フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE67 託される思い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とラクスの二人だけだったサンルームの中に、もう一人お客様が加わった。

 

 先程、娘に負けず劣らずのトチ狂いっぷりを見せてくれた、元プラント最高評議会議長─────シーゲル・クラインである。

 地球へNJを落とし、ナチュラルのみならず多くのコーディネイターの命を奪った、穏健派の皮を被ったある意味パトリック・ザラにも劣らない過激派。

 …本当に、あの虐殺についてどう思っているのか本人から聞いてみたいんだよな。原作ではついぞ語られなかったし。

 今更そんな事をしたって何が変わる訳でもないし、無駄だって事くらいは分かっているけど。

 

「いや、すまなかったね。娘が、その…。君に迫っている所を見たら、頭が真っ白に…」

 

 三人で散々騒ぎ回った後、ようやく落ち着きを取り戻せた所でシーゲルが口を開いた。

 

「あ、はい。気にしてませんので、思い出さないでください」

 

 サンルームにもう一つ椅子が追加され、それに腰を下ろしたシーゲルが苦笑いをしながら俺に謝罪をする。

 なお、謝罪が進み、先程の光景を思い出していく毎にシーゲルの瞳からハイライトが失われていき─────これ種割れしてない?

 とにかく、またシーゲルが錯乱する前に一声を掛けて彼の正気を引き戻す。

 

「お父様が入って来なければ、ユウとキスが出来ましたのに…。邪魔をしないで頂きたいですわ」

 

「え」

 

「…」

 

 正気を引き戻せたのに、頬を膨らませたラクスからの容赦のない一言がシーゲルのメンタルを叩き落としたのだった。

 

「あいたっ…。ユウ、酷いですわ…」

 

「今のはラクスが悪い」

 

 ラクスの後頭部へチョップを入れる。当然手加減はしているが、そこそこ衝撃はあった筈だ。

 

 ジト目でこちらを見上げてくるラクスだが、俺は見返しもしない。

 さっきのあれで脳破壊を喰らった父親に、少しは気を遣っても罰は当たらないだろうに。

 

「ですが…」

 

「別にラクスとそういう事をするのが嫌って訳じゃないんだ。ただ時と場合を考えて欲しいっていうか、こういうのっていつでもどこでも、好きにやたらにするものじゃないって思うからさ」

 

「…ユウ」

 

 ラクスがここまで不満を露にするとは思わなかったと同時に、ラクスが素直に自分の気持ちを俺へ曝け出している事に嬉しさも感じつつ、俺自身も自分の気持ちをラクスへ曝け出す。

 

 俯いていた彼女の顔が上がり、俺を見る。

 

「キスしてもよろしいですか?」

 

「ダメです」

 

 ラクスってここまでポンコツだったっけ…?

 原作でも片鱗は見えてたし、劇場版の物語を通してかなり積極的になっていたけど、ここまでなるか?

 

 誰だよ、ラクスを変えるどころか改造を施したの…あぁ、俺か…?

 

「ふふっ…」

 

「「?」」

 

 ラクスと言い合っていると、不意にすぐ近くから小さな笑い声が聞こえて来た。

 

 表情を隠すように顔を俯けているが、そこに浮かぶ笑顔は隠しきれていない。

 シーゲルがきょとんと彼を見る俺達に気付いて手を上げて、収まらない笑いを漏らしながらも口を開いた。

 

「いや、すまない…。こんなに楽しそうに話をするラクスは、初めて見たものだから…」

 

 嬉しそうに語るシーゲル。俺とラクスは目を見合わせ、そして恥ずかし気に頬を染めながら、ラクスが先に目を逸らした。

 

「ラクスからよく君の事は聞いているよ。ユウ・ラ・フラガ君」

 

「どういう話を聞いているのか気になりますね。あ、いえ、やっぱり聞くのは怖いんで、話さなくて大丈夫です」

 

 ラクスから話を聞くって、どんな話を聞かされているのか気になるのと同時に、恐ろしさも覚えてシーゲルが話し出す前に制する。

 

「ハッハッハ。別に可笑しな話を聞いた訳ではないさ。足つき─────アークエンジェルで君とどんな話をしたのか、君とどんな()()をしたのかを聞いているだけさ」

 

「─────」

 

 ()()─────それが一体何を指しているのか、その単語を発した瞬間にシーゲルの目が細まったのを見て、俺は悟った。

 

 ラクスはシーゲルに語り、尋ねたのだ。

 俺と交わしたあの感覚を、そして自身が一体何者なのかを。

 知識として持ってはいても、その上で、父親から語られる事を望んだのだ。

 

「…ラクス。彼と少し話がしたい。席を外してくれ」

 

「え?」

 

 驚き見返すラクスを、シーゲルは真っ直ぐに見据えていた。

 父の真剣な眼差しに戸惑うラクスは、続けて俺の方を見る。

 

「ラクス、俺からも頼むよ」

 

「ユウ─────…分かりました」

 

 俺からもお願いすると、ラクスは閉眼して少しの間何か考え込んでから、ゆっくりと頷いてくれた。

 

 静かに立ち上がったラクスはサンルームを出て行く。

 扉を開ける直前、不安げな目を俺へと向けて、それに対して無言で頷いて返せば、ラクスもまた一つ頷いてその場を去って行く。

 

 扉が閉まる音が響くサンルームの中で、俺とシーゲルの二人が残される。

 

 さて、俺と話がしたいというシーゲルだが、まあその内容については大体の予想がつく。

 

「アコードの事ですか?話したい事というのは」

 

「─────」

 

 シーゲルから話を切り出すのを待っても良かったが、緊張を含んだ表情を見る限り、俺と二人になれたのはいいが話の切り出し方に悩んでいるという雰囲気が見てとれたので、こちらから先回りする。

 

 俺の予想は当たっていたらしく、シーゲルは目を見開きながら息を呑んだ。

 

「フゥ…。分かっているのなら話が早い。君はアコード…アウラの手の者か?」

 

「あのひす─────いえ。アウラという人物に会った事もありません。当然俺は、アコードでもない、ナチュラルです」

 

 あ、あぶねぇ…!あのヒステリック婆になんか会った事ないし仲間だなんて心外だ、って思わず言いそうになったぞ…!?ていうか途中まで口に出たけど、違和感を覚えられたりしてないか?

 

「…信じよう。フラガ家の嫡子である君が、遺伝子操作を受けているとは考えづらいからな」

 

「…」

 

 うわぁ…。メンデル関わりで産まれたラクスを引き取ってるんだから当然といっちゃ当然なんだろうけど、この人もうちの親父の業の深さと人間性の屑さを知ってるんだなぁ…。

 ウズミといいこの人といい、人格者─────この人に関してはそう言えるのか少し疑わしい部分はあるけど─────にここまで警戒心を抱かせる親父はどうかしてる。

 

「優しい瞳だ。ラクスと同じだな」

 

「は…?」

 

 ウズミとの対談で疑われるのは慣れている。そう思われるのは当然だとも思っているし、これからどうやって疑いを晴らそうかと考えていると、不意にシーゲルが表情を緩め、微笑みながら口を開いた。

 

 思わぬ言葉を掛けられ、呆けた声を漏らしながら、先程まで働かせていた思考を放り投げてしまう。

 

「ラクスも言っていたよ。最初に君を見た時、優しくて温かい瞳をしていると思った、と」

 

「…そうですか」

 

 優しくて温かい、か…。そんな風に思われていたなんて、少し照れ臭く思いつつ、少なからず好意を持っている相手からの言葉を同時に少し嬉しく思ってしまう。

 

「…ラクスから最初に君の話を聞いた時は本当に驚いたよ。()()アル・ダ・フラガの息子に出会って、しかもその息子がアコードの力を使って、ラクスと交信をしたというのだから」

 

「あれが本当にアコードの力だったのかは分かりませんが…」

 

「…そうだな。君はアコードではない。ならば、君とラクスとの間に何が起こったというのか?─────私はね、ラクスから君の話を聞いた時に思ったのだよ」

 

 シーゲルが少し空白を置いてから、続けた。

 

「彼奴は、その力を選ばれし者のみが持てる究極の力と言った─────。果たして本当にそうなのか?現に、ナチュラルである君は、アコードの力、或いはそれと似た力を発現させたではないか」

 

 語られるその言葉に口を挟まず、黙って耳を傾ける。

 

「特別な人間だけが持てる究極の力などではない。あの力は、ナチュラルだとかコーディネイターだとか関係ない、この世界の誰もが持つ可能性の一つ─────きっと、そうなのだろうと、私は思う」

 

「…そうかもしれませんね」

 

 シーゲルの言う通り、現にナチュラルである俺がその現象を起こしている。

 ならば、アコードでなければあの現象を起こせないという前提はとっくに崩れている事になる。

 

 シーゲルの言う事は確かに一理があった。

 

「すまない、話が逸れたね。私はこんな話をしたくて、君にここに残って貰った訳ではないんだ」

 

 頭を振るシーゲルを見る。

 

「…アウラ達がラクスを確保しようと画策している」

 

「っ─────」

 

「まだ動きは極小規模ではあるが…、アウラの存在を知っていた君ならば、この意味が分かるね?」

 

 シーゲルの言葉に驚かされはしたが、よく考えてみれば当然といえるかもしれない。

 劇場版まで全く存在が語られていなかったアコード達─────しかし、実際にはすでにこの時代には彼らは生きており、そして彼らの野望を叶える為に動いているのは自然な話だ。

 

 野望─────それを叶えるべく、ラクスを確保しようとする事だって。

 この時から画策して、それをシーゲルが水面下で防いでいたって何ら不思議ではない。

 

「無論、私はラクスを奴らに渡すつもりはない。ラクス自身がその道を選ぶというのなら話は別だが─────あの子が選んだのは君だった」

 

 以前までの俺なら、その言葉を否定していただろう。

 気付いていながら目を背けて、気付いていないフリをして、ラクスの想いを受け止めずに逃げ続けていた、以前までの俺だったなら。

 

 今は、違う。

 

「君に託そう。あの子を─────頼む」

 

 随分と重いものを託されてしまった。だというのに、俺はそれを何ら苦痛とは感じなかった。

 

「はい。任せてください」

 

 俺は今、何を言ってしまったのだろう。

 根拠のない言葉なんて大嫌いだ。なのに、俺は今─────何の根拠も示さず、シーゲルからの願いを受け取った。

 

 それを嫌悪に感じない。むしろ誇らしさすら覚える。

 

 俺は─────ラクスを守る。

 

「─────」

 

 頷いた俺を見たシーゲルが微笑み、何かを言おうと口を開きかけたその時だった。

 

 コール音が鳴り響き、サンルームのガラスの一角がモニター画面に切り替わる。

 

『シーゲル様に、アイリーン・カナーバ様より通信です』

 

「…繋げ」

 

 執事が恭しく頭を下げると、モニターが外通信に切り替わって、今度は険しい表情の若い女性が映った。

 

『シーゲル・クライン!我々はザラに欺かれた!』

 

 挨拶も抜きにぶつけられた言葉に、シーゲルは目を見開きながら身を乗り出す。

 

『発動されたスピットブレイクの目標はパナマではない!─────アラスカだ!』

 

「なんだと!?」

 

 女性─────アイリーン・カナーバからの報を受け、驚愕を露にするシーゲルを他所に、俺はガラス越しに雨を降らす曇り空を見上げた。

 

 遂にこの時が来てしまった。もう時間は残されていない。

 

 あの衝動が顔を覗かせる。だが今この瞬間は、この衝動に身を任せよう。

 

「シーゲル様、無理を承知でお願いを致します。モビルスーツを一機、私へ貸し与えて頂きたい」

 

「…アラスカへ向かう気かね」

 

 通信を切ったのを見計らい、シーゲルへ話し掛ける。

 

 俺が口にした願いの真意を悟ったシーゲルが振り向き、尋ねてくる。

 その問い掛けに俺は頷いて返した。

 

「行ってどうする気かね?君一人で何が出来る?」

 

「何かが()()()から行きたいのではないのです。何かを()()()から、俺は地球へ行きたい。俺は…俺の守りたい者の為にずっと戦ってきたつもりでした。でも、そうじゃなかった」

 

 スピリットに乗り込んで、キラを、兄さんを、アークエンジェルの皆を守る為に戦い続けて来た。

 守りたい─────と、俺はそう思っていると()()()()()()()

 

 ラクスと言葉を交わして、初めて自覚した。

 ()()()()じゃなくて、()()()()()()─────実際の所は義務感に駆られていただけだったのだ。

 

 だが、今は違う。この衝動は以前のものとは違う。

 

 心の奥底から伝わるこの気持ちは、守りたいと、全身から発せられている。

 

 俺は…キラ達を守りたい!

 

「…一つだけ条件がある」

 

 暫し俺と目線を交わし続けたシーゲルは、不意に一言そう漏らしながら翻してサンルームを出ようとする。

 

「時間がない。ついて来たまえ、道中で条件について話そう」

 

 条件、というのが何か分からないが、少なくとも俺の願いを引き受けるつもりではあるらしい。

 早足でサンルームを出ようとするシーゲルに俺も続く。

 

()()()()()()()、連絡をとれ。()()()()()()()()()()()─────と」

 

 数分後、俺はシーゲルが指示を出していた背高の執事から渡されたザフトの軍服に身を包み、ラクスと共に車のシートに乗り込んでいた。

 運転席にはセルヴェリオスと呼ばれていた執事。そして隣の助手席には、シーゲルが収まっている。

 

「ユウ君。ザフト式の敬礼はこう、だ。今の内に練習しておきたまえ」

 

 ルームミラー越しに、地球連合の形式とはやや違う礼をとるシーゲルの姿を目に焼き付け、頭に叩き込む。

 

 …こう、か?

 

 この後、連れて行かれる場所を俺は分かっている。だからこそ、一つだけ分からない事がある。

 

「ユウ。手の角度はこうです、こう」

 

 隣で、敬礼の練習に付き合ってくれるラクス─────何故彼女がここに居るのだろう?

 俺に与えてくれる機体の手配は先程、シーゲルが行った。故にシーゲルがついてくるのは分かるのだが、何故ラクスまでついてくる必要がある?

 

 むしろ、これからシーゲルが行うのはプラントに対する背信行為だ。初めラクスがフリーダムを手配していた原作とは違う。ラクスがここに居る必要はない。

 何故、裏切りの行為に娘を巻き込む必要がある…?

 

 車から俺、ラクス、シーゲルの三人で降り、エレベーターに乗り込んで軍の施設らしいブロックへと入っていく。

 途中、何人かのザフト兵とすれ違ったが、ラクスとシーゲルの二人を見てただ敬礼をして通り過ぎるのみで、まるで俺の存在を見えていた様子はなかった。

 一応練習通りに敬礼を行いはしたが、果たして敬礼をする必要があったかどうかすら怪しいものだった。

 

 ─────ここって…。いや、そんな筈は…。

 

 再びエレベーターに乗り、今度はどこか()()()()()()長い通路を進んでいく。

 その先にはセキュリティチェックを必要とする扉があり、その前には俺達を待ち構えていたかのように二人の技官が控えていた。

 

 シーゲルが頷くと、二人は頷き、スリットにIDカードを通して扉を開ける。

 

 ─────やっぱり、だけど…。

 

 ここまで来て、俺はこの先に待つものが何なのかを確信した。

 

 ライトが落とされている為に薄暗い、格納庫と思われる空間を進み、やがてキャットウォークの通路の途中で先頭を行くシーゲルが足を止める。

 

 直後、ライトが点灯し、目の前に浮かび上がったものに俺は()()()と内心呟きながら息を呑んだ。

 

 突き出す四本のアンテナ、異教の神を思わせる巨大な頭部─────ZGMF X-10Aフリーダム。

 本来、ラクスからキラへと託された自由の戦士が、そこに佇んでいた。

 

「ユウ君。君の所望に叶う物を、私は用意出来ただろうか?」

 

「っ…!シーゲル様、これは…」

 

「私に構う事はない。あぁ…、だが私の願いも一つ叶えてもらうよ。なに、ここまで来て断るなんて事はしないと信じているさ」

 

「─────」

 

 この人…!

 クライン邸を出る前にシーゲルが言った、俺に呑んでもらいたいという条件─────この施設に入って途中までは頭の片隅に覚えていたものの、見覚えのある区画に入ってからは()()()という思いが浮かび上がり、お陰でその条件とやらがすっかり頭から抜け落ちてしまった。

 

 しかし途中で俺が聞いても恐らく、シーゲルは答えてはくれなかった筈だ。

 俺をここまで連れて来れば、この機体を前にすれば、シーゲルが出す条件というものを俺は断らない─────そう踏んでいただろうから。

 

「なに、別に難しい事を要求するつもりはないさ。…といっても、さっきの繰り返しになるのだがね」

 

「は…?」

 

()()()()()()

 

「─────」

 

 再度聞かされたその一言に思わず息を呑む。

 

 この場所、この瞬間に発せられたその一言の意味を、俺は瞬時に悟る。

 

「お父様…何を…?」

 

 それはラクスも同じだった。

 ここへついて来るに当たり、俺が地球へ降りるという要点こそ聞かされていたようだが、シーゲルの胸の奥の本意までは聞かされていなかったらしい。

 

「ラクス。ユウ君と共に行くんだ」

 

 大きく見開かれたラクスの瞳が揺れる。

 

 その言葉の中に含まれた本当の意味を、実際に言われずともラクスは感じ取っていた。

 

「お父様、わたくしは!」

 

「お前がここに残っても出来る事は限りなく少ない。ならばせめて、私の意志が確実に受け継がれる方を選ぼう」

 

「何を…!」

 

 頭を振るラクスの傍らへ、シーゲルが歩み寄る。

 そして父の手が、娘の頭へと優しく置かれた。

 

「お前が平和の歌を歌いたいと言ってくれた事、嬉しかったよ。そして、お前の歌で世界が平和になる所を見届けられない父を許してほしい」

 

「っ…!」

 

「なに。私とは別れるが、お前は独りではない。それは、何よりお前が一番分かっているだろう?」

 

 そう問われ、微かに身体を震わせた後にラクスはゆっくりと振り返る。

 

 涙に濡れたラクスの瞳が俺を映す。

 俺は瞳を逸らさず、真っ直ぐにラクスの視線を受け止めながら頷いた。

 

「…ラクス」

 

「お父様…っ」

 

 シーゲルからラクスへ、掌サイズの機器が手渡される。スピーカーが着いている所から見るに通信機、だろうか。

 

「父から娘への最期の贈り物としては何とも味気ないが─────()()()()()()()が旅立つ時、お前の元に報せを届けるよう命じてある」

 

「っ…!」

 

「…別れは言わんよ。お前とまた会う時まで気長に待っている」

 

 シーゲルからラクスへと掛けられる言葉は、それが最後だった。

 彼は勢いよくラクスを押し、それによって彼女の身体が俺の懐へと舞い降りる。

 

「行け!頼むぞ!」

 

「─────」

 

 飛ばされた檄に視線だけで答える。

 

「こちらへ!」

 

 ふと聞こえた声に導かれ、俺はラクスの手を引きながらそちらへ行く。

 

 ラクスは抵抗しなかった。

 そこには男性と女性、二人の技官が立っており、それぞれ俺とラクスの為に用意されたであろうパイロットスーツを持っていた。

 

 俺は男性からパイロットスーツを受け取ってから、ラクスの事を一旦女性の技官に託してパイロットロッカーへと飛び込む。

 

 急いでザフト軍服からパイロットスーツへと着替え、再びキャットウォークへ、すでにシーゲルの姿はないフリーダムの前へと戻る。

 

 パイロットスーツに着替えたラクスが戻って来たのはそのすぐ後だった。

 

「ユウ…」

 

「行こう」

 

 ラクスの手を引いて、開かれた胸部のハッチからコックピットへ飛び込む。

 

 機体に電源を入れ、駆動音と共にOSが立ち上がる。

 

 Generation

 Unsubdued

 Nuclear

 Drive

 Assault

 Module

 

 頭文字をとって、G()U()N()D()A()M()。地球連合製のものと違う英文でありながら、同じOS名称を付けられた不思議な機体。

 拿捕したGのOSを見て、技術者の誰かが遊び心から名付けたというが─────。

 

「…っ」

 

 傍らではまだラクスが涙を流していた。

 無理もない。恐らくさっきのシーゲルの姿が、彼女が最後に見る父の姿になるだろうから。

 

 ─────俺は、シーゲル()からラクス()を託された。ラクスを守りたいという思いは、シーゲルに言われずとも確かであり、絶対だ。

 

 彼女の命を守るというだけじゃない。今もそうだ。父との別れを経て、ラクスは大きな悲しみに包まれている。

 その悲しみを消したい訳じゃない。消そうとしたって、それはどうしようもない事くらいは分かっている。

 

 だけどせめて、ラクスが悲しみに溺れないようにはしてあげたい─────。

 

「ラクス」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて他人事のように思いながらラクスの名前を呼ぶ。

 そして、こちらを向いた、涙に濡れた彼女の顔へ、俺は自身の顔を近づける。

 

「ゆ─────」

 

 戸惑い、呼び掛けられる前に、自身の唇で彼女の唇を塞ぐ。

 柔らかい感触はほんの一瞬、すぐに唇を離した俺は一目ラクスの顔を見てからモニターと向き直る。

 

「さっき、シーゲル様が言った通りだから」

 

「ユウ…」

 

「ラクスは独りじゃない。俺が守るよ」

 

「…」

 

 ラクスから返事の声はなかった。

 代わりに、全周囲モニターがオンになった時だった。

 ふわりと、ラクスの両腕が回され、全身が柔らかい感触に包まれる。

 

「ありがとう、ユウ…」

 

「…行くぞ。しっかり摑まってて!」

 

 微笑みを溢しながら、スロットルとレバーに手を掛ける。

 バーニアが噴射され、期待に接続されていたケーブルが弾け飛んだ直後、工廠内に警報が鳴り響き始めた。

 

 上方のエアロックハッチが次々と開いていき、やがて星空が覗く。

 真空の宙の向こう、輝く青い星へ向けてフリーダムを飛び立たせる。

 

 ─────今だけ、お前に相応しい本当のご主人様の所に着くまで…、力を貸してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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