SEED FREEDOM特別版第一弾、見てきました。
上映開始からそこそこ時間経ってるし、多くの皆さんがすでに見ているとは思いますが、念のためにネタバレ回避しつつ一言だけ感想を言いたいと思います。
それでは本編をどうぞ。
アラスカ統合最高司令部─────通称JOSH-A。
施設の大部分は地下にあり、内部には広大な地下都市が建設されている。
一方の地上部は、対空砲や対空ミサイルで武装されており、単体でも強固な防衛力を持っている。核兵器の直撃にも耐え得る、とさえ言われている、強固に建設された基地だ。
ヘリオポリスから出航を余儀なくされたアークエンジェルがずっと目的地とした場所であり、マリュー達がようやく辿り着いた安寧の地。
少なくとも、アラスカへ着いたこの瞬間、そうである事を誰もが疑っていない。
アラスカに辿り着いた事で、これまで続けていた戦闘配備をマリューが解き、ようやく本当の意味で彼らは続きに続いた激戦から解放される。
マリューも緊張を解き、大きく安堵の息を吐いた、その時だった。彼女の手元に格納庫に居るマードックから通信が入った。
「なに?」
今頃になって整備班から何の用があるのか、不思議に思いつつ通信を繋げたマリューに、マードックが苦い表情で言った。
『艦長から止めてくださいよぉ!フラガ少佐、とにかく機体を修理しろって…』
「えぇ?」
友軍の制空圏に入った今、もうしばらくは出撃はない。
それなのに何故、スカイグラスパーの修理を急がせているというのか─────。
「─────」
そこまで考えが及んだ時、マリューは表情を固まらせながら息を呑んだ。
何故、ムウが機体の修理を急がせているのか─────決まっている。スカイグラスパーで出撃する為だ。
そして、彼が出撃をしようとしているその理由は─────。
『増槽つけて、坊主の捜索に戻るって、聞かねえんっすよ…』
艦橋に居る誰もが言葉を失い、そして顔を俯けた。
誰もが何も言えずにいる中、マリューは表情を引き締め、モニターに映るマードックを見上げながら口を開いた。
「分かりました。すぐに私が話に向かいます」
マリューはマードックとの通信を閉じた後、その場をナタルに任せてから艦橋を飛び出す。
マリューが格納庫へ駆け込んだ時、ムウは修理箇所に取り付いていた。
周りの整備士達を促しながら、必死に機体の修理を続けていた。
「少佐!発進は許可いたしません!」
駆け寄りながらマリューが告げるも、ムウは彼女へ振り向きもしなかった。
「整備班を、もう休ませてください!」
重ねて命じると、ムウは手を止めないまま、しかしむっつりとしながら口を開いた。
「オーブからはまだ何も言ってきてないんだろ?」
「えぇ…でもっ」
オーブに救助依頼を出してから、まだ返答はない。それはつまり、ユウの生死がまだ確認されていない─────ユウがまだ生きている可能性が残っているという事だ。
だからムウはユウの消息を掴みに、自ら戦闘区域へ戻ろうとしている。
兄として…弟の身を案じて、一人でもユウの捜索に向かおうとしていた。
「艦はもう大丈夫なんだ。なら、俺一人くらい抜けても構わねぇだろ」
「いえ、認めません!」
意固地な調子で言ったムウへ、マリューも頑固に言い張った。
直後、ここで初めてムウが振り返る。
その顔には、自身の行く手を邪魔するマリューへの確かな怒りがありありと浮かんでいた。
「弟なんだよ!あいつはッ、俺のッ、たった一人残された家族なんだッ!」
格納庫に響き渡るムウの怒声。
二人のやり取りを不躾に見るべきではないと、自分を律していた整備班達も、その声に思わず彼らの方へ振り向いてしまう。
「何で俺は、あいつに何もしてやれないっ!?あいつの強さに甘えて、守られてばかりで…こんな時でさえアンタに邪魔されて、ユウを探しにも行けやしないのかっ!?」
ムウの慟哭は更に響き渡り、そしてマリューの心にも深く突き刺さった。
何故なら─────ユウをモビルスーツに乗せようと提案し、彼を戦いの場に巻き込んだのは他でもない、彼女自身なのだから。
「…分かります。私も貴方と同じ気持ちですから」
「同じ気持ちだと?ふざけるなっ!分かったような口を─────」
「私がっ!ユウ君を戦いに巻き込んだから!私が彼を殺したも同然なんです!」
マリューの言葉を受け、激昂しようとしたムウは彼女の剣幕を前にして、目を見開きながら続く筈だった言葉を飲み込んだ。
「私だって、出来る事なら今すぐに飛んでいきたいわ!でも、それは出来ないんですっ!」
「艦長…」
「…ユウ君をモビルスーツに乗って貰うと最初に口にしたのは私です。彼を死に追いやったのは、他でもない私です」
その言葉は、まるでマリューが自身に罪を刻みつけているかのような、ムウにはそんな風に聞こえていた。
「だから、貴方がここを飛び出して探しに行きたい気持ちは分かります。ですが…、それは許可できません。少佐がそれで納得が出来ないのなら…、どうぞ、私にその怒りをぶつけて、好きにしてください」
「っ─────」
覚悟を決めてそう告げるマリューに対し、遂にムウはずっと心の中で燻っていた激情が失われていくのを感じた。
代わりに生まれるのは、疑問。
どうして─────
「どうして…、俺を止める為にそこまでする?」
「少佐…」
「俺が行ったって、アンタには関係のない事だろ。なのに─────」
「関係あります!」
ムウは今、初めて彼女が涙を流している事に気が付いた。
マリューは一歩、ムウへと更に詰め寄りながら、流れる涙を拭おうともしないまま続ける。
「今の状況で、少佐を一人で出すような事…出来る筈がありません!それで貴方まで失ったら、私はどうしたら…っ!」
そこまで言って、マリューはハッと我に返る。
目の前では、虚を衝かれた表情で彼女を見下ろすムウの顔。
先程ムウへと詰め寄ったマリューだが、その行動は完全に無意識だった。
ムウとの距離が近付いていた事にふと気付いたマリューは、熱くなった頬を隠すように俯きながら一歩後ろへ下がる。
「今はオーブと…ユウ君を信じて…留まってください…」
信じたくない─────それでも、兵士としてのマリューの理性が、もう何もかも手遅れだと彼女の心へ語り掛けていた。
それはきっと、ムウも同じなのだ。しかし、それを信じたくなくて、どうしようもなくて、それで衝動的にユウを探そうと飛び出していこうとした。
きっと無駄なのだろうと、理性では分かっていても─────
「何で俺じゃなかったんだろうな…」
「少佐…」
「何で…俺じゃなくて、あいつだったんだ…?弟を守る事も出来ない、馬鹿な兄じゃなくて…なんで…」
目の前から聞こえて来た震える声に、顔を上げる。
すでに頬の熱は冷め、そしてマリューを見下ろすムウの目から、涙が溢れているのを見る。
「兄としてあいつに何もしてやれない…。あいつを探しにも行ってやれない…。だけどさぁ…」
涙を流しながら、ムウはぐしゃぐしゃな顔で、しかしそれでも口元に笑みの形を浮かべようとしていた。
「ここでアンタを振り切ってあいつの所に行ったら…、きっと、怒られるんだろうなぁ…」
「っ…!」
ムウはもう、マリューを含めた何もかもを振り切ろうとはしなかった。
代わりにムウの身体は小さく哀しみに震えていて─────思わずマリューは、震える彼の身体を抱き締めていた。
「ごめんなさい…っ!ごめんなさい…っ!」
「…っぁぁぁあああああああああっ!!!」
自分が彼に触れる資格などない事は分かっている。
しかし、自分の所為で哀しみに震えるムウに出来る事は、哀しみと一緒に彼を抱き締める事しか出来なかったから。
マリューに抱きしめられたムウが、次第に出来損ないの笑顔を保つ事も出来なくなっていき、やがて細いマリューの腰にしがみつきながら泣き喚く。
肩口に顔を埋めながら慟哭するムウの背中に回した両腕に更に力を込めて、自分の肢体を押し付ける。
ユウが死んだのも、ムウが悲しんでいるのも、責任は自分にある。
ならばせめて…、ムウの哀しみの捌け口になる事で、彼への贖罪としよう。
泣き続けるムウを抱き締めながら、マリューもまた、再びほんの一筋の涙を流した。
二人はやり場のない感情を、互いを抱き締めながら吐き出そうとする。
その姿はもう少しの間、続くのだった。
「アーガイル二等兵」
ユウがMIA─────その事実を受け止めきれないまま、しかしそれでも、自分よりもっと落ち込んでいるであろうフレイと並んで歩いていたサイの背後から、ナタルに呼び止められた。
「はい?」
サイが振り向き、少し遅れてゆっくりとフレイも振り返る。
後ろからナタルが箱を手に持ってやってきて、それをサイに手渡す。
これは一体何なのだろう?ナタルに聞こうとして、その前に彼女から命令が発せられる。
「フラガ少尉の遺品を整理しろ」
「遺品!?」
ぞっとしながら、サイはナタルを抗議の目で見つめる。
「そんな…だってまだ…!」
ユウはその死亡が確認された訳ではない。それに、あれからまだ一日も過ぎてないというのに。
「艦長がMIAと認定したんだ。これが決まりだ」
サイは言葉を呑んだ。
軍としての決まり─────そう言われてしまえば、彼は何も言い返す事が出来ない。
だけど…そんなの…、行き場のない感情がサイの中で渦巻いた。
「よすがを見つめて悲しんでいては、次には自分がやられる…。戦場とは、そういう所だ」
声の調子を落としながら、ナタルが続ける。
彼女の顔は俯いており、軍帽に隠れて表情が見えない。
それっきり、ナタルはその場から立ち去っていった。
サイは呆然と、ナタルから手渡された箱を眺める。
「…こんな」
「フレイ…?」
「こんな小さな箱にユウの物を入れて…、忘れてしまえって…そういう事なの…?」
「っ…」
ユウはもう帰って来ない─────その現実を、サイもフレイも実感を以て受け止める事が出来ずにいた。
何か、悪い夢の中にいる様な気がする。
ごく普通の生活をしていた筈なのに、いつの間にか戦場にいて、ある日仲間の一人が戦死したと言われる。
目覚めたらこれは夢で、角を曲がって笑い合いながらユウが現れるような気さえするのに。
「サイ、フレイ…」
虚脱した足取りで、いつの間にか隣り合った自分達の部屋の前まで来た時、目の前から歩いてきたトールとミリアリアと出くわす。
自分達と並んで歩いていた二人は、サイとフレイを見つけると、ペースを速めて歩み寄って来た。
サイは咄嗟に、先程受け取った箱を背後に隠す。
「ユウから連絡は?」
そう尋ねて来たのはトールだった。
隠した箱は、どうやら見られていなかったらしい。
もしその事について問われていたらと思うと、ゾッとした。
「…いや」
しかしそれと同等に、トールから投げ掛けられた質問もサイにとって気を落とさせる。
ユウからの連絡も、捜索を行っている筈のオーブからも未だ連絡は来ない。
「…そっか」
サイの返答を受けて、トールとミリアリアが沈んだ表情で俯いてしまう。
いけない。
自分も同じように、ユウの件でショックを受けているというのに、目の前で友人が沈んでいるのを見て、サイは元来のお人好しの性格を働かせてしまう。
「大丈夫さ。艦長がオーブに捜索を頼んでるし、本部へ行けば、何かわかるかもしれないし…。それより、食堂にでも行こう。もういい時間だし、俺、お腹減っちゃってさ」
「…そうだな。そういや俺達、朝から何も食べてないんだよな。腹ごしらえしに行くか!」
あの戦闘が始まったのがつい朝方、それから緊張の連続を通して今まで、四人は何も食べていなかった。
無理やり明るい風を繕ってサイが言うと、トールもそれに乗っかって声に力を込めて口を開く。
二人の様子に釣られて、少しだけミリアリアの顔に笑顔が浮かんだ。それを見たトールは微笑み、そしてサイはフレイの方へ振り向いた。
「フレイも、一緒に行こう」
「…そうね。キラにもご飯を届けたいし、一緒するわ」
キラ─────その名前に、また表情が曇ろうとするのを押し殺し、必死に笑顔を保つサイ。
戦闘が終わり、フレイの説得を受けて帰投したストライク。
それからサイは─────この場に居る誰も、キラの姿を見た者は居ない。
ユウのMIAを受けて、兄であるムウを除けば、艦の中で最もショックを受けているのはキラで間違いないだろう。
今頃、キラがどこに居るのかは見当が着く。それでも、フレイ以外の誰も、今のキラに会いに行く勇気を持てなかった。
「…ごめん、フレイ。君だってショックだろうに…」
「どうしてサイが謝るのよ…」
「だって…。俺だってキラの友達なのに…、でもきっと、俺の言葉じゃキラには届かないだろうから…」
ヘリオポリスに居た時からそうだった。
同性同士だからとか、そういう問題じゃない。フレイとキラの間で、これ以上なく二人の波長は合っていた。
年下だというのにフレイはキラに対してお姉さんぶって、年上だというのにそんなフレイにキラは引っ張られて─────それが微笑ましく見えたし、そんな関係をフレイもキラも楽しんでいた。
ミリアリアでも、勿論サイでもトールでもダメなのだ。
きっとあの時、フレイ以外の誰かが行っても、きっとキラは戻って来なかった。
フレイでなければ─────
「おいっ!傷に銃口を突き付けるんじゃねぇ!痛みで歩きづらいんだよ!」
不意に行く手の方で騒ぎが起こり、サイ達は足を止める。
アンダーシャツに血を滲ませ、後ろ手に拘束された金髪の少年が、クルーに銃を突き付けられながら歩いてくるのが見えた。
前の方でその様子を見守っているクルーの中にノイマンの姿を見つけ、サイ達は早足で傍に寄る。
「あれは…?」
ノイマンがサイ達の方へと振り向き、小声で答えた。
「ザフトの新型─────解析班の話だと、ゲイツって名称らしいが…そいつのパイロットだ」
ザフトの新型、ゲイツ、その二つの単語で、サイ達の脳裏にジンと同系統のモノアイの機体の姿が浮かんだ。
先程の戦闘で、スピリットが相手をしていた二機の内の一機だ。
先の戦闘中、被弾を受け操縦不能になっていたゲイツのパイロットが投降してきた事はサイ達も知っていた。
何しろその投降を受けたのはキラであり、キラからの通信時にサイ達は艦橋に居たし、フレイも戦闘後に話は聞いていた。
「…若いな」
ノイマンが呟いた通り、色白の肌と金の髪をしたパイロットは自分達と同じ年代に見えた。
「…ふぅん。俺と同年代の奴もこの艦に乗ってたんだな」
ふと、若いザフト兵が立ち止まり、サイ達に興味深げな視線を送って来た。
サイとトールが一歩踏み出して、それぞれフレイとミリアリアの前に立ちはだかる。
「あの、人が…」
「フレイ?」
背後から小さく聞こえて来たフレイの声。
振り返った時には、若いザフト兵はすでに歩き出しており、フレイはサイではなく歩き出したザフト兵を視線で追っていた。
「─────」
ザフト兵を見つめるフレイの瞳を見て、サイは息を呑んだ。
「あいつが…ユウを…」
青ざめた顔で立ち尽くしながら、繰り返し呟くフレイ。
彼女は、若いザフト兵の後ろ姿を、灼けつくような苛烈な目で見つめていた。
「アークエンジェル、か…。よもや辿り着くとはな…」
管制の誘導を受けながら、満身創痍の白亜の巨艦がメインゲートを潜っていくのをモニターを通して眺めながら、将校の一人が呟いた。
僚艦の無事を認めるその口調には安堵ではなく、むしろ困惑が込められていた。
「ハルバートンの執念が守ってでもいるんでしょうかね?」
「守って来たのはコーディネイターの子供ですよ」
「そうハッキリと言うな、サザーランド大佐。それに、スピリットのパイロットはナチュラル─────それも、かのエンデュミオンの鷹の弟というではないか」
亡き智将の名を口に出した将校に対し、揶揄するような声が上がると、それを嗜める声もまた上がる。
モニター画面はすでに切り替わり、軍の公式書類が映し出されていた。
「スピリット─────まさかあの機体を、
「しかし、MIA…。惜しいな。生きていれば、利用価値があったというのに」
映し出された書類にはユウ・ラ・フラガの名があり、その上から大きくMIAというスタンプが捺されている。
「失われた命を惜しむのはやめましょう。それよりも、今はこれだ」
再び映像が切り替わり、再び軍の公式書類が映し出される。
今度はそこに、キラ・ヤマトと名が書かれていた。
「GATシリーズは今後の我らの旗頭─────それがコーディネイターの子供に操られていたのでは、話にならん」
サザーランドと呼ばれた将校の言葉に、他の者も頷いた。
「なら、
「いや、それは
「…まあどの道、このコーディネイターの子供には、アークエンジェルと運命を共にしてもらう。
少しの間、静寂が流れた後、将校の一人がハッ、と目を開きながら口を開いた。
「アズラエルは?」
「すでに
その場に居並ぶ将校達は、厳粛そうな表情で頷いた。
「異端者に与する邪魔者は、この地で藻屑となる」
「全ては、青き清浄なる世界の為に…」
おや?雲行きが…