前回の話でお分かりと思いますが、今作のフレイは綺麗なフレイです。
という事で、綺麗なフレイのとくと喰らうがいい。
キラとフレイの間に割って入り、未だ怒りが収まらないキラを何とか宥めてから二人と一緒に格納庫を出た俺は、食堂へ寄ってトール達と合流。
そこでフレイとサイによる感動の再会を目撃してから、俺達は最初にラミアス大尉に案内された一室へと戻って来ていた。
「え!?この艦、追われてるの!?」
意味が分からぬまま避難した脱出ポッドをストライクに回収され、そのままアークエンジェルへとやって来たフレイに、サイから現状の説明がされる。
「…ごめん」
「あ、うぅん、違うの!キラがポッドを拾ってくれなかったら、もっと危ない目に遭ってたかもしれないし…。だから、気にしないで?」
フレイからすれば堪ったものではない筈だ。搭乗したポッドが故障し、極限の緊張からようやく解放されたかと思えば、実は危険度で考えれば今もそこまで変わらないという。
サイの説明を受けた直後こそ驚愕の表情を浮かべたものの、落ち込むキラを笑顔で励まそうとする彼女の姿からは、原作で見せたキラを陥れようとするあの彼女の姿は全く想像できない。
むしろ、今の二人はどう見ても、仲の良い姉妹にしか見えない。勿論、姉はフレイでキラは妹。
…あれ、そういえば姉妹といえば、このキラはカガリとは会ってるんだろうか?
そこまでは俺も介入してないし、原作の流れが変わるなんて事はないだろうけど、あそこでキラとカガリが会っていないと、キラの今後の精神衛生上あまり良くない気がする。
「けど本当、俺達どうなっちゃうんだろ」
しょんぼりするキラの髪を優しく撫でるフレイという構図を、格納庫でのあのやり取りの時と同じく微笑ましく思いながら眺めていると、不意に力のない声でカズイが呟いた。
不安に思うのは当然だろう。繰り返すが、この艦はザフトに追われている。ザフトを撃退し、追い返す事が出来れば良いが、今この艦内に居るどの民間人よりも詳しく現状を理解しているサイ達にはそれが難しい事もまた、理解していた。
だからこそ、不安に思う。これから自分達はどうなってしまうのか。また、あの日常へと戻る事が出来るのか否か。
…生きていられるのか否か。
「ユウ・ラ・フラガ!キラ・ヤマト!」
その時だった。部屋の外から、フルネームで俺とキラを呼ぶ声がした。
キラは驚きながら勢いよく、一方の俺はゆっくりと振り返り、声の主が誰なのか確かめる。
俺の場合は見るまでもなく、誰が来たのか分かっていたけどな。
「キラはともかく、俺までフルネームで呼ぶ必要ある?」
「まあ、一応形式というか、礼儀というか…。お前らにこれから頼みたい事を考えるとな、こう呼ぶべきだって思ったんだよ」
「私達に頼みたい事って─────まさか」
その言葉で色々と察する。
今、兄さんは兄としてではなく、一人の軍人として俺の前に立っている事。そして、兄さんが俺達に頼みたい事が一体何なのか。
キラも同じく、後者に関しては察しがついたようだった。
キラと一緒に部屋の外へと連れ出された後、兄さんの口から現在の状況が俺達に語られた。
今、アークエンジェルは迅速に補給をするべくアルテミスへと向かう。その際、ザフト艦に捕捉されないよう走行中はスラスターを一切吹かさないサイレントランニングという方法をとるという。
しかし、万が一ザフトに見つからないとも限らない。その時に備えて、俺とキラにはスピリットとストライクに搭乗し、いつでも出撃が出来るよう待機していて欲しい。
それが、兄さんが俺達に頼みたい事。
…やっぱり、原作通りの航路をとったか。むしろその方が先の展開が読めるし、やりやすい。
「分かりました」
その言葉を返したのは、俺ではなかった。
俺も了承の返事をしようとは思っていたが、それよりも先にキラが口を開いた。
「…いいのか、嬢ちゃん」
「頼んだのはそちらなのに、どうして驚くんですか?」
驚き目を見開いて、呆然と返す兄さんを見たキラが、小さく笑みを溢した。
「…嫌ですよ、また戦うなんて。本当だったら、貴方達の事なんて見捨てて逃げ出したい。だけど…、私は、私の友達を見捨てられない。それに─────」
「…?」
キラの、自身の友人に対する思いの独白。その後、キラは俺に視線を向け見つめてくる。
…何ぞ?
「一人で戦わせたくないから」
「…」
─────本当に不思議でならないのだが、どうしてこのキラはこんなに覚悟が固まってるの?しかも、どうして俺への好感度がこんなに高いの?
まだ会ったばかりだよ?確かに戦場を共にしたし、そういった意味で絆とか感じたりしてるのかもしれないけど、それにしたっていくら何でも好感度高すぎない?
「あー…。兄からの忠告だが、こいつは苦労するぞ?」
「べ、別にそういうんじゃありませんから!」
俺にはよく分からないが、兄さんの台詞はキラには意味が伝わったらしい、
何で顔を真っ赤にして、こんなにも慌ててるのかは知らないが…。
「もし、ザフトからの襲撃があればその時は俺も出る。大船に乗ったつもりでいろよ」
「キラ。大船に見えるかもしれないけど、実は泥船だから気を付けろよ」
「おいっ!?」
「─────ぷっ、あははははは!」
俺達兄弟のやり取りを見ていたキラが、耐え切れず笑い出す。
それに釣られ、俺もつい笑ってしまい、そして大笑いする俺とキラを兄さんが苦笑いをしながら眺める。
現状は全く予断を許さない。緊張感に満ちたこの状況で、こんな風に笑うなんて、バジルール少尉に見られれば何と言われるか。
それでも、まあ、緊張で体がガチガチに固まるよりはずっと良いだろう。
その証拠に、兄さんからの頼みを聞き入れた時には固かったキラの表情が、今は柔らかくなっているのだから。
「…サイ。あのモビルスーツに乗ってたのはキラだって言ったわよね」
「あぁ、そうだけど…」
「なら…、あのヘリオポリスで起きた戦闘は?まさか、あの時戦っていたのはキラだったって事?」
「…そうだ」
先程のサイの説明からではいまいち読み取れなかった。その部分を、たった今行われていたキラ、ユウ、ムウの会話を聞いて察したフレイは改めてサイに確かめ、そして胸中に悲嘆が広がっていく。
「どうして…。どうして、あんなに優しいキラが、そんな事に巻き込まれなきゃいけないの…!?」
その思いはフレイだけじゃなく、サイ達にも同じだった。
優しくて、温かくて、よく笑い、すぐ照れて、すぐ泣いてしまう。
そんな普通の女の子が、何故こんな事に─────戦争に巻き込まれてしまうのだろう。
「私─────」
しかしそれと同時に、フレイの胸の中でとある思いが過った。
フレイにとって、キラは妹みたいな存在だった。
どうしても放って置けない、一人にしたら何をしでかすか分からない。自分を慕い、笑い掛け、喧嘩をした時には泣いて、自分が悪くない時でもいつも自分から謝って。
例えキラが
そんな彼女が、自分が見ていない所で一人、命の危機に晒されているのだ。
だというのに─────自分はこんな所で何もせず、キラに守って貰っているだけで良いのか?
「決めた」
「フレイ?」
そしてフレイは決断する。その決断をサイ達に打ち明け、するとサイ達はフレイを支持し、更に自分達もと次々と決断していく。
違う世界線ではこの時、怯えて一人で震えるしか出来なかった箱入り娘は、ここには居ない。
居るのは、一人の親友の為に勇気を奮い、立ち上がる強い少女だった。
艦橋にけたたましい警報が鳴り響く。
沈黙は破られ喧噪へ、クルー達はそれぞれの持ち場へと走る。
「大量の熱量感知、戦艦クラスと思われます!距離200、イエロー3317、マーク02チャーリー!進路ゼロシフトゼロ!」
「何だと!?同方向に向かっているのか!」
報告から、感知した艦はこの艦と全くの同方向へと航行している。
まさか気付かれたのか、とクルー全員に不安が過るが、それにしては二隻の距離は離れている。
だが、気付かれていないのだとすれば偶然にしては出来過ぎている。
「目標はかなりの高速で移動中、横軸で本艦を追い抜きます!艦特定、ナスカ級です!」
「そうか…っ!先回りしてこちらの頭を抑えるつもりだ!」
続けて入るオペレーターからの報告から、相手の狙いを悟ったムウが声を上げる。
「もう一隻、ローラシア級がいた筈よ!位置は!」
「本艦の後方、300に進行する熱源あり!」
「…やられたな。このままじゃローラシア級に追いつかれ、だが逃げようとエンジンを吹かせばナスカ級が転進してくるって訳だ。おい、二隻のデータと宙域図を貸してくれ!」
状況は最悪に近い。アークエンジェルは二隻のザフト艦に挟み撃ちに遭い、逃げる事も出来ない状況へと追い込まれた。
最早、とれる手は一つ─────交戦のみだった。
しかしその状況の中で、たった一人ムウは思考を止めず、画面に送られてきた二隻のデータと宙域図を相手に睨み合う。
「な、何か策があるのですか?」
「しっかりしろ、艦長!それを俺達で考えるんだよ!」
戦うのは自分達だけではない。本来前線へ出る必要のない─────出てはいけない民間人の力も借りているのだ。
それなのに、大人が子供におんぶに抱っこでいて良い筈がない。
ムウはマリューへ強く喝を入れた後、必死に思考を回し、打開策を組み立てるのだった。
第一戦闘配備の命令が響き渡ったのは、パイロットスーツに着替える為に、キラと別れてそれぞれの更衣室に入った直後の事だった。
急いで着ていた私服から青のパイロットスーツに着替え、ヘルメットを腋に抱える。
それどころではないと分かってはいるけど、このパイロットスーツを自分が身に纏っている事へ少しの感動を覚える。
俺、キラと同じ格好をしてるんだ…。あ、キラって原作の方ね?この世界のキラちゃんじゃないよ?俺は女装とかそういう趣味はないから。
パイロットスーツの着用が終わり、更衣室を出たその時、同じく着替えを終えたキラが更衣室から出てきてバッタリ出くわす。
「うわっ、びっくりしたっ」
俺からすればキラが飛び出してきたと見えた様に、キラからすれば俺が飛び出してきたと見えただろう。
驚き、目を丸くしながら急停止するキラ。
当たり前だが、パイロットスーツは体に密着した作りになっている。着た人のボディラインがよく現れてしまう。
キラは今、女性用のパイロットスーツを着ている。簡単に言えば俺が着ているのが青で塗色されているのに対し、キラが着ているスーツはピンクに塗色されている。
Destinyでステラ・ルーシェが身に着けていたあのパイロットスーツだ。あれを、今キラは着ている。
回りくどくなってしまったが、何を言いたいのか。
…こいつ、結構
何がとは言わない。ただ、先程までのゆったりとした服装からでは見てとれなかったものが、今の服装ではハッキリと見えるようになったとだけ言っておこう。
「?どうしたの?」
「いや、何も」
危ない、視線が向いてしまっていた事に気付かれていない。
うん、この話はもうお終い。俺の煩悩もシャットアウト。気持ちを切り替えなければ、もうすぐ出撃なのだから。
純粋なキラちゃんは俺の返事を信じ、一度笑顔で頷いてから俺と並んで格納庫へと向かう。
…本当にごめん、大丈夫。もう二度とあんな不埒な目では君を見ないから。神に誓うよ。
俺、神とか信じてないけど。
「キラ!」
「ふ、
格納庫へと向かう俺達の前で、曲がり角から現れた数人の人影。
その人達は俺達の姿を見つけた後、進路を変えてこちらへ、キラの名を呼びながら近付いてきた。
キラは驚き、先頭に居るフレイの名を呼びながら、驚き目を丸くする。
驚いたのは俺も同じだ。何しろ、トール、サイ、ミリアリア、カズイの四人はともかく、
「これ?艦橋に入るなら軍服を着ろって、あの小うるさい人に言われちゃった」
「艦橋って…えぇ!?フレイ、一体何を…」
キラの動揺を他所に、フレイはくるりと回転しながらスカートの端を摘まんでキラへ微笑みかけながら、「似合う?」なんて問い掛けている。
…あの、本当にこの人は一体誰?フレイさん、原作と様子が違い過ぎて眩暈がしそうなんですが。
「フレイがキラに守られるだけなんて嫌だって言い出してな。…俺達も、キラが心配だし。だから艦の仕事を手伝おうって事になったんだ」
「サイ…皆…」
キラが呆然とフレイ達を見回し、そしてキラの視線を受けたフレイ達が笑顔で頷く。
何とも心温まる、友人同士のやり取り。
…それはそれとして、艦の仕事を手伝うっていう発案者がフレイだって?
いや、ええっと、本当に失礼だけど、マジで君、どちら様?本当に貴女はフレイ・アルスターですか?あのワガママ箱入り娘でコーディネーター嫌いのフレイ・アルスターさんなんですか?
原作の面影が!マジでこれっぽっちもない!どうして、こうなった!?
「それじゃあ、キラ。またね」
「頑張れよ!俺達も、艦から力を貸してるからな!」
ミリアリアとトールが最後に声を掛け、彼らは去っていく。
そんな彼らの背中を、キラは無言で見つめ、彼らの姿が見えなくなってからもその場に立ち尽くしていた。
…嬉しいし、感激するに決まってるよな。大切な友達からそんな事を言われれば。
だが悪いが、ここでこうして感激し続けている訳にもいかないのが現状だ。
「わっ」
「守らなきゃな。大切な友達を」
「…うん」
キラの背中を強めに叩き、無理やり我に返してから声を掛ける。
その言葉に、キラは微笑み頷いてから、俺と一緒に再び格納庫へと向かう。
守らなきゃ─────俺がキラに掛けたこの言葉、キラが思っているであろう気持ち。
俺もまた、同じだった。この世界じゃまだ会ったばかりの、友達とも呼べない間柄だが、あんなにも良い人達を死なせたくない。
今のやり取りを見て、俺はそう思わされた。
「来たな」
格納庫へ着くと、すでにパイロットスーツに着替えて待機していた兄さんが俺達を出迎えた。
俺とキラは表情を引き締め、兄さんの前で立ち止まる。
兄さんは俺とキラの表情を少しの間見つめてから、再度口を開いた。
「それじゃあ、作戦を説明するぞ」
「アスランは発進後、ガモフから出撃する機体と合流し、足つきを攻めろ。ミゲルは私と同行、足つきのモビルスーツ二機を足止め、或いは撃破する」
『『了解』』
ヴェサリウスとガモフの接近を察知し、アークエンジェルが戦闘配備を進めていたその同時刻、同じくヴェサリウスでも戦闘配備が行われていた。
クルーゼはシグーのコックピットに乗り込み、イージスに乗り込んだアスランと、ジンに乗り込んだミゲルの二人へ指示を出す。
『ですが、隊長自ら出撃されなくとも良いのでは?俺達だけでも充分かと思いますが』
「私とて、君達ならばやってくれると信じているさ。だが、念には念をというやつさ」
クルーゼの指示に了承の意を二人が返した後、ミゲルが表情を僅かに険しくしながら口を開いた。
ミゲルの言う通りではあった。クルーゼがいなくともヴェサリウスから二機、ガモフから三機のモビルスーツが出撃する。
一方、アークエンジェルの戦力はモビルスーツ二機とモビルアーマー一機。その内、モビルアーマーはクルーゼのシグーとの戦闘で受けた損傷が修復したのか定かではない。
数で言えば圧倒的にこちらが有利。その状況下で、隊長であるクルーゼ自ら出撃する必要性は薄いと、ミゲルは感じていた。
ミゲルだけではなく、アスランも同じく、ミゲルと同様の表情を浮かべて通信を通してクルーゼの顔を見ている。
その疑問に対し、クルーゼは簡潔に答えを返す。
念には念を、そう言われてはアスランもミゲルも何も言い返せなかった。
何しろ、自分達は数的には有利な状況で、スピリットとストライクを落とす事が出来なかったのだから。
アスランとしては事情があったものの、ミゲルとしては何の言い訳もできない、完敗といえる戦闘。
『っ…』
忌々し気に歯を鳴らすミゲルの姿にクルーゼは笑みを浮かべる。
「何としてもあの二機と足つきを沈める。期待しているぞ、ミゲル、アスラン」
そう言い残し、クルーゼは一旦通信を切って神経を統一させる。
─────ミゲルから貰ったスピリットの戦闘記録は、クルーゼを驚愕させる価値がある物だった。
何しろスピリットに乗り込んだパイロット、ユウ・ラ・フラガは素人であるにも関わらず、油断していたとはいえオロール機とマシュー機をあしらい、更には前回の敗戦を経て油断を捨てた筈のミゲルとも渡り合ったのだから。
「(忌々しい。が、流石はあの男が後継者として満足がいくほどの存在、というべきか)」
能力はあっても、欠けたものが多すぎた自分とは違い、正当な後継者としてあの男─────アル・ダ・フラガが期待を掛ける事が出来た存在。
故に、急ぐ必要があった。
その才能が開花する前に仕留めておかなければ、必ずや自らの野望の最大の障壁となる。
そう悟ったクルーゼは、悪手と自覚しながらも、自ら出撃する事を選んだ。
アスランのイージスとミゲルのジンが出撃する。続けてクルーゼのシグーが出撃する番となり、カタパルトへと機体が運ばれていく。
「ラウ・ル・クルーゼ、出るぞ!」
機体がカタパルトから射出され、無重力空間へと飛び出す。
クルーゼの駆るシグーは先に出撃したイージス、ジンに続き、アークエンジェルへと襲い掛かるのだった。