アークエンジェルがオーブを目指し始めてから三日後、ようやくオーブにコンタクトがとる事が出来た。
オーブはアークエンジェルを拒む事はせず、快く入国を受け入れてくれ、それから更に四日の航海を経て今、最初に訪れた時と同じようにオノゴロ島の秘密ドックから入港を果たした。
その頃の俺はというと…、キラとラクスに挟まれる形で艦内の廊下を歩いていた。
因みに言えば、先日のキラ、ラクスと話した内容については、あの後すぐに兄さんの方に伝えた。主に俺ではなく、キラとラクスからではあるが─────二人から「お義兄さん」と呼ばれた時の兄さんの引き攣った顔は忘れない。
そんでその後に、俺と二人きりで話したいとキラとラクスに頼んで連れ出された次の瞬間、手加減なしに頭を引っ叩かれた恨みも忘れない…。
さて、無事にオーブへ入国できたのは良かったが、本当に大変なのはこれからだ。何しろ、問題は山積みだからだ。
ムルタさんは割り当てられた部屋に引き籠って、未だに各所への連絡を続けている。出てくるのは本当に食事をとりに行く時くらいで、その食事も食堂ではなく自室で摂っているらしく、艦橋で話したあの時から俺自身、彼の姿を見ていない。
関係各所に生存の連絡や今後の動向について話し合わなければならないのと同時に、地球軍側に自身の生存を悟られても厄介な事になる─────ムルタさんに安寧の時が訪れるのは一体いつになる事やら…。
「ユウっ!!!」
不意に響き渡る叫び声。
その声が自身を呼んだものだと一拍置いてから悟った所で、誰かが駆ける足音が近付いている事に気付く。
何だ─────振り返った俺の視線に、ふわりと揺れる金色が映った直後、胸元に強烈な衝撃を受ける。
「ぐっ─────!?」
思わず呻き声が漏れる。
衝撃を受け止めきれず、その勢いで後ろ向きに倒れ、咄嗟に首を前に曲げる事で床へ後頭部をぶつけるのだけは避けられたものの、強く背中を打ち付け、呼吸が止まる。
「このっ…バカぁっ…!」
胸元から聞こえてくる声に、今俺に突進してきたのが人である事をようやく理解する。
そして、チカチカはっきりしない視界にその人物を映して、俺は彼女の名前を呼ぶ。
「カガリ─────」
「おまえっ…、おまえ!死んだと思ってたぞっ!この野郎っ!!」
「…ごめん」
怒っているのか、喜んでいるのか、よく分からない。とにかく涙でくしゃくしゃになった顔を見上げて、カガリへ謝罪をする。
「ホントに…生きてるんだな…!?」
「あぁ、生きてるよ」
見れば分かる事だろうに、なんて言わない。胸倉を掴んで来ながら発せられた問いに、頷きながら答えた。
そこでようやく、カガリは涙を流しながらも笑顔を見せてくれた。
「約束は守ったよ」
「─────あぁっ」
オーブを発つ前にカガリと交わした
女の子とする所作ではない気がするが、何というか、カガリにはこれがぴったりな気がした。
「カガリ」
「「─────」」
友との再会を果たして、俺とカガリの間に流れる空気が和みかけたその時だった。
底冷えする声がカガリを呼び、呼ばれたカガリは勿論、彼女と一緒に俺も身震いした。
「き、きら…?」
胸倉を掴んでいた手を離してカガリが見上げた先には、仄暗い笑顔で俺達を見下ろすキラ─────そして彼女の隣には同じ類の微笑みを浮かべたラクスが居た。
「分かる、分かるよ。私もユウが生きてたって知った時は、嬉しくてしょうがなかったから。カガリの気持ちは分かるんだよ。…でも、ごめんね。ラクスとフレイ以外はちょっと、許せそうにないかも」
「あ、え、っと…」
「…離れよっか?」
「は、はいっ!!!」
首を傾けながら問い掛けという名の最早命令に従って、カガリが素早く俺から離れる。
それを見たキラは満足げに頷くと、次に顔を上げた時には、その笑顔から仄暗さは消えていた。
「…少し油断したらすぐ、ユウは他の女の方に手を出すのですね」
「待ってくれ。これは俺が悪いのか?」
カガリが離れた事で解放された身体を起こすと、ラクスが少しだけ頬を膨らませながら言ってきた。
心外だ。俺はラクスとキラ以外の女の子に手を出した覚えはない。それは、キラが許すと口にしたフレイだって例外じゃないんだぞ。
「おい…。お前、キラと一体何があったんだ?ていうか、キラの隣にいるのって─────」
「あー…。それについては歩きながら話そう」
カガリの疑問は尤もだった。
俺にカガリが接近した事に対して過剰に反応するキラとラクス。カガリはアークエンジェルにいた時点から、俺とキラが互いに向け合う感情を察していただろうが、それでも明確に関係を進められずにいた時点までしか知らない。
そしてラクス─────プラントの歌姫、ラクス・クラインの顔はカガリだって知っている筈だ。そんな彼女が、何故キラと一緒に同様の反応を示したのか、疑問に感じるのは至極当然だろう。
その疑問については、さっき俺が言った通りに歩きながら語った。海上での戦闘、死んだと思ったら助かっていて、プラントにいた事。
そこでラクスと想いを通わせて、アークエンジェルに生きて戻ってからはキラと想いを確かめ合った事。
結論として、二人に対して同様に愛を注ぐという事で一旦の決着を着けた事─────それらの話を聞いた後、信じられないといった目を向けながらカガリは言った。「何やってんだお前」と。
…うん、その反応が普通なんだよ。だからキラとラクスは、訳が分からない風に首を傾げるんじゃあない。
俺達から現在までに至る経緯について話した後は、今度はカガリが話す番だった。
アークエンジェルからの要請を受け入れ、MIAとなった俺の捜索に加わったカガリが見つけたアスラン─────と、カナード。
そうか…、カナードも無事に救助されたのか、と安堵しつつキラとカガリの会話に耳を傾ける。
「そっか…。アスランに会ったんだ」
「あぁ。あいつ、めちゃくちゃ落ち込んでたぞ」
「…」
カガリの言葉を受けて、俯くキラに向けて続けて言葉が掛けられる。
「お前とあいつの間に何があったかは知らないけど…、多分あいつは、スピリットを─────ユウを殺した事でお前を傷つけたって理解してた」
「え…?」
「あの時の私は、ユウが殺されたとばかり思ってたから一杯一杯だったけど…。きっと、後悔してたんだと思う。ユウを殺した事にも、お前と殺し合った事にも」
「…」
アスランとカガリの間でどんな話があったのか、明確には窺い知れない。ただカガリの口から、アスランはこう思っていたのではないかという彼女の印象が語られていく。
それを受けて、キラは何を思っているのか─────。
「あいつ…、危ないと思うんだ」
「カガリ…?」
「何ていうんだろ…。仲間の所に戻っていく時のあいつの目─────そうだ。オーブを出る前の、ユウの目に似てた」
カガリからアスランについて何を語られても表情を動かさなかったキラが、その言葉を受けて目を見開いた。
「あいつ言ってた。プラントを守る為に戦い続けるって。お前が相手でも、プラントに仇なすなら撃つって」
「…」
「…お前、それでいいのか?小さい頃からの友達だったんだろ?本当に、このままで…」
「カガリ。…ごめん、少し一人にさせて」
まだ何かを言おうとしたカガリを遮って、キラは一人先に歩き出してしまった。
「キラっ─────ユウ」
歩き始めたキラを咄嗟に追い掛けようとしたカガリの肩を掴んで止める。
カガリがどうして、と悲しい目でこちらを見るが、それに対して俺は頭を振った。
「今は一人にしてやろう。考えたいんだよ、自分がどうしたいのか」
「…キラ」
心配ではある。ただ、今のキラには一人で考える時間が必要なんだろう。
ラクスも同じ気持ちの様で、去って行くキラの背中を黙って見送るだけだった。
明日になっても姿を現さなかったら、部屋まで様子を見に行くとしよう、と誰にも漏らさず心の中で決めた今この瞬間から一時間ほど経った後だった。
入港したアークエンジェルへ、オーブ軍本部からウズミからの要請が入ったのは。
ラミアス艦長、兄さん、バジルール中尉にムルタさん。そして俺とラクス、キラに対して招集が掛かった。
「こうしてお会いするのは初めてですね、アスハ代表。此度は我々の身勝手なお願いを受け入れて下さり、ありがとうございます」
オーブ軍本部の一室に集められた俺達は、オーブ側から会合に現れたウズミ、キサカ、カガリの三人と対面していた。
まず一歩前に出たムルタさんが手を差し出すと、ウズミが握手を受け入れる。
「事が事ゆえ、貴方を含めたクルーの方々にはしばらく不自由を強いるが、それはご了承頂きたい」
深い声で言った後、ウズミはムルタさんとの握手を解いてからこちらに視線を向ける。
「地球軍本部壊滅の報から、再び世界は大きく動こうとしている。見聞きし、それからゆっくりと考えられるがよろしかろう。…貴殿らの着ている、その軍服の意味もな」
その言葉は元より軍人ではないラクスは勿論、俺とキラには特に響くものはなかった。
しかし、自分の意志一つで入隊を決意し、長年軍に所属して戦い続けて来た他の三人にとっては違う。
ラミアス艦長が、ちらりと自分が身に着けた軍服に目をやったのが見えた。
ウズミに求められてアラスカで起こった事を話す間も、ラミアス艦長を初め、兄さんとバジルール中尉もその表情はまるで晴れない。
苦い思いと脱力感ばかりが増していっているのだろう。特に、ウズミに説明をしているラミアス艦長にそれが顕著だった。
「サイクロプスを使用したとは…。いくら敵の情報を掴んでいたとて、常軌を逸しているとしか思えんな…」
ラミアス艦長からの説明を聞き終えたウズミが、苦々しい表情で言う。
しかし事実、それによってザフト攻撃軍の八割の戦力を奪ったのは事実だ。
机上の冷たい計算によって算出された、立案者に都合の良い犠牲の上に、だが。
「そして、これか─────」
ウズミが壁のスクリーンに映像を呼び出す。それは、地球軍司令部の公式発表の映像だった。
曰く、アラスカ守備軍は最後の一兵士まで勇敢に戦った。
曰く、JOSH-A崩壊の日を、大いなる悲しみと共に歴史に刻まなければならない。
曰く、大きな犠牲を乗り越え、今こそ力を結集させ、地球の安全と平和、そして未来を守る為に立ち向かわねばならない。
─────どの口が宣ってるんだ。
ラミアス艦長は俯いて、固く拳を握りしめている。バジルール中尉は、青ざめた表情で報道官の偽善的な煽り文句を聞いていた。
「分かっちゃいるけど、堪らんね…」
そして兄さんは、震えを感じさせる声で呟いた。
こうなるであろう事は分かりきっていた。だが、実際に目の当たりにすればやり切れない気持ちはどうしても湧き上がってしまう。
ウズミも聞いていられなかったのか、小さく頭を振ってから映像を切る。
「大西洋連邦は中立の立場を取る国々へも、いっそう強い圧力を掛けて来ておる。連合軍として参戦せぬ場合は、敵対国と見なす、とな。無論、我がオーブも例外ではない」
アラスカで斬り捨てられた兵士達の死をプロパガンダとして、反コーディネイター感情を高まらせ、中立を貫き続けた国々に対し、連合からのみならず民衆からも共に圧力を掛ける─────。
オーブについてはその効果は見られていないが、事実それで連合に与する国も出てきているという。
「怖いんですよ。立場をはっきりしない国の存在が」
ムルタさんが口を開き、彼にその場全員の視線が集中した。
「味方であれば安心。敵であれば攻め落とせばいい。ただ─────そのどちらか分からない存在に対して、どう行動を起こせば分からない。味方と信じて良いのか、或いは背中から撃ってくる可能性だってある」
「オーブはそんな事─────」
「アナタ方がどう思おうと、関係ないんですよ。特に、要請を受ければ敵の支援でさえ行う国─────頭の固いお馬鹿さん達が信じられると思いますか?」
ムルタさんが言う可能性の中に、オーブも含まれていると察したカガリの昂ぶりを遮って、彼は演技染みた所作で両腕を上げながら彼女へ問い掛ける。
つい最近まで所属していた組織の上層部へ向け、隠しもしない嘲りの言葉にカガリは思わず呆けている。
「…ご存じの事と思うが、我が国はコーディネイターを拒否しない。オーブの法を守る者であれば誰でも、入国、居住を許可する数少ない国だ」
「カガリとユウ君がナチュラルなのも、キラ君とラクス君がコーディネイターなのも、当の自分にはどうする事も出来ぬ、ただの事実でしかないだろう」
ウズミが言うと、キラとラクスがこちらに視線を向けて来たのが分かった。
俺も一度そちらに視線を向けてから、三人でカガリの方へと視線を向けて─────同じくこちらを見ていたカガリと視線を交わした。
「なのに、コーディネイター全てをただ悪として、敵として攻撃させようとする大西洋連邦のやり方に、私は同調する事が出来ん」
俺達の顔をウズミが見渡す。
「しかし…、仰る事は分かります。ですが、それはただの理想論に過ぎないのではありませんか?」
そんな時、気まずげにバジルール中尉が反論の言葉を口にした。
「代表が仰られた事は理想です。それでも、コーディネイターはナチュラルを見下し、ナチュラルはコーディネイターを妬みます。…それが現実です」
ラミアス艦長と兄さんが頷いた。
オーブの理念は立派だと思ってはいても、実際にコーディネイターの驚異的な力を目にしてしまえば、どうしても自分と比べてしまう。
残念ながら、人間というものはそういう醜い生き物なのだから。
「分かっておる。無論我が国とて、全てが上手くいっている訳ではない。が、それが現実と諦めては、やがて我らは本当に互いを滅ぼし合うしかなくなるぞ」
ウズミへ反論したバジルール中尉が、バジルール中尉の言葉に頷いていた兄さんとラミアス艦長が、窓際に向かっていく広い背中を見つめた。
「この道がどれほど困難か、そんな事は重々理解している。だが、現にナチュラルだから、コーディネイターだからという枠組みに囚われず、心を通わせた者達がそこに居るではないか」
「「「─────」」」
ウズミがこちらを見ながら言い、続けてこの場に居る全員の視線が俺、キラ、ラクスに注がれる。
─────ていうか、怖い。何で分かったの?勿論言ってなんかいないし、現状この人に情報を伝えられるのはカガリくらいだけど、そんな時間があったとは思えない。本当に何故分かった…?
「子供達に出来た事を、我々大人が投げ出す訳にはいかんだろう」
小さく微笑み、再び兄さん達へと視線を向けるウズミ。
バジルール中尉はまだどこか迷いが晴れていない様子だが、兄さんとラミアス艦長は違い、その目にもう迷いはなかった。
─────待って、良い話風に締めようとしないで。違和感に気付け三人とも。この人、聞いてもないのに俺達が向け合っている感情に気付いたんだぞ?マジで、どこで気付いたっていうんだ?
「…どの道を選ぶも、君達の自由だ。その軍服を裏切れぬというのなら、手を尽くそう。…まだ時間はある。真に望む未来を見極められよ」
柔らかい口調でウズミが言い、これにて会合が終了するという雰囲気に包まれた、その時だった。
「アスハ代表はどうお考えなのでしょう?」
ムルタさんが、ウズミへ問い掛けた。
真っ直ぐに向けられた問いに対し、オーブの獅子は暫し考え込むような間を置いた後に、低く答える。
「ただ剣を飾っておける状況ではなくなった。…そう思っている」
「…それが聞きたかった」
正に我が意を得たりといった笑みを浮かべたムルタさんは続ける。
「必要であれば、オーブに協力致しましょう。あぁ─────ボクはもう、連合にとっては死人ですので、抵抗を感じる必要はありませんよ?何ならボクが知る限りの情報と、そこから割り出される今後の連合の方針についての予測もお話致しますか?」
「…変わりましたな、ムルタ・アズラエル。二年前の貴方とは大違いだ」
「…まあ、ボクもまだまだ妬みを捨てられないガキだったんですよ。二年前にやっと大人になれた、ただそれだけです」
「…?」
何故かムルタさんとウズミがこちらを向く。何で見られているのか分からず首を傾げれば、二人共小さく笑みを零してから視線を再び互いへ戻す。
「では早速来て頂きたい。よろしいか?」
「えぇ、勿論。あぁ…、実のところまだ、今のボクの状況について各所への通達が終わっていないんですよ。途中で席を外す場面があるかもしれないので、そこはご承知頂きたい」
…何か、凄い光景だな。ムルタ・アズラエルとウズミ・ナラ・アスハが手を取り合っている。
しかもそこにラクス・クラインが加わってるって考えたら─────もう色々と大丈夫な気がしてきたぞ。
勿論、これらはイレギュラーが重なった結果のものだ。今後もそれが起きないとは限らないのだから、到底予断は許されない状況は続くが─────二人の同盟は、こんなにも心強い。
「コーディネイターだから─────ナチュラルだから─────。─────決めた」
「キラ?」
不意にキラが何かを呟くのが聞こえて、ラクスと一緒に振り向く。
キラはこちらを見上げながら口を開いた。
「ユウ。私、決めたよ。…やっぱり私、アスランを殺したくない」
「…」
「私は、またアスランと友達になりたい。アスランが私を拒んでも─────彼の中に、ほんの少しでも私と同じ気持ちが芽生えているのなら、諦めたくない」
「…そうか」
固い決意を宿した目を見て、笑みが零れる。
「いいと思う、それで」
「うんっ」
キラにそう声を掛ければ、嬉しそうに微笑んで彼女は頷く。
やっぱり、キラには必要だ。シーゲル様には悪いけど、あれに相応しいのは俺じゃなくて、キラなんだ。
「き─────」
「失礼致しますっ!」
キラとラクスへ、俺が考えている事を告げようとした時だった。
勢いよく扉が開かれ、慌ただしく一人のオーブ軍将校が部屋に中に入って来る。
「何事だ!?」
突然の出来事に驚き振り向いたウズミが発した声には、礼を欠いた将校への叱責も含まれていた。
対して将校は僅かに申し訳なさを表情に含ませながらも、敬礼をとりながら口を開いた。
「ご報告します…!国家反逆罪で手配されていたシーゲル・クラインが射殺されたと、プラント国営放送で報道されています!」
「なに…!?」
この場の誰もが、将校の口から飛び出た報告に凍り付いた。
ウズミが驚きに目を見開き声を上げ、ムルタさんが目を細める。
ラミアス艦長、兄さん、バジルール少尉も立ち尽くし、俺とキラは驚きつつも傍らにいるラクスを覗く。
「─────」
「ラクスっ!」
言葉を失い、声を出す事も出来ず、ただ震えるしか出来ないラクスの身体がふらりと傾き、咄嗟に両腕を伸ばして支える。
「…大丈夫。ありがとう、ユウ」
「大丈夫って…、ラクス」
「貴方と共にプラントを発った時から、覚悟はしていました」
「─────」
気丈に振る舞うラクスだが、表情は青白い。悲しい決意だけが、今の彼女を支えていた。
─────それにしても、
キラに寄り添われ、薄く微笑むラクスを見ながら思う。
フリーダム奪還に際し、逃走経路を確保はしていただろうし、護衛の態勢も万全だった筈だ。
逃げ場を失い、暗殺されたというのが現在最も可能性が高い─────が、それにしたって
─────プラントで、何が起こってるんだ…?
ムルタ・アズラエルとウズミ・ナラ・アスハが手を組むという事件の裏で、プラントでも何かが起こっている。
シーゲル様の暗殺─────プラントは勿論、地球圏にとっても大きな出来事だが、それは単なる嵐の前触れなのではないか、と。
そう思えてならない─────。