フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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ドゥ・・・ドゥ・・・


PHASE69 絶望の果てに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バリアント一番、沈黙!」

 

「艦の損害率、三〇%を超えます!」

 

「イエルマーク、ヤロスラフ、撃沈!」

 

 矢継ぎ早に飛び交う報告は全て絶望的なものばかりだった。

 

 アークエンジェルの被弾状況、味方の損傷、それらを報せる言葉が飛び交う艦橋で、マリューがカズイを振り返る。

 

「司令部とコンタクトは!?」

 

「とれませんっ!どのチャンネルもずっと同じ電文が返ってくるだけですよぉっ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って!」

 

 そんな馬鹿な─────と、マリューは歯噛みする。

 味方の損傷は激しく、防衛線などとうに瓦解している。

 

 キラもストライクを駆ってこれ以上なく奮闘しているが、如何せん多勢に無勢。

 むしろここまで、アークエンジェルを守りながら被弾を受けずに戦い続けている方が信じられないというもの。

 

 しかし、一体何が起きているというのか─────。

 カズイではないが、マリューも彼と同じく今すぐにでも泣いて蹲りたい衝動に駆られていた。

 戦況を見て兵を動かす役目を担う筈の司令部がまるで役に立たないとは。

 

「パナマからの救援隊は!?」

 

「全然、影も見えねぇよっ!」

 

 ナタルがトノムラを見遣り尋ねるも、トノムラから返って来たのは苛立ち混じりの否定のみ。

 

「…待ってください、バスカーク二等兵。アナタ今、同じ電文が返ってくると言いましたね?」

 

「は、はいっ!」

 

「一字一句、同じ文章が、ですか?」

 

「その通りですよぉっ!」

 

「アズラエル理事…?」

 

 周囲を敵に囲まれ、ただただ嬲られ続けるこの状況下において、ただ一人ムルタだけは比較的冷静だった。

 

 その姿は絶望に包まれる艦橋の中で、異様にすら映る。

 

「─────まさか」

 

 手を口元に当て、何かを考えこんでいたムルタの目が、ゆっくりと見開かれていく。

 かと思えば、ムルタは弾かれるようにCICのサイの元へと駆け寄った。

 

 突然走り寄って来たムルタにギョッ、とするサイに構わず、ムルタはサイの手元にあるモニターを睨みつけた。

 

「オレーグ、リューリク、ロロ─────全てユーラシア所属の艦…!あぁっ、くそっ!やられたっ!」

 

 モニターを見ながら何かを察した様子のムルタが、悔恨の表情を浮かべながら右手で頭を抱える。

 

 その様子に置いてけぼりを喰らうクルー達だがその時、トノムラが声を発する。

 

「スカイグラスパー、戦線に復帰します!」

 

 モニターに映された光点、敵の侵入を察知して基地内部へと戻っていたムウのスカイグラスパーが戻って来たのだ。

 

 スカイグラスパーはアークエンジェル周囲を飛び回りながら、ストライクと共に飛び交うディンや水中から艦を狙うグーンを撃ち抜いていく。

 

『艦長、聞こえるか!?』

 

「少佐っ!」

 

 心強い仲間が一人戻って来た事に、ほんの少しだけでも希望が湧く艦橋。

 

 しかし直後、誰もが予想だにしない台詞がムウの口から飛び出す。

 

『すぐに撤退だ!ここから今すぐ離れるんだっ!』

 

 一瞬、一人を除いた全員の思考が停止する。

 

「な─────何を言っているんですか!ただでさえ防衛線が瓦解している上に、我々が離れてしまえばっ!?」

 

『それどころじゃねぇんだよっ!いいか、よく聞け!」

 

 いち早く思考を戻したナタルが声を張り上げる。

 しかしその大声を塗り潰すようにして、通信越しにムウが憤りを隠さないままに続けた。

 

『本部の地下に()()()()()()が仕掛けられている!作動したら、基地から半径十キロは溶鉱炉になるってサイズの代物が!』

 

 ムウへ反論したナタルを初め、マリュー達が皆一様に目を見開く。

 

『この戦力で防衛は不可能だ!パナマからの救援は間に合わない!やがて守備軍は全滅し、ゲートは突破され、本部は施設の破棄を兼ねてサイクロプスを起動させる!』

 

「そうしてザフトの戦力の大半を奪う─────それが、上層部の書いたシナリオ、という訳ですか」

 

 ムウの言葉を引き継ぎ、口を開いたムルタ。

 モニターを通して視線を向けられたムウは一瞬目を瞠りながら、ムルタの予測に誤りはないと黙ってうなずいた。

 

「そんな─────そんな馬鹿なっ!?」

 

 この中で誰よりも軍規に重きを置き、忠実に軍人を務め続けたナタルが、立ち上がり声を震わせながら喚いた。

 

『俺はこの目で見てきた!司令部はもうもぬけの殻さ!残って戦ってるのはユーラシアの部隊と、アークエンジェルのようにあっちの都合で斬り捨てられた奴らばかりだ!』

 

「そん、な…」

 

 ナタルは力が抜けたように、シートの中へへたり込んだ。

 

「俺達はここで死ねと…そういう事ですか…?」

 

 呆然と聞いていたノイマンが掠れた声で呟いた。

 

「撤退を悟られないように、奮戦して─────ね。上手く生贄にされたものですね…。ボクも用済み、という事らしい」

 

 さしものムルタも、開いたその目に力はなかった。

 

 守るべきものはない。助けも来ない。彼らの死は予定されたものだった。

 より多くの敵を道連れにする為の餌─────それが、必死に戦い続けて来た彼らの旅路の果てだった。

 

「こういうのが…作戦なの…?」

 

「ミリィ…?」

 

 震えた声が上がった。

 

 ミリアリアが泣き笑いの様な強張った顔で、トールを見つめながら呟いていた。

 

「戦争だから…?私達、軍人だから…そう言われたら、言われた通りに死ななきゃいけないの…?」

 

 愛する少女の泣き顔を前にして、トールは息を呑む。

 

「そんな…、そんなの…!」

 

 その問い掛けに、トールは何と答えればいいのか分からなかった。

 

 本当ならそんなものは可笑しいと言わなきゃいけないのに、今自分達が置かれているどうしようもない絶望的な状況を前に、その言葉が出てくれない。

 

『私は嫌だよ』

 

 その時、静かに、しかしそこに確かな力が籠もった少女の声が艦橋に響き渡った。

 

 いつの間にかモニターにはムウの顔の隣にキラの顔が映し出されており、そしてここまで沈黙を保っていた彼女が口を開いたのだ。

 

『私はこんな所で絶対に死なない。死ぬ訳にはいかない。…命令とか、そんなの関係ない。死ねと言われて死ぬ馬鹿に、私はなりたくない』

 

 それは軍人としては不適格な言葉であった。

 命令無視─────だがその吹っ切れた言葉は、艦橋に居るクルー達の心に微かではあるが、力を湧かせた。

 

「…言いますね、ヤマト少尉────いいえ、キラさん」

 

『こんな所で死んだら、恥ずかしくてユウに顔向けできませんから』

 

「ふっ─────あははははははっ!それもそうだっ!ボクとした事が…ショックで頭が可笑しくなっていたらしい」

 

 モニターに映るキラと笑みを向け合いながら言葉を交わしたムルタが、マリューへと振り返る。

 

「ラミアス艦長。ザフト軍を誘い込む事がこの戦闘の目的だというのなら、この艦はすでにその任を果たしているでしょう」

 

「───────」

 

「今すぐに現戦闘海域を放棄、離脱しなさい。これは、国防産業理事ムルタ・アズラエルの()()です」

 

 クルー達は息を詰めて、彼の言葉を聞いていた。

 

 その言葉を耳にして、マリューは諦めようとしていた自身を恥じた。

 ムルタが口にした言葉、命令、それらは全て、艦長である自分が決断し、命じるべき事であったというのに─────。

 

「─────本艦はこれより、現戦闘海域を放棄、離脱します!僚艦に打電!『我に続け!』機関全速!取り舵、湾部の左翼を突破します!」

 

 ムルタに対して頷いてから、マリューは挑むように前を見据えながら声を上げた。

 

「フラガ少佐、ヤマト少尉!決して敵の深追いはしないように!」

 

 誰にも文句は言わせない、という激しくも固い意志が込められた声に、クルー達は僅かながらその瞳に希望の光を宿らせた。

 

 ただ一人を除いて─────

 

「バジルール中尉!」

 

 決意を固めたとはいえ、薄々マリューは気付いていた。

 この窮地を乗り越えるには、自分の力だけでは不可能だと。

 

 何度も意見を食い違わせながらも、常に、誰よりも自分の近くで、最も強く艦を支えてくれた、最早相棒とすら呼べる彼女の力が必要だ。

 

 副艦長席に座するナタルに声を掛ける、が、彼女からの返事はない。

 

 ナタルはこの場の誰よりも─────或いは、地球連合軍という組織に属する者達の中で最も、軍という組織を、組織に属して戦い続けた先に待つ未来を信じ続けていた。

 しかし、その信頼は裏切られた。誰でもない、彼女が信じた組織によって。

 

 その絶望、失望はこの場に居る誰にも計り知れない。彼女が本当の意味で立ち直るには、長い時間が必要だ。

 だが今、その時間を待っていられる余裕はない。マリューにとって、皆にとって、ナタルの力が必要なのは今なのだ。

 

「ナタル・バジルールッ!!!」

 

「っ…!?」

 

 それは叱責とすらいえる、ナタルに向けたマリューからの呼び掛けだった。

 マリューの声がようやく耳に入ったナタルが、ハッと顔を上げる。

 

「貴女が感じているもの、私には口が裂けても分かるだなんて言えないわ!だけど、前を見て!これが現実よ!それでも私達は、生きなきゃいけないの!」

 

「生き、る…」

 

「そうよ!色んな人を巻き込んだわ!本当なら今頃、平和に暮らしていた筈の民間人を戦いに駆り出させたわ!その一人を…私達は死なせてしまった!それでも今、私達は生きてるの!」

 

 マリューの懺悔ともとれる叫びを聞きながら、艦橋にいるトール、サイ、ミリアリア、カズイが小さく顔を歪ませる。

 

 それぞれの愛機の中で、敵機を見据えるキラとムウの瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。

 

「こんな所で死んではいけないの!私達にはその義務がある!分かるでしょう!?ナタル!」

 

「─────っ!」

 

 決して吹っ切れた訳ではない。

 それでも、とナタルの顔は上がる。

 

 冷徹ととられるまでに現実的な判断を下し続けた彼女の心の中にも、自分達を守る為に死んでいった少年の背中は残っていた。

 そして、その少年に報いる為にも、こんな所で死んではいけないという決意の炎が、彼女の心の中で揺らめくのだった。

 

 アークエンジェルのエンジンが唸りを上げ、船体が急激に加速を始める。

 

 それは、死神の鎌に囲まれながら挑む、決死の逃走劇の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラスカ近海に浮上し、待機していた潜水母艦にクルーゼのディンが着艦した。

 機体の電源を落としてからハッチを開け、キャットウォークへと出る。

 

「隊長!」

 

 コックピットから降りたクルーゼへ向けて、下の方から声が掛けられた。

 そちらに目をやると、赤いパイロットスーツを着た二人─────イザークとディアッカがそこに立っていた。

 

「二人共、補給かね?」

 

 問い掛けられた二人は同時に頷きながら、どこか誇らしげにも見える表情であった。

 

「ゲート四を陥としました!今度は内部で暴れてきますよ!」

 

「…」

 

 クルーゼはその言葉を聞き、しばし考えた後に口を開いた。

 

「足つきがいるせいか、メインゲートがまだ破れずにいる」

 

「「─────」」

 

 上機嫌でいた二人の顔が強張った。

 

「君達には、そちらへ応援に行ってもらいたい」

 

「了解しました!」

 

「隊長、ありがとうございます!」

 

 因縁深い艦だ、無関心ではいられないだろう。

 

 イザークに至っては、クルーゼの命令が自身の心情を配慮してのものと思ったらしい。

 

 意気高くそれぞれの愛機に向かって歩き出す二人の背中を眺めながら、クルーゼは笑みを浮かべた。

 

 途中、機体の索敵範囲内にアークエンジェルを捉えた。その際、かの艦はメインゲートから逆─────戦闘宙域から逃げるように針路をとっていた。

 恐らくムウが、この戦いの真実を艦長にでも告げたのだろう。

 

「いい加減、あれの顔も見飽きた」

 

 クルーゼの脳裏に思い浮かぶ白亜の巨艦─────ムウ・ラ・フラガ、そしてストライク─────キラ・ヤマト。

 クルーゼにとっても決して侮り難い敵だ。ここでJOSH-Aと共に消えてくれるなら、それは僥倖といえる。

 

 足止めとしてエースパイロットを二人送り込んだ。いくらムウ・ラ・フラガとキラ・ヤマトとはいえ、あの多勢に無勢の状況で且つ、あの二人を相手にしながら逃げ仰せられるとは思えない。

 出来る事なら、あの二人にはもう少し働いてもらいたい所ではあったが─────ムウとキラを道連れにしてくれるのなら、お釣りが出る程の働きといえる。

 

 それに、JOSH-Aを包囲する大量の部隊に加え、忌々しいコーディネイターに奪われてしまったXナンバー─────()()()()()()()()()()()、奴らも()()だろう。

 

「…なんだ?」

 

 結末は決した。

 近く出現する凄惨な光景を想像し、密かに笑みを漏らしたクルーゼだったが、不意に胸騒ぎにも似た感覚に襲われ、表情を引き締めた。

 

 正体不明の感覚─────小さく、細かなものではあるが、どうしても無視する事が出来ない。

 

 それに、それだけではなかった。

 

「近付いてきている…?」

 

 クルーゼは天を仰ぐ。

 視線の先には格納庫の無機質な天井が見えるのみ。

 

 しかし彼の目はそのもっと遠くを見据えている様に思えた。

 

「…まさか」

 

 この胸騒ぎの正体が何なのか、自身が導き出した結論に対し、あり得ないと思い浮かべながらも─────クルーゼの口元は微かに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水中からグーン、ゾノの攻撃を受けてメインゲートが陥落する。

 

 一方、アークエンジェルは湾部を突破して沖に逃れようとしていたが、その前にはモビルスーツ部隊が立ちはだかっていた。

 

 ランチャーを装備したスカイグラスパーが飛び回り、周囲のモビルスーツをアグニで薙ぎ払う。

 アークエンジェルの甲板上ではエールを装備したストライクが、ビームライフルでスカイグラスパーが撃ち漏らした敵機を次々に射撃していく。

 

「もうゲートはくれてやったんだ!こっちは見逃してくれたって良いだろうが!」

 

 湾の入り口ではザフトの潜水母艦が横に列を成し、海上のルートを封じるラインを作っている。

 それらの艦が一斉に対空ミサイルを放ち、戦闘海域を離脱しようとしていたアークエンジェルと、後に続く僚艦を襲った。

 

 アークエンジェルはノイマンの類稀なる操艦技術による急激な回避運動と、自動で放たれたイーゲルシュテルンの迎撃で辛うじて難を逃れる。

 しかし、躱し切れなかった数少ない僚艦が被弾し、炎の柱を上げながら海中へと沈んでいく。

 

『後方より、モビルスーツ二機!デュエル、バスターです!』

 

 無線からノイズ混じりに飛び込んで来た声に、キラとムウは勢いよく振り返る。

 

 彼らの視線の先には、グゥルに乗って飛んでくる宿敵の姿があった。

 

「くそォッ!こんな時に!」

 

「あの二機は私が!少佐はアークエンジェルを!」

 

「っ、頼むぞ!」

 

 即座に状況判断し、キラがムウへ声を掛けてから艦後方、接近してくるデュエルとバスターへ向けて機体を飛び上がらせる。

 

 その対応に冷静さが垣間見られたが、キラの心の中には確かにパニックの片鱗が生まれ始めていた。

 

 ただでさえ、上空から襲い来るディンやジン、更に水中からもゾノやグーンが狙ってくる中、その上デュエルとバスターまで襲い掛かって来るこの状況。

 

 万事休す─────いや、まだだ、まだ…!

 

 ビームサーベルを手に、グゥルから飛び降りて襲い来るデュエルを迎え撃つ。

 その後方ではバスターが両脇に二門の砲塔を抱えながら隙を窺っている。

 

 キラが警戒すべきはこの二機だけではない。

 アークエンジェルに狙いを付けながらも、多くの味方を撃ち落としてきた、彼らにとっては()()()()ともいうべきストライクを討たんとする血気盛んな敵兵達は多く居た。

 

「でも…!」

 

 キラにとっては絶体絶命、しかし自分に多くの注意が集まるなら、それはアークエンジェルにとっては逃げる好機。

 ユウが命を賭けて守り抜いた場所─────キラもまた、命を賭ける覚悟が定まっていた。

 

 キラとムウが決死の攻防を繰り広げる中、アークエンジェルの艦橋でも必死の戦いが続いていた。

 次々に飛び交う僚艦の被弾、或いは撃沈の報告。被弾の衝撃が引っ切り無しに艦を揺さぶり続ける。

 

「六四から七二ブロック閉鎖!艦稼働率四三%に低下!」

 

「ジン接近!」

 

 サイ、トノムラの声からは微かに正気が失われつつあった。

 

 今まで、何度も窮地を乗り越え続けて来たクルー達であっても、一度はムルタとマリューの呼び掛けで希望を湧かせた彼ら出会っても、今この瞬間、希望を抱ける者はどこにも居なかった。

 

「ウォンバット、てぇーっ!!」

 

「機関最大、振り切れぇーっ!!」

 

 ナタルとマリューが声を限りに叫ぶ。

 諦めてはいけない、と繰り返し何度も自分に言い聞かせながら、されど背後のすぐそこまで迫る死が二人の表情に切羽詰まった恐怖を浮かび上がらせていた。

 

「推力低下っ!艦の姿勢、維持できませんっ!!」

 

 その時、ノイマンが悲鳴のような声を上げた。

 

 機体が傾き始め、ゆっくりと高度が下がっていく。

 

 その現実を艦橋にいる誰もが全身で体感した、直後だった。

 

 正面の艦橋窓に、迎撃を掻い潜って来たジンが肉薄する。

 モノアイを光らせながら、真っ直ぐに艦橋へ銃口を向けた。

 

 ミリアリアが、避けられない現実から目を閉じる事で逸らし、トールは恋人を守ろうと立ち上がる。

 サイは信じられないとばかりに目を見開き、カズイは逃げ出そうと腰を浮かせた。

 

 ナタルは諦念と共に歯を食い縛りながら目を閉じて、ムルタは咄嗟に身を守ろうとしたのか、両腕を顔の前に掲げた。

 そしてマリューはガラス越しに敵を睨みつけた。

 

『アークエンジェル!』

 

 全てがスローモーションに映る中、キラの呼び掛ける声だけが正常に聞こえて来た。

 

 あぁ─────これで終わり…?

 

 マリューはクルー達に申し訳なくて堪らなかった。こんな未熟な指揮官にここまでついて来てくれて、それなのに自分は彼らに何一つ報いる事が出来なかった。

 

 こんな事ならば、子供達も拘束なんてするべきではなかった。

 トールも、ミリアリアも、サイも、カズイも─────ユウも。皆死なせてしまうなんて。

 

 …せめて。せめて、キラは。アークエンジェルから離れたフレイは。

 そして、いつもこんな自分を気に掛けて、傍に居てくれたムウは、無事でこの場から─────どうか、どうか逃げ延びてくれますように。

 

 祈りと共に、自身に訪れる死を待ちながら、向けられた銃口が火を噴くのを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、天から奔る一条の光がジンの銃身を貫いた。

 

「え…!?」

 

 目の前で起こった爆発に戸惑うのも束の間、ジンがモノアイを上空へと向けたその直後、蒼い閃光が上空から降り注いだ。

 瞬く間に頭部が斬り飛ばされ、堪らずジンが後退していく。

 

「な、なんだ…?」

 

 なかなかやって来ない死の瞬間に、ナタルを初めとしたクルー達が次々と、未だに自身が生きているという実感を取り戻し始める。

 そんな中で、マリューは前方にゆっくりと姿を現した未知の機体に目を奪われていた。

 

 白く染まった四肢が光を浴びて輝く。ボディはグレーと青のツートン、そして何よりマリューの目を引いたのは、天使の羽を思わせる巨大な十枚の翼だった。

 

 謎の機体は艦を守るようにしてアークエンジェルの前に陣取り、そしてゆっくりと艦橋の方へと振り向いた。

 

「援軍…?」

 

 誰かの声が擦れて響いた。

 ようやく助けられたのだと悟り、呆然とクルー達がこちらに向き直る謎の機体を見上げた─────その時だった。

 

 ザザッ、と一瞬、艦橋のスピーカーからノイズが奔る。

 どこかからの通信─────その場にいる全員が息を呑んだ直後、彼らの耳に聞き覚えのある声が飛び込んで来た。

 

『こちら、ユウ・ラ・フラガ。援護します、早く離脱を』

 

 それは、二度と聞く事のないと誰もが思っていた、掛け替えのない仲間のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ドゥンドゥンドゥンドゥン・・・ドゥンドゥンドゥンドゥン・・・
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