フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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忘年会の余興って悪い文明だと思うんですよ。
誰か粉砕してくれませんかね?(真顔)


PHASE86 少女の慟哭

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブ、地球連合軍、ザフト、三つの陣営が一堂に会したオノゴロ島での戦闘から三日が経過した。

 戦いによって出た被害と犠牲は決して小さくないものではあったが、受けた傷が致命的にまで至らなかったのは幸いというべきだろう。

 国防軍の奮闘と、協力してくれたアークエンジェルとモビルスーツ隊、そして何よりこの男の力もまた大きかった。

 

「早々とザフトが乱入してきたのには驚かされましたが、それが功を奏しましたね。お陰で想定よりも被害は軽微だ」

 

 オーブ軍本部の会議室にて、ウズミを初めとしたオーブの首脳陣とムルタが集まり話し合っていた。

 

「地球軍もザフトも領海から離れていったが…、またいつ侵攻を再開するか分からぬな」

 

「いいえ。恐らく、しばらくはオーブに手出しはして来ないでしょう」

 

 首長の一人が腕を組みながら言うと、ムルタはそちらを向き、頭を振ってそう返した。

 

「何故そう思われる、アズラエル殿」

 

「地球軍が現在ビクトリアの奪還作戦を進めている事は皆様もご存知ですね。先の戦いで敗走に等しい撤退を余儀なくされた以上、地球軍はそちらの作戦に力を注ぐ筈です」

 

「そうか…。だが、作戦が終わった後は?作戦に失敗して打撃を受けたならばともかく、奪還に成功した暁には、またオーブに矛先が向けられるのではないか?」

 

「いいえ、その可能性も低いでしょう。ビクトリアを奪還したとなれば勢いづく─────その勢いを、わざわざ中立を謳うオーブへ向けるような真似はしませんよ」

 

 手を出しさえしなければ、反撃は受けない─────それでもと侵攻を試みた結果が、先の戦闘での敗走だ。

 今、地球連合には印象付けられている。オーブを相手取るのなら、それ相応の覚悟が必要になる、と。

 

「それに宇宙で軍備の拡大を続けているプラントだって放って置けないでしょう。地上ではザフトの拠点を潰しつつ、宇宙での戦力配備を並行して行う。…考えられる方針としては、こんな所でしょうか」

 

 要するに、地球軍はオーブに構っている暇はない、という事だ。

 ビクトリアを奪還した後にもやるべき事は山積みである上に、オーブ攻略に乗り出そうという気など起ころう筈もない。

 

 そう結論付けたムルタに、首長達も無言で首肯した。

 

「これからの主戦場は宇宙へと移りそうですな」

 

「えぇ。地球軍が作戦を成功させれば、という条件が付きますが─────それについてはまあ、結論は見えているでしょう」

 

 まだ発動されていないビクトリア奪還作戦だが、その成否についてあっさりと断定するムルタ。

 

 その根拠としてまず第一に、オーブ侵攻を早々に諦めた事にある。

 彼らの想定以上にオーブの力が大きかった事と、ザフトの思わぬ乱入によって撤退を余儀なくされた地球軍だが、早期の撤退によって被害はそう大きく膨らまなかった。

 先の戦闘で地球軍が導入した、最新鋭のGATシリーズ三機をビクトリア攻略戦に送り込む事も時間的には可能だ。

 

 対してザフト側。未だJOSH-Aで受けたダメージを補填できていない現状で、ビクトリアを防衛する為に十分な戦力は恐らく割けない。

 となれば、プラントがとる方針は─────ビクトリアを捨てる。地球軍が宇宙へ再び上がってくる事を考慮して、プラント側は宇宙の防衛力を更に固めていくだろう。

 

 それが先程の、()()()()()()()()()()()()()()()()()という主張の発言に繋がるのである。

 

「これから行われる戦闘の規模は、これまでとは比較にならないものになるだろう」

 

 これまで黙ってムルタ、首長達の話を聞いていたウズミが口を開く。

 

「我らも、ただ座して戦争の結末を見守っている場合ではなくなった」

 

 立ち上がり、周囲の者達を見回したウズミは更に続けた。

 

「ナチュラルとコーディネイター─────どちらかが滅ぶまで、戦いが終わらないというのであれば」

 

 ウズミの表情は晴れない。苦々しく、これから自身が口にしようとしている言葉を、忌んでいる様にすら思える。

 

 それでもウズミの口は止まらない。

 

「立ち上がらずに待つ未来が滅びというのならば─────立ち上がり、戦うとしよう。ただ飾るだけであった剣を取って、滅びに抗おう。ちっぽけな我らが、どこまで行けるかは分からぬが…」

 

 この時のウズミは、その言葉を発しながらも迷いを拭えずにいた。

 本当にこれで良いのか。この道を突き進む事が正しいのか。これまで通り、他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない─────この理念を貫いて、戦争の行く末を見守っていくのが本当は良かったのではないか。

 

 しかし、そんなウズミに反して、彼の決意を聞いた首長達の目に迷いはなかった。

 誰もがウズミの決心に頷いて同意し、彼についていくという意思に微塵の揺らぎもなかった。

 

「皆─────」

 

「勿論、私も同意いたしますよ。アスハ代表」

 

「アズラエル殿…」

 

 首長達とムルタ、彼らの同意を得たウズミの表情がようやく、少しずつ晴れていった。

 

「ありがとう」

 

 もう一度皆の顔を一周、見回してからウズミは深々と彼らに向かって頭を下げる。

 

「必ず…必ずまた、この国と世界に、平穏が訪れる事を願おう。その為に─────」

 

 その為に、オーブは立ち上がる事となる。

 

 後の歴史家は語った。この時、オーブが立ち上がる事を決意しなければ、コーディネイターとナチュラル─────二つの人種のどちらかの滅びは避けられなかっただろう、と。

 

 ウズミの決断はそれ程までに重かった。重いと同時に、これからの未来に大きな影響を及ぼす事となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オノゴロ島にある、オーブ軍が管理している病院。そこにある一室に、少女はいた。

 

 

 簡素な入院着を身に着け、黒みがかった茶髪を背中まで伸ばした少女の名前は、マユ・アスカ。

 オノゴロ島での戦闘中にユウが助け、トダカへと預けた民間人の少女その人である。

 

 命に関わるようなものではないにしろ、左足の骨を折るという怪我を負ったマユはこの病院に入院する事となった。

 とはいえ、大きな怪我をしたのは左足のみ、他は出血を伴いこそすれどかすり傷のみに留まったのは幸運とすらいえるだろう。

 

 だがその幸運が降りかかったのは、マユだけだった。

 

「お父さん…、お母さん…」

 

 倒木の下敷きになった父と、両手両足をあらぬ方向に曲げながら肉塊と化していた母。

 その光景はマユの目に焼き付き、今でも鮮明に脳裏に思い浮かべる事が出来てしまう。

 

「お兄ちゃん…!」

 

 そして、マユを目に入れても痛くないと言わんばかりに可愛がってくれた優しい兄もまた、未だ行方知れず─────といえど、幼いながらもマユの頭には分かっていた。

 兄が生存している可能性は、限りなくゼロに近いのだと。自分一人が、生き残ってしまったのだと。

 

「うぅ…っ、あぁぁ…!」

 

 両手で布団を握り締め、身体を震わせて嗚咽を漏らす。

 気付けば、彼女の目からは涙が零れ始めていた。

 

 こうして泣くのは何もこれが初めてじゃない。

 ()()()()()()()()に助けられ、その後にトダカという軍人に保護されてから幾度となく、マユは泣いた。

 

 ここの病院に入院する事となり、病室で一人泣く事も何度もあった。

 毎日会いに来る、トダカの前では泣くのを我慢していたが─────それもきっと、彼には気付かれているのだろう。

 

「ダメ…、早く泣き止まなきゃ…」

 

 零れそうになる涙を堪え、濡れた頬を袖で拭く。

 

 もうすぐ、ここへ来客がある。

 自分を助けてくれた人へ一言お礼を言いたいとトダカへ頼むと、何とその人が了承してくれて今日、この病室へ来てくれる事となったのだ。

 

 約束の時間まではもうすぐ。それまでに泣いてしまった痕跡を隠さなければならない。

 

 ベッドから足を降ろし、脇に置いていた松葉杖を取って洗面台へと向かう。

 急いで顔を洗おうと、蛇口を捻った、その直後だった。

 

「っ、はい!」

 

 病室のドアがノックされる。

 

 まさか、もう来たのだろうか?

 「失礼します」と、外から一言聞こえてからドアが開かれる。

 

「─────」

 

 次いで、マユはそこに現れた少年に目を奪われた。

 男の人に対して思う事ではないかもしれないが、美しい─────なんて咄嗟に思ってしまう程に、その人のパーツは整いすぎていた。

 

 幼さを感じさせるサファイア色の瞳はぱっちりと開かれ、色白の肌にはシミ一つない。

 

「…マユ・アスカさん、だね。初めまして、俺はユウ・ラ・フラガです」

 

「あ…、その─────ま、マユ・アスカですっ!よろしくお願いします!」

 

 少年、ユウの顔をまじまじと見ていたマユは、彼の声に意識を引き戻される。

 見惚れていた事実を自覚したマユは羞恥に頬を染めながら、勢いよく頭を下げた。

 

 何をよろしくお願いしたのか、マユ自身もよく分からなかったが─────そんな意味の分からない挨拶をされた当のユウは、ただ微笑むだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────泣いてたよな、やっぱり。

 

 こちらに向かって下げた頭を上げるよう、マユに声を掛けながら思うのと同時に、先程見た赤くなった彼女の目元を思い出す。

 

 当然だ。両親を亡くし、兄の生存も定かではない─────むしろ、亡くなっている可能性が高いという現状で、こうして気丈に振る舞えている方が凄いくらいだ。

 

 ─────マユ・アスカだ…、間違いない。

 

 おずおずと上がったマユの顔を改めて見る。

 同性同名の別人等ではない。正真正銘、ガンダムSEED Destinyの主人公であるシン・アスカの妹、マユ・アスカだ。

 

「わざわざ来て頂いてありがとうございます。こちらの椅子にどうぞお掛けください」

 

 マユは半身になりながら、ベッド横にあるパイプ椅子を指して言う。

 

 原作での彼女よりも年を取っている印象は感じられるが、それでも俺よりは年下─────精々十二、三歳くらいだろうに。随分としっかりしているなと思いながら、マユの言葉に甘えて椅子に腰掛ける。

 

「足は大丈夫?」

 

「はい。三週間もすればギプスを取れるだろう、ってお医者さんが言っていました」

 

「そうか…」

 

 見る限り、大きな怪我をしたのは左足くらいか。所々にガーゼが貼られたりしているが、後々に残る様な傷は見られない。

 あの混乱の中、この程度の怪我で済んだというのが奇跡といって良いだろう。

 

 今の彼女に、そんな無神経な事を言うつもりは更々無いが…。

 

「あの…。貴方が私を助けてくれたモビルスーツのパイロット─────なんですよね?」

 

「…そうだね。信じられないかもしれないけど」

 

 きっと、彼女の中ではもっと大人な人のイメージを持っていたんだろう。

 こちらを見る目の中に微かな懸念があったのを、俺は見逃さなかった。

 

「す、すいません!その…、お兄ちゃんとあまり年の変わらなそうな人が来るとは思っていなくて…」

 

 この時点でシンは十三歳─────マユと同じように年齢がずれている可能性もあるが、そう仮定する。

 これでも一応シンより年上なんだけどな。一つだけだけど…。

 

「もっと渋くてかっこいい大人の人でも想像してたかな?」

 

「そういう訳じゃないです!それに、かっこいいっていうなら─────」

 

 慌てるマユを見ていて、ほんの少し湧いた悪戯心のままにそう問い掛けて見れば、更に慌てて彼女は頭を振る。

 その後、何かを言い掛けていたが、それはよく聞き取れなかった。

 

「なに?」

 

「い、いえ!何でも!」

 

 何を言ったか再度尋ねてみるも、マユは頑なに答えようとしなかった。ぶんぶんと先程よりも大きく頭を振って、決して口を開こうとしない。

 

 …これは何回聞いても絶対に答えてくれないな。仕方ない、諦めるとするか。

 

「そうだ、これ…。お見舞いに持って来たんだ」

 

 さっきからマユも、ちらちらと気になった様子で見ていた紙袋─────何か持って行くべきだろうと思い、カガリに頼んで取り寄せて貰った。

 

「そ、そんな!受け取れません!」

 

「いいからいいから」

 

 テーブルに紙袋を置いてから、中からそっと白い箱を取り出す。

 その中にあったのは、一切れのショートケーキだ。

 

 マユのお見舞いに行くと決めてから、見舞いに何を持って行こうか考えていた俺だったが、正直何にした方が良いのか分からず─────初めにキラとラクスにどうしたらいいかと尋ねた。

 二人からは相手が女の子なら、やっぱり甘いものがいいのではと意見を貰ったが、じゃあその中でどれにすべきなのかと考える俺に、キラがオーブで有名なお菓子店について教えてくれたのだ。

 

 お店について教わったは良いが、二陣営からの侵攻を受けたオーブは未だ混乱の最中で、ここからそのお店に買いに行くなど到底不可能だった。

 行く事が出来ないなら取り寄せるという考えに至ったは良いが、それも普通は難しい。()()()()()─────。

 

 悩む俺達の前に現れたのが、カガリだった。何とも都合の良いタイミングで現れてくれた彼女は、俺達から事情を聞くと、「私に任せろ」と俺達に言い残した。

 そして今日、お見舞いに出掛ける俺の手に、このケーキが渡ってきたという訳だ。

 

「これ…っ!」

 

 マユもそのお店については知っていたらしい。紙袋に書かれた店名を見ると、目を大きく見開きながらこちらを見上げた。

 

「まあ、どうやったかは秘密って事で…」

 

 マユに対して秘密とは言ったが、実のところカガリがどうやってこれを取り寄せたのかは俺も知らない。聞こうとも思わなかった。

 聞いた所で、どうせただただ呆れるしかなくなるというのが目に見えていたから。

 

「ほら、折角君に買って来たんだ。食べてくれ」

 

「そ…それじゃあ…」

 

 マユは戸惑いながらもフォークを手に取って、ケーキを切り分けて掬い、口の中へと含む。

 

「っ、~~~~~~~!」

 

 病室に来てマユと話していて、ずいぶんしっかりした子だなと感じてはいたがやはり年頃の女の子か。

 どんどんとケーキが小さくなっていく。心なしか、緊張気味だった彼女の表情も朗らかになっている気がする。

 

 女の子にとっては、やはり最強は甘いものか…。

 

「…たまに、家族で食べてたんです。ここのケーキ」

 

 あっという間に半分ほどまで食べ進めたマユが、不意に手を止めて口を開いた。

 

「お父さんが仕事でお店の近くに行く事があって…。そういう時は必ず、買って帰って来てくれて…」

 

「…」

 

「皆で、美味しいって食べて…。レモンケーキだった時は、お兄ちゃん渋い顔してましたけど」

 

 お兄ちゃん、酸っぱいモノ嫌いなんです─────なんて笑いながら言うマユ。

 

 語られる家族の思い出話に、黙って耳を傾けるつもりだった。

 父との思い出、母との思い出、兄との思い出、家族全員との思い出─────このお店の話が皮切りとなって、語られる話。

 それに口を挟むつもりは更々なかった。

 

 だけど─────

 

「マユ─────」

 

「─────あれ?」

 

 ()()()()()()の感覚に気付いたマユは、語る口を止めて指でそれを拭う。

 そして指に着いた()を呆然と見つめていたマユは、次々に目から流れ落ちていく涙をいよいよ止められなくなっていた。

 

「あれ…あれ…、ご、ごめんなさい。すぐに止めますから…」

 

 フォークを更に落としたマユは、両手で流れる涙を拭う。

 しかし、拭っても拭っても涙は止まらず、次第にマユの身体が震え始める。

 

 父を喪い、母を喪い、兄も傍に居ない─────孤独の中でも気丈に振る舞い続けた少女は、哀しみを堰き止められず、決壊してしまった。

 

「もういいから」

 

 痛々しくて見ていられない─────無意識に俺はマユの傍らに寄り添って、彼女の背中に手を当てていた。

 

「っ、ユウさん…」

 

「我慢しなくていい。無理に強がる必要なんてない。…最後に前を向く事が出来るのなら、どれだけ泣いたっていいんだ」

 

 こちらを見上げるマユに語りかける。すると、マユは微かに息を呑んでからゆっくりと俯いていく。

 

「…皆、死んじゃいました。お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも」

 

「あぁ」

 

 シンについてはまだ生死不明の段階だが、それを今ここで口にはしない。

 

「私一人が生き残っちゃいました…」

 

「…あぁ」

 

「どう、して…、どうしてっ」

 

 不意に顔を上げたマユ。その目に強い恨めしさを込めながら、マユは繰り返した。

 

 どうして─────と。

 

「どうして!どうして…っ!」

 

「…」

 

 こちらに体重を傾けながら、両手に拳を握り、俺の胸を叩く。

 

 どうして…の後に続く言葉は、マユの口からは出て来なかった。

 出ては来なかったが…、何を言いたいのかはある程度予想がつく。

 

 どうして()()()()

 

 どうして()()()()()()()()()()()

 

 どうして()()()()()()()()()()

 

「っ─────ああああぁぁぁぁ!!!」

 

 最後までマユは、決定的な一言だけは口にしないまま、俺の胸に顔を埋めながら泣き崩れた。

 

 彼女の背中に触れていた手を離して引っ込める。

 

「すまない」

 

 出来るのは、マユの号泣を受け止めながらただ謝罪する事だけ。

 

 慟哭を上げる中でも俺の声は届いたのか、一瞬だけマユの声が途切れ、しかしまた泣きじゃくる。

 

 何を言われても受け入れるつもりだった。どんな恨み言を言われようとも、暴力に晒されようとも。

 

 それで彼女の気が済むのなら─────彼女の憎しみが、()()()()()()向けられるのならば、それでいいと思っていた。

 

 彼女はそうはしなかった。怒りも憎しみも自分で呑み込み、決して他者へ向けようとはしなかった。

 

 マユの両手が縋るものを求める様に彷徨い、その果てに俺の服にしがみつく。

 

 彼女はそのまま泣き続けた。泣き疲れて眠ってしまうまで、俺はマユの慟哭を受け止め続けた。

 

「…ごめんな」

 

 眠ってしまったマユをちゃんとベッドに寝かせ、枕と布団の位置を整える。

 涙の痕で赤くなった以外は穏やかな、先程まで泣き崩れたとは思えない顔でマユは寝息を立てていた。

 

 少しでも彼女の心の役に立てたのなら、その甲斐もあるというもの。

 これからも暇が出来たら、こうしてお見舞いに来よう。

 

 別に、そうする()()と思った訳じゃない。ただ、今のマユには傍に居てくれる誰かが必要だろう。

 その相手が、家族を守ってくれなかった俺というのが皮肉ではあるが、彼女から拒絶されない限りは俺はそうするつもりだ。

 

 根拠はないが、そうした()()()()気がするから。

 

「さて…、これからどうしよう」

 

 今後の方針について決めたは良いものの、俺は今からどうすればいいのか。

 

 流石に眠ってしまったマユを置いて戻るのは自分でもどうかと思うし…、それなら書置きでも残すか?

 いや、それでもここで帰るのは果たして如何なものか…。やっぱり、残るべきなのか?

 

 悩んだ挙句、病室に残る事にしたのだが、マユはなかなか目を覚まさなかった。というか、結論から言うと彼女は面会終了時間まで起きる事はなかった。

 結局、看護師に言われて強制帰宅となってしまった。

 

「マユちゃんには私から伝えておくので」

 

「はい…。よろしくお願いします」

 

 また明日来る、という伝言を看護師に頼んでから病室を出る。

 

 その直前に、振り返ってもう一度だけマユの顔を見遣った。

 

 涙の痕はすっかりと消え、規則正しい穏やかな寝息を立てている。ああやって優に数時間は眠り続けている。

 …きっと、今まで碌に眠れなかったんだろう。

 

 様々な感情が心の中で流れていっては消える。背後で扉が閉まる音を聞きながら、明日はキラとラクスも一緒に会いに行こうか?なんて考えつつ、出口へ向かうべく足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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