フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE72 憩いの裏で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランとカナードは本部の中枢への通路を辿り、道中オペレーションルームから漏れ出る切迫したやりとりを耳にした。

 

「何をしている?ジブラルタルからも応援を出させろ!」

 

「無人偵察機じゃダメだ!今欲しいのは詳細な報告なんだよ!」

 

「なに?そんな話は聞いていないぞ!どこからの情報だ、それは!?」

 

 情報は錯綜しているようで、こちらもかなり混乱している様子だ。

 オペレーションルームを通り過ぎ、二人は国防委員長執務室の手前で、秘書官に告げる。

 

「アスラン・ザラ、並びにカナード・パルス。議長の命により出頭致しました!」

 

「どうぞ」

 

 二人が来た事を室内にいるパトリックへ問い合わせ、少ししてから入室の許可を得たアスランが真っ先に、突進するように奥の扉を目指し、それにカナードが続く。

 

「失礼します!」

 

 逸る気持ちでアスランが、少し遅れてからカナードが入室する。

 

 中に入れば、すぐにでも何が起きているのかを問い詰めようと決めていたアスランだったが、中に入った瞬間から伝わって来る張り詰めた空気に、息を呑んで固まる。

 

「使用されたのはサイクロプスのようです。基地の地下にかなりの規模のアレイを…」

 

「クルーゼは!?」

 

「まだコンタクトは取れておりませんが、無事との報告を受けております」

 

「─────」

 

 パトリックの周りには二人の補佐官がおり、その内の一人とのやり取りを聞き、アスランは内心安堵した。

 クルーゼが無事、という事であれば、イザークとディアッカも無事である可能性は高い。

 確証を持てずとも、希望を持てた事が今のアスランにとってどれだけ大きな安堵を齎した事か。

 

「アイリーン・カナーバ以下数名の評議員が、事態の説明を求めて議場に詰め掛けています。臨時最高評議委員会の招集を要請するものと思われますが…」

 

 そう口にした補佐官へパトリックは険しい視線を向け、同時にドアの前に立っていたアスランとカナードの存在に気付いた。

 

「少し待て!…ともかく残存部隊の確認をカーペンタリアに急がせろ!浮足立つな、欲しいのは冷静かつ客観的な報告だ!」

 

 憎々し気に鼻を鳴らしてから、補佐官へ強く命じるパトリック。

 

「クラインの行方は!?」

 

 続けて出て来たその言葉に、アスランの心臓が跳ね上がった。

 

「まだ掴めていません。かなり周到にルートを作っていたようで…思ったよりも時間を要するかもしれません」

 

 その言葉が意味する事を、ほんの数秒程空けてからアスランは否応なしに理解させられる。

 

 最新鋭機とやらが奪取された後、ラクス達はすぐに姿を消したという事だろうか…?しかも国防委員会ですらその足跡を追うのに苦労する程の周到さで?

 そんなアスランの疑問は次の瞬間、一瞬にして吹き飛ばされる事になる。

 

「司法局を動かせ。カナーバ以下、クラインと親交の深かった議員は全て拘束だ」

 

「は…?いえ、しかし…」

 

「スパイを手引きしたシーゲル・クライン!その()()()()()()逃亡したラクス・クライン!漏洩していたスピット・ブレイクの攻撃目標!子供でも分かる簡単な図式だぞ!」

 

「─────」

 

 激しく両手でデスクを打ちながら、腰を浮かせたパトリックの言葉に、これまで築き上げたアスランの思考が吹き飛ぶ。

 つまりパトリックは、ラクス達がプラントを裏切り、作戦内容を地球連合軍に漏らしたと考えているのか─────いや、それよりもだ。

 

 ─────ラクスがスパイと共に逃亡した…?どういう事なんだ!?

 

「クラインが裏切り者なのだ!なのに、この私を追求しようというのか、カナーバ達は!」

 

 本当に…本当にそうなのか?何かの間違いではないのか?

 シーゲルは元はいえ、プラントの総意を代表する立場に立った事がある人間であり、兵士達を敵側に売り渡すような事が出来るとは到底思えない。

 ラクスだってそうだ。平和を愛する彼女の気持ちは本物の筈だ。それが─────それが、どうして…?

 

 内部に裏切り者がいるという推論は成り立っている。しかしそれが彼らと決めつけるには早計ではないだろうか?

 スピットブレイクの詳細は伏せられ、現最高評議会議員ですら一部知らされていない。そんな秘匿情報を、果たして議員の立場から離れたシーゲルが掴む事は出来るのか?

 

 補佐官はパトリックの剣幕に恐れをなしたようにこの場から去って行く。

 するとパトリックは大きく息を吐きながら、椅子に沈み込んで眉間に手を当てる。

 

「………状況は理解できたか?」

 

「っ、はっ!」

 

 その弱気な仕草を前に、咄嗟に労りが零れるよりも先にパトリックが口を開いた。

 

 アスランは居ずまいを正し、カナードと共に敬礼する。

 

「しかし…私には信じられません!ラクスとシーゲル様がスパイの手引きをしたなどと…そんな馬鹿な事が…!?」

 

「…見ろ。これは工廠の監視カメラの映像だ」

 

 言い募るアスランを見て、溜息を吐きながらパトリックはコンソールを操作し、壁のモニターにやや荒い映像を映し出すとそれに向けて顎をしゃくった。

 

 巨大なモビルスーツの上半身、その手前には三人の人影があった。

 一人はザフトの制服に身を包み、もう一人は柔らかなピンクの髪を波打たせ、最後の一人は白髪が混じった壮年の男の様に見える。

 

「フリーダムの奪取はこの直後に行われた」

 

 画像が拡大され、ラクスとシーゲルの顔を映し出す。荒い画面でもはっきりと、二人の顔は判別できた。

 

 だが、残る一人の顔はカメラに背を向けられていた為確認できない。背格好から見る限り、恐らく男と思われるが─────。

 

「更に、ラクス嬢がスパイと共にフリーダムへ乗り込んでいる所も確認されている。

 

 再びコンソールを操作するパトリック。直後、画面が切り替わり、今度はスパイに手を引かれコックピットへと乗り込んでいくパイロットスーツ姿のラクスが映し出された。

 

 それらの画像を目の当たりにして、アスランは何も言い返す事が出来なかった。

 

「証拠がなければ、誰が奴らに嫌疑などかける?お前が何と言おうが、これは事実なのだ!」

 

「─────」

 

 事実─────これが?

 信じたくはない。しかし、これでは…。

 

「まだ確証がとれず非公開ではあるが…、フリーダムがJOSH-Aに現れ、地球軍側を援護したという情報もある」

 

「っ…!」

 

 更に告げられる、フリーダム─────ラクスの決定的な背信行為。

 アスランは今すぐこの場で蹲りたい衝動に駆られながらも、必死に両足に力を込めて立ち続けていた。

 

「アスラン・ザラ、そしてカナード・パルス。二人はこれから工廠でX09A-ジャスティスと、ハイペリオンを受領し、このX10A-フリーダムの奪還と、パイロット及び接触したと思われる人物、施設、全ての排除に当たれ」

 

「…待ってください。接触したと思われる人物、施設までも─────全て、ですか?」

 

 辛うじて耳に入ったパトリックから下された命令の中に引っ掛かりを覚えたアスランが身を乗り出す。

 

「フリーダム及びジャスティス、ハイペリオン二号機─────これら三機にはNJCが搭載されている」

 

 彼の言った言葉の意味に理解が及ぶまで、アスランもカナードも一拍を要した。

 そして、先程下された過剰な命令の意味にも納得が至る。

 

「何故…!プラントは全ての核を放棄すると!その為のNJではなかったのですか!?」

 

 フリーダム、つまりあの機体には核動力が備わっている事になる。

 あの機体が地球連合軍側に渡ってしまえば、プラントは再び核の危機に晒される─────何故?

 何故そんなものを持ち出す必要がある?アスランの母を、パトリックの妻を、ユニウスセブンに居た数万の命を一瞬にして奪った、忌避すべき力を、何故!?

 

「勝つ為に必要となったのだ、あのエネルギーが!」

 

 冷たく言い放つパトリックが、もうアスランには分からなかった。

 母の死を最も悲しんでいた父が何故?母の命を奪った核を最も憎んでいた筈の父が何故?

 核が生み出す悲しみ、憎しみを最も知っている筈の父が、()()()に持ち出したというのか?

 

「この件は速やかに、そして可能な限り密かに処理せねばならん。この任務は重大だぞ。心してかかれ」

 

 言われるまでもなく、自身に課せられた任務の重大さをアスランは自覚していた。

 

 だが、信じられない。信じたくない。

 

 何より、父が命じた接触したと思われる人物、施設、その全ての排除─────それはつまり、フリーダムに搭乗したというラクスも排除しろという事だ。

 

「…っ」

 

 いつの間に呼んでいたのか、アスランとカナードを迎えに来た議員の一人が執務室のドアの前に立っていた。

 

 アスランはパトリックに背を向けて、ドアへと足を踏み出す。

 後ろからカナードの足音を聞きながら、執務室を出て、ジャスティスとハイペリオンがあるという工廠への案内に従って歩みを進める。

 

 ─────確かめねばならない。

 

 フリーダムに乗ったラクスはプラントから離れていても、シーゲルはそうではない。まだ彼は、プラントのどこかに居る筈だ。

 ならば確かめなければならない。どういう真意を持って、フリーダム奪取の手引きをしたのか。核の力を、何の管理を施さず解き放ったのか。

 

 それを知らねば、アスランは前に進む事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアァァァァァァァァ………」

 

 我ながら酷い声だ。最早、この声を生者のものと思う人はいないのではないかと自分でも思う程。

 

 だが、そんな声を出したくもなる程度には疲労困憊に今の俺は陥っていた。

 何しろ艦橋でたった今、公開処刑を受けて来たばかりだからだ。

 

 せめて─────せめて、キスの話だけは避けようと思っていたのに、ラクスが平然と話し始めるものだから…もう顔から火が出そうだった。

 もう、ラクスとのキスの話を聞き終えた時のキラの顔と、お腹を押さえる兄さんの姿がそれは印象的だった。

 

 …それはそれとして、さっきまで俺から先にキスをされたとか、キスの回数はこっちの方が多いとかでマウント取り合ってた二人が、今では仲良くキラの自室で話しているのはどうなんだろう?

 艦橋にいた時はあんなに殺伐としていたのに─────やっぱり、根本的には好印象を抱き合っているんだろうか、あの二人は。キラがキラちゃんになっている為に色恋沙汰にまでは至っていないだけで、言葉を交わす回数こそ少なくとも、ああやって仲良くなるのは自明の理なのだろうか。

 

「あっ…」

 

「?」

 

 因みに俺はかつての自室へ戻ろうとしている。

 何やらキラとラクスは二人で話したいとかで、俺は締め出されてしまった。まあ、ガールズトークか何かだろう、知らないけど。

 

 その道中、曲がり角でバッタリとサイに出くわした。

 俺の顔を見た途端、気まずそうな表情を浮かべるサイに何故?と疑問符を浮かべる。

 

「…フレイの事、残念だったな」

 

「っ…」

 

 この時の俺は、サイ自身まだフレイの異動について吹っ切れていないのだろうと考えていた。

 フレイが自分の傍から離れ、必死に割り切ろうとしている途中─────()()()()なのだと考え、その話題がサイにとって、そして俺にとっての地雷だとも知らず、切り出してしまったのだ。

 

「…フレイ、ユウの事で相当ショックを受けてたよ」

 

「…そうか」

 

 こうして俺は生きていて、サイを含めたアークエンジェルの人達と再会を果たした。

 ただ、フレイは違う─────アークエンジェルから異動した彼女は一人、未だに俺は死んだという思い違いを続けている。

 

 …今頃、クルーゼと共に居る頃─────或いは従来の通りに異動が進んでいるか、どちらかは分からないが、せめて無事であってほしいと願う俺を、サイは複雑そうな目で見つめていた。

 

「俺、フレイとの婚約を解消したんだ」

 

「え…?」

 

 サイの口から出て来た言葉に、一瞬思考が固まる。

 

 婚約を解消?何故?

 

 見る限りサイとフレイの仲は良好だったはずだ。サイからの好意は見てとれたし、フレイからはどうかは知らないが、少なくとも婚約者という関係に対して嫌悪感は抱いていなかった筈だ。

 原作とは違い、このまま二人はゴールインするんだろうとばかり思っていた。それが─────今になって何故?

 

 フレイが異動になったから?いや、それでは理由が弱すぎる。それならば、一体─────

 

「気付いてたか?フレイ、ユウの事が好きだったんだよ」

 

「は─────?」

 

 今度こそ、完全に自身の思考が停止したのが分かった。

 

 誰が、俺の事を好きだって?

 …フレイが?どうして?

 

「あいつ、ユウの仇をとりたくて異動を受け入れたんだ」

 

「ま、待ってくれ…。俺の仇?いや、確かにあいつにとって俺は死んだんだと思うのは当然だけど…、何で─────」

 

「だから、フレイがユウの事が好きだからだよ。ユウの事が好きだから…、お前が殺された事をどうしても許せなかったんだ」

 

「…」

 

 言葉が出ない。だんだんと語気が強まっていくサイに気圧されるのを自覚する。

 

 俺は…とんでもない勘違いをしていたのか?

 原作通り、軍に都合のいいプロパガンダとして異動が決定したとばかり思っていた。だが、サイが言うにはそれは違う。

 俺を仇をとるため─────だとすれば、フレイの異動先は戦闘とは関係のない後方ではない。あいつが望んだ居場所は、最前線という事になる。

 

「前からずっと感じてたんだ。俺じゃあ、ユウとフレイの間には割り込めないな、って」

 

「そんな、事は──────」

 

 突如、泣きそうな顔をしながらサイがそんな事を言い出すものだから、思わず否定の言葉を返そうとする。

 すると表情を豹変させながらサイが振り向いて、声を上げた。

 

「あるさっ!初めからそうだった訳じゃないだろうけど、フレイの中での一番の支えはいつの間にかユウになってたんだよっ!」

 

 やり切れない表情で声を荒げるサイは俺の前まで詰め寄ると、軍服の襟を両手でつかみ上げ、俺の背中を壁に叩きつけた。

 

「キラと同じだったよ…!あいつ、お前が死んだって塞ぎ込んで…!あのゲイツって機体のパイロットをお前の仇って言って、銃で殺そうともしてた…!」

 

「…」

 

「あのアズラエルって人にも復讐なんて止めろって言われて…、それでもフレイは止まらなかった!止まれなかったんだ!お前が、大好きなユウが死んだって思っちまったからっ!」

 

 サイの慟哭が、言葉一つ一つが刃となって胸に突き刺さる。

 

 そう、か…。俺はまた一つ、掌から取りこぼしてしまったのか…。

 

「こんな事言ったって、どうしようもない事は分かってる…!けどお前、プラントで何やってたんだよ!フレイが苦しんでた時、あの歌姫と仲良くして!」

 

「おい、何の騒ぎだ!」

 

 不意に聞こえてくる第三者の声。

 それにも構わず、目尻に涙を溜めながら、サイは俺を睨み続ける。

 

「お前が生きててよかった…!それは俺の本心さ!だけど…、理不尽なのは分かってるけど…、今俺はお前を許せそうにない…っ!」

 

 「サイ、止めろっ!」と、俺の襟元を掴んだサイの手を第三者─────トールが引き剥がした。

 見れば、少し離れた所で心配そうにこちらを見つめるミリアリアとカズイの姿もあった。

 

 荒げた声を上げ続け、乱れた呼吸を整えてからサイはふいっとこちらから視線を逸らして明後日の方を向く。

 

「…ごめん。いきなり掴みかかったりして」

 

 トールの手を振り払ってから、サイはむっつりした表情で去って行く。

 

 トールが一瞬、気遣わし気にこちらを見遣った後、やはりサイを追い掛けていく。

 ミリアリアもカズイも、トールと同じように俺を見てから、彼に続いてサイを追い掛けて行った。

 

 俺は─────その場から動く事が出来なかった。

 壁に背中を寄りかけたまま、ずるずると力が抜けていき、床に座り込む。

 

 もう、心がぐちゃぐちゃだった。色んな気持ちがごちゃ混ぜになって、今すぐにでも喚きたくなって──────だけど、迷いはなかった。

 だって、迷う必要がないだろう。何せ、あの話を聞いてすべき事なんてたった一つしかないのだから。

 

 それにフレイが原作通りの流れに至っても─────今回がそうとは限らないが、どの道答えは一つである。

 

「…待ってろ、馬鹿弟子が」

 

 俺が嫌がるのを面白がりながら、悪戯気に「師匠」なんて呼んで来た彼女の顔を思い出しながら固く決意する。

 

 連れ戻して、そして俺も一緒になってサイに謝らせる。

 ここに残ってさえいれば、謝るのは俺一人で済んでいたものを─────憎しみに負けて、自分を好いてくれている男を酷い方法でフリやがって…そんな馬鹿弟子を持った覚えはない。

 

「絶対に連れ戻してやる」

 

 決意が籠もった声は誰の耳に届く事はなく、しかし俺の中に確かに染み渡り、そして前へ向かう力となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────あと気になったけど、さっきサイ、ゲイツのパイロットって言った?デュエルと一緒にバスターいたから変だと思ってたけど、捕虜になったの、ディアッカじゃなくてミゲルなの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まあね、婚約者を死んだと思っていた相手に寝取られた(ユウ本人に過失はほぼなしではあるが)挙句、実は生きていてしかも二人目の妻(予定)とイチャイチャしてましたーとか、そりゃ怒る。
ユウ自身は何も悪くなくてサイ本人も理不尽であると自覚しても、怒りが抑えられなくなりますわ。
そしてユウはまた曇る─────なおラクスカウンセリングパワーで決意の力に変える模様。
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