フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE57 想いと憎悪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プラズマタンブラー損傷!レビテーター、ダウン!」

 

「揚力維持できません!」

 

 バスターの砲撃によるダメージ、そしてイージスのスキュラによるダメージ。

 アークエンジェルの被害は深刻だった。左舷から煙を吹きながら、船体は大きく傾き、急速に高度を墜としていく。

 

「姿勢制御を優先して!」

 

「緊急パワー、補助レビテーター接続に!」

 

 アラートが鳴り響く艦橋の中で、クルー達もまた必死に戦いを続けていた。

 

 マリューとナタルの命令の声も、微かに上擦っていた。

 

 あちこちのコンソールでは不調を表すランプが明滅を続ける。

 そんな絶望的な状況下で、ノイマンは必死にアークエンジェルのエンジンを宥めすかすようにして傷ついた艦を操っていた。

 

 外ではまだ戦闘は続いている。

 アークエンジェルのすぐ傍ではムウとフレイのスカイグラスパー二機がバスターとデュエルを押さえ、キラのストライクはハイペリオンと激しく交錯を繰り返している。

 

 そんな中、マリューが最も気掛かりだったのはスピリットだ。

 ムウからパイロットであるユウが本調子ではない事は聞いており、且つ今現在、アークエンジェル周囲に機体の姿が確認できない。

 イージスとゲイツ─────スピリットと同じくこの場に姿が見えない二機と交戦しているのは間違いないだろうが、一体どこに─────。

 

「姿勢制御不能!」

 

 ここまで必死の操縦を続けていたノイマンから、絶望的な叫びが発せられた。

 

「着底する!総員衝撃に備えよ!」

 

 ここまで来たというのに─────マリューは歯噛みしながらも、判断は素早く、クルー達に命令を下す。

 

「二時方向よりバスター!」

 

 前方より近付いてくる島へ不時着すべく、高度を落としながらも前進していくアークエンジェルの顔先に、立ちふさがるようにしてバスターが回り込んでくる。

 

「ゴットフリート、バリアント照準!」

 

 鳴り響くアラートと振動音に負けじと声を張り上げるナタル。

 

 そうする内にも目の前に島は迫る。

 巨大な戦艦は、島の白い砂浜に傾きながら突っ込んでいった。

 

 凄まじい衝撃がクルー達を遅い、一段高いシートに座するカズイとパルは、振り落とされない様に必死にシートにしがみつく。

 浜を抉り、木々を薙ぎ倒し、アークエンジェルは島に乗り上げる様な格好でようやく停止した。

 

 停止して尚、未だ揺れが収まらない艦の中で一息を吐く暇もない。

 前方より、両脇に砲門を構えながら迫るバスターの姿をマリューは視認した。

 

 最早避ける事は叶わない。主砲の照準も間に合わない。

 回避も反撃も許されないこの状況下で、アークエンジェルは彼にとって格好の獲物だ。

 

「やらせるかァァァアアアアッ!」

 

 誰もが万事休すかと思ったその瞬間、雄叫びの様な声と共にムウの一号機が突っ込んだ。

 

 バスターの後方より一号機のアグニが火を噴き、放たれたビームがグゥルを貫く。

 

 咄嗟にバスターは飛び上がり、グゥルの爆発を避けると、二丁の砲を繋いで対装甲散弾砲を放つ。

 それと同時に一号機のアグニが再び発射される。

 

 そのまま二機は交錯し、次の瞬間、バスターはビームに右腕を吹き飛ばされ、一号機も左翼に散弾を喰らって火を噴き出した。

 

 ムウの一号機は煙の尾を引きながらも大破する事はなく、波打ち際に着水した。

 

 一方のバスターは右腕をやられた衝撃で地面に叩きつけられるも、すぐに起き上がり反撃の意を見せる。

 

「少佐っ、無事ですか!?」

 

 まだ─────と、マリューとムウの中で焦燥が生まれた瞬間、若いフレイの声が割り込んだ。

 フレイの二号機が後方にデュエルを引き連れながらも、アークエンジェルの危機を察して舞い戻ったのだ。

 

 背後からのビームライフルによる狙撃を躱しながら、ビームを放ってバスターの攻撃を妨害する。

 

 バスターは跳び退いて回避─────その後、上空で交錯するスカイグラスパーとデュエルを少しの間見上げてから、その場から離れていった。

 片腕を墜とされた事で撤退を選んだのだろう。フレイは意識をデュエルへと集中させる。

 

 バスターが撤退した事で、残る敵機は四機。その内三機はスピリット、ストライクに押さえられている。

 こちらも一機が行動不能となり、残るは三機。機動兵器の数ではまだ上回られているが、フレイ側には強力な戦艦が生きている。

 

「ゴットフリート照準!」

 

 深刻なダメージを受けながらも、アークエンジェルは未だ戦闘能力を維持していた。

 満身創痍であり、主砲のエネルギー臨界までには、しばし間がある。デュエルも巨艦から狙いを定められている事を察し、回避行動へ移行しようとした。

 

「させないわよっ」

 

 それをフレイの二号機が妨害する。

 機体下部の砲塔を引き出すと、トップスピードを保ったままデュエルへと突っ込んでいく。

 そして、引き出された砲塔でデュエルを殴り飛ばしたのだ。

 

 ぶつかった事で砲塔は半ばから折れ、折れた砲塔の一部がデュエルの傍らで爆発を起こす。

 マードックがこの光景を目撃していれば、戦闘中にも関わらず怒り心頭で怒鳴り散らしていた事だろうが─────デュエルの動きを止めるにはこの手段が功を奏した。

 

「てぇっ!」

 

 ナタルの号令と共に、臨界を果たした主砲が放たれる。

 

 爆発の衝撃で崩れた体勢を整い切れないデュエルは、辛うじてグゥルから飛び降りる事で直撃は回避できた。

 しかし、ゴットフリートはデュエルが乗っていたグゥルを貫き、更にその爆発の余波を受けながら、デュエルは強く海面へと叩きつけられそのまま沈んでいった。

 

「はぁっ…はぁっ…!」

 

 空中を旋回しながら、デュエルが沈んでいった海面を睨みつけるフレイ。

 やがて、デュエルが浮上してくる気配がない事を確認してから、フレイはようやく大きく息を吐いた。

 

 ─────何度、死んだと思った事か。

 

 前回はストライクとの連携で敵モビルスーツを追い込んでいったが、今回は殆どタイマンに等しい状態だった。

 更に、前回はどこかこちらを見下しているかの様な、そんな緩んだ雰囲気に包まれていた敵機が、今回は死に物狂いでこちらを落としに掛かって来ていた。

 

 それでも勝敗を分けたのは、果たして何だったのか─────フレイには分からない。次に同じ相手と戦って、同じ結果を手繰り寄せる事が出来るのか、自信もない。

 だが一つ確かなのは、今この場で勝利したのはフレイ達であり、生き延びているのもフレイ達であるという事。

 

「─────ユウとキラはっ!?」

 

 ここら一帯での戦闘は一先ずの幕を下ろしたが、まだスピリットとストライクが敵機と交戦中だ。

 その事を思い出したフレイは、疲労困憊の身体に鞭を打ち、二人の援護に向かうべく操縦桿を力強く握り直す。

 

「おい嬢ちゃんっ!機体も損傷してるんだ!一旦戻れっ!」

 

「少佐…っ、でもっ!」

 

 大口径の砲塔を失いはしたが、フレイの二号機はムウの一号機とは違い、一応まだ戦闘は可能といえる状態ではあった。

 

「ダメだっ!万全じゃない状態でユウとキラの援護に行っても、足手纏いになるだけだっ!」

 

「っ─────」

 

 ムウの言葉を振り切ろうとするフレイの耳に、更に続けざまに呼び掛けが刺さる。

 

 ムウの言う通りだった。ユウもキラも強い。フレイとムウよりも圧倒的に─────例え自分が乗る機体が万全な状態であったとしても、果たして本当の意味で二人の力になれるかどうかも怪しい程に。

 

「少佐…」

 

「…今は戻るぞ。俺達の役目はここまでだ。後は、二人が無事に戻って来れるのを祈ろう」

 

「…分かりました。待っていてください、回収班と一緒にすぐに戻ってきます」

 

 フレイの声にもムウの声にも力はなかった。

 

 デュエルとバスターという強敵を退けたにも関わらず、そこで限界を迎えてしまった自分達の力の無さに、ただただ無力感を覚えるのみだった。

 

 フレイは機体をアークエンジェルへと向けて、一度帰投する。

 

 ─────ユウ、キラ…!

 

 戦闘開始時は日の出が見えた空は、今は厚い雲に覆われている。

 次第に降り始めた雨が、得体の知れない不安をフレイの心を包み始めていた。

 

 ─────お願い、無事でいて…!

 

 しかし、ムウが言う通り、今のフレイに出来るのはただ、二人が無事に戻って来る事を祈るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一閃─────二閃─────すれ違いながら斬撃をぶつけ合う二機は、戦いの場を空中から地上へと移していた。

 アークエンジェルが群島の一つに不時着した事で、支援に向かうべきかと判断したキラを追って、カナードのハイペリオンはグゥルから飛び降り陸地へ着地する。

 

 支援へ向かおうとしたキラは、ハイペリオンを引き連れたままでは危険と判断し直し迎え撃つ。

 

 結果、始まったのは熾烈なぶつかり合い。

 斬撃をぶつけ合い、距離を離して射撃、砲撃を撃ち合い躱し合う。

 激しく戦闘を続ける二人だが、未だに受けた被弾はゼロという、人並外れたMS戦を繰り広げていた。

 

「はぁぁぁあっ!」

 

「ウォォォオッ!」

 

 ストライクのビームサーベルの打ち込みを、ハイペリオンは左腕にアルミューレ・リュミエールを部分展開して受け止める。

 そのまま左腕を払って斬撃を受け流すと、右手でビームナイフを取り出しストライクのメインカメラ目掛けて突き出す。

 

 しかしハイペリオンの打ち込みもまた、ストライクのシールドによって受け止められてしまう。

 

 数秒、互いの得物を押し込み合ってから同時に離れる。

 直後、ハイペリオンは両肩のフォルファントリーを起動して三連射─────ストライクはハイペリオンから距離を取りながら姿勢を傾けつつ、砲撃の三連射を回避しながら右手のビームサーベルをマウントしてビームライフルへと持ち替える。

 ハイペリオンの砲撃を躱し切ってから持ち替えたライフルの銃口を向け、引き金を引く。

 

「くっ…!俺は─────」

 

 カナードは先程のキラと同じように、機体の姿勢を傾けてストライクの射撃を回避する。

 

 ハイペリオンにはアルミューレ・リュミエールという絶対的な防御機能が存在するが、バッテリーの消費が絶大な事を考慮すれば多発は出来ない。

 故に、可能な限りアルミューレ・リュミエールでの防御という手段はとらず、回避を選び続けていた。

 

「貴様を、殺す為に─────」

 

 左手でスティグマトを取り出し、ビーム弾を撃ち出す。

 

 ストライクは一歩、二歩と足を踏み出してから地面を蹴り、スラスターで空中を加速する。

 

「貴様の、上に立つ為に─────」

 

 ハイペリオンもまた、地面を蹴って空中へと躍り出る。

 

 フォルファントリーで空中のストライクを狙うも、ストライクは巧みな姿勢制御で砲撃の合間を縫って回避─────しかしその程度、カナードも織り込み済みだ。

 キラの急速な成長は、前回、そして前々回の戦闘で身に染みている。明確に過去の自分が()と認めた相手だ。この程度やって貰わなければ、むしろ失望するというもの。

 

「生きてきたんだァァァアアアアッ!!!」

 

 そう、簡単に殺してしまってはつまらない。でなければ、何の為に自分は血の滲む思いで力を求め続けたか─────自分よりも圧倒的に劣る愚か者の下で働くという、反吐が出る思いを我慢し続けたか分からない。

 

 ようやく見つけた本懐、掴んだ機会。

 

 逃してなるものか─────負けてなるものか!

 

 そう、カナード・パルスはキラ・ヤマトを殺し、上回る。

 だから─────こんなものは()()()()だ。脳裏に過る奴の()等。

 こんな血生臭い世界からは程遠い、優しく、気高さに満ちたあんな()等─────キラ・ヤマトを殺しさえすれば。

 

「消えろッ!消えろッ!消えろォォォォオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 ハイペリオンの砲撃を回避する為に、加速を止めたストライクへとビームナイフで打ちかかる。

 しかし、フォルファントリーを回避する間もキラはハイペリオンの動きから注意を逸らす事なく、その打ち込みに対してシールドを翳す。

 

 空中でぶつかり合う二機─────眼前のハイペリオンから、キラはカナードの絶大な決意と憎悪を感じ取っていた。

 

「何で─────貴方はっ」

 

 何故、どんな理由で、この相手が自分にここまで執着しているのか分からない。

 しかし、純粋に伝わって来る─────負けられないという気迫。それがどれだけ憎悪に汚れていたとしても、その思いだけは純粋にキラの中へと伝わって来ていた。

 

 強い─────操縦技術、戦闘技術がという問題ではない。

 思いという強さは、キラが対峙してきたどの相手をもハイペリオンは凌駕していた。

 

「負けられない理由なら、私にもある!」

 

 しかし、負けられないのはキラも同じだ。

 ハイペリオンを駆るカナードに勝るとも劣らない、強い想いを以てストライクを操る。

 ストライクもキラの想いに応えてハイペリオンとの対峙を続けた。

 

 ストライクがビームサーベルを振り下ろす─────ハイペリオンがアルミューレ・リュミエールを部分展開して受け止める。

 ハイペリオンがビームナイフで反撃を試みる─────ストライクが身を翻して打ち込みを躱す。

 直後、ストライクとハイペリオンは距離を取り合い、互いの位置を入れ替えながらビームライフルとフォルファントリーを撃ち合う。

 しかし、互いの射撃、砲撃は相手を捉える事なく、周囲の木々を焼き払うのみに終わる。

 

「でぇぇぇえええいっ!」

 

「ハァァァアアアアッ!」

 

 二機によって幾度となく繰り返される交錯、衝突は更に激しさを増していき、終わる気配が全く見えない─────かに思えたが、激しい戦闘は確実に、それぞれの愛機を蝕んでいた。

 

 被弾はない。激しく繰り返されるぶつかり合いによって、それぞれの装甲に汚れが目立ち始めるも、ダメージは殆どない。

 しかし、ストライクとハイペリオンのバッテリーは静かに、しかし確実に、タイムリミットへのカウントダウンを刻んでいた。

 

「このままじゃ─────っ!」

 

「いい加減、消え失せろっ!」

 

 キラもカナードもその事には気付いていた。

 互いに残された時間は少ない。だが決定打がない。

 

 それぞれが互いの攻撃に反応し、完璧に凌ぎ合う。

 このまま戦闘を続けても、その果てに待つのは相打ちのみ。

 

「っ─────!」

 

 見え始めた結末を前にして、先に動きを見せたのはキラだった。

 

 キラは左手のシールドを投げ捨て、腰の収納部からアーマーシュナイダーを取り出すと、ハイペリオン目掛けて投擲する。

 

「っ、無駄だ!」

 

 ここでアーマーシュナイダーを取り出す事自体は想定外だったが、カナードの目の前でそれを行われては奇襲にはなり得ない。

 カナードはあっさりと投擲された短剣を打ち払ってしまう。

 

「どういうつもりだ…!」

 

 しかし次の瞬間、眼前に広がる光景にカナードは思わず目を瞠る。

 ストライクが、先程投げ捨てたシールドを拾う素振りもなく、ビームサーベルを片手に突っ込んでくるのだ。

 

「自棄になったか…!?」

 

 バッテリーが残り少なくなって焦ったか─────万全の体勢で、如何様にも対処が出来る現状でただ真っ直ぐ距離を詰めるなど愚策に過ぎない。

 

 カナードはフォルファントリーを臨界させ、突っ込んでくるストライクへ向けて容赦なく引き金を引く。

 

「っ!」

 

 ストライクは尚、ハイペリオンへ突進する。

 

 キラは放たれたビームから目を逸らさない。

 

 そして、ビームがストライクを貫くその直前─────キラはビームライフルを取り出し、向かってくる光条へ向けて放り投げた。

 

 ビームがライフルに命中し、爆発を起こす。

 カナードからの視点では、自身が放ったビームがストライクに命中した様にしか見えなかった。

 

 だが─────

 

「はぁぁぁああああああっ!!!」

 

「なん、だと…っ!!?くっ!」

 

 爆炎を切り裂き、所々装甲を焦がしたストライクがカナードの眼前に現れる。

 

 ストライクはビームサーベルの切っ先を向け、ハイペリオンへと突きつける。

 

 両腕を割り込ませる時間はない。部分展開では間に合わない。

 故に、カナードは全周囲にアルミューレ・リュミエールを即時展開させた。

 

「くぅ…っ!」

 

「効かん…、効かん効かん効かん!無駄だ!この俺、カナード・パルスとハイペリオンは無敵だぁっ!」

 

 ビームサーベルの突き出しは光波シールドによって阻まれる。

 アルミューレ・リュミエールは絶対無敵の防御─────これがある限り、何者にも自身を傷つける事など出来やしない。

 

「まだ、まだぁっ!」

 

「なにっ!?」

 

 キラは機体のエネルギーをビームサーベルに集中させる。

 ストライクのビームサーベルの出力が増大し、ほんの少しではあるが、ハイペリオンを守る光波シールドに突き刺さり始める。

 

「馬鹿な…くそっ!」

 

 咄嗟にフォルファントリーを起動させ、ストライクへ向ける─────だが。

 

「エネルギー切れだとぉっ!?」

 

 フォルファントリーに内蔵されたバッテリーが、エネルギー切れを起こしていた。

 カナード自身、気付けなかった予兆─────少しずつではあったが、フォルファントリーから放たれる砲撃に威力が弱まっていた。

 それをキラは感じ取り、そしてエネルギー切れが近い事を悟りこの賭けへ身を投じたのだった。

 

「あり得ん…!あり得て堪るかぁっ!こんな─────こんな事がぁっ!」

 

「アアアアアアアアァァァァァァッ!!!」

 

「キラ…っ、ヤマト─────」

 

 遂にストライクのビームサーベルが絶対無敵と思われた防御装置、アルミューレ・リュミエールを貫く。

 直後、限界を超えたぶつかり合いが二機の間で巨大な爆発を起こす─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その果てに、立っていたのはストライクだった。

 

 ハイペリオンは爆発によって四肢を失い、コックピット部こそ無事ではあるものの装甲は色を失い、地面に横たわったまま動かない。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 エネルギーが切れ、同じくPSを失ったストライクもビームサーベルを握っていた右腕を失っていた。

 

 激しい戦闘の末に乱れた呼吸を必死に整えながら、キラはハイペリオンから視線を切って上空を見上げる。

 

「アークエンジェル…!ユウは!」

 

 大きなダメージを受けつつも、幸運にも動力部には問題なかったらしい。ストライクは異常なく足を動かしその場から離れていく。

 

 まだ戦いは終わっていない─────アークエンジェルは、ユウは。

 

 仲間を、大切な人を守りたい。その思いに突き動かされながら、キラは未だ尚、機体を駆り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負け、た…」

 

 その後ろ姿を眺めながら、ハイペリオンのコックピットの中で呆然と呟いたカナード。

 

 全力を出し切った。自身のこれまでの人生全てを賭けて臨んだ戦いだった。

 

 その末に、カナード・パルス(失敗作)キラ・ヤマト(成功作)に敗北した。

 

「待て…」

 

 ストライクが去っていく

 

「待ってくれ…」

 

 キラ・ヤマト(勝者)カナード・パルス(敗者)を置いて去っていく。

 

「俺は…」

 

 カナードの胸に虚しさが満ちていく。

 

 負けた。敗北した。自身の全てを今この瞬間、よりにもよって憎きキラ・ヤマトに否定された。

 

 だというのに、怒りが微塵も湧いてこない。

 

「俺、を…」

 

 悲しい訳じゃない。苦しい訳でもない。泣きたい訳でもなければ、叫びたい訳でもない。

 

 だが、カナードは今、自身の中にあるとある衝動を、届きもしない相手へ向けて口にするしかなかった。

 

「殺してくれ─────」

 

 激しい戦闘の末に身体はとっくに限界を迎えていた。

 

 カナードの意識は遂に、深い闇の中へと沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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