世界の崩壊─────そうとしか言い表せない光景を、キラはストライクのカメラを通して目の当たりにした。
ユウについていくと決め、ストライクに乗り込み出撃をしたキラ。
あっという間に先行していき、ザフト機の集団へと飛び込んでいくスピリットを追い掛けるストライクの前に飛び込んで来たのは、装甲を赤に染めた機体イージスだった。
未だ続く電波妨害の中でも、距離が近付いた事によりイージスから投げ掛けられた通信がストライクと繋がり、キラはイージスのパイロット─────かつての親友、アスラン・ザラと言葉を交わした。
『どうして君が地球軍に…モビルスーツなんかに乗っているんだ!?』
『君こそ、どうしてザフトなんかに!』
とはいえ、碌に会話など出来なかった。何しろ、二人が邂逅を果たしている間に、スピリットは短時間で二機のジンを行動不能にしてしまったのだから。
仲間のピンチを察したアスランがキラを置いて、最後に残ったジンの援護へと向かおうとし、キラがその後を追い掛けようとした、その時。
ヘリオポリスが崩壊し始めたのだ。
そして何が起きたか分からないまま、現在へと至る。
揺り回されるコックピットの中、何とか意識を失うのを耐えたキラが目にした光景がこれだ。
キラ達にとっての平和の象徴、つい先程までこんな事になるなど露知らず、笑って過ごしていたヘリオポリスはただのデブリの密集地となり果てた。
「お父さん、お母さん…。大丈夫、二人共避難できてる筈…大丈夫…」
自分はこうして、モビルスーツの中で生きている。
そんな中、キラがまず思い浮かんだのは両親の笑顔だった。
二人は一体どうなったのか─────いや、ヘリオポリスの脱出ポッドで逃れている筈だと自分に言い聞かせ、何とか気を落ち着かせる。
大丈夫の筈なのだ。キラ達の家は、先程戦闘が行われた場所からやや離れた所にある。ならば、そこから近い所へ避難している筈だし、あの戦闘の余波は届いていない筈。
「…ユウ。ユウは!?」
二人は無事だと、根拠はない断定をしたその次にキラの脳裏に浮かんだのは、一緒に出撃をした少年の顔。
一緒に出撃したにも関わらず、気付けば離れた所に行き、一人で戦いを始めてしまったユウは、ヘリオポリス崩壊にて起こった急減圧により、ストライクから大きく離されてしまった。
ユウだけではない。アークエンジェルの姿もまた、肉眼は勿論、センサーからも確認はできない。
どれだけ目を凝らしても、見えるのは無重力を浮く瓦礫と底が知れない宇宙の暗闇だけ。
「…ラ…き…!キラ!聞こえるか、返事をしろ!」
脈絡なくキラの全身に纏わりつく孤独感に押し潰されそうになる、その瞬間に聞こえて来たのは、自分の名前を呼ぶユウの声だった。
気付けば、センサーにはX106、スピリットの型式番号と光点が映されている。
「ユウ!」
「…無事だったか。こっちの位置はセンサーで分かる筈だ。アークエンジェルも近くに居る。ストライクは動かせるか?」
「うん。…ありがとう」
モニターに映されるユウの顔。キラは自覚しつつも、安堵の笑みを抑える事が出来なかった。
しかし、互いの無事を確認できた事で安心したのはユウも同じだった。
キラと同じく、通信を通して相手の顔を見たユウもまた、一つ息を吐いてから微かに微笑んでいた。
キラは自分を心配し、探してくれていたユウへお礼を言ってから、ストライクをゆっくりとスピリットが居る方へと動かす。
お礼を言われたユウが不思議そうな顔をしているのが可笑しくて、つい笑みを吹き出してしまった─────。
「あれは…?」
「どうした?」
キラはふと、モニター越しに見えた物にストライクを止めた。
キラが見たのはコロニーから射出された脱出ポッド。だが、何やら様子がおかしい。
射出された際に不具合があったのか、はたまた射出された後にトラブルがあったのか。定かではないが、カメラをズームして見ると、ポッドの一部が欠けているのが分かった。
「キラ?」
突然動きを止めたストライクが、更に突然明後日の方へと動き出した。ユウからすればそうとしか見えないのだから、怪訝に思うのは当然だろう。
しかし、キラは迷わなかった。目の前で危機に晒されている命を、見て見ぬフリなど出来る筈がなかった。
キラは脱出ポッドを慎重に回収し、再び機体をスピリットへ、アークエンジェルへ向けて動かすのだった。
距離を離されてしまったアークエンジェルとストライクを発見した俺は、キラと一緒に機体をアークエンジェルへ着艦させる。
その途中、ストライクが突然明後日の方向に動き出したかと思えば、すぐにこちらへ戻ってきて、初め何をしているのかと不思議に感じたが、戻ってきたストライクの手の中にあった物を見て俺は納得した。
ヘリオポリスの脱出ポッド。原作と同じ行動を、この世界のキラもとったのだ。
この後、キラはバジルール少尉に小言を言われるのだろうが、人命救助である以上そう強い事は言われないだろう。
「キラ!」
「フレイ!」
しかし、これは一体どうした事か。
確か原作では、この時点でのこの二人は顔と名前こそ知り合ってはいたが、話した事はない程度の間柄だった筈なのだが。
ポッドから出て来たフレイがキラの顔を見た瞬間、輝くように笑顔を浮かべてキラへと寄っていく。キラもまた、そんなフレイの様子を見て表情を明るくさせ、そして二人は互いの名前を呼び合いながら抱き締め合う。
…もう一度言おう。これは一体どうした事か。
「キラ、知り合いか?」
「ユウ!うん、同じカレッジの友達。フレイ・アルスター」
うん、名前は知ってるんだ。口が裂けても言えないけど。
だけど、今君、友達って言った?フレイと?
…キラの性別が女だから、それが影響して原作時から交友関係に変化が起きている?
「フレイ、この人はユウ。ユウ・ラ・フラガ。避難する途中で知り合ったの」
「…ふーん?キラが異性を名前で呼ぶなんて珍しいじゃない。しかも知り合ったばっかりで。…もしかして」
「っ、ち、違うよ!?別にフレイが考えてるような事じゃないから!?」
「えー?キラは一体、私が何を考えてるって思ったのー?」
「~~~~~~っ!フレイっ!!」
年頃の女の子二人による、如何にも
原作でのあれこれもあって、フレイは物語の中で歪んでしまった。だけど本来のフレイは、今の彼女の様な、女の子らしい女の子なのだ。
友達と一緒に喋って、笑って、そんな普通の女の子なのに─────。
「…」
…うん、今はフレイの事は置いておこう。彼女の対応はキラに任せておけばいいだろう。フレイにとっての分岐点が起こるのは、まだもう少し先の事だ。
それよりも今は、この艦が次にどこへ行くか、だ。
原作通りならば、これからアークエンジェルは補給の為にアルテミスへ向かう。だがそこで受けた対応はこちらが期待したものとは程遠く、挙句にミラージュコロイドを駆使したブリッツにアルテミスが襲われてしまい、そのどさくさに紛れて脱出するも結局補給は受けられず、という散々な結末だった。
といっても手元にブリッツがない以上、アルテミスに行っても何ら問題はないんだけどな。多分、追い掛けて来たクルーゼ隊が原作通りにアルテミスに侵入してくるだろうし。
因みに、思惑通りにブリッツが手に入った場合のアルテミスルートについても考えてはいた。俺の伝手を活かした脅しをガルシアに仕掛けるという、超絶脳筋ルートだが。
「もう知らないっ!ユウ、行こう!」
「え?…あの子はいいのか?」
「知らないもん!」
俺が思考している間にキラとフレイは何やら決裂してしまったらしく、プリプリと怒った様子のキラが、俺の手を掴みそのままどこかへ去ろうとする。
手を掴まれた俺は抵抗しないまま、キラの後についていくが─────この子、気付いてんのかな?怒りのあまり気付いてないんだろうな、俺の手を握ってる事に。
「あぁっ、待ってキラ!せめてサイの所に案内してよ!」
「知らないっ!自分で探せば!?」
「そんな、置いてかないで!愛しの彼氏と手を繋いでデートしたい気持ちは分かるけど!」
「誰が愛しの彼氏なの!?手を繋いでって、そんな事─────っっっっ!!?」
あ、気付いた。
フレイの指摘により自身の行動にようやく気付いたキラが、俺の顔と繋がっている手を交互に見てから、顔を真っ赤にして勢いよく俺の手を振り払う。
「フーレーイーっ!!!」
「な、何よ!今のはキラの自業自得でしょ!?私の所為にしないで!?」
今度は二人による取っ組み合いが始まる。
キラの服装はパンツスタイルだから良いとして、フレイはワンピースだから色々と危ない気がする。
…うん、止めに入った方が良いな。
そう思い、俺は取っ組み合うキラとフレイの方へと近寄っていく。
何というか、平和だな。まだ状況は何も解決していない。敵は近くに居て、すぐにでもこちらへ襲い掛かって来てもおかしくないこの状況下で、それでも二人のやり取りを見ていると、どうしても微笑ましい気持ちになってしまうのだった。
ユウがキラとフレイの喧嘩の仲裁に入ろうとした、それと同じ頃。アークエンジェルの艦橋では今後の艦の動き方について話し合いが行われていた。
この話し合いの前に、キラがヘリオポリスの脱出ポッドを無断で回収し、アークエンジェルへ収容した事への対応についてナタルが色々と話し出したが、今はそれどころではない事と、キラが正規の軍人ではなく民間人であるため、軍法では裁けない事を理由にそれについては見送られている。
「ザフト艦の動きは?」
「…駄目ですね。ヘリオポリスの残骸が多すぎて、探知できません」
ムウが振り向きながら尋ねると、索敵担当のクルー、ジャッキー・トノムラ伍長が頭を振りながら答える。
アークエンジェルの周囲では崩壊したヘリオポリスの破片が散らばり、無数に漂っている。
これのお陰で、敵艦の位置が全く掴めないのだ。
「そうか。ま、それは向こうも同じだろうし、少しは安心だ。…で、これからどうする艦長?」
ムウは今度はマリューの方へと振り向き問い掛ける。
現状、敵はこちらの位置は掴めていない。だが、このまま動かず隠れている訳にもいかない。
こうしている間にも、ザフトはこちらの索敵を続けるだろうし、見つかるのは時間の問題だ。
それに、物資の問題もある。予定通りの発進ではなかった為、現在この艦にはろくな物資が積まれていないのだ。
艦に備わっている戦力など、問題は山積みではあるが、まずは物資だ。そこの問題をクリアしなければ、何も始まらない。
「私は、
「…アルテミス。やっぱり、そうなるわよね」
ナタルが提案し、それにマリューが表情を曇らせながら反応する。
ムウもまた、ナタルの提案を聞きながら僅かに表情を苦くさせた。
アルテミス。マリュー達が所属している軍事組織、大西洋連邦と軍事同盟を結んでいるユーラシア連邦が所持している軍事衛星だ。
「受け入れてくれるかね?こっちはまだ公式発表もされていない、認識コードも持っていない、所謂存在しない筈の艦だぜ?」
「しかし、フラガ大尉もすんなり月へ行けるとは思っていますまい。至急、物資を補給しなければならないこの状況では、これが最善策かと」
「…そう、か。そうだよなぁ…。仕方ないか」
未だ表情は苦いまま、されどナタルの言う事に一理─────どころではなく、むしろそれしかないと分かっているからこそ、ムウは素直に頷いた。
そしてそれはマリューも同じだった。
マリューが黙って三人の話に耳を傾けていたクルー達へ視線を配ると、艦橋内が慌ただしくなる。
「デコイ用意!発射と同時に、アルテミスへの航路修正の為メインブースターを噴射!」
マリューの指示が艦橋内へ響き渡る。
「フラガ大尉」
「分かってるよ。二人に、いつでも出られるように待機しておくよう言っておく」
「…お願いします」
ムウが何でもない様に、微笑みながらそう言う姿にマリューの胸の中で、ちくりと刺すような痛みが奔る。
その痛みを感じる資格は自分にはないと分かっていながらも、ムウが自身のすぐ横を通り過ぎていくのを見送ってから、誰も見ていない艦長席で、マリューは無力さを感じながら強く拳を握るのだった。
艦橋を出たムウは廊下を移動しながら、拳を力一杯握り締めていた。
マリューと同じ、いや、それ以上の自身の無力さを感じながら握り締められた拳は、食い込んだ爪によって破れた皮膚から血が滴り落ちる。
「…やべ」
まずい。こんなのをユウに見られれば、あの優しい弟はこの怪我を心配してしまう。
ただでさえ、戦場に出て神経をすり減らしているであろうユウに、要らぬ負担を掛けてしまう。
ムウは無造作に掌をズボンで拭き取ってから、再び移動を始める。
「アルテミスへのサイレントランニング。…およそ二時間ってとこか」
ここからアルテミスまで、アークエンジェルの速度を考えれば二時間ほどで辿り着けるだろう。
問題はその間、何事も起こらず無事に目的地へ辿り着けるかどうか。
「…頼むから、見つからないでくれよ」
分かっている。
恐らくこの航行の間にザフトに見つかってしまえば、自分の力だけでは艦を守れない。クルーゼに傷つけられたメビウスは、もう今は出撃可能まで修理されてはいるが、先の戦いで出撃したイージス─────それに加えてクルーゼのシグーが出撃してきた場合は、何も出来ないままに自分は落とされるだろう。
最早、ユウともう一人の子供、キラの力を借りなければどうにもならない。分かってはいるが、それでも、ザフトに見つからずアルテミスに辿り着ければ、これ以上二人が戦わずに済むのだ。
情けない。情けなくて、悔しくて、涙が出てきそうだった。
それでも、今のムウが出来るのは、見つからない様に神頼みと、関係のない子供達に覚悟を決めておくように背中を叩きに行く事だけだった。
原作キラにはフレイへの淡い想いがありましたが、今作キラにはそれがありません。どころか同性による繋がりが生まれ、むしろ友達となってしまうという。
これによって、今後原作とは違う展開がそこそこ出てくると思います。何がどうなるとは言いませんが。