「一体どういう事だ、これはぁッ!!?」
地球連合軍旗艦パウエルで、ジブリールがわなわなと肩を震わせながら声を張り上げた。
戦闘開始当初、数の利を生かして地球軍側がオーブ陣営を押し込み、第二防衛線まで突破した所までは良かった。
虎の子の第二期GATシリーズの三機が、相手のエースに押さえられたのは想定外ではあったが、それもジブリールの機嫌を損ねるまでには至らなかった。
しかし突然の第三陣営─────ザフトの乱入。更にはアークエンジェル二番艦ドミニオンの出現。
それらによって戦場は混乱、地球軍の勢いが衰えるだけでなく、次第に押し戻されていく始末。
「あの三機は何をやっているというんだッ!?」
調子よく戦闘を進められていた筈が、膠着状態になってしまった事に憤慨するジブリール。
特に、あの三人は一体何を遊んでいるのかと─────確かにジブリールの目からも、彼らが相手をしている機体達は一筋縄ではいかないのは分かった。
しかしそれらの相手は二機に任せ、カラミティが早々に軍本部を叩いてしまえばそれで終わっていたものを。単独でそれを成せるスペックを持っている機体だと、太鼓判を押されていたジブリールは、
「クソッ─────!」
だがそれも仕方ない、とジブリールは必死に自分に言い聞かせて溜飲を下げようとする。
何しろ、そういった理性的な判断能力を削ってでも、パイロットの性能を上げるべきだと判断したのは他でもない、ジブリール自身なのだから。
その判断が今、こうして自分に返って来たのだと─────それに、膠着状態になったとはいえまだ戦況は不利になった訳ではない。
「もっとモビルスーツを前面に押し出せないのか!」
「無理に進ませれば孤立し、数の優位性が保てなくなる恐れがあります。お気持ちは分かりますが、ここは耐える時です」
ダーレスへ向けて進言するが、返って来たのは至極真っ当な反論だった。
対して言い返す事が出来ず、ジブリールは歯噛みしながら引き下がるしかない。
辛抱するべき時─────理屈でそれは分かっている。だが、そうしている間にザフトにマスドライバーを奪われる、或いは破壊されるなんて事になれば。
─────許されない、許してはならない。これ程の戦力を割きながら、敗北するなど絶対に。
「ドミニオンよりモビルスーツ!」
「スピリットか?」
「いえ、ライブラリに該当するものなし!アンノウン機です!」
「なんだと?」
燻る憎悪を耐え忍ぶジブリールの耳に、オペレーターとダーレスの会話が届く。
「光学映像出ます!」
何事かと向けられたジブリールの目に、モニターに映された機体が映される。
「っ─────!」
目を瞠り、勢いよくジブリールは立ち上がる。
ツインアイを光らせた、黒と金のG兵器。それは、ジブリールが確保した第二期GATシリーズ─────その残りの一機。
「X140─────!?」
アズラエル側の必死の抵抗と逃亡の末、遂にジブリールが確保できなかった最後の一機。
ドミニオンより出撃したモビルスーツは次の瞬間、映像が追えないほどの速度で飛び去っていく。
「居るというのか…。あれを操れるパイロットが!?」
だとすれば拙い。数の優位性、限度はあれどそれを引っ繰り返しかねない性能をあの機体が誇っている事を、ジブリールは知っている。
慌ててオペレーターが近くにいるダガー隊へ向けて、アンノウン機の動きを止めるよう指示を送る。
それをまるで他人事のように呆然と聞きながら、ジブリールは椅子に座り込む。
─────せめてここに、
ジブリールの悔恨を余所に、X140はあっという間にその進路を妨害しようとしたストライクダガー二機を戦闘不能にし、オノゴロ島へと真っ直ぐ向かっていくのだった。
オノゴロ島上空にて、五機が入り乱れる激しい交錯は続いていた。
時にはフリーダムとジャスティスが、時にはハイペリオンとジャスティスが─────或いはそれ以外の機体同士がぶつかり合い、火力を交わし合う。
下方からはカラミティの強烈な火線が撃ち上げられる。ハイペリオンがアルミューレ・リュミエールを左腕に部分展開してビームを防ぎつつ、上空からフォルファントリーを撃ち下ろす。
足場にしていたザフト艦から跳んで離れたカラミティが再びビームを放つ─────射線上に味方がいるのも構わずに。
「こいつら…」
「味方を平気で…!?」
フレンドリーファイアに対して反応したフォビドゥンがゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開すると、逸らされたビームが運よくと言っていいものか、フォビドゥンへと斬りかかろうとしたフリーダムへと向かっていく。
思わぬ軌道が描いたビームを、バーニアで急制動を掛けながら躱したキラが戸惑いの声を漏らす。
カナードもまた、射線が僚機を掠めようとも構った様子がない三機に目を細める。
競うようにフリーダムとハイペリオン目掛けて突っ込んでくる三機に、横合いから二条のビームが放たれる。
ジャスティスのフォルティスだ。三機は散開すると、レイダーがMA形態へ移行し、ツォーンを連射しながらジャスティスへ迫る。
ジャスティスは機体を僅かに下降させながらファトゥム-00を分離させ、突っ込んでくるレイダーへと向かわせながらビームライフルを向ける。
レイダーが姿勢を傾けながらファトゥムを躱しながら、ジャスティスのビーム射撃も振り切るようにして避けていく。
そのジャスティスの背後から、巨大な鎌ニーズヘグを構えたフォビドゥンが迫る。
「アスランッ!」
「なっ─────お前ッ!?」
ジャスティス─────アスランも接近してくるフォビドゥンに気が付き機体を反転させようとしている。
だがフォビドゥンと挟むようにしてレイダーが、更に下方からはカラミティが─────先程の味方を厭わない攻撃を見せた以上、連携をとっているつもりは更々ないのだろうが、偶然にも気紛れが重なった事で連携が生まれ、ジャスティスを追い込み始めていた。
アスランの危機に弾かれるように機体を動かすキラをカナードが追い掛ける。
キラはまずはビームライフルをレイダーへ向けて牽制射撃を入れる。
その間、ジャスティスはニーズヘグによる斬撃をシールドで受け止める。直後に遠隔操作によって舞い戻って来たファトゥムが迫り、堪らずフォビドゥンが離れる。
カラミティはハイペリオンが対応する。強烈なビームを再びアルミューレ・リュミエールで受け止めたハイペリオンが、互いに位置を入れ替えながら火線を撃ち合う。
目まぐるしく状況が変化する戦場。
レイダーがMS形態へと戻り、フリーダムに向けてミョルニルを投じようとした─────その時だった。
レイダーのメインカメラが明後日の方向を向いたかと思えば、彼の機体へ向けて上空からビームが放たれる。
一条のビームを辛うじて回避したレイダーだったがその直後、上空より黒と黄金の軌跡が舞い降りた。
瞬く間にレイダーの左腕が斬り落とされる─────クロトからすれば、何が起こったかすら分からなかっただろう。
投じようとしていたミョルニルが左腕と一緒に落下していくのを見向きもせず、旋回して再度迫る軌跡に弾き飛ばされるレイダー。
そこでようやく、キラ達の目に、レイダーを吹き飛ばしたものの正体がハッキリと映された。
黒と黄金の機体が右手にビームサーベルを握りながら、上空からキラ達を見下ろしている。一対二枚の黄金のウィングユニットから漏れる光の粒子が幻想的に映る。
その機体は今度はジャスティスと交錯を繰り返していたフォビドゥンへと狙いを移し、もう一方の左手でビームサーベルを抜き、凄まじい加速力を以て舞い降りる。
狙われたフォビドゥンが、自身の全火力を以て黒と黄金の機体を迎撃しようとする。
が、ソレはスピードを緩めないまま火線を潜り抜けていく。堪らず二枚のシールドを前面に展開したフォビドゥンだったが、その前に懐に潜り込まれてしまう。
前方へ展開されようとするシールドの接続部が、二本のサーベルによって斬り落とされる。
更に続けざまに胸部を蹴りつけられたフォビドゥンが落下していき、海面へと叩きつけられた。
「なんだ、あれは…?」
「─────」
あっという間の出来事にカナードが唖然と声を漏らす。
一方のキラもまた、目を見開きながらその光景を見つめていたが─────ふと、微かに嬉しそうに口元を緩ませた。
表情を引き締めるキラの視線の先では現に、片腕を斬り落とされながらもMA形態へと移行して戦意が衰えていない様子のレイダー。そして未だ目立った損傷なく健在のカラミティもまた、黒と黄金の機体へ向けて砲口を向ける。
対するソレもまた、二刀流で身構え対応する姿勢を見せる。
だが、レイダーとカラミティの様子が可笑しくなったのはその直後の事だった。
突如動きが鈍り、攻撃もやめ、しばし慣性のままに落下しかける。
キラとカナードは戸惑いつつも、予測のつかない敵の事だけに、次のアクションに備えて身構えたまま相手の出方を窺う。
しかし彼らの予想に反して、レイダーがカラミティを上に載せるとそのまま引き返し始めた。
先程海面へ叩きつけられたフォビドゥンも同じく、二機を追うようにして撤退していく。
「…どういう事だ?」
カナードが思わず呟きながら帰投していく三機のモビルスーツを見送る。
キラも少しの間、呆然とその様子を眺めていたが、すぐに気を取り直して残った最後の敵機へ向き直る。
「アスラン…」
ジャスティスは、アンビデクストラス・ハルバードを構えながらフリーダムとハイペリオンに向き合う。
その僅か頭上では、先程レイダーとフォビドゥンをあっという間にあしらってみせた黒と黄金の機体。
しばらく睨み合いが続く中、地球軍の母艦から打ち上げられる信号弾を彼らは目にする。
ザフトの介入もあり戦況は膠着状態に、その上オーブ側から新たに出撃してきた謎の機体に、更にあの三機が損傷を受けて帰投─────これ以上の戦闘は犠牲が増えるだけと判断したのか、地球軍側は撤退を始めた。
だが、まだだ。
まだオーブ側は油断できない状況に変わりはない。
「アスランッ!」
しかし残った敵であるザフト─────アスラン・ザラもまた、これ以上戦っても勝ち目は薄いと悟り機体を翻して去って行く。
キラからの呼び掛けに応える事はなく、周囲のザフト機も、それぞれの母艦へと引き返し始めた。
〇九:〇〇から始まった戦闘は、およそ五時間半の時を経て収まり、オノゴロ島に平穏が訪れる。
撤退した地球軍とザフト軍はその後、互いに砲火を交えないままに牽制をしながら、それぞれの基地へと退がっていく事になる。
地球軍は勿論、ザフト軍も、それぞれの最新鋭機を持ち出しながら墜とす事が出来なかった国と、オーブへの認識を改めさせられた。
結論として、この戦争に於いて以降、両陣営がオーブに攻め込む事は二度となかった。
オーブ戦役と後に名付けられた激闘は、たった五時間半という短時間で幕を閉じたのだった。
『ありがとう、ユウ』
二機の距離が近付いた事で回線が繋がり、フリーダムから呼び掛けられた。
─────何で俺が乗ってるって分かるんだろうな、キラは。
驚きながらも思わず笑みが零れてしまう。
「役に立てたみたいで何よりだ」
『何それ』
茶化すようにして返せば、キラも微笑みながら返してくる。
ただ、その笑顔はここまでだった。
直後、キラは夢から覚めた様に目を転じた。
こちらも同じように、キラとのやり取りを見つめるもう一機の機体─────ハイペリオンへと視線を向けた。
『援護は感謝します。ですが…、その真意を改めて確認させてください』
キラを助けるべく向かう途中で、ハイペリオンを見た時は流石に驚かされた。しかもそれがフリーダムを助ける様に立ち回っていたのだから、尚更だ。
キラもキラでハイペリオン─────カナードと息の合った連携を披露していたし、やはり面識はなくとも兄妹同士通じ合うものがあったのだろうか。
俺が内心、誰にも漏らせない小さな感動を抱く中、キラがハイペリオンへと通信を繋げる。
事情を知っている俺とは違い、キラはハイペリオンに乗っている人物が自身の兄である事は勿論、どこの誰なのかすらも知らない。
キラからすれば、自分を本気で殺そうと掛かって来た相手が掌を返して助けようとしてくれた─────自分を騙そうとしているのではとすら考えられるくらいだろう。
『─────キラ・ヤマト』
ハイペリオンからフリーダムへ、そしてフリーダムからゼノスへ─────聞こえて来たカナードの声には、俺が考えていたような憎悪の感情は皆無だった。
それ処か、慈しむような優しい男の声が、キラの名前を呼んだ。
『俺はかつて、お前を殺そうとした。お前を恨み、憎み、殺そうとした…。だが今、俺にはその意思はない』
『…』
キラから伝わって来る緊張が緩む様子はない。油断なくハイペリオンを睨みながら、しかし攻撃に移る事もせず、状況は凍り付いたまま。
『…モルゲンレーテで初めて、お前の顔を見た時──────今思えばあの時から、俺の中の憎しみは揺らいでいた』
『っ…!貴方は、あの時の─────』
詳しい状況はこちらまで伝わってこないが、キラの口から漏れた声には驚愕が込められていた。
カナードの言う通り、モルゲンレーテでキラは言葉こそ交わさなかったが、カナードとの邂逅を果たしていた。
今、フリーダムにはハイペリオンから通信映像が送られ、カナードの顔を見たキラがその時の事を思い出した─────といった所だろうか。
『お前は俺と同じだと思っていた─────。衝動に駆られ、周りに殺意を振り撒き、他人に齎すのはただ不幸だけ─────だがお前は違った。俺と違ってお前は、闇に囚われる事もなく、誰かを守る為に戦い続けていた。それが俺には眩しくて…、だからか。理不尽な話だが、憎悪が揺らいでもお前を執拗に殺そうとしたのは─────お前に嫉妬していたから』
『…貴方は、何者なんですか。私の一体、何なんですか─────』
キラが声を震わせながらカナードに問い掛ける。
『俺はカナード・パルス。─────お前
対してカナードは淡々と、自身に抱いた決意と共に、キラへ自己紹介をしたのだった。
地球軍がそのまま撤退していくのを見届けたザフト艦隊は、カーペンタリアへと針路を向けて進んでいた。
旗艦クストーに乗り込んだクルーゼは、自室にてつい数十分前まで行われていた戦闘の映像データを見つめていた。
コンソールの画面には縦横無尽に飛び回り、地球連合の最新鋭機を相手取る黒と黄金の機体─────ゼノスが映されていた。
今頃アスランは戦闘の疲労を抱えた身体に鞭打って、地球軍の動向について艦長以下クルー達と話し合っているのだろう。
地球軍艦隊が本当にオーブから手を引いたとなれば、恐らくすぐにでも本腰を入れてビクトリアの奪還を急ぐ筈だ。
しかしザフト側はパナマこそ墜としたものの、実のところアラスカで受けた傷は深く、未だ癒えたとは言えない。
そんな状態での対オーブ、地球連合との三つ巴の戦闘─────一日すら時が経たないままに終わったとはいえ、今回の戦闘で受けた艦隊のダメージは決して無視できるものではなかった。
一方の地球軍艦隊もダメージの数値としては同程度でも、組織としての規模が違う以上、受ける影響はザフト側とは比べるべくもなく低いといえる。
恐らくは、ああしてオーブを侵攻しつつもそれと並列して、ビクトリアへの侵攻の準備も進めている事だろう。
「ふっ─────」
仮面の下で嘲笑を漏らす。
地球軍によるオーブ侵攻など、捨て置けば良かったのだ。どの道、奴らの侵攻が成功する事などほぼないに等しかったというのに─────オーブ側の
今の状態で、ビクトリア防衛の為に多くの戦力は割けまい。ビクトリアはまず間違いなく、地球軍に奪還されるだろう。
パナマを折角墜としたというのに─────自ら得たマスドライバーの有無という優位性を手放した結果に終わったオーブ侵攻。パトリック・ザラはそれを受けて今頃、自身の失敗を顧みもせずナチュラルに対して憎悪を深めている頃だろうか。
「─────ユウ」
ジャスティス対フリーダム、ハイペリオン対レイダー、フォビドゥン、カラミティの交戦に乱入したゼノス。
それに乗っているのがかの仇敵である事を、クルーゼは映像を見ながら感じ取っていた。
「スピリットの後継機か…?凄まじい推力だ」
ソレが、かつて自身と死闘を繰り広げた以前のスピリットの技術を引き継いだ後継機であると悟るクルーゼ。
武装の種類は少なく、遠距離の火力はビームライフルとオノゴロでの戦闘では使っていなかったが、腹部の砲口くらい。
シールドもなく、防御手段は左腕に備わっているガントレットのみ─────機体の推力を最大限に生かすべく、武装を最小限に留めたという事か。
「面白い」
新たな力を得た仇敵に対し、クルーゼが抱いたのは対抗心─────次に邂逅するのは何時になるかは分からないが、その時までに奴を討つに値する力を
「となれば、いつまでも地球に留まっている暇はないな」
ゼノスの性能は凄まじかった。そしてそれを意のままに操るパイロットも、また─────であれば、クルーゼもまたそれに抗する力を早く完成させよう。
運命に逆らう異端者共を一掃する、絶対の真理を─────。
「…だが、その前に─────」
コンソールに流していた映像を消すと、クルーゼは腰を下ろしていた椅子から立ち上がり自室から出る。
彼の行き先は、艦の医務室─────そこに置かれたベッドの上で、オノゴロでの戦闘中に拾った少年が寝かせられていたのだった。
地球連合&ザフト「「何こいつやば…手出しせんとこ」」
という事で、オノゴロでの戦闘は一旦終了です。
結構あっさり描写されてるけど、やべー事してるなゼノス…。
キラとカナードの邂逅や、戦闘中に起こったあれについてとかこれについてとかはまた次回という事で。
それとゼノスについてですが、急遽武装を追加しました。クルーゼがゼノスの映像を見ていた時に描写したガントレットです。前話に記載したゼノスの設定にも付け加えますが、対ビームコーティングを施したガントレットが左腕に備わっている…という事にします。流石に防御手段皆無はやべーと、冷静になった頭で思い至りました。感想で指摘されなかったら、「シールドなんていらねー!当たんなきゃいいんだよぉ!」的なノリで書いてたかもしれない…。ノリって恐ろしいな、今後気を付けよ。