「お前ら、これからどうするつもりだ?」
オーブの飛空艇内にあるとある一室で、カガリは並び置かれる二つのベッドにそれぞれ腰掛ける少年達へ向けて問い掛けた。
二人─────アスランとカナードは、きょとんとしながら呆然とカガリを眺めている。
何故、そんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をされてるのか、さっぱり分からないカガリはつい首を傾げる。
「なんだよ?」
「いや…、えっと…」
「質問が抽象的すぎて訳が分からん。人間にも理解できるように言え」
「なっ…!?」
視線を向けてくる二人へ向けて聞けば、アスランは何やら思案しながら言い淀み、直後カナードから容赦ない口撃がカガリへ突き立てられた。
その余りな言い方にカッ、となりながら目を見開くカガリ。
アスランが「おいっ」と咎めるも、カナードは素知らぬ顔で嘆息する。
「間違った事を言ったつもりはないぞ。どうせ貴様もこいつが何を聞きたいのか、分からなかっただろう?」
「それは─────そうだが…」
「くっ…!」
言い方はともかくとして、そう言われてカガリも自分の聞き方がまずかった事をようやく自覚する。
勢いよく火が付いた怒りを必死に沈めながら、気を取り直して改めて二人へ尋ねるべく口を開く。
「プラントに戻った後お前達はどうするつもりなんだ?軍に残って戦い続けるのか?」
カガリに尋ねられた二人は、何故そんな事を聞くのか分からない、といった表情になってから、やがて先に口を開いたのはカナードだった。
「知らん」
「え?」
単刀直入に一言─────カナードはそう告げた。
思わずカガリは目を丸くしながら呆けた声を漏らし、そしてアスランもまた目を見開きながらカナードの方へと振り向いた。
「元より俺は、こいつの様に何かを守る為とかいう立派な理由で戦ってきた訳じゃない。俺は、俺の目的の為に力をつけ、敵を殺してきた。…だが、俺は目的を果たす事が出来なかった」
自身の両掌を見つけながら、力のない声で言葉を吐き出すカナード。
カガリは当然として、アスランもまた、カナードのこんな姿を見るのは初めてだった。
何があったのかは分からない─────だが、ここまでカナードが精神的に弱っている事にアスランは驚きを隠せない。
「プラントに戻ってから、俺は何をすればいい…?何を糧に生きていけば良い…?俺は─────」
「それを探せば良いじゃないか」
「─────」
淡々と独白を続けるカナードに、淡白な言葉が投げ掛けられた。
俯いていたカナードは顔を上げ、彼に言葉を投げ掛けた人物─────カガリへと視線を向ける。
「お前の目的が何なのか知らないし、そんな簡単に諦められる目的なんて下らないって思うけど…」
カガリは一拍置いた後、続ける。
「生きていく糧なんて、そんなの分からないまま生きてる奴の方がよっぽど多いと思うぞ。それでも生きて、その糧っていうやつを探して─────見つかったらめっけもんくらいに思った方が、楽じゃないのか?」
カナードが呆然とカガリを見つめる。
そんなカナードを見ながら、カガリはふと思い、疑問をぶつけてみる。
「お前、家族は?家族じゃなくても大切に思う奴とか、そういうのを守る為に戦うっていうのも、充分生きる糧ってのになると思うぞ?」
「かぞく…、そんなもの、俺には─────」
カナードが何かを続けようと口を開きかけたその時、不意に動きが止まる。
どうしたのだろう、と思いつつ、カガリは次に続く筈のカナードの言葉へと耳を傾ける。
「─────妹みたいな奴が、いる。二人…」
「何だよ、妹
呆然と呟かれるカナードの言葉に、ついつい苦笑を浮かべるカガリ。
ただ、何故だろう…。
カナードの中に、大切に思える人がいるという事実にホッとしている自分が居る。
まだ出会ったばかりの、それこそ名前すら知り合ったばかりの相手だというのに─────カガリはカナードという少年へ、奇妙な親和感を覚えていた。
「なら、その妹みたいな二人とやらを守る為に戦うのもいいんじゃないか?その目的ってのに固執するんじゃなくてさ」
「…守る?俺が…?」
カガリの言葉を呆けた様子で反芻するカナード。
カナードがゆっくりと、再び顔を俯けていく。
自身の両手を見つめながら、やがてその手がゆっくりと握り締められる。
「…そんな必要があるのか、甚だ疑わしいがな。何しろ、一人は俺よりもよっぽど強い」
「は?カナードより強い妹って─────ゴリラか何かか…?」
「お前…」
いつの間にか、カナードの顔に小さな笑みが浮かんでいた。
その口から出て来た言葉にアスランが信じられないとばかりの驚きの表情を浮かべる。そしてカガリがたった今アスランが口に出した言葉に対し、信じられないとばかりの呆れ顔を浮かべた。
そんな二人を他所に、カナードが再び口を開く。
「選択肢の一つとして、貴様の言葉を覚えておいてやる」
それは、穏やかに、カナードを知る者ほど信じられない優しい響きで、カガリとアスランの耳朶を打った。
「そうか。…で?お前の答えをまだ聞いてないぞ」
何だかよく分からないが、迷いが吹っ切れたような表情をするカナードからアスランへと視線を移すカガリ。
「お前はプラントに戻ってからどうするんだ?」
「決まってるさ。プラントを守る為に戦い続けるよ」
アスランから返って来た答えは、カナードと打って変わってハッキリと、力強く告げられた。
「…キラとまた戦う事になってもか?」
「それでも、俺にはもうあいつとは別の大切な繋がりが出来たから」
「っ…、だから、また友達と殺し合うのか!?お前は本当にそれで─────」
いいのか、と問おうとしたカガリは、アスランの表情を目の当たりにして言葉を呑み込む。
「それでもだ」
全てを覚悟して、悟り切った顔で、決意を瞳に込めて、アスランは間髪置かずに宣言する。
「俺は、俺の甘さと身勝手で、掛け替えのない仲間を殺した。だから、俺はその死に報いる生き方をしなきゃならない」
「それは…、お前の意志なのか…?」
「そうだ。…プラントに仇なす奴を、俺は撃つ。それが、かつての友であっても─────」
カガリは咄嗟に直感する。
アスランを行かせてはならない、と。
本当に今のアスランには覚悟がある。
誰が相手であろうと、プラントを守る為に戦い抜くと。
相手が例え、かつての友─────キラであろうとも、躊躇いなく銃口と刃を向けると。
「お前─────」
アスランへ言い募ろうとしたその時、ノックの音がしてドアが開いた。
現れた長身の男、キサカが部屋の中へと入ってきて告げる。
「迎えが到着した」
ザフト兵をオーブへと連れては行けない。
その為、キサカはオーブから最も近いザフトの駐屯基地に向けて、二人を救助した事を報せていた。
それから数時間、ようやく二人の迎えがこの場へ到着したという事だった。
「ち、ちょっと待て!」
キサカに部屋から出るよう促され、アスランとカナードが立ち上がる。
促されるままに部屋を出て行こうとする二人へ向けて、カガリが駆け寄る。
「どうした?」
「…お前がどうしようもなく馬鹿で、とんでもなく不器用な奴だって事はよく分かった」
「おい」
「だから、私も決めたぞ」
このままではまた、友達同士で殺し合うという悲劇が起きてしまう。
キラがそんな悲劇に巻き込まれるなんて嫌だし、それにアスランという人物を知ってしまったカガリは同時に、彼に対してもまた、キラに対して向ける感情と同じものを抱きつつあった。
このどうしようもなく馬鹿で、とんでもなく不器用な男と、どうも不思議な親近感にも近い男と、二人を巻き込む戦争という憎しみと死の螺旋─────これ以上、こんなものを続けさせてはいけない。
これ以上、ユウみたいな人を増やしてはいけない。だから─────
「私は、この戦争を止めてみせる」
「…どうやって?」
「分からない。でも、絶対に─────キラとお前が殺し合うなんて事はさせない。…もう誰にも死んでほしくない。キラも、お前も」
アスランが目を瞠りながら、カガリの視線を見返す。
やがてアスランはゆっくりとその表情を笑みへと変えていき、そして言う。
「ありがとう」
先にアスランが部屋を出て行き、そしてカナードがカガリを一瞥してから続けて去って行く。
その後二人はボートに乗せられ、沖に停泊したザフトのヘリへと運ばれていった。
ヘリから手を伸ばす二人の赤服のザフト兵に、ヘリへと引き上げられるアスランとカナードを見送ってから、カガリは飛空艇の奥へと戻っていく。
戦争を止める─────カガリは戦争というものを碌に知らない。
それを知る為に、アークエンジェルに乗るのではなく、国に残って学ぶという選択をしたカガリだったが、残された時間は少ない事を改めて自覚する。
早く帰ろう。帰って、また学ばなければ。
アスランとカナードに対し、簡単に言ってのけた一言─────それに至るにはどれほど高く、分厚い壁を越えなければならないか。
カガリには足りないものが多すぎる。
それを彼女自身自覚しており、その上で一歩、また一歩と確実に前へと進んでいる。
しかし、世界は彼女が
憎しみは更に深く、更に広く、更に勢いを増していく。
果たしてカガリは間に合うのか─────答えが出るのは、時間がないと分かっている彼女が思っているよりもずっと早く、その時は訪れる。
そんな事、今のカガリには到底知る由もないのだった。
纏わりつく視線は決して好意的なものではなく、むしろ懐疑的で、居心地の良い空間とはお世辞にも言えなかった。
アラスカへと入港を果たしたマリュー達は、少しの休息を与えられた後、基地内のブリーフィングルームに集められた。
マリューとナタル、そして疲労の色が濃いムウ─────召集の命令を受けた際、ムウについては除外できないかとマリューが申し立てをしてはみたが、受け入れて貰えなかった。
「軍司令部のウィリアム・サザーランド大佐だ。諸君ら第八機動艦隊アークエンジェルの審議、指揮、一切を任されている」
隣のムウの横顔を見遣ったその時、マリュー達に向かって中央の席に座った将校が言った。
集められたマリュー達と、そして彼女らをここへ招集した高級将校達。
これから行われるのは、ヘリオポリスでの一件からこれまでの、アークエンジェルの戦績について鑑みた査問会だ。
「では、これより君達からこれまでの詳細な報告、及び証言を得ていきたいと思う。なお、この査問会は軍法会議に準ずるものであり、ここでの発言は全て公式なものとして記録される旨を申し渡しておく。各人、虚偽のない発言を」
議長役のサザーランドがマリュー達を見回してから、すぐに続けた。
「まずファイル一。ヘリオポリスへのザフト軍奇襲作戦時の状況を、マリュー・ラミアス当時大尉の報告から聞こう」
「はい」
マリューが立ち上がり、サザーランドから問われた内容について簡潔且つ詳細に告げていく。
ヘリオポリスの襲撃を受けた際、その場に居合わせたキラ・ヤマトを緊急避難的にストライクのコックピットへ同乗させた事。
そして、シェルターへと逃げ込もうとするも断念し、やむを得ずスピリットへと乗り込んだユウ・ラ・フラガの事。
今から思い返すと、遠い昔の出来事の様に思える。
「ふむ…。では君は、キラ・ヤマトがコーディネイターである事を知っていながら、ストライクへの搭乗の継続を許した、という事か?」
「はい。しかし、あの時は仕方なく…」
「仕方なく?我々が何を相手に戦争をしているのか、君は分かっているのかね?コーディネイターだ。もし彼女が、ストライクを手土産にザフトへ合流する─────そのような可能性もあったと思うが?」
「っ…」
サザーランドに言われるまでもなく、当時の自分の行動は迂闊なものだったという自覚はある。ナタルからも、コーディネイターの子供を、軍の機密に触れさせるなんて何を考えているのか、と言われた。
それでも、あの時はキラの力を借りるしかなかった。キラの力があったから、自分達は生きてここまで来られたのだと、それだけは胸を張って言える。
あの時の事情を、資料に書かれた簡潔な文章でしか知らないサザーランド達からすれば、マリューの選択はさぞ危険なものと見えただろう。
先程サザーランドが言った通り、キラの事を知らない者からすれば、彼女がストライクと共にザフトへ合流するという離反行為だって、決してあり得ない話とは笑い飛ばせないのだとも、マリューには重々承知だった。
しかし─────友達を、大切な人を守りたいという尊い想いを、何も知らない、知ろうともしない者達が有無を言わせずあっさりと切り捨てるその言動に、マリューは憤りを覚えてしまう。
「勘違いをしないでほしい。我々はキラ・ヤマトの戦果を認めている。特にハイペリオンを破壊した事については、高く評価をしている」
「ハイペリオン…?」
「
アルミューレ・リュミエール─────その名によって、マリュー達の脳裏に彼女達が知らないXナンバーと同タイプの機体の姿が過る。
あの機体の名前が、ハイペリオン─────
「GATシリーズを模してユーラシアが作った機体なのだがね。パイロットを機体共々脱走を許し、更にその先がザフトという醜態を晒してくれたお陰で、実に困っていたのだよ。…その困りの種を処理してくれたキラ・ヤマトには、我々も感謝をしている」
感謝─────よくも言ったものだ。
そんな聞き当たりの良い言葉を吐きながらも、サザーランドの顔には隠しきれない苦みが浮かんでいる。
他の将校達もそうだ。コーディネイターが戦果を挙げる─────それがさぞ気に入らないのだろう。
「だが、我々は全てを明確にし、一連の戦いの成果と責任をはっきりさせねばならない。…キラ・ヤマトは我々にとって大きな戦果を挙げると同時に、三二〇ミリ超高インパルス砲アグニでヘリオポリスの外壁を損傷させている。その威力を目の当たりにし、危機感を覚えたザフト軍の再攻撃により、ヘリオポリスは崩壊した」
「それは成果から見た推論に過ぎません!」
反論したのはナタルだったが、サザーランドはそれに対してただ一瞥をしただけだった。
「反論を認めよう。だが、君も指揮官として戦場へ出る者なら分かるだろう。敵新型兵器の威力を見せつけられれば、決してそれを見過ごす訳にはいかない」
「…しかし」
「バジルール中尉。キラ・ヤマトの力で守られてきた君の気持ちは分かる。だが、今は事実の確認を行っているのだ。私的な気持ちによる発言は止めたまえ」
「…っ」
ナタルが静かになったのを見届けてから、サザーランドは淡々と確認を続けていく。
「アークエンジェルはその後も、ユーラシア軍事基地アルテミスを壊滅させ、先遣隊を全滅させ、果ては第八艦隊をも失わせている」
「っ─────!」
「だがその一方で敵に奪われたX-303イージス、ザフトの新型機ZGMF-600ゲイツの撃破。目覚ましい戦果も挙げているが─────」
余りの言い振りにカッ、と激昂しかけたマリューが口を挟む間もなく、サザーランドは只管に言葉を続けていく。
「ユウ・ラ・フラガのMIA、スピリットの消失…。彼の損失は実に痛ましいな」
不意にサザーランドの口から出て来たその名前に、マリュー達は一様に目を見開いた。
「本来運用される予定ではなかったスピリットを操り戦った─────ユウ・ラ・フラガは我々の希望になり得る存在だった」
「しかもエンデュミオンの鷹の弟という経歴もまた、兵士達への聞こえがさぞ良かったろうに」
「─────」
マリューの視界の端で、カッ、とムウの瞳が燃え上がるのが見えた。
彼の腕が持ち上がり、そしてその足が踏み出される─────その前に、マリューはギリギリの所でムウの軍服をグイッ、と掴む。
ムウが驚いた様子で振り向く。マリューは無言で、ムウの目を真っ直ぐに見つめながら頭を振った。
唯一の家族が、良いようにプロパガンダとして利用されようとしていたのだ。怒りを燃え上がらせるムウの気持ちは、マリューにもよく分かった。
しかしその激情に任せて行動してしまえば、ムウに待つのは破滅だ。
それだけは─────決してマリューに看過できるものではなかった。
「…」
ムウの瞼が閉じられる。全身から発せられる怒気がゆっくりと収まっていく。
それを見たマリューが手を離してからも、ムウが動き出す様子はない。
目の前の将校達も、たった今まで起こっていた経緯に気付いた様子もない。
内心、マリューが安堵の息を吐いてからも、質疑応答は続いた。
査問が続く程、マリューの全身に虚しさが広がっていく。
何の実りもない、精神的にも肉体的にも疲労が溜まっていくばかりの時間はやがて、ようやく終わりを迎える。
「ではこれにて、当査問会は終了する。長時間の質疑応答、ご苦労だったな」
部屋にパッ、と明るくなる。
将校達は面倒な事務仕事を一つ片づけたという表情で、淡々と席を立っていく。
「アークエンジェルの次の任務は追って通達する」
サザーランドも資料を手に持ちながら立ち上がる。
ようやくこのただ苦痛なだけだった時間が終わった事に解放感を覚えながら、マリューは辛うじてサザーランドの言葉を聞き取っていた。
心底どうでもいい─────とにかく早くこの場から離れて、艦に戻って休みたい、その思いだけが先走りそうになる中で、サザーランドが発した次の言葉にマリューはハッと注意を引き戻された。
「アークエンジェルの全乗員は艦内での待機を命じる。貴艦を見学したいと仰られている方が居られてな。明朝、〇八:〇○に来られるがラミアス艦長、構わないな?」
「はっ!…それで、アークエンジェルを見学したいという方とは、一体?」
質問という形でありながら、決して拒否権などはないその命令に是の返答をする。
しかし、アークエンジェルを見学したいだなんて一体誰なのだろうか?まるで、以前のハルバートンの様な人だ、なんて考えながらサザーランドへ問い返すマリュー。
しかし次の瞬間、返って来た返答にマリューのみならず、ムウもナタルも高官を前にしているという事も忘れ、驚天動地の念に駆られてしまうのだった。
「
ムルタ・アズラエル─────国防産業理事を務めると同時に、反コーディネイターの政治団体ブルーコスモスの盟主でもある男の名だった。
カナードが揺らいでる一方、アスランが決意を固めました。
プラントを守る為に戦い抜くという、ニコルという第三者由来の理由ではありますが、アスラン自身が考え選んだ選択です。この瞬間、アスランの中では明確に仲間達>キラという構図が出来上がってしまいました。
完全にアークエンジェル合流ルートが消えましたね。これからどうするんだろう?
そして後半……………
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> 盟主王 襲来!! <
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