フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE79 嵐の前の静けさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミゲル脳破壊事件(ミゲル命名)以来、手の空いている時にユウが食事を運んで来るようになった。

 時折ユウと一緒に可愛らしい少女─────キラや、ラクスも一緒についてくる事もあり、ミゲルの食事が終わるまでこの三人の内のユウとキラ、ラクスのどちらかが相手をしてくれている。

 

 仲間の仇と憎み、殺そうとした身としては少々複雑に思いつつも、ずっと薄暗い場所に閉じ込められている中で、このわずかな時間が一日で唯一の楽しみとなっていた。

 時にユウと共にやって来るラクスについても、彼とのやり取りを見ている内に普通の女の子として見られるようになっていた。

 ─────当初は何度も脳を焼かれ、この感覚に果たして慣れる時は来るのだろうかと不安に思いもしたが。

 

 また、ユウが拘禁室に姿を現した。

 それを見て起き上がり、いつもの様に食事を持ってくるのを待つ─────しかし、ミゲルはユウの手に何も持っていないのを見て首を傾げた。

 

 時間はいつもと大体同じの筈だ。しかし、ユウはいつものトレーを持っていない。

 

 何だというのか─────不思議に思っていると、ユウは鍵を開けてミゲルを閉じ込めていた扉を開け放った。

 

「?─────尋問か?それとも移送?」

 

 咄嗟に頭に浮かんだ二つの可能性を問う。どちらも有り難くはないが。

 国に帰してくれるというのなら別だが、どこかの軍施設に押し込められるというなら─────人種の枠を超えて、言葉を交わす事が出来る、友とも近い相手と離れるのはほんの少しだけ嫌だった。

 

 しかし、ユウから返って来た答えはミゲルにとって思いも掛けないものだった。

 

「オーブに攻めてくる地球軍を迎え撃つ為に、出撃する事になった。だからミゲルは─────釈放、とは違うのかな?とにかく、出てって良いってさ」

 

「─────は?」

 

 目が点になるとはまさにこの事。ミゲルは思わず耳を疑った。

 が、一方のユウはミゲルのパイロットスーツを目の前に置いてから、「それじゃ、元気で」と、とっとと出て行こうとするではないか。

 

「─────って!待て待て待てっ!?」

 

 鳩が豆鉄砲を食ったように固まっていたミゲルは我を取り戻し、慌ててユウの後を追った。

 

「???」

 

「いや、訳分かんねぇのは俺の方な!?」

 

 何でそっちが首を傾げる─────!!?

 

 口を突いて出そうになったツッコミを呑み込んで、ミゲルは問い掛ける。

 

「オーブに地球軍が攻めてくる?それを迎え撃つ!?お前らは地球軍じゃなかったのか!?」

 

「違うけど?」

 

「違うのか!!?」

 

 本当に、もう訳が分からない。

 足つき─────アークエンジェルは、地球軍の戦艦だった筈だ。そしてその艦に搭乗し、地球軍が開発したモビルスーツのパイロットであるこの少年も、地球軍の兵士だった筈だ。

 

 それが─────地球軍ではない?大体、この艦にラクスがいる理由すらまだハッキリと分かっていないというのに…。

 自分が独房に閉じ込められている間に、一体全体何が起こったというのだ。

 

「俺も、この艦に乗っている人達も、もう地球軍じゃない。きっと、まだ自分が何者なのかも分からない人達も多いんじゃないかな」

 

「…なんだよ、それ」

 

 言っている意味が分からない。さっきからもう、分からない事だらけだ。

 

 だけど─────一つだけ、ミゲルにもハッキリと分かる事があった。

 

 この少年は─────きっと。

 

「お前は、どうするんだよ」

 

 ミゲルに問われたユウは、一瞬ポカンと呆けてから、微笑んで答える。

 

「勿論戦うさ」

 

「─────」

 

 何の迷いもなく放たれた返答に、ミゲルは面を喰らう。

 

 ユウと交流をしている間に、彼やストライクのパイロットだというキラが正規の軍人ではなかったという事は聞いていた。

 だがだからといって、一時とはいえ身を置いていた陣営をそうも簡単に切り捨てられるものか─────?

 

 いや、事情があったユウとキラならばまだ納得はいく。

 他のクルー達は─────?何が彼らを、地球軍と袂を分かつ決意をさせた?

 

「ラクス様も─────そうなのか?」

 

「…危ないからついて来させたくはないけど」

 

 そして、ラクス・クライン─────彼女もまた、ユウ達と共に行くという。

 

 だからといってミゲルにとって何かが関係する訳ではないのだが、一人のプラントの住人として思わず気になってしまった。

 

 それだけの筈だ。本当に、それだけの─────。

 

「…お前らは、何故戦う?」

 

 自分でもどうして、何を思ってこんな事を聞いてしまったのか分からない。

 

 ミゲルが戦う理由はたった一つ、プラントを守る為だ。誰に何と言われようとも、そこを譲るつもりは絶対にない。

 

 なら、この少年は?正規の軍人ではない、ただ流されるままに戦いに身を投じたこの少年は、軍人という縛りから解き放たれて尚、何を思って戦うというのか。

 

「未来が欲しい」

 

 そう答えて、ユウは去って行った。

 ただ呆然とその先を眺めていたミゲルは、不意に笑みを零すと小首を傾げつつ呟く。

 

「でかいこと言いやがって…」

 

 ユウが言う未来─────それがどんなものなのか、ミゲルには想像が出来た。

 それと同時に思う。

 

 この艦に来る前のミゲルであれば、声を上げて笑い飛ばしていただろうに。

 コーディネイターである二人の少女と心を通わすナチュラルの少年と出会うまでのミゲルであれば、出来る筈がないと言い放っていただろうに。

 

 そのどちらとも出来ない今の自分は─────心のどこかで、ユウと同じ未来を夢見ているのだろうか?

 

 ミゲルの中で、何かが少しずつ、変わり始めていた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 補修作業が終わったアークエンジェルのドックは、人影もまばらで静まり返っている。

 

 まるで嵐の前の静けさ─────あと数時間もすれば、また戦場へと赴く。

 そんな少し先の未来を思いながら、マリューは自分の判断は正しかったのだろうか、と迷いがまた頭をもたげていた。

 

 この先に待っているのは戦いを否定する為の戦い────また大層な矛盾を抱えたものだ。自分達が否定する行為にこれから、またも手を染めようとしているのだから。

 だが、オーブが連合の要求に応じたとしても、どの道彼女らに待っているのは戦いである。

 

 戦い、戦い、戦い、戦い─────どの道を往こうとも待っているものが同じならば、自分の心が向く方へとマリューは歩きたかった。

 しかしその為に、皆を巻き込んでも良かったのだろうか…?

 

「なーに黄昏てんの?艦長さんが」

 

 窓から外を見ていたマリューへ、背後から声が掛けられた。

 振り返れば、艦橋へと上がって来たムウが傍に歩み寄ってきている。

 

「─────」

 

 ムウへと顔を向け、その直後、彼と一緒に居たナタルの顔を思い出し、マリューは目を背けた。

 

「結局退艦は十一名。みんな凄いじゃないの。JOSH-Aがよっぽど頭に来たのかね?」

 

 声に出さずとも、その所作に微かに込められた拒絶は、ムウへと届いた筈だ。

 それにも構わず、ムウはマリューの傍らで立ち止まると、いつもの軽い調子で話し掛けてくる。

 

 ムウが言った通り、クルーの大半は艦に残る事となった。だが果たして、それは本当の意味で彼らが考え、選んだ結果なのだろうか。

 自分が無意識に、彼らに決定を強いてはいなかっただろうか?それがどうしても不安だった。

 

 いや、不安なのはそれだけではない。

 軍に所属していた時から何度も迷い、それでも規範と命令、明確な目的地があり、マリューもクルーに命令を下す際はそれらが拠り所となっている節があった。

 しかし今、彼女には規範も命令も、明確な目的地もない。拠り所が全て取り払われた今、今度は何を頼みに判断すべきなのだろうか─────?

 

「少佐は…何で残ったのですか?無理やりユウ君を連れて、逃げようとは思われなかったのですか?」

 

 ふと、そんな質問が口を突いて出る。

 

 思えばムウは、マリューがクルー達に話をしたあの時点から、すでに心を決めていた様子だった。

 何故─────色々と諍いは起こるのは間違いないにしても、ユウを、キラとラクスも引き連れて戦いのないどこか遠くへ行こうとは思わなかったのだろうか?

 

「…なんですか?」

 

「いやぁ─────今更そんな事を訊かれるとは思わなかったからさ…」

 

 虚を衝かれた顔のムウを怪訝に思いながら再度尋ねると、今度は呆れ笑いを浮かべる。

 

 一体何なのだろうか─────ムウに対する疑問が更に強まった瞬間、マリューの腰がぐいと引き寄せられる。

 

 ギシリと心が硬直する。腰に回された腕の感触に、不埒な身の程知らずから受けた数々のセクハラ行為が脳裏を過る。

 反射的に反撃行動へ出ようとするマリューの身体─────彼女の開けた視界一杯にムウの顔が映った瞬間、脳裏を過った記憶は打ち消され、反撃に動こうとしていた筈の身体は機能不全に陥ったかのように動かなくなった。

 

 そしてマリューは、ただムウの意のままに、彼とのキスに身を委ねた。

 

 たっぷり十数秒、唇を重ね続けた二人はどちらからともなく離れ、間近で見つめ合う。

 穏やかに微笑むムウの顔がえらく格好よく見えて、マリューは思わず目を逸らした。

 

「ナタルを口説いていた癖に─────」

 

「だからそれは違うんだって…。俺の心はずっと、アンタだけに向いてたんだけど」

 

 ムウからの真っ直ぐな告白に、胸の内が跳ねる。

 ただでさえ先程のキスで熱が集まっていた頬が、更に熱くなっていくのが分かる。

 

 ナタルの件を言及され苦笑していた筈のムウが不意に、笑みを濃くさせる。

 それを見たマリューはすぐに、自身の内の感情を悟られたと察する。

 

 咄嗟に顔を背けようとして、しかし頬に添えられたムウの掌にその動きは遮られ、そして二人は二度目の口づけを交わした。

 

 ムウと唇を重ねながら、頭の中で叫びが響く。

 

 ナタルはどうするのだ。彼女はきっと、彼の事を─────そんな懸念は、唇を通じて伝わる温もりに上書きされていく。

 

 あぁ─────ナタルへの罪悪感も、先程感じていたクルー達への不安も、何もかもがどうでも良くなっていく。

 ムウがナタルではなく自身を好きでいてくれた事、皆が艦に残ってくれた事─────それらが答えであり、そこに理由を求める必要などないのではないか?

 

 二度目のキスを交わし、離れた二人は今度は間近で笑い合う。

 

「ナタルには、戦いが終わった後に話さないといけないわね」

 

「…いやまあ、それは俺から話すよ。俺の責任だって思うし」

 

「ダメ。貴方一人に背負わせる訳にはいかないわ。…ナタルの気持ちを知っていて、貴方に甘えようとしている私も一緒に居るべきだわ」

 

「…マリュー」

 

「ムウ─────」

 

 ナタルへどう話そうか、それについて話し合っていた筈なのに、二人の互いを見る目に熱が帯び始め、またもその距離が縮まり始める。

 

「お二人共、神聖なブリッジで何をしていらっしゃるのです?」

 

「「っっっっっ!!!!!!!?」」

 

 最早、互いに愛する相手にしか目も耳も意識も、何もかもが向けられなかった今、第三者が艦橋へ入って来てもこれっぽっちも気付く事が出来なかった。

 

 三度唇を重ねようとした二人は、第三者の存在に気付き慌てて身を離す。

 

「な、ナタル─────」

 

 辛うじて二人へ声を掛けた人物─────ナタルの名を、マリューが口にする。

 ナタルはただただ無の表情で、マリューとムウの二人を眺めていた。

 

 彼女から向けられる視線に縫い付けられたかのように、身動きがとれなくなる。流れる沈黙が只管に気まずい。

 

「はぁ─────。そんな恐ろしいものを見る目を向けないで頂きたい。ただ私は、場所を弁えて欲しいだけです」

 

 不意にナタルは溜息を吐いてから、頭を振りながら言った。

 そしてナタルは困ったように苦笑を浮かべる。

 

()()()()()()()()()。お二人が互いを憎からず想っていた事くらい」

 

「ナタル…」

 

「ただし、いつ他のクルーが来るかも分からない場所で羽目を外すのはお止めください。せめてどちらかの部屋で─────いえ、だからといって羽目を外しすぎるのは駄目ですが…」

 

 何やら一人で百面相をし始めるナタルを見ながら、拍子が抜けたような表情をするムウ。

 

 仕方ないとは思う─────マリューとしても、ここで修羅場が起こるのを覚悟した程だ。

 ナタルの反応は余りにもあっさりしたもので、ムウがそんな反応になるのも当然なのかもしれない。

 

 マリューも、ムウと同じように思い掛けていた。苦笑いを浮かべていたナタルの表情に、一瞬悲し気な影が差したのを見るまでは。

 

「な…」

 

「マリュー・ラミアス。あまり私を惨めにしないで頂きたい」

 

「─────」

 

 何か声を掛けなければ─────そんな義務感に駆られたマリューの言いかけの言葉は、他でもないナタルによって遮られる。

 

「…戦闘が始まるまでもう時間がないのですから、お二人はしっかりと身体を休めてください」

 

 気付いた時には、ナタルはいつものキリッとした表情に戻っており、規範的な言葉を二人に掛ける。

 

「あぁ、そうさせて貰うよ。…行こう」

 

「でも─────」

 

「…分かってるさ。でもそれは、今話すべき事じゃない」

 

 ムウとて、三人の関係について有耶無耶のままでいいと思っている訳ではない。どこかで決着を着けなければいけないと考えている。

 しかしその話は、今でないといけない訳ではないし、たった今彼自身が言ったように今はすべきではない。

 

 ナタルの言う通り、オーブへの侵攻まで時間がない。ならば今すべきなのは、それに備えて体のコンディションを整える事だ。

 

「…そうね。ナタルも、仕事が済んだら休んでね」

 

「ハッ」

 

 形式的に敬礼をとるナタルを見遣ってから、マリューはムウと共にエレベーターに乗り込む。

 

 ナタルが今、どんな心持でいるのかは想像に難くない。

 それなのに何も出来ない現状が心苦しい─────否、彼女の想い人から寵愛を受ける自分に何をされても、ただ苦しませるだけなのではないだろうか?

 

「マリュー」

 

「…えぇ、分かってるわ。今は─────」

 

 ムウに呼び掛けられ、マリューは頷く。

 

 そう、今は考えている場合ではない。話ならば後でもできる。生きてさえいれば─────時間はまだあるのだから。

 ムウとの話は…そうだ、戦争が終わって落ち着いた時にでも、ナタルと腰を据えて話す事にしよう。

 戦いに駆り出されている間に話をしようとしても、ナタルはきっとそれ処ではないと拒むだろうから─────。

 

 だから今は、目の前に迫った窮地を生き残る為に、マリューは意識を集中させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 居住区を歩く。地球連合軍がオーブへの侵攻を開始するまで残り五時間─────ミゲルを独房から釈放したり、機体の整備を行ったりしていたらこんな時間になってしまった。

 

 万全を期す為にしていた事が長引き、それによって俺自身が不調に陥っては話にならない。早く部屋に戻って、身体を休めておこう。

 

「あ、やっと来た」

 

「お帰りなさい、ユウ」

 

「…なんで?」

 

 そう思いながら、自室の扉を開けてみれば、二人の声が俺を出迎えた。

 俺以外の第三者が部屋に居る事に驚きつつ、二人─────キラとラクスに何故ここに居るのか問い掛ける。

 

「なんで、って…」

 

「答えは一つに決まっていますわ」

 

 一度顔を見合わせた後、二人は微笑みながら腰掛けていたベッドをポンポンと叩く。

 

 ─────え、なにこれ?

 首を傾げながらも、まあ座れって事だろうし、二人が叩いていた場所。二人の間に腰掛ける。

 

「うわっ」

 

 腰掛けた直後、二人はそれぞれ俺の腕を抱えて、かと思えばそのまま後方へと体重をかけてくる。

 

 思わぬ重さがかかり、両腕が取られていた事もあって抵抗する間もなく体が後ろへ倒された。

 

 ベッドに横たわった俺と、その両脇には腕を抱えるキラとラクス。

 天国とも錯覚しそうな温もりと柔らかさの暴力によって、頬に熱が集まる。

 

「今までずっと、機体の整備をしてたの?」

 

「え?…まあ、そうだけど」

 

 耳元で、柔らかく尋ねてくるキラに頷いて返す。

 

「お疲れ様でした。残り少ない時間ではありますが、ゆっくりお休みください。時間になったら、わたくし達が起こして差し上げますわ」

 

「…」

 

 すると今度は、キラと同じように柔らかくラクスが声を掛けて来た。

 

 その言葉を聞いて、ようやく二人が俺の自室に居て、こんな時間まで俺を待っていてくれたのかを察する。

 

 ─────うん、この状況だし仕方ないとも思うけど、疚しい気持ちを持った自分が恥ずかしいな。二人は純粋に、少しでも俺の疲れが取れるようにと真剣に考えていてくれたのに。

 

 そう思うと、不思議と瞼が重くなってくる。さっきまで、数時間後の戦闘を思い、目が冴えていたというのに。

 

「…ありがとう。キラ、ラクス」

 

 増していく重さに抵抗せず、瞼を閉じる。そうすると、あっという間に意識が眠りに落ちていくのが分かった。

 

 左右から聞こえてくる「おやすみなさい」という優しい声を遠く聞きながら、愛しい温もりを抱いて、俺は眠りに着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…寝ちゃったね」

 

「えぇ。疲れていたのでしょうね」

 

 眠りに着き、規則正しく穏やかに寝息を立てるユウを見ながら、キラとラクスは言い合った。

 

 兄と似て凛々しいながらも、どこか幼さも感じさせる顔立ちをしたユウの寝顔は、普段よりも更にあどけなく、可愛さを感じさせた。

 キラとラクスが同時に思わず微笑みを零してしまう程に。

 

「…でもさ。別に期待してた訳じゃないし、今はそれ処じゃないって分かってはいるんだけど…」

 

「はい?」

 

 未だラクスがユウの寝顔に微笑ましさを覚えていると不意に、キラが口を開いた。

 ユウの顔の向こう側に見えるキラの顔はほんの少し不満さを浮かべており、その理由が分からず首を傾げるラクス。

 

 しかし、次に発せられるキラの言葉に彼女が覚えた不満の理由を悟ると同時に、大いにその言葉に同感させられる事となる。

 

「こうやって私とラクスに挟まれてるのに、こんなにすぐ寝ちゃうんだね。ユウって」

 

「…そうですわね」

 

 キラの言う通り、それ処ではない─────ラクスも分かってはいた。

 

 ただ、こうして言われてみると─────あぁ、確かに。悔しい、のだろうか。

 

 ラクスもキラもユウへ並々ならぬ愛を覚えているし、ユウもその気持ちを二人へ返している。

 

 ラクスとキラはユウが望むならば自身の身体を捧げる覚悟は出来ているし、今その気持ちを語ったキラは勿論、ラクスも先程ユウが望んていたなら、喜んで抱かれていただろう。

 

 だがユウは、疲れていたのもあっただろうが、余りにもあっさりとキラとラクスを抱くよりも睡眠を選んだ。

 

 本人にそんなつもりはあったかどうかは知らないが─────

 

「何か…複雑、だよね」

 

「…はい」

 

 少しでもユウに癒されて欲しい、疲れをとって欲しい。それだけのつもりでこの場へ来た二人だったが、これはこれでどこか複雑─────という乙女心はどうしても抑えられないラクスとキラ。

 

 自身が眠った後、こんな一幕があった事を、ユウは知らない─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キラ&ラクス(抱かれても良かったのに…)
ユウ「すやすや」

誰か、この男を殴り起こしてくれ
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