フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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少し短いですが、投稿です。


PHASE74 先を行く者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホール内に静寂が染み渡る。ステージ上、倒れたシーゲルを中心に、胸の傷口から血の泉が広がっていく。

 

 下手人である執事は無機質な目でその光景を見下ろし、アスランとパトリックの配下の男は何が起こったのか未だ受け止められないまま、呆然と見つめる。

 

「─────」

 

 ふと、事切れたシーゲルを見下ろした執事の口元が、嘲笑の形を描いた─────その直後、凍り付いた時がようやく動き出す。

 

「シーゲル様ぁ─────!!!」

 

 どこからか、シーゲルの護衛の男の悲鳴が響く。

 それと同時に、執事は視線を横へ振りつつその場から跳び退く─────瞬間、鳴り響く銃声。執事の上着を掠らせながら銃弾が横切っていく。

 

 この場に居る誰もを驚かせる反応速度を披露してみせた執事は、最早自身の口元に浮かべた笑みを隠しもしないままに銃口を向け、素早く引き金を引く。

 大きく動きながら、ぶれる照準を即座に固定して先程執事に向けて凶弾を放った護衛の一人を射殺したかと思えば、動きを止めずに今度はアスラン達の方へと突っ込んでくる。

 

「っ─────!?」

 

 一連の流れの中で、少し遅れて思考を取り戻したアスランが、未だ呆けている隣の男から銃を奪い取って隣に舞い込んで来た執事へと銃口を向ける。

 すると、執事はおどけた風を見せながら両手を上げて戦意がないアピールをする。

 

「おっと…。ここでアンタらと敵対する気はないんだ。むしろ目的を果たした今、俺もアンタらにもここに居る理由はない。なら、ここは共闘しないか?」

 

「共闘、だと…?」

 

 先程まで浮かべていた感情の見えない無機質な表情、態度はどこへやら。執事は表情一杯に愉悦を浮かべながら、アスランへと提案を持ち掛けて来た。

 

 確かに執事の言う通り、シーゲルが死んだ今、アスランにこの場に居座る理由はない。

 しかし、シーゲルを殺した執事は勿論、敵対する立場であるアスラン達をシーゲルの護衛達は逃がしはしないだろう。

 

「ちっ…!おい坊ちゃん、考えてる暇はないぜ。俺と協力してこの場を生き延びるか、ここで死ぬか。選びな」

 

 身を屈め隠れる椅子の背凭れに、桟敷席から放たれた銃弾が当たる。

 対し、執事が腕を伸ばし、そちらへ銃弾を撃ち返しながらアスランへ続けて言葉を掛ける。

 

 先程の執事の動きからして、只者ではない。ここでアスランが共闘の提案を断ったとしても、この男は一人でこの場から逃げ仰せられるだろう。

 だが手負いのアスランと、一人残ったパトリックの配下では─────最早選択の余地はなかった。

 

「坊ちゃんは止めて貰おうか」

 

「ハンッ、テメェなんざ俺からすりゃぁ世間知らずの坊ちゃんに過ぎねぇよ。…俺が前に出る、援護しなッ!」

 

 そう言うと、執事は躊躇いなく椅子の影から飛び出していく。

 次々に放たれる銃弾を振り切りながら駆け回る執事に注意が集まる中、アスランが身を乗り出し、銃声から発砲元を特定し、引き金を引く。

 

 シーゲルの護衛達も負けじと、駆け回る執事に注意を向けつつもアスランに応戦しようとする。

 しかしその僅かな隙を、執事は逃さず発砲─────再度執事に注意を向ければ、今度はアスランが放つ銃弾が襲う。

 

「くっ…!これでは─────!」

 

「退くぞ!このままじゃ全滅だっ!」

 

 アスランと執事が護衛達を撃ち抜いていき、四人目が執事の銃弾に貫かれ絶命した時だった。

 男達が掛け合う声が聞こえた瞬間、引っ切り無しに鳴り響いていた銃声がピタリと止む。

 直後、遠ざかっていく足音を響かせながら、シーゲルの護衛達は堪らず撤退していった。

 

「やれやれ…。情けねぇな、たかだか三人に好き放題やられるなんて、元議長様に選ばれた護衛が聞いて呆れるぜ」

 

 やがて足音が聞こえなくなり、周囲にアスラン達以外の人の気配がない事を確認した執事が、赤髪をかき上げながら侮蔑の言葉を吐き捨てる。

 

 銃を上着の中へ戻しながら、執事はアスラン達の方へと歩み寄って来る。

 一方のアスランは銃口こそ向けずとも、手に銃を握ったまま警戒は解かず、執事に向かって尋ねた。

 

「貴方は…何者だ?」

 

 尋ねられた執事は足を止め、アスランと視線を交わす。

 

 年齢は20、或いは30台くらいだろうか…、顔立ちは整っている。背中まで伸びた赤い髪は情熱的に、切れ長の翠色の瞳はそれと逆に冷酷さを感じさせる。

 しかし、整った顔立ちも嗜虐に歪んだ表情で台無しだ。この男は一体、何がそこまで楽しいのだろう。

 

 たった今、仕えていた筈の主君を殺したばかりだというのに─────微かな憤りも込められた問い掛けに、執事はやはり嗤いながら口を開いた。

 

「それを坊ちゃんに教えて、何になるってんだ?俺の得になる事があんのかよ?」

 

「─────」

 

 突き放す言葉でありながら、その言葉遣いはどこかアスランに対する気遣いが込められていた。

 それはまるで、大人が小さな子供へ常識を教えてあげているかのような─────咄嗟に湧き上がった激情に、アスランの瞳孔がカッ、と見開かれる。

 

「おっと、怒るなよ。悪かったって、名前くらいなら教えてやるよ」

 

「くっ…、貴様っ!」

 

 アスランの反応を面白がっている様にしか思えない執事の仕草は、火に油を注ぐように、アスランの激情を勢いよく燃え上がらせた。

 

 そんなアスランに構わず、執事はマイペースに直立しながら片手を胸に置き、絵になる様な所作で腰を曲げてお辞儀をする。

 

「申し遅れました。私はロイ・セルヴェリオス─────つい先程まで我が主、シーゲル・クライン様の近侍を務めておりました…つってな」

 

 理想とすら呼べる見事な所作を披露した執事─────ロイは、最後に所作を崩して再び嗜虐の笑みを浮かべた。

 

「さて、と坊ちゃん。そろそろ工廠の方へ戻らなきゃだろ?…まあ、その手じゃ出撃は無理か、カカカッ!悪ぃな、怪我させちまって!命令だったからな、恨むならシーゲル様にしてくれや」

 

「…」

 

 スピリットの激闘の末、まだ治り切っていない左腕だけでなく、先程ロイに拳銃を弾き飛ばされた時─────衝撃を受けた右手から痛みが発していた。

 上手く隠していたつもりだったのだが、ロイはあっさりとアスランの怪我を見抜いて指摘する。

 

 それに、アスランの事情を熟知している─────シーゲルの近侍を務めていたという以上、ザフトの情勢についても知られているという事だろうか。

 

「ま、丁度いいや。アンタら、俺を軍本部まで連れてってくれや。ちょいと用事が出来たんでね」

 

「ふ、ふざけるなっ!貴様はここで拘束させてもらう!お望み通り軍本部まで来て貰うぞ!」

 

「拘束だぁ?…あー、構わんぞ。ほれ、痛くない様にしてくれや」

 

「き、貴様ぁ…!!!」

 

 ここまで翻弄されっぱなしだったパトリックの配下が、ようやく息を吹き返す。

 背後に回した両手を、馬鹿にするようにひらひらと動かすロイを射殺さんとばかりに睨みつけながら、懐から取り出した手錠で拘束する。

 

「アスラン・ザラ、貴方も一緒に来て貰います」

 

「あぁ…」

 

「ハンッ、さっきまで無様にちびってた奴が今更粋がりやがって。面白れぇ」

 

「貴様は黙っていろっ!!!」

 

 怒鳴られながら連行されていくロイの後にアスランも続く。

 

 ─────こいつは…何なんだ?

 

 その背中を睨みつけながら、アスランは思う。

 狙いがさっぱり分からない。何故、シーゲルをああもあっさりと殺したのか…。

 態度を見る限り、シーゲルに対し何かが許せないという憎しみがあったようには見えない。明確な殺意に至る動機があったようには思えない。

 

 ロイから感じられるのは、今のこの状況が愉しくて仕方ないという一杯の愉悦の感情─────駄目だ、理解が出来ない。

 

 雨が降り出した外へと出てからも、パトリックの配下が運転する車の後部座席に乗り込んでからも、アスランにはこのロイ・セルヴェリオスという男が、さっぱり分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る車の座席にて、窓から流れていく景色を眺めながらロイは思考する。

 

 ─────シーゲル・クラインは殺せたが…、ラクス・クラインは逃がしちまったな。まあ、命令通りに捕らえる気もなかった訳だが。あの女、あんな()()()()()()()()に渡すなんて勿体なさ過ぎる。

 

 まだクライン邸が健在だった頃、あそこで過ごした日々を─────ラクスが浮かべた表情の数々を思い返す。

 

 ─────初めはこの坊ちゃんと同じくただの世間知らずだと思っていたが…、あぁ、そうだ。()()()()()()()()()()()()()()か、良い女になりやがった。

 

 そうだ、三か月くらい前だったか。ユニウス・セブンの追悼慰霊団に同行したラクスが、行方不明になった事があった。

 あの時は地球軍の─────アークエンジェルとかいう戦艦に保護され、その後無事にプラントへと戻って来たが、あれからだ。ロイがラクスに対して向ける視線が変わったのは。

 

 小娘だと思っていたラクスが、一丁前に()となって戻って来た。

 敵艦内で良い男でも見つけたのか、或いはそいつと交わりでもしたのか、とにかくロイはプラントへ戻って来たラクスを見た瞬間に、ラクス・クラインという女が欲しくなった。

 

 ─────()()()からの命令は果たしたが、その後どうするかは特に何も言われてねぇ。ラクス・クラインに関しても好きにしろと言われてる。…なら、俺の好きにさせて貰おうじゃねぇか。

 

 ロイの脳裏に過るのはラクスの顔─────ではなく、彼女の傍を寄り添いながら、彼女と共にフリーダムで飛び去っていった少年の顔。

 恐らくだが、ラクスを女にしたのがあいつ─────確か、ユウ・ラ・フラガといったか。

 

 ─────あのガキを殺したら、ラクス様はどんな顔するのかねぇ…。イイ顔を見せてくれるのを期待するとしますか。

 

 その名にどこか()()()()を感じた事など頭の隅に追いやりながら、ロイはユウを殺したその先に想いを馳せる。

 愛する男が殺されたと知った時、ラクスは一体どんな顔をするのだろう。どんな思いで泣くのだろう。

 

 それを想像するだけで、ロイは身震いする程に内心で興奮を抑え切れなくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 命令を受けてから八時間の時間が過ぎた頃、適当に周辺をぶらりと歩き回ったカナードはハイペリオンの工廠へと戻って来た。

 その時、何故かジャスティスの工廠に居なければならない筈のアスランが居た事には驚かされたが、彼の口から怪我をしたから()()()()()()()()()()()と聞かされた時は、何をしているんだこいつはと心の底から呆れてしまった。

 

 「俺も後から行く」と言葉を受けてから、カナードはハイペリオン二号機のコックピットに座る。

 OSの電源を入れ、システムを立ち上げていくカナードの頭の中には、すでに機体のスペックが頭の中に入っていた。

 

 主な武装は変わっていない。ハイペリオン最大の特徴である防御システム、アルミューレ・リュミエールも健在だ。

 変更された所は、装甲にPSが備わった事と、動力に核が使用されている事─────それを前提に推進装置を再設計し、大気圏内でも単独での飛行が可能になり、そしてなにより、理論上は永続的にアルミューレ・リュミエールを展開し続けても、バッテリー切れには陥らない事になる。

 ただ、流石にスペックアップしてもアルミューレ・リュミエールの連続使用にはそう長時間耐えられないそうで、安全を考慮するのであれば全面展開状態の場合は最大五分、それ以上の展開を続ければ冷却が追いつかず、システムや動力がオーバーヒートする危険があり、最悪核爆発を起こす恐れがあるという。

 

 しかし、全周囲で展開、それも展開状態の継続を余儀なくされる状況になどそう陥りはしない。

 絶対防御を誇るハイペリオンは、核の力の恩恵を受け、正に無敵の機体へと進化を遂げた。

 

 ─────キラ・ヤマト。

 

 オーブにて、フェンス越しに見た少女の顔を思い出す。

 彼女はアークエンジェルと共にアラスカへと向かった─────その先で、オペレーション・スピットブレイク、ザフトの襲撃に遭い、更にはサイクロプスが起動し、被害のほどはまだザフト側でしか把握できていないが、かなりの大打撃を受けた。

 

 …キラは無事なのか?

 つい以前まで身勝手な憎悪を振り翳し、殺そうとしていた自身が今更何をとも思うが、今のカナードは居ても経ってもいられなかった。

 

 そして─────

 

『その妹みたいな二人とやらを守る為に戦うのもいいんじゃないか?』

 

 カガリ・ユラ・アスハ─────馬鹿みたいに真っ直ぐな言葉で、自分に語りかけて来た少女の顔も思い出す。

 

 カガリは今、オーブに居る筈だ。

 中立故に、今すぐに争いに巻き込まれるという事はないだろうが、プラント内でもオーブの力を吸収すべきではという意見がちらほらと上がり始めているのをカナードは知っている。

 

 キラが無事なのか、カガリがいるオーブは大丈夫なのか─────二人が居る地球へと、カナードは新たな力を手にして向かおうとしている。

 

 ─────守る、か。…以前の俺に言ったら、何を返されるか分かったものじゃないな。

 

 内心苦笑いしながら、そんな事を思う。

 

 キラを憎み、殺意を向けたかつての自分が今の自分を知ったらどう思うか─────少なくとも正気を疑うのは間違いないだろう。

 その上で、未来の自分が腑抜けたと激昂し、武力を行使してくる可能性だってあり得る。

 

 自分で自分に対しそう評価を下しながら、カナード・パルスという男は何と野蛮な人物か、なんて思いながら。

 

 PSシステムがオンになり、機体が今や馴染み深い配色に色づいていく。

 

「カナード・パルス!ハイペリオン、出るぞ!」

 

 もう、ここへ戻って来る事はないだろう。

 

 一瞬、出撃するハイペリオンを見送るアスランの姿がモニターに映った。

 それを見て、短い間ではあったが、同じ隊として戦場を共にしたイザークとディアッカの顔が脳裏を過る。

 

 三人を裏切る形になった事には、ほんの少しだけ罪悪感を覚えた。

 そんな情緒がまだ自身に残っていた事に驚きも覚えながら、されどカナードは迷いはしなかった。

 

 今の自分には、それ以上に大切なものがある。

 例え相手に自分という存在が認知されていないとしても─────カナード・パルスは二人の兄なのだから。

 

 カナードは前方に輝く星を見据えて、機体を発進させる。

 今までに感じた事のない清々しさを覚えながら、彼もまた、再び先へと進み始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という事で新キャラロイ・セルヴェリオスです。
感想ではNジャマーで親しい人が死んでシーゲルを恨んでる、という予想をされている方もいらっしゃいましたが、外れです。普通にやべー奴です。
何やら背後に誰かが居るみたいですが─────ロイが言う()()()、是非予想してみてください。
なお、感想にて予想について書かれても、その部分については返信しないのでご承知を。
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