フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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視点移動がかなり激しい話になっているのでご注意ください。


PHASE68 激動の極北

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『復讐なんてしませんよ?』

 

 何故、瞳の奥に確かな憎しみを燃やしながらも、そんな事を言えるのか分からなかった。

 

『たかだか遺伝子を操作した程度の事で、相手を化け物扱いする様な小さな人間には、もう二度となりたくありませんしね』

 

 その言葉には全面的に同意する。別に全てのコーディネイターを憎んでいるつもりはない。

 今でもキラ・ヤマトというコーディネイターの女の子を大切に思う気持ちは変わらないし、どれだけ長い時を経ても、その気持ちは決して不変だという自信もある。

 

 ただ─────宇宙に浮かぶ砂時計でふんぞり返りながら、ユウを殺した奴らだけはどうしても許せそうにない。

 

『やれやれ…。彼も罪な男ですねェ…』

 

 違う、そんなんじゃない─────そう思っていたのに。

 ユウが死んで、怒りと共に何をしても、思っても埋められない虚無感が湧いてきた。

 

 あぁ、認めるしかない。自分は、フレイ・アルスターは、ユウ・ラ・フラガの事を─────だからこそ、彼女は選び取ってしまう。

 それが正義と信じながら、独り、憎悪が渦巻く闇の中へと身を投じる事を。

 

「フレイ…」

 

 アークエンジェルハッチ付近の通路で、マリューを初めとするクルー達が整列をしていた。

 ここまで共に戦ってきた仲間の()()()をする為だ。

 

 バッグ一つに纏められた荷物を持って、アークエンジェルを旅立とうとするフレイの足が止まる。

 

 自身の名を不安げな表情で呼んだ少女、キラの前で立ち止まったフレイがゆっくりと振り向く。

 

「ごめんね、キラ。…やっぱり私、許せないみたい」

 

「…どうしても?」

 

「えぇ」

 

 縋るようにキラが再度問い掛けたのに対し、フレイは間髪置かずに頷いた。

 

 何度も何度も自問自答した。他に道はないのか。今は無理でも、時間と共にこの憎しみと虚無感が薄れていく事はないのか。

 

 自問自答の果てにフレイが出した答えは今、キラへ示した通りだった。

 

「戦争が終わったら、また会いましょう。キラ」

 

「…うん。絶対だよ」

 

 互いに言葉を掛け合ってから、フレイは荷物を床に置いてからキラへと歩み寄る。

 

 そして二人は少しの間抱擁を交わした。

 数秒抱き合った後、二人の身体は離れ、そして一瞬視線を交わしてからフレイはキラに背を向ける。

 

 再び歩き出した彼女の視線に入ったのは、ミリアリア、トール、カズイ、キラと共にヘリオポリスで時間を一緒にした友人達。

 そして、いつでも自身を気遣い続けてくれた婚約者。

 

「サイ…」

 

「…行くんだな」

 

 複雑そうな表情で呟くサイに対して頷く。

 「そっか」とまたも小さく呟いたサイの内心では、どんな感情が渦巻いているのか。

 

「…ごめんなさい」

 

「なんで謝るのさ。フレイが選んだ事なんだから、俺には─────」

 

「違うの。…私、結局最後まで貴方の気持ちに応えられなかった。多分、これからも─────」

 

 アークエンジェルから離れる事、サイ達と決別する道を選んだ事に対して謝罪をしたつもりはなかった。

 これは彼女が自身で選び取った選択であり、それに対して誰にも口を挟ませるつもりはない。

 

 ただサイと別れる前に、どうしても一つだけ彼に謝りたい事がフレイにはあった。

 

 フレイにとっては形だけの婚約関係でも、サイにとっては違う風に捉えていたのは最初から知っていた。

 サイはとても良い人で、自分だって突然戦争という縁遠い環境下に置かれて怖かっただろうに、それでもずっと自分を気遣ってくれた事に感謝しているし、フレイ自身、この人とだったらこれからの人生を捧げるのも良いかもしれない─────なんて気持ちが傾きかけたのも事実だった。

 

「…ユウか?」

 

「…」

 

 サイの口から出て来たその名前に対し、フレイは何も返答する事が出来なかった。

 

 ある日突然現れたユウという少年は、気付けばサイ以上に自分にとっての支えになっていて、しかもその事に気付いたのが彼が死んだ後というのは何という皮肉だろう。

 

「私の事なんて忘れて、サイ。こんなバカな女よりもずっといい(ひと)に、貴方ならきっと出会えるわ」

 

「フレイ…!」

 

 きっと、上手く笑顔を作れなかったのだろう。悲しげでありながらも、笑みを浮かべ続けていたサイの顔がくしゃり、と歪んだ。

 

 これ以上、サイの顔を見続けられなかった。

 これ以上彼と顔を合わせ続けたら、固めた筈の決意が揺らぎそうだったから。

 

 フレイは二度と振り返りはしないと、足を進める。

 

「また会おう、フレイ!」

 

「っ─────」

 

 背後から投げ掛けられた声に止まりかけた足に喝を入れて、フレイは歩みを止めない。

 

「婚約者としてじゃなくていい!俺の事を好きでいてくれなくてもいい!だけど、絶対…生きて帰って来いよ!」

 

 「フレイ!」というサイの呼び掛け。

 

 本当に、彼は優しい人だ。自分にはとても勿体の無い、いい男だった。

 

 そんな人の思い遣りを振り切って、フレイは零れそうな涙を決して流すまいと耐えながら進む。

 

「─────」

 

「…行くんですか」

 

 開かれたハッチの先で、思いも寄らぬ人物とフレイは再会を果たした。

 

 丁度ここへやって来たばかりだろうか、護衛を二人引き連れながらこちらへ歩いてきたのは、スーツ姿の男─────ムルタ・アズラエル。

 

「忠告はした筈ですがねェ」

 

「それを覚悟で、私は行きます」

 

「そうですか。そこまでの覚悟なら、ボクからはもう言える事はありませんネ」

 

「えぇ。それでは」

 

 ムルタへ敬礼をしてから、彼の横を通り過ぎていく。

 

「ご武運を」

 

 その際、微かに耳に届いたムルタの声は気のせいだったのだろうか。

 

 ふと振り返った時には、ムルタはすでにアークエンジェルの艦内へと足を踏み入れていた。

 

 フレイは聞こえた気がした声の事を思考から外し、迎えの車へと乗り込む。

 これからこの車で、フレイの異動先へ行く迎えの艦へ向かう。

 

 走り出した車。窓の向こうで、白亜の巨艦が遠ざかっていく。

 

 もう、二度と彼らに会う事はあるまい。

 

「─────」

 

 数秒瞼を閉じてから、再度開ける。

 その瞳の中にはもう、白の艦は映っておらず、ただ前を見据えるのみ。

 

 フレイ・アルスターは、掛け替えのない友人達への別れを済ませ、新天地へと旅立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント本国では、重要な決断が下されようとしていた。

 最高評議会議長、パトリック・ザラが全軍に向けて通信回線を開く。

 

「この作戦により、戦争が早期終結に向かわん事を切に願う。真の自由と正義が示されん事を─────」

 

 彼は立ち上がり、宣言した。

 

「オペレーション・スピットブレイク、開始せよ!」

 

 その指示は待ち受けていた各艦、各機、各拠点へと送られる。

 無数の通信機の前で、それを伝えるオペレーターの声が溢れ出した。

 

『〇四:〇○時、オペレーション・スピットブレイク発動!』

 

『事務局初、第六号作戦、開封承認!コールサインオペレーション・スピットブレイク!目標─────アラスカ地球連合軍本部、JOSH-A!』

 

 命令書を開封した指揮官達の多くが驚き息を呑む。

 

「アラスカだと!?」

 

「パナマではないのか!」

 

 一瞬にして、パナマを映していた彼らの前のモニターの画像が移り変わり、北米の極北を示す地図が映される。

 

 指揮官だけではない。自身が伝える内容に驚きを示すオペレーター達、そしてモビルスーツに乗り込むパイロット─────全ての兵士達にとって、その報せは寝耳に水だった。

 

 その中でも一部、驚く兵達を横目にほくそ笑む者達もいた。

 

「頭を潰した方が、戦いは早く終わるのでね」

 

 無論、仮面の指揮官ラウ・ル・クルーゼもその一人に含まれる。

 

 最後に残ったマスドライバーを奪う為にパナマを襲撃すると見せかけ、地球軍に守備群をパナマへ集結させる。

 その間に、手薄になった最高司令部を叩く。それがパトリックが発案したオペレーション・スピットブレイクの真の内容だった。

 

 この最終目的地は厳重に秘匿され、最高評議会にさえも一部のメンバーを除いて知らされる事はなく、水面下で準備が進められてきた。

 

 一気に本陣を落とし、圧倒的な勝利の下に、プラントは地球圏の支配を手にする。

 パトリックの意図を悟った兵士のひとりが、不敵に呟いた。

 

「これで終わりだな、ナチュラル共」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、基地全体に警報が鳴り始めた。マリューは驚き、CICを見遣った。

 

 状況が分からず当直の者達が顔を見合わせる。

 急を告げるけたたましい音に、外の兵士達も何が起こったのかと周囲を見回し、慌ただしく駆けていく。

 

「統合作戦室より入電!」

 

 アークエンジェルの艦橋でも、状況を報せる通信が入り、パルが声を上げた。

 

 モニターに映し出された将校の顔を、皆で見上げる。

 

「サザーランド大佐、これは─────!?」

 

『守備軍は直ちに発進、迎撃を開始せよ!してやられたよ。奴らは直前で目標をこの、JOSH-Aへと変えたのだ』

 

 将校、サザーランドの平静そのものといった言葉に誰もが一瞬理解が遅れた。

 

 しかしこうしている間にも鳴り続ける警報と、サザーランドの言葉を反芻しながら進む理解が、皆の背筋に冷たいものを奔らせた。

 

『ここを敵の手に渡す訳にはいかん。何としてでも死守せよ。厳しい状況ではあるが、各自健闘を─────』

 

「サザーランド大佐!何が起こっている!?」

 

 サザーランドが命令を告げ終わりかけたその時、艦橋のドアが開き一人の男が入って来る。

 

 その男の顔を見て、サザーランドは目を瞠った。

 

『アズラエル様…!アークエンジェルにいらしたのですか』

 

 艦橋へ入って来たのはムルタ・アズラエル─────思わぬ人物の姿に驚きを露にしたサザーランドへ向けて、ムルタは焦りを隠さず捲し立てた。

 

「そんな事はどうでもいい!奴らが攻めて来たのか!アラスカに!?」

 

『そのようです。パナマへの侵攻は陽動だったのでしょう』

 

「何を呑気に…!すぐにアラスカへ隊を送るんだ!今の状態じゃあ、そう長くは耐えられない!」

 

 平静を保つサザーランドへ苛立ちを表しながらも、ムルタは指示を飛ばす。

 

『無論そのつもりです。良いか、ラミアス少佐。こちらもすぐに援軍を送るよう努める。その間、何としても耐えるんだ』

 

「はっ─────!」

 

 サザーランドからの命に返答するマリュー。

 

 それきりモニターの映像は途切れる。

 

「総員第一戦闘配備!アークエンジェルは防衛任務の為、発進します!」

 

 すぐさま艦長席へ座り、命令を飛ばしたマリューは、先程艦橋へ入って来たムルタへと目線を向ける。

 

「申し訳ありませんが、艦から降ろす時間はありません。理事には戦闘の間、ここへ留まって頂きます」

 

「ボクの事は気にしないで頂きたい。…頼みますよ」

 

 ムルタからの一言に、マリューは頷いて返してから前を見据える。

 

「ヤマト少尉、フラガ少佐に出撃準備を急がせて!準備出来次第、ストライク、スカイグラスパーを発進させます!」

 

 絶望的な状況ではあるが、心強い仲間が健在だったのが幸いした。

 

 マリューを含めたクルー達はまだ、誰も絶望に屈してはいなかった。

 

 そう、自分達はまだ戦える─────JOSH-Aを助けにいずれ来る援軍が見えるまで、何とか耐え切ればいい。

 

 誰もがそう信じて、それぞれ出来る事に向き合い、前を見据える。

 

「アークエンジェル、発進!」

 

 そうして白亜の巨艦は、誰にも気付かれずに広がっていく闇の中へと、航行を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙から強襲用カプセルが投下され、上空で弾ける。

 そこから無数のジン、シグーが大地へ降り立つ。

 

 上空を覆う大型輸送機からはディンが飛び立ち、海中を往く潜水母艦からはグーンとゾノが出撃する。

 

 ザウートが搭載された全火力を開きながら進軍していくその背後では、バクゥが俊敏な動きでアラスカの防衛隊を蹂躙する。

 

 地上で始まった激しい戦闘を他所に、川の上を低空飛行する機体があった。

 ラウ・ル・クルーゼが搭乗した、指揮官用にカスタマイズされたディンである。

 カスタマイズされたといっても、一般機と性能面は変わらず、変化があるのは装甲に施されたカラーリングだけではあるが。

 

 クルーゼは、浴びせかけられる対空砲火をみるみる躱していき、突撃銃でトーチカを吹き飛ばしながらJOSH-Aのゲートに迫る。

 再度突撃銃に火を噴かせ、ゲートを守っていた砲を潰してからそのまま滝の中へと機体を突っ込ませる。

 

「ふん…。()()()()()からの情報は確かなようだな」

 

 クルーゼが目にしているモニターには、JOSH-Aの見取り図が映されていた。

 どうやって手に入れたのか─────高い代償を要求されはしたが、最終的には相手とクルーゼにとって満足に至る取引になった。

 

 通路を進み、誰にも阻まれる事なくクルーゼは地下に広がる地下都市グランドホローへと辿り着く。

 選んだルートが侵入しやすいものであったというのはあるが、やけに施設内に残っているものが少ない。

 

 クルーゼはディンから降り、片手サイズの小型コンピュータの情報を確かめた後に走り出した。

 

 内部通路を行く間も、全く人の気配を感じない。開いたドアから中を見遣れば、慌てて放棄された様に散らかった部屋にはやはり人の姿はなかった。

 

「…ほう?」

 

 微かに口元に笑みを浮かべながら、クルーゼは足早にそこを通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地内部より外へ飛び出したアークエンジェル。すでにその周りには何機かザフト機が飛び交っており、基地のゲートへ迫りつつあった。

 

 すぐにストライクとスカイグラスパーが出撃し、襲い来るザフト機を迎撃していく。

 

 アークエンジェルはゲートを他部隊へと任せ、迎撃へ向かう大隊へ合流する。

 

「─────っ!」

 

 ムウの背筋に戦慄に似た感覚が奔ったのは、その時だった。

 

「馬鹿な…!くっ!?」

 

 感じる─────基地内部から奴の、ラウ・ル・クルーゼの存在を。

 

 何故?襲撃が始まってからまだ数十分と経っていないというのに、もう内部へ侵入しているというのか?

 

 早すぎる事への違和感を覚えながらも、ムウは機体を引き返す。

 

『少佐!?何を!』

 

「すまん!─────クルーゼが侵入している!」

 

『っ!?』

 

 何故か引き返し始めたスカイグラスパーに向けてマリューから呼び掛けが入る。

 

 だが、悠長に説明をしている時間はない。

 一言謝罪と、簡潔にすでに内部に侵入者がいる事だけを告げ、ムウは再度基地の中へと戻っていく。

 

 先程までアークエンジェルが待機していたドック内で機体を降ろし、ヘルメットをコックピット内に投げ捨てて飛び降りる。

 

 拳銃を確かめながら、自分を呼ぶ声に応えるかのように、迷いなく駆けていくムウ。

 

 やがて辿り着いた管制室の手前、ドアが半ば開いていたのを見て足音を落とした。

 隙間から室内を見ると、警報が発令中にも関わらず、中は薄暗く人影もない。

 

「─────」

 

 いや、漢が一人コンソールの上に屈み込んでいた。

 肩まで波打つ髪はムウやユウと同じような金色。そして、ザフトの指揮官用制服に身を包んでいる。

 

 ─────こいつが、ラウ・ル・クルーゼ…!?

 

 思わず警戒を忘れて身を乗り出してしまう。

 ムウの影が男の足下まで伸び、すかさずムウの存在を察知した男が振り返り、手にした拳銃を発砲した。

 

 室内へ飛び込み、コンソールを盾にして銃撃をやり過ごしてから、陰から銃口を向けて撃ち返す。

 

 一瞬見えた顔は銀の仮面に覆われていた。間違いない。

 奴が、ラウ・ル・クルーゼだ。

 

「久しぶりだな、ムウ・ラ・フラガ」

 

 銃声が反響する空間の中でハッキリと、その声は響いた。

 クルーゼが自分を識別している─────つまり、これまで何度か経験したこの感覚は、こちらからの一方通行のものではなかったらしい。

 

「折角出会えたのだ。手厚く歓迎したい所だが─────生憎、今は貴様に付き合っている時間がなくてな」

 

 生身で会うのは初めてな筈なのに、聞こえてくる声に妙に覚えがある気がした。

 

 物陰から、声がする方を見ようとするが、動いた途端に銃声が鳴り、弾がコンソールに跳ね返る。

 

「ここにいるという事は、貴様も地球軍ではすでに用済みか。…堕ちたものだな。エンデュミオンの鷹も」

 

 揶揄するような声が発せられ、人影が素早く動き始めた。

 

 ムウは陰から躍り出て、そちらに銃口を向けた─────が、クルーゼは素早く外へ飛び出していた。

 閉まる扉の隙間に一瞬、その姿が見えたが次の瞬間扉が閉まってしまう。

 

「ちっ…!」

 

 後を追おうか逡巡したが、それ以上に奴が今、何を見ていたのかが気になった。

 それに、この非常事態に管制室が無人なのも引っ掛かる。

 

 まさか奴が、とも思ったが、だとしたならば死体の一つや二つは転がっているものだろう。

 つまり、クルーゼがこの場に来た時にはすでにここは無人だったという事になる。

 

「…くそっ、何が起こってるってんだ」

 

 ここまで来る間も通路に人影はなく、異様に静かだった。この規模の敵襲を受ければ、もっと騒然としている方が自然な筈なのに。

 

 次々に湧く疑念を抱きながらも、一先ずクルーゼが見ていたデータパネルへ目をやる。

 そこには巨大な一つ目に似た構造物が映し出されていた。

 

「なんだ、これは…」

 

 呆然と呟きながら、ムウは構造物についてのデータを読み取っていく。

 

 そしてそれが何であるかに気付いた時、彼の目は驚愕に見開かれた。

 

「馬鹿な…!」

 

 間違いであればいいと祈りながら、再度素早くデータを読み直す。

 しかし、無情にも画面は先程見たものを繰り返し映し出していた。

 

「嘘だろ…!」

 

 身を翻し、管制室を飛び出す。

 ここまで至ったルートを今度は逆走しながら、ムウはドックに置いてきた機体へ急ぐ。

 

 急げ、急げ、急げ急げ急げ─────!

 

 乱れる呼吸に構わず、焦燥に駆られながら必死に両足を動かす。

 

 裏切られたという失望も、虚仮にされたという怒りも、今はとにかく抑え込む。

 

 早くこの事をアークエンジェルに─────マリューに報せなければ。

 そして、今すぐこの場から逃げ出さなければ─────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フレイのお別れと、スピット・ブレイク発動の話でした。

何でムルタ来てるの?と思われる方が居ると思われるので、解説を。
ムルタなりにフレイの事を心配していました。というより、ユウが命を賭けて守ったクルー達について彼なりに気に掛けています。
フレイへの忠告も、本心としてはこれで心変わりしてくれたらという願いも籠ってしましたが、フレイからの連絡がいつまで待っても入ってこない事で彼女の選択を察し、せめて見送りくらいはという事でアークエンジェルまで来たという次第です。
ついでにフレイが抜ける事でクルー達の雰囲気も気に掛かったので中へと入って─────からのスピット・ブレイク発動という経緯です。
いやー…盟主王、悪運強いっすね。もしアークエンジェルに来てなかったら破裂死してましたからねー。(目逸らし)
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