フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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戦闘回です。一話で何とか纏めようとしたら、他の回と比べて文字数がだいぶ多くなってしまいました。


PHASE08 因縁の交錯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ・ラ・フラガ!スピリット、出るぞ!」

 

「キラ・ヤマト!ストライク、いきます!」

 

 アークエンジェルの開いたハッチから、二機のモビルスーツが飛び出す。

 

 ムウのメビウスゼロが先に出撃してから少し遅れて、スピリットとストライクが出撃した。

 

 それぞれのコックピット内で、ユウとキラは先程ムウから説明を受けた作戦について頭の中で反芻する。

 

『いいか。お前らよりも先に、俺が単独でメビウスで出撃をする。が、俺は向こうから出てくるだろうモビルスーツとは交戦はしない。さっきまでのアークエンジェルと同じく、慣性飛行で向こうの母艦に接近して叩く。お前らにしてほしいのは、俺があっちへ辿り着くまでの時間稼ぎだ』

 

 要するに、スピリットとストライクがアークエンジェルを守っている間にメビウスがザフト側の母艦へスニーキング、そして一撃を加えるという算段だ。

 

 クルーゼに看破されはしたが、本来慣性飛行は自身の位置を相手に察知させない航行方法だ。デメリットとして、スラスターが使えない以上速度が遅いという点はあるが、そこをスピリットとストライク、ユウとキラで補う。

 

『お前らは艦と自分を守る事だけを考えろ。いいか、俺が戻ってくるまで沈むんじゃないぞ!』

 

 そう言い残し、ムウは一足先に出撃していった。今頃は、ザフト側に悟られないよう留意しながら飛行している筈だ。

 

「っ…!これは…」

 

「ユウ?どうしたの?」

 

 ユウとキラが出撃をしてまだ数分と経っていない、しかしその時。ユウの口から震えた声が上がる。

 

 通信を通してその声を耳にしたキラが、何事かとユウへ向けて尋ねた、その時だった。

 

 スピリット、ストライク共にセンサーが反応を示す。それと同時に、アークエンジェルからの通信が二人の耳朶を打った。

 

「二人共、前方後方共に三機、モビルスーツが接近しているわ!」

 

 スピーカーから聞こえて来たのはマリューの忠告の声。

 それよりも早く、ユウもキラも、その事には気が付いていた。

 

 センサーに映る、接近してくる機体の名称。

 イージス、デュエル、バスター、ブリッツ、ジン、そしてシグー。

 相手はヘリオポリスにて奪取した四機全てを投入、更に先の戦闘で生き残ったジンと、隊長機であるシグー。

 

「まずい…っ!」

 

「ユウ!?」

 

 こちらが二機に対し、向こうは六機。だから、なのだろうか。

 

 突如焦燥に満ちた声を発したユウは、スピリットのスラスターを吹かせ前方へ向けて飛び出していった。

 

 驚くキラを他所に、ユウは更にスピリットを加速させ、前方から近付いてくるモビルスーツの集団へと突っ込んでいく。

 

「スピリット、何をやっている!前へ出過ぎるな!」

 

 キラの耳に聞こえてくるナタルの注意の声は、ユウにも聞こえている筈だ。

 しかしその声にユウは何も返さず、モビルスーツの集団へ─────正確にはその内の一機、シグーと呼ばれる機体へとスピリットは突進していく。

 

 自身が狙われている事を察したか、シグーもまた二機を置いて先行。直後互いはシールドを構え、止まる事なく、やがて火花を散らしながら勢いよくぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出撃して少し、背筋に奔る鳥肌染みた冷たい感覚。

 

 ()()。考えるよりも先にそう悟った俺は、反射的にスピリットを加速させる。

 

 何故だ。何故ここに、この戦場にお前がいる─────ラウ・ル・クルーゼ!?

 

 ここに奴がいるのはまずい。この宙域に居てしまえば、先程出撃した兄さんの存在に奴は気付けてしまう。

 クルーゼが兄さんの存在に気付き、兄さんの進路を妨害に向かえば、作戦が破綻する…!

 

 それは何としても防がねばならない。それならどうするか?

 クルーゼの意識をこちらに向けさせるしかない。

 

 向こうもこちらの接近、狙われている事を察したか、両脇を飛行するイージス、ジンを置き去りに加速。

 それを見た俺は左手にシールドを構え、機体を更に加速させた。

 

 向こうもシールドを構え、こちらへ突っ込んでくる。

 

 二機がぶつかり合うまで、数秒と掛からなかった。

 二機の激突はほんの一瞬、推力で勝るこちらが押し切り、シグーの体勢が崩れる。

 

「そこっ!」

 

 その隙を逃してはいけない。

 左腰のビームサーベルを右手で抜き放ち、シグーへと斬りかかる。

 

 だが、素早く体勢を整えたシグーは再度シールドを構え、スピリットの斬撃を受け流しその勢いのままこちらから距離を取る。

 

 この一連の短い攻防の中、それでも操縦桿を握る手に汗が滲んでくる。

 

 たかが数秒の攻防でも伝わってくる、相手のプレッシャーと強さ。

 …分かってしまう。もし、クルーゼがこのスピリットと同等の機体に乗っていた場合、その数秒で俺は落とされてしまう、と。

 

「─────っ!」

 

 勢いよく頭を振り、胸の奥で過った弱音を振り払う。

 

 操縦技術がない?戦闘経験が足りない?そんなもの、とうに知っている。構うものか。それでも機体性能はこちらが上なのだ。

 

 性能だけで戦いの勝敗が決まる訳じゃない、と有名な誰かが言ったが、しかし性能というものは戦いの勝敗に大きく影響する要素の一つだ。

 それならその要素を、とことんまで利用してやる。

 

 スピリットのスラスターを再び吹かせようとした、その時だった。

 

「面白い…。やはりどうやら、君も私の存在を感じているようだ」

 

「─────」

 

 思考が一瞬、硬直する。

 

 実際に声が耳に届いている訳じゃない。頭の中から、直接響いてくるような…そんな感覚。

 

 フラガの家系が持つ能力。それを強く受け継いだもの同士が近付き合えば、どうなるか。

 

 感覚は共鳴し、肉声が届かなくとも、直接言葉を届け合い、通信すら必要としない対話がここに実現する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスラン、ミゲルは先に行ってストライク、足つきを討て。私はここで、スピリットの足止めをしよう」

 

「なっ…!」

 

「隊長!?私もここでこいつを!」

 

「聞き分けろ。数の優位はこちらにある、ならばそれを利用しない手はない」

 

 クルーゼの言う事にも一理あった。クルーゼがスピリットの足止めをしている間に数の優位を生かし、アスラン達五人でストライクとアークエンジェルを落とし、それらを落としたら転進、一気にスピリットを討つ。

 機体性能の差があるとはいえ、アスランもミゲルもクルーゼが落ちる所など想像できず、クルーゼの言う作戦が合理的だと感じてしまった。

 

「了解」

 

「…了解」

 

 数瞬の空白の後、先にアスランが、少し遅れてミゲルが返答し、それぞれ機体をスピリットの後方─────ストライクとアークエンジェルへ向けて進ませる。

 

 そして、この場に残ったのはスピリットとシグー─────ユウとクルーゼのみとなった。

 

「初めまして、ユウ・ラ・フラガ」

 

「…ラウ・ル・クルーゼ」

 

 手始めに挨拶をすれば、返って来たのは自身の名前だった。

 

 向こう、ユウが自身を知っている事に僅かに驚きつつもクルーゼは笑みを以て返す。

 

「ほぉ。私の事を知っているとは、嬉しい限りだ。…お礼として、君には死を差し上げるとしよう」

 

「っ─────!」

 

 その言葉が合図となり、二機の交戦が再び始まる。

 

 シグーは対スピリット、ストライク用として装備したビームライフルを取り出し、銃口をスピリットへと向ける。

 対してスピリットはスラスターを噴射、その場から即座に離れてシグーからロックされないよう動き回る。

 

「ちぃっ、厄介だな!その推力は!」

 

 流石のクルーゼも、スピリットの推力を相手に狙撃は難しかった。

 しかし、当たらなくとも牽制にはなる。命中させるのではなく、そちらを狙いとして、クルーゼはライフルをスピリットへ向けて連射する。

 

 スピリットがシグーへと向くと、向かってくるビームを翻って回避。続けてスピリットもまたライフルをマウントし、シグーへ向けて三射放つ。

 

 スピリット、シグー共に放たれるビームを躱し、撃ち合う。

 ビームを撃ち合いながらスピリットはシグーへと接近、一方のシグーはスピリットから距離を取るべく後退していく。

 しかしここで、スピリットの推力が物を言う。次第に二機の距離は近付いていき、やがてスピリットが加速する。

 

 スピリットのコンセプトは短期戦にある。推力に物を言わせ、敵機へ接近、沈黙させるという超短期戦を想定した機体だ。

 しかし、スピリットの特性、装備は決して近距離戦に向いている訳ではない。イージスの様に格闘戦を想定したカスタマイズはされていないし、ソードストライクの様な近距離に於いての絶対的火力を持ち合わせている訳でもない。

 

 故に、相手がスピリットの速度に反応、対応が出来る腕を持っていた場合─────

 

「くっ!」

 

 戦いは長期化する。

 

 スピリットの接近に対し、クルーゼは見事に反応、対応してみせる。

 

 スピリットから距離を取りつつ、機体の姿勢を沈ませ、接近してくるスピリットの懐へ飛び込む。

 そこで銃口をスピリットのコックピットへ向け、た所でスピリットが転進。引き金を引いた時にはそこにスピリットは居らず、ビームは虚空を通り過ぎていくだけだった。

 

「見事なものだ…。流石はあの男に後継者として見込まれただけはある!その才能、やはり私にとって君は邪魔だ!」

 

「このっ…!」

 

 先程の攻防、クルーゼの銃撃は躱されてしまったが、前回までの─────ミゲルとの攻防時のユウであればあの銃撃で戦いは終わっていた筈だった。

 

 しかしユウは戦いの中で急激に技術を成長させ、機体性能の優位性を持っているとはいえ、クルーゼと渡り合えている。

 

「そこまで俺が憎いかっ!世界が憎いかっ!?」

 

「っ、なにを─────」

 

 突然、ユウが叫び出す。いきなりなにを言い出すのか、クルーゼは怪訝に思いながら、しかし次にユウから発せられたその言葉に、遂に思考が凍り付く。

 

「ラウ・ラ・フラガ!」

 

「─────」

 

 それは、かつて捨てた筈の、忌々しく憎んでも憎み切れない、自身に刻まれた本当の名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウがクルーゼと交戦している中、キラもまた必死にストライクを動かしていた。

 

 ストライクへと襲い掛かってくる機体の数は二機、デュエルとジン。一方のアークエンジェルにはバスターとブリッツが艦に取りつかんと飛び回っている。

 アークエンジェルの必死の抗戦の前に、まだ取りつけてはいないが、それもいつまでもつか分からない。

 

 しかし、問題はキラ自身の方だった。

 

「このっ、このっ、このぉっ!!」

 

 ストライクに乗るのは三度目だ。出撃する前には、ユウ達兄弟とのやり取りで多少なりとも緊張を解す事が出来た。

 だがそれでも、キラは民間人の女の子で、本来は戦いには向かない根が優しい子。

 

 ユウの様に、踏んだ場数があまりに少ないにもかかわらず落ち着き払える方がおかしいのだ。

 

「はんっ!そんな戦い方で!」

 

 我武者羅にビームライフルを連射するストライクを、バカにするように鼻で笑うのはデュエルのパイロット、イザーク・ジュール。

 牽制も何もない、ただひたすらに敵に当てるだけの射撃は、現在遠く離れているこの距離では躱すのは容易かった。

 

「油断したとはいえ、ミゲルが手こずったと聞いてどんな相手かと思ったが…、所詮はナチュラルか。アスラン、ミゲル、俺が陽動で前へ出る!」

 

「分かった!アスラン、後ろから挟み込むぞ!」

 

「…あぁ」

 

 会話の後、デュエルが前方に出てストライクへ接近。その陰に隠れるようにして、イージスとジンがストライクの視界からずれていく。

 

「く、来る!」

 

 キラは接近してくるデュエルに意識がいってしまい、回り込もうとするイージスとジンには気付かなかった。

 

「でぇぇぇぇえええい!!」

 

「こんのぉっ!」

 

 雄叫びを上げながら、イザークはデュエル背後の鞘からビームサーベルを抜き放つ。

 一方のキラも、ストライクのビームサーベルを抜いてデュエルを迎え撃つ。

 

 互いの斬撃をシールドで受け止め、それぞれの機体が力を込め、互いを押し込まんと力を込める。

 

 その時、ストライクのコックピット内にアラームが鳴り響く。

 

「っ!?」

 

 敵機にロックされた事を悟ったキラが、すぐに機体をその場から離す。

 

「逃がすかぁっ!」

 

 逃げるストライクにデュエルが追い縋る。

 

 キラは機体を反転、ビームライフルを抜き、銃口をデュエルへ向けて引き金を引く。

 

 デュエルがキラが放ったビームを躱し、その場から離れた─────次の瞬間。

 

「もらったぁっ!」

 

「あぁっ!?」

 

 機体に奔る衝撃。キラの口から漏れる悲鳴。

 

 衝撃の正体は、ミゲルが駆るジンの突進攻撃だった。

 ミゲルは続けざまに重斬刀を振るい、ストライクのコックピット付近へと斬撃を容赦なく打ち込む。

 

「きゃぁぁぁああああっ!!」

 

 PS装甲が斬撃を防ぐも、中のキラへと衝撃が襲い掛かる。

 

 ここでミゲルの攻撃は終わらない。斬撃の衝撃で離れていくストライクへ向け、突撃銃を撃ち放つ。

 

 これまた実弾銃の為、ストライクの装甲自体にダメージはないが、当然パイロットへのダメージは蓄積されていく。

 

 それだけではなかった。ここまでの戦闘、キラはビーム兵器をどんどん使っていた。更に、実弾兵器による攻撃で、PS装甲には何度も衝撃が加わった。

 

「バッテリーがっ!?」

 

 ここで、ストライクがバッテリー切れを起こす。

 PSが切れた事によりストライクの装甲から色が抜け、そしてその様子は敵側でも確認されていた。

 

「バッテリー切れ!」

 

「ずいぶん粘ってくれたじゃないか。だが、これで終わりだぁっ!」

 

 ミゲルとイザークが意気込み、ストライクへ止めを刺すべく突っ込んでいく。

 

「こんな、所で…っ!?なにっ!?」

 

 もう抵抗の手段はない。ここで、自分は死ぬ─────そう直感したその時、コックピット内が大きく揺れる。

 

 ジンから攻撃を受けたあの時の様な感覚ではない。戸惑うキラがカメラを通して状況を確かめる。

 

「イージス…、アスラン!?」

 

 MA形態となったイージスがストライクを捕らえ、どこかへ連れて行こうとしていた。

 

「アスラン!?何をやっている!」

 

「こいつをこのままガモフへ連れて行く」

 

「馬鹿なっ!?命令はこいつの撃破だぞ!?それを…」

 

「鹵獲できるなら、その方が良いだろう!」

 

「─────」

 

 その会話を通信を通して聞いたキラが、顔を青くさせる。

 

 このままザフトへ連れて行かれる。アークエンジェルから…友達から…ユウから、引き離される。

 

「離して、アスラン!私はザフトなんかに行かない!」

 

 イージスの拘束から逃れようともがくが、パワーダウンしたストライクではどうする事も出来ない。

 

 それでも何とか抜け出そうと画策するキラの耳に、親友の声が飛び込んでくる。

 

「いい加減にしてくれ、キラ!お前はコーディネーターなんだ。俺達の仲間なんだ!このまま来てくれ…。でなきゃ、俺はお前を撃たなきゃならなくなる!」

 

「…アスラン」

 

 ザフトの艦に行きたくなどない。今まで出会ってきた人達を、置いて行きたくない。

 それでも、アスランの言葉から感じるその気持ちだけは、どうしても理解できてしまった。

 

「血のバレンタインで母が死んだ。…俺は、っ!?」

 

 アスランが何かを続けようとした、その時だった。

 

 イージスとストライクのセンサーが、機体の接近を知らせる。

 

「キラっ!」

 

「ユウ!」

 

「くっ…、こいつは、スピリット!それなら、クルーゼ隊長は!?」

 

 先に前方へ出てシグーと交戦していた筈のユウが、キラを助けるべく舞い戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、キラ!?」

 

「─────キラ、だと…!?」

 

 クルーゼと戦闘している内に、後方への意識が疎かになってしまった。気付けばストライクがイージスに囚われ、そのまま連れ去られようとしている。

 

 ストライクの鹵獲はイージスに任せたのか、デュエルとジンが、アークエンジェルを襲うバスターとブリッツに加勢しようとしている所も、カメラを通して目撃する。

 

 迷う暇なんてない。機体を反転させ、ストライクへと急がせる。

 

「待て─────この感覚、まさか…ムウっ!?」

 

 しかも、俺が本当の名前を言い当て、動揺した事で意識が逸れたのか。遂にクルーゼが兄さんの存在に気が付く。

 

 だが、それは少し遅い。そろそろ、兄さんはヴェサリウスを射程に捉える頃の筈だ。

 

 ならば、俺がすべき事は一つだ。キラを守りに行く。

 

 シグーを置き去りに、ストライクへ急ぐ。

 背後からシグーの追撃はなく、恐らくクルーゼはヴェサリウスを守るべく反転したようだ。

 

「ユウ、作戦は成功した!このままこの艦を落としちまえば…」

 

「ダメだ兄さん!シグーがそっちへ行ってる!それにストライクがイージスに捕まった!すぐに戻ってきて!」

 

「なにっ!?くっそ、分かった!」

 

 クルーゼの反転も虚しく、兄さんが立てた作戦は成功した。兄さんはそのまま全ての敵機が出撃している事を考慮し、母艦を落とそうと考えていたらしいが、俺がそれを止める。

 

 俺から現状を知らされた兄さんは、すぐに追撃の手を止めてこちらへと戻ってくる筈だ。

 

 …だけど、兄さんが戻ってくるまでに、俺でストライクを助け出す!

 

「キラっ!」

 

「ユウ!」

 

 ストライクへ呼び掛けると、キラの声が返って来た。

 

 その声に少しの安堵を覚えながら、俺はスピリットを加速。サーベルを構え、イージスに向かって突っ込んでいく。

 

 こちらの接近に気付いたイージスは、ストライクを解放。MA形態からMS形態へと変形し、スピリットの斬撃をシールドで防ぐ。

 

 スピリットの接近に気付いたのはイージスだけではなかった。ジンが、デュエルが、アークエンジェルを攻撃していたバスターとブリッツが、こちらを向く。

 

 イージスが反撃をしてくる前に、機体の左足を回し、イージスとの距離を蹴り離す。

 

 続けて、こちらへ向かってくるジンとデュエルに向けて銃口を向け、ビームを撃ち放つ。

 

 各機それぞれ別の方向へと避けたのを確認してから、今度は銃口をバスター、ブリッツと向け、ビームを放つ。

 

「キラ、お前は下がれ!もうすぐ兄さんも来る、ここは俺達に任せて退くんだ!」

 

「で、でも!」

 

「作戦は成功した。兄さんが後退すれば、アークエンジェルの主砲で敵艦を攻撃できる。そうなればこっちの勝ちだ!」

 

 兄さんが敵母艦へ一撃を与えた以上、こちらの勝利はもう時間の問題だった。

 

 バスターのガンランチャーとエネルギーライフルを連結させた、超高インパルス狙撃ライフルによる砲撃を回避しながら、ちらりとスピリットの残りバッテリーを確認する。

 

 殆ど被弾していないお陰か、まだバッテリーには余裕がある。これならば、兄さんが戻ってくるまでの時間稼ぎくらいは何とかなる。

 

 バスターの砲撃を牽制代わりとして、接近してきたデュエルのサーベルを姿勢を低くする事で躱し、背後へと回り込み相手を蹴り付ける。その慣性を利用してバッテリーが切れたストライクへ接近、回収して後退する。

 

 俺達が後退する事で、アークエンジェルの射線が開けた。

 主砲、ローエングリンが展開され、超高威力の陽電子砲が発射される。

 

 ヴェサリウスの回避運動が間に合い、撃沈こそ逃れたものの砲撃を掠めた艦は戦闘不能に陥り、堪らず逃れていく。

 

 続けてヴェサリウスへの奇襲を成したメビウスゼロも戻り、いよいよ状況が変わっている事を感じ取ったのだろう。

 

 ザフト機はそこで戦闘を止め、撤退していった。

 

 ジンとデュエルが最後までこちらを睨んでいたが、結局それ以上は何もする事なく、僚機の後に続いて離脱していく。

 

 その後ろ姿をしばらく見つめてから、俺達もまた、艦へと戻る。

 

 メビウス、ストライク、スピリットの順番で艦へ収容され、最後に戻った俺はヘルメットを脱いでからハッチを開き、コックピットを出た。

 

「おい、こら嬢ちゃん!」

 

「キラ・ヤマト!どうしたー!」

 

 そんな俺の目に飛び込んで来たのは、ストライクの周りに集まる整備士達と兄さんが、未だにストライクから降りてこないキラへと呼び掛けている光景だった。

 

 …そういえば、こんな事もあったっけか。

 

「出てこないの?」

 

「ユウ。…あぁ、全くよ」

 

「あぁ、俺に任せて」

 

 兄さんが苦笑をしながら、側面の装置でハッチを開けようとするのを止めて、俺が前へ出る。

 

 自意識過剰かもしれないが、原作通りに兄さんが声を掛けるよりも、俺の方がキラは落ち着く。そんな気がしたから。

 

 兄さんが操作しようとした装置を俺が操作し、ハッチを開けてコックピットの中へ身を乗り出す。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…っ」

 

 ヘルメットを被ったまま俯いているせいで、表情は確認できない。

 息を切らしながら、両手を操縦桿に乗せたまま動かないキラ。

 

「キラ。…キラ」

 

 名前を呼ぶ。反応がなかったから、今度は肩を叩きながらもう一度名前を呼ぶ。

 するとキラの体が跳ねるようにして震え、ゆっくりと俯いていた顔が上を向いた。

 

「ゆ…う?」

 

「あぁ。ユウだよ」

 

 顔が青白い。

 …アニメで見るだけでは分からなかった、戦いに恐怖する本当のキラの姿が、そこにはあった。

 

「もう戦いは終わったんだ」

 

「…おわり?」

 

「そうだよ。お前は生きてる。俺も生きてる。艦も無事だ」

 

 キラに語り掛けながら、操縦桿を握る彼女の指をゆっくりと解いていく。

 

「わたし、は…」

 

「…早く出て来いって。お前は、いつまでもこんな所に居ちゃいけない」

 

 キラの震えた声を聞きながら、無意識に俺の口からはそんな言葉が出て来た。

 

 こんな所に─────それは一体、何を示しているのか。ストライクのコックピットの事を言っているのか、それとも─────自分で発した言葉の癖に、自分でもよく分からない。

 

「っ、ユウ!」

 

「おっ…と」

 

 キラの手を操縦桿から離し、ベルトを解いてやると、キラが俺へと飛び込んでくる。

 

 キラの両手が俺の背に回され、彼女の顔が俺の胸に埋まる。

 密着した彼女の体は、未だに震えていた。

 

「…」

 

 そんな彼女に対し、俺は何もしなかった。言葉も掛けず、触りもせず、何もしない。

 

 だって、そうだろう?

 俺はこんな優しくて怖がりな女の子に、戦場に出て欲しいと願っているのだから。

 これからも、この子の力が必要だって思ってしまっているのだから。

 

 そんな俺が、自らこの子に触れる資格なんて果たしてあるのだろうか?

 

 ─────ないだろう、そんなもの。

 

 せめてとして、キラが落ち着くまで、気が済むまで、このままで居させる事しか俺には出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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