フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE89 ユウの誓い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球連合、ザフト両軍からの侵攻によって受けた被害の復興作業が急ピッチで進められる。

 それと並行して、別の作業もまた水面下行われる中、マリューはムウとナタルを伴ってモルゲンレーテのとある施設を訪れていた。

 

 そこには一隻の戦艦が収容されており、それを一望できるブースの中で、彼らはキサカが操作するコンソールの画面を覗き込む。

 

 画面に映し出されたのは、ブースの外にある戦艦に搭載された武装や内装図といったデータだった。

 

()()()()は、以前からヘリオポリスとの連絡用艦艇として使って来たものだ」

 

 それらのデータを示しながら、キサカが戦艦クサナギについての説明を始める。

 

「モビルスーツの運用システムも、武装もそれなりに備えてはいるが、アークエンジェル程ではない」

 

 イズモ級宇宙戦艦・二番艦クサナギ─────それが、この艦に名付けられた正式名称だ。

 たった今、キサカが口にした通り、本来は本国とヘリオポリス間の連絡用艦艇として使われていた。

 

 それを持ち出した上、何故艦のスペックについてマリュー達が聞かされているのか─────それは、先程語った、復興作業と並行して進められている別の作業の話に繋がる。

 

「だが心強いね。アークエンジェルと()()()()()だけで、この先戦い抜くのは厳しかったからな」

 

 ムウが明るくそう言えば、マリューが振り向いて彼の言葉に同意して頷く。

 

 ─────ビクトリアが襲撃を受けたと報せが来たのは、つい昨日の事だった。

 

 オーブから撤退してたった三日後の出来事、ザフトもその行動の素早さに対応しきれず、戦況は地球軍が優勢で進んでいるという話だ。

 

『アークエンジェル、並びにドミニオンには、アメノミハシラへと上がって欲しい』

 

 ウズミから呼び出され、そう要望されたのはその矢先の事だった。

 

 オーブはこの戦争に参戦するという─────復興作業とは別の作業というのは、その為の軍事整備。

 

 他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。

 この理念の下に、オーブは長い間中立を貫き、ナチュラルとコーディネイターを分け隔てする事なく受け入れ続けて来た。

 

 平和の国と、地球軍内で誰かがオーブを称した事があった。

 戦争に巻き込まれる事なく、入り込む事もなく、平和を築き上げてきたこの国が、何故─────。

 

 ウズミの前に立ったマリュー達は、一様に目の色を驚きに染めた。

 

『このまま進めば世界はやがて、認めぬ者同士が際限なく争うばかりのものとなる。未来がそんなもので良い筈がないのだ。決してそんな未来を認めてはならぬ。…理念を貫いた先に待つのが破滅であるのなら、私は今この瞬間から、理念を捨てよう』

 

 そう語るウズミの目には、何者にも汚される事のない力強い決意に色づいていた。

 

『過酷な道である事は重々承知の上だ。先程の私からの要望も、強制はしない。だが─────我らと同じ、未来を望むのなら』

 

 固い意志と、力強い決意と共に声高らかに語っていたウズミが、マリュー達に向けて頭を下げた。

 彼を前にして、彼女は背後に立つムウ、ナタルと視線を交わしてから、そう短い思考の後に答えを出したのだった。

 

 ─────彼女達が出した答えについては、今この場にマリュー達が居る事が雄弁に語っている。

 

 マリューはコンソールの画面を齧り付くようにして見ながら、クサナギのスペックを頭に叩き込んでいく。

 今後、ドミニオンと同時にこのクサナギもまた、前線で戦場を共にしていく。アークエンジェルの二番艦であるドミニオンについては、データなど殆ど目を通すまでもなく把握しているが、クサナギはまた別だ。

 

 アークエンジェルと似た武装、構造をしてはいるが全くの別物。データに目を通し、アークエンジェル、並びにドミニオンとどういった連携をとれるか、頭の中でシミュレーションしていく。

 

「戦術などの細かい話は、アメノミハシラに着いてからにしよう。忙しい所に呼び出してしまい、すまなかった」

 

「いえ。…共に戦える事、心強く思います」

 

 一通りクサナギのスペックについて説明を受けた後、キサカから先程まで画面に映し出されていたデータをプリントした冊子を受け取る。

 アークエンジェルへ戻ってから、改めて確認しなければ─────ムウ、ナタルと共にブースを出たマリューはそう考えつつ歩を進める。

 

「それでは、私はここで」

 

「えぇ。また後で」

 

 途中、道が分かれた所でナタルとマリューが声を掛け合い、そしてナタルが一人、二人から離れていった。

 

「…心強いわね。ナタルと肩を並べて戦うっていうのも」

 

「あぁ。…そうだな」

 

 姿勢よく歩く彼女の後ろ姿を見つめながら、マリューとムウが言い合った。

 

 アークエンジェル、クサナギ、そしてドミニオン。この三隻で宇宙へ上がるにあたり、一部クルーの配置変換が行われた。

 その内の一人がナタルである。彼女はウズミ並びにムルタから、ドミニオンの艦長を引き受けて欲しいという要請を受け入れたのだ。

 

 同型艦であるアークエンジェルの副艦長として航行を続けたナタルが、ドミニオンの艦長として相応しいという評価を受けた故のものだった。

 ナタルが二人と別れたのは、これからドミニオンのクルー達との顔合わせがあるからである。

 

 因みにだが、このクルーの配置変換によってとあるちょっとしたトラブルが起きたのだが─────それはまた別の話である。

 

「…キラさんとラクスさん、荒れていないといいわね」

 

「…理屈は分かるんだがな。あの二人の事を考えると、悪手だったかもしれないな」

 

 苦笑いをしながら言い合う二人の脳裏には、何が思い浮かんでいるのか。

 

 それは当の本人達にしか分からない事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この度、アークエンジェル級二番艦ドミニオンの艦長を拝命した、ナタル・バジルールだ。こちらが─────」

 

「ユウ・ラ・フラガであります」

 

「ミゲル・アイマンであります」

 

 アークエンジェルから()()()()()を受けた俺は、同じ要請を受けた()()()と共にモルゲンレーテへとやって来ていた。

 そして、廊下の途中でバジルール()()と合流し、今は異動先であるドミニオンに乗り込んでいる。

 

「副艦長のリアム・グレイソンであります。お待ちしていました。こちらへ」

 

 鍛え抜かれた肉体は軍服越しでも威圧感を発する。目尻は鋭く吊り上がり、冷たい印象を思わせる男はリアム・グレイソンと名乗り、今日付けでドミニオンに配属となった俺、ナタルさん、ミゲルの三人を出迎えに来てくれた。

 

 こうなった経緯はつい昨日の事。端的に言えば、アークエンジェルに来たムルタさんからの要望を、俺達三人が受け入れたというだけだ。

 

 その際、色々と─────というよりは、キラとラクスが荒れに荒れた。

 

 俺とゼノスをドミニオンに移した方が良いと提案をしたのはムルタさんだった。

 その理由としては、ゼノスの開発に携わった技術士達が多くドミニオンに乗り込んでいるからだ。

 

 実戦配備をされて間もない、その上、当初は予定になかったNJCを急遽機体に搭載したという不安要素も相まって、ドミニオンに移るべきだと考えたらしい。

 それでも俺の方から拒否された時は大人しく引き下がろうとは思っていたみたいだけど、その提案を俺が呑んだものだから、後が大変だった。

 

 二人も理屈はよく理解していた。ムルタさんの提案に確かな理があると悟っていた。しかしどうしても、自分から俺を引き剥がされたという感情が強かったらしい。

 

 キラとラクスにムルタさんが詰め寄られるという、ある意味、C.E.史上最も面白─────もとい、衝撃的な場面に立ち会う事になった俺は、まあ何もせず見ているだけに徹した。

 だって、口を挟んだら二人から何をされるか分からなかったし…。ムルタさんの目の前で襲われるとか、普通にあり得そうな雰囲気だったから大人しくしていた。

 

 二人の迫力に気圧され、顔色を青くしながらも何とか説得に成功した時のムルタさんの顔は忘れない。

 あそこまで解放感に満ち溢れたムルタさんは、今後見る事はないと思う。

 

 そういう経緯もあって、俺はナタルさん、ミゲルと一緒に今、ドミニオンの中に居る。

 

 俺としてはミゲルがその要望を受け入れた事に驚かされたが─────というより、オーブ戦役でアストレイに乗って出撃していた事自体、最初に知った時は驚いた。

 その後、許可を取らないまま機体に乗り込んだミゲルを簡単に釈放する訳にもいかず、一度オーブ軍に捕らえられたものの、ムルタさんを通じたウズミ様からの要望を受け入れた事で釈放、ドミニオンへと配属となった。

 

 配属、とはいっても、俺もナタルさんもミゲルも、それこそこのリアムを初めとしたドミニオンのクルーも、正式にオーブ軍に入隊した訳ではない。アークエンジェルに居るキラ達もそうだ。

 傭兵、というのが一番近いのか、この場合は。とにかく、現在俺達はハッキリとしない立場に居るのは確かである。

 

 それでも戦うと決めた。誰もがこのままではいけないと思い、後の未来を手に入れる為に、ウズミ様の意見の下に集った。

 国籍も立場も身分も違えど、思いを同じくした人達と共に今後は戦う事となる。

 

 その最たる例が正に、このドミニオンだ。艦内にはナタルさん、リアムを初めとした元地球軍人が多く乗っているが、俺は一応地球軍に籍を置かれはしたがつい最近までは民間人だったし、何よりミゲルはザフト兵だ。

 

「今、クルー達は格納庫に集まっています。そちらで顔合わせを行ってもよろしいか」

 

「あぁ。案内を頼む」

 

 艦へと乗り込んだ俺達の先頭をリアムが歩く。

 

 案内、といってもアークエンジェルと同型艦の以上、内部の構造もほぼ同じだ。道順もアークエンジェルと同じままに格納庫へと辿り着き、これなら艦内の確認をする必要もなさそうだ。

 

 格納庫へと入ると、すでにクルー達は並んで俺達の到着を待っていた。

 彼らの前へ案内された俺達は、改めてその視線達と向き合わされる。

 

 ─────一瞬、彼らの視線がミゲルに集中したのは気のせいではないのだろう。

 

「本日付でドミニオン艦長を拝命した、ナタル・バジルールだ。よろしく頼む」

 

 ナタルさんに続いて俺、ミゲルの順番で自己紹介をする。

 

「それでは、バジルール艦長は我々と共に艦橋へ。君達はここで、整備士、パイロットのメンバーとの顔合わせをしてくれ」

 

 リアムがそう言うと、一旦解散となる。ナタルさんはまたリアムさんの案内で、他のブリッジメンバーと思われるクルー達と格納庫を離れていく。

 

 そしてここに残ったクルー達が、艦、機体の整備士とパイロット、か。

 

「改めて、ユウ・ラ・フラガです。これからよろしくお願いします」

 

「ミゲル・アイマンだ。よろしく頼む」

 

 ミゲルと一緒にもう一度名乗ると、対面するクルー達の中から一人、前へと歩み出る者がいた。

 

 銀髪を無造作に流し、片目を隠しながら無感動にこちらを見てくる男。

 

 ─────この男。何となく、見た事がある気がするのだが。

 

「ドミニオン所属、()()()()()()()()()()()だ。よろしく頼む」

 

 ─────え?

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「…本当にコーディネイターなんだな」

 

「あぁ。…ザフトとは肩を並べて戦えねぇってか?」

 

「いや。こちらに銃を向けて来ない限りは害を加えるつもりはない」

 

「そうかい。なら、アンタとはそれなりに仲良く出来そうだな」

 

 俺が目を白黒させている間に、ミゲルはスウェンと握手を交わしていた。

 

 …うん、落ち着こう。カナードがこちら側に参戦するなんて出来事が起こっているんだから、スウェンも味方に合流するくらい可笑しくな─────い訳ないだろ!?一体何が起こってるんだ一体!?

 

「よろしく頼む」

 

「あ、あぁ…。こちらこそ、頼りにしているよ」

 

 いつの間にやらスウェンが歩み寄って来て、こちらへ手を差し出していた。

 差し出されたその手を拒まず、こちらも手を伸ばし、互いに手を握り合う。

 

 ─────改めて落ち着こう。どちらにしても、心強い戦力が味方に着いたのは事実なんだから。多分、ムルタさんが引っ張り込んで来たんだろ。そうなんだろう。

 

 それよりも、そろそろ時間だ。

 

「ゆっくりと話をしたい所だけど、悪い。これから行かなきゃいけない所があるんだ」

 

 手を離してからそう言うと、スウェンは首を傾げる。その後方ではミゲルが小さく嘆息してから腰に手を当てた。

 

「今日も行くのか。これから忙しくなるってのに」

 

「だからだよ。今日を逃したらもう会いに行けるのは、帰って来てからになっちまうからな」

 

 俺が言う行かなきゃいけない所がどこなのか、察した様子のミゲルが注意にも似た言葉を掛けてくるが、それに間髪置かずに返答する。

 

 そう、宇宙に上がる準備の為にもこれから忙しくなるのはミゲルの言う通りだ。

 だからこそ、今の内に俺は、彼女にしばらく会いに来れなくなる事を伝えておかなくちゃいけない。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

 ミゲルと、俺がどこへ行こうとしているのか察しがつかないスウェンに言い残してから急ぎ足で格納庫を出る。

 

 多分、もう()()()()は合流場所に到着している頃だろう。

 

「ユウ、こっち!」

 

 ドミニオン艦内を出て施設内へ、そして外へと出た俺を呼び掛ける声。

 

 そちらに振り向けば、車の後部座席の窓を開け、こちらへ向かって手を振るキラの姿があった。

 その奥にはラクスも乗っているのが見える。急いでそちらへ駆け足で向かい、扉を開けて助手席へと乗り込んだ。

 

 遅くなった事をキラとラクスに詫びた後に、オーブ軍から派遣されたドライバーが車を走らせる。

 

 これから俺達が向かう場所は、オーブ軍が管理している医療施設─────マユの所だ。

 

 マユと初めて顔を合わせたあの日から、俺は毎日彼女の所に顔を出していた。

 その時は俺に失礼がないように、と無理をして作っていた笑顔は、会う度に次第に自然なものへと変わっていくのが目に見えて分かった。

 

 彼女の家族を助ける事は出来なかったけれど、少しずつ自然な笑顔を取り戻していくのを見て、俺の中では安堵の気持ちが湧き始めていた。

 

 そんな時だった。キラとラクスから、自分達もマユに会いに行きたいと申し出て来た。

 何を思ったのか─────きっと、俺を心配しての事だろうと何となく分かった。

 

 パイロットの仕事をしながら、僅かな時間を見つけてはマユに会いに行く俺の姿は、身を削っている様に見えた事だろう。

 

 実の所、マユに会いに行く事を負担に感じた事は一度もない。

 確かにその行為の中に責任、使命感といった強迫観念が全くないかと聞かれればそうではない…が、今の俺にとってマユ・アスカは一人の友人であり、血の繋がりこそないものの、妹みたいな存在にすら思っている。

 

 マユ自身、俺の事をどう思っているかは分からないけど─────少しでも助けになりたいという気持ちは、強迫観念から生まれたものではないと、胸を張って言える。

 

 そう説明はしたが、それだったら尚更会ってみたいと押し切られた。

 

 十数分程の走行時間の後、医療施設へと着いた俺達は受付を終えてマユの病室へと向かう。

 最早通い慣れてしまった廊下を抜けて、病室の前に立ち、扉をノックする。

 

 中から「どうぞ」と声が聞こえ、静かに扉を開けた。

 

 マユはベッドの上に居た。上半身を起こした体勢でこちらに視線を向けて、俺の顔を見た途端にパッと明るく笑みを浮かべたかと思うと、その後ろに立つキラとラクスを見て目を丸くする。

 

「えっと…」

 

「いきなりで悪い。マユに会ってみたいって言うから、連れて来たんだ」

 

 驚き戸惑うマユに向かってキラとラクスを送り出すようにして、俺は二人の横に立つ。

 

「初めまして、マユちゃん。本当に突然でごめんなさい。キラ・ヤマトっていいます」

 

「ラクス・クラインです。ユウからお話を聞いてからずっと、お会いしたいと思っていました」

 

「あ…、ま、マユ・アスカ、です」

 

 キラとラクスの自己紹介に対して、マユも言葉を詰まらせながらも名乗り返す。

 

 その様子を二人は優しく微笑みながら見守っていた。

 

「二人共、俺の仲間なんだ。驚くかもしれないとは思ったけど、マユと仲良くなれるとも思ったから連れて来た」

 

「仲間…」

 

 マユがじっ、とキラとラクスを見つめる。

 

 その視線を受け止める二人は、優しい微笑みを浮かべたまま動かない。

 

 そうしてしばらくの間二人を見つめ続けたマユは不意に俯き、口を開いた。

 

「あの…。私と、お友達になって…くれます、か?」

 

 自己紹介の時と同じように、言葉を詰まらせながらもマユは言い切った。

 キラとラクスは一度、驚いて目を丸くしてから、すぐにまた微笑んでから頷いた。

 

「勿論だよ、マユちゃん」

 

「こちらこそ、よろしくお願い致します」

 

 緊張に強張っていたマユの表情が、二人からの返事を聞いた途端に綻ぶ。

 

 嬉しそうに破顔したマユに、キラとラクスが歩み寄っていく。

 

 初めて会ったにも関わらず、あっという間に打ち解けた三人は、俺をそっちのけでガールズトークを始めた。

 時折、話の中で話題が俺に飛び火しながらも、マユの明るい表情を見て思う。

 

 きっと、俺一人が会いに来続けるだけじゃ、この顔を引き出す事は出来なかっただろう。

 ここに来るまで不安だったけど、キラとラクスをマユの所に連れて来て、本当に良かった。

 

「…マユ。そろそろ行かなきゃだ」

 

 楽しい時間は早く過ぎていく。

 気付いた時には、戻る予定の時間が迫って来ていた。

 

 その事を告げると、マユは残念そうに微かに表情を暗くさせながらこちらを見上げた。

 

 悲しませてしまうのは心が痛いが、ずっと傍に居られる立場ではない。

 

 それに、俺はまだマユに話していない事がある。

 

「それとな、マユ。俺達は宇宙へ上がる事になった。だからしばらく、お前に会いに来れなくなる」

 

「え…」

 

 ずきり、とまた胸が痛む。

 揺れる瞳の中で、微かに雫が見えた。

 それを零さないよう、必死にマユが我慢する姿が痛々しくて仕方がなかった。

 

 本当は、マユの心の傷が癒えるまで傍に居てやりたい。

 だけどそれは出来ない。俺は─────俺達は、未来を掴む為に戦わなければならない。

 

 俺達が望む未来─────それは、マユが幸福に過ごせる未来も含まれているのだから。

 

「そう、ですか…」

 

 俯いたマユの表情は俺からは見られない。

 それでも、泣くのを必死に我慢しているのだけは伝わって来る。

 

 その理由はきっと、俺を心配させまいとしているのだという事も─────

 

「─────」

 

 キラとラクスがこちらを見ている。

 真っ直ぐに俺の目と見合わせて、口には出さずとも何かを伝えようとしている。

 

 …分かってる。今のマユには、二人じゃ駄目なんだ。

 

 俺が声を掛けなくちゃいけないって事は、分かってる。

 

「マユ」

 

「ゆう、さん…」

 

 一歩後ろへ下がる二人の前を通り抜けて、マユの傍らに寄り添いながら彼女の肩に手を乗せて呼び掛ける。

 

「何も一生の別れじゃないんだ。何時になるかは分からないけど、また会いに来るよ。今度は二人以外の俺の仲間も連れて」

 

「─────本当、ですか?」

 

 そう声を掛けると、マユはゆっくりと口を開いて、俺に問い掛けた。

 

 今の言葉は本当なのか。また会いに来てくれるのか─────家族を失い彷徨う少女は、その手を俺に向かって伸ばす。

 

「もう、嫌です。大切な人を失うのは…もうたくさんなんです。だから─────」

 

「俺は死なないよ。そして、誰も死なせるつもりもない」

 

 その手をしっかり掴みながら、マユに対して誓う。

 

 全部終わったらまたここに来ると。生きて帰って、また会いに来る。

 

 ─────俺はマユを残して死ぬつもりはない。

 

「…約束ですよ。ユウさんも、キラさんも、ラクスさんも…次に会いに来る時はもっとたくさんの人が会いに来るって、私、絶対に忘れませんから。だから…!」

 

 堪え続けた涙がぽろぽろと流れ出す。

 嗚咽を漏らしながら、マユは懸命に次の言葉を紡いだ。

 

「だから─────死なないで…!」

 

 その一言を最後に、限界を迎えたマユは俺の胸に顔を埋めながら泣きじゃくった。

 

 どれだけ強がっていても、彼女はまだ十二歳の子供。家族を亡くしたばかりの彷徨う子供なのだ。

 

 その子から、再び近しい人を奪う訳にはいかない。

 

 ─────死んでたまるか。

 

 その誓いは何も、マユだけに向けたものではない。

 ここへ来るまでの間、支えてくれた人達へ─────兄さんへ、そして。

 

 俺の誓いを傍らで見守る、愛する二人へ。

 

 もう二度と、戦いの中で死んでもいい等と考えはしない。

 

 どれだけ世界が、俺という存在(ユウ・ラ・フラガ)を拒もうとも、それを跳ね退けてみせる。

 

 俺は─────ユウ・ラ・フラガは、この世界で生き続けたいと願っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




当初の予定だと、ミューディーとシャムスも合流して、ユウとひと悶着ありながらも共に戦う─────なんてプロットを立てていました。
ですが、「いや無理だ。こいつらは絶対にユウを認めない」と執筆しながら実感させられました。

コーディネイターと心を通わすユウと、コーディネイターへの憎悪を深く刻みつけられたミューディーとシャムスは、多分どこまでも平行線だと、少なくとも無印編が終わるまでの短時間じゃ絶対に和解出来ない。
という事で急遽話を書き換える事に。昨日には投稿できる予定が今日に伸びてしまいました。

ここまでは今話の執筆の裏話ですが、ちょっとここらで先の投稿予定についてお話したいと思います。
最近は土日のどちらかで週一投稿を続けていますが、次の土日の投稿は外出する予定がある為出来ません。
代わりに、平日の内に一話投稿出来れば良いのですが、恐らく望み薄です。申し訳ない。
なので次回の投稿は来週になると思います。

もしかしたら確変が起きて、金曜日までに投稿がある可能性が微粒子レベルで存在していますが、まあ期待しないでください。
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