フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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久々登場のキャラ達によって構成されたPHASE92始まります。

…92?うっ、頭が─────(野球ファンなら分かる筈)


PHASE92 勇躍と暗躍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は官舎の一室で、コーヒーカップを片手にテレビの放送を眺めていた。

 

 画面には演説を行う女性議員─────エザリア・ジュールの姿が映されている。

 彼女の息子、イザーク・ジュールとは会った事があり、戦場を共にした事もあった。

 

 エザリアは語る。ビクトリア宇宙港が陥とされた事─────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 ビクトリアを切り捨てる選択を下した自分達を棚に上げながら、国民の怒りを煽るように訴えかける。

 

「うん…香りはやはりモカに限るな」

 

 サイフォンに溜まった褐色の液体をカップに注ぐと、何とも言えない香りが立ち昇る。

 彼は深く芳香を吸い込みながら、小さく呟いてから、鳴り出した電話を手に取った。

 

『フリーダムの行方が分かった。オーブだ!』

 

 受話器から聞こえて来たのは、ここ最近はめっきり聞き慣れた声─────パトリック・ザラのものだった。

 

「オーブ?」

 

 思わず意外の声を上げる。

 カップをデスクに置き、テレビの音量を絞りながら続くパトリックの言葉に耳を傾ける。

 

『アスランから報告が入った。奴め、フリーダムの行方を掴んだのは良いが、破壊に失敗しおった!』

 

「あのスペックを誇る機体です。そう簡単にはいかないでしょう」

 

 初めから苛立ちを含んでいたパトリックを宥める様な口調で男は返す。

 

『…調子に乗ったナチュラル共が、次々と月に上がって来ておる』

 

 次に聞こえて来たパトリックの声は、落ち着きを取り戻したかのように聞こえてその実、隠し切れない忌々しさが込められていた。

 パトリックは太い溜息を吐いてから続ける。

 

『今度こそ叩き潰さねばならんのだ。─────徹底的にな!』

 

「分かっております。存分に働かせてもらいますよ。私の様な者に、再び生きる場を与えて下さった議長閣下の為にも…」

 

 飄々と、かつ微かに通話の向こうの相手をあやすような声音で応じた男は、やがて通話が切れたのを聞いてから疲労と共に息を吐く。

 

 ─────やれやれ…。癇癪を起こす子供をあやしてる気分だ。

 

 苦笑を浮かべながら男は先程デスクに置いたカップを手に取り、一口呷る。

 

 やはりコーヒーは良い。芳醇な香りと、口の中に溶けていく苦味─────叶うならば、またこれを()()に味わってほしいものだ。

 

()()()()

 

()()()()か」

 

 声が掛かる。アンディ、と呼ばれた男は声がした方へ見向きもしないまま、その声の主を言い当てた。

 

 部屋の中に、黒髪の美しい女性が入って来る。アイシャ、と呼ばれた女性は、艶やかな笑みを浮かべながら部屋へ足を踏み入れる。

 そして男の背後に立つと、その体に寄り掛かりながら両腕を回した。

 

「悪い人ね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 耳元で語り掛けられる声に心地よさを覚えると同時に、男は悪戯気な笑みを浮かべた。

 

「僕は保育士になった覚えはないのでね」

 

「酷い」

 

「酷いもんか。彼はもう、癇癪持ちのお子様さ」

 

 先程までのパトリックに対する慇懃な態度はどこへやら。バッサリとパトリックを切り捨てる言葉を吐いた男は、背後から抱き締める女性の頬に自身の頬を寄せてから続ける。

 

「だからこそ、付け入る隙がある」

 

 アラスカ攻略戦の失敗、フリーダムの奪取、ビクトリアの陥落、そしてオーブ戦役での敗走─────歯車は確実に狂い始めている。

 その影響は目に見えなくとも、着実に、パトリックの精神はこれらの想定外の要素によって揺さぶられている。

 

 しかし一方で、男にとっても想定外の事態は起きていた。

 

「…また一つ、隠れ家が掴まれたわ。犠牲者は出なかったそうだけど」

 

「そうか。…()()()()()()()め」

 

 ロイ・セルヴェリオス─────()クライン家の執事であり、シーゲルが信頼を置いていた部下の一人でもあった男だ。

 だが彼はシーゲルを裏切り、射殺。その後、パトリック・ザラに取り入ると、シーゲルが用意していた隠れ家、逃走ルートの情報を提供─────その結果、水面下で強硬派とは別の停戦への道を探るクライン派の行動はこれ以上なく制限されていた。

 

「僕がクライン派に与しているのが知られていないのは、唯一の救いか…」

 

 シーゲルに近く、情報も多く知っていたロイだが、最近にシーゲルに賛同を示し行動を始めたこの男の存在はまだ知らなかったらしい。

 そうでなければ今頃この男はとっくに縄に縛られ拷問、或いは牢屋の中だっただろう。

 

「どうするの、アンディ?」

 

「…プラントに籠もるのも限界か。それに、これ以上出来る事もない」

 

 本来クライン派は、シーゲルを中心にして追っ手を撒きながら、プラントの住民達に強硬手段以外の道があるのだと語り掛けていく予定だった。

 その為の準備は進めていた。各地に隠れ家を設置し、ザラ派に悟られないよう密かに極秘の回線を繋げ、プラント内のテレビ放送をジャックする手筈も整えていた。

 

 それが、ロイによるシーゲル暗殺によって全てが頓挫した。現在クライン派は何も出来ないままプラント内を逃げ回っている。

 ロイが正確に把握し切れていない隠れ家を転々としながら機会を窺ってきたが、それももう限界が近い。

 

 プラント国内のクライン派に対する不信感は膨らみ続けている。ラクスへ対する見方も、大方が裏切り者─────シーゲルによる国家反逆に巻き込まれただけという見方をする者もいるにはいるが、それも一部である。

 

 ()()()()()()()()()()()()()という軍人達がどれほど波紋を残せるか─────今の所残された希望はそれだけだ。

 

「アイシャ、ダコスタに伝えてくれ。()()()()()()()()()()()()()

 

「すぐに連絡を取るわ」

 

 背を向けた女性が足早に去って行くのを見届けてから、男は未だエザリア・ジュールを映し続ける画面へ目を向ける。

 

「最早、運を天に任せるしかないか」

 

 座椅子の背に凭れ掛かりながら、天を仰ぐ男─────()()()()、アンドリュー・バルトフェルドは神妙な面持ちで呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あぁ。次のポイントの座標は把握しているな?急げよ」

 

 アプリリウス内にある一軒のバー。その一席に座し、片手にはまだ中身が残ったワイングラス、もう一方の手には小さな通信機を握り耳に当てる男─────ロイ・セルヴェリオス。

 

 小洒落たBGMが流れる店内で声を潜めながら相手へ指示を送り、通信を切って機器を懐へ仕舞い込む。

 

 苛立たし気な表情を隠さないまま、ロイはグラスの中のワインを一気に呷る。口内に広がる深い味わいが苛立ちをほんの少しでも流していくのを感じながら、ロイは思考を回す。

 

 ─────流石に行動が素早ぇな。とはいえ、こんだけやって一人も取っ捕まらねぇとはな。

 

 先程の通信の相手、それはパトリックから送られたロイの部下。ロイは部下達に自身が把握しているクライン派の隠れ家、或いはそれがある可能性が高いと判断した座標を送り、虱潰しにそれらを潰して回っていた。

 ロイの指示は正確で、把握していた地点は勿論、彼の予測した場所は悉くがクライン派の隠れ家、それと判断できる痕跡が残されていた。

 

 が、ここまで工作員の一人も捕らえる事は出来ずにいた。

 

 ─────まあ、奴らが()()()()()()()()は分かってるし、隠れ家を潰していくだけでも充分ダメージを与えられてはいるんだが…、議長閣下殿がうるせぇのなんの。

 

 やれ早く反乱分子を排除しろだの、やれ一人も捕らえられないのはどういう事だだの、大局を見ようとせず目の前の成果のみに固執するパトリックからの叱責にはロイもいい加減うんざりしていた。

 

 ─────面白そうだと思ったんだがな。仕える相手間違えちまったか?

 

 こうなると分かっていたなら、あの()()()()に売り込みを掛けた方が良かったかもしれない。

 顔面を覆い隠す仮面と同様、理想的な軍人、上司の皮をかぶり内面を決して露にしないあの男─────あっちを選んだ方が、もっと面白い事になっていたかもしれない。

 

 まあどちらにしても、パトリック・ザラの下になるというのは変えようがないのだが。

 

 ─────プラント中を駆け回らせても無駄かね…?

 

 クライン派の拠点を潰していく作業は継続して行う。だがそれだけでは、これ以上何も進展しないだろう。

 ならばどうするか?

 

 ─────炙り出すとするかね…、敵の頭を。

 

 新たにテーブルに運ばれた一杯を手に、ロイ・セルヴェリオスは頭の中で一手一手を組み立てながら獰猛な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アプリリウス・ワンの宇宙船格納デッキには、就航を待つ一隻の新造艦が繋がれていた。

 

 すらりとした淡紅色のボディ、その両側にはフロートの様なパーツが突き出し、そこから白い翼を広げている。

 艦橋の前方には主砲が一基、ミサイル発射管の他に艦首両側にはミーティアと呼ばれる特殊武装を備えたこの艦の名は─────エターナル。

 

 永遠を冠する名を付けられたこの艦の艦橋にて、バルトフェルドは座して報告を待っていた。

 

 補給を終えた艦は、宙へ飛び立つ瞬間を今か今かと待ち侘びている。

 この男もまた、その瞬間がやって来るのを、興奮と緊張を抑えながら待っていた。

 

 砂漠にて足つき─────アークエンジェルとの戦闘にて敗戦した後、()()()()敗北に乗じて奮起した反乱勢力の鎮圧に努めていたバルトフェルドが宇宙へ上がったのは、パトリック・ザラが最高評議会議長に当選した直後の事だった。

 

 アークエンジェルに敗れたとはいえ、それ以前の功績を評価したパトリックが、敗北後も地上での人望が変わらず厚くあり続けた彼を取り込み、自らの勢力に加えようとしたのだ。

 以降はパトリックの配下として働き、斯くしてバルトフェルドはこの最新鋭艦エターナルの艦長として、宇宙の戦線に加わる事となった。

 

 砂漠での敗北後、ここまでに至る経緯を脳裏に思い浮かべていたバルトフェルドの背後で、扉が開く音がする。

 

「アンディ。()()()()()()()()()

 

「…そうか。分かった」

 

 艦橋へと入って来た女性、アイシャはこつこつと足音を鳴らしながらバルトフェルドへと近づき、簡潔に告げた。

 バルトフェルドはアイシャからの報告に頷いてから、大きく深呼吸をする。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ならば、今この瞬間、これ以上ない出立のタイミングとなる。

 

 バルトフェルドは傍らに立つアイシャと視線と微笑みを交わしてから、徐に艦内通信の受話器を手に取った。

 

「あー…。これより本艦は最終準備に入る。繰り返す、これより本艦は、最終準備に入る」

 

 全艦に響き渡った艦長の指示、しかしその内容に心当たりを浮かべるクルーは数少なかった。

 

「作業にかかれ!」

 

 と、言われても何の事か分からず、首を傾げるクルー達。

 

「おい、何の事か─────」

 

 バルトフェルドの指示が流れたものの、何を求めているのか理解できず、傍にいた同僚に問い掛けようとしたクルーが居た。

 しかしその質問は、鼻先に突きつけられた銃口によって途切れる。

 

「ど、どういう事だ?」

 

「大人しく従ってくれれば、危害を加えるつもりはないさ。ただ、降りてくれればいいんだよ」

 

 バルトフェルドからの指示の意味を完全に理解できた一部の兵士達が、手際よく()()を熟す。

 未だ戸惑う者達を銃で追い立て、最寄りのハッチから()()()を外へ押し出していく。

 

 部外者達はが自らの艦から放り出され、尚も混乱しながらエターナルを見遣る中、艦内では急ピッチで発進シークエンスを進めていた。

 

「エターナル、エンジン始動!」

 

 バルトフェルドの声を合図として、エターナルのエンジンが動き出す。駆動音が艦全体を低く震わせ始めれば、遅ればせて異変に気付いた管制官が通信で呼び掛けてくる。

 

『おい、何をしている?貴艦に発進命令など出てはいないぞ』

 

 無論、その呼び掛けに答え等しない。

 わざわざ、この艦はザフトの指揮下を離れるなど、正直に宣誓する意味がない。

 

『どうしたのだ、バルトフェルド隊長!?応答せよ!』

 

 呼び掛けに応じないエターナルに、今度こそ異常事態を察した管制官が声を荒げる。

 その後管制官から何度か呼び掛けがあったが、ややあってそれが聞こえなくなった直後、オペレーターが振り返る。

 

「メインゲートの管制システム、コード変更されました」

 

「優秀だねぇ。そのままにしてくれりゃあいいものを…」

 

 オペレーターからの報告を聞き、バルトフェルドは親指で顎を擦りながら感嘆の言葉を零す。

 

 そんなバルトフェルドを楽し気に見つめていたアイシャが口を開いた。

 

「荒っぽい出発になるわね」

 

「…だな。これもこれで、楽しくなりそうだがな!」

 

 アイシャが席へ着いたのを見てから、バルトフェルドは矢継ぎ早に命令を下す。

 

「主砲、発射準備!照準、メインゲート!発進と同時に斉射!」

 

 クルー達が彼からの命令に従い、機器を操作していく。エンジンの駆動音が高まっていき、噴射口からガスが噴出を始める。

 

 いつでも発進できる─────振動を通してそう言っているかのようだった。

 

 前方のクルー達が、アイシャが、振り返ってバルトフェルドの次の言葉を待つ。

 

 それを見て、彼はやがて決意を固める。

 

「エターナル、発進ッ!!!」

 

 男の深い声が艦橋に響き渡った途端、艦に強い加速が掛かる。

 

「主砲、てェーッ!」

 

 同時に再びバルトフェルドの号令が響き、エターナルの主砲が火を噴いた。

 

『何をする、エターナル!艦を止めろ!─────本部へアラート発令!』

 

 スピーカーから飛び込んでくる驚愕の叫びと警告、それらを無視して、エターナルは融解したゲートを潜り抜けて星の海へと飛び込んでいく。

 

「推力最大!ぐずぐずするなよ、ヤキンの部隊に掴まるぞ!ダコスタ、索敵は厳に!」

 

「分かってますよ!」

 

 昔からの副官に指示を出しつつ、眼前に広がる星空にバルトフェルドは目を細める。

 

 過酷な環境であった砂漠、しかしあの景色を彼は嫌いではなかった。むしろ、悪くないとすら感じていた。あの場所で骨を埋めるのも良いかもしれない、なんて思う程には。

 

 ─────まだまだこの世界にはあるものだな。美しいと思える場所は。

 

 艦が凄まじい加速で闇を切り裂いて進む。

 だがすぐに、コンソールから警告音が響き始めた。

 

 オペレーター席で索敵を続けていたダコスタが振り返り、鋭い声を上げる。

 

「前方にモビルスーツ部隊!数およそ五十!」

 

 その報告を聞いた途端、バルトフェルドは表情を歪ませ、微かに舌を打った。

 

「ヤキンの部隊か。出て来るとは思ったが、こうまで早いとは…」

 

 メインゲート突破後、即座に加速して突き進んだエターナル。

 ヤキン・ドゥーエの防衛部隊との交戦は避けられないとは考えていたが、まさかこちらの進路に割り込む形で現れるとは思わなかった。

 

 出撃してくるにしても、もう少し遅れて現れると予測していたが─────いや、過ぎた事の可能性を探っている場合ではない。

 

「主砲、発射準備!近接防空システム作動!」

 

 艦の戦闘準備を進ませる。

 エターナルはとある事情があり、現在モビルスーツを載せていない。よって、この艦は身一つで五十にも及ぶモビルスーツ部隊との交戦に臨まなければならない。

 

 しかし、何もあれらを全滅させる必要はない。この艦の足は速い。あれを突破し、加速に乗る事が出来れば─────

 

『エターナル、聞こえるか』

 

「っ─────!?」

 

 対モビルスーツ戦闘の準備が進む中、不意にスピーカーから声が発せられる。

 

 その声に聞き覚えがある者は、バルトフェルドを含めこの艦橋の中には数人いた。

 

「この、声…っ!」

 

 その中でも特に大きく反応を示したのはダコスタだった。

 宙を見上げたその瞳には確かな怒りが籠もり、彼の口から漏れた声には悔恨が宿っていた。

 

『今すぐ転進して格納デッキに戻るんだな。完成したばかりの新造艦を撃墜するなんて、勿体ねぇんだからよ』

 

 スピーカーから聞こえてくる声は男のもの。

 一色触発である筈のこの状況下で、それを感じさせない軽い調子でこちらに語り掛けてくる、その男の名は─────

 

「ロイ・セルヴェリオス─────!」

 

『よぉ、アンドリュー・バルトフェルド。まさかアンタが、プラントに仇なす裏切り者共の指揮官だったとはなぁ』

 

 艦橋のモニターが起動し、画面に男の顔が映し出される。

 切れ長の翠色の瞳が、バルトフェルドの視線と交わされる。情熱的な赤色の長い髪は、背後で縛られている。

 

 ロイ・セルヴェリオス─────シーゲル・クラインと、彼に賛同し付き従った多くの者達を裏切り、追い詰め続けた男が、彼らの出立の前に立ちはだかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々登場、バルトフェルドさんとアイシャさん。あとロイ。
ロイの事とか覚えてる人何人居たんでしょうか(笑)
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