フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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前半と後半の温度差が凄まじいです。

──────────ついて来れるか


PHASE66 闇からの手招き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナタ方のお話を聞く前に、少し昔話をしましょうか。覚えていないでしょうが、まだ前当主が生きていて、フラガ家も健在だった頃にボクは貴方達兄弟と会っているんですよ」

 

 艦内にあるとある一室─────()()()()()()()()事で空き部屋となったその部屋で、キラ、ムウ、フレイ、そしてムルタの四人は集っていた。

 

 キラ、ムウ、フレイ達三人の作業に一段落が着いてから、マリューの承諾を得た四人は人の輪から離れ、()ユウの自室にて話をする事にした。

 

 四人が部屋に入ってから、ムルタは初め「何から話せば良いですかねェ…」と前置きをしてから、上の通りに切り出した。

 ムルタの視線はムウへと向けられており、ムウは彼の言う通り覚えていなかったのだろう。大きく目を見開き、驚きを露にしていた。

 

「当時のボクはまだ父から事業を継いでいない身で、今後の勉強になればという事で父と一緒にフラガ家へ来ていたのですが─────いやぁ、あの毒親からこんな良い子供達が生まれるものかと、父と一緒に驚かされましたよ」

 

 当時の事を思い出しているのか、懐かしそうにそう言うムルタを、ムウもまたかつての父を思い出しているのか、苦笑いを浮かべていた。

 

「アナタ達も何となく察しがついていると思いますが、ボクは()()()と面識があります。二年前、でしたかね…。偶然にも、ボクは彼と再会を果たしました」

 

 続けながらムルタは思い出す。自身の顔を見て、嫌なものを目の当たりにしたと言わんばかりに、苦虫を潰したような顔をしたユウの表情を─────。

 

「ボクの事は前々から知っていたんでしょう。彼は、ボクの顔を見た途端に逃げ出そうとしましてねェ…。まあ、あの時のボクは過激に大暴れしていましたから。触らぬ神に祟りなしとでも思われていたんでしょう」

 

 ユウと再会した二年前─────今でこそ穏健派へと鞍替えしたムルタだが、当時の彼はまだまだ過激も過激、コーディネイター排斥の活動へのこれ以上ない支援を続けていた頃だった。

 

「我ながら今でも不思議なのですが、彼の顔を見てすぐにフラガの嫡子だと思い出しましてね。…あんな顔をされた事に腹が立ったのもあって、すぐに彼を捕まえて、対談の時間を設けたのですよ」

 

 元々大きな力を持っていたフラガ家を、たった一代で世界有数の富豪へと押し上げた、かの()()()()()()()()が、長男であるムウを差し置いて後継者として選んだ男─────()()()()()()()()への興味。

 それと、ユウの自身に対する余りにも無礼な態度へのいら立ちも相まって、ムルタはこの後のスケジュールが押すのも構わずユウと話す時間を捻じ込んだ。

 

「いやはや…。世間知らずのガキにお灸を据えてやるつもりだったのですがね、なかなか有意義な時間でしたよ。─────それこそ、これまでのボクの価値観が変えられてしまう程には、ネ」

 

 アルが死に、以降フラガ家は表舞台から姿を消した─────栄華を誇ったフラガ家も、勢いを失ったままに没落していくのだろう、ムルタは思っていた。

 

 それは大間違いだった、とすぐに思い知らされる事となる。

 

「ユウ君は先代の伝手を辿って様々な家と繋がりを持っていました。それでも、先代が生きていた頃とは比べるべくもない程でしたが─────しかし、彼にとってはそれくらいで充分だったのでしょう。…軍の高官を脅して、鹵獲されたジンの情報を手に入れていたのには驚かされましたね」

 

「あいつ…、俺に黙って何をしてるんだ…」

 

 斜め上を見上げ、呆れた風に言うムルタ。それを聞いていたキラとフレイは呆然としており、ムウは頭を抱えていた。

 

 まだ出会って数か月程度しか経っていないキラとフレイはまだしも、ユウが生まれて十五年間、時間を共にしてきた筈のムウですら知らない事実が、ムルタの口から続々と明らかになる。

 特にムウに関しては、家族である筈の自分が隠し事をされていた事によって脳破壊を起こされていた。

 

「彼はナチュラルの身でありながら、コーディネイター以上の多才ぶりを見せてくれました。ケンブリッジの大学へ飛び級で首席合格。入学後には大学の教授と共に様々な研究成果を上げてみせ、突然退学したと思えば…。同じパイロットであるアナタ方が最も知っているでしょうが、新型モビルスーツに搭乗し、多大な戦果を挙げてみせた」

 

 ムルタの口調はどこか高揚している様に聞こえた。

 まるで、友の優秀ぶりをムウ達へ自慢しているかのようで─────しかし、それはムルタの表情が微かに曇ると共に翳りを見せる。

 

「…今でもボクは信じられませんよ。彼が戦死した、等と」

 

「─────」

 

 この時、キラはムルタがアークエンジェルへ視察をしに来た本当の理由を悟った。

 

 大きな犠牲を払いながら多大な戦果を挙げ、アラスカへと辿り着いた艦を見学─────それも強ち間違いではないのかもしれない。

 でも、本当の理由は─────彼は、友の死を確かめにきた。

 

 友が戦死したと報告を受け、それでも信じられなくて、信じたくなくて─────本当の事を確かめる為に、彼は。

 

「一つ、質問をしてもよろしいですか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「憎くはありませんか。ユウを殺したコーディネイターが」

 

「フレイ…?」

 

 不意に、隣に居たフレイが声を上げる。

 続きを促されたフレイは、ムルタへ「憎くはないのか」と尋ねる。

 

 キラとムウがフレイへ戸惑いの視線を向ける中、ムルタは表情を変えずにじっとフレイを見つめる。

 

「勿論。憎いに決まっていますよ。大体ボクはブルーコスモスの盟主なんてやっているんですよ?彼に出会うまでは過激派でもあったんです。今でこそ穏健派なんてやっていますが、コーディネイターへの複雑な心情は完全には消えていません。友を殺された今となっては…過激派をやってた当時を思い出すくらいに、憎たらしいですねェ」

 

「…それなら「でも、復讐なんてしませんよ?」っ─────」

 

 まるでフレイが言おうとしている事を予め悟っていたかのように、ムルタは彼女の言葉を遮って、彼女が尋ねる前にその問い掛けを否定してみせた。

 

「ふむ…。アルスターの娘には婚約者が居ると聞きましたが、やれやれ…。彼も罪な男ですねェ…」

 

「な、なにを…」

 

「見た所、ヤマト少尉も彼に並々ならぬ想いを抱いているご様子だ。…フラガ少佐は、今まで色々と苦労をなさっていたのでは?」

 

「は?は、え、っと…」

 

「…フレイ?」

 

「ま、待ってキラ。違う、違うからね?そういうんじゃ断じてないから!…って、そうじゃなくてっ!」

 

「あー…。復讐をするしないの話でしたね」

 

 ムルタからの茶々で話が脱線した所を、フレイが無理矢理に軌道修正を試みる。

 その修正を、話を脱線させた張本人であるムルタが拾い上げ、本格的に元の話へと戻される。

 

「先程も言いましたが、ユウ君を殺したコーディネイターが憎くない訳ではありません。この艦に居る捕虜だって、ボクの手元で死ぬまで奴隷として働かせてやりたいくらいです。─────ですが、やりません。ユウ君との約束がありますから」

 

「約束…?」

 

「はい。仮に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()には、もう二度となりたくありませんしね」

 

 それはきっと、ユウからムルタへと向けられた言葉。

 ユウとの出会いが、コーディネイターへの憎悪に溺れたムルタ・アズラエルという男を救いあげたのだ。

 

 キラとムウは、どこか誇らしげにそう語るムルタを見て微かに微笑んだ。

 

 ─────フレイは、どこか誇らしげにそう語るムルタを見て、眩しそうに目を細めた。

 

「…アナタ方の話を聞きたいと思っていたのですが、ボクばかり話してしまいましたね。申し訳ない」

 

 ハッ、と目線を上げたムルタが、キラ達へ向けて謝罪の言葉を発してから頭を下げた。

 

 それに対し、きょとんと眼を丸くしたキラ達─────直後、ムウが慌てて口を開いた。

 

「い、いえ。俺達が知らなかったユウのお話を聞けて、その…。面白かったです。あいつ、俺が知らない所でそんな事を言ってたんだな、って。あいつらしいな…って、思いました」

 

 ユウが自分に隠して、嘘を吐き、色々と動いていた事に複雑さを覚えつつ、しかし兄は弟のムルタに対する行動、言動が如何にもユウらしく、今になって自分が知らない弟を知れた事を嬉しく感じた。

 

 キラもムウと同じだった。

 想い人の新たな一面を、思わぬ所で、思わぬ相手から聞けた。

 初めは大丈夫だと信じつつ、ムルタに対して怯えが全くなかったと言えば嘘になったが─────自分の感覚を信じて、ムルタについてきて良かったと思った。

 

「…本当はアナタ方からもこれまでの旅路を─────ユウ君の話も聞けたらと思っていたのですが、残念ながら時間が来てしまいました」

 

 ムルタがスーツの袖をずらすと、彼が着けていた腕時計が露になる。

 時計が示した時間を確認すると、ムルタは眉を残念そうに顰めながらそう言った。

 

「そうだ…。もうじき正式な辞令が来るとは思いますが…アルスター二等兵。アナタには転属命令が下される予定です」

 

「え─────!?」

 

 このまま話は終わりかと誰もが思ったその時、時間を見ていたムルタの顔が上がり、口を開いた。

 

 その口から発せられた言葉に、キラが呆然と驚愕の声を漏らした。

 

「待ってください!アルスター二等兵が転属…?一体何故っ!?」

 

「さぁ?今回の人事に関して、ボクは何の関与もしていないのでサッパリ分かりません。…ただまあ、予想は出来ます。要するに、上層部はユウ・ラ・フラガの()()()が欲しいんですよ。その()()()としてフレイ・アルスター。アナタが選ばれたという訳です」

 

「私が…ユウの代わり?」

 

「スカイグラスパー二号機の戦闘記録はボクも見させてもらいました。聞けば、本格的にパイロットの訓練を始めたのはほんの二か月前というではありませんか。アナタが凄まじい才能の持ち主であるのは、押しも押されぬ事実です。その事実に、フレイ・アルスターが英雄になり得る可能性を見出したという訳ですよ」

 

 ()()─────その一言を、ムルタは演技染みた所作と共に皮肉たっぷりに口にした。

 

 ムルタは知っている。英雄なんて耳当たりの良い言葉を使ったが、実際は体のいい駒─────憎き嫉妬の対象(コーディネイター)を殺戮する為の小道具に過ぎない事を。

 だから、彼はフレイに対して忠告する。

 

「ボクはしばらくアラスカへ滞在するつもりです。アナタがアークエンジェルから離れたくないと思うのなら、遠慮なくボクに相談してください。─────全力を尽くしましょう」

 

 そう言い残して、ムルタは今度こそ部屋を出て行った。

 扉が閉まる音が、ムルタから発せられた衝撃の情報によって沈黙に包まれていた部屋の中に響き渡る。

 

「フレイ…」

 

 ムルタが部屋を去ってから少しして、キラが隣のフレイを見遣りながら口を開いた。

 

「どう、するの…?」

 

 フレイへと向けられる視線と声は、これ以上ない程に不安に満ちていた。

 

 キラの脳裏に過るのは、先程の光景─────コーディネイターの捕虜へと向けられたフレイの怨嗟の声と憎悪の視線。

 

 キラに対するフレイの態度は以前のままだが─────ムルタとの話の時にも度々見られた、恩讐に囚われた彼女の表情がどうしてもキラの頭から離れてくれなかった。

 

「…少し考えさせて」

 

 期待していた行かない、という答えは返って来てくれなかった。

 代わりにフレイが出したのは、()()─────という名の誤魔化しなのだと、この時のキラは薄々勘付いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し落ち着いてから、ラクスから経緯を聞いた。

 

 聞けば、原作でのキラと殆ど同じものだった。

 

 どことも知れない小島で撃墜されたスピリットの中から、俺を救助してくれたジャンク屋の男─────恐らくロウ・ギュール─────が、マルキオの伝道所まで運んでくれたらしい。

 その後、丁度和平交渉の仲立ちとして、プラントに呼ばれていたマルキオが、俺の素性を隠してクライン邸まで運んでくれたのだという。

 

 クライン邸へと運ばれてどれだけ経ったのかは定かじゃないが、プラントの医療技術の高さ故か、或いはフラガの血を引く超人的な肉体の圧倒的回復力故か、目覚めた時には発していた締め付ける様な痛みはすでにない。

 立つのがやっとだったのが今では普通に歩けるし─────流石は、宇宙空間でヘルメットが外れても生き残れる程の耐久力を持つフラガの肉体か…。

 

 ─────皆はどうしているだろう?

 

 目覚めてから毎日、こうして一人でいる時にふと思う。

 アークエンジェルは無事にアラスカに着けただろうか?

 まだクライン側に情報が入っていない以上大丈夫だとは思うが、ザフト側の予定が速まり、すでにアラスカが襲われていたりはしていないだろうか?

 

 仮にそうだった場合、大西洋連邦側の被害も甚大なものになる為、原作の様な結果は起こらず防衛に全力を尽くすとは思うが─────。

 

「まもなく雨の時間です」

 

 行かなければ─────衝動が呼び起こされる度に、この声が贖罪に走ろうとする俺の意識を呼び戻してくれた。

 

 声を掛けられて振り向けば、ティーセットを手にしたラクスが微笑んでいた。

 

「中でお茶にしませんか?」

 

 言われた通りにサンルームへ戻る。

 

 丸テーブルをラクスと二人で挟んで座り、ゆっくりと流れていく時を過ごす。

 

 こんなにも静かで穏やかな時間を過ごしたのは、いつ以来だろう─────。

 少なくとも、この世界に転生してからは覚えがない。俺が死ぬ前─────前世を生きていた頃まで記憶を遡らなければならないかもしれない。

 

「そうでした。マルキオ様から、ユウに言伝を預かっていたのでした」

 

 ラクスの言う通り、サンルームの外で雨が降り出した時だった。

 

 静かにお茶をしていた彼女が、そう口を開いた。

 

 曰く、地球へ向かうシャトルは現在全て、発進の許可が出ないという。

 原作でも同じだったし、期待はしていなかった。しかしならば、俺はどうやって地球に戻ればいい?

 

「…ユウ」

 

 マルキオからの伝言をラクスから聞き、彼女へ「分かった」と簡潔に返事をして少ししてからだった。

 気付けばラクスは真剣な─────鬼気すら感じさせる表情で俺を見ていた。

 

 何事か、と問う前に、ラクスは俺を呼ぶ。

 

「な、なに?」

 

「…ずっと聞きたいと思っていたのですが─────あの時に見た、ユウの記憶の中に気になるものがあったので、それについて聞きたいのです」

 

「気になるもの…?」

 

 あの時─────俺が目を覚ました直後、俺とラクスは特殊な力で記憶と感情を共有した。

 

 ラクスの記憶と気持ちは俺へと流れ込み、逆に俺の記憶と気持ちはラクスへと流れ込んだ。

 ラクスは、宇宙で俺と別れてからの俺の記憶を読み取り、そしてその中で気になる記憶があったのだという。

 

 …こんな鬼気迫る表情をさせるような出来事なんて、心当たりがないのだが。

 

「キラとキスをしていましたわ。それも二度」

 

「このお茶ってラクスが淹れてるのか?凄く美味しいよ。俺ってどちらかというとコーヒー派だったけど、ラクスが淹れたもの限定で紅茶派になりそう─────「ユウ」…はい、キラとキスしました」

 

 話題を逸らそうとして、出来なかった。

 ラクスから真っ直ぐに注がれる視線から逃れるように目線を逸らす。

 

 別に悪い事をした訳じゃないのに、何だろうこの罪悪感は。

 

 いや待て、俺って第三者から見たらとんでもないクソ野郎じゃないのか?

 実際に言葉にした訳じゃないが、一人の女の子から告白同然の行為を受けて、その上もう一人の女の子からも実際に言葉に出さずとも告白同然の行為で気持ちをぶつけられて、それなのに俺は返事もせずに二人の間でフラフラフラフラ…待て待て待て待て、クソ野郎じゃん俺。

 二人の好意に甘えてるだけのゲス、人間の屑、男として終わってる…あ、死にたくなってきた。

 

「ユウ。わたくしは別に怒っている訳ではないのです。貴方はわたくしと恋人関係である訳でもないのですから」

 

「ラクス…。いやでも、俺は…」

 

「ですが、恋人関係ではないキラとキスをしたのですから、わたくしともしたって構いませんね?」

 

「それはちょっと構うかも」

 

 この子、ちょっと押しが強すぎない?いや、後々自分の気持ちを正直に曝け出すし積極的になる事は知ってるけど、早すぎない?色々と過程をすっ飛ばして─────あ、そうだ。その過程を、ラクスはとっくに見て、知っているんだった…。

 ならこうなるのも当然─────ではなくない?いや、それは流石に可笑しくない?

 

「ラクス、どうしてこっちに来る?」

 

「ユウとキスをする為ですわ」

 

「正直に答えてくれてありがとう。心の準備がまだだから待ってくれないか?」

 

「わたくしの心の準備なら大丈夫ですわ」

 

「俺の心の話だよ!ま、待って!本気か!?本当にする気なのか!?」

 

「愚問ですわ」

 

「男らしい!俺よりも!」

 

 ラクスの潔さに惚れそうになりながらも、椅子から立ち上がって彼女との距離を保つ。

 

 ラクスはあの花の様な微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと俺との距離を近づけてくる。

 

 やがて俺はサンルームの壁まで追い詰められ、遂に逃げ場を失ってしまう。

 なおもラクスは歩み寄って来る─────俺とキスをする為に。

 

 違う、キスってそうじゃない。キスってこんな強要されてするものじゃない。

 ラクスとする事が嫌とかじゃなくて、どうせするんなら、()()()()()()()()()()()()()()キスをしたい。

 

「ラクス、待て!こんなのは間違ってる!正気に戻ってくれ!」

 

「わたくしは正気ですわ。別にキラが羨ましいとか、そんな事を思ってなどいません」

 

「絶対に思ってるだろ!?」

 

 どれだけ声を掛けてもラクスは止まらない。

 しかし逃げ場を失った俺にはもう、どうする事もできない。

 

 そう─────()()()、この状況を覆す事は出来なかった。

 

「何の騒ぎだね?」

 

 サンルームのドアが開き、中に入って来る俺とラクス以外の第三者。

 

 ラクスの父、シーゲル・クラインが姿を現し、そして壁に追い詰められる俺と追い詰めるラクスの二人を見る。

 

「…」

 

「…」

 

「あら」

 

 シーゲルが無表情で、愛娘がどこからか連れて来た男に迫っているという父親からすれば夢としか思えないであろう光景を見つめる。

 というか、主に俺を睨みつけている様に思えた。

 

 シーゲルからの視線を受けて、俺の背中は冷や汗が大量に流れ出る。

 そして、この状況を生み出した九割方の原因であるラクスはというと、入って来たシーゲルの方を見たかと思えば─────

 

「お父様、何か御用ですか?申し訳ありませんが、あと五分程席を外して頂けないでしょうか」

 

「え…。ここで止める流れでは?」

 

「わたくしが止まるのは、ユウの唇を奪った時ですわ」

 

「止まれ!今すぐ止まれ!父親の脳が破壊される前に!」

 

「誰が君の義父親かね?」

 

「アンタも黙れぇぇぇぇぇえええええええええ!!!」

 

 この時の俺の叫び声がサンルームの壁を越えて、クライン邸中に響き渡ったというのは、後々マルキオと再会を果たした時に聞いた話である。

 

 だけど今の俺がそんな事なんて知る由なんてなく、ただただこの状況を収めるのに必死になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラクスをここまで吹っ切りまくったキャラにする予定では当初なかったのですが、ユウの曇りが進んでいく毎に、「これくらいじゃないとこいつのメンタルケア出来ないのでは…?」と脳みそが更新されてって、最終的にこうなりました。
まあ、あれですよ。嫉妬は女を狂わせるってやつです。ラクス→キラへ嫌悪感は微塵もありません。ただそれとこれとは別の話ってやつで…やっぱり、好きな人とキスしたくなるよね多分って話です。

え?前半?
盟主王の脳の灼けっぷりが凄まじいだけでしたね、はい。
そうじゃない?フレイ?
…はい、今はノーコメントで。
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