、少し疲れたみたいだ。ちょっと部屋に戻って休んでくるよ」

 

「あっ…」

 

 背後から再度、キラの声がするが、無視して早足で退室。

 そのまま自室へと戻り、ベッドに体を投げ出す。

 

 落ち着け、後悔先に立たずというだろう。

 理由はどうあれ、こういう状況になった以上は、もう引き返す事など許されない。

 自分で蒔いた種は自分で刈り取る─────その義務が俺にはある。

 

 せめて、その義務が果たされるまでは─────

 

「果たして─────後は?」

 

 俺が招いたこの状況を乗り切ったとして、ならばその後、俺はどうすればいい?

 第一、俺が義務を果たし終えられるのは一体、いつになる?

 

 無印が終わった時か?運命が終わった時か?自由が終わった時か?

 時が経てば、C.E.の世界にはどんどん新たな問題が舞い込んでくる。きっと、その度にユウ・ラ・フラガという異物は、悪い方へと作用していくのだろう。

 これまでのように─────。

 

「死ぬまで戦えってか。それとも、戦って苦しんで、その果てに死ねって事か」

 

 存在し得ない異物として、世界を荒らした罪を贖うまで戦い、苦しみ、その果てに死ぬ─────もしかしたら、それが俺に課せられた贖罪なのかもしれない。

 

 ─────それはそれで、分かりやすくて良いかもしれないな。難しい事はない、ただ戦い続ければ良いだけなのだから。

 問題はいつまで戦い続ければ、いつ死ねるのかという所だけど…まあそこは考えない様にすればいいか。

 

「…本当、何でこんな事になったんだろ」

 

 誰か教えて欲しい。どうしてこんな事になってしまったのか─────いや、答えは火を見るよりも明らかで、誰かに問う必要もなく、俺にも分かっている筈なのに。

 

 ()()()()()()()()が居るから─────これに尽きるのだと。

 

 初めから要らなかった。関わるべきではなかった。

 それでも関わった以上、目の前の問題から背を向ける事はもう出来ない。

 

 ならば、前に進むしかないだろう。

 

 俺の命が尽き果てるその時まで─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作と違ってキラがある程度戦いを容認している事、それだけならまだしも、その理由が自分だという事。更にその上で、キラが両親と会いたがらない所まで追い込まれていたという連続攻撃でユウ君のメンタルが崖っぷちにまで追い込まれました。

キラちゃん大好きが故のメンタルクリティカルダメージ…。さて、ユウ君のメンタルケアは何時になる事やら…。
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